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■オープニング本文 希儀の発見は様々な方面に影響をもたらしていた。水面下だけに留まらず、当然表舞台にも動きが見られる。 開拓者ギルドもしかり。 新しい儀があればギルド支部の設営が必要不可欠。そして第一に求められるのは移動手段。神楽の都から即座に現地へと赴ける精霊門設営が急務となっていた。 いつ新しい儀が発見されても対処出来るよう、または精霊門の修理に備えて主要品目については備蓄がある。問題なのは唯一の輸送手段たる飛空船の確保だ。 現状の開拓者ギルドが集められる飛空船だけでは、必要資材を運ぶだけでも数ヶ月を要してしまうのである。 各国への協力が求められたが、中でも武天の国王『巨勢宗禅』は真っ先に快諾してくれた。 巨勢王が動くならばとアヤカシへの対処で恩のある理穴の王『儀弐重音』も飛空船供与を決める。 泰国と武天はごく最近平和協定が結ばれている。それを理由として官僚組織が要請を検討。『春華王』の承認も通って準備が粛々と行われた。 朱藩の国王『興志宗末』については巨勢王と直接の話し合いを望んだ。 ある日の深夜。精霊門を利用して巨勢王、興志王が秘密裏に神楽の都を来訪する。 ギルド所有の施設内で密談と相成った。開拓者ギルドの重鎮も同席したが、途中から二人の国王が膝をつき合わせる形となる。 「どうにもいけねぇな。武天の王よ」 行灯のみの薄暗い部屋の中、興志王が手酌で酒をあおる。 「何で武天が仕切る? そこが気にいらねぇ。それにだ、その気になりゃ武天一国の飛空船でも運びきれるだろうによ。武天がわざわざ声をかけてまわるたぁどういう了見だ?」 興志王の話しを巨勢王はしばらく黙って聞いていた。 二人の国王は年齢こそ離れているものの、気性の荒さはとても似ている。巨勢王にすれば若い頃の自分を見ているようなものだ。 「‥‥精霊門だけではない。ギルド建築の資材や風信器の部材も予定しておるのでな。我が国だけでは無理だと判断したのだ」 興志王も天儀酒を一杯呑み干す。 「そんなことはねぇだろ」 「飛空船を出払って自国を手薄にしたのなら‥‥これ幸いにと牙を剥いた虎が奪いにくるかも知れんのでな。そのような単純きわまりない愚考をわしがすると思うてか?」 巨勢王の問いに興志王がニヤリと笑う。口端の尖頭歯を輝かせて。 朝方まで言葉を刀とした国王二人の斬り合いは続いた。 最終的には朱藩の興志王も飛空船による資材輸送協力を呑んだ。但し、四カ国共同の船団指揮は興志王が執ることとなる。 三日後、神楽の都には泰国、理穴、武天、朱藩からの飛空船が集まった。 倉庫などの資材保管場所に横付けされ、樹齢何百年もの樹木を半加工した資材がこれでもかと積み込まれてゆく。その他にも大量の物資で各飛空船の船倉内は一杯になった。同時進行で行ったのにも関わらず、積み込みだけで五日の時間を要す。 準備が整い、指揮・超大型飛空船一隻。輸送用・大型飛空船二十一隻。護衛・中型飛空船四十隻の巨大船団が離陸する。 乗船者の中にはギルドから直接参加を依頼された開拓者の姿もあった。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
海神 江流(ia0800)
28歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
倉城 紬(ia5229)
20歳・女・巫
からす(ia6525)
13歳・女・弓
和奏(ia8807)
17歳・男・志
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
山階・澪(ib6137)
25歳・女・サ
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●希儀を目指して 四カ国から構成される輸送船団は天儀を離れて悪天候の中を航行していた。 高速の偵察飛空船による偵察が常に行われていたが、その中の一隻が『ハーピー』の群れと遭遇する。ハーピーとは鳥と人が合わさったようなアヤカシである。 遭遇した高速偵察飛空船の性能を持ってすればハーピーの群れを引き離すことは容易であったが、わざと追いつかせた。それが興志王の事前指示であったからだ。 一騎当千の活躍が期待される開拓者で構成された『北方警備第一隊』は超大型の旗艦飛空船『赤光』に乗船していた。 「っひゃー! すっげえなあ」 ルオウ(ia2445)は窓におでこをつけながら外で始まった空中戦闘を眺める。 襲いかかってくるハーピーの数は多かったが、中型以上で六十二隻を数える輸送船団からすれば塵芥のようなもの。興志王の指揮元、各艦船の宝珠砲が掃射の火を噴いた。 宝珠砲の命中率は元来悪く、ましてや航行中。攻撃対象が巨大な飛空船ならともかく、本来ならば人の大きさ程度のハーピー相手には適さない兵器だ。 しかしハーピーが非常にまとまった群れで襲ってきたおかげで的となりうる。また砲手の練度向上を含めた宝珠砲運用の肩慣らしの役割も含まれていた。 砲撃開始から二分で敵ハーピーの群れを殲滅。味方に損害はなし。あるとすればわずかに砲弾が減った程度である。 それから約五時間後に希儀にある大陸南部へと輸送船団は着陸した。そこは海岸線に面する遺跡に隣接した土地であった。 多くの飛空船は陸上への着陸を果たしたが一部は海上に着水する。 資材を降ろす作業と同時に地均しと基礎工事が急いで施工された。順次、半完成品の資材を使って建築が行われる予定である。 資材は工程順に各飛空船へと積み込まれていた。そのせいで神楽の都からの出発に時間がかかったともいえる。最終的には施工日数の短縮に繋がると期待されていたが半信半疑の関係者も多い。 「‥‥探索、調査の次は持ちこたえろ、って? よほど、この大陸は大事ってことかしら」 赤光を下船した鴇ノ宮 風葉(ia0799)は帽子のつばを持ち上げて地上からの希儀の景色を眺める。自然に溢れた土地であり、眺めた分には危険はあまり感じられなかった。 『わしらはその駒じゃき、考えんで動いときゃあええんじゃ』 宝珠から出現中の管狐・三門屋つねきちが鴇ノ宮を見上げる。鴇ノ宮は「嫌よ、そんなの」と即答する。 地上騎乗のための朋友を連れてきた開拓者は三名。 走龍・兎羽梟は、からす(ia6525)。走龍・フロドはルオウ。霊騎・よぞらは篠崎早矢(ic0072)だ。 「少し駆けてみよう」 「実際に駆けてみるのが一番だな」 からすに誘われた篠崎早矢は一緒に警護範囲を走ることにする。ついでに霊騎・よぞらが好みそうな草も見つけておこうと考えていた。 「あ、俺も!」 走龍・フロドに飛び乗ったルオウも加えて三騎で北方の状態を確認する。あくまで着陸している船団が視界に入る範囲においてだが。 飛行可能な朋友を連れてきたのは二名。 鷲獅鳥・白虎は杉野 九寿重(ib3226)。甲龍・冴は山階・澪(ib6137)。高空は友軍に任せるとしても、低空も抑えられればより戦いの有利に働く。 「ざっと見て参りましょう」 「賛成です。アヤカシが潜んでいるかも知れませんし」 山階澪が北方の東側、杉野が西側を担当して空中からの警戒が行われることとなる。各々主を乗せた鷲獅鳥と甲龍が翼を広げて宙に浮き上がった。 北方警備の拠点は専門の隊が設営してくれる。ただ細かいところは自分達がやらなくてはならなかった。 海神 江流(ia0800)と倉城 紬(ia5229)は地図を片手に周囲の状態を確認してから拠点へと戻る。すでに雨風を防げる状態まで仕上がっていた。 「飛行船の旅も悪くはないが‥‥やっぱ地に足がつくと安心できるな」 海神江流は拠点の建物内を覗く。 『休めるようにお茶の用意でもしておくわね』 からくり・波美は拠点内が休息のとりやすい場になるよう工夫を始めた。 一日二日ならともかく一週間前後の滞在なので、食事や睡眠に問題ないようにしないと志気に関わるからである。 鴇ノ宮がいつでも休めるようお茶菓子も置かれた。今回はたまたま手に入ったのは干しイモである。からすもお茶の用意をしてきたようだ。 「ここに積んでおきますね」 倉城紬が人妖・穂輔と一緒に大八車で大量の薪を運んできてくれる。神楽の都から持ち込まれたもので焚き火や篝火をしても充分な量が確保されていた。 さっそくヤカンでお茶用のお湯を沸かすからくり・波美を見て倉城紬が微笑んだ。余裕があるときに自分も淹れるつもりであったからだ。 施工は昼夜関係なく続けられた。夜間の明かりは着陸中の飛空船に取り付けられた輝く宝珠によって賄われる。 精霊門建設とは別の作業として将来の街と外の境界が杭と縄によって区切られた。 昔の現地人が使っていたと思しき石切場が近くで発見されている。それによって将来石組みで城塞が築かれることだろう。だが時間がかかるので今は精霊砲を設置するための防壁付き砲座が優先された。 各方面の警備隊に課せられたのはそのための時間稼ぎ。一週間を守り抜けばある程度の目処がつく。 緊張の中、すべてが動き始める。人、そしてアヤカシも。 ●戦い 輸送船団の着陸が多数のアヤカシを誘う呼び水となったのは疑いようのない事実である。 アヤカシは人を脅し、喰らうのが本能。奴らにとっては『御馳走』がまとまって現れたのだ。これを逃すはずもない。 船団指揮の興志王にとって想定の範囲であり、望んでいた状況でもあった。何故ならこの一帯のアヤカシを一掃する絶好の機会ともいえるからだ。 希儀への橋頭堡を築くにあたって最大の障害はアヤカシの存在。 ケモノや精霊とはわずかながら話し合いの余地が残されている。しかしアヤカシと信頼を築ける可能性はまったくないからである。 施工開始後の初アヤカシによる襲撃は途中で襲ってきた群れの一部なのか、ハーピーによるものであった。 上空制圧を任された部隊が中型飛空船を中心にしてグライダーによる戦いを繰り広げる。同時に地上でも戦いは始まっていた。 「少しでも片づけておこうか」 からすは騎乗する走龍・兎羽梟を木々が育つ丘の上で停止させた。 即座に空の守りを突破してきたハーピー・壱へと『呪弓「流逆」』の弦を引く。呪力を持つ歌を地上付近で唄われて混乱を招かれると厄介だからだ。 枝葉の隙間から狙い定めて放たれた矢がハーピー・壱の首を貫いた。吐かれた悲鳴に眉をしかめる、からす。 二射目に放った矢はハーピー・壱の右翼の付け根に命中する。からすは錐もみ落下するハーピー・壱の止めをルオウに任せた。 「行くぜ、フロド! 足元きをつけろよ!」 走龍・フロドでルオウは草原の風となる。 一直線に駆ける高速走行のフロドの足が大地を踏みしめて土塊が弾け跳んだ。 ルオウが前傾姿勢で睨む。落下中のハーピー・壱から視線を外さない。走龍・フロドの頭部に取り付けられたコンバットクロスボウで矢を放つ。 地面に落下したハーピー・壱が大きく弾んだ。そこをルオウが『殲刀「秋水清光」』で掬うようにして首を刎ねた。 走龍・フロドを急停止させてルオウが振り返ったとき、ハーピー・壱の身体半分は瘴気と化して崩れかかっていた。 篠崎早矢は同じ弓使いのからすと共に後方での遠距離射撃に尽力する。戦況を見て移動する際に霊騎・よぞらは頼もしかった。瞬時に移動して態勢を整えられる。 「あれはお任せを!」 きりきりと『弓「弦月」』を引く篠崎早矢。見事、ハーピー・弐に胴に命中させる。すると手追いのハーピー・弐が翻って篠崎早矢とからすに迫ってきた。 「私たちだけで倒そうか」 「そう致しましょう!」 からすと篠崎早矢が並んで弓を引いた。からすが乱射でハーピー・弐の勢いを弱まらせ、篠崎早矢も即射で当て続ける。 射止めた箇所が傷に収まらず黒き塵芥と化す。からすと篠崎早矢が立つ場所にまで辿り着くことなく、ハーピー・弐は瘴気となって雲散霧消した。 地上と空中の両方でハーピーと対峙する開拓者もいる。鷲獅鳥・白虎を駆る杉野と甲龍・冴で羽ばたく山階澪の二名だ。低空と地上を自在に移動して戦う。 (「眼下に一体!」) 心眼で敵の位置を察知した杉野は口に銜えた手綱で鷲獅鳥・白虎の飛行軌道を変更。空中から地上走行へと切り替える。 舞い上がる土埃の向こうで身体を震わせて唄い始めようとするハーピー・参。 そうはさせまいと杉野が『野太刀「緋色暁」』を槍のように前へと突きだしたまま鷲獅鳥・白虎を突進させた。 野太刀の先がハーピー・参の後ろ左肩下へと深く突き刺さる。 「くっ!」 杉野は野太刀を掲げようとした。重かったが力を込めてやり遂げる。 ハーピー・参の身体が自重に負けて斬り口を広げた。後方頭上で野太刀から外れたときにはズタボロに。地面に叩きつけられたハーピー・参は瘴気へと還元してゆく。 ハーピーとの戦いが終わりを迎えようとしていた頃、地上を徘徊するアヤカシの単眼鬼『サイクロプス』が出現した。 真っ先に存在を知った山階澪は一旦、甲龍・冴で空高く舞い上がって呼子笛で緊急事態を遠くの仲間達へと報せる。 その後で採った行動は少々変わったものであった。 (「当初の作戦とは違ってしまいましたが、これも一つの戦い方です」) 昨日の草刈りでわざと残した藪に山階澪はサイクロプスを追い込んだのである。報せに気づいた一番近くで戦っていた北方警備第二隊が駆けつけてくれた。 「皆様はこれから飛び出してくるサイクロプスを横から回り込む形で退治をお願いします。私が誘き寄せますので」 山階澪は咆哮で藪の中のサイクロプスを誘い出す。甲龍・冴には霊鎧を命じ、自らはフェンスシールドで守りを固める。 突進するサイクロプスに斧を叩きつけられても山階澪と甲龍・冴は耐えきった。その隙に北方警備第二隊が左右から挟撃。まとめて十二体のサイクロプスを葬り去る。 その頃、鴇ノ宮と海神江流、倉城紬は北方警備の拠点近くにいた。 (「精霊門が出来ればこっちの開拓も随分ラクにはなるんだろな」) 海神江流は鴇ノ宮を視界の隅に置きながら戦況を眺める。味方の有利で進んでおり、特に加勢する必要は感じられなかった。 拠点の防衛も立派な役目である。ちなみにからくり・波美は救護用の簡易施設で、倉城紬、人妖・穂輔と一緒に北方警備第四隊の治療に当たっていた。 「すぐに楽になりますからね」 倉城紬は『神楽舞「瞬」』、人妖・穂輔は『神風恩寵』で北方警備第四隊の怪我を癒す。さらにからくり・波美が用意したお茶や料理で心の落ち着きも取り戻してもらう。 まだ戦いの日々は始まったばかり。ここで無理をしたら最後まで続くはずもないからだ。 「この辺りだと難しいわね。どうしてものときはどうしようか‥‥ん?」 腕を組んで戦場を眺めていた鴇ノ宮が気配を感じて後方へと振り向いた。長い柄を担いだ誰かがやってきたからだ。 「よおっ。どんな案配だ?」 日の当たり具合で影になってわからなかったその人物は興志王だった。 「善戦はしているかな。でもサイクロプスの奇襲で北方警備第四隊に怪我人が続出。死んだのはいないし、アヤカシはちゃんと倒したようだけど」 鴇ノ宮は欠伸を混じらせながら知っている範囲の状況を興志王に説明した。 「お、お待たせしました。治療はもう大丈夫です〜」 簡易施設から飛び出した倉城紬が、鴇ノ宮、海神江流、興志王の三名が立つ場所へと駆け寄る。人妖・穂輔と、からくり・波美も後からついてきた。 簡単な話し合いの末、拠点防衛は興志王と倉城紬、人妖・穂輔、そして回復した北方警備第四隊が担当することになる。 鴇ノ宮と海神江流は遊軍としてその場を離れた。からくり・波美は主に同行する。 時折、宝珠から飛び出した管狐・つねきちが煙と光をまとった。鴇ノ宮が管狐・つねきちに『狐の早耳』で周囲の状況確認させていたからである。 「蝗ですね。かなりの大きさ‥‥いやアヤカシのようです」 からくり・波美が相棒銃「テンペスト」で撃ち落とした対象を海神江流が観察する。 『心眼「集」』で確認すると草むらの中にアヤカシ蝗が隠れ棲んでいた。鴇ノ宮も管狐・つねきちを召還し直して『狐の早耳』で周囲の状況を再確認させる。 その直後、鴇ノ宮は遠方で黒い煙のようなものを発見した。すぐに勘づいて正体に気がつく。あれは蝗に似たアヤカシの集まりであろうと。 「ふふんっ‥‥海神と二人きりで助かったわ。混戦だったら使えないもの、こんな術」 『普通は術士が少人数で動くもんじゃねぇけどのう』 「祈っていなさい。‥‥周囲に貴重な資源がないことをね!」 『そも、壊すなと』 管狐・つねきちが突っ込みをいれながら鴇ノ宮とディープナレッジで同化した。 鴇ノ宮はトルネード・キリクの詠唱の機会を計る。出来る限り引き付けて最大限の効果を狙うために。 『張り切るのもいいけれど、消耗しすぎないようにね‥』 「拠点の維持と防衛の方が今回は大事だからな」 周囲に潜む蝗アヤカシ退治は海神江流とからくり・波美の役目である。 銃と手裏剣による遠隔攻撃で一つずつ潰していった。詠唱を始めた鴇ノ宮を襲おうとする個体を優先して。 トルネード・キリクが発動される寸前、海神江流とからくり・波美は安全地帯へと非難した。 巻き起こった竜巻は蝗の群れ百数十を一瞬にして蹴散らす。 さらに海神江流とからくり・波美の援護において発動させた二度目のトルネード・キリクで殆どが消滅。その後、瘴気回収で練力回復を図る鴇ノ宮だ。 拠点防衛は戻った杉野と山階澪が参戦していた。倉城紬と人妖・穂輔の治癒のおかげで戦闘が継続。拠点は無事であった。 「助かるぜ!」 興志王が後方の倉城紬に感謝の言葉を投げかけながら魔槍砲の火を噴かせる。 「あらかたは片づいたようですねー」 しばらくして倉城紬は周囲の状況を興志王を含めた仲間達に大声で伝えた。 戦線の広がりすぎを警戒して他の仲間達も拠点へと戻ってくる。日が暮れる頃にはアヤカシの攻勢も鎮まるのであった。 ●昼夜問わず 戦闘は数時間ごとに勃発し続けた。 迫るアヤカシも様々。空に陸、時には地中から攻撃を仕掛けてくる。 それでも北方警備第一隊は睡眠、食事をちゃんととって時には休憩のお茶を啜る。根を詰めたりすれば敵の思うつぼであろうと。 精霊門の建設開始から五日目。南方で初めて海棲型アヤカシによる襲撃が勃発した。南方警備の隊は相応の装備を持って戦う。 北東西の陸上方面部隊は持ち場を離れずに見守った。上空制圧隊の一部のみが応援に向かう。夕方にはわずかな味方飛空船の損害のみで殆どを葬り去る。 砲座建設も着々と進み、六日目の昼には約三分の一の設置が終わる。 そして七日目の早朝。アヤカシ『オーク』の集団が北方と東方の部隊を襲った。 北方警備第一隊の開拓者達もオーク退治に乗り出す。 「見てきましたが精霊門の建設は順調かな」 「あたしが手伝っているのに遅れたら承知しないんだから」 海神江流が護衛する鴇ノ宮のサンダーヘヴンレイによる攻撃が北方の戦いにおける合図となる。 弓矢などの遠隔攻撃手段を持たないオーク集団はとにかく接近戦に持ち込もうと突進をやめなかった。 「兎羽梟、後で人参をやろう。もう少しよろしくな」 「ものすごい数のオーク。少しでも減らさねば」 からすと篠崎早矢は弓矢で応戦する。鈍重なオークの巨体に矢が面白いように当たった。 「これだけの数がいると一部を誘い出すのは無理ですね。少しずつ叩いていきましょう」 杉野は上空からの一撃離脱で戦う。紅蓮紅葉の煌めきを刃に纏わせて。 「ここに伏兵が潜んでいます!」 山階澪はヴォトカを投擲した上で火が点いた松明を上空から投げ込んだ。周囲を刈り込んでいるので大火事になることはない。隠れていたオークが次々と飛び出す。 「あれが一番大きくて偉そうだな。よし!」 ルオウはオークの親玉らしき個体に絞って攻撃を仕掛けた。オークのまとまりが瓦解するのを期待して。 「興志王、無理はしないでくださいね」 「おうよ!」 倉城紬は傷ついた北方の戦闘員を治療してくれる。興志王と行動を共にしながら。 オーク集団の戦い方は愚かともいえるが、見方によっては勇敢ともいえる。その勢いに負けず、北方警備の一同は抵抗し続けた。 午後になろうとした頃、約二百体のオークをすべて倒しきる。しかし一時間後、別のオーク集団が攻め入ろうと接近してきた。 再び一同が出撃しようとしたところに銅鑼の音による報せが入った。宝珠砲の準備が整ったのである。北方の各隊は待機して状況を見守る。 土煙を巻き上げながらオーク集団が丘の向こうから現れる。すべてが丘を越えたところで連続する宝珠砲の発射音が響き渡った。 大地を抉るほどの破壊力にオーク集団の勢いも弱まる。掃射後、残ったオークを殲滅するのは容易いことであった。 ●そして 予定の一週間で宝珠砲の砲座が完成をみた。これでアヤカシに施工現場を襲われたとしても以前よりも対処は簡単になった。 完成にはまだ日数がかかるものの、三分の一の飛空船は補給と人員交代のために一旦天儀へと戻ることとなる。 開拓者達も興志王と一緒に超大型飛空船『赤光』にて帰路へ就くのであった。 |