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■オープニング本文 開拓者一行は武天国中央部の山岳地帯を登る。 依頼として引き受けた葛籠一つ分の品々を山奥の小屋まで届けるためだ。飛空船を使わなかったのは小屋の正確な位置がわからなかったからである。 苦労はしたものの無事に小屋の主の元へ品々を届けた。ただ帰り道に迷ってしまう。やがて空が夕闇に染まり始めた。 急いで野営の準備を整えようとしたところ、開拓者の一人が登るときには気づかなかった集落を発見した。 これこそ天の助けと訪ねてみれば、集落の人々は快く泊めてくれる。夕食にとだされた鮎の塩焼きは絶品であった。 翌朝、帰路に就こうとした一行が宿代としていくらかの金子を渡そうとしたところ、それはいらないと集落民に断られる。 それでも何かお礼をしたいと考えた一行は昨晩に聞いた話を思いだす。 集落の近くには深い渓谷があり、鷹のアヤカシが何羽か居座っているらしい。 渓谷の幅はとても広いのだが、その近辺だけは十メートルよりも狭いようだ。あそこに吊り橋が架けられれば生活がとても楽になるともいっていた。 一行は集落民には何もいわず、問題の渓谷へと向かう。すると集落民がいっていた通り、鷹のアヤカシが我が物顔で飛翔していた。 目視できた数は九羽。しかし他にもどこかに隠れているかも知れない。 一行は一宿一飯の恩義として鷹のアヤカシ退治を開始するのであった。 |
■参加者一覧
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
日依朶 美織(ib8043)
13歳・男・シ
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●渓谷 遠くの空に飛影を見かけた開拓者四名は腰を屈めつつ茂みに身を隠す。そのまま渓谷に近づいて隠れたままこっそりと辺りを窺った。 「ちょっと待っててね。いち、に、さん、し、ご、ろく、なな、はち――」 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が両手の指を折りながら鷹妖を数える。 目視できるアヤカシは全部で九羽。うち七羽は空中を飛んでいるが、二羽のみ崖途中の樹木の枝へと留まっていた。 「隠れているアヤカシがいるかもしれません。調べてみます」 超越聴覚を持つ日依朶 美織(ib8043)が念のために神経を両耳に集中させて細かな音を拾う。 鷹妖が滑空する際の風切り音。翼の羽ばたきの音。鳴き声。それらとは別に何かが擦れる音が聞こえてくる。 「おそらく渓谷の途中に鷹妖の巣のようなものがあると思います。一羽だけ枝に留まっている鷹妖はその巣の護衛をしているはずです。ここからは見えませんが、あの位置からだときっと巣が確認できるのでしょう」 日依朶が説明し終えると隣にいた薄く輝いたKyrie(ib5916)へと視線を移す。Kyrieは『瘴索結界「念」』で巣の位置を探ろうとしていた。 「残念ながらこの位置からだと巣の状況はわかりません。瘴索結界で探れる範囲よりも外にあるようです。それはそれとして、私は後衛として控えて閃癒で負傷を癒やすつもりでおります。少々の怪我は気にせず戦闘を続行してください」 日依朶とKyrieが互いに頷いてみせた。二人は仲むつまじい夫婦である。 「あの妙にとげとげな鷹のアヤカシを倒せば集落のみなさんの恩に報いることができるはずです。敵の気を引きますのでその間に倒してください。機会があれば僕も止めを刺しますよ」 それまで垂れていたサライ(ic1447)の耳が緊張を示すかの如くピンと張る。瞳にも決意を示す我の如く強い光を宿す。 即座に作戦を立てた開拓者達は鷹妖全体の動きを観察し続けた。そして今こそ好機だと判断したサライが奔刃術を使って茂みから飛びだす。 (「アヤカシはみんなやっつけますよ」) サライは上空を滑空する鷹妖の群れにわざと姿を晒した。 (「戦闘開始ですね」) 日依朶は懐から『手裏剣「鶴」』を取りだして茂みの中から立ち上がった。 袴の袖を激しく揺らしつ投擲された手裏剣は鶴のような鳴き声をあげる。宙を切り裂きながら鷹妖の群れへと一直線に突き進んだ。 手裏剣が鷹妖・壱の右翼に命中。黒き瘴気をまとわせながら鷹妖・壱の右翼を突き抜ける。 鷹妖・壱は怒りを込めた鳴き声を響かせた。そしてサライ目がけて風の刃を放つ。手裏剣攻撃をしたのがサライだと勘違いしたからである。 それは開拓者達が意図した通りの行動といえた。 鷹妖・壱の鳴き声によってアヤカシ仲間もサライの存在に気がつく。 一斉に攻撃を仕掛ける鷹妖の群れ。サライはじぐざぐに走って風の刃を避けながら渓谷から離れる。 怠けているのか、同胞の鳴き声に気がつかなかったのか、それとも巣の護衛を信条としているのかはわからないが、サライを追いかけてきた鷹妖は七体に留まった。 茂みに隠れていた開拓者三名もサライを追いかけて樹木が並ぶ森の中へと移動する。 (「枝葉が邪魔で上空から自由に攻撃はできないですよね」) 地の利は我にありとサライが心の中で呟く。 サライにとって森の樹木は単なる盾代わりではなかった。幹を駆け上れば飛翔する鷹妖に近接攻撃を仕掛けることができる。遠隔攻撃の手段は持っているが、手の内は多ければ多いほどよい。 それは日依朶にとっても同様であった。樹木の枝から枝。また幹を蹴って跳びつつ手裏剣で鷹妖の群れを翻弄した。 シノビの二人が飛び交うことで森には千切れた葉の雨が降り注ぐ。 攻撃は敵を倒すためだけに行うのではない。敵の注意を前衛である自らに引きつけて後衛の味方から逸らす意味もある。 シノビであるサライと日依朶はそれをよく心得ていた。後衛であるルゥミとKyrieはおかげで自らの力を存分に発揮できた。 (「よーし、みんなやっつけちゃうよ!」) ルゥミは大木の幹に身体を当てつつ『マスケット「魔弾」』を構える。こうしてで防御性を増しつつさらに照準の精度を高めた。 単動作で素早く装填。さらに樹木の裏に隠れた鷹妖をクイックカーブで狙い撃つ。最初から強力な『参式強弾撃・又鬼』を使ったのは敵数を早めに減らすためだ。敵からの攻撃が少なくなれば余裕ができるので火力が減ってもどうとでもなる。 (「そろそろですね」) Kyrieは『黄泉より這い出る者』によって鷹妖を一羽仕留める。その後、閃癒で味方全員をの傷を癒やす Kyrieから慈愛の光が満ちあふれた。 ルゥミ、日依朶、サライの三人はKyrieからそれなりに離れていたものの、射程内に留まっている。それまでに傷ついた身体がみるみるうちに綺麗になっていく。 鷹妖を四羽倒すまでは苦労したものの、それ以降の三羽はわずかな時間で倒しきる。残るは未だ渓谷付近に留まる鷹妖二羽と巣に隠れる未知の個体のみとなった。 ●隠れていた鷹妖 いつまで経っても同胞が戻ってこないことに苛立っているのか、鷹妖二羽は荒れた様子で渓谷上空を旋回していた。 「よーし!」 ルゥミがマスケットで狙い定めて引き金を絞る。見事、鷹妖・捌の右翼の付け根に命中する。 鷹妖・捌は錐もみしながら渓谷の底へ。銃創は致命傷ではないが高空から地面に叩きつけられればアヤカシとてひとたまりもないはず。開拓者達は残る鷹妖・玖へと意識を移した。 渓谷途中の巣から鷹妖の同胞が応戦にかけつける前に残る鷹妖・玖を倒しきる。 そう開拓者の誰もが考える。そしてそれは非常に正しい選択といえた。 巣に待機する鷹妖が何羽であったとしても一度に戦う敵は少ないほどよい。一気にまとめて敵を殲滅できる武器があれば別だが、そのような都合のよいものはどこにもなかった。 開拓者達の想定通りに事は運んだ。 鷹妖・玖を倒した後で巣から鷹妖・拾が現れる。唯一の誤算はその一羽がとてつもなく巨大であった。 「なんです。あの大きさは‥‥」 サライが苦無を手に構えながら、渓谷から上昇してきた鷹妖・拾を目で追う。翼の端から端までを計れば十メートルはありそうな巨大アヤカシ鷹が眼を光らせていた。 開拓者達は虚を突かれる。 鷹妖・拾はその大きさを最大限に利用して強力な風を巻き起こす。まるで台風の最中へ飛び込んだかのように開拓者達は風に揉まれた。 「すごいかぜ‥‥わっ!」 「ルゥミさん! こ、この手を」 Kyrieは強風で浮き上がったルゥミの腕を掴んだ。自らも吹き飛ばれそうになったものの、もう片方の腕で樹木の枝を握りしめる。それでもKyrieの爪先も地面から離れてしまう。 「た、堪えてください。だ、大丈夫ですから」 日依朶がKyrieの背中に掴まることで三人分の体重となる。それでようやく地面に足がついて難を逃れた。 「僕が相手だ! こっちにこいっ!」 暴風域から外れていたサライは鷹妖・拾の注意を引きつける。散華による苦無での連続攻撃。さらに木葉隠で鷹妖・拾を惑わした。 駆けるサライを鷹妖・拾が放った羽根が襲う。子供の大きさぐらいある羽根が次々と地面へ突き刺さる。それらをすんでの所で避けた。 「こうなったら、どんどんいっちゃうよ!」 ルゥミは縄で身体を樹木の幹に括りつけてからマスケットを構える。そして残りの練力を振り絞った。鷹妖・拾の腹部へと参式強弾撃・又鬼を叩き込む。 それからもルゥミは装弾と射撃を繰り返して鷹妖・拾を撃ち続けた。 「さらなる敵がいないとよいのですが」 Kyrieは谷の近くを歩いて『瘴索結界「念」』で探る。これ以上の伏兵は対処不可能。鷹妖・拾以外のアヤカシが隠れていた場合、一度撤退する必要があったからだ。 幸いなことに鷹妖・拾がこの地に巣くう最後のアヤカシだと判明する。 「こちらです」 「いえ、こちらですよ」 日依朶とサライがシノビ同士の呼吸を合わせる。 奔刃術による素速さで鷹妖・拾を惑わせた。手裏剣や苦無を投擲して少しずつ傷を負わせていく。Kyrieとルゥミの存在を思いださせないよう注意ながら攻撃し続けた。 「もう少しです‥‥」 Kyrieが鷹妖・拾の状態を確認しつつ閃癒で仲間全員を傷を回復させる。 瀕死に近い鷹妖・拾もこのまま黙って引き下がりはしなかった。最後の力を振り絞り、二度目の台風のような強風を開拓者達へと浴びせかける。 「みんな掴まってねっ!」 今度はルゥミが仲間を救った。自らを樹木の幹へと縛りつける前に縄を張っていたのである。 強風で吹き飛ばされそうになった仲間達が縄に掴まることで地上に留まる。強風が止むまでひたすら我慢した。 風が弱まるとルゥミは銃撃を再開する。サライは苦無を、日依朶は手裏剣を投げつけた。Kyrieも『黄泉より這い出る者』で攻撃に加わった。 鷹妖・拾は墜落するまでもなく、空中で瘴気の塵となって四散した。散り散りとなって消えていく。 渓谷に巣くっていた鷹妖は開拓者達によってすべて退治された。 ●縄 まだ日は高かったが非常に疲れた開拓者達は渓谷近くで野宿をする。 ねぐらになりそうな小屋と綺麗な水が流れる小川、そしてすぐに食べられるおにぎりがあったからだ。 「美味しいね♪ あ、おかかおにぎりだっ♪」 ルゥミはニコニコしながらおにぎりにかぶりつく。 「ご飯粒がついていますよ」 日依朶はルゥミのほっぺたについた米粒をとってあげた。 たくさんのおにぎりや干飯は集落の人たちが持たせてくれたものである。 開拓者達はぐっすりと一晩眠った。そして翌朝、渓谷の狭まった辺りに縄を張る。 シノビが奔刃術で勢いをつければ渓谷を飛び越えられる。念のために縄を二本渡しておくことにした。 縄の先を腰に巻いたサライとルゥミが順に跳んで反対側の崖の樹木に縄をしっかりと縛りつける。待機していたKyrieとルゥミはわずかに弛ませた程度に縄を引っ張って樹木へと結んだ。 これで渓谷の間に丈夫な縄が二本張られた。 試しにKyrieが縄を掴んで渓谷の間を渡ってみる。非常に怖いが渡ることはできる。吊り橋作りには充分な取っかかりといえた。 「この縄に掴まれば無事に渡れるでしょう。普通の人には少し大変ですかね」 「吊り橋ができるまでの辛抱です。きっと大丈夫ですよ」 Kyrieとサライが渓谷の底を眺めながら話す。落ちたら志体持ちでもまず助からない高低差がある。大抵の者は足がすくむはずだ。 「それじゃ帰ろうっ!」 ルゥミを先頭にして一行は帰路に就いた。 道中、集落の者達に教えてもらった自然の温泉に入って身体の疲れを癒やす。数日後、武天の都、此隅へと無事に辿り着いた。 完全回復とまではいなかったものの、かなりのところまで体調は元に戻る。深夜零時を待ち、精霊門にて神楽の都へと帰るのであった。 |