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■オープニング本文 ここは華やかなる賑やかな神楽の都。 人が多く集まれば当然商いの幅も広くなる。 二十歳を過ぎたばかりの女性商人は貨物用飛空船に乗っていた時にふと思いついた。 神楽の都は上空から眺めても美しい。海岸線に面していることもあって周辺を回るだけで様々に景色が変わる。これらを観ながらの食事はさぞかし印象深いものになるだろうと。 (「これだわ! 特に男女の逢い引きになんて最高ね」) そこで神楽の都周辺の上空を飛空船で飛びつつ、料理を提供する『空飛ぶ遊覧飯店』の構想を練る。 ただ大きな問題もあった。 飛空船はどうしても揺れるものだ。ゆっくりと食事をするには適さなかった。実際、飛空船乗りが零さずに食べるために苦労している話はよく聞く。 固形物ばかりを出せば解決するがそれでは文字通り味気がない。そこで女性商人は真っ向からの解決に挑んだ。 揺れない飛空船の入手である。方々に話しを持っていたが尽く断られ、ようやく朱藩安州近郊の高鷲造船所が建造を請け負ってくれた。 速く飛べず、また高度にも制限がある。それでも他に比べれば安定度の高い飛空船が目標とされた。 遊覧なので速さや高さはそこそこあれば問題にならない。あまりに酷い天候については欠航すればよい。性能の取捨選択によって食事で客に酒を出しても問題がない飛空船が完成した。 「絶対に人気になるわ!」 女性商人は自信に溢れていた。 しかし苦難というものは不意に襲ってくるもの。しかも他人から見えれば非常に些細なものだったりする。 「オリーブオイルが手に入らない?」 「‥‥探し回りましたが、とても商売するだけの量は手に入りませんでした‥‥」 女性商人と板前の双方が顔を青くする。 提供する料理に使うオリーブオイルがここに来て入手不可能だと聞いて、女性商人は立ち眩みを起こして倒れた。 女性商人が目を覚ましたのは布団の中。申し訳なさそうに板前が側で正座をしていた。 すでに航行初日まで十日を切っている。 オリーブオイルを使った料理を提供する云々については宣伝に利用していて変更は難しい。別の料理を出せば信用はがた落ちに違いなかった。 「困ったときは‥‥開拓者、そう開拓者ギルドだわ」 女性商人は板前に支えられながら開拓者ギルドへと出向く。受付嬢は親身になって、どうすればよいかを一緒に検討してくれる。 開拓者に頼んで精霊門を使って希儀と神楽の都を往復してもらえれば、それだけでオリーブオイルは手に入る。ただ荷物に制限が生じるので多くは運べない。 緊急用としては仕方ないものの、かかる費用が割に合わな過ぎた。そんなことを繰り返せば大赤字で早々に稼業を潰すはめになるだろう。 飛空船輸送での大量一括購入が一番現実的。だがそのための準備にも時間がかかりそうだと女性商人はあきらめの溜息をついた。 「ギルド所有の飛空船を動かせる鍵を持つ開拓者がいますよ。それにたとえ所有していなくても彼彼女達ならば、どこからか借りて輸入を達成してくれるでしょう。あきらめてはいけません」 受付嬢の一言が光明となって女性商人と板前を照らす。 さっそく依頼書を作成。ギルド内の掲示板に張り出されるのであった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
津田とも(ic0154)
15歳・女・砲
多由羅(ic0271)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●オリーブオイルを求めて 深夜、神楽の都の空に一隻の快速船が浮き上がった。 船名は『舞風』。柊沢 霞澄(ia0067)が起動優先権を持つ飛空船である。ギルドで見送りのために待っていた依頼者の女性商人といくらか話した後での船出だった。 「無事に離陸できましたね‥‥。天気を調べてきますので見ていてください‥」 『承知しました』 その柊沢霞澄は機関室で宝珠の管理を担当する。 からくり・麗霞に宝珠の監視を任せて狭い通路の小窓から外を眺めた。そしてあまよみで天候を確認。わかるのは近場でかつ三日後程度に留まるが、定期的に記録をとっていけば帰りの際に役立つはずである。 「霞澄〜。今回の旅もよろしく頼むな〜」 あまよみが終わって記録を取り終わった後、柊沢霞澄はルオウ(ia2445)と通路ですれ違う。 「はい‥。どちらに行かれるのでしょうか‥?」 「空いた時間に船倉にあるシュバルツドンナーの調子を見ておこうと思ってよ。霞澄の船で行くんだから、気合いれねえとなっ! 機関室にも手伝いに行くからよろしくな〜」 手を振りながらルオウが角を曲がって行く。 柊沢霞澄は機関室に戻り伝声管を使って操縦室に天候についての報告を終える。 まもなく津田とも(ic0154)がからくり・銃後と一緒にやってきた。 「交代で機関手を務めさせてもらうつもりだ。基本を教えてもらえるか?」 「助かります‥。まずはここなのですが――」 柊沢霞澄は津田ともに宝珠の観察の仕方を教える。その間に沸かした珈琲を一緒に楽しんだ。 操縦室では羅喉丸(ia0347)が操舵を担う。離陸を無事に終えて今は一安心の時間だ。 「開拓者が飛行船を所有するか。昔は考えだにしなかったな」 主操縦席に座る羅喉丸はなるべく高度をとった上で快速船・舞風を飛ばす。星明かりのみの夜間なのでもしもの墜落や山などへの衝突を事前回避するためだ。 『御前がそうやっているのも不思議なものじゃな』 副操縦席には人妖・蓮華が腰掛けていた。とはいえとても小柄なので座るというよりも卓の上に乗っているような感じである。いつもは羅喉丸の肩に座ったりしている蓮華だが、さすがに操船中は控えていた。 「進路このまままっすぐよろしくね〜。それと北西からの風だね」 「了解。流されないようにしないとな」 航海士を引き受けたリィムナ・ピサレット(ib5201)は羅針盤と地図、そして星の位置で航空路を確かめる。 羅喉丸はリィムナの指示通りに快速船・舞風を飛ばした。 操縦室にはフレイア(ib0257)の姿もある。 「まだ希儀が発見されて大した間もないのに、オリーブオイルがこれほど根付くとは驚きを感じずにはいられませんね」 操舵手の交代要員として快速船・舞風の癖を予め把握しておこうといった考えからだ。納得したら交代に備えて休憩に入るつもりでいた。連れてきた朋友、からくり・ヴァナディースに話しかけながら操縦室の各部を点検する。離陸前にも行ったが念のために。 多由羅(ic0271)も操舵手の一人だが、今は船倉で甲龍・風巻の世話をする。同じく龍を連れてきていた露羽(ia5413)とお喋りしながら。 「依頼者の女性からオリーブオイルについて直接お話しを聞きましたが、急げばなんとか間に合いそうですね」 露羽は藁束で駿龍・月慧の身体を撫でてあげる。 「オリーブオイルはあちらの料理の王道と聞きますね。初めにオリーブオイルをかけ、次にオリーブオイルをかけ、最後にオリーブオイルをかけると聞きます」 多由羅のオリーブオイルに対する冗談で露羽が思わず吹き出した。 そんなことをする人がいるはずがないと。いや世界は広いのでそのような料理人もどこかにいるかも知れないと多由羅は微笑むのだった。 ●オリーブオイル探し 行きの航空路は順調であった。 操舵手、機関手は定時に交代し、航海士は追い風を選んで快速船・舞風を速く飛ばす。斥候役は時に先行して危険がないかを確認する。 一つの担当に限らず機関手と斥候役を務めたりなど兼任が行われた。休憩と睡眠に無理がない範囲でだ。 視界が悪くなる夜は慎重に、逆に昼は船が壊れない巡航の最大速度を維持する。おかげで二日目の午後過ぎには希儀の羽流阿出州へと着陸を果たす。 「かなり賑わっているな〜。あの果実の山ってオリーブかな?」 「聞いてみましょう。オリーブオイルも扱っているかも知れないし、オリーブの実そのものも少しは欲しいところでしょうから」 ルオウと露羽は一緒に露天の店を覗いた。 「私は事前にオリーブ農園の場所を調べておきましたので、そこに向かってみるつもりです」 フレイアはからくり・ヴァナディースと一緒に人混みへと消える。 「まずは評判のオリーブオイルを見つけないとね〜♪ オリーブの質や絞り方によって味が変わるって聞いたよ」 リィムナは下調べをしてからどの店からオリーブオイルを買うか決めたいという。 「護衛役に扮してつき合います。交渉はお任せしますから」 「俺も一緒に行こう。特に品質の悪いオリーブオイルを掴まされては信用に関わるからな」 リィムナに津田と羅喉丸は同行することになる。オリーブオイルはこの地で営む料理人に聞くのが一番だといってまずは食べ歩きからだ。 「私は人混みが苦手なので‥お任せしますね‥。舞風の点検やお掃除をしたいと思います‥」 「私も行きたいところですが船も心配です。お土産、期待しています」 柊沢霞澄と多由羅は快速船・舞風に残ることにする。多由羅は仲間の何人かが戻ってきてから街を散策したようだ。 出かけた者は試供用として一瓶か二瓶のオリーブオイルを手にして戻ってくる。そして日が暮れて晩餐が始まった。 「お、うまそうだなー」 漂ってきた香りに腹を減らしたルオウが唾を呑み込んだ。 「たくさんありますから‥」 調理を手伝った柊沢霞澄が運んできた皿を卓へと並べた。 オリーブオイルの味がよくわかる料理として茹でた小麦粉麺に絡める料理をみんなで頂くことになった。味を引き締めるために刻んだ鷹の爪を散らして出来上がり。 複数の大皿に麺の山。各自、小皿に取り分けて味見をする。 「一言でオリーブオイルといってもいろいろと違うもんだな。俺はこっちが好みだが」 「そちらと悩みますが、私はこちらの二番の数字が振られた皿を推しますね」 卓を挟んで向かい合って座った羅喉丸と多由羅が味の感想を述べあった。 試食は贔屓がないよう誰が持ってきたオリーブオイルなのかを伏せた形で行われた。 「これってきっとあたしたちが買ってきたオリーブオイルだよ。味見したからわかるよ」 「あの辺り、柄の悪い輩が屯っていたのでもう一度行くときにはより注意が必要だな」 リィムナと津田ともも次々と試食をこなす。 「どれも美味しく感じます。あとは好みの問題だと感じます」 「候補があがったら世間の評判をもう一度洗い直すべきですね。品質の一定した農園に頼みたいところです」 露羽とフレイアも味見。順位を決めてゆく。 「ふー、食べた食べた。おっと、美味しかった順番はっと‥‥う〜ん、悩むな」 満腹のルオウが最後の投票を行う。 結果、三位までのオリーブオイルが候補となる。翌日にあらためて評判を聞き回った上で二カ所の農園を選んだ。 一カ所に絞った方が大量仕入れになるのでより安く手に入るのだがそうはしなかった。新規の商い故にまだまだ不安定なので突然の廃業もあり得る。もしもの入手不可を考えてのことだ。また農園同士が切磋琢磨してくれた方が消費者にとっても都合がよい。 購入したオリーブオイルは快速船・舞風で運べない量ではなかった。だが船体重量が増えれば戦闘が発生した際に無理が利かなくなる。 実は柊沢霞澄の他にルオウとフレイアも起動宝珠を所有していた。いざとなれば羽流阿出州ギルドで飛空船を借りることも可能だがそうはしなかった。ルオウの案を採用して他の輸送飛空船に預けることにする。 約束を交わした輸送飛空船も神楽の都行きである。まとまって移動した方が襲われにくいからと説得するとただでオリーブオイルの一部を載せてくれた。 三日目の夕方。快速船・舞風と預け先の輸送飛空船・鷹眼は高く空へと舞い上がる。目指すは神楽の都であった。 ●忍び寄るもの 何かしらの襲撃を警戒していた開拓者達は比較的早くに敵の存在を意識し始める。 羽流阿出州は希儀における二大拠点だ。開拓精神目覚ましく空を見上げればいつでも飛空船が観られるといっても過言ではない。夜になっても宝珠の照明灯がいくつも軌跡を描いていた。 快速船・舞風と飛空船・鷹眼が飛び立った際にもこれから羽流阿出州に着陸しようとする何隻かとすれ違っている。わずかに前後して飛び立つ飛空船もあった。 天儀への航空路は大まかに決まっているので当然並行して飛ぶことも多い。もちろん風向きの解釈の違いから航空路がずれることもある。 「おかしい‥‥よね」 備え付けの望遠鏡で覗き込むリィムナが呟いた。 後方からついてくる飛空船は三隻と思われた。まったく同じ航空路を飛んでいても不思議ではないものの、三時間にも渡って飛空船間距離が一緒だと妙だと。 大抵は離れてゆくか、追い抜いてゆくかだ。 照明用の宝珠も最低限しか点けておらず、なるべく舞風側に気づかれないようにしている節も感じられる。 リィムナは操縦室内にいた仲間達と相談した。その上で後方から追いかけてくる飛空船三隻を疑いが晴れるまで敵と認識することに。 休憩中の仲間を全員起こして警戒態勢をとる。 まずは駿龍・月慧に乗った露羽が飛空船・鷹眼へと伝令に向かう。 「現在追跡されていますがご心配なく。ただ事前の約束通りに指示には従ってもらえるでしょうか?」 露羽は飛空船・鷹眼の船長に説明する。光や音による連絡方法ではなく、直接出向いたのは敵飛空船に気づかれると判断してのことだ。それだけ敵飛空船三隻との距離は短かった。 「蓮華、俺は操舵から離れられない。甲板で待機して傷ついた仲間が戻ってきたときに回復を頼めるか?」 主操縦席に座る羅喉丸は正面を向いたまま予備席にいた人妖・蓮華へと話しかける。 『誰に言っておるのじゃ、羅喉丸。お主は操舵に集中するがよい』 そういって人妖・蓮華は操縦室から飛び出してゆく。 甲板には滑空艇・マッキSIで飛び立つリィムナ。滑空艇・シュバルツドンナーに乗り込んだルオウ。甲龍・風巻に騎乗して様子を窺う多由羅の姿があった。 連絡に向かった駿龍・月慧の露羽も加えて開拓者の空中戦担当が夜空に舞う。 空中戦担当が飛び立った後の甲板にはフレイアとからくり・ヴァナディース、津田ともとからくり・銃後、そして人妖・蓮華が待機する。接近された場合、甲板からが敵を一番狙いやすいからだ。 「高い出力を維持しながら安定させなくては‥‥」 機関手は柊沢霞澄とからくり・麗霞が担当した。 依頼目的がオリーブオイルの輸送なので戦闘は出来る限り避けるべきである。柊沢霞澄は自分に優先権がある快速船・舞風の限界ギリギリを引き出そうと調整に余念がなかった。 「少し揺れますが普段よりも速く飛んでも大丈夫です‥。その代わりに――」 「わかった。そこは抑えて飛ばそう」 柊沢霞澄は密に操舵手の羅喉丸と伝声管で連絡をとる。幸いに飛空船・鷹眼は快速船・舞風と同程度の速さで飛ぶことが出来た。 ただ深夜なので極度に視界が悪い。空の上とはいえどこまで速く飛べるかは先行する飛空船・鷹眼の操舵手の精神力が試される。 快速船・舞風は後方で殿を務める形となった。 徐々に速さを増していくうちに後方の敵飛空船三隻も気づいたようである。 敵飛空船三隻はかなり速さに特化していた。快速船・舞風と飛空船・鷹眼のどちらとも速い船だが、それでも敵飛空船三隻は急速に距離を縮めてきた。 敵飛空船三隻がどこで戦いを仕掛けたかったのかはわからないが、今でないことは確かであろう。この時点で開拓者側が敵に対し暗黙の先手を打ったといえる。 後方に設置された舞風の照射用宝珠をからくり達が動かした。すると敵飛空船三隻が闇の中からうっすらと姿を現す。 それぞれの船体に描かれた意匠から各敵飛空船を鮫、飛魚、河豚と呼称することになる。 「真っ暗闇にこいつはきついだろ?」 大きく弧を描くルオウの滑空艇・シュバルツドンナーから煙がまき散らされた。宝珠から吹き出した練煙幕だ。 煙に包まれた敵飛空船三隻は直進するのに精一杯。その間に舞風と鷹眼は速度をあげる。進行方向をずらさないのはこれから通過する嵐の壁があった空域を早めに抜けるためだ。戦いを避けようと迂回してしまうと、結局は狭まった航空路前で待ち伏せされる危険性があったからである。 一回目の霍乱に続き、二回目の練煙幕を噴射するルオウの滑空艇・シュバルツドンナー。 敵飛空船三隻は接触して共倒れしないよう、それぞれに距離を取り始めていた。それはつまり敵側の戦力分散に繋がる。 「待っていたぜ!」 ルオウは船首を敵飛空船・鮫へと向けて加速させた。強攻着陸を駆使して火花を散らしながら甲板へと下りる。そして怯まず一気に銃砲を構えた空賊との距離を縮めた。 隼人による先制攻撃で空賊を次々と壁へと吹き飛ばす。そして構わずに奥へと突き進んだ。 「船長はお前っぽいな!」 「何だ貴様は!」 やけに高価な生地で作られた服を身に纏う男を空賊船長と定めて『殲刀「秋水清光」』を振るう。その際に剣気で威圧した。 空賊船長は志体持ちのようでルオウの一太刀については受けきる。 しかし怯んでしまったようでその後は船内を逃げ回るばかり。部下の空賊に八つ当たりする非常に醜悪な姿を晒す。 (「もうこの船で霞澄の舞風に追いつくのは無理だろうな。それにこのままでは俺もそうなっちまう‥‥」) 目的を果たしたと判断したルオウは急いで滑空艇・シュバルツドンナーへと戻った。悪戯されていないのを確認した上で打ち込んだ杭を抜いて敵飛空船・鮫から離れる。 風に飛ばされた木の葉のように宙を漂いながらルオウは快速船・舞風がいるはずの方角を見定める。そして弐式加速を使って追いかけた。 時を遡ってルオウが敵飛空船・鮫に突入しようとしていた頃、滑空艇・マッキSIに乗るリィムナは弐式加速を使って敵飛空船・河豚と並んで飛んでいた。 「これなら近づきやすいね」 リィムナは銃弾の死角になるよう敵飛空船・河豚の操縦室付近へと近づけて『フルート「ヒーリングミスト」』を唇に添える。 吹奏したのは夜の子守唄。 これによって敵飛空船・河豚の操縦室内の者達は睡魔に襲われて力無く瞼を閉じようとする。当然、敵船体は妙な挙動を取り始めた。 リィムナは足止めさえ出来ればよいと考えていた。 暴れる敵飛空船・河豚の動きに巻き込まれないよう滑空艇・マッキSIは離れた。リィムナは完全に失速するのを見届ける。 「あの状態ならもう無理だよね」 後方に遠ざかってゆく敵飛空船・河豚。振り返るのをやめたリィムナは滑空艇・マッキSIの風宝珠を全開にする。弐式加速を使えば快速船・舞風に追いつけるからだ。 ルオウとリィムナがそれぞれに仲間達との合流をはかろうとしていた頃、二体の龍が快速船・舞風に迫る敵飛空船・飛魚の接近を阻止していた。 「船には近寄らせませんよ!」 露羽の指示によって駿龍・月慧が翼を大きくはためかせる。 ソニックブームの衝撃波に狙われながらも敵飛空船・飛魚は避けた。より正確にはフェイントをかけることで的を絞らせてくれなかった。 一見しただけでは露羽が翻弄されているように感じられるもののそうではない。ある程度までしか距離を縮められない敵飛空船・飛魚の空賊側は焦っていた。空賊仲間の飛空船二隻が見あたらないことも含めて。 「アヤカシではなく空賊でしたか。それでもやりようはあります!」 甲龍・風巻を駆る多由羅は真の意味での殿である。 快速船・舞風の後方に位置して飛んでくる砲弾をすべて受けきった。そして機会を窺うために敵飛空船・飛魚の観察を欠かさない。 敵飛空船・飛魚はついに無謀な行動をとる。駿龍・月慧のソニックブームを浴びながら無理に快速船・舞風との距離を縮めようとしたのである。 「行きますよ、風巻!」 多由羅の指示で甲龍・風巻は上昇して敵よりも高みに陣取る。次の瞬間、多由羅による咆哮が響き渡った。敵飛空船・飛魚の進行方向は甲龍・風巻の位置へと引っ張られる。敵の操舵手が咆哮に惑わされたからだ。 甲板で待機していたフレイアはこの機会を見逃さなかった。 「これでまだ飛べるのなら大したものです」 ララド=メ・デリタによる灰色の光球が敵飛空船・飛魚の推進部を抉る。喰われた周囲は灰と化して吹き飛んで綺麗に欠けてしまう。 飛空船の二つ存在する推進部のうちの一つが突然なくなったのである。これで船体の姿勢が保てるはずがない。敵飛空船・飛魚は錐もみしながらどこか明後日の方角へと飛び去ってしまう。数分後に爆発音だけ快速船・舞風に届いた。 そのままの警戒態勢がとれたものの一時間後には解かれて全員が安堵する。 強風ゆえに空中戦闘担当達の甲板への着陸は注意が払われた。人妖やからくり達が垂らされた縄をうまく誘導してくれたおかげで安全に全員が着船する。 天儀に入った時にも鷲に似たアヤカシ十体に襲われたが簡単に片づく。柊沢霞澄がつけていた事前の天候観測が役に立ったのである。 羅喉丸が快速船・舞風をうまく風に乗せて高速のすれ違い様に無傷のまま鷲アヤカシの殆どを葬り去った。 六日目の昼前には再び神楽の都の地を踏んだ開拓者一行であった。 ●感謝 「これだけあれば当分間に合いますし、それに今後の約束も取り付けてくれたとか」 女性商人に感謝された開拓者達は空飛ぶ遊覧飯店に招かれる。商いとして始める前のお披露目として。 もちろん用意されたのはオリーブオイルがふんだんに使われた料理。各種オリーブオイル煮やサラダなど。開拓者達は様々な料理に舌鼓を打つ。 またゆっくりとした気分で普段と違う視点で眺める神楽の都もよいものである。充分に堪能し、帰りにはお土産としてオリーブオイルが手渡された。 最後に繁盛を願って三三七拍子。 開拓者達は笑顔で解散するのであった。 |