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■開拓者活動絵巻
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■オープニング本文 クリスマスとは精霊を敬うジルベリア由来のお祭り。 天儀本島には交易商人によって伝えられ、年末の風物詩として少しずつ浸透しているようである。 武天の国も例外ではなかった。都市部を中心にして今年もいろいろと催しが準備されている。 『ぱーてぃ』と呼ばれる宴で親しい者同士が集まり、美味しい料理を食べながら語らう。また恋人同士の特別な逢い引きに使われることも。 そして贈り物も重要な催しの一つ。 二十四日の深夜。寝ている子供達の枕元にサンタクロースがそっと贈り物を置いて立ち去るという。 親が子供に内緒で贈るといわれているが、そうでない事例も毎年発生しているらしい。金持ちの道楽や義賊の仕業と噂されるものの真実は誰も知らなかった。もちろん配布している当人達以外には。 「口が堅い開拓者を集めてもらおうか」 武天此隅の開拓者ギルド支部。執務室を訪ねたのは赤褐色の肌持つ巨体の男である。 武天の王『巨勢宗禅』はサンタクロースの真似事をやってみたいとギルド長に相談を持ちかけた。 かかる費用のすべては武天持ち。開拓者にはサンタクロースに扮してもらい、十歳以下の子供に贈り物を届けて欲しいといったもの。理由をギルドに訊ねられた巨勢王はただの気まぐれだと笑う。 だが巨勢王のお供をしていた臣下は知っていた。愛娘の綾姫が自分のために『ぱーてぃ』を開こうとしているのを秘密裏に知って思いついたようである。 武天は比較的平和だが未だアヤカシの事件は続いている。魔の森もすべて排除した訳ではない。 このような状況でも未来を担う子供達に少しでも明るい気持ちになってもらえればと巨勢王は考えたようだ。 「では手配、よろしく頼むぞ」 巨勢王自身も贈り物を配布するつもりである。 準備は密かにだが着実に進められるのだった。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 玄間 北斗(ib0342) / 明王院 未楡(ib0349) / 神座真紀(ib6579) / 何 静花(ib9584) / 七塚 はふり(ic0500) / 火麗(ic0614) / トム=メフィスト(ic0896) |
■リプレイ本文 ●サンタクロース 武天の都、此隅の郊外。 日暮れ頃から依頼書で指定された場所に人が集まり出す。 簡素な木製の塀に囲まれた敷地は広いだけが取り柄のただの野原。普段は活用されていないところだが今日は違う。 馬車一両の荷台には真っ白な大袋が並べられていた。 別の馬車の荷台にはたくさんの小さな青い袋と赤い袋。青い袋の中身は木彫りのおもちゃ、赤い袋は人形かぬいぐるみである。 依頼主が手配した十数名の他に配布を請け負った開拓者の姿があった。 ジルベリアの伝説に倣ってサンタクロースに変装する予定。白と赤を基調にした衣装だが、自分専用のを持ち込んだり仕立て直す者もいるようだ。 期間は十二月の二十四日と二十五日を跨ぐが配布そのものは深夜限定となる。 各々に子供達への贈り物を選んで大袋に詰めるとさっそく出発。トナカイの角をつけた龍が夜空へと飛び立っていった。 ●羅喉丸と頑鉄 羅喉丸(ia0347)は鋼龍・頑鉄に跨って月夜の武天上空を飛んでいた。 どちらも格好もサンタクロースとしてばっちり。 羅喉丸は赤白の服装に白い付け髭を顎に蓄えている。鋼龍・頑鉄の頭には大きくて立派なトナカイの角が取り付けられていた。 「そういえば去年、サンタに会ったが彼らも大変そうだったな。こういう形で手伝うのも悪くはない」 白い顎髭を触りつつ一年前を思い出す。ここは気合いを入れてサンタクロースそのものを演じきろうと羅喉丸は心に決めた。 山間の集落を発見した羅喉丸は高度を下げる。鋼龍・頑鉄に滑空させて樹木の上へと飛び移った。 樹木を降りて適当に家を見繕う。二階までよじ登り窓の戸板をそっと持ち上げると部屋の中に月明かりが射し込んだ。すると布団で仲良く眠る兄妹が見える。 羅喉丸は手を伸ばして赤と青の袋を部屋の床に置こうとする。これでよしと顔をあげると手の甲で目をこする女の子が立っていた。 (「まさか最初から失敗するとは‥‥」) 兄妹もこれから本物のサンタクロースと出会うかも知れない。そこで子供達の夢を壊さないようになりきったままやり通すことにした。 「こほんっ。俺、いやわたしはサンタクロースだ。今年一年良い子にしていた、はずなのでこれは贈り物だ。青い袋は寝ているお兄さんにあげてくれるか?」 「さんたさん‥‥って何?」 羅喉丸は焦りつつもサンタクロースとは何かを女の子に説明する。女の子はなかなか賢くすぐに理解した。そして集落のどの家に子供がいるのかを教えてくれる。 「そこにいるの、誰?」 そうこうするうちに兄も目を覚ましてしまった。 「この熊、かわいいー」 「しー、静かにな。父さんと母さんが起きちゃうよ。あ、ボクのは駆鎧だ」 見つかってしまったものの、兄妹の喜んだ顔が見られてよかったと思いながら羅喉丸は立ち去る。 集落の子供がいる家々に配ると手持ちの袋は一つだけになってしまった。羅喉丸は一旦戻って赤と青の袋を補充する。 「さあ頑鉄、配るのはこれからが本番だからな」 羅喉丸と鋼龍・頑鉄はクリスマスの贈り物を子供達に配るべく、再び夜空へと飛び立つのであった。 ●柚乃とヒムカ 「ヒムカもお手伝いお願いね?」 首をもぞもぞと動かし続けている轟龍・ヒムカに柚乃(ia0638)が声をかける。 「ダメ? う〜ん、まあ柚乃もサンタの格好は帽子だけだし‥‥」 どうやらトナカイの扮装が嫌なようである。柚乃はそれならばと角は比較的小さめのを選び、その他は外してみた。 まだ不満そうな顔はしていたものの、この程度なら我慢できる範囲らしい。轟龍・ヒムカはそれまで伸ばしていた背を屈めて柚乃が乗りやすくしてくれる。 おもちゃが詰まった白い大きな袋が落ちないよう龍具に固定してから柚乃は乗り込んだ。轟龍・ヒムカと一緒に武天の夜空へと舞い上がる。 「凍えそう‥」 片手で襟元を閉じつつ、柚乃はしばらく眼下を見据える。さっそく人家を見つけて空き地に降りてみた。 (「本当にあった‥‥」) 柚乃は草鞋の片方だけが軒下にぶら下がっている家屋を探し出す。 ジルベリアではサンタクロースからの贈り物をもらうために靴下を準備するらしい。天儀では足袋か草履をぶら下げておけばよいといった噂が流れていた。柚乃も外食をしているときにたまたま耳にしたので真偽のほどは定かではなかった。 二階の窓は閉じられていなかった。そっと入ると男の子が寝ていた。 (「静かにっと‥‥」) 柚乃は男の子用の青い袋を枕元に置く。おまけで手作りのクッキーの小袋も。 「むにゃ‥‥ありがとう‥‥さんたったさん‥‥」 いきなりの感謝の言葉に背中をびくつかせた柚乃だが、どうやら寝言のようである。ずれていた掛け布団を直してあげてから柚乃は外に出た。 近くの二軒も草履がぶら下げられていたので贈り物を届ける。この一帯では噂が広まっているようだ。 「ヒムカ、サンタさんじゃなくて『さんたったさん』っていわれちゃった‥」 待機する轟龍・ヒムカの元に戻ってきた柚乃はご機嫌である。次の村へ向かって持っていた贈り物をすべてを配布し終わった。 まだまだ時間はある。もう一回配ろうと集合場所に戻ってみれば巨漢のサンタクロースが立っていた。 変装こそしていたものの巨勢王に違いない。以前から知っている柚乃が見間違えるはずもなかった。 「あ、あのこれ綾姫ちゃんに渡してもらえますか?」 「どこぞで見かけた顔と思えば柚乃殿か。姫も喜ぶあろう。あ、わしのことは内密で頼むぞ」 ばればれだと思いながらも柚乃は巨勢王に頷いた。翌日、柚乃からの贈り物は巨勢王を通じて綾姫に届けられるのであった。 ●玄間北斗と月影 「おいらもお手伝い頑張るのだぁ〜」 玄間 北斗(ib0342)のサンタクロース衣装は気合いが入っていた。 頭はタヌキ耳カチューシャの上からサンタ帽子を被る。もちろん服の部分もサンタクロース。ふっくらとしたたぬきとサンタクロースの相性はばっちり。 駿龍・月影の胴体は赤と白に彩られたトナカイ仕様である。 駿龍・月影の龍具に大きな袋を載せてざっと近場を回った。集合場所に戻っておもちゃを補充。二回目は遠くを目指してみた。 「この辺りには町はもちろん集落や村はないはずなのだ?」 森の上空を飛んでいると眼下に不思議な明かりを発見。気になった玄間北斗は少し離れたところに降りてみた。 暗視を使いつつこっそりと近づいてみれば一軒の丸太小屋が建っていた。 三角跳で屋根まで登って煙突の側で聞き耳を立てる。すると中から聞こえてきたのは家族でクリスマスを祝う内容。どうやら父親がジルベリア出身のようだ。それでと合点がいった玄間北斗だ。 どうしようかと悩んでいると戸口の扉が開いて父親らしき人物が外に出てくる。薪を小屋の中へと運ぼうとしていた。 「だ、誰ですか?」 「あやしいものではないのだ。子供達への贈り物を預かって欲しいサンタなのだぁ」 玄間北斗は両腕を広げつつ、父親らしき人物の前に姿を現す。 「――というわけなのだ」 「そうでしたか。粋なことをなさる方もいらっしゃるのですね」 説明するとすんなりと信じてくれた。やはり丸太小屋の中にいたのは彼の子供と妻であった。 贈り物を渡すだけのつもりが、是非に子供達に会ってやってくれといわれて丸太小屋の中へ。室内には立派なもみの木のクリスマスツリーが飾られていた。 「サンタさんのお手伝いをしている森のたぬきさんなのだぁ〜」 サンタクロースのお手伝いだからタヌキさん風だと説明する。大きな袋の中から青い袋二つを取り出して兄弟に贈った。 「ありがとう、たぬきさん」 「いや、そこはサンタさんじゃないかな? あ、ありがとう」 子供達に感謝された玄間北斗は少々照れ気味である。 「実はトナカイさんもお手伝いなので少し違うのだぁ♪」 戸口の外で玄間北斗が口笛を吹いてからまもなくして駿龍・月影が舞い降りた。 「龍!」 「トナカイ!」 兄弟の感想に笑いつつ玄間北斗は月影へと飛び乗る。そして丸太小屋の家族に手を振って夜空に舞い上がるのであった。 ●明王院未楡と斬閃 (「あらまぁあ、子供達に夢を贈ろうだなんて、素敵な王様ですね」) 集合場所でサンタ姿の大男を見かけた明王院 未楡(ib0349)はクスリと笑う。本人は他人のそら似だといってたがどうも見ても巨勢王だったからだ。 「王様へ、お姫様へどうぞ」 「こほん‥‥。王とか姫とかわからぬが受け取ろう。嬉しいぞ。娘もそういうはずじゃ」 未楡が手渡したのは、もふらやたぬき、うさぎの形を模した饅頭である。巨勢王は潰れないよう大事に木箱へと仕舞う。 未楡自身の着替えはすでに終わっていた。白と赤、そしてふわふわの飾りがついたサンタクロースである。 未楡を乗せた駿龍・斬閃は夜空へと舞い上がった。駿龍なので少し遠くを目指す。龍頭を北へと向ける。 (「可愛い寝顔ですね」) 未楡と斬閃は順調に贈り物を子供達へ配り続けた。 しかし三軒目として立ち寄った武家屋敷の廊下で見回りの男の子と鉢合わせしてしまう。身なりからしてサムライの子ではなく使用人の子であった。 未楡は咄嗟に男の子へと抱きついて口を手で押さえる。 「怪しいものではありません。私はサンタクロースに頼まれた一人なのですよ」 「ど、泥棒ではないのか?」 未楡はクリスマスとサンタクロースの説明に苦労した。まだ十歳前後の子供だが仕事をしている男の子はとても現実的であったからだ。 だからこそと思いつつ未楡は丁寧に教えてあげた。子供には夢が必要だと。 「この屋敷の跡継ぎにもちゃんと贈り物をしますので心配なさらずに。そうですね‥‥目立つ持ち物が嫌ならこれはどうでしょう?」 未楡は青い袋から一際小さめのおもちゃを取り出す。それは龍の根付けだった。 「これなら密かに持ち歩ける。嬉しい、とてもいいな。ありがとう」 見回りの男の子は屋敷の跡継ぎの寝室を教えてくれた。未楡は青い袋を枕元に置いてから屋敷を立ち去った。 駿龍・斬閃で上空に舞い上がると屋敷の敷地内に小さな明かりが見える。その明かりは見張りの男の子が手にしていた提灯からのものだ。 「がんばってね」 未楡は応援を口ずさんでから屋敷上空を飛び去るのであった。 ●神座真紀とほむら 「こんだけあれば足りるやろ。しかしまあ、こせ‥‥やない、謎の依頼人さんもなかなか粋な事するやんか」 神座真紀(ib6579)はどっさりと贈り物を詰めた大きな袋を三つ、炎龍・ほむらの龍具の上にくくりつける。 これほどの数の贈り物を一度にまとめて運ぼうとしたのは神座真紀だけである。行き先は決まっているのでゆっくりと飛べば問題なかった。 此隅から北西にある町の孤児院を目指し、炎龍・ほむらと共に飛び立つ。 「あ、やばいもんがぶら下がっとるで」 孤児院の庭に着陸しようとしたあちゃーと顔を片手で覆う。何故なら孤児院の軒下に干し柿が吊してあったからだ。 炎龍・ほむらは仔龍の頃に腐った柿を食べて腹を壊したことがある。それ以来、柿が苦手。干し柿があるのを知り、怯えて着陸しようとしない。 少し離れたところでも拒否。帰ろうと抵抗し続けた。 「今日だけは我慢やで。なあ、ほむら。子供達の為にがんばろって約束したやんか」 何とか宥めて孤児院の庭に着陸。神座真紀が三つの大きな袋を龍具から降ろすとどこかに飛んでいってしまう。 面倒ごとは嫌なので孤児院の責任者には話を通した。篤志家だと理解してくれて子供達の寝室へと案内される。 一部屋に八人前後が寝ていた。それが三部屋。孤児院の方も手伝ってくれたので神座真紀は一部屋分を配った。 「‥‥サンタ?」 四個目を枕元に置いたところで目を覚ました女の子と目と目が合う。会話で他の子が起きないよう廊下へと連れ出した。 「サンタさんみたいだけど‥‥お話で聞いたサンタクロースはおじいちゃんだったよ。真っ白なおひげだったし」 「すまんなぁ。あたしサンタの孫やねん。流石に爺ちゃん一人じゃ配りきれんねんよ。孫じゃあかんかなぁ」 「そうなの?」 「爺ちゃんな、天国の皆の両親から贈り物渡して欲しいって頼まれたんよ。空から何時も見てくれてるんやで」 しばらくお喋りして神座真紀は女の子と友達になった。やがて残っていた贈り物をすべて枕元に置き終わる。 神座真紀が庭の中央で両手を振っていると炎龍・ほむらが降りてきた。とはいえ柿がぶら下がる建物から離れた塀の内側間近へと着地。どうしても柿が苦手なようである。 「龍さんもありがとね」 孤児院の人達と一緒に起きた女の子も見送ってくれる。女の子に鼻を撫でられた炎龍・ほむらは少しだけ機嫌が直った。 「ほな、またな。いい子でなー」 神座真紀とほむらは別の孤児院二カ所にも贈り物を届けたのであった。 ●何静花と星風 「その風体で何故、修羅じゃないんだ?」 「そういわれても、困ったのう‥‥。もしかして先祖にいたかも知れんがな。とはいえ普通に歳はとっておるしな」 「絶対に髪で角を隠しているだろ?」 「見せても構わぬぞ、ほら」 何 静花(ib9584)は依頼人とされた人物を掴まえて文句をいっていた。 単に言いがかりに過ぎないが、依頼人は暇つぶしに丁度良いとしばらく相手を続ける。龍の準備が整ったところで依頼人は何静花を残して贈り物を届けに夜空へと消えた。 何静花も炎龍・星風に乗って出発する。 サンタ帽子を頭に乗せて上着は羽織るだけといった出で立ちでだ。 正直、何静花はクリスマスと聞いてもピンとこなかった。祝いであるのは理解していたが、知識として様々な言い伝えや伝説が入り交じってちんぷんかんぷんである。 「赤と青の修羅は目の仇にされたって事か、探すの面倒臭いな!」 何静花が呟くと炎龍・星風が吼えた。修羅と龍との謎の意志疎通である。 何静花が時折口にしていた瓢箪水筒の中身は酒。これまでも十分に高揚していたが酔うことでさらに勢いを増していった。 「そっらーのうえかーら」 『ガオーン!』 星風は何静花に合わせて吼えるだけでなく炎まで吐き出す。 「ずうっばばっば、ばっばーと火を噴いてぇ〜」 『ガオッーン!』 「ずっががっが、ががーとばっくはっするー」 『ガガカッボァーン!!」 地上から夜空を眺めていた子供の中には流れ星と勘違いした者もいたようである。 気分が最高潮に達した何静花はある集落の櫓の上に炎龍・星風ごと降り立った。気持ちよく歌と炎の競演を続けていれば当然誰かが知ることとなる。 目を覚ました集落民が櫓の近くに集まった。 「ん? こんなつもりじゃーなかったが、ついでだ」 何静花は担いでいた大きな袋をそのまま宙に放り投げた。 落ちた先は飼育用に集められた枯れ草の山。集落民の一人が口が開いた大きな袋から赤や青の小さめの袋を発見する。 「それ、ここのガキ共に適当にやってくれ。じゃーな!!」 一声かけた何静花は炎龍・星風の首もとを触って夜空に飛び立たせる。 過程はどうであれ、集落の子供達は贈られた木彫りやぬいぐるみをとても喜んだのであった。 ●七塚はふりと金蘭 此隅の大通りに大きな袋を担いだ人影が一つ。やがて月光に照らされて姿があぶり出される。 それは赤と白のサンタクロース衣装を纏った七塚 はふり(ic0500)であった。彼女は龍を使わずに此隅内の孤児院を目指す。 連れてきた朋友は迅鷹・金蘭。七塚が担いでいる大きな袋の上にちゃっかりと留まっていた。 「サンタクロース参上であります!」 大通りから外れて十数分後、七塚は孤児院前に辿り着く。 (「元より施設はおもちゃの類が少ないものです‥‥。これがあればきっと助かるでありましょう」) ひょひょいと塀を跳び越えて背を屈めながら前進。後で孤児院の全員を驚かしたい七塚は起きている大人の目もかいくぐった。 (「遅くまでおつかれであります、職員殿」) 見かけた孤児院の大人には心の中で挨拶する。ただ好意が仇にならぬよう『篤志家から』と一筆添えた書を目立ついくつかの場所に置いておいた。 そうこうするうちに子供達が眠る大部屋を発見。男の子か女の子なのか顔で確認してから贈り物を枕元に置いたが結構大変であった。 (「殴りの次は蹴りでありますか。避けるであります」) 寝相の悪い子供の手足が七塚を襲う。時には寝返りで体当たりも。それでも袋の中に一つだけを残して全員に行き渡った。 油断大敵。忍び足でこっそり立ち去ろうとしたとき、一人の男の子の足の裏を踏んでしまう。 「な、なんだっー!」 飛び起きる男の子。その声で何人かの子も目を覚ます。 (「こういうときのために金蘭を連れてきたのであります」) 七塚は慌てずに大きな袋の口を広げて振り、空気で膨らませる。そして迅鷹・金蘭に煌きの刃で武器として同化してもらった。 暫しの間、サンタクロースの大きな袋が激しく煌めいた。 「うわっ!」 「ま、まぶしい!」 子供達が目をそらしている間にすたこらさっさ。孤児院の外へ脱出した。 「煌めきはジルベリアの精霊と勘違いしてくれるでありましょう」 その後、七塚は此隅のギルドに報告書を提出。その際、依頼人の篤志への返礼として手持ちのアロマキャンドルを一緒に添えておいた。 「自分もこどもですので」 大袋に残ったぬいぐるみはもらってよいことに。七塚は大事に抱えて神楽の都への帰路に就くのであった。 ●火麗と早火 「どれがいいかしらね。こっち、それもこれ? ‥‥やけに短いスカートもあるわね。誰かの趣味かしら?」 火麗(ic0614)は着替え用の天幕の中でサンタクロースの衣装を選んでいた。 鏡の前で取っ替え引っ替え。あまりに露出が高すぎるのは子供達のことを考えて除外し、可愛い感じの衣装を選び出す。襟元のファーが特徴のふわふわしたものである。 「ちょっと寒いわね‥‥。耐えられなくはないけれど」 準備が整ったところで駿龍・早火を駆って出発。行き当たりばったりで飛び続けて一時間後、明かりが見えたので着陸。そこは川沿いの集落であった。 「シノビじゃないから隠密行動は慣れてないのよね‥‥。気をつけないと」 戸口近くに置いてある履き物を見れば子供がいるかどうかは大体わかる。こっそりと家屋に忍び込んで枕元に贈り物を置いていった。 「この集落で子供がいる家はこんなものかね。それじゃ次のところにでも」 火麗が待機させている駿龍・早火のところへ戻ろうとしたとき、一軒の家屋から泣き声が響いてきた。 「きっと夜泣きだね」 幼子の泣き声はよく聞けば一人ではなさそう。父親と母親が懸命になだめようとする声も聞こえてくる。 火麗はその家を訪ねることにする。戸口を叩いて訪問の理由を話すと快く中に入れてくれた。 「双子は大変だねぇ。まだ産まれて一年経っていないのかい?」 「そうなんですよ」 火麗はまだ泣きぐずっている赤ん坊二人の顔を覗き込んだ。母親は笑顔だが疲れた様子が垣間見られる。 「気に入ってもらえると嬉しいんだけどね。はーい、サンタさんだよ!」 子供の扱いが苦手でやり慣れていない火麗の言葉と動きはぎこちなかった。ぐずっていた赤ん坊がどちらも顔をくしゃくしゃにする。 「えっと男の子がこれで、女の子のはこっち。どうだい? 熊の木彫り人形とウサギのぬいぐるみさ」 慌てた火麗が贈り物を赤ん坊に触らせてあげた。するとどちらも泣こうとしていた表情を変えて笑顔になる。 ただ女の赤ん坊が熊の木彫り人形を気に入り、男の方はウサギのぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめていた。 「あんなに喜んで。ありがとうございます」 「とても気に入った様子です。助かりました」 龍騎した火麗は赤ん坊二人の両親に見送られながら夜空へと浮き上がる。 「たまにはこういうのもいいもんだね」 火麗が話しかけると駿龍・早火は小さく吼えるのであった。 ●トム=メフィストとガルガンド トム=メフィスト(ic0896)は出来限りの時間を割いてクリスマスの贈り物を届ける。 「私からささやかな贈り物です」 サンタ帽子を被り、甲龍・ガルガンドで夜空を駆って届けた先は主に貧しい身寄りのない子供達である。貧民街や孤児院を中心にして回った。 「さ、サンタ?」 枕元にこっそり置こうとするが、時には子供が目を覚ましてしまうことも。そんな時には指を口元に添え、シーと微笑んだ。 トムは最後の配布と決めて訪れた町で夜鳴き蕎麦の屋台主から妙な噂を聞いた。 「王の敷地だっていうのによ。ばれたら後で大変だぜ」 「そんなところで子供達が生活を?」 この町から五キロメートルほど離れた山の中腹に平らな土地が広がっているという。そこは巨勢王所有の狩り場の一部なのだが、いつの頃からか身よりのない子供達が集まって暮らしているらしい。 甲龍・ガルガンドで向かえば険しい山道もひとっ飛びである。 噂は本当で不格好ながら丸太や木板で家が建てられていた。土地の一部は耕されて畑に。どうやら麦を育てているようだ。 「な、何者だぁ!」 月光に照らされたトムと甲龍・ガルガンドは到着から三分も経たずに子供達に発見されてしまう。 警戒しなかったのはわざと。子供達のまとめ役は自分達の立場がわかっているようである。 「こんばんは。私はサンタクロースです。贈り物を届けにきました」 竹槍の先をトムに向けている二人の子供にやさしく話しかける。二人のうち一人が家の中に入って応援を呼んできた。 なかなか信じてもらえなかったものの、担いでいた袋の中から贈り物を見せると子供達の態度が変わった。家の中に入れてくれる。 「寒い夜ですから、どうかこの子も仲間に入れてあげて下さい」 「ありがとう。かわいいかえるちゃんだ♪」 トムは一人一人に贈り物を手渡しする。予定とは違うが子供達の笑顔が見られたのが何より嬉しかった。手持ちのおもちゃも一緒に贈る。 サンタクロースは本当にいたんだと子供達ははしゃいでいた。ただ一人、まとめ役の利発そうな男の子を除いて。 「‥‥様子を見に来たのですか?」 「どうしてそう思うのです? そんなに怪しく見えるでしょうか」 トムはまとめ役の男の子といくらか話す。彼はいつかこの土地を追い出されるのだろうと覚悟していた。 「終わりですね」 此隅郊外の集合場所に戻るとすでに撤収作業が始まっていた。 打ち上げをするというのでトムも参加させてもらう。その席には依頼人の姿もある。 「山の中腹に子供達が? あそこでは水にも不便しそうじゃがな」 「高台を流れる小川から水を引く工夫を‥‥あの土地のことを詳しいのですね?」 「まあ、ちょっとだけだがな」 「施設で酷い目をあったので、もう帰りたくはいないといっていました。悪いことはせずちゃんと自給自足の生活していましたが、こればかりは地元の役人の出方次第ですから」 トムは依頼人の正体を知らないまますべてを話す。どうしてそうしてしまったのかは自身でもわからなかった。強いていえば依頼人が聞き上手だったのだろう。 サンタクロースとして贈り物を届ける依頼は終了した。 その後、山の中腹にある子供達の家を役人が訪れた。 何故か子供達は誓約書を書いただけでこれまで通り住んでよいことになる。税の徴収も約束されたが、それは微々たるものであったという。 |