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■オープニング本文 ● その村では、年に一度、大きな祭りがある。 大きなと言っても、屈強な一人の男が森にある大樹の枝を切り取り、持ち帰ったそれに火をつける儀式のような、感謝祭なのだ。 だが、祭りなどしたことがあるのはその感謝祭だけと言う村人は、老若男女問わずその日を毎年楽しみにしていた。 その日も、昼間からいつも以上に賑わい、村の男どもは肩に昔から使われていた古い木材を担ぎ、その横を子供どもが走りまわる。 夕日が昇るころには露店が開かれ、一層賑わいだす。 夜になってもその火は消えず、賑わいを見せていた。 ところ変わって、村長の家では白い髭を伸ばした老人を中心に、村の若者が儀式用の服装を身にまとい、集まっていた。 「いいか。よく知る森と言えど、森の暗闇は危険以外の何物でもない」 「はい」 その中の一人、ピンと背筋を伸ばし、黒髪に透き通るような青い瞳をした少年が答える。 みれば、老人とその青年の瞳は、どこか似ているようなところがあった。 「村長のお孫さん、凛々しくなって」 「あぁ、村一番の男とも言われて、さぞや村長もあんなお孫さん持って鼻が高いだろうな」 そう、周りの男どもはひそひそと話しだした。 「では、行ってまいります」 「うむ、間違っても神木様を必要に以上に傷つけないようにな」 「はい」 そういうと、儀式用の仮面をかぶり、青年はその律儀な足取りで扉から出て行った。 ● ずんずんと進めば、いつの間にか暗い森の中。 先程までいた、あの消えることのないような賑やかな声は、小さく後ろから聞こえ、それが一層、この静けさを恐怖へと変えていった。 青年の背中には冷や汗が伝わり、松明を持つ手に力が入った。 少しばかり行くと、さすがに村のどんちゃんとした音は聞こえなくなり、青年は恐怖に怯えることはなくなった。 ただ、何かが動くような音が、大樹に近づくにつれて大きくなっていく。 ずるずると、確実に自分に向かってくるその音、青年は護身用の短刀に手をかけ、固唾をのみ込んだ。 見上げると、四つの目が青年を睨んでいた。 見た目は、まるで大蛇のようで、チロチロと舌が二つの口から出たり入ったり。 漆黒の森から、異形の音と、大きな叫び声と、木々が倒れる音が響いた。 鳥は森から飛び立ち、村からは賑わいが一瞬でかき消された。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
緋炎 龍牙(ia0190)
26歳・男・サ
美空(ia0225)
13歳・女・砂
ラフィーク(ia0944)
31歳・男・泰
裏禊 祭祀(ia0963)
25歳・男・陰
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
ファルシータ=D(ib5519)
17歳・男・砲
セシリア=L=モルゲン(ib5665)
24歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 村は、静かな活気で満ちていた。 「早い御着きじゃな。何か調べたいことでもあるのか?」 一人の白い髭を老人が、ゆっくりと、しかししっかりした足取りで開拓者に近づいてきた 銀色の髪の揺らし、朝比奈 空(ia0086)は丁寧に、それに返答した。 「はい、早く対処して、村の方を安心させたいので‥‥」 「だからぁ、その大蛇の情報が欲しいのよねぇン。蛇好きとしてもォ」 セシリア=L=モルゲン(ib5665)は、その妖艶な体をくねらせ朝比奈に続いた。 ましてや彼女は、それを隠そうとするどころか露出した服を着ているものだから、出店を畳んでいる村人などは、その妖艶な体に目をくぎ付けている。 「私としても、その大蛇のアヤカシが気になってね」 裏禊 祭祀(ia0963)は、そんな村人とは違い、彼はそんな物には興味を示さず、違う物にでも興味があるような物言いで、セシリアに同調した。 「興味のぅ。村人にでも聞くのはいいが、あの後は怖がって誰も森に近づいておらんしの、良い情報があるか‥‥」 「少ない情報でも欲しいのですよ。早急にアヤカシを倒して、安心させたいですし」 緋炎 龍牙(ia0190)は優しい頬笑みで、老人に話しかけた。 ピンとたった背筋、しっかりした物言い、そしてあの頬笑み、好青年とは彼のような青年をさす言葉だろう。 「お祭りを中止に追い込む大蛇さんは許さないであります。美空たちが見事討ち取り、その暁にはお祭りを見せてほしいであります」 大きな兜を被った少女、美空(ia0225)は、両手を上げ、意気込み体全体で表した。 「祭りや村に被害を最小に抑えたいところ。ならば、戦闘するなら森、出来れば開けたことろで」 「森でも狩りが慣れていると言っても、さすがに夜になれば分が悪いですし、今のうちに下調べしておきたいものです」 ラフィーク(ia0944)が話すと只木 岑(ia6834)もそれに続くように話す。 「分が悪いと言っても、有利な条件を奪ってやればいいのよ」 ファルシータ=D(ib5519)は最後にほくそ笑んだ。 「ふむ。ならば神木様まで案内する案内役を用意しよう。道ができていると言っても獣道のようなもの、案内役がいた方がいいじゃろう」 そう言うと老人はくるりと振り返り、足早に立ち去った。 開拓者たちもそれを見ると、ちりぢりになり、それぞれ村人に聞き込みを始めた。 ● ある程度聞き込みを終えると、開拓者たちは元の場所に戻ってきた。 そこでは、一人の村人が待っており、案内を頼まれたと告げ、開拓者たちを森の中へと案内した。 「やはり森ですね、開けた場所があまり見当たりませんね」 只木は先頭に立ちながら、枝を払いつつ、道を整備している。 「聞き込みでは、あまり開けた場所はないと聞きましたね」 裏禊は、周りをよく注意しながら、開けた場所を、あわよくば大蛇が出るのを祈って、見ていた。 「‥‥となると、どう戦うか‥‥」 「美空も大蛇さん見つけられないであります」 「なら、もう少し奥にいるのか。まぁ、俺としては神木も見てみたかったしな」 そうラフィークが言うと、彼らはまた、力強く森の中へと進んでいった。 いくらか行くと、道が二つに分かれていた。 二つとも、大人が二人並んで通れるような大きさで、近くにあった木々はなぎ倒されていた。 「あらァン?もしかしてこれってェ?」 「どうか、しましたか?」 それを見たセシリアは何かに気がついたように声を上げた 「この道のなり方、蛇が通ったみたいにくねくねしてないィ?ねぇ、神木ってどこにあるのォん?」 「はぁ、この先にありますが」 そう、村人が指差すと、開拓者は一斉にそちらを向き、気付けば、みな足早に森の中を突き進んでいた。 神木がある所に着いた時には、もう夕暮れ時だった。 大きな神木は、その光を適度に遮り、綺麗な朱色の光が地面を照りつけていた。 「大きな木だな。もしかしたらと思ったが、傷が付いていなくてよかった」 肩で息をしながら、呟いたのはラフィークだった。 「ですが、残念でしたね。ここに大蛇がいると思ったのですが。まぁ、木に張り付いていたら少々厄介でしたが」 「あら、そしたら無様に落して、地を這わすだけよ?」 後からついてきた裏禊とファルシータも、ラフィークと同じように肩で息をしながら、言葉を交わした。 「‥‥‥だめですね、この近くにも反応がありません」 「美空も、見つけられていません‥‥」 只木は鏡弦を、美空は瘴索結界を使い、その成果を仲間に告げる。 「もう、逃げちゃったみたいねぇん。それにしてもここは広がりがいいわねぇん。んフフ」 そういう、セシリアの前には、先程からあるうねりのある獣道が広がっていた。 「はぁ‥、か、開拓者様、も、もう、日が沈みます、御戻りを‥‥」 「すいませんが、お一人でお戻りください。私たちはここでやることができましたので」 近くの身近な木に、用意しておいた布を巻きつける朝比奈は、息を整えながら、今やっと着いた村人にそう言い放った。 「へ?」 「美空たちは、このままここで大蛇さんを倒すであります。危険なので戻ることを強くお勧めするであります」 「へ、へい、そ、それじゃぁ、お言葉に甘えて」 村人は来た道をさっさと戻ってしまった。 別段、美空が言ったことは、彼女一人の考えではなかった。 もうすぐ日が暮れてしまう、そうなった時、木々が生い茂る中を歩いていると、大蛇の方に分がある。 それならばいっそ、こちらが戦いやすい場所におびき寄せてやろうという魂胆なのだ。 戦いは、夜に行われることとなった。 ● 「美空はアメノイワトなのです。踊って大蛇さんをおびき寄せるであります」 そう、鼻歌交じりに軽く舞いながら先程セシリアが見つけた獣道を歩いている美空。 狙うは頭の数が減ったアマタノオロチ。 ここにあの大蛇が現れるかどうかはわからない、ましてやこの踊りにアヤカシを呼び寄せる効果などない、だが、美空の開拓者としての感が、アヤカシがここに現れると告げていた。 ずるっと何かが音が美空の耳に届く。 美空は視力が悪いが、今は真夜中、視力が良好な者でさえ、何かの接近にはこうも早く感ずかないであろう、美空だからこそできる芸当なのであろう。 じりりと後ろに下がる美空、それに合わせて、音の間隔は狭まっていく。 そして、美空は後ろを振り返り走り出した。 それを合図と、その音は素早く美空を追いかける。 ある程度走ると、美空の微弱な視力に光が見える。 仲間達の松明の火である。 その光が美空と大蛇を写すと、只木は構えていた弓から矢を放った。 ファルシータもこれに続き、大蛇に対して、何度も銃弾を撃つ。 それから遅れて、二つの影が美空の脇を走り抜け、大蛇に向かって突進した。 「‥‥全力で行く」 「おぉぉぉっ!」 ラフィークは先程まで七節にしていた土鬼を一本にし、真正面から叩きつけ、怯んだ隙に、玄亀鉄山靠を叩きつける、が、大蛇は大きく怯んだのみで、すぐに体勢を立て直し、尻尾でラフィークを薙いだ。 これはかわせないと、その攻撃を受け、大きく後ろに飛ばされる。 「‥もらった。斬り裂け‥―月光閃」 ラフィークとともに突進した緋炎は、途中で弧を描くように走り、横から大蛇を斬り裂いた。 しかし、これも甘く、傷は浅く大蛇は雄たけびを上げたのみで終わった。 これにはさすがの大蛇も怒りを隠せず、歯茎をむき出しにし、なにかに狙いを定めるように、頭を少しばかり後ろに下げた。 「なにかきます、避けてくださいっ!」 咄嗟に朝比奈が叫び、緋炎が後ろに飛び退く。 すると、そこに紫の毒液が噴射された、緋炎は危うく、毒の餌食になるところだったのだ。 しかし、もう一つの頭がその緋炎めがけて突っ込んできた、だが突然現れた大きな白蛇がこれを許さず、大蛇に巻きついた。 「どうです、これが私の性。このままぶつかればどちらが勝つでしょうね」 裏禊はくすくすと頬笑み、操る式はなお大蛇に巻きつき離そうとしない。 だが、大蛇は、片方の頭で、再度毒液を吐こうとする。 「あらぁ。勝手に動いちゃだめよぉ?」 セシリアが投げた符から、無数の蛇が飛び出し、大蛇に絡みついた。 「今こそ攻撃の時なのでありますよ」 後ろで朝比奈に神楽舞心をしていた美空はここぞとばかりに大蛇に指差した。 詠唱が終わった朝比奈の上には灰色の球体が浮遊し、杖を振り下ろすと、ゆっくりと大蛇に向かって浮遊しだした。 「その身を灰と化せ‥‥」 それに触れた大蛇は、文字通り灰となった。 ● 次の日の夜、美空の要望もあり、すぐさま祭りが再開された。 美空はその独特な踊りと音楽を堪能し、村人ともに踊っていた。 只木は、同じ狩人として村人に捕まり、その腕を披露したりなどしていた。 裏禊はその舌先で村の若い娘を毒牙にかけ、今や両手に娘二人を持ち、祭りを見学していた。 朝比奈と緋炎は、それぞれ祭りを見守っていた。 ラフィークは、一人静かな木の上で、本を片手にこの祭りを眺めていた。 そして、ファルシータは、老人が微笑ましく座っている横に静かに座り。 「どうじゃ、この村特有の祭りは。楽しんでいただいたかの?」 「えぇ、私は満足よ」 「そうか、それはよかった」 そう言うと、二人はまた黙ってしまった。 この沈黙を破ったのは、ファルシータ。 「彼はこの村に逃げてはこなかった。逃げればアヤカシがこの村に来てしまうから。逃げるないことで、叫ぶことで、彼はこの村を守った。そう思えないかしら」 ファルシータは気付いていた。 あの二つに分かれた獣道、一つは大蛇が祭りの音につられて下りてきた後、もう一つは、青年が村から遠ざけようと、あえて森の奥に大蛇を呼び寄せた後だと。 「孫、貴方達と同じ、この村を護ろうとした英雄なのだろう。だが‥‥、わしにとっては馬鹿な孫に変わりはない‥‥」 「私たちは事故処理屋でしかないわ」 と二人は顔色を変えず、他の者には聞こえないように、呟いた。 |