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■オープニング本文 約一年前、直少年が住んでいた村は狂骨と呼ばれるアヤカシの群れに襲われてすべてが灰と化した。 その際に姉を目の前で殺されたのきっかけにして直の抑えていた精神の箍が外れる。呼び覚まされた志体持ちの能力で次々と狂骨を粉砕。しかし途中で力尽きて気絶する寸前、直は炎の中に立つ巨大な狼を目撃する。再び目を覚ました時には遠くの草原に転がされていた。 その後、直は志体持ちの血筋を欲しがっていた村からほど近い町に屋敷を構える跡取りがいないサムライ桔梗家の養子になる。改めて桔梗 直祐と名乗るようになった。 そして現在、姉の敵討ちを密かに誓った直祐は刀剣術の腕を磨くべく開拓者として神楽の都で暮らしていた。 開拓者として受けた最初の依頼は理穴中部の山奥でのアヤカシ退治。故郷の村を襲った同じ系統のアヤカシであり、依頼者の境遇も自らのものとよく似ている。直祐は同じ依頼に入った仲間達と協力して狂骨を殲滅。依頼を完遂した。 それからしばらくが経ち、直祐の故郷の村跡にほど近い集落で巨体な狼が娘を攫う事件が起こる。だが開拓者達は状況の不確かさから疑問を抱いていた。 二ヶ月前、欲望をたぎらせた集落長の長男が画策し、娘だけを残して彼女の家族を死に追いやっていたのである。娘は集落長の家屋で下働きをするしか生きる道が残されていなかった。 集落長の長男が娘を襲おうとしたところを巨大な狼が助けたのが真相だ。実は亡くなったと思われた家族のうち、娘の兄は巨大な狼『流星』に助けられていた。流星がケモノなのも判明する。 欺いた集落長と長男は開拓者達によって取り押さえられ、官憲に引き渡された。 だが後日、大事件が発生する。新しい長が決まる前に集落が空賊に襲われた。 まとめ役を欠いた形で集落は右往左往するしかなかったが、駆けつけてくれた流星のおかげで空賊を撃退。怪我人こそ出たものの死者は一人もなかった。 逆恨みした空賊が集落の子供と流星の子狼を誘拐したものの、開拓者達によって取り戻される。空賊に引き渡しを要求されていた流星も無事に済んだ。 ある日、直祐が住む神楽の都にある長屋へと訪問者がやってきた。 武天の田舎からやってきた義理の妹『美希』は来た早々に説教を始める。しかし両親に黙ってやってきたことが判明して形勢逆転。直祐はギルドに依頼することで精霊門を利用し、早くに美希を送り届けることを思いついた。 美希に依頼を出させて数日後。直祐も他の開拓者と一緒に美希を護衛して、久しぶりに武天の田舎『鶯町』へと帰郷した。 「不穏な空気が流れているのだ。直祐よ」 「私は大丈夫と思うのだけれど‥‥」 その際、直祐は両親と三人で話す機会を得る。 証拠は何もないものの、三年前のアヤカシに襲われた際と同じ嫌な予感がして仕方がないと父が心配を吐露する。母は呑気というか、気にしていない様子だ。 三年前の襲撃事件を直祐は当然のことながら経験していない。その頃は近郊の村で元々の家族と暮らしていたからである。 (「もし父がいうことが本当ならば‥‥いや、単なる勘に過ぎないのだから‥‥」) 無事に美希を送り届けて神楽の都へ再び戻った直祐だが、このときの会話が脳裏にこびりついて忘れることが出来なかった。 そうこうするうちに一通の手紙が直祐の元に届けられる。 それは先日、護衛して送ったばかりの美希がしたためたもの。手紙の内容はギルドに依頼したので是非に参加して欲しいといったものであった。 「どうも余計なやり方を教えてしまったらしい‥‥」 性格的に無視することが出来ない直祐は、神楽のギルドを訪ねて掲示板に張り出された依頼の数々を確認した。 各地の支部で受け付けられた依頼は、風信器と呼ばれる巨大な施設によって神楽の都のギルドへと伝えられる。それらを開拓者が確認して参加するといった形が通常の依頼の流れといえる。 美希が武天此隅で出した依頼も遠い地の神楽の都のギルドにちゃんと張り出されていた。神楽の都で適当に簪を十本購入して、武天鶯町の桔梗家まで届けて欲しいとの内容である。 「こんなお使いのようなものをギルドの依頼にするなんて」 自分をまた鶯町へと呼び戻そうといった魂胆見え見えの依頼内容に呆れる直祐であったが、放っておく訳にもいかずに手続きを行う。 この時、誰も若い娘の奔放な依頼が町の窮地を救う光明となっていることに気づいてはいない。 鶯町に迫る危機。 直祐が自らに誓った姉の敵討ち。 どちらも狂骨と呼ばれるアヤカシが関連する。依頼を受けた開拓者達が鶯町へと辿り着いた直後、事態は急変するのであった。 |
■参加者一覧
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ローゼリア(ib5674)
15歳・女・砲
正木 雪茂(ib9495)
19歳・女・サ
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰
島津 止吉(ic0239)
15歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●雪の鶯町 武天の田舎、鶯町を含む一帯は降りしきる雪で白く染まっていた。主に歩いてきた開拓者一行は宵の口にようやく桔梗家の屋敷へと辿り着く。 桔梗家は直祐の養子先である。そして今回の依頼は直祐の義理の妹である美希が出したものだ。 神楽の都で簪を十本見繕って購入し、桔梗家にいる自分のところまで届けて欲しいとの内容。ようは直祐を屋敷に連れてくるための口実といえた。 「ふうー、やっと着いた、さすがに疲れたど」 島津 止吉(ic0239)は厩に霊騎・紅花を預けてから仲間達が集う部屋を訪れる。畳の上に腰を降ろして体中から力を抜く。他の朋友も同様に厩で休ませていた。 「かんじきが役に立ったでしょ♪」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は火鉢に両手をかざしながら笑顔を振りまく。 彼女が気を利かせてかんじきを用意してこなければ雪中での立ち往生もあり得た。少なくとも体力はもっと削られていたはずである。 「かんじきは助かった。それでも雪が積もっていると進みは遅くなるものだ。無事にたどり着けてよかったな」 正木 雪茂(ib9495)は部屋の中にあっても『片鎌槍「北狄」』を肌身離さず持ち歩いていた。普段ならこのような無粋な真似はしないのだが今回は理由がある。 神楽の都で簪を買い求める際に直祐が話してくれた。故郷の地にいる彼の父親が不穏な空気を感じて心配してたと。フェンリエッタ(ib0018)の言葉を借りるならば『虫の知らせ』というやつである。 何の証拠はないものの、正木雪茂を含めて何名かの仲間は警戒を強めていた。 「それにしてもあなたの妹は困った人ですことね。まるで誰かを呼び戻したいような、そんな依頼ですの」 ローゼリア(ib5674)は半目を閉じて直祐に話しかける。 「もう、からかわないでくださいよ」 これを話題にすると直祐は必ず顔を赤くして背中を向けた。 ローゼリアを含めた女性陣に簪選びを手伝ってもらった手前、直祐はしばらく頭が上がらないようである。 「そういえばいいのかな? 会いにいかなくても。今日戻るって伝えてあるなら、きっと妹さん待っているはずよね?」 ふと思いついた様子のフェンリエッタに直祐がさらに顔を赤くした。まるで茹でたての鮹のように。 「ええ‥‥まあ、その夕食を頂いた後でもいいかなと。もう外は真っ暗ですが」 直祐が小さな声でフェンリエッタに答えていると遠くから足音と共に女性の大声が。 「お兄さま! 直祐お兄さま!」 廊下と部屋を隔てる襖がぴしゃっと開けられると直祐の妹、美希が姿を現す。 「戻って来られたのならどうしてすぐに私の元へ挨拶に来ないのです!」 「まあ、なんだ‥‥。ほら、簪だ。注文の十本。どれも綺麗だろ?」 「何て艶やかな色合い‥‥いえ、そうではなくて!」 「今、行こうと思っていたところなんだ」 直祐と美希のやり取りを聞いていた一同は吹き出しそうになるのを必死に堪える。 「あたしリィムナ! あなたが美希さん? よろしく♪」 「よ、よろしくおねがいします」 リィムナが助け船を出してくれてようやく直祐は美希の詰問から解放された。 「ここって素敵な温泉があるって前に来た人に聞いたんだ♪ 後で入れるかな?」 「もちろんですよ」 リィムナと美希のお喋りが続く中、緋乃宮 白月(ib9855)と杉野 九寿重(ib3226)の二人は部屋から廊下へと出て雨戸の隙間から外を眺めた。真っ暗で何も見えなかったものの、不安がそうさせたのである。 「気休めかも知れないですけど、夜回りをしようかなと」 「直祐が話していた仇と遭遇したときには呼子笛を鳴らすつもりです」 緋乃宮と杉野が今夜について相談していると突然に屋敷の外から半鐘の響きが飛び込んできた。二人は雨戸を開けて耳を澄まして音の方角を確かめる。仲間達も次々と廊下に。その中には美希の姿もあった。 「‥‥‥‥‥‥この鳴らし方は‥‥アヤカシの出現を意味しています」 美希の呟きにその場の全員が激しく瞬きをした。 半鐘が示すのは鶯町の東側。ちょうど町の中を通る川の上流にあたる。 約三年前、川に浮かんだ丸太にしがみついたアヤカシが鶯町まで流れてきて暴れたという。それと同じことが再び起ころうとしていた。 「私は父上の部屋に行って相談するつもりだ。美希は母上とこの屋敷に隠れているんだ。余程がない限り、外へ出てはいけないよ」 「お兄さまはどうなさるおつもりで?」 直祐は『守る』と美希に告げるのであった。 ●骨のアヤカシ 雪積もり降りしきる真夜中、町の東には霊騎を連れてきた島津止吉と正木雪茂が先行した。 残りの開拓者は屋敷へと留まる。川の上流のみだけでなく他の方面への対処も必要だからである。 町の長は戦闘に長けているわけではなかった。 このような場合、地元の名士たるサムライの桔梗家の出番といえる。事前に現在の当主である直祐の父が陣頭指揮を執ることとなっていた。 半鐘の音を読み解くと東方面の狂骨は二十五体もいるようである。 「直祐よ、この数どう考える?」 屋敷の一室。父に訊ねられた直祐は開拓者として依頼に参加した日々から、この一帯の骨アヤカシの増加は明らかだと答えた。三年前に鶯町が襲われたときは狂骨五体だったようだが、五から十倍に膨れあがっていてもおかしくはないと。 そのすぐ後で直祐の父は呼び出しにきた同心達と共に番所へと向かった。 東の襲撃に対処してから各方面に向かうのか。それとも逆の順がよいのかは考えが分かれるところである。 すべての方面は複数の櫓によって見張られている。 町を取り囲む土塀の頑丈さは確かだ。アヤカシでも容易く突破出来るほどの柔な造りはしていなかった。しかしアヤカシと一般人が戦うのは想定外というよりも最初から勝負にならない。だが現在、鶯町には直祐を含めて志体持ちの開拓者が複数滞在している。これは不幸中の幸いといえた。 「‥‥決めました」 父との話し合いを思い返していた直祐は仲間全員に東へ現れた狂骨集団の対処を願う。 島津止吉と正木雪茂を追いかけるように残った開拓者全員で東方面へと急いだ。 開拓者一同にとって狂骨の他にも敵が存在する。それは雪だ。 足をとられて移動に普段の倍以上の時間がかかり、さらに寒さのせいで手足を悴ませる。それでもたいまつを掲げてかんじきを履いた足で白い息を吐きながら雪上を走った。 「紅花、まっことはよう走れい! しゃれこうべじゃ、どくろの軍勢を今一度黄泉へ押し返してやるんじゃ!」 「頼むぞいかづち! 町の東端はもうすぐだ!!」 島津止吉と正木雪茂は自らが駆る霊騎を鼓舞した。片手に手綱、反対の手には松明を握り締めて。 霊騎であっても積雪は障害になりうるのだが、それでも徒歩よりは確実に速い。まもなく鶯町東方面にある川の上流へと辿り着いた。 「こりゃ凄まじい有様じゃのう」 「亡者の行進といったところか」 島津止吉と正木雪茂は土手の上から川の様子を見下ろす。 暗いながらも櫓の篝火のおかげで様子が見て取れた。 川底に打たれた多数の杭によって町中へと流れ込もうとしていた丸太が多数引っかかっている。間抜けなことに丸太へ掴まっていた狂骨も同じく。 川の水量は少なく深さが大したこともあって、狂骨共は流れにのることをあきらめて次々と川岸へとあがり始める。 両岸の土手は下から簡単に登れない蔵の鼠返しのような特殊形状になっていた。以前の教訓を活かして準備されていたものと思われる。 それでも町中の川すべてそのようになっているわけではない。下流に移動するうちにただの土手となる。その狭間となる川岸に島津止吉と正木雪茂は下りた。島津止吉が北側、正木雪茂が南側の岸へと分かれて。 しばらくすると狂骨が一体、また一体とかたかたと骨を鳴らしながら下流方面へと歩いてくる。 「チェエエストオオオオオ!!!」 最上段に構えた『太刀「鬼神大王」』を振り下ろす島津止吉。鎧ごと刀を手にしていた狂骨の左胸部を斬り落とした。 こうなれば後は簡単である。首を刎ねて倒し、次の狂骨へと備えた。 「たとえ内臓ちぎれようとも、街へはいかせん! しゃれこうべども!!」 血を拭うように太刀の瘴気を払い、島津止吉は暗闇の向こうを睨む。骨が鳴る音は未だ続いていた。 正木雪茂の戦いも始まる。 「桔梗殿の仇討ち‥‥いや、町を守るために! 我こそは武天国が住人、正木雪茂! アヤカシどもよ、いざ!!」 片鎌槍の柄を肩と首に当てて一回転させた正木雪茂は迫る狂骨へと突進する。相手が仕掛けてきた刀を弾き、そのまま片鎌槍の尖端を敵胴体へと突き立てた。そのまま大きく振り回して片鎌槍を抜こうとすると、狂骨の身体が耐えられずに砕け散る。 島津止吉と正木雪茂が戦闘を開始した十分過ぎに追いついた仲間達が加勢した。 (「直祐さんの大切な場所です。なんとしても護り抜きましょう」) 緋乃宮は腰を屈め気味に両足で踏みしめる八極天陣の構えで狂骨に立ち向かう。 川岸に雪は積もっていたものの、それほど深くはなかった。迅鷹・黒陽と同化して強く雪面を蹴って移動する。 緋乃宮は土手の上へ登ろうとする狂骨を優先して『黒夜布「レイラ」』で斬り裂いていった。 「直祐、お願いします!」 「わかりました!」 杉野が心眼で狂骨の分布を把握し、それを参考にして直祐は咆哮を轟かせた。 人家へと向かうとしていた狂骨共が次々と直祐へと振り返る。自らを囮にして敵を逃がさない策といえた。 杉野は紅蓮の炎をまとわせた『野太刀「緋色暁」』にて狂骨を次々と切断。杉野の足下に散らばった骨が瘴気の塵へと変化してゆく。 鷲獅鳥・白虎も真空刃で加勢してくれる。ただ雪のせいかわからないが、空を飛ぶことは適わなかった。 フェンリエッタが雪面を蹴って土手を一気に駆け上る。狂骨の先回りして振り向き様、『殲刀「秋水清光」』の刀身から雷電を放った。 輝く狂骨は燻る煙を立ち昇らせながら崩れる。 「みなさんはそこで狂骨が住居に向かわないか見張ってください。特に放火に注意してもらえると‥‥。よろしくお願いしますね」 フェンリエッタは土手の上に集まっていたサムライ達に一言かけてから戦いの場に戻った。 混戦は激しく続いた。 到達する狂骨の数は増加していたが、それでも踏みとどまれたのは遠隔攻撃で事前に数を減らしてくれた仲間の力が大きかった。 「まさか、こんなところでアヤカシに出会うとは思ってなかったのですの」 ローゼリアはそう呟きながら寒風の中で『ピストル「アースィファ」』の銃口を輝かせる。親友の杉野を死角から狙う狂骨の頭蓋へと弾を叩き込んだ。 混戦の中だと射撃は使いにくくなるものだが、ローゼリアにはクイックカーブと呼ばれる曲射を身につけていた。大きく弧を描きながら狂骨を粉砕してゆく。 「私をただの砲術師とは思わないことですの」 迫る狂骨に向けてローゼリアが高く跳んだ。そして両足を揃えて狂骨の胸元へと蹴りを食らわせる。敵が怯んだ隙にすたこらと距離を稼いでから再び射撃に勤しんだ。 リィムナもまた遠距離攻撃で狂骨を倒していった開拓者だ。 「たいまつで明るいから楽勝だね♪ よし!」 リィムナのアークブラストによる電撃は非常に遠くの狂骨にも届いた。 このように便利な魔法でも目視できなければ役に立たない。 町の人々が土手の上から松明や篝火で戦いの場となっている川岸を照らしてくれているおかげといえた。白雪による反射も大いに役立っている。 張り切るリィムナは距離によってウィンドカッターと使い分けた。仲間へと近づく前に倒しきった狂骨も数多い。 突然に迫る風切音。川面に激しい水しぶきが跳んだ次の瞬間、遠吠えが一帯を支配する。 「流星!」 直祐が見上げたのは恩のあるケモノ大狼『流星』だ。 開拓者一行は流星に挨拶してから鶯町を訪れている。そのときに直祐が話した父親の不安を覚えてくれていたのだろう。 『まかせろ。他にも骨のやつら、いるはず』 東側の狂骨は残り四体のみ。後かたづけを流星に任せて開拓者達は町の中へと散らばった。 取り囲む土塀を突破して十数体の狂骨は町内へと入り込んでいた。だが遠巻きから追跡していたサムライの面々が開拓者達に居場所を教えてくれる。それに先回りして町の人々を避難させていたので人的被害は今のところ一つもない。 開拓者達は狂骨を退治し続ける。 やがて共に行動していた杉野とローゼリアが赤い鎧を身につけた狂骨を目撃する。 「‥‥直祐がいっていた仇の狂骨にそっくりな外見ですね」 「知らせたほうがよさそうですの」 杉野はローゼリアに頷いてから呼子笛を強く吹いた。その音を聞きつけて仲間達が再集結する。 「あれは‥‥」 直祐の瞳に映ったのは赤い鎧をつけた狂骨。手にしていたのは黒々とした大弓。それだけでなく細かいところにも覚えがある。まさしく村を焼いて姉を殺した狂骨の首領だった。 直祐は仲間全員に視線を送ったあとで太刀を握り締める。そして一直線に駆けた。 戦いそのものは直祐の圧勝といえる。開拓者として過ごした日々がそれだけの実力を直祐につけさせていたからだ。 もしあのときこの力を持っていたのならといった思いが直祐の脳裏を過ぎる。だがそれは適わぬ夢。直祐が前に進むためにはすべてを過去にする必要があった。 粉砕された狂骨が瘴気の塵となって辺りに漂う。残った赤い鎧と黒い大弓も直祐は粉々に破壊した。 雪の降りが激しくなる中、直祐は肩で息をして白い息を吐き続けた。仲間達は静かに近づいて彼の肩に手をかけるのだった。 ●旅立ち 深夜、サムライ達が奔走して町内の安全が確認された。すべての狂骨が排除されたのである。 一旦屋敷に戻って待機していた開拓者達は安心の笑みを浮かべた。疲れた開拓者一行が目を覚ましたのは翌日の午後過ぎである。 ゆっくりと温泉に浸かって食事には宴会のような料理が並べられた。山で獲られたばかりのイノシシ肉で作った牡丹鍋。それに雉焼きも美味しかった。 数日間の滞在で体力などはすべて元通りになる。 一行は神楽の都への帰路に就いた。 「直祐さんはこれからどうするんです?」 道中でさりげなく聞いた緋乃宮の質問に直祐が笑顔で答える。 「両親、美希にも開拓者を続けることを認めてもらいました。あんなにいい人たちと離れるのは難しいだろうっていってましたよ」 直祐の心は晴れ渡っていた。 これから歩む先は未来へと続いていると。 |