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■オープニング本文 魔の森とはアヤカシが巣くう土地。 天儀本島の一国である理穴は東部がすでに魔の森と化していた。 ここのところの活発なアヤカシの動き。それに伴う魔の森の浸食が理穴の未来を脅かす。 あまりの急激な動きに対し、理穴の女性国王『儀弐王』は様々な手を打とうとする。アヤカシに対する反撃の準備と共に重要視していたのが民の命である。 恐らく戦いの場となるはずの湖東端周辺住民を移動させようと、自ら現地に赴いて策を講じていた。当然、配下の者達も動いていたが、自らの姿によって民の結束を促す。 緑茂の里を中心とする湖東端周辺から、西南の方角にある離れた町や村が避難地とされた。本格的な民の移動はこれからだが、まずは受け入れ体制を整えるのが先決である。 食料から始まって住処の準備。冬も近いので長引けば衣服なども用意しなければならない。それらの手配、配送には膨大な労力が必要だ。 避難を受け入れる町村の物資だけではとても足りなかった。さらに近隣の町や村から儀弐王の命によって供出が義務づけられる。 とはいえ発布前に自発的に提供してくれる町村も少なくなかった。 避難地の町や村に程近い森。 「これが届けばしばらくは持つはずですね」 馬を駆る儀弐王は森の道に連なるもふらさまが牽く荷車の列を眺める。これから避難地のどこかに届けられる補給物資であった。 「何やら騒がしい様子が」 同じく馬に乗る儀弐王の配下、陽徳が一部のもふらさまの異変に気づいた。 「あれはもしや!」 言葉より先に儀弐王は取りだした弓を構えて矢を放つ。陽徳を含める配下の十一人も同じく弓矢を手にする。 矢が命中したのはアヤカシ。 おそらくは剣狼と呼ばれる狼によく似たアヤカシの群れであった。それだけではなく、かなりの知恵を持つアヤカシの亡鎧の姿も垣間見える。 「この輸送を阻止させる訳には!!」 儀弐王が指示を出すと何名かの配下の者が馬から飛び降りて本格的な戦いの準備を行う。陽徳は輸送の責任者に駆け寄って先を急がせた。 (「これはまずい状況‥‥」) 儀弐王はわずかな間に考える。いくらアヤカシが多いとはいえ、自分とこの場にいる配下の十一人がいれば負けるはずはなかった。 ただ、荷車の物資やもふらさまに被害を出さないのは難しい。もふらさまが暴れだしたら収拾がつかなくなる可能性もある。そうなれば肝心の物資を届けるのがおぼつかなくなるだろう。 「あれは?」 儀弐王は森の茂みから姿を現した者達を見つけだす。 それはギルドから派遣されていた、この周辺の守備を任された開拓者達であった。 |
■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
上杉 莉緒(ia1251)
11歳・男・巫
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
レフィ・サージェス(ia2142)
21歳・女・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
海藤 篤(ia3561)
19歳・男・陰
佐竹 利実(ia4177)
23歳・男・志
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●遭遇 「わたしは理穴を統べる儀弐王。そこの者達、開拓者ですね!」 森の中から道へ出てきたばかりの開拓者達に儀弐王が声を投げかける。芯の通った声は、すぐに開拓者全員を振り向かせる。 「儀弐王様?」 上杉 莉緒(ia1251)はまさかと思いながら大きな瞳をより見開く。確かに噂に聞いた儀弐王の特徴そのままの女性が道を進む荷車の隊列近くで弓を構えて立っていた。配下の者らしき弓術士達の姿もある。 「ほうほう、あれが儀弐王か。なかなか‥‥。北面のあのいかつい顔より、よほどええなぁ」 八十神 蔵人(ia1422)は大斧を肩に担ぎなおして口の端をあげた。 「この荷車の隊列を守る為に力を貸して頂きたい!」 涼やかな儀弐王の声の後に、耳障りな唸り声が開拓者達の耳の裏に障った。荷車の隊列とは逆の方角ではアヤカシの群れが道や森の中に溢れていた。 ひとまず開拓者達は儀弐王と配下の者達が放つ矢に当たらないよう道と森の狭間を駆け抜けた。すぐに荷車の隊列近くにいた儀弐王と配下十一人と合流を果たす。 開拓者達は儀弐王からの協力要請を即座に受け入れた。護るべきはもふらさまが牽く荷車二十両に載せられた避難民用の物資である。 「民の思いの詰まった命綱とも言えるこの輸送隊、必ずや守り抜きましょう」 六条 雪巳(ia0179)は儀弐王と配下の者達に頷くと、さっそくもふらさまの状態を確かめる。今はまだ怪我を負ったもふらさまはいないようだ。何かあれば神風恩寵で癒すつもりであった。 近くまでアヤカシの群れが迫っている状況で、悠長に作戦を立てている時間は残っていない。一言二言のやり取りで役割が決められる。 弓術士の儀弐王と配下十一人は矢を射ってアヤカシを遠くから殲滅するのに注力。 もふらさまが牽く荷車の隊列後方に身を置き、二段階の時間差をつけて矢を放った。上空に放たれた矢はアヤカシの群れに鏃の雨を降らせる。荷車二十両の移動に合わせて少しずつ後退しながらの遠隔攻撃であった。 開拓者達はそれぞれの得手を活かす為に二つの班分けをする。 防衛班は荷車二十両の護衛と傷ついた者への治療にあたる。六条雪巳、小伝良 虎太郎(ia0375)、深山 千草(ia0889)、レフィ・サージェス(ia2142)、海藤 篤(ia3561)がその任に就いた。 遊撃班は弓術士達の攻撃をかい潜ってきたアヤカシ等と対峙する。上杉莉緒、八十神、水月(ia2566)、佐竹 利実(ia4177)、フェルル=グライフ(ia4572)が遊撃班となったが、今はまだ荷車二十両からあまり離れずにアヤカシと戦う。 何故なら荷車二十両の隊列が長いからだ。ある程度の人数がいないともふらさまと物資を載せた荷車を護りきれなかった。 基本的にアヤカシは拓けた道を疾走し、もふらさまや輸送を務める民に襲いかかろうとする。とはいえ弓術士達の矢の雨を避け、さらに遊撃班の直接攻撃をやり過ごさなければ近づけないのだが。 しばらくすると森の中から近づいたアヤカシが突然に道へ飛びだして襲ってきた。 剣狼のみでこのような策を用いるとは考えにくい。おそらくは亡鎧の知恵だろうと誰もが心の中で呟く。 まだアヤカシの群れと荷車二十両の隊列の間にはそれなりの距離があった。しかし徐々にだが狭まっている。 アヤカシの排除が先か、完全に追いつかれるのが先か、緊迫した状況にまだ光明は見いだせなかった。 ●遊撃班 やがて荷車二十両の進む道の先が曲がりくねるようになる。 アヤカシ等は多少の茂みがあろうとも突っ切り、岩を跳び越して一直線に隊列を目指す。 状況は道をなぞるしかない荷車二十両にとって不利に傾いた。 それでもこれまでの奮闘によってある程度のアヤカシの排除には成功している。遊撃班はここが勝負の分かれ目として荷車二十両の隊列から離れての戦いを選択する。 「この物資を心待ちにしている人達が大勢います‥! 邪魔はさせません!」 フェルルはひときわ高い岩の上に立ち、手にする長巻を大きく振るうと腹の底から激しく叫んだ。咆哮である。 岩の位置は荷車二十両の隊列からかなりそれた方角。つまりはアヤカシを引き寄せる為の囮となった。 「儀弐王様にお助けいたしましょうといったからには!」 佐竹利実は岩の下で先程儀弐王と交わした会話を思いだしながら刀を構える。そして身体から刃を生やす大地を駆ける剣狼に立ち向かった。 すれ違いざまに火花が飛び散り、振り返って刀を振り下ろす。剣狼はそれなりの素早さを持っていたが追いつけない訳ではなかった。 佐竹利実は周囲にある巨木や岩をうまく使って追い込んではアヤカシを仕留めてゆく。 「回復はわたし達に任せてください」 水月は後方に待機して遊撃班の仲間の動きに気を配った。 酷い傷を負った仲間を見つけたのなら神風恩寵を施す。神楽舞の応援で補助もするが、戦いがどう転ぶかもわからないので出来るだけ練力は温存する。 それは上杉莉緒も同じであった。 (「儀弐王様も含めた上で敗退したとあらば、儀弐の国の名誉や士気に関わってしまうかもしれません‥‥」) 上杉莉緒は回復を水月に任せ、主に神楽舞「防」で仲間達の安全を計る。回復が必要な時には声を出して水月と重複しないように努めた。 「護ってみせるから‥‥どうか暴れないで頑張ってね」 遠ざかってゆくもふらさま達を心配する水月である。遊撃班として隊列を離れるまでは落ち着くようにもふらさまを懸命になだめていた。 「もふらさまを傷つけられたりされたら大変です」 上杉莉緒ももふらさまを第一に考えた。もふらさまにもしもがあれば、荷車に載せた物資を放棄しなければならなくなる。結果として多くの避難民を助けられない事に繋がってしまうからだ。 「ここはわしの花道や、舞台への道を開けいっ!!」 八十神が遊撃班の仲間の元から離れて多数のアヤカシの最中に身を投じた。心眼の索敵によって親玉であろう亡鎧の位置を特定したのである。 しかしいくら八十神が強いとはいえ、立ちふさがる剣狼の数は尋常ではなかった。亡鎧の元に辿り着くには、まだ無理があった。 一旦下がり、敵の数を減らしながら次の機会を待つ。八十神は心眼で亡鎧の位置を逃さないように注意しながら、邪魔な剣狼等を斬り伏せてゆくのだった。 ●防衛班 弓術士達が矢の雨を降らすのは主に荷車二十両の隊列後方の道上空。 儀弐王を始めとして腕に覚えがある弓術士ばかりなので、森の障害物がたくさんある中でもアヤカシを狙いうつのは容易かった。しかしそれでは多勢の敵に対しての威嚇になり得ない。それ故、後方の道からの敵の進撃を防ぐ事に弓術士達は集中していた。 森から跳びだしてきたアヤカシ等には開拓者の防衛班が対処する。 剣狼の喉元を長柄斧が斬り裂く。 「申し訳御座いませんが、ここから先は行かせる事は出来ません!」 レフィは地面へ転がる剣狼に言葉をかけた後で暗がりの森に目を凝らした。弓術士や遊撃班の仲間のおかげで隊列を狙うアヤカシの攻撃は断続的である。 メイド姿のレフィに最初は違和感を持つ者もいたが、その働きぶりに誰もが納得する。やはり彼女はサムライであると。 発見したアヤカシとの距離に余裕がある時には地断撃を放つレフィだった。 「大丈夫ですよ。私達が付いてますから、安心してくださいね」 海藤篤は剣狼の刃で怪我を負ったもふらさまに声をかけながら治癒符で癒す。輸送担当の民の者がなだめている間に治療を終わらせる。 弓術士と開拓者の奮闘は素晴らしいが、剣狼は神出鬼没である。すべての攻撃をすべて防ぎきる事は難しい。それでも二撃目は許さずに退けさせてゆく。 敵を目視すると海藤篤が雷閃を打つ。さすがに手慣れたもので、状況を察知した弓術士が雷閃で動きの鈍ったアヤカシに矢で止めをさしてくれる。 「もふらさま、大丈夫よ。頑張って」 隊列の先頭を護っていたのは深山千草である。時折、心眼でアヤカシが近くにいないかを探った。 剣狼数体ならば自分一人でも何とかなるが油断は禁物だ。しかし隊列の動きが停まるようならば状況は一気に悪化してしまう。そうなればかなりの物資と、もふらさまをあきらめなくてはならなくなるだろう。 (「ひっそりと近づいているわ。ここは‥‥」) 深山千草はフェルルから借りた呼子笛を吹いた。森の中にひっそりと茂みに隠れている九体の剣狼を察知したからだ。 「おいら、助太刀するよ!」 駆けつけた小伝良が跳ぶと木の幹を両足で蹴飛ばす。激しい音と共に枝が揺れて木の葉が舞い落ちてきた。その様子に驚いたのか、剣狼一体が茂みから姿を現す。 すかさず足を踏み込み、拳を剣狼の額へと捻り込んだ小伝良だ。炎魂縛武を自らの刀に施した深山千草も手伝って剣狼一体が仕留められた。 「大丈夫、怖くありませんから‥ね」 六条雪巳は真っ先に先頭のもふらさまに神楽舞「防」を施した。 隊列の動きを止めようとする剣狼等を仲間達が倒すまでの我慢比べである。輸送を任された民にも声をかけ、激しい戦いが繰り広げられていてもひたすらに前へ進んだ。 後で戦っていたレフィも一時的に隊列前方の戦いに参加してくれる。おかげで停まらずに済んだ。 戦いもやがて儀弐王と配下、開拓者の側が完全に押し始めるのだった。 ●亡鎧 「開拓者達、道を拓きます!」 背後から儀弐王の声が聞こえた遊撃班の上杉莉緒は、自らの喉で同様の意味を仲間達に大声で伝えた。遊撃班の仲間はかなり広範囲に散らばっていたからである。 遊撃班に加勢してくれたのは儀弐王と配下の陽徳、そして防衛班からレフィも駆けつける。 儀弐王と陽徳が弓を引き、アヤカシの群れに一点集中で矢を放ち続けた。やがて群れの中に一筋の道が現れる。 まさしくそれは亡鎧に至る道であった。 八十神、佐竹利実、フェルル、レフィは亡鎧に向かって駆け抜ける。 物資を載せた荷車二十両と遊撃班がアヤカシと戦っている場所では、かなりの距離が開いていた。 遊撃班との戦いから自由になった剣狼等が隊列を襲おうとしても、それなりの時間がかかる。加えて防衛班の仲間と儀弐王の配下が隊列の護衛に残っているので、心配はいらなかった。 剣狼の指揮を執る亡鎧を倒す事こそが戦いを終わらせる近道である。 亡鎧は開拓者達の動きに気づいたがもう遅かった。放たれた衝撃刃が先頭を走る八十神の胸元を捉える。 八十神は奥歯を噛みしめながら一旦立ち止まったものの、精霊剣によって青白い光を放つ大斧を振り下ろした。その衝撃は亡鎧の額へと届く。 仲間達は足を止めずに亡鎧へ迫っていた。 佐竹利実はわざと亡鎧とすれ違ってから振り返って背後をとる。亡鎧の気を引くのが一番の目的だ。そしてわざと空振りの攻撃を仕掛けて亡鎧の逃げ道を塞いた。 さらにフェルルが何度か刀を交えると亡鎧に大きな隙が生じる。 レフィが勢いよく振り回した長柄斧が亡鎧の腹へ深々と突き刺さる。八十神も辿り着き、亡鎧の肩口へと大斧を深く食い込ませた。 こうなれば止めまで至るのはすぐである。 亡鎧が倒された後の剣狼の群れの動きは大したことはなかった。 すべてのアヤカシを倒した訳ではないが戦いの決着はついた。わずかな数だがアヤカシが撤退し、儀弐王と配下十一人、そして開拓者達の勝利で終わった。 怪我は治療を得意とする開拓者によって癒される。輸送に携わった民やもふらさまも含めてだ。 荷車に少々の破損はあったものの、物資のほとんどは無事。もふらさまも回復可能な怪我を負った程度で済んでいた。 「とても助かりました。では、あらためて。わたしは儀弐王、この理穴を治める者です」 儀弐王が自ら名乗り、配下の十一人もそれに習う。開拓者側も自己紹介をした。 儀弐王と配下十一人は、そのまま立ち去ってゆく。事態がひっ迫している様子がうかがえた。 開拓者達は荷車二十両の行き先である村まで同行する。 数日を村で過ごして身体を休めてから、開拓者達は神楽の都へと戻るのであった。 |