☆星屑を集めよう☆
マスター名:霜月零
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/12 12:08



■オープニング本文

 ジルベリア最北領スウィートホワイト。
 その南の町ポアリュアで、町長はほわほわと町を眺める。
 両手に抱えたパンは、ふんわりと香ばしい匂いを漂わせる。
 秘書がお休みの今日、自分で出来ることはなるべく自分でしている町長は、街に買い物に来ていた。
 足元の雪は、大分水分を含み、高さも以前は足首まであったのだが、今はほんの数センチ。
 雪が振る日も大分減り、残った雪ももうそろそろ消えるだろう。

「そういえば、今年は雪祭りがあまり盛大に出来なかったのう……」

 ふと、そんな事を思い出す。
 毎年、首都ホワイティアを中心に、最北領では各町で雪祭りが開かれるのだ。
 だが今年は首都がアヤカシの襲撃を受け、規模はごくごく小さいものだった。
 氷や雪のオブジェは通年どおり飾り付けたものの、街を上げてのお祭り、という雰囲気ではなかった。
 そしてもちろん、観光客は激減。
 首都が閉鎖状態な事は、当然周辺領にも伝わっていたし、帝都にも恐らく連絡が行っていたはずなのだ。
 ただでさえ少なくなっていた観光客が、雪祭りが盛大でないと知れば、より一層減るのもまた当然。
 そして、収入の激減も。
 これが一番きつい。
 財政難なポアリュアで、観光客からの収入もないとなれば、雪が溶けても未来は寒そうだ。

「なにか、別のお祭りでもあればよいのかのう……」

 しょんぼりと歩き出した町長に、明るい声がかかった。

「なんやなんや、おばーちゃん、何か困りごとかいな?」

 青丹だ。
 自称世界の瓦版屋の彼女は、瓦版を配り終えた帰りなのだろう。
 空のバックを下げて、町長を見下ろしている。

「そなたは瓦版屋かのぅ? 瓦版屋なら、なにかいいお祭りのアイディアはあるじゃろうか」

 ぎゅうっと帽子のつばを掴んで、町長は青丹を見上げる。
 青丹は決して大きいほうではないのだが、町長が小さすぎた。

「お祭り? せやなぁ。星を集めるなんてどやろか」

「星?」

「もちろん本物やないで? 星型のクッキーとかあるやろ。ああゆんを街のいたるところで配って、全種類集めたら粗品プレゼント、なんてどやろか。宝探しみたいで、楽しめるんとちゃうかな」

「ほむ……」

「クッキーなら、そんなに値もはらんやろ? この街の財政はうちも知っとるさかい、高額商品くばれなんて無茶はいわへんで」

「確かにクッキーなら、手軽じゃのう」

「うちも手伝うで? 配る人手が必要やろ。知り合いや開拓者にも頼んでみるで」

「か、開拓者! それは……」
「わかってるわかってるって。お金が辛いんやろ? うちに任しとき。報酬はお菓子でいいっていうメンバーをきっちり集めてくるさかい、おばーちゃんはイベント開催許可をくれればええねん」

 バンと胸を叩いてウィンクする青丹に、なかば強引に押し切られるように、町長はイベント許可を出すのだった。
 


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 菊池 志郎(ia5584) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 緋乃宮 白月(ib9855) / 紫ノ眼 恋(ic0281


■リプレイ本文


(祭りか。懐かしいな)
 南の町ポアリュアで、星屑祭りのお手伝いに来てくれた羅喉丸(ia0347)は、賑わう町並みにそんな事を思う。
 その肩の上には、羽妖精のネージュ。
 普段は凛とした雰囲気の彼女は、今日は普段の鎧姿とはうって変わって、シャープなドレスを身にまとっていた。
「似合ってますか、羅喉丸。あまり着慣れませんから、緊張します」
 体のラインがはっきりと出るためか、それとも深いスリットか。
 ネージュは少しだけ頬を赤らめて尋ねる。
「大丈夫、綺麗だよ。ネージュの雰囲気によく似合ってる」
 羅喉丸がそういうと、ネージュはホッとしたように微笑む。
 そしてふと何かに目を留める。
「羅喉丸、あれは何ですか」
 ネージュが、興味津々に指を指す。
 そこには、サボテンの形をしたクッキーが。
 最近儀が繋がったアル=カマル産のクッキーだ。
 天儀でもジルベリアでも、サボテン自体がなかなか見ない植物だから、それを模ったクッキーはちょっと珍しい。
 お祭りだからか、色々な露店も並んでいる。
「あれはクッキーだね。俺達が配る物とは少し違うようだけれど」
 羅喉丸は手にしたカゴをネージュに見せる。
 その中には色とりどりの星型クッキーが詰まっている。
 これを今日はみんなで、街の至る所で配るのだ。
 羅喉丸達の担当場所は、この辺り。
「あのような形のものもあるのですね。少し愛らしく思えます」
「俺もあまり見かけないね。一つ買ってみようか」
 買ったサボテンクッキーを渡すと、ネージュは青い瞳を輝かせる。
「塩味なのですね。でも、美味しいです」
 喜ぶネージュの姿に、祭に来ていた子供達が口々に「羽妖精! きれい!」などとはしゃぎ出す。
(羽妖精の噂は、やはりジルベリアにも伝わっていたようだ。ネージュを連れて来て良かったな)
 そんな事を思いながら、羅喉丸は子供達に星型クッキーを手渡す。
「ここに星型クッキーもある。ぜひ全種類集めてくれ。祭りは楽しくなくてはな」
 楽しげに受け取る子供達を見つめていると、
「羅喉丸もおったんやな。元気してたやろか?」
 青丹だ。
 手には羅喉丸と同じくクッキー入りのカゴを提げ、全力で駆け寄ってくる。
「青丹さんも変わりないようだな。元気そうで何よりだ」
「あたいはいつでも元気やで。なんや、うわさが噂を呼んで祭が大盛況やさかい、ほんま手伝ってくれて助かるわ」
「喜んでくれたようで、何よりだ」
「クッキーは足りてそうやろか」
「そうだね。まだ配り始めて間もないから、十分だ」
「そか。一応予備の分渡しておくさかい、足りなくなったら使ったってや」
「了解」
 羅喉丸が頷くと、青丹は全力で走り出す。
  


「クッキー……集め? 八曜丸いたら大変だったね。揃える前に無くなる」
 カラクリの天澪のそんな呟きに微笑みながら、柚乃(ia0638)は「そうね」と相槌を打つ。
 藤色の毛が魅力的なもふらの八曜丸は、どうやら食べることが大好きらしい。
 二人、手を繋ぎながら目指すのはポアリュアの坂道にあるシェアハウス。
「天澪はまだ来た事がなかったよね。この街のシェアハウス」
 みんな元気かな。
 そう呟く柚乃に、天澪は大きな瞳を興味深げに見開く。
「もうすぐなんだけど……あ、見えてきたわ。ほら、天澪みて。木の上に喫茶店があるの」
「珍しいね」
「そうでしょう? 季節のデザートとか、コーヒーや紅茶も飲めるの」
「持ってきたお菓子に合いそう」
「……あら?」
 柚乃がお土産の袋を覗いて首を傾げる。
「半分ぐらいになってるね」
 柚乃の手元を覗き込んだ天澪も呟く。
 フルーツをたっぷり練りこんだクッキーを、沢山持ってきたはずなのだ。
「そういえば、昨日より軽かったような気もするわ」
「クッキー……八曜丸がきっと食べた」
「そうなのかな? 全部食べつくされなくてよかったかも」
 本当にいっぱい作ったから、みんなに配る分もちゃんと残っていたり。
「犯人、占ってみようか?」
 そんな冗談を言いながら歩いていると、
「おーい、こっちでクッキー配っとるでー!」
 坂道の途中でぶんぶんと手を振る青丹に出くわした。
「青丹さん、お久しぶりです。丁度よかった、占いをしようと思ってたんです。どうですか?」
 タロットを見せる柚乃に、青丹は頷く。
「おもろそうやな。ぜひ頼むわ」
 柚乃と青丹と天澪。
 三人でシェアハウスの喫茶店に立ち寄って、占いを始めだす。
 柚乃がテーブルにタロットカードを広げると、彼女の精霊力が広がってゆくのがわかり、神秘的な雰囲気を醸し出す。
「……赤い障害。けれどそれを乗り越える赤い絆。そして訪れる朱金の光」
「障害があるんか。人生にはつきもんやな。乗り越えれるんならえぇ。最後が朱金! 金なんてえぇ響きやなぁ♪」
「青丹さんなら、どんな障害も必ず乗り越えれると思いますよ?」
 そういう柚乃に、一緒になって頷く天澪。
 柚乃の占いに、青丹はご機嫌になってクッキー配りに走り去ってゆく。
 


「あたしは、クッキーを一緒に作りたいです。すいません、報酬無くても良いからレシピ欲しいです!」
 町長の前で、そう力説するのは礼野 真夢紀(ia1144)。
 その隣には、カラクリのしらさぎ。
 腿まである真っ白な長い髪は、純白のヴェールで包み込んでまとめてある。
「人手が足りぬでなぁ。ほんに助かるのじゃ」
 町長が嬉しそうに真夢紀を厨房へ案内する。
 そこでは、既に沢山のクッキーが。
「……ピンクや茶色、白いクッキーもある……。報酬がお菓子は嬉しいなぁ、クッキー好きな子知り合いにいるし」
 味見してみてもいいというコックに、「それではお言葉に甘えて」と真夢紀はピンクのクッキーを食べてみる。
「甘いですね。でも甘すぎなくて、色もとても綺麗です。しらさぎも食べてみる?」
 エプロンも身に着けて、お手伝いする気満々のしらさぎにもクッキーを勧めて見る。
 食事を取る必要はなくとも、見た目や雰囲気は十分楽しめる。
 ましてや愛らしい色合いのクッキーは、大人びた外見に反して幼い性格のしらさぎには、とても好評のようだ。
「おいしいね。いっぱい、覚えたいな」
 ほわっと微笑むしらさぎに、厨房の皆もほんわかとした気持ちになってくる。
「ピンク色のは、イチゴを使っているのですね」
 厨房のテーブルに並べられた材料を、真夢紀はちゃんとメモを取る。
「白いのと、あかいの、まぜる?」
 しらさぎは、溶かした砂糖にイチゴのジャムを混ぜ始める。
 ちゃんとコックさんの指示通り、丁寧に丁寧に。
 幼い口調なのに、物覚えがとても良いようだ。
「ジャムを使って、透明感を出すのですね」
 そういいながら、真夢紀はメモをしまって生地を練りだす。
 クリーム状に練ったバターと、牛乳、そして小麦粉と砂糖。
 偏りがないように均等に混ぜ合わせるのは、意外と時間がかかる。
 しらさぎと真夢紀が生地を作り終わると、次は型抜き。
 延ばした生地に、真夢紀としらさぎがぽんぽんと型を押してゆく。
「星型のとんがり部分が、意外と抜きづらいですね」
「なんか、ひっかかる」
 二人とも星型の先端に苦労しながら、一生懸命抜いてゆく。
 
 

(宝探しはいつでも楽しいですよね)
 菊池 志郎(ia5584)は街の高台で見下ろしながら、そんな事を思う。
 その隣では、忍犬の初霜が黒い尻尾をパタパタと揺らしている。
 街の楽しげな賑わいに、まだまだ幼い初霜は少し興奮気味のようだ。
 くるりと番傘を傾けて、志郎はのんびりと観光客を待つ。
 高台から街を見下ろしていると、観光客たちが楽しげにクッキーを集めているのが良く見える。
 中には見知った開拓者もちらほらいるようで、志郎としては嬉しい限り。
(スペシャルな星まで探し出す、凄腕な探索者にも会えるでしょうか)
 そんな事を思っていると、見知った開拓者―― 青丹が駆け寄ってくる。
「今回も来てくれたんやなぁ。観光客が思いのほか多かったから、あたいもさっきから駆けずりまわっとるんや。志郎が来てくれて助かるわ」
「そうですね。まだそれ程時間は経っていないと思いますが、お預かりしたクッキーはもう半分ほどになりましたね」
 志郎は言いながら、クッキーのカゴを見せる。
 初霜が「なになに?」と言いたげにくぅんと鳴いた。
「やっぱりな。あちらこちらで足りなくなってんねん。間に合ってよかったわ。これ、追加のクッキーやで」
「焼き立てですね。甘い香りがします」
「ええ感じに焼けとるやろ? って、あたいは焼いてへんけどな」
「そういえば、ここにくるまでにもう10個もクッキーを集めた方がいらっしゃいましたよ」
「ほんま?」
「ええ」
「それは早いなあ。開拓者やったん?」
「いいえ、ごく普通の方でしたね。でも嬉しそうでしたよ」
「喜んでもらえてるなら企画した甲斐があったってもんやな」
「来年もまた、開けたら良いですよね」
「せやな」
「ん? 初霜どうしました?」
 珍しくわんわんと鳴き出した初霜に、志郎が首を傾げる。
 けれど直ぐに「あぁ」と頷いて、高台の下を通り過ぎようとした観光客に声をかけた。
 どうやら下ばかり探して、上にいる志郎に気づかなかったようだ。
「お手柄ですよ」
 志郎が初霜を撫でると、初霜はより一層嬉しそうに尻尾を振った。 



「同じ最北領でも、随分と雰囲気が違うものだね」
 人妖の鶴祇と共にポアリュアを訪れた竜哉(ia8037)は、街を探索しながら首都との違いを思う。
 先日まで上級アヤカシの手により氷に閉ざされていた首都ホワイティアは、竜哉達の活躍によりなんとか平常を取り戻した。
 日常に戻るまでにはそれなりの時間がかかるのだろうが、あの街の人達なら大丈夫だろう。
「氷の城を残す事にしたのには、驚いたけれどね」
 誰に言うとでもなく、竜哉は呟く。
 街に出現した氷の城は、その城の主を倒しても消え去ることなくその場に残された。
『観光名所にするわよぅ?』
 とは、ギルド受付嬢の台詞だ。
 流石にこの町からは首都の氷の城は見えないが、竜哉は首都の方角へ深く、祈りを捧げる。
 そんな竜哉の様子をスルーして、元気いっぱいにはしゃいでいるのは鶴祇だ。
「何やらあやつが似合わぬシリアスをしているようじゃが、我には関係ない! 祭は盛大に騒がねば意味がなかろう」
 竜哉からはなれ、鶴祇は元気いっぱいに走り出す。
 その後ろには沢山の子供達。
 羽妖精も可愛いが、その羽妖精と人気を二分する人妖の鶴祇も、子供たちに大人気なのだ。
「お前たちもクッキーを集めておるのかの」
 走りながら、子供たちに声をかけると、次々に元気な声が返ってくる。
「ふむ。だが一番は我じゃ! 必ずやスペシャルな木の星を探して見せるぞ!」
 叫び、走る速度を上げる鶴祇。
 でもなんだかんだ子供たちが追いつける程度の速度だったり。
「むむっ? あれはなんぞや。……っと、危ないぞ。前をきちんと見るのじゃ」
 きゅきゅーっと、鶴祇が急ブレーキをかけて止まると、追いかけてきていた子供達がぶつかりかけて転びかけた。
 鶴祇が腕を掴んで支えてやると、嬉しそうに笑う子供達。
 やれやれと肩をすくめて、鶴祇は気になる飾りに手を伸ばす。
「随分高い場所に飾ってあるのう。そこの者、我に手を貸すが良い」
 呼ばれた子供は嬉々として鶴祇に近寄る。
「肩を借りるぞえ。あやつと離れてしまったのがちと悔やまれるな」
 長身の竜哉なら、きっとあっさりと届く高さだ。
 よいしょっと子供の肩によじ登ると、鶴祇でも何とか届いた。
「飾りの中に隠されておるわけではないようじゃの」
 木の星は、早々簡単には見つからないようだ。
 けれど一度で諦める鶴祇ではない。
 街の子供たちも巻き込んで、次の星へと走り出す。



「星型クッキーを配るイベントですか。素敵ですわね♪」
 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)は花屋の前でカゴを持つ。
 カゴの中には星型のクッキーはもちろんの事、花屋の好意でプチフルールも詰まってたり。
「戒焔は重くはないですか?」
 マルカは隣にふわふわと漂う鬼火玉の戒焔を気遣う。
 戒焔は器用に炎をくゆらせ、クッキーの詰まったカゴを持っていた。
 燃えないのは、戒焔用に持ち手が鉄で出来たタイプを選んだからだ。
 でもその分重いから、マルカとしては少し心配。
 けれど戒焔はそこはそれ、鬼火玉。
 ぐぐっとカゴを持ったまま、二度三度、頷くように上下に揺れる。
「頼りになりますね」
 マルカが撫でると、嬉しそうに戒焔はその場でくるくると回る。
 本当に人懐っこい鬼火玉だ。
 花屋の店長も戒焔が気になるのだろう。
 いつもは人見知りゆえに店の奥にいることが多いのだが、今日は店員達と共に店先に出てきている。
「リリカ様、この度は快く承諾していただきありがとうございます」
 マルカが深々と頭を下げれば、リリカもふわりとお辞儀。
 とても小さな声だけれど、「演奏……楽しみにしています……」と話す。
 今日、ここでマルカは演奏をするのだ。
 愛用のフルートはフェアリーダンス。
 カゴを持ちますという店長に、マルカはお礼を言ってフルートを演奏しだす。
 妖精も踊りだすといわれているフルートの音色は、祭にあわせて楽しげだ。
 隣では戒焔がカゴを落としそうなぐらい、嬉しげに踊る。
 まるでマルカと戒焔が初めて出会った時のよう。
 演奏と、戒焔に魅かれて集まってきた子供達に、マルカは店長からカゴを受け取ってクッキーを配る。
 戒焔をさわりたがりつつも、おっかなびっくりな子供達へは、
「触っても熱くないですわよ」
 と促す。
 戒焔がすすーっと高度を下げて子供達の手元によっていくと、歓声が上がった。



「インクの、匂いがするね」
 ユウキ=アルセイフ(ib6332)は、瓦版屋の前でクッキーを配っていた。
 いつもつけているお面をはずすと、柔らかい風が頬をなでていく。
 春の香りに混じるインクの香りは、瓦版屋ならではだろう。
 瓦版屋は、今日は号外を刷っているらしい。
(そっちも、お手伝いしたくなるけど、今日は、クッキーを配らないとね)
 でも配り終えたら、手伝えるかな?
 ユウキは手元のカゴを見て、そんな事を思う。
 観光客と、町の住民と。
 みんなお祭が大好きなのだろう。
 ユウキが今日の朝に受け取ったクッキーはもう半分もない。
「食べてもいいって、いわれてるけど。僕達が、食べる分は、ないかもね」
 隣で大人しくしている駿龍のカルマにいうと、カルマはほんのり不服そう。
 流石に暴れたりはしないものの、どこか拗ねて見えるのだ。
「ん? 場所移動かな〜?」
 時計を見ると、お昼を回っていた。
『そのほうが、探すほうもおもろいやろ?』
 青丹がいいだして、同じ場所に留まるグループと、移動するグループがあるのだ。
「カルマ、ちょっと乗せてくれるかな」
 ユウキがカルマの背に乗ると、ふわりとカルマが舞い上がる。
 飛ぶほどの距離でもないのだが、体の大きなカルマと歩いて広場へ移動するより、この方が便利なのだ。
 一瞬で広場につくと、皆がカルマを見上げていた。
 大きな駿竜は、街中では一際目を引く。
 人を踏んでしまわないように、カルマはゆっくりと広場に舞い降りる。
 すると子供達はもちろんの事、観光客もよってくる。
「順番に、並んでね。ちゃんと、みんなにあるから」
 ユウキはカルマにカゴを咥えてもらい、クッキーを一枚一枚配りだす。
 そしてクッキーを喜ぶ子供達を見ていると、ユウキも一緒に探したい気持ちが湧き上がってくる。
(……この歳で、子供みたいに、はしゃぎ回るのもどうかなと思ったりね)
 ぐぐっと我慢して、ユウキは子供達の笑顔をたっぷり堪能。
「……カルマ、うっかりで、クッキー、全部食べないでね」
 今にも食べてしまいそうなカルマに、ユウキは笑って一個だけ差し出した。



「うわあ、なんだかかぁいいねえ……よーし、いっしょうけんめいおてつだいしちゃうよ」
 涙方の首飾りを揺らし、まるごとしゅんりゅうを着込んだエルレーン(ib7455)はご機嫌だ。
 もふらのもふもふも、今日はより一層もふもふしているようだ。
 一人と一匹。
 まるで二体のぬいぐるみのよう。
「おいしいクッキーだよぅー」
 もふもふと共に、エルレーンは街を練り歩く。
「ここに木の星があったりしないかなー」
 エルレーンは、街に飾られた色とりどりの看板裏なども探してみる。
 そしてクッキー配りも忘れない。
「甘いよー。かわいいよー」
 呼び込みしながら、エルレーンはもふもふと一緒にクッキーをパクパクパク。
 色とりどりのクッキーは見た目も味も抜群だった。
「ん?」
 エルレーンが、立ち止まる。
 その目線には、見知った背中。
 いかに世界広しといえども、背中にピンクのウサギのぬいぐるみを背負ったデカイ男は、早々いないだろう。
 むしろ一人しかいるはずがない。
「星探し、だって……うふふ、素敵だなうさみたん」
 にこにこ笑顔でウサギのぬいぐるみに話しかけて、その男もエルレーンに負けず劣らずご機嫌らしい。
「うっ……ら、ラグナ……」
 ぐっと低い声で呟いたエルレーンの言葉は、当の本人にも聞こえたようだ。
 ラグナ・グラウシード(ib8459)がびくっと振り返る。
「貴様! なぜ貴様がこんなところにもッ! 私は今日という今日はこの祭を堪能するのだ。貴様に邪魔はさせんぞっ!」
 すちゃっと大剣を構え、ラグナは殺る気満々。
 ジルベリアンタイガーのタマとミケにもふもふし、可愛い星型クッキーをうさみたんと集める。
 そんな幸せに浸っていたラグナにとって、宿敵エルレーンと出会うのはもう、想定外過ぎたのか。
 ぴりぴりとするラグナに、けれどエルレーンは剣を抜かない。
「な、何を企んでいる……?」
 様子のおかしいエルレーンに、ラグナは一歩後ずさる。
「いっ……いじわるするんだったら、クッキーあげないんだからっ!」
 まるごとしゅんりゅう姿で、ぷくっと膨れ、エルレーンはクッキーのカゴを突き出す。
「え、な、何を言ってるんだ、お前」
 剣を構えたまま、ラグナはもう一歩後ずさる。
(これは新手の作戦なのか?!)
 うさみたんに助けを求めたくなりながら、ラグナはエルレーンから目が離せない。
「こんな楽しいお祭の日に出会ったんだからっ! どうせならっ、たまにはやさしくしてよっ! 頭なでなでしてよっ!」
 涙目で駄々をこねだすエルレーン。
 しゅんりゅう姿だから、なんだかかなり可愛い。
(どどどどど、どうすれば?!)
 とりあえず剣をしまうラグナ。
 周囲の人々が何事かと集まり始める。
(こ、これは、とりあえず頭をなでればいいのか……?)
 先ほどまでの楽しかった時間が次々と脳裏に浮かびだす。
 覚悟を決めて、一歩踏み出すラグナ。
 じたじたしているエルレーンにおっかなびっくり、ラグナはうさみたんのおててでエルレーンを撫で撫で。
 その直後、ラグナがどうなったかは……精霊のみぞ知る、である。 



「星屑祭りですか……うん、ゆっくりと楽しみましょう」
「えへへ〜、全種類集めるのを目指して頑張りますっ」
 緋乃宮 白月(ib9855)が尻尾を揺らすと、羽妖精の姫翠も緑の羽根をはためかす。
「全種類集めるのは大変そうですね」
「でも集めるのですっ!」
 ぐぐっと力説する姫翠に強引に引っ張られ、白月は苦笑しながらついていく。
 その横を町の子供達が走り去って行く。
 その手にはやっぱりカゴと、沢山のクッキー。
「あの子達についていけば、配っている場所は直ぐにわかりそうですね」
「ついていきましょう!」
 嬉々として子供達の後についていく姫翠。
 白月もパタパタと走ってついてゆく。 
「ピンクのが5つと、茶色のが3つと、白いのが7つ……どんどん集まっていきますよっ」
「走り回ってるからね。もう少しゆっくりみて回らない?」
「観光は、クッキーを全種類集め終わった後ですっ。さっきの場所で言われたのですけど、クッキー残り少ないかもしれないのですよ?」
「そうなんだ? ……あぁ、そうか。参加者が多いのですね」
「そうなのです! だから急がないとっ」
「了解です」
 ぐいぐい進んでいく姫翠は、心底楽しそう。
(ん、姫翠が楽しそうですし、これはこれで良い思い出になりそうです)
 ゆっくりみて回る余裕はなくなってしまったけれど、白月にとっても珍しい体験。
 高台の前を通りかかると、黒い子忍犬が鳴いてクッキーの場所を教えてくれたり、瓦版屋の前では駿竜と共にクッキーを手渡されたり。
 花屋では楽しげなフルートの音色に耳を傾けたり。
「マスター、早く次の場所を探しましょうっ」
 きょろきょろと辺りを見回し、姫翠は落ち着かない。
 一体、クッキーは何種類あるのだろう。
 そういえば聞いていなかった気がする。
「街をぜーんぶ探せば、全部のクッキーが見つかるはずですっ」
「あと行ってないのは、美容室前やシェアハウスかな?」
「そこへ行きましょうっ」
「ここからだと、美容室が近いみたいです」
「でもちょっとだけ疲れたのですよ」
 ぽふっ。
 姫翠は白月の肩に座って、首にもたれる。
「全力で飛んでいましたからね」
 彼女の深緑色の髪を優しく撫でて、白月は美容室へと向かいだす。



「へー。祭なんかあるのか」
 依頼帰り。
 臨時開拓者ギルドへ報告に来た紫ノ眼 恋(ic0281)は、祭で賑わう町並みに軽く魅かれる。
 そんな恋に、クッキーを配っていたエルレーンが気づいて手渡してくる。
「星型なのか。色も可愛いのな。……折角だ、全部集めてみるか」
「言うと思ったよ」 
 恋が乗り気になると、呆れてため息をつくからくりの白銀丸。
 口元をマスクで隠す彼は、クッキーを食べていない。
「木で作った特別なお星様もあるの。街のどこかに隠してあるそうだから、良かったら探してみてね」
「スペシャルな星か。いいな」
 エルレーンの説明に、恋の瞳はますます輝く。
 一見、ツンとしてクールに見える彼女だが、意外と子供っぽいようだ。
「おい、お前何をする気だ?」
 白銀丸が焦る。
「何って、見てわかるだろうが」
「わかるから聞いている」
 トラのような瞳の瞳孔を見開いて、白銀丸は恋を阻む。
 恋は大きな木の枝に手をかけていた。
「邪魔をする気か?」
「お前はその格好で登る気なのか」
「おうとも!」
「狼。レディ、お前レディな」
「……こほん。これ位見つけられないでは、強い開拓者には到底成れぬ」
「……俺が代わる」
 即答した恋に呆れながら、白銀丸はスルスルと木を登り一瞬で天辺へ。
「星はあるか?」
「ないな」
「そう簡単には見つからないのか」
 ちょっとしょんぼりしながら、恋はそれでもめげない。
 木から降りてきた白銀丸と一緒に、クッキーを集めて回る。
「旨いな、これ」
「色々種類あるのな。んな旨いなら作り方を勉強しておくか」
 そんな事を話していると、丁度真夢紀とすれ違った。
「レシピなら、あたしが知っていますよ?」
「お、いい所に! ぜひ教えてくれ」
「はい!」
 白銀丸に、喜んで教える真夢紀。
(偶にはこういうのも悪くはない)
 美味しいクッキーと、楽しげな白銀丸に、恋は心底そう思うのだった。