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■オープニング本文 朱藩の首都、安州。 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。 去年の今頃、満腹屋の給仕である智塚光奈と姉の鏡子は常連客の交易商人である旅泰の呂の誘いで安州からほど近い竹林を訪れている。 当時、竹林には人に危害を加えるケモノの兎達が出没していた。 開拓者とその朋友が説得し、ケモノ兎達は人を襲わなくなる。さらに呂が竹林の使用権利を得て立ち入りを制限したことも大きかった。 智塚姉妹は今年も呂の飛空船に乗船して竹林にやってきた。護衛とタケノコ掘り要員として開拓者も一緒である。 現地に到着してまもなくタケノコ掘りが始まった。 「なんだか気持ちがよいのです〜♪」 「空気が澄んでいる感じよね。そういえば兎さんたち、どうしているかしら?」 気になった光奈と鏡子はケモノ兎の巣へと向かう。ケモノ兎は土の中で暮らす穴兎であった。 「去年は確か‥‥」 「そうね。巣には子兎がいたとか聞いたわ。実際に確認したのは開拓者の朋友だけど」 光奈と鏡子は巣から離れたところで立ち止まり悩んだ。このまま近づくとケモノ兎達の生活を荒らしてしまうのではないかと。 「あれ?」 一羽現れて、さらにもう一羽。辺りの茂みの中や穴から兎が顔を出す。 『オマエ。マエニキタ』 「覚えてくれていたのです?」 一羽のケモノ兎が代表になって智塚姉妹に話しかける。辿々しい喋りだが、どうやら感謝されているようである。この一年間、とても穏やかに暮らしてきたそうだ。 「どうやら今年は親睦を深められそうですわね。そういえば持ってきた食材の中に人参がありましたわ」 智塚姉妹は後でもう一度訪ねるとケモノ兎に約束してから飛空船の着陸地点へと戻る。そして開拓者や呂の商隊の者達にケモノ兎の現状を伝えた。そういうことならば是非ケモノ兎達と仲良くなろうと全員で向かうことに。 ケモノ兎達はすぐに懐いてくれた。タケノコ掘りも手伝ってくれるという。 「いっぱい採って兎さん達と一緒に楽しむのです〜♪」 光奈が大喜び。 一同は元気いっぱいにタケノコ掘りを再開するのであった。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
倉城 紬(ia5229)
20歳・女・巫
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
江守 梅(ic0353)
92歳・女・シ
山中うずら(ic0385)
15歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●竹林 「もうすぐなのです〜♪」 道案内として先頭を歩いていた智塚光奈は斜面を小走りに駆け上った。 一同も後に続いてあがると竹林内を見下ろす形になる。視界の竹林内に兎がちらほらと。丘を下りきるころにはかなりの数になっていた。 「全体の半分がケモノ兎で残りが普通の兎といってましたわ。もっとも巣の中で休んでいる兎もいるはずなので全部ではないでしょうけれど」 鏡子が歩きながらケモノ兎から聞いた話を一同に教える。兎達に警戒されないようゆっくりとなるべく笑顔で近づいた。 「私たちが掘るのではなく、ケモノ兎さんが筍を掘るのですか?」 「地表に出るか出ないかぐらいのタケノコがやわらかくて美味しいそうなのです☆ そんなタケノコが生えているところを教えてくれるっていってましたですよ〜♪」 倉城 紬(ia5229)と光奈もお喋りしながら一歩一歩前へ。やがてケモノ兎の方から倉城紬の足下に駆け寄ってきた。 「よろしくお願いしますね♪」 『ヨロシク、トモダチ』 倉城紬は膝を折って屈んだ。そして集合の際に智塚姉妹へしたようにケモノ兎二羽へと丁寧に挨拶する。 人妖・穂輔は倉城紬の側で足下の土を手にとって確かめる。それから兎達の住処であるはずの穴を興味深そうに眺めていた。 「挨拶代わりにこれを受け取って欲しいですの」 「あたいからはこれ。皆で仲良く食べてね」 礼野 真夢紀(ia1144)と十野間 月与(ib0343)は兎達のためにお土産を用意してきていた。 甘蘭を持ってきたのが礼野、人参は月与。智塚姉妹も手伝ってどちらも兎達が食べやすいように切ってある。 芝生のように茂る雑草の一面に野菜が入った木箱を置く。するとたくさんの兎達が駆け寄ってきた。取り合いしないよう礼野と月与は木箱から野菜を分け与える。 (「この中には去年会えなかった子兎もきっといるんだよね‥‥」) 月与は一羽に人参を食べさせてあげながらふと遠くに目をやった。すると親兎が二羽の子兎を連れて非常にゆっくりと歩いていた。 「大丈夫ですの」 礼野が親子兎に駆け寄り抱きかかえて月与の側まで運んでくれる。 「や、やわらかい、もふもふ‥‥」 月与は頭につけた兎耳のカチューシャを揺らしながら小兎を抱きかかえた。ほんのりと温かい小兎の感触に思わず声をあげてしまう月与である。 江守 梅(ic0353)は自分に近寄ってきたケモノ兎に話しかけた。 「タケノコ掘りを手伝ってくれると聞いとりますじゃ。よろしゅう頼み申しやすぅ」 『タケノコ、マカセル』 江守梅はさっそく案内してくれるケモノ兎を追いかける。 「おー、喋るウサギかー。鼻、ピクピクさせてかわいいやつだな!」 ルオウ(ia2445)は近寄ってきたケモノ兎二羽を持ち上げると走龍・フロドの背中に乗せた。 「俺はサムライのルオウってんだ、よろしくなー。こっちはフロドだ。こんななりだけど気さくな奴だから安心していーぜ」 ルオウが紹介すると走龍・フロドが小さく啼いた。 『タケノコ、マカセロ、ナカマ』 二羽のケモノ兎は走龍・フロドの背中の上で飛び跳ねながら答えるのであった。 山中うずら(ic0385)と駿龍・つばめのところにもケモノ兎一羽が近づく。 『ミツケル、タケノコ』 「そうか。手伝ってくれるのか」 山中は鍬を肩に担ぎながらケモノ兎が消えた竹林の奥へと分け入る。翼を畳んだ駿龍・つばめは億劫な態度で山中を追いかけた。 フェンリエッタ(ib0018)は図らずもとても人見知りなケモノ兎とにらめっこ状態になっていた。 フェンリエッタが近づくとじりじり退くケモノ兎。嫌われているのかなと思って逆に離れようとすれば近づいてくる。 (「仲良くなりたいのに‥‥」) フェンリエッタが思い悩んでいると首元がもぞもぞする。襟巻きのように首へと巻きついていた管狐のカシュカシュが震えていたのである。 『あるじ気をつけてっ』 カシュカシュが怯えているのには理由があった。 出かける際に叔父から『踏まれたタケノコは一気に伸びて竹になる』といわれて本気にしていた。もちろんからかわれただけで嘘なのだが。 ここに辿り着くまでの間、フェンリエッタはカシュカシュからタケノコを踏まないようにと何度も震え声をかけられている。 冗談よとフェンリエッタが宥めてもカシュカシュは怖がったまま。試しに踏んでも踞ってみようともしなかった。 ここにきてようやく変化が生じる。タケノコを踏んでもなんともないケモノ兎を目撃したからである。 フェンリエッタが左腕を地面に向けて伸ばすとカシュカシュが伝って降りた。 『は、はじめましてなの。かしゅはカシュカシュなの』 まだおっかなびっくりであったがカシュカシュはケモノ兎へとご挨拶。 『‥‥‥‥ヨロシク』 同じくらいの身体の大きさに親しみを感じたのか人見知りのケモノ兎もカシュカシュに挨拶を返す。 「タケノコ掘り、よろしくね♪」 『‥‥‥‥ヨロシク、テツダウ』 ようやくフェンリエッタもケモノ兎と挨拶を交わす。しばらくお話ししてから竹林の奥へと移動するのであった。 ●タケノコ掘り それぞれにケモノ兎を何羽か引き連れてのタケノコ掘りが始まった。 籠を背負った江守梅はゆっくりと進むケモノ兎の後をついてゆく。 地面の殆どは枯れた笹の葉で覆われていた。 大きく育ってしまった状態ならともかく食べ頃のタケノコを素人が見つけるのは容易ではない。それでもケモノ兎は容易く発見してくれる。 江守梅はケモノ兎が跳ねていた場所の笹の葉を退けた。するとほんのわずかだけ穂先を覗かせるタケノコが。 「おぉ、そんな所にもタケノコが隠れておったとは‥‥。流石はケモノ兎たちどすなぁ。このばぁばだけでは、見つけれませんでしたなぁ」 感心しながら江守梅が持ってきた鍬を入れてタケノコを掘り出す。 「土の中に隠れているものは、柔らかいどすからなぁ、そのまま生で食すことも出来ますやろ」 江守梅は質を確かめてから背中の籠へとタケノコを仕舞う。 十分に集まったところで合図の呼子笛を吹くと駿龍・四髭が迎えにやってきた。ケモノ兎にも乗ってもらって帰りは空中から悠々と。集合場所へと戻った時間はわずか数分であった。 その頃、山中は一緒に行動していたはずのケモノ兎を見失って駿龍・つばめと竹林を彷徨っていた。 「タケノコ、どこだ?」 枯れた笹の葉を見つめているうちに山中の姿勢が段々と四つん這いで歩く猫のようになる。その様子を不思議そうに眺めながらつばめが追いかけた。 このときのつばめにはタケノコ掘りそのものがわかっていなかったのである。 「ニャー!」 探して探しても、見つかるのは食べるのが無理な育って固くなったタケノコばかり。 癇癪を起こした山中が両手で地面を掻くと枯れた笹の葉が舞い上がった。つばめは鼻の上にのった笹の葉を興味ない瞳のままふんと吹き飛ばす。 山中が冷静さを取り戻して肩で息をしているところに姿を消していたケモノ兎が再び現れる。後をついてゆくとケモノ兎が一所で連続で跳びはねた。 山中が枯れた笹の葉を退けてみると地面からほんの少しだけ顔を出すタケノコが見つかる。 つばめは山中の指示に従って残っていた枯れ草を鼻先で退けてくれた。とにもかくにも山中は鍬を振るい、収穫一号を手に入れる。 「なんだ、お前タケノコ知らないのか?」 ここで山中は駿龍・つばめがタケノコを食べ物と認識していないことに気づいた。そこで食べさせてあげることに。 タケノコの皮を剥いて手のひらを真っ直ぐにして与える。 つばめは大きな口で受け取って二口、三口で食べきった。龍の瞳が輝いたように見えたので、どうやらタケノコの味を覚えたようである。 それからの駿龍・つばめは非常に協力的になった。ケモノ兎の後を率先して追いかけて山中が辿り着く前に枯れ草を退けてくれる。もう一本だけ食べさせて後はお楽しみにとしてつばめを躾る山中である。 フェンリエッタは管狐・カシュカシュ、ケモノ兎と一緒に仲間達よりも竹林の奥を探っていた。 『たけのこ、ふんでもへいきなの‥』 管狐・カシュカシュはもう大丈夫のようである。恐る恐るだがタケノコを自ら踏んでみて確かめたからだ。 特に初めて踏んだ後のカシュカシュは強ばっていた身体がぷしゅぅと縮んだように見えた。心の内も似たようなものであったろう。 ホッとした以後のカシュカシュはケモノ兎とお喋りしながら竹林内を駆けめぐる。 「どこにいったの?」 見失ったフェンリエッタが大きな声で呼んだ。 『あるじあるじ、ここなの、うさぎさんが教えてくれたの』 カシュカシュとケモノ兎は仲良く一所で飛び跳ねていた。 「一度戻った方がよさそうね♪」 フェンリエッタは背中の籠がいっぱいになったところで集合地点へと引き返そうとする。 『‥‥‥‥マダアル、タケノコ』 『たくさん、とるの』 カシュカシュとケモノ兎はフェンリエッタの周囲を飛び跳ねながらついてゆくのであった。 ルオウは走龍・フロド、ケモノ兎と一緒に竹林を走り回っていた。 「おー。また見つけた。どうすれば見つけんだ?」 ケモノ兎が一所に留まって鼻をピクピクさせている。ルオウはさっそく枯れ草を掻き分けて鍬を使う。 「よーし、力仕事は任せなー!」 すでに慣れたものでルオウは数分のうちに地中へ埋まっていたタケノコを掘り出す。採ったタケノコはフロドの背中に跨ぐように取り付けられた二つの籠へと平均的に納められた。 「かなり獲れたな。タケノコ料理は楽しみだなー!」 ルオウはフロドとケモノ兎にもタケノコを食べさせてあげると約束するのであった。 倉城紬と人妖・穂輔はそれぞれに籠を背負ってケモノ兎の後をついてゆく。さっそく発見したようでケモノ兎が前足でここだとタケノコの位置を示す。 「むむぅ。鼻が利くので沢山採れそうですね♪ ねぇ? 穂す‥‥」 背中の籠を下ろして鍬を使う準備をしようとしていた倉城紬。しかしすでに人妖・穂輔はタケノコを掘り始めていた。 声をかけられて倉城紬と見つめ合う形になり、中途半端に鍬の掲げた姿で固まる人妖・穂輔。どうぞといった意味で倉城紬が片手のひらを差し出すと掘るのを再開する。 まもなく一本目のタケノコが人妖・穂輔によって収穫された。竹皮を剥かなくても触れただけで柔らかいのがよくわかる。 「えぐみが表れる前の獲れたてのタケノコならお刺身にして食べると‥‥」 倉城紬は空いた手で頬を押さえながらつい味を想像してしまう。 人妖・穂輔はタケノコ掘りを淡々とこなす。ケモノ兎が示したところに鍬を入れていた。 いや淡々として見えるだけで実際にはとても楽しいのだろう。慌ててタケノコを籠に仕舞うと倉城紬も掘るのを手伝うのであった。 礼野と月与は智塚姉妹と一緒にタケノコを掘る。 「うさぎさん達、美味しそうな竹の子の埋まってる場所が分かったら教えてね」 月与が声をかけると猫又・小雪の啼き声が。ケモノ兎二羽と一緒に埋まったままのタケノコを探し当ててくれた。 からくり・睡蓮は背負った大きめの籠でタケノコを運んでくれた。もちろん礼野、月与、智塚姉妹も担いだが量は倍近い。おかげでとても助かった。 最初のタケノコ掘りは一時間かからずに終了する。 人と朋友だけならさすがにここまでの早さは難しかっただろう。ケモノ兎達が地面に埋まるタケノコを見つけてくれたおかげであった。 ●タケノコの刺身 採りたてしか食べられないということで、まずはタケノコのお刺身を全員で頂くことに。 「呂さん、すぐですわ」 鏡子も手伝って特に柔らかそうなタケノコの穂先部分を包丁で切って出来上がり。みんなで頂いた。残った部分は他の調理に回すことに。 「いっただっきまーす! タケノコの刺身、うめぇーな!」 「このしゃきしゃきは美味しいのですよ〜♪」 ルオウと光奈は両手を合わせた後で次々と箸で口に運んだ。走龍・フロドには皮を剥いた丸のまま一つあげる。 「これが食べたかったのです。‥‥美味しいですね♪ 穂輔も食べますか? はい。どうぞ‥‥あーん♪」 倉城紬が人妖・穂輔にも食べさせてあげる。どうやら気に入ったようで二口目からは自分で食べ始めた。 「ホント美味しい‥‥♪」 箸をもったまま頬を押さえて微笑む倉城紬であった。 「まゆちゃん、用意出来てるよ」 「こちらも一段落したですの。頂きます。‥‥おいしいですの♪」 月与が切ったタケノコの刺身を礼野が頂いた。礼野はタケノコをアク抜きするために米糠と一緒に鍋で煮始めていたのである。 「見つけてくれてありがとうね♪」 月与はケモノ兎達にタケノコの刺身をあげてから自分も頂いた。猫又の小雪とからくり・睡蓮もケモノ兎達と一緒に堪能している。 「これはあとのタケノコ料理も大いに期待できますなぁ」 江守梅は刺身でタケノコの味を確かめた。彼女の隣りでは駿龍・四髭が美味しそうに丸のタケノコを頬張る。 「まずはタケノコ御飯、他にも天麩羅、バター炒め――」 山中もタケノコを使った夕食の料理を考えながら刺身を味わった。駿龍・つばめもがんばったご褒美として丸のタケノコを喜んで食べていた。 「光奈さんもつけてみる?」 「おお、この入っているのはワサビの欠片なのですね♪」 フェンリエッタに勧められて光奈もお刺身をワサビ醤油で頂いた。辛みがなんともいえずタケノコの刺身を引き立てる。 『つーん、なのっ』 管狐・カシュカシュもワサビ醤油をつけた刺身を頂いたようでちょっと涙目。ケモノ兎達がつられて食べようとしていたのを急いで止める優しいカシュカシュだ。 休憩をとった後でタケノコ狩りは再開される。ただ一部の者は飛空船が着陸している集合場所に残って夕食を作った。 やがて夕暮れ時。全員が戻り、兎達を招いて野外の宴が始まるのだった。 ●楽しいひととき 「これは筍の吸い物なのです‥‥」 光奈が椀の蓋をとるとよい香りが漂った。その上で中を覗き込む。 「その通りどすぇ。柔らかく煮込んだ筍の、姫皮を細く切りにし、わかめと小口ネギを少々、花の麩を浮かべたものどす」 江守梅の説明を聞いた上で光奈はお吸い物を頂いた。その味に無言のまま瞳をかっと見開く。 「さ、さすがなのです」 「本当に‥‥」 光奈だけでなく鏡子も吸い物の出来映えに驚いた。タケノコを魚の白身と一緒に醤油とだし汁で煮込んだ料理も。水菜の彩りがとても綺麗である。 智塚姉妹のとなりでは月与と礼野も江守梅の料理を頂いていた。 「おかげで魚は新鮮なままで助かったのですじゃ」 「おやすいご用ですの」 江守梅は魚を持ち込むにあたって礼野から保存用に氷を譲ってもらっている。氷霊結で凍らせたものだ。 「とても滋味深くて美味しいですね」 月与がしみじみと呟く。 「誉めて頂いておりますが、どうしても、ばぁばの料理は地味目になってしまいますのぅ‥‥」 そこで江守梅は相談した。若い子らが好む見栄えや彩りはどのようなものか、縁生樹の女将をやっている月与に。 「今回はまゆちゃんの料理をお手伝いしたので、炊き込み御飯の焼きお握りにしてみたんですけど」 月与が作ったタケノコ入りの焼きお握りは敢えておこげの美味しさを追求したものである。醤油焦げが非常に香ばしい。味は全体的に濃い目だ。 「参考になるかわかりませんが、食べて欲しいですの」 「これは元々の炊き込み御飯どすなぁ。味付けも若い子らが好みそうやぁ」 礼野が作った料理も江守梅は上品に頂いてゆく。 炊き込みご飯の作り方はとても凝っていた。 研いだ米と筍を昆布を入れて焚く。炊き上がったら昆布を取り出し、しらす干しを乗せて少々蒸らす。その後、混ぜて刻んだ三つ葉を上に散らしてたものだ。これは月与の焼きお握りにも利用されている。 さらに戻した干しきくらげと豚肉と人参と筍の細切りを炒め、戻した春雨も入れて醤油と豆板醤で味付けした炒め物。 筍、蕗、鶏肉を小さく切ってつくねを昆布の出し汁に入れた煮物。 大きめに切った韮と短冊切りにした筍を鶏がらのだし汁で煮込み、塩胡椒で味を調えたスープも用意されていた。 それら夕食とは別にお弁当的な料理も。 おこわは餅米に刻んだタケノコ、油揚げ、人参、豚肉を炒めてた後に蒸したもので、タケノコの皮に包んで紐で縛り小分けにされる。 おかずも何種類か。 筍と烏賊に醤油とみりんを塗りながら七輪で焼き、蕗の薹味噌を添えたもの。 天麩羅は普通に切ったタケノコと千切りにしたものにサクラエビを混ぜたかき揚げ。 若芽と一緒に煮た若竹煮もある。 タケノコを鰹節と一緒に煮てうまみを移す。細く切った茹でた筍を摺り下ろし、わさびを加えたマヨネーズで和えたもの。 千切りにした人参を胡麻油で炒め、千切りの筍、細く切った蒟蒻を入れ一緒に炒め胡麻をふりかけたものも。 夜食はもちろん今時期の夜の冷え込みならば明日の朝食にしても問題はなかった。 「やっぱし飯はみんなでワイワイ食べるのがいいんだよなー。明日のタケノコ掘りもがんばるって気になるな!」 「もりもりなのです☆」 ルオウと光奈が木のフォークで食べていたのはフェンリエッタが作った餡かけタケノコ入り豆腐ハンバーグである。 「あまり味が濃いのはまずいよな。この辺りならどうだ?」 ルオウが一緒にタケノコを掘った走龍・フロドとケモノ兎に感想を求めた。その態度からとても喜んでいるのがわかる。 「よかった♪ お代わりもあるから沢山食べてね」 フェンリエッタも管狐・カシュカシュを膝にのせて自ら作ったハンバーグを頂いた。 本来ならば肉を使うのだが、これは崩した豆腐を使っている。人参、玉葱、刻んだタケノコが混ぜられているので歯ごたえはシャキシャキ。仕上げに使った餡はとろ〜りと醤油が基本の天儀風だ。 「どれも美味しくてたまんないのです〜♪」 「本当に美味しいですね〜♪ こちらはバター炒めでしょうか? こちらは鮹とタケノコを煮たもの‥‥‥‥。いろいろな味付けで楽しめるのがタケノコのよいところですね♪」 光奈と倉城紬は山中が作った料理を美味しく頂いて頬を膨らませる。 揚げたてのタケノコのてんぷら、バター炒めに鮹との煮物。御飯がとても進んだ。 「ほら、口を開けて」 山中は駿龍・つばめにも並んだ料理を少しずつあげてみた。 龍が中毒を起こす食材は聞いたことがないが大丈夫そうなものを選びながら。玉葱は多くの動物がだめなようなので一応外しておく。 結果、つばめはどうやら皮を剥いた丸のタケノコが一番のようである。 やがて完全に日は暮れる。準備済の篝火のおかげで宴は続行された。 「ではお言葉に甘えまして」 「待ってましたアルよ!」 宴もたけなわになって鏡子が唄うことに。春を想う歌は途中から合唱になった。 『かしゅもうたうの♪』 管狐・カシュカシュも加わる。ケモノ兎達も啼くことで合いの手をいれるのだった。 タケノコ掘りの三日間はすべてが順調に進んだ。名残惜しく感じながら呂の飛空船団が安州への帰路に就く。 「いろいろなお料理を見せてもらって助かったです☆ 腕まくりして仕入れたタケノコを調理してお客様にお出しするのですよ〜♪」 「助かったわ。ありがとうございます」 光奈と鏡子は開拓者達へと希儀産生ピスタチオの他にタケノコをお土産として贈る。タケノコに関してはなるべく早めに食べてほしいと付け加えて。 開拓者達はケモノ兎達との思い出を話題にしながら神楽の都へと帰るのであった。 |