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■オープニング本文 朱藩の首都、安州。 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。 そんな安州に、一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。 「いきなり三体もなんて」 「う〜ん。どうしよ‥‥」 給仕の智塚鏡子と智塚光奈は満腹屋の裏庭で困った顔を浮かべていた。もふら、駿龍、そしてからくりが納められた箱を順に眺めながら。 事の初めは先月に遡る。 智塚姉妹はある募集に参加し、揃って希儀の地中海へと出かけた。 新たな料理を知ることができた、とても有意義な旅だった。しかしその間、満腹屋はてんてこ舞いの状態に陥ったのだという。 臨時の給仕役を親戚の娘に任せたのだが、これが大失態。とても不真面目で役に立つばかりか全力で足を引っ張られてしまった。 半日待たずに暇をだし、二人が戻ってくるまで残った頭数でこなしたのである。 「悪いのは娘達ではありません。私がいけなかったのです‥‥」 これを機に満腹屋の主である姉妹の父親、義徳は猛省した。少々働き手が少なくなっても問題のない体制にしなければと。 そこはまではよかった。正しい判断である。 だがその後取った対策が大問題。朋友や相棒と呼ばれている精霊、動物、機械仕掛けに手伝ってもらおうと考えたのである。 どれも手に入れにくいはずなのだが、常連の旅泰である呂に相談したところ二つ返事で引き受けてくれた。 その三体がつい先程満腹屋に届けられて、今に至る。 からくりは木箱の中で寝ていた。初期起動前なので目覚めた際に最初に見た者を主人と認識するはずである。給仕として頑張ってもらうつもりのようだ。 もふらさまの役目は荷車を牽くことだ。これまでは必要なときだけ近所からもふらさまを借りていたが、そうしなくてもよくなった。 駿龍ももふらさまと同じ買い出しが役目になるが用途は違う。 急に必要になった少量の食材を買いに行ったり、また遠方に出かけるのには駿龍の方が優れていた。適材適所というわけである。 からくりは光奈か鏡子と一緒の部屋に住むことになるだろう。だが、もふらさまと駿龍には専用の寝床を裏庭に作らなければならなかった。 「それぞれ名前はどうし致しましょう?」 「それも開拓者に相談しようかな」 智塚姉妹は朋友に詳しい開拓者に助けを求めることにした。 もふらさまと駿龍の寝床を作ってもらうのが第一。第二に朋友とどのように接したらよいのかを教えてもらうつもりだった。 (「出会い方はあまりよくない感じですけれど、一緒に暮らすからには仲良くなりたいのですよ」) さっそく光奈は開拓者ギルドに出かけて依頼を済ませるのであった。 |
■参加者一覧
星鈴(ia0087)
18歳・女・志
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
シータル・ラートリー(ib4533)
13歳・女・サ
火麗(ic0614)
24歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●満腹屋と三体の朋友 朱藩安州の満腹屋。精霊門で深夜に訪れた開拓者達は用意されていた宿の一室に泊まって一晩を過ごす。 お客が朝食を求める時間帯が過ぎた頃、給仕の智塚光奈は開拓者達に裏庭へと集まってもらった。 「そ、それでは起こすのですよ」 光奈は指南書にもう一度目を通す。大きな木箱の蓋を退けてから鍵を取りだし、中で横たわる女性型からくりの首輪を外す。 開拓者一同は間違いがないよう木箱から五メートル以上離れて様子を見守った。 横たわっていた女性型からくりの両目が開かれる。しばし光奈のことを見つめたあとで、女性型からくりは上半身を起き上がらせた。 女性型からくりはぼんやりとしながらも光奈を主人と認識したようである。 「えっとからくりさんは、私と一緒に暮らしてもらうのです。みなさんには、もふらさまと駿龍さんの住処をこの裏庭に建てて欲しいのですよ〜」 今のところ、もふらさまと駿龍には裏の倉庫で休んでもらっているという。このままだと一階食事処の仕事に支障があるので早めに建てて欲しいとのことだった。 木材や釘などの基本的な建築材はすでに用意されている。足りない建築材があれば別途取り寄せると光奈は説明した。 「それと朋友達に名前がないと不便なのでつけたいと思っているのですけど‥‥。お姉ちゃんと一緒に考えてもいいのが思いつかなくて」 光奈はよい案があったら教えて欲しいとぺこり頭を下げる。 「光奈さん、鏡子さん、銀政さんがご主人になるんですよね。なら三人からとって‥‥からくりは『ひかり』で『光』、もふらは『かがみ』で『各務』、駿龍は『しょう』で『政』ってどうでしょうか?」 一番最初に礼野 真夢紀(ia1144)が案をだしてくれた。 「駿龍さんにはガイム、という名前は如何かしら? ボクの国の言葉で、雲、という意味なのですわ」 シータル・ラートリー(ib4533)がガイムと呼びかけると駿龍は小さく吠える。とても気に入った様子なので、シータルは駿龍の首を撫でてあげた。 「命名か‥‥。からくりには『カラカラ』、駿龍には『ハヤハヤ』もふらさまには『もふもふりん』でどうだろうかねぇ」 火麗(ic0614)も意見をだしてくれる。 「どれもいい名ですけど――」 光奈は悩んだ上、からくりには『光』とつけた。駿龍は『ガイム』。もふらさまは『もふもふりん』と名づける。 朋友の名前が決まったところで具体的な作業順序が話題となった。 「まずは何より手のかかりそうなもふらさまの小屋からかかるかね」 「それがいいと思うのですわ。地質は大丈夫そうですね」 火麗とシータルに誰もが同意見である。全員でもふらさまの小屋に取りかかってから龍舎を作る順番となった。 「裏庭で邪魔ならないのはこの辺りなのですよ」 光奈が木の棒で地面に線を引いて希望する小屋と龍舎の予定地を示した。それにそって図面が用意されることとなる。 シータルが木陰の卓上でざっと素案を描いてくれるとのことなので完成するまでに土地の整備を行った。 『あのからくり、おともだち、なれる?』 「きっとなれます。作業が一段落する夜にでも挨拶してみましょうか」 礼野と上級からくり・しらさぎはせっせと雑草をむしる。 「どうせなら、少しでも過ごしやすくしてあげたいからね」 十野間 月与(ib0343)は納品書の数字と建築材の実数と照らし合わせた。 上級からくり・睡蓮と一緒に持ち上げて破損していないかの検査も忘れない。資材業者を疑うというよりも早めに足りない建築材の手配を済ませておきたかったからだ。 図面と間違いのない納品書を照らし合わせれば、建築材が足りるかどうか大まかにはわかるはず。肉親や知人の大工から教えてもらった知恵である。 「この土地唯一の邪魔もんはこいつやな。結構でかいで」 「引っ張ってもらえんかいな」 芦屋 璃凛(ia0303)と星鈴(ia0087)は予定地の大岩を取り除こうとした。まずは上級からくり・遠雷にも手伝ってもらい、シャベルで周囲を掘り返す。 最後に縄をかけてもふら・雲剣に引っ張ってもらった。 「せいのうや!」 もちろん芦屋璃凛、星鈴、遠雷も一緒に縄を引いた。やがて直径一メートル前後の岩が地面から掘り返される。 それからまもなくして先にもふらさまの小屋の素案図面ができあがった。休憩がてらみんなで素案図面を囲んで意見を出し合うことになる。 「差し入れなのです☆」 「みなさんがんばってくださいね」 光奈と鏡子がかき氷を奢ってくれた。使われていたのは銀政の氷霊結による出来たての氷である。 「柱を立てて四方を囲って板葺の屋根作って‥‥入り口は引き戸かな?」 礼野の意見も採り入れられて引き戸が採用された。もふらさまが使いやすいよう低位置に大きな把手も加えられる。 「もふらの寝床はどんなのかいいんや?」 「板間がええかいな? やっぱ畳でごろごろするんがええかいなぁ?」 芦屋璃凛に訊ねられた星鈴はもふらの雲剣と、もふもふりんに聞いてみた。どうやら畳敷きがよいらしい。 「布団がほしいもふ! お客様用に座布団も。おねがいもふ」 もふもふりんは布製の備品が欲しいとお願いする。 (「ま、布団や座布団ぐらいは構わないかねぇ」) 火麗はもふらさまがあまりに贅沢なことをいいだしたら反対意見に回ろうと考えていた。これ以上はと感じたところで、もふらさまの要望は終わった。 火麗としては贅沢の範囲に入りそうなぎりぎりの普通といったところである。 「ここはこういう風に変更するのですわ」 シータルが図面を修正をしている間に予定地はすべて綺麗になった。 岩を退かしてできた大穴は埋められて駿龍のラエドやガイムによって踏み固められる。 建築材として土は予め用意されていた。龍舎については多少盛って高くしておかないと雨の日が悲惨だからだ。 「もう半歩、東にお願いしますわ」 「これでいいのかい?」 シータルと火麗が測量して柱の位置を決める。それほど大きくはないので四隅の四本柱のみだ。 四畳半の小屋程度では大げさなので基礎工事は最低限。すべての柱用の穴の底に平らで大きな石を敷いておく。柱はどれもまっすぐに立つよう慎重に微調整が行われた。 平らを示す糸を張る作業は芦屋璃凛と星鈴が任される。 「もふらさまの住処やからね。ここは丁寧な仕事をせんといかん」 「もうちょい下や。そ、そこや」 二人は長い桶の水面を利用して糸の傾き具合を修正していった。 「ノミと玄翁なら任せてね」 「測るのは任せてもらえますか」 月与と礼野は木材同士を組むための溝を柱に刻んでいく。手慣れていない者にとっては非効率でも現物合わせの方が失敗は少なかったからである。 初日はもふらさまの小屋のために柱四本を立てて、梁で全部を繋げ終わった。 「ふ〜。気持ちいいのです〜♪」 「光奈さん、石けん貸してもらえるかしら?」 宵の口、智塚姉妹と開拓者達は一緒に近くの銭湯へと出かける。泥と汗を流してさっぱりしてから満腹屋で美味しい食事をとり、ぐっすりと眠るのであった。 ●もふらさま もふら・もふもふりんの小屋建築は順調に進んでいた。床部分の横木が組まれることでよりしっかりとした形になる。 床張りと屋根作りは同時にできそうなのだが、落下物の危険性を考えて片方ずつ順に行われる。何事も安全第一であった。 もふもふりんの主となる鏡子はもふらさまについて質問する機会を得る。板場の片隅で晩飯用の賄いを星鈴、火麗と食べたときに訊いてみた。 「どうもあの子、もふもふりんですけれど、微妙にさぼり癖があるような気がしますわ。目を離しているときはのらりくらりしているみたいで」 今からこの先が思いやられると鏡子がため息をつく。 「さぼり癖あるなら、それを逆利用していくのがいいかもねぇ。これだけやればこれだけ休めるというのをちゃんと示してやればいいのさ」 「なるほど。その手は思いつきませんでしたわ」 俯き加減だった鏡子が顔をあげると火麗は微笑んだ。 星鈴はもふらさまの全般的な傾向についてを教えてくれる。 「もふら様は気まぐれやから、締め付けるみたいに厳しく接したらあかん。でも叱るところは叱って、その後はちゃんと悪い思ってたら許してあげたり、子供に接するみたいにせなあかん感じやろか‥‥。人に教えるんはなんや難しいなぁ」 「やさしく、ですか」 「あと優しいブラッシングも大事やで。うちからはこんな感じやね」 「助かりますわ。明日にでも専用のブラシを買ってきますわ」 鏡子の迷いは吹っ切れたようである。 火麗と星鈴は裏庭での作業中、何度か鏡子ともふもふりんを見かける。うまくやっているようで助言してよかったと心の中で呟く二人であった。 ●駿龍 「龍舎作りはもう少しかかるようだ。大人しくして待っていてくれよ」 昼下がり、銀政は裏庭の木陰で寝転がる駿龍・ガイムと駿龍・ラエドに餌をあげる。 日中のガイムは裏庭で待機。日が暮れてからはもふら・もふもふりんと一緒に裏の倉庫で眠る毎日である。 「あ、銀政さんいましたです☆ 探していたのですよ」 「きみがガイムの主人になるんだね」 光奈とシータルが銀政へと駆け寄った。 「そういえばこっちのラエドはシータルさんが主人だったな。龍を飼うについて注意点とかはあるのだろうか?」 銀政が腰に手を当てながら二体の龍を眺める。経緯はどうであれ龍に乗る機会を得られたことが嬉しいようである。 「慣れてからになりますけれど――」 シータルは最初に基本的な注意点を銀政に教えた。そして龍達が餌を食べ終わったところでラエドへと近づいた。 シータルがラエドの首を優しく撫でてあげる。ガイムにもそう接していたのを光奈は思いだす。 「ボクは親しい人の様に接していますわ。友人というのが、一番イメージしやすいかしら♪ こういう風に接してみるのはどうでしょうか? 初めはぎこちなくても段々しっくりくるものだと思いますわ」 「なるほどな。飼うというよりも友人か。よしガイム、これからもよろしくな」 銀政もシータルを真似てガイムの首を撫でてあげる。数日後、それなりに通じてから龍騎する訓練を始めるのだった。 ●からくり (「わたしも、からくりのこと教えてもらおっかな」) 光奈はシータルと銀政のやり取りを見て、自分も助言をもらおうと考える。そこでからくりと一緒の開拓者達に声をかけた。 一日が終わり就寝するまでの空いた時間帯に光奈は礼野に声をかける。二階の物干し場で星空を眺めながら、からくりについての説明を聞いた。 「えっと、まずすぐ戦力にはなりません。起動直後は三〜四歳児程度の能力で、何も経験してないので常識も何にも分からないです。大体一〜四ヶ月ぐらいの教育が必要といわれてますの」 「少しずつ言葉は教えているのです。すごい勢いで覚えていますけど、まだ片言にも達していないのですよ」 光奈は聞いてよかったと帳面に書いていく。 「御給仕をするなら読み書き計算を覚えて、お盆を持ってお料理を運ぶ訓練を終えてから出さないと駄目だと思います。からくりの体って陶器に似ていますですから‥‥。しらさぎも最初はお皿何枚も駄目にしましたもの‥‥」 礼野が見下ろしたので光奈も裏庭を眺める。 『うまくとれない、でもだいじょうぶ』 上級からくり・しらさぎと光が材木の上に並んで座っていた。 「あやとり、ですか」 光の指はぎこちなくてうまくあやとりを受け取れない。しらさぎは丁寧にどうすればよいのか教えてあげていた。 「あと御給仕なら味について聞かれることもあると思いますが、人に合わせた細かい味や熱い冷たいなどの感覚も教えないとわかりません。最初は熱湯に手を突っ込んでも平然としてましたからその感覚でいたら人に怪我させる危険性大です」 「そ、それは大事なことなのですよ」 「飲み込んだ物は体内で消滅しちゃいますから、暫く大事な小さい物は見せない方が良いですよ」 「書いたところに二重丸をつけておくのです」 光奈は気軽にからくりの主人を引き受けたものの、実はとても大変なのではと思い始める。 「最初はこんなところですかね? でも最初は大変でも、教え込んだら人間と同じ体格ですからね、凄い戦力になりますよ」 「わかりましたです。とっても助かりました。光ちゃんには焦らず少しずつ教えていくのですよ♪」 光奈が光をちゃん付けで呼んだことに礼野は微笑むのだった。 次に光奈がからくりのことを訊ねたのが月与である。 もふらの小屋への畳入れが終わった後に裏庭で聞いてみた。 「睡蓮を参考にしたからくりの印象だけど、忠誠と献身、経験を積むに従い、思考力と判断力が向上する感じね。熟練すればだけど精密作業向きかな」 月与と光奈は離れたところにいる上級からくり・睡蓮とからくり・光を眺めながら話す。 「給仕としてからくりの光ちゃんを選んだのは正しい選択のようなのです☆ ただ光ちゃんはドジッ子気質があるような。勘違いならいいんですけど」 「個体差や性格の差が少なからずあるのは仕方ないかな。まずはお店の裏方を手伝わせて少しずつがいいと思うよ。ドジッ子っていってもいろいろあるからね。釣り銭を間違えるのか、転んだりするのかでも違ってくるし」 「ぼうっとしていて大事なことを見逃しちゃう感じなのです。まだ起きたばかりなのでそれが普通といわれちゃうかもしれないのですけれど」 「光奈さんの観察眼は鋭いから、きっとそうなんだと思うよ」 光奈は月与の助言も帳面にばっちりと書き残す。 『光奈様は、良き主です。末永く、お仕えしてお役に立てるよう‥‥日々精進ですね』 『はい』 睡蓮は光に身体をほぐす準備運動を教えてあげるのだった。 早朝の満腹屋。裏庭で下拵えをしていた光奈を芦屋璃凛が手伝ってくれる。 「芦屋さん、是非にからくりについて教えて欲しいのです☆」 「からくり? そうやなあ」 包丁でジャガイモの皮剥きをしながら二人は話す。 「睡蓮はうちの暴走をよく止めてくれるで。いつかあんたとからくりも、そういう関係になれるやもしれん」 「よくわたし、鏡子お姉ちゃんに突っ走る性格だっていわれるのですよ〜♪ 光ちゃんがそうなってくれたらお姉ちゃんの負担も軽くなるのかもしれないのです☆」 冗談を交えながら、からくり談義は続いた。光奈は後でちゃんと芦屋璃凛の助言も書き残す。三人の開拓者に教えてもらったおかげで帳面の中身はとても充実したものになる。 後日、こっそりと上級からくり・遠雷が光奈に耳打ちする機会もあった。 『マスターの俺の扱い方は感情的過ぎるきらいがある。それを、間違いなのか解らないが‥‥、自分に従うのも悪くないと思う』 「なるほどなのですよ」 光奈は芦屋璃凛だけでなく遠雷にも感謝するのであった。 ●もふらさまの小屋 開拓者達のがんばりによってもふらさまの小屋は完成する。 雨漏り対策としてしっかりと隙間が埋められた板葺きの屋根。小屋の中は畳敷きの四畳半になっていた。 出入り口となる引き戸もそうだが、窓についてももふらさまが開けやすいよう工夫が施されている。 『ありがともふ♪』 「え、ええ‥‥」 もふら・もふもふりんが畳の上にどでんと大の字になって寝転がった。その姿を見た鏡子が大きな不安を感じる。もしかして怠け癖だけでなく引きこもり体質なのかもしれないと。 「そうそう。私、早朝に散歩をしていますの。明日から一緒につき合ってもらいますから、お願いしますね」 『かったるいもふ。応援だけするもふよ』 「夕食に一品増やしてあげようかどうか悩んでいまして‥‥どうしましょう」 『散歩、つき合うもふ』 このときの、もふもふりんはまだ知らない。散歩とは名ばかりで荷車を引っ張っての食材店巡りになることを。但し一品増やしてあげるのは本当である。 鏡子はやっていけそうな手応えを感じ取った。 ●龍舎 「これだけの空間があればゆっくりと休めると思うよ」 龍舎については月与の主導で作業が進められた。図面を描いたのも彼女である。 先に難しいもふらさまの小屋を建てたおかげで作業自体は滞りなく進んだ。 土を盛って固め、雨が降っても大丈夫なように高くしてある。屋根や壁もちゃんと雨風が凌げる丈夫さを確保していた。 駿龍・ガイムと一緒に駿龍・ラエドが入ってもまだまだ余裕があった。少し詰めれば五体の龍が休めるという。 「想像していたよりも天井が高いのですよ。それに採光用の窓のおかげで明るいのです☆」 「背伸びすると龍は高いからね。屈んでいればそうでもないけど、頭ぶつけたらかわいそうだから」 龍舎を訪れた光奈は月与に案内してもらった。二体の龍がふかふかの藁の上に寝転がっているのを眺めて自分たちも座ってみる。 「夏場なのに結構涼しいのですよ。ここでお昼寝したくなるのですよ〜♪」 「さっき一緒に来たまゆちゃんが同じこといってたかな」 光奈と月与はしばらく藁の上で寝転びながらお喋りを楽しむのであった。 ●完成の一時 裏庭にいた芦屋璃凛と星鈴は木陰で涼みながら完成した小屋と龍舎を眺めていた。 「どちらもようできとるわ。頑張った甲斐があったってもんや。疲れたけどな」 星鈴が両腕をあげて背伸びをする。 それを見た芦屋璃凛はコルク栓を抜いた土瓶を差しだす。 「うちの作った自信作も有るんやけど、まずはこれやで。疲れたときには炭酸水や」 「ひんやりしとるんやね」 笑顔で語る芦屋璃凛に星鈴が頷く。 「では完成を祝して」 芦屋璃凛と星鈴が互いの土瓶を軽くぶつけて乾杯を交わす。さっそく星鈴が淡彩水を口にした。 「んっ!? ‥‥ピリッとするけど、なんや不思議な感じやな」 「初めての感動を共感したかったんや」 それから芦屋璃凛と星鈴はしばらく炭酸水を話題にする。芦屋璃凛はジンジャースパークのことを話すのだった。 ●宴 そして ささやかながら宵の口に小屋と龍舎完成の宴の席が用意される。 閉店後にもかかわらず、満腹屋の料理ならどれでも食べ放題だ。 「おいしいやん。これ」 星鈴は芦屋璃凛が考えたというジンジャースパークを飲んでみた。 「ぎょうさん作ったんでたんと食べてや」 芦屋璃凛は板場を借りて魚介類たっぷりのブイヤベースやアヒージョを作る。一番喜んで食べたのは鏡子である。 「お友達になれてよかったね」 『とても、よかった』 礼野は上級からくり・しらさぎから光と遊んだ話を聞いてそう答えた。 (「参考にしてもらえればいいかな」) 礼野は上級からくり・睡蓮に満腹屋のお手伝いをしてもらう。からくりが実際に給仕するところを光へと見せるために。 「龍舎に置いてきましたわ」 シータルは光奈からもらった炙り豚肉の塊を二体の龍にあげてきた。仲良く美味しそうに食べていたそうだ。 「豪勢だねぇ」 「遠慮なく注文してくださいなのです☆」 火麗はお好み焼きなどを摘まみにし、羽妖精・冷麗の酌で天儀酒を嗜む。 冷麗は屋根まで釘を運ぶ作業を頑張ってくれた。火麗は冷麗のために柑橘味の炭酸水を注文する。 天儀酒の次は蒸留酒の炭酸割りを楽しんだ火麗である。 「おかげで朋友の住処もできたし、いろいろとわかったのですよ〜♪」 開拓者達が帰路へ就く前に満腹屋の朋友達からお礼の挨拶があった。 『ありが、とう』 からくり・光が棒立ちのまま感謝の言葉を口にする。光の教育はこれからである。 『小屋、快適もふ。追いだされないようにがんばるもふ』 もふら・もふもふりんの挨拶はやる気があるなしがわからなかった。ただ鏡子の手綱はしっかりしてそうだ。 『ガウ』 駿龍・ガイムの啼きを理解できるのは駿龍・ラエドだけ。それでも感謝の気持ちは開拓者達に伝わる。 お土産をもらった開拓者達は精霊門で神楽の都へと帰っていくのであった。 |