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■オープニング本文 「ばかもん、絶対にそんなことは許さんっ!」 夜の中、火が灯る木造家屋の中から怒号が響き渡った。中には数人の大人に混ざって、子供が一人、正座させられていた。その少年は鋭い目つきで前に座っている男性を見つめ、先程の怒号に負けじと大きな口を開けて言葉を発しだした。 「俺は親父が言うとおり約束を破らないようにしただけだっ」 「時と場合という言葉を覚えろ、タツ!」 この家族が言い争いのわけは、数日前にさかのぼる。畑で働いている村人が、切り傷を負った。その村人は、なんとか逃げてきたようで 「いきなり、森からへんてこなアヤカシがでおった」 と、混乱した状態で騒ぎだした。タツ少年の親は、その村人を鎮め、村長として事の真相を明かすために、森へと、他の男手を連れて、捜索に出た。しかし、森の中ではそんなアヤカシなど見つからず、その日の捜索はそれで撤収した。問題は次の日だった、タツ少年はいつもの仲間と、その日誕生日を迎えた少女を連れて、森の奥にある、花が咲き乱れている開けている場所、少年たちはそこを秘密基地と呼び遊び場としていた、そこで誕生日を祝いながら遊ぼうとしていたのだ、しかし、行く途中か帰る途中かそのアヤカシに遭遇したようで、逃げてきた先に、不幸中の幸い、村人が畑仕事をしていた。そのため、少女が背中に切り傷を負っただけでこと済んだ。問題はこの後だ、村長である親はすぐに森を封鎖、開拓者に依頼を頼もうとした中、タツがそこに侵入しようとしたのだ。 そして今、侵入しようとした理由を聞き出そうとしているのだが、何せ親子、怒鳴り合いになってしまったというわけだ。 「何度も言ってるだろ、俺は約束を守ろうとしただけだ。花を摘みに行くぐらいできるだろ」 「ダメだ。なぜそんなに危険に突っ込むっ」 「約束だって言ってるだろっ!」 「その約束のために甘えが命を捨てたら彼女が悲しむためだろっ!今はおとなしくしてろ」 そういわれると、さすがのタツも何も返せなかった。 「かっこつけたいのであれば他の時にすればいい、今はやめておけ」 「誕生日に、あそこに咲いてる花で冠作ってやるって言ったんだよ‥‥。だから‥‥」 「ダメだ、また後日やればいい。この問題が終わるまで、お前は部屋から出るな、わかったな」 親として、子供の安全を考えるのは当たり前であるが、今タツにとってそれは邪魔であった。 「もういいな、これから会議があるんだ、もう寝ていろ」 そう言われたタツは、とぼとぼと自分の部屋へと帰って行った。しかし、彼がこの程度で諦めるわけではなかった。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
仇湖・魚慈(ia4810)
28歳・男・騎
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
音影蜜葉(ib0950)
19歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ● 「まぁ、鎌切は増えますから森いっぱいになるのはわかりますが‥‥放っておくとそのまま死の森になりますからね」 そういう三笠 三四郎(ia0163)の目の前には、アヤカシがいるとされる森が広がっていた。 「人に迷惑をかけるアヤカシは退治せねば。ね、三四郎さん」 そう仇湖・魚慈(ia4810)は三笠の肩を叩き、後ろを見るように目で合図をする。その目線の先には、畑が広がる平野に一つだけポツンと建っている小屋から頭をを少しばかり出して、自分たちを見ているタツの姿が見えた。隠れているつもりなのだろうか、頭隠して尻隠さず、ではなく尻を隠して頭隠さず、まわりから見ればそのすっとんきょな姿は笑いを誘うものとしか見れない、これにはさすがに覇王と呼ばれた雲母(ia6295)も苦笑をこぼした。 タツは一つの疑問を頭に浮かべた。盗み聞きした時、確かに開拓者は八人来ると聞いたからだ。今見えるのは六人。必死に数え直しているタツは、後ろから忍び寄る一つの影に気付かなかった。後ろからむんずと喪越(ia1670)の大きな手がタツをつかみあげた。これにびっくりしたタツは「離せよー。離せ、この野郎っ!」と手足をばたつかせ必死の抵抗を試みるが、喪越は離そうとせず 「活きのいい少年だねぇ」 と笑いながらずんずんと開拓者の方へ、タツを運んでいく。 「ほいっ」投げ捨てるように、喪越はタツを開拓者の輪に投げ込んだ。 「いってーな! なにすんだコンチキショウっ」 と掴みかかろうとする勢いのタツに天津疾也(ia0019)が軽くチョップを食らわし、制止させる。 「まったく、俺たちの後付いてくる気だったんか、それとも森に忍び込む気やったんか?」 「勇気と無謀は違う。己が力を見極め時には引く事も大切だ」 からす(ia6525)も天津に続いてしゃべりだす。 「なんだよ、お前らも親父みたいに俺を止めに来たのかよっ!? ダメだって言ったって無理だぞ、約束を守るのが男だかんな!」 「一度交した約束を護るのは男として当然、か。その性格は嫌いじゃないな。だが、なぜ君のお父さんが君を止めたか、その意味はわかるね?」 「そやで、そのせいで余計に悲しませるかもしれんし、なにより怪我をするかもしれへん、その覚悟はあるんか?」 その天津の言葉にタツの裾を掴んでいる手に力が入る。口はきゅっと締まる。襲われた記憶がよみがえってきたのだろう。肩を震わせ、声を震わせ、何とか言葉にだす 「わ、わかってるよ…。覚悟もあるよ。でも、怖くて、一人じゃ怖くてぇ‥‥」 遂には、溜めていた涙がゆっくりと流れてきた。そのタツの頭を、天津はわしゃりと撫でて、にかっと笑いながらこう言った。 「今な、あんたの親父さんから依頼を受けてるんやけど、俺らじゃ土地勘なくてな、森の中で迷ってしまうかもしれへん。どや、特別に護衛の任務を募集しとるんやけど?」 「え?」 それに聞き返すように天津を見上げる少年の瞳 「そやなー。報酬は森の中の案内と、上手い飯で手を打とうか」 それを聞いたタツの瞳は明るくなり 「は、はい! よろしくお願いします!」 と元気な声を出した。 「よくぞ頼ってくれました。何を隠そうこの私、そういうことを何とかするために開拓者をやっているのです」 と自信満々に胸を張る仇湖 「強き思いを阻む者があれば、それを滅するのが私の役目」 とタツの横に立つ音影蜜葉(ib0950) 「力が足らなければ、加えればいい」 とからす 「ったく。頼まれちゃしゃぁねぇな」 とこちらを振り返さずに喪服。雪斗(ia5470)は子供がということで説得には参加していないが、思っていることは、些細なことでも出来ることをしよう、と。 タツを連れていく事に反対している雲母は、遠巻きに見つめながら渋った顔を緩ませ苦笑した。鎧に覆われた彼女の肌には、幾つもの傷が刻み込まれている、だからこそ少年には大人しくしてほしかったが、こうなるだろうとは予想はついていた。 「何とも子供と言うのは強情だなぁ‥‥ああいうのは嫌いではないがな」 そう言って、紫煙を吹かした。 ● 森の手前で雄たけびが響く。それに反応したのだろうか、森の中からカサカサと何かが細い草木に当たる音が聞こえる。身構える開拓者、すると数匹の鎌切のようなアヤカシが森から飛び出してきた。大きさはまばらで、一匹は人ほどの大きさだか、後数匹は犬ほどの大きさしかなかった。 先手を取ったのは開拓者の方。天津、雪斗それに三笠が、警戒しているアヤカシに走って行った。アヤカシもそれに応戦しようと鎌を振り上げるが、三笠はそれが振り下ろす前に槍でアヤカシを串刺しにした。雪斗に対して振り下ろされた鎌は軽々と躱われた。 「当たるとでも思ったのかい?面倒になる前に、ここで沈んでもらうよ‥‥」 持ち前の俊敏さを活かし、雪斗は目の前のアヤカシを沈めていく。その鬼神のような動きに恐れをなしたのだろうか、反撃をせずに逃げようとするアヤカシ。だが、天津がそれを追撃する。数分の間にアヤカシは瘴気となり、土に還って行った。そして、開拓者たちは死の森の中へとはいって行った。 ● 「‥‥獣の姿が見えないな‥‥。隠れているにしちゃ不自然すぎるぐらいだ」 雪斗が周りを警戒しながら、思ったことを口にした。雪斗が思った通り、森の中は静かだった、いや静かすぎる。 心眼を使用していた天津がぴたりとその場に止まっり、鞘から刀身を出す。注意深く周りの音を聞いていた雲母は、咥えた煙管をゆっくりと懐にもどし、両手で銃を握りしめる。 「暴け『流逆』。君の仇は何処にいる?」 すぐさまからすが精神を研ぎ澄ませ、弓の弦を鳴らし、敵の位置を探りだす。ぴくりとからすの耳が動く 「上だっ!」 そういうと木に化けていたアヤカシが、タツに向かって飛び込んできた。思わず目をつむってしまうタツ。がんっという刃物と何かがぶつかり合うがする、タツは恐る恐る目を開けると、目の前に音影の黒いマントが 「安心してください‥‥私は汝を護る楯。一触さえさせませんっ」 そういうとアヤカシの鎌をはじき返し、スマッシュで叩き潰す。だが、アヤカシは執拗にタツを狙いだした、だが今度はオーラを発動させた仇湖がタツとアヤカシの間に入った。 「『少年少女の味方』である今日の私は軽く無敵なんです。‥‥怪我一つ負いませんよ」 喪越も同じように間に入り、アヤカシからタツを護りだした。 「その子にちょっとでも触れてみろ。その瞬間、私が貴様らに鉛玉を食らわしてやる」 雲母の目が怪しく光ると、敵の関節に向けて銃弾を的確に飛ばす。そしてすぐさま単動作でリロードする。 「アヤカシども、敵はここにいますよ」 自分に攻撃がくるように三笠が咆哮をあげる、それまで執拗にタツに攻撃していたアヤカシは振り返り、先行していた三笠に走り出した。三笠は冷静に回転切りで迎撃。雪斗と天津が、取り残したのを斬り伏せていった。 その後も何度か、アヤカシによる物量による奇襲が行われたが、からすの鏡弦などによって奇襲は防がれ、いつの間にかタツが目指していた秘密基地についていた。 ● 一か所だけ背の高い木などはまったくなく、小さな花がいくつも咲いていた。その一か所だけ太陽からの光が、何物にもは阻まれることなく降り注いでいた。あまりの美しさに、雪斗が感嘆の声をあげた。 「‥‥いい場所だな‥‥」 そういうとこれまでアヤカシになった魂に対して追悼をしだした。 先程まで恐怖で怯えていたタツだったが、緊張の糸がほどけたのだろうが、笑顔になって音影の手を握り、「おねえちゃん、こっちこっち」と走り出した。 タツと音影が花を摘んでいる間、他の開拓者たちは周りを注意深く警戒していた。その緊張した静かな空気の中、タツが大きな声で嬉しそうに立ち上がった。 「できたー」 手には、一つの花の冠が。音影も、タツの嬉しそうな顔に頬が緩んだ。 「タツさん、よかったですね。帰る前に少しお話があるのですが‥‥」 「ん?なに、おねえちゃん?」 「貴方一人であの道を行くことが如何に無謀か、よくわかりましたが?」 「う‥‥うん」 「貴方が誰かを案じるように、御親族も貴方を案じている事をお忘れないように‥‥」 そういうと、優しく、しょんぼりと座っているタツの頭をなでる音影。 少しお借りしますと、花冠を手にすると―― 「‥‥強き想いを讃え、冠を被りし者に主の慈悲を与え給え」 今度は平和な森を、二人が歩けるようにと、祈りをささげた。そうして、目的を達した彼らは、その場を後に帰路についた。 ● 森から出ると、タツの父親が眉間にしわを寄せ、仁王立ちしていた。タツは音影の影に隠れ、怒られるものとばかりと怯えていた。だが、父親は開拓者に頭を下げた。 「息子を、タツを守ってくれたことには感謝を言う。だが、勝手に私の息子を危険な場所に連れて行ってくれと、依頼に書いた覚えはない」 「ち、違う、親父。それは俺から頼んで‥」 「黙れ、タツ!貴様は‥」 「ちょい待ちちょい待ち。今ここで怒たってしゃぁないやろ、怒るんやったらいつでもできるし」 「そうですよ。ここまでやっとできたのです、説教をするなら後で」 今度はからすと天津が、タツと父親の間に入った。「フンッ」と身をひるがえした。 「タツ、貴様は後で部屋に来い。今は、行ってやれ。約束は護るのが男なんだろう?」 「へ?」 少しだけ顔を出すタツ、その背中を喪越が思いっきり押す。 「手前ぇの選んだ道だ、手前ぇで落し前つけな。それが愛しの彼女に怒られるようになろうともな」 「愛しの彼女って、ち、ちげーよっ」 「ハッハッハ。まぁいきな」 そう言われると、強く頷き、少年は走り出した。 「開拓者の方も、後で家に来てください。御馳走させてください。それが私からできる感謝の印です」 そう言って父親も歩きだしてしまった。開拓者も、まだ依頼が終わっていないと森へと引きかえし、残ったアヤカシのせん滅を行った。少年は、少女に泣きながら怒られ、約束を果たした。 |