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■オープニング本文 去年の暮れ頃、朱藩北部のある村で風邪が流行った。 最初のうちは誰もが軽く考えていたが、寝込む者が続出して笑い事ではなくなる。やがて最初期にかかった老人が亡くなってしまう。 年明け早々に村近くの墓地へと弔うが、それから三日後に驚くべき事態が発生した。老人が墓から現れたのある。 すでに人ではなかった。アヤカシと化していた。 元村人の老人アヤカシは村人を襲う前に崖から足を踏み外す。モズの早贄のように樹木へと刺さり、身動きできなくなって瘴気に還っていった。 「こりゃ大変だ‥‥。大変すぎる‥‥」 ここにきてようやく状況を正しく理解する村人が現れる。村人全員が風邪だと思っていたのは、噂に聞いたことがある瘴気感染ではなかろうと。 「どうしてこんなことが」 「この村の周辺で瘴気が濃いところなんてありゃしないぞ。変なことも起きていないし」 「変なこと、変なこと‥‥。そういえば、少し前に一瞬目の前が掠れたような気がしたんだが、酔っ払っていたからな」 「いわれてみれば俺にもあったような。でも気のせいだろ」 このままでは瘴気感染が進行して村人全員が死に至り、最後はアヤカシになってしまう。大急ぎで開拓者ギルドに連絡をとって回復処置の要請をだした。 数日後にはギルド所属の中型飛空船十隻が村に到着する。 診察の結果、村人百十名のうち感染していなかったのはわずか六名のみ。残る全員が治療のために朱藩安州のギルド施設へと連れて行かれる。瘴気感染の原因が探られたものの、わからないまま調査は終了した。 そして一月の中頃。十数キロメートル離れた菜樫村で似たような症状の患者が現れる。 瘴気感染の患者だらけになった村の顛末は菜樫村にも届いていた。菜樫村の長は開拓者ギルドに連絡をとり、瘴気感染の患者の治療と発生原因の調査を頼んだ。 二日後にはギルド所属の中型飛空船一隻が菜樫村に到着。瘴気感染の患者三名が乗せられ、調査担当の開拓者一行と瘴気診断の巫女二名は下船した。 飛空船が菜樫村に戻ってくるのは一週間後。巫女二名は村人の健康診断が役目である。調査担当の開拓者一行はさっそく瘴気感染の原因を調査し始めた。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●菜樫村 瘴気感染の患者三名を乗せた中型飛空船が上空に浮かび上がった。わずかな間に菜樫村から遠く離れて東の空へと消えていく。 調査担当の開拓者四名と瘴気診断の巫女二名を迎えに来るのは一週間後。遣いの者に案内されて六名が朋友達と共に村長の屋敷へと向かう。敷地内にある離れの一軒家に滞在の間、寝泊まりすることとなった。 「開拓者の皆様、遠路はるばるご苦労様です」 すぐに村長が現れてこれまでの経緯が口頭で詳しく語られる。 訪問する村人全員の診察は巫女二名の役目。調査担当の開拓者四名は搬送された三名の感染原因を突き止めた上で解決するのが課せられた仕事である。 「診察大変ね。出かけることがあれば瘴索結界での反応を試してくれるかしら。お願いするわね」 雁久良 霧依(ib9706)は巫女二名に声をかけてから仲間達と出かけた。まずは調査担当の全員で村を一周してみる。 「瘴気感染は知識がないとただの風邪と間違えるからな。対処が遅れたら大変なことになる」 羅喉丸(ia0347)は会釈してすれ違った村人を背中越しに眺めた。これから村長の屋敷で診察してもらおうとしている村人に違いない。 「そういえば、蓮華は風邪をひかないのか?」 瓢箪徳利片手にふわふわと宙に浮かんでいる天妖・蓮華が少々むっとした表情を浮かべる。 『なんじゃ羅喉丸。お主、何か失礼なことを考えておらせんか』 「いや、風邪をひかれて助けてもらえてくなったら俺が大変だからな。頼りにしているぞ」 蓮華はうまく誤魔化されたと思いながらも悪い気分はしなかった。 「羅喉丸さんのいう通りだわ。このまま感染が広がれば大変なことになるわね‥‥」 『これ以上死者を出すわけにはいきませんな』 答えはまともなのだが、提灯南瓜・ロンパーブルームは雁久良のお尻を見つめるために彼女の真後ろを歩いていた。 雁久良が左右に避けてもついて回る。あまりにしつこいので拳グリグリの刑を受けるロンパーブルームだ。 「はてさて、新種の病気でござろうか‥‥。拙者、搬送される前にリィムナ殿と一緒に患者三名に訊いたでござる」 霧雁(ib6739)とリィムナ・ピサレット(ib5201)は安州の開拓者ギルドへ搬送された患者達にいくつかの質問をしている。 最近、同じ場所に行ったかどうかについてはわからないと答えていた。同じ村に住んでいても特に仲がよかったわけではないからだ。 屁理屈になるが、患者三名とも菜樫村に根付いた生活を送っていたので、その意味では同じ場所に行ったともいえる。 水や食料に関しても地域で得られたものしか食べていないと証言していた。 たまに来る行商から干物などを買うこともあるが、それは他の村人も一緒。特別なことではなかった。 『瘴気といえばアヤカシの仕業じゃねえのか? 調べてみねえと分からねえがな』 蓮華の話しに区切りがついたところで仙猫・ジミーが呟く。すぐに野良猫の集まりを見つけて駆け寄っていった。後で合流すると言い残して。 「患者達によると特別なことは何もなかったんだね‥‥。何らかの形で感染源と接触していなければ瘴気感染は起こらない筈だよね。逆説的にいえば原因はこの村の周辺に限られるってことになるけど‥‥エイルはどう思う?」 リィムナは瘴気の状態がわかる『片眼鏡「斥候改」』を顔にかけていた。 『原因は何かな‥‥。ジミーさんもいっていたけど、やっぱりアヤカシ?』 胸元で腕を組んだ上級人妖・エイルアードが宙に浮かびながらクルリと逆さまになる。 「この村、普通なんだけど普通じゃないというか。ちょっとだけ瘴気が濃い感じがするけれど。でも何というか、印象でいうと瘴気の筋がいくつもあるような」 リィムナ自身もどう表現してよいのかわからない状態のようだ。 「そろそろ村を一周した感じか。ここからはばらけて原因を探ってみよう」 羅喉丸の一言で解散することになる。日が暮れるまでには村長の屋敷に戻る約束をして一同は散らばった。 ●霧雁とジミー 霧雁が聞き込みする次の村人を探していたとき、仙猫・ジミーが屋根の上から飛び降りてきた。 「見事な着地でござる。で、どうだったでござるか?」 『猫呼寄で何か怪しい存在を見かけたり感じたりしなかったか訊いたが、何も。新たに何かあったら教えてくれとは言い残しておいたけどな』 「それは残念でござる。拙者も今のところ、これといった情報を得られていないでござるよ」 焦っても仕方がない。霧雁とジミーは道ばたの岩に座って一休みする。 「風がなくて日当たりがよければ、冬の日でも結構暖かいものでござるな」 『猫はそういうのよく知っているぜ。ま、俺は仙猫だがな』 今できることといえば、先程もしていたように村に住まうものたちへの聞き込みしかなかった。ただそれだけでは駄目なような気もする。 「質問の仕方で相手の答えは結構変わるものでござる」 『だろうな。決定的瞬間を見かけていても、取るに足らないものだと勝手に解釈しちまう奴も多いぜ。人も猫もそういうところは一緒だ』 お喋りは続いたが、こういったやり取りから新しい切り口が見つかることもある。 霧雁は『超越聴覚』の技を会得していた。こうやっていながらも遠くの会話に聞き耳を立てる。 「風、長く吹いていないはずでござる」 『その通りだが、それがどうかしたのか?』 「さっき、あそこの枯れ草の茂みが大きく揺れたでござるよ。それに拙者の耳にガサガサと音が届いたでござる」 『野良猫でもいたんじゃねぇのか? 結構棲んでんだぜ』 「猫心眼で探って欲しいでござるよ」 『雁の字は心配性だな。‥‥しょうがねぇな、やってやるか』 ジミーは『猫心眼』で瞳を凝らす。しかし取り立てて妙な動きをしている存在は見かけられない。せいぜい視界の中で雀が飛んでいった程度であった。 ●雁久良とロンパーブルーム 雁久良は提灯南瓜・ロンパーブルームを連れて患者三名が感染した場所を探す。しかし到着二日目の夕方になっても未だ特定には至らなかった。 患者三名の発言関連だけでなく村人の証言がないに等しかったからである。 村人はとても協力的だ。しかしここ数ヶ月間、普段通りの日常が続いていたと誰もが口々にいう。 「戸締まりのことは伝えたけれど、結局肝心なことがわからなかったわ」 『どうしましょうか』 ため息をつく雁久良をロンパーブルームが心配そうに見上げる。見逃している何かがあると雁久良も睨んでいたが糸口は見つからない。 「ひとまず搬送された三人の家周辺にかけておくのが妥当かしら?」 雁久良はその糸口を掴むために『ムスタシュィル』を仕掛ける。この術ならば侵入者の検知と同時に瘴気の有無も把握できるからだ。 「人妖さん達が誤検出されないようにしないとね」 『僕がちゃんと伝えておきますので、ご心配には及びません』 「そういいながら手が太腿に伸びているのだけれど」 『いや、ほらここに糸くずが‥‥。やだなあ、そんな目で見つめないでください。照れてしまいます』 雁久良とロンパーブルームは冗談を言い合いながら夕日のあぜ道を歩いて村長の屋敷に戻る。 巫女二名は診察が大変で出かけられなかったようである。『瘴索結界』による協力は明日以降となった。 「毎晩ぐっすり寝て練力回復♪ ムスタシュィルは練力使うのよね♪」 『お休みなさいませ』 ロンパーブルームに見張りを任せて雁久良は布団で眠りに就く。 ぐっすりと眠っていた雁久良だが真夜中に突然に目を覚ました。瘴気ありの『ムスタシュィル』の反応を感じたからである。 仲間達を起こして一緒に現場へと向かう。 「壊れているよ」 リィムナが『片眼鏡「斥候改」』を通して瘴気の痕跡を探っていると破壊の跡を見つける。井戸を囲う板が激しく割れていた。 ロンパーブルームが『闇への誘い』で井戸周辺を照らす。 「犬ぐらいの大きさがある何かが衝突したような感じね‥‥」 屈んだ雁久良は割れた板をじっと見つめて考え続けるのだった。 ●リィムナとエイルアード 「先に瘴気感染した村の報告書も読んだんだけどね。あまり参考にはならなかったんだ」 『預かっていた報告書の写し、今も持っています』 滞在三日目の昼過ぎ。リィムナと人妖・エイルアードは気分転換に高い杉の木に登って菜樫村を見下ろしていた。 「でも間接的には気になるところがあってね。特に感染しないで済んだ六人についてなんだけど、外出を控えていた人たちだったみたい。足怪我していたり、年老いて寝たきりだったり」 『家の中なら安全だったってことなのかな?』 「そういうことになるね。でも濃い瘴気が漂う状態だったら家の中だって関係ないし。食べ物が原因なら感染しているはず‥‥。あとこの村のように瘴気は濃くはなかったみたい。つまり‥‥」 『つまり?』 「‥‥‥‥アヤカシが原因って当たり前の結論にしかたどり着けなくて」 リィムナとエイルアードは二人して『う〜ん』と呻り続ける。 エイルアードはリィムナから預かっていた報告書の写しを取りだして目を通す。 「あともう一つ。数人の村人が治療のために安州に行ったときに眼鏡を買い求めたって。目が霞むっていってたみたい」 『目が霞む‥‥あ、ここに書いてあります。あれ? リィムナ、どうかしたの?』 いつの間にかリィムナが考え込んでいた。エイルアードが顔の前で手を振っても反応がない。 「‥‥そうだっ! 極端に見えにくいアヤカシが一瞬だけ姿を見せたのかも」 『それが霞目の真実。き、きっと当たりです』 リィムナは自信が持てる推理にまで辿り着く。後は実証するのみ。落下するかの勢いで地面へと降りる。 村人に聞き込みする際には必ず目の霞みについてを訊ねるようにする。仲間達にもこの推理を伝えて実践してもらった。 ●羅喉丸と蓮華 そして 「どうしたものか‥‥」 四日目早朝。田んぼのあぜ道を歩きながら羅喉丸が呟く。 彼も少し前から報告書の記述を読んで見えにくいアヤカシを想像していた。但し、それが具体的にどういうものなのかが思いつかなかった。 『なんという顔をしておるのじゃ、羅喉丸よ』 浮かんでいた天妖・蓮華が羅喉丸の頭の上に座る。 「昨晩布団の中で考えてみたんだが、村人の証言だけを参考にすると瘴気感染の発生場所は不明というしかない。だがここに雁久良殿が仕掛けた『ムスタシュィル』と二人の巫女殿による『瘴索結界』の結果を加えると一応仮説が立てられる」 『面白い。間違っていてもよいから話してみよ』 「あれを見てくれ」 羅喉丸が指さした先に蓮華が振り向いた。水が抜かれた田んぼの向こう側に川が流れている。 「あの川を境にしての南側、つまりこちら側に瘴気感染の事例が多くある。患者のうち二名の家が南側に存在していた。真夜中に起こされた日以降、雁久良さんはムスタシュィルの数を増やしているが、瘴気反応の九割は南側で発生している。瘴索結界もしかりだ」 『例外はよいとして原因はなんだと思うのじゃ?』 「俺も当たっているかどうか迷っているんだが、‥‥瘴気をまき散らすアヤカシがいたとして、さらに見えにくいと仮定する。そのアヤカシは川の南側を気に入っていて、そして川を跳び越えることができない。必要条件から無理矢理に導きだした設定がこれになる」 『アヤカシはどうやって北側に行くのかのう』 「ここからも見えるが下流に吊り橋があるだろ。あれを使っているんじゃないかってな」 『ほう‥‥』 近くなので吊り橋を見学しに向かう。 草臥れた吊り橋でかなり傷んでいた。村内である川の北側にも人家はあったが、殆どは田畑で占められている。 『迷っているようじゃが、なかなかよい考えじゃ。開拓者の仲間達も真実を示す組木細工の一つ一つを持っておるかも知れん。帰ったら話してみるのがよかろう』 蓮華のいう通り羅喉丸はその日の晩に仲間達に仮説を説明した。 霧雁は風が吹いていないのに茂みが大きく揺れたことを改めて話す。 雁久良はムスタシュィルの状況の他に井戸に残った瘴気が気になるという。 リィムナは今この瞬間に気づく。 「何となくだったのが、皆の調査報告を聞いて確信に変わったよ。アヤカシはものすごく速く走っているんじゃないかな。人の近くを通り過ぎる瞬間に瘴気を植え付けているんだ。茂みの揺れはきっと通り過ぎたんだね。あたしも見たけど井戸の囲いにはぶつかって倒れたから板が壊れて瘴気が他よりも溜まってた。そんなアヤカシが北側に行きたくないのは吊り橋が不安定だからなんだよ。人も少ないし」 リィムナに続いて雁久良も考えを伝える。 「速く走るアヤカシというと‥‥かまいたちが思いつくわね。でも瘴気云々は聞いたことがないし、亜種なのかも。特定するために『瘴気鎌』と呼ばない?」 雁久良の命名に全員が賛成する。 「速く走り去るとわかっていれば対処のしようもあるでござる。拙者の耳とジミーの目が役に立つでござるよ」 霧雁の言葉に仙猫・ジミーが髭をぴんと伸ばす。 「井戸にぶつかるぐらいの不注意なやつだとすれば、吊り橋を渡るときは遅くなりそうだ」 羅喉丸の推理が作戦立案の核に置かれた。 「今日、かなり離れた二つのムスタシュィル地点から殆ど同時に瘴気反応を感じたのよ。いくら瘴気鎌が速いからって不可能だわ。つまり複数いるのかも」 これまでこんがらがっていた糸が一気に解けていく。 巫女二名からも有力な情報が得られる。 滞在三日目には村人全員の瘴気感染の検診が終わっていた。 感染者がいなくて一安心だったのだが、四日目に体調が悪いと訪れた村人一名が再検診を受ける。結果、感染が疑われた。瘴気のばらまきは今も続いているようである。 ●アヤカシ退治 滞在六日目の午後。 開拓者達は村長に頼んで午前の間に外出禁止を出してもらう。おかげで菜樫村の野外は開拓者一行を除いて無人と化す。 (「風切り音に集中するでござる」) 霧雁は見晴らしのよい屋敷の屋根に登って『超越聴覚』を働かせる。始めてから一時間後、それらしき音を聞き分けた。 「五の七からこちらに向かってくるでござる」 『見つけた。六の七に移動中だ。雁の字、笛を吹け!』 仙猫・ジミーが『猫心眼』で瘴気鎌の存在を捉えて霧雁に伝える。数字並びは村全体を区切った升目の位置を示す。囲碁や将棋の棋譜のようなものだ。 霧雁は自分の耳とジミーからの目視報告を頼りに把握する。移動しながら呼子笛を断続的に吹いて仲間達に瘴気鎌の位置を報せ続けた。 (『そちらはダメです。北側の升目へとどうぞ』」) 提灯南瓜・ロンパーブルームは『置物』で野菜のオブジェに化けていた。『お化け火』を突然出現させて瘴気鎌を驚かす。 「そっちもダメなんだから」 雁久良が出現させた『ストーンウォール』の石壁に瘴気鎌が衝突。そうやって瘴気鎌を吊り橋に誘導していく。 『羅喉丸よ! 十歩ほど右じゃ!』 天妖・蓮華が張っていた『瘴索結界』で瘴気鎌を感知。見えにくい瘴気鎌の動きを羅喉丸に教えた。 (「もう一息‥‥」) 羅喉丸は『瞬脚』を発動させて瘴気鎌に迫る。わずかな瞬間だが相対速度が一致して瘴気鎌の姿を捉えた。 想像していた通り『かまいたち』にそっくり。黒い小さな粒を羅喉丸に向けて飛ばしてくる。その粒こそが瘴気の塊だと羅喉丸は理解した。 羅喉丸が繰りだした蹴りは空振りに終わったものの、それでよかった。瘴気鎌が吊り橋を渡るしかなくなったからである。 『こ、ここは通しません』 吊り橋の手前で人妖・エイルアードは浮かんでいた。瘴気鎌はエイルアードを避けて吊り橋を渡る。当然進みが遅くなった。 (「見えたよっ!」) 茂みに隠れていたリィムナは瘴気鎌の姿を瞳に焼き付ける。 討伐作戦の第一段階は成功に終わった。 『このまま遠くに逃げてしまうとかないのかな?』 「きっと大丈夫だよ。人に悪さをするのがアヤカシの本能だからね。これぐらいじゃ諦めたりしないよ」 リィムナは瘴気鎌が消え去った北の方角を見つめるエイルアードの頭を撫でる。 仕切り直して一時間後、討伐作戦の第二段階が始まった。 『ラ・オブリ・アビス』で瘴気鎌の姿をしたリィムナが田んぼを駆け巡る。速さを演出するために『夜』による時間停止で移動距離を誤魔化す。 (「うまくいったかも」) やがて瘴気鎌・リィムナの周りに本物が集まる。瘴気鎌は全部で三体存在していた。 (「よし、今なら倒せる!」) 小屋の中に隠れていた羅喉丸は『瞬脚』で飛びだした。リィムナに合わせて駆ける瘴気鎌なら余裕で捉えられる。 気力を直感に注いで逃さぬように拳を叩き込む。一撃で瘴気鎌・壱を黒き塵に還す。 (「動きを止めさえすれば仲間が倒してくれるでござる」) 羅喉丸と殆ど同時に動いたのが霧雁である。『夜』で時間を止めて距離を縮め、瘴気鎌・弐を『不知火』の炎で包み込んだ。 『阿呆じゃな』 蹌踉けた瘴気鎌・弐に瘴翼で飛んできた蓮華の『酔八仙拳』が吠える。『紫金紅葫蘆』とも呼ばれる瓢箪徳利が瘴気鎌・弐の頭部を粉々に砕く。 瘴気鎌・参はここでようやく罠に気づいたようだ。逃げようとするがもう遅い。 「そんなことしても無駄なのよね♪」 雁久良が放った『ブリザーストーム』に巻き上げられて地面に叩きつけられる。 「これで最後っ!」 高く跳んだリィムナが踏みつけて瀕死の瘴気鎌・参に止めを刺す。『黄泉より這い出る者』を使うまでもなかった。 ●平和 滞在七日目の宵の口。迎えの飛空船が菜樫村に着陸する。 治療を終えて帰ってきた村人三名と入れ替わりに開拓者一行が帰路に就く。瘴気で体調を崩した村人二名も安州のギルドに連れて行くが、あくまで念のためである。 「ありがとうございました。まさか目にも留まらぬアヤカシの仕業だったとは。お言葉通り、しばらく様子を見させて頂きます」 村長を含めた多くの村人達が開拓者一行を見送る。開拓者達が心配した瘴気鎌の生き残りについては杞憂で終わった。 安州で経過が見られた村人二名もすぐに元気を取り戻す。こうして菜樫村に平和な日々が戻ってきた。 |