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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 兄の七羽矢吉は十五歳。弟の七羽的吉は十四歳。父が亡くなって家族は母親と兄弟のみになった。 普段から父の商売を手伝っていた七羽兄弟は継いで交易商人となる。ただ次々と常連が離れて知り尻窄み状態。立ちゆかなくなるのは時間の問題となっていた。 そこへきて希儀の発見である。 ギルドに依頼して開拓者を応援に迎えながら未知の大陸へ。 希儀の大陸南部へと到達して点在する遺跡のうちの一つを探検する。 入手した自生のピスタチオの実は武天此隅の市場に出すとあっという間に売れてしまった。もっとないかとたくさんの声がかかるほどである。 希儀産の物珍しさでキャベツも売り切ったが、こちらは今後も続くかどうかはわからない。 石箱に保存されていたピスタチオについては売らずにとっておくことにした。もし栽培するのならばこれから発芽させた方がよさそうだからだ。小麦、大麦、ライ麦、キャベツの種も同様である。球根については何の植物かわからないので、とりあえず自宅周辺に植えることにした。 幾何学模様と兵士が描かれた陶器については開拓者ギルドに持ち込んだところ、それなりの値で購入してもらえた。ただ一枚の皿についてはキラキラと輝く様を的吉が気に入ったので手元に残してある。 「しばらくの生活は安泰だな。こうやっておまんまにありつけるし、母ちゃんにも土産を買っていける」 「高値で売れたからだね。危険と天秤にかけると果たして儲かっているのかどうなのかはわからないけど。精霊門が繋がってくれれば、開拓者が行き来が楽になって治安もよくなるだろうけどまだ先かな」 夕暮れ時、七羽兄弟は武天此隅の飯処でかき揚げ丼をかっ喰らいながら今後の相談をする。矢吉が追加でかけ蕎麦を注文すると的吉も同じものを頼んだ。 「農作物は収穫時期が決まっているからね。あっちで農業を営む人が増えれば僕たち交易商人の出番だけど、しばらくは無理だろうね。野生のピスタチオの実もずっとはあり得ないし。しばらくしたら鳥に全部食べられてしまうと思う」 的吉がお茶を啜る。 「なら、どんなのがいいんだよ?」 矢吉はかけ蕎麦を待って手持ちぶさただ。 「少ない頭数でも年中現地生産可能な希儀ならではの人気の品を広域商人として扱うのが一番かな」 「そんな都合のいいものってあるかねぇ。お、きたきた♪」 話しの途中で蕎麦が運ばれて七羽兄弟は汁まで残さず平らげる。停泊中の中型飛空船・熊牙号へと戻る途中も話し合った。 「あのお皿だけ他の焼き物と特徴が違うんだ。やっぱり土が違うせいかな」 「作り方自体が違うんじゃねぇの?」 粘土や焼き釜が見つかれば陶芸家に話しを持っていけるにと意見が合うが、すべては机上の空論だ。 数日後、精霊門を建設している希儀南部の地域に物資を運ぶ仕事が七羽兄弟の元に舞い込んだ。資材輸送の際、一緒に運ぶはずだった醤油、味噌などの調味料を載せ忘れたらしい。 それを請け負うだけでも十分な儲けになるが、帰りに自生しているピスタチオを持って帰れればなおよい。 再びギルドで開拓者を雇う七羽兄弟であった。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
海神 江流(ia0800)
28歳・男・志
からす(ia6525)
13歳・女・弓
クレア・エルスハイマー(ib6652)
21歳・女・魔
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰
松戸 暗(ic0068)
16歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●上空 午後を過ぎた頃の希儀海面上空。七羽兄弟と開拓者達を乗せた中型飛空船・熊牙号は乱気流のせいで激しく揺れていた。 「小柄で龍よりも目立たないから有効だと思うの。あなたにしかできない仕事だし、お願い出来るかしら?」 『ま〜かしときぃ〜♪ これくらいへいのちゃらちゃ‥‥とおもうとったらすごい風やで〜♪』 声をかけるクレア・エルスハイマー(ib6652)に向けて胸をぽむっと胸を叩いた羽妖精・イフェリアは羽根を広げて船外へと飛び立つ。 「飛ばされないようにねー!」 クレアの心配をよそに羽妖精・イフェリアは慣れた調子で熊牙号の周囲を飛び回る。今のところ船体に取り憑いているアヤカシやケモノ、精霊はいなかった。 「ん? なんやろ?」 羽妖精・イフェリアは遠方の灰色雲から何かが落ちてきたように見える。目を凝らしてじっと観察を続けるとハーピーの群れだと判明した。 「人とでっかい鳥が合わさったようなアヤカシを見かけたんやけど!」 急いでクレアの元へ戻って報告する羽妖精・イフェリア。 「こちら左舷後部のクレア。敵襲ですわ!」 クレアが伝声管へ被さるようにして報告。 「アヤカシ急接近中!」 それを聞いた操縦室の矢吉は警戒態勢を発令した。 甲板下の船内で待機していた柚乃(ia0638)、からす(ia6525)、緋乃宮 白月(ib9855)が直ちに龍の背へと飛び乗る。甲板扉が開くと浮上しながら熊牙号から離れていった。 扉が閉じた甲板上には別の開拓者と朋友が姿を現す。 『ぎるどノオ仕事は久シブりでスネ』 「細かい作業のない力仕事だと波美よりお前の方が向いてるからなー」 土偶ゴーレム・土霊と海神 江流(ia0800)が甲板の手すりを掴んで歩を進める。定位置を決めると船体と身体を縄で繋いだ。 『ダンチョもオ久シぶリデス』 「つっちー、船内でどこいってたのよ?」 少し離れたところに立っていた鴇ノ宮 風葉(ia0799)に気づいて土偶ゴーレム・土霊がご挨拶。強風のせいで聞こえにくいのでどちらも大声だ。 「それにしてもあの兄弟、あたしらを便利屋と勘違いしてないかしら‥‥」 『似たようなもんじゃろ。ほれ、敵が近づいておるぞ』 鴇ノ宮が七羽兄弟の人使いの荒さを呟いても頭上の管狐・三門屋つねきちは普段と変わらず安穏としていた。 船首付近の操縦室の屋根にあたる部分では松戸 暗(ic0068)と忍犬・関脇の姿があった。不安定な場所でこそシノビの技は生きる。危険な足場にも関わらず、松戸暗と関脇は身軽に行動する。 (「交易商人の新規開拓ルートの護衛か。物流が活発になれば開拓者も恩恵に預かれる。街のためにも喜んで受け持とう!」) 強風をものともせずに松戸暗は手裏剣を手に取った。 忍犬・関脇も同様。依頼前に忍犬の太郎と関脇、松戸暗はどちらを連れてこようか悩んだ。最終的に自然の直中で探索させるとすれば大柄が一番ということで関脇を選んだのである。 「ヒムカ、ありがとう‥。これでわかったわ‥アヤカシは七体‥‥」 瘴索結界を纏った柚乃は炎龍・ヒムカでハーピーの群れと何度かすれ違って敵数を把握する。雲のせいで視界が悪くすべてを目視出来なかったからだ。その情報は的吉からもらった狼煙銃の輝きによってすべての仲間へと伝えられた。 「これは便利ですね。持ってきてよかったです」 防風防砂ゴーグルで目の回りを保護した鴇ノ宮は敵の位置を把握した上で駿龍・空閃を操った。その素早さを活かして熊牙号までの進路を遮ってハーピーの群れを翻弄する。 「全力で飛べば追いつけないな。問題は風。大陸の方角を正面にすると向かい風だ」 からすは甲龍・獅子鳩の速さと懐中時計「ド・マリニー」の時間を参考にして、ハーピーの群れが熊牙号に追いつけるかを計る。その上で熊牙号の操縦室窓へと近づき、進路を南南東に変えることを手振りで提案した。 熊牙号が進路を変更し、開拓者達の陽動も功を奏す。 「さぁて、お披露目といきますか‥真の劫火絢爛、‥‥照覧あれ‥!」 『やれやれ。この術は疲れるんじゃけどのぉ』 鴇ノ宮と焔纏で管狐・つねきちが同化。 「ここは遮らせてもらおうか」 からすが迫る数々のハーピーの翼に矢を射続けた。頃合いをみて甲龍・獅子鳩に硬質化を指示し、強く背中へと掴まる。大きく振った身体の勢いで迫るハーピー一体を龍尾で弾き飛ばした。 「あの個体を狙って!」 鴇ノ宮の指示で駿龍・空閃が群れからはぐれたハーピーに龍の牙を突き立てた。片翼がもがれたハーピーが落下してゆく。 「ヒムカ、もう少しだけ近づいてくれる‥?」 柚乃は炎龍・ヒムカの背で『魂よ原初に還れ』を使う。狙ったハーピー一体の動きが鈍重になってゆく。 駿龍・空閃、炎龍・ヒムカ、甲龍・獅子鳩の追い込みによってハーピーの群れは熊牙号の左舷前方で一塊りとなった。 「これなら狙いやすいなー」 海神江流は瞬風波の一直線な攻撃でハーピーの群れをより一所へとまとめる。 「手裏剣ではリーチが足りんが牽制ならば。関脇!」 松戸暗は自ら手裏剣を放ちながら忍犬・関脇を急接近してきたハーピー一体に襲いかからせる。臆したのかハーピーは群れの中へと退いてゆく。 「我は撃つ大空の刃!」 クレアのウィンドカッターが先頭のハーピーを切り裂いて群れの勢いを完全に抑えきる。 次の瞬間、焔纏によって輝く鴇ノ宮がメテオストライクを放った。一瞬のうちにハーピーが瘴気となって消え去る。わずかに残った一体も瀕死の状態で追いつけず、遠ざかって姿が見えなくなるのだった。 ●土地の名 熊牙号が精霊門の建設現場に辿り着いたのは夕方。 これまであやふやな呼び方だったが新しい街の出現を期待して『羽流阿出州』と名付けられていた。パルアディスと当て字で読むようだが、命名したのは朱藩の王『興志宗末』。カブキ者の感性のようである。 熊牙号が到着した日の深夜に精霊門が開通したと一同は現地の者から聞かされた。 「え〜、苦労して運んできたのにもしかしてくたびれ損? 精霊門ならひとっ飛びだし」 矢吉はがっかりと肩を落としたものの、勘違いだとすぐにわかる。 「人の出入りを優先して、依頼の形だとしても貨物輸送は来年の一月末まで禁止みたい。それ以降もきつい制限がかかるって噂だから、交易商人にとっては問題ないね」 的吉が調べてきた現地の情報を聞きながら握り飯で簡単に食事を済ませる。それから届け先へと向かう。 「塩気が足りないとみんなやる気が出なくてね。助かったよ」 調味料の到着を一番喜んでくれたのは現地の食事係であった。開拓者のおかげで本来なら大仕事となる貨物下ろしが三十分もかからずに終了する。 「これは助かるね」 「取っかかりがあるだけで充分だぜ」 感謝した食事係のつてで七羽兄弟はある資料を手に入れた。 それは南部の土壌に関しての調査報告書であった。専門家が採取された土を見れば水源、鉱物、農作物などの様々なことがわかるものである。 その日は羽流阿出州で一晩を過ごすこととなった。 ●探索 翌朝、熊牙号は羽流阿出州を後にする。約二時間後、まだ土の調査が行われていない未踏の地域へと到達した。 今日と明日は探索の日に当てられる。明後日は再集結してピスタチオの採取を行うことになっていた。 陶芸用の粘土探しを行う七羽兄弟には鴇ノ宮と海神江流が同行。別行動をとる他の仲間達も陶芸用の粘土探しに協力してくれるという。 熊牙号を安全な場所に隠した上で別行動となった。 「ん〜、あっちだな」 七羽兄弟、鴇ノ宮と管狐・つねきち、海神江流と土偶ゴーレム・土霊は徒歩で北を目指す。すべては矢吉の勘である。 森林ではなかったが、かなり草木が育っている鬱蒼としている土地を突き進んだ。 「焼き窯が見つかれば、そこから大して離れていないところに粘土の採取場所があるはず。にしても、探す材料がもう少し欲しい所だな‥‥土偶として同じ焼物の気持ちとか解ったりはしないもんか?」 問いかけた海神江流を土霊がじっと見つめる。 『‥ゴ主人、無茶ブりすギヤしマセンカねェ』 土偶ゴーレム・土霊の返答に隣で聞いていた鴇ノ宮がぷっと吹き出して大笑い。 『でモ、アタシのぼでぃモ、あんなフウにキらキらシタラ格好いイデすネ』 両腕を挙げて自分の身体を見下ろす土霊。 「陶器の製法に目星がついたら部分的に取っ替えてもいいかもな。そのときには陶芸師、紹介してくれよ」 七羽兄弟も緋乃宮につられて笑いながら海神江流に頷いた。 『マ、そコラの土偶トは訳がチガイまスカら!』 「わーったから‥」 胸を張ったように見せる土霊の肩を海神江流はぽんぽんと叩くのだった。 「どう?」 『おらんようじゃの』 管狐のつねきちは時折、狐の早耳で周囲の気配を探ってくれる。今のところ安全な土地のようである。 「あれ何だろ?」 矢吉が瓦礫の山を発見して焼き窯の残骸かどうか調べることに。鴇ノ宮は先にお昼にすることに。 竹皮の包みを膝の上で開いて美味しそうにおにぎりを頬張る。肉、魚が入っていない海神江流特製である。 「へー‥‥調べるのも結構大変なのね、それ。‥‥あ、ねえねえ海神、そこの水筒とってよ?」 「こちらですねー」 鴇ノ宮に従う海神江流の様子に、つねきちはやれやれといった感じで瞼をしばたたかせた。 「これ一気に吹き飛ばせねぇかな?」 呟いた矢吉がおにぎりをもぐもぐとしている鴇ノ宮へと振り返る。矢吉は航行途中の戦いで目撃した鴇ノ宮のメテオストライクを思い出したのである。 「メテオストライクより弱いメテオストライクってのがあるけど、あたし、調整苦手だし」 「んじゃ人力でやるしかねぇか」 諦めた矢吉は瓦礫運びを再開する。 一見、遊んでいるようにみえる鴇ノ宮だが、つねきちと共に周囲の警戒に当たる。周辺の空気はそれなりに張りつめていたからだ。 この時、蛇型のアヤカシ六体が遠方の枝に巻きつきながら一行の様子を窺っていたことを知る者はいない。 一時間後、残念ながら焼き窯の跡ではないと判明した。 「地上に立つ平らに見えるが、上空からだとなだらかな丘陵だな。獅子鳩、もう少し低空を飛べるか?」 からすは甲龍・獅子鳩に乗って熊牙号の着陸地点を中心に簡易な地図作りをしていた。 「作業小屋だが窯ではない。種子もなさそうだ」 何かしらの人工物を発見したときには降りて確認する。アヤカシとの遭遇はなかったが、何かしらの視線を感じることは多かった。 (「精霊、だろう」) からすが所有する『懐中時計「ド・マリニー」』には精霊力や瘴気を計れる機能がある。精霊力にそれなりの反応が現れた。 小さな影が枯れ草の向こうにいる気がするが、見なかったふりをして調査を続行する。 からすの後ろを徒歩でついてくる獅子鳩。人の営みを感じるものであれば焼き物の窯や採掘場でなくても簡単に調べて書き留めておく。 「私は怖い者ではない。話しをしてみないか?」 精霊にその気がないか、からすは声をかけてみた。しかし何の反応もない。 しばらくして茂みを覗き込んでみるが精霊はいない。代わりにオークの実と思われるドングリが三個転がっていた。 「魔法書は‥‥ないようですわね」 クレアと羽妖精・イフェリアは発見した石造りの廃墟内を探索していた。 『ウチは、何か喰えるモンを探してみるで〜♪』 そういって一旦は飛翔して暗闇に姿を消したイフェリアだったが、すぐに戻ってきてクレアに胸に抱きつく。 『これは美味そうな‥‥』 そういって胸の谷間からむにゅむにゅっとクレアの顔を見上げるイフェリア。 「じょ、冗談やがな〜」 クレアに睨まれているのを知ってイフェリアは頭をかきながら苦笑する。今度はちゃんと調べに飛んでいった。 まもなくこの場所が木工所であったのが判明する。屋根に守られたところだけだが、加工済みの木材が発見されたのである。 「もしかして飛空船の建設もここで行われていたのでしょうか」 『そやなら大発見なんやけど。あ、釘も落ちているで』 いつの間にかちゃっかりとクレアに抱きかかえられているイフェリアだ。残念ながら飛空船そのものは発見出来なかった。 「陶器の焼き窯って空からわかるかな‥‥?」 柚乃はヒムカに龍騎してなるべく低空を飛翔する。地表を観察しながら危険を避けるために瘴索結界を張って注意深く。 「ヒムカも何か見つけたら教えてね‥」 柚乃の首筋を撫でながら声をかけると炎龍・ヒムカは小さく啼いて答えた。 「粘土ならきっと他のところと色が違うよね‥」 地層が露出している崖などの場所へと降りて調べる。触ってみて粘りがあるものなら採取。側に目印を立てておく。 ただ採掘現場であったような痕跡をなかなか見つけられない。一カ所見つかったものの、石切場であって粘土の採掘場ではなかった。 それでも採取した粘土は十種類を越える。 「これをみんなに見せれば何かわかるかも‥」 自分ではわからないが七羽兄弟や仲間に見せればわかることがあるかも知れないと柚乃は考える。日が暮れ始めると急いで熊牙号の着陸場所へと戻るのであった。 「何か商品になりそうな物が見つかれば良いのですけど‥」 駿龍・空閃の背中から周囲を眺めた緋乃宮は木々の隙間に人工物を発見する。 着陸して確認してみると蔦や雑草で覆われた炉のようなものとわかる。先程見えたのは煉瓦が積まれた煙突であった。 「焼き窯かな? そこで見張りをお願いしますね。何かあったら啼いて知らせて」 梯子代わりに駿龍・空閃の背中を登って窓らしき小穴から中へと入る。白き羽毛の宝珠のおかげで緩やかに着地する。 「真っ暗ですね‥‥」 緋乃宮が潜った窓以外に外界と通じる解放部は見あたらない。その気になれば壁に穴の一つも簡単に空けられたが今は控えることにする。 七羽兄弟から借りたランタンを灯して探ってみたものの、これといったものは発見できなかった。仲間を呼んでもう一度詳しく調査することに。 森の中なので場所がとてもわかりにくかった。再度訪れた時にわかるよう煙突の蔦を排除する。その他にも目印を用意して熊牙号へと戻る緋乃宮であった。 「関脇、この匂いだ、頼んだぞ」 松戸暗は屈むと布の包みを開いて忍犬・関脇の鼻に近づける。かがせたのは陶芸用の粘土。探し回ったのは地層が露わになった高低差のある地域だ。 (「難しいだろうか」) 素人の松戸暗でも目前に粘土質の層があればすぐにわかる。関脇に期待しているのは遠方の粘土層の発見である。 ひたすらに歩いているうちに時間は過ぎていった。暮れなずむ頃、関脇が小さく吠えた。 駆ける関脇の後ろを追いかける松戸暗。 大きな岩などを難なく跳び越えながら、やがて立ち止まる。 関脇が前足で足下を掘る仕草をした。そこは断崖近くの場所で関脇の足下には粘土層から転げた塊が落ちている。 「確かに粘土だ。これが目指す陶芸用のものならよいのだが」 松戸暗は周囲を探ってみたが、採掘場らしき設備は見あたらなかった。 但し、長い年月雨風に晒されたのなら金属や木材は朽ち果ててしまっていてもおかしくはない。完全に近い形で残るとすれば石製の品ぐらいのものである。 松戸暗は粘土を採取し、急いで関脇と共に熊牙号へと戻るのであった。 ●調査の二日目 昨晩の間にからすの作った簡易地図へと各人が調べ上げた情報がまとめられる。 翌日、全員で熊牙号を足にして再調査に向かう。 鴇ノ宮、海神江流、七羽兄弟が見つけた瓦礫の山は残念ながら焼き窯の残骸ではなかった。だが木材伐採に関わる施設跡のようである。 クレアが発見した木材加工所では飛空船建設が行われた形跡が見つかる。近くを流れる川を基準に考えれば木材伐採の土地から下流に位置する。 緋乃宮が発見した煙突有りの建物を全員で再調査。結果、金属精製に関わる施設だったと判明する。鉄なのか青銅なのか、もしくはまったく別種の金属なのかまではわからなかったが。 柚乃と海神江流が別々の場所で発見した粘土は性質が異なっていた。どちらが求めている土なのか、もしくはどちらも違うのかは七羽兄弟が知る陶芸家の意見を聞くまではわからなかった。 夕方頃、粘土が採取された広域の中心部で焼き窯を発見。三つの窯が確認されたものの、どれも破損が酷くてそのままでは使えないと考えられた。 「この輝き、一緒だね!」 それでも的吉は大いに喜ぶ。全員で探したところ捨てられていた陶器の破片の中に、七羽兄弟がとっておいた皿と同じ輝きを放つものが発見されたからだ。 製法まではわからなかったものの、間違いなくこの辺りで作られた陶器だと判明した瞬間であった。 ●ピスタチオ 滞在最後の日はピスタチオの採集が行われた。 「ここで見張っているから、ピスタチオはよろしく」 『日当たりのよい場所で昼寝するつもりじゃろ?』 周囲の警戒は鴇ノ宮と管狐・つねきちに任せられる。 (「ここなら平気か」) 海神江流は鴇ノ宮が視界に入る場所でピスタチオの採取に取りかかった。 「お前の手じゃ細かいの掴めないだろー」 『細クてタカい木デスネ』 土偶ゴーレム・土霊に背負わせた籠へと海神江流がもいだピスタチオを投げ込む。土霊のいう通りピスタチオの樹木は幹が細くて登りにくいが身長以上の高さがあった。 龍を連れてきた開拓者は木の側に座らせて背中を梯子代わりにして採取を行う。 「ヒムカ、もう少しだけ木に寄ってくれる‥?」 「おっと!」 柚乃と矢吉は炎龍・ヒムカの背中の上でピスタチオを枝からもいだ。 「この木は鳥には食べられていないようだ」 からすは甲龍・獅子鳩に取り付けた籠へとピスタチオを器用に投げ入れてゆく。 「空閃、大変だけどよろしくね」 緋乃宮は採取も行ったが、ピスタチオで一杯になった籠運びを一手に引き受けていた。駿龍・空閃でひとっ飛びして熊牙号の船倉内へと運び込む。木箱へと採集したピスタチオを移し、籠を空けて仲間の元へと戻ってゆく。 『クレアはん、高いところはうちに任せとき〜♪』 「頼みますわ。くれぐれも枝に気をつけてね」 羽妖精・イフェリアは自らの羽根で飛んで高い枝からピスタチオを採集する。腰にぶら下げた袋を一杯にしてからクレアの背中の籠へと移す。 「こんなにたくさん自生しているとはな」 松戸暗の呟きに忍犬・関脇が小さく吠えた。 シノビと忍犬の身軽さで樹木の周囲を飛び回る。素早くピスタチオを採り終わると次へと取りかかった。 日暮れまでの間に熊牙号が運べるギリギリの量のピスタチオが集まる。 熊牙号は翌日、天儀本島への帰路に就くのであった。 |