第二回お汁粉重音杯
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/12/24 19:50



■オープニング本文

 理穴奏生の各甘味屋が協力して毎年行われていたお汁粉の大食い大会は、去年に『お汁粉重音杯』と看板を掛け替えた。
 大会責任者が儀弐王への協力を願う嘆願を奏生城の目安箱に投函したからである。
 当人もまさか本当に受け入れられるとは思っておらず、決まってからてんやわんやで準備が行われた。結果、予定していた野ざらしの空き地ではなく、商家の使われていない屋敷で開催される。
 今年は時間をかけて会場に力が注がれた。前回の屋敷を本格的に改造し、より使いやすくまた見学しやすい会場が完成する。
 奏生城を訪れた大会責任者は儀弐王とのお目通りが叶う。
「今年も楽しみにしています」
「誠心誠意、執り行わせて頂きます」
「‥‥お汁粉は去年と同じでしょうか。つまり粒あんですよね」
「は、はい。それで準備しております。餅も含めて去年と同等のものを提供するつもりです」
「それを聞いて安心しました」
「は、はい」
 儀弐王から参加する意思確認がとれてほっと一息をつく。さらに特別観覧者として今年は奏生ギルド長の大雪加香織も立ち会ってくれるという。
 参加希望者はついに二百名に達する。ここまでくると事前予選が必要となった。
 勝利条件は簡単。餅一つ入りの粒あんの汁粉の椀を何杯食べられるのかだ。
 部門は四つ。男性の部(十六歳以上)、女性の部(十六歳以上)、男の子の部(十六歳未満)、女の子の部(十六歳未満)で競い合う。
 予選免除の特別枠として今年も最大八名の開拓者が本戦に招かれる。
 当日は快晴。会場の屋敷は多くの見学者でごった返した。
「おいしい汁粉だよー。並んでならんでー」
 見学者達にも汁粉が振る舞われる。
 まもなくお汁粉重音杯の開催であった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
神座亜紀(ib6736
12歳・女・魔
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文

●修行の日々
 ある晴れた日の神楽の都。
 開拓者ギルドを訪れた羅喉丸(ia0347)と天妖・蓮華は掲示板に貼りだされた依頼書を眺める。
 興味を引く依頼はないかと考えながら歩いているうちに羅喉丸の足が止まった。
(「第二回お汁粉重音杯か、理穴が平和になり、かつ安定してきたという事の証拠なのかな。いいことだな。それに大雪加さんも来るのか」)
 まずは去年に行われた第一回の報告書にコンビで目を通す。
『前回、男性の部の優勝者は汁粉十杯を食べたようじゃな』
「再戦を誓った者はそこを目指すだろうから、まずは十杯食べられるようにするところからか。しかし儀弐王について書かれた部分は‥‥さすがだな、見なかったことにしよう、健啖家でおわせたな」
 報告書には余談として儀弐王に関する記述も残されていた。不確かな表現だがどうやら大会参加者よりもお汁粉を食べていたらしい。
 無差別級などがなくて本当によかったと蓮華に話しつつ、羅喉丸は受付で参加の手続きを済ませる。
 帰路の途中で食材店に立ち寄っていろいろと購入。羅喉丸は複数の袋を肩に担いで運ぶ。袋の中身は小豆、餅、砂糖。蓮華が持つ小袋の中身は塩だ。
 住処に戻った羅喉丸は鍋に入れた小豆を水に浸す。明日からの修行に備えて汁粉を作ろうとしていた。
『羅喉丸よ、お主も男の子じゃからな、わかるぞ。まあ、頑張るがよい』
 蓮華も手伝って汁粉が完成する。
 羅喉丸は日課の修練を欠かさなかった。それで空かした腹は汁粉で満たす。
「三杯でもうお腹いっぱいだ。もう少しいけるものだと考えていたが、こんなにきついものなのか‥‥」
『わらわのは餅二つ入りじゃ。一杯で十分じゃぞ』
 依頼手続きから三日が経過。最初は応援していた蓮華だがさすがにお汁粉だけでは飽きてくる。
『羅喉丸さんや、汁粉以外はないのかのう』
 よろよろとした足取りの蓮華が羅喉丸の足にしがみつく。
「買い食いしても構わないぞ。ただ俺から見えないところで食べてくれ。これで足りるだろう」
『‥‥いや、冗談じゃ』
 結局のところ、蓮華は最後までつき合う。
 大会当日まで羅喉丸はお汁粉による胃袋の鍛錬を欠かさなかった。

●第二回お汁粉重音杯
 そしてついに大会の当日が訪れる。
 理穴奏生はすでに雪景色。朝になれば雪かきをして川に流す。
 前日入りしていた開拓者達は一緒に会場となる屋敷へと向かう。
 参加の最終手続きを済ませた後は互いの健闘を祈りつつ一旦解散した。大食い大会まではまだ時間がある。集中したり、気持ちを落ち着かせる方法はそれぞれ違うからだ。
「前に似たようなノリでかき氷の大会に参加してみたら何故か優勝しちゃったんだけど、今回もとか流石にないわよねぇ?」
 御陰 桜(ib0271)は並んで歩く闘鬼犬・桃に話しかけた。
 小さく吠えたり、首を振る桃の姿はまるで会話しているかの様。それもそのはず。闘鬼犬は人並みの知能を備えていた。
 御陰桜は屋敷の庭に置かれていた低めの椅子に腰かける。
『桜様、無理はなさらぬ様にして下さい』
 桃は御陰桜に近づいて他の者には聞こえない小声で話す。
「心配しなくても、しっかり味わってお腹いっぱいになったらりたいあするわよ」
 御陰桜は桃をお膝するようにして首から頭にかけてをなで回す。互いにスキンシップを楽しんでいたところ、桃が両耳を立てて機敏に振り向いた。
「桃、ナニか気になるの?」
『あの大樹の側にいる方。只者では無い様ですが、あの方が儀弐王様でしょうか?』
 桃が眺める視線の先を御陰桜が追う。
「変装シているけど儀弐王さまよねぇ? 気になるなら声かけてみる?」
『わん!』
 御陰桜と桃は立ち上がって儀弐王らしき人物の元へと近づいた。
「儀弐王さま、お初にお目にかかります御陰桜ともうします」
 他の者には聞こえないような声の大きさで御陰桜は話しかける。
「これはご丁寧に。儀弐重音と申します。開拓者の方ですね。大会への参加、ありがとう御座いますね」
 市女笠の影に隠れていた顔は紛れもなく儀弐王である。御陰桜は神楽の都で売っていた錦絵で儀弐王の容姿を見知っていた。
「相棒が御挨拶をともうしますので。桃」
『桃と申します』
 桃がゆっくりとお辞儀をする。
「桃さんですね。御陰桜さんと共に覚えました。闘鬼犬とは珍しい」
 儀弐王は腰を屈めて桃の頭を撫でた。
 儀弐王と挨拶を交わしたところで御陰桜は会場入りする。
 桃はできるだけ御陰桜の近くで応援したくなって観客席には向かわない。こっそりと別の場所へと忍び込んだ。

●去年の優勝者
 大会前に儀弐王と会ったのは御陰桜と桃だけではなかった。神座亜紀(ib6736)も庭の片隅で再会していた。
「王様の去年、すごかったよね。今年も期待してるね♪」
「もしかして見ていらっしゃったのですか? それは参りましたね。こっそりと頂いていたのですが」
 第一回の思い出に次々と花が咲く。
「ディフェンディングチャンピオンとして負けられない、頑張るよ!」
「その意気です。お汁粉、とても美味しいですよ」
 笑顔の神座亜紀の肩に儀弐王が右手をのせて応援してくれる。
 ふと横を眺めてみれば提灯南瓜・エルが遠くを眺めていた。視線の先にあったのは振る舞いの汁粉をもらうための行列である。
「食べておいでよ。でも本番ではちゃんと応援してね」
『解ってるわよ』
 一声かけてエルを送りだす。走りながら両腕を振ったエルに苦笑しつつ、神座亜紀は儀弐王とのお喋りを続ける。
 儀弐王が本番用の汁粉を味見したところ、去年と殆ど同じ仕上がりになっていたという。
「去年が六杯だったはずだから‥‥今年は七杯を狙うね!」
「熱いですから気をつけてくださいね。特にお餅が‥‥そろそろ時間でしょうか」
 参加者集合の鐘の音が鳴り響く。
 次に会うときは表彰台だと儀弐王に宣言して神座亜紀は駆けていった。

●開催間もなく
 サライ(ic1447)は羽妖精・レオナールと一緒に屋敷の庭を散歩する。
「さっき受付の人に聞かれたね。お汁粉の大会にアル=カマルの出身者が参加するのは珍しいって。確かに本来ならば師が参加する筈だったのですが‥‥」
『つるはし担いで別の依頼に行っちゃったからね♪』
「代理とはいえ、手は抜きませんよ!」
『その意気よ。サライきゅん♪』
 サライの準備は万端である。
 食事を抜くと胃が縮んで却って食べられなくなると師から教えられていた。今朝は消化のよさそうな柔らかい食事を普段より少ない程度で済ませてある。
 参加者集合の合図となる鐘が鳴らされた。
 サライはレオナールと別れて会場入り。四つの部に区分けされていたが、大食いの宴は同時刻に行われる。
「あれが儀弐王様‥‥。噂通り、凛としたお美しい方ですね」
 サライが貴賓席を望むと中央に座る女性が目に入った。彼女こそ理穴の女王『儀弐重音』である。
『ライきゅん頑張って〜♪ 負けたら水剛舌と触手でお仕置きよ〜♪』
 観客席から聞こえてきたのはレオナールの声援だ。会場の一部からどっと笑いがわき上がる。
(「そういうことは余り言わないでほしいんだけど‥‥」)
 サライは肩をすぼめて身体を丸めさせた。
 少し遅れてやってきた女性が儀弐王の隣席に着く。
 サライも開拓者。ギルドで肖像画を見たことがあるので彼女が誰なのかは知っている。理穴ギルド長の大雪加香織だ。
「雪の奏生によく集まられたと――」
 儀弐王が開会式の宣言を行う。その後十分ほどお汁粉の支度に時間がとられる。
 参加者達は緊張の中、椅子に座り続けた。この間がとても息苦しい。
「それでは第二回お汁粉重音杯‥‥始め!」
 司会役の男性のかけ声に続いて銅鑼が響く。ここに第二回お汁粉重音杯の火蓋は切って落とされた。

●男性の部
(「こういうときには回りの誰もが強く見えるものだな」)
 最初の一杯を口にしながら羅喉丸は周囲の参加者を眺める。
 目の前に座る巨漢の男達はまるで相撲取りのようだ。湯飲みから茶でも啜るが如く、椀を空にしている。羅喉丸が一杯を食べ終わった時点で三杯を平らげていた。
(「焦らず一定の調子を保つんだ。あんな出足で最後まで持つはずがない」)
 羅喉丸はふと顔を上げて来賓席の大雪加へと視線をやる。ちょうど大雪加も羅喉丸に視線を向けたところだった。
 図ったかのように二人は見つめ合う。
『羅喉丸! おぬし何をしているのじゃ!』
 驚いて咽せる羅喉丸の耳に観客席から天妖・蓮華の声が届いた。失格にはならない程度で咳き込みは収まり、勝負を続行する。
 二杯、三杯、四杯と卓上に椀を重ねていく。五杯目を口にしてもまだ腹には余裕があった。
(「よし、これも鍛錬の成果だ。このまま行くぞ」)
 羅喉丸はゆっくりと、だが止まることなく食べ続けた。
 最初は強敵と思われた巨漢の者達は次々と脱落。男性の部の半数が四杯目でいなくなり、さらに五杯目では約九割がいなくなる。
 六杯目ではさらに絞り込まれ、ここから先は選ばれた者達の戦場と化す。この場に留まれたことを羅喉丸は心の中で喜んだ。
(「そろそろきついか」)
 八杯目の一口目で羅喉丸に変調が起きた。一気に満腹感が体中を駆け巡ったのである。それまで機敏だった箸の動きがぴたりと止まった。
 額に浮かんだ汗が止めどなく頬を流れていく。
 羅喉丸は知らなかったが、目撃した者に言わせれば大雪加は心配そうな瞳で見つめていたという。
 八杯目を完食。九杯目は気力と精神力を注ぎ込んだ。それでも喉を通っていかず、椀を卓に置いて天井を見上げる。
「敗れるとしても、それは己の全力を出し切ってからだ」
 その呟きは観客席の蓮華にも聞こえた。
『あの苦難の日々を無駄にする気か、立て、立つんだ、羅喉丸!!』
 三食お汁粉の日々につき合った蓮華だからこそ、羅喉丸の意気込みを知っていた。
 九杯目まで達したのは羅喉丸を含めて三名のみ。そして九杯目を完食したのは羅喉丸ともう一人だけ。
 ついに去年と同じ十杯目の領域となった。
 冷めたら美味しくないとの理由で一杯にかけられる最大時間は十五分。最後の数秒で羅喉丸はすべてを腹に収める。最後まで残っていたもう一人は一口食べただけ。
 男性の部の優勝は羅喉丸の頭上に輝いた。

●女性の部
「いただきます♪」
 銅鑼が響き渡る中、御陰桜は手を合わせてから一杯目のお汁粉を食べ始める。
 闘鬼犬・桃はちょうどよい位置の梁の上から御陰桜を見守った。
「この甘い香りと温かさがたまらないわねぇ♪」
 熱めなのでふ〜ふ〜しながら食べながらも二杯目を完食。桃は『流石、桜様』と呟きながら静かに応援する。
 女性の部は三杯目から脱落者が続出した。四杯目に辿り着いたのは半数以下。五杯目を受け取った参加者は十人に満たなかった。
「おしるこはやっぱりこし餡より粒あんよねぇ♪」
 御陰桜は知らなかったが、粒あんにしたのは儀弐王たっての希望である。その呟きが儀弐王に聞こえていたのならとても喜んだに違いない。
 はふはふと五杯目も食べ終わる。
「桃にも食べさせてあげたいけど、わんこには甘すぎるしねぇ‥‥」
 桃に食べさせるとすれば餅の代わりに小麦粉を捏ねたものを使うしかない。さらに砂糖はわずかにするか、入れない方がよいだろう。
「お代わりオネガイ♪」
 そうこうするうちに六杯目の椀も空になる。御陰桜は笑顔で七杯目の椀を受け取った。
(「そろそろよね。これでりたいあがちょうどいいわよね」)
 七杯目の半分食べたところで満腹感を感じる。九杯目までいけそうだが無理はしない。
「ごちそうさま♪」
 御陰桜は食べ終わった七杯目の椀を置いて手を合わせる。
 七杯目に挑戦していた女性の部の参加者は御陰桜を含めて四人いた。
 二人が早々に降参。残る一人は最後の一口が食べられずに力なく椅子の背へともたれ掛かる。
「えっ? もしかしてあたし?」
 御陰桜は無心故の勝利に輝く。梁の上の桃は足を滑らせて落ちそうになるほどの喜びようであった。

●男の子の部
(「ゆっくり、少しずつ、自分のペースで食べていきましょう」)
 お汁粉一杯目の一口目を含んだサライは甘味の加減に瞬きを繰り返す。アル=カマルのお菓子に慣れたサライにとってはかなり控えめに感じられたからだ。
(「ですが‥‥美味ですね」)
 大会用のお汁粉は儀弐王からの注文によって一般的なものよりも甘味が抑えられている。
 仮初で表情を余裕の笑顔に固定しておいた。こうすることで他の参加者の気勢を削ぐことができる。
「これなら幾らでもお腹に入りますね」
 さらに時折、周囲へ聞こえるよう呟いてみせた。
『フレーフレーサライ〜♪』
 羽妖精・レオナールはこの日のために衣装を一式揃えていた。両手にふわふわしたものを握ってハイキックを繰りだし、サライを応援する。
 男の子の部は四杯目から脱落者が続出した。
 他の部に比べて非常に極端な状況であり、五杯目には残り四人となった。サライはその中に含まれている。
 如何にうまくても同じ味は飽きてくるものだ。サライは持ち込みの野菜のドルマを囓り、強烈な辛味で舌を刺激する。
 この行為は大会規約の範囲内であり、サライの他にも舌休めの食べ物を持ち込んだ参加者はそれなりにいた。
「だ、だめだ‥‥」
「もう、これいじょうは‥‥」
 残っていたうちの二人が同時に脱落。残るはまん丸に太った男子とサライのみ。ついに戦いは七杯目に突入する。
『勝ったら抱き付いて触手で撫で撫で♪ 負けたら触手でぬるぬる責めよ♪』
 レオナールの応援はまた会場の笑いを誘う。
(「ひゃっ‥‥どっちも変わらないじゃないかっ」)
 仮初のおかげで笑顔は維持できていたが、サライの心中はどぎまぎである。
 大分きつくなってきたがサライは七杯目を完食した。まん丸男子も殆ど同時に殻となった椀を卓に置く。
 去年の男の子の部優勝は七杯。今年は前人未踏の八杯目に足を踏み入れる。
 笑顔のサライに苦悶の表情を浮かべるまん丸男子。
 サライは「九杯目も余裕ですよの態度」で完食の八杯目の椀を卓に置いた。しかしもう食べられないと心の中で決めていたのも確かである。
「降参です‥‥も、もう無理だ」
 まん丸男子が八杯目の餅を残す。ここに男の子の部におけるサライの優勝が決まった。

●女の子の部
「よし、今年も頑張るよ!」
 神座亜紀は銅鑼の合図と同時に椀と箸を手にしてお汁粉を頂く。
 舌休め用の花鞠茶は卓の隅に置かれている。お汁粉一杯目を食べ、すぐ二杯目に手をつけた。
 去年の優勝者として神座亜紀にはプライドがあった。誰にも負けられないと心を研ぎ澄ませて集中する。他の参加者には目もくれずお汁粉を食べ続けた。
(「あれ、おかしいな?」)
 三杯目を食べ終わったところで箸が止まる。
 去年の優勝時に食べきったのは六杯。まだ半分のところだというのに苦しく感じられた。気休めに花鞠茶を飲んで喉を潤す。
(「こんなことじゃ、今年はダメかも‥‥」)
 再び食べ始めたものの、不安が心の中いっぱいに広がっていく。
『亜紀〜、頑張れ〜!』
 そのとき、提灯南瓜・エルの声が神座亜紀の耳に届いた。
 観客席を探すとエルは幸せそうにお汁粉を食べながら応援している。
「‥‥そうか!」
 神座亜紀ははっと我に返った。
(「そのつもりはなかったけど二連覇しないとと気が焦ってペースが速くなってたのかも。美味しはずのせっかくのお汁粉なのに‥‥」)
 これまで三杯も食べたのに味を覚えていない自分に愕然とする。
「せっかくのお汁粉、味わわないともったいないよね」
 そう呟いた神座亜紀は優勝のことはひとまず横に置く。ペースを落としつつ味を確かめながらお汁粉を頂いた。
 儀弐王が監修したお汁粉はとても食べやすく仕上がっている。
 餅は喉に詰まりにくい大きさの焼き餅。甘みは抑えつつも上品な味付け。まさに大食い大会のためのお汁粉だ。
 そんなことを考えつつ食べ進めている間に五杯目を食べ終わった。
 六杯目の途中まで競っていた二人が脱落。さらにもう一杯、空の椀を重ねて自分がだした去年の記録を越えてみせる。
 神座亜紀は七杯完食で女の子の部を二連覇した。

●笑顔
 各部門の上位には儀弐王と大雪加から賞金と粗品が手渡される。
「この後、少し奏生を回るつもりなんだが‥‥、時間はあるだろうか?」
「はい。あの、最近美味しい店を見つけたのですが‥‥あ、羅喉丸さんは食べたばかりなのに」
 羅喉丸と大雪加が小声で約束をする。羅喉丸と天妖・蓮華は神楽の都に帰るのを一日遅らせた。大雪加と一緒に奏生見物を楽しんだ。
「桃さんにお土産があります。後でお渡ししますね」
「ものすごく喜ぶわ♪」
 儀弐王から御陰桜を通じて闘鬼犬・桃に贈られたのは特製のハムである。
 塩気は最終的に抜かれているので保存には向かない。その分、犬には良さそうな味付けに仕上がっていた。桃は奏生の滞在中に平らげる。
「二回連続おめでとうございます。記録更新とは流石ですね」
「有難う、儀弐王様♪」
 神座亜紀は表彰が終わってすぐに提灯南瓜・エルの元へと駆け寄った。
「お蔭で大会を楽しめたよ、有難う」
『‥‥ど、どういたしまして』
 神座亜紀がかけた感謝の言葉にエルはきょとんとしていた。理由がわからなかったらしい。そんなエルを見て神座亜紀はつい吹きだしてしまう。
(「来年もまた参加しよう」)
 会場となった屋敷を立ち去る際に神座亜紀はそう心の中で誓った。
「男の子の部、優勝おめでとうございます。去年は開拓者の参加者はいませんでした。ですので開拓者としては初代優勝者になります」
「それはとても名誉なことです」
 サライは夜春を使って儀弐王と話す。
「僕の数えでは十二杯だったような。たくさん食べておいででしたね。次に機会があれば儀弐王様に挑戦したく思っております♪」
「平和に近づいた世の中、そういう機会もありましょう。私も楽しみにさせて頂きますね」
 ばれないようにしていたが、儀弐王は今年も観覧中にお汁粉を頂いていたようである。サライは儀弐王と約束を交わした。

 重音杯が終わると止んでいた雪が舞い落ちてくる。
 天儀本島の北に位置する理穴は寒い。それでもこの地に住む民は工夫して暖かく過ごしている。お汁粉もそういった知恵の一つであった。