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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 武天と理穴は繋がりが深い。 瘴気濃い冥越の魔の森と隣接するせいで理穴には他の土地よりも多くアヤカシが跋扈しやすい。それらを排除するために武天から派兵が行われる程の関係である。 隣国の兵を受け入れるには常に不安がつきまとうものだ。親切を装って入り込み、その実占領を企む国も。歴史書を紐解けば例はいくらでも見つかるだろう。 武天と理穴の関係が成り立っている一番の理由は王族同士が濃い血縁関係だからだ。 ある日、理穴の儀弐王からの文が巨勢王の元に届けられる。綾姫を狩りに招待したいというものだ。親の巨勢王に許可を得るためであって実質的には綾姫への招待状といえる。 「うれしいのじゃ〜♪」 儀弐王からの誘いに綾姫は大いに喜んだ。 「姫よ、よかったな」 「父様、理穴への訪問を許してくれてありがとうなのじゃ♪」 綾姫は巨勢王の大きな手をとって満面の笑みを浮かべる。 まだ先のことなのにさっそく侍女達を呼んで旅支度を始める綾姫だ。 実はこの時巨勢王はあることを企んでいた。こっそりと自分も理穴に出向いて儀弐王と綾姫を驚かせてやろうと。 非常に子供じみた行為だが、以前に儀弐王から似たようなことをされた思い出が。その意趣返しとして。 (「あの鉄面皮をはがせたのならわしの勝ちじゃな」) 滅多に感情を外に表さない儀弐王だからこそ、驚かすことに意味がある。顎をさすりながら虎視眈々と計画を練る巨勢王だ。 開拓者ギルドへの依頼も内密な形で行われる。事前に理穴の情報網に引っかからないよう慎重に。 当然、精霊門は使用不可だ。両国の距離を考えれば飛空船を使うしかないものの隠密に移動しなければならない。巨勢王の体躯と赤褐色の肌もどうにかして隠さなくてはならなかった。 「では、いってくるのじゃ♪」 「儀弐王によろしくな」 巨勢王は笑顔で出発の綾姫を見送る。 その日の深夜、此隅の片隅で開拓者達と待ち合わせる巨勢王であった。 |
■参加者一覧
紙木城 遥平(ia0562)
19歳・男・巫
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
将門(ib1770)
25歳・男・サ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●集合 真夜中の武天の都、此隅の郊外。岩だらけの大地に三隻の飛空船が着陸していた。 開拓者八名は船外で焚き火を囲みながら巨勢王を待った。燃え上がる炎が目印になるのを期待しながら。 理穴に向かうための飛空船は起動宝珠を所有する開拓者が三名もいたおかげで探し回る必要はない。おかげでかなりの時間短縮が期待できた。 三隻には認識のために船名がつけられる。 鈴木 透子(ia5664)が起動させている快速小型船は『式』。 ジークリンデ(ib0258)が起動させている快速小型船には『雪』。 商用小型船『ドラコニア』についてはリンスガルト・ギーベリ(ib5184)が以前からつけていた船名である。 どれも一足先に開拓者ギルドによって神楽の都から此隅ギルドへと運ばれていた。 「! ‥‥お早いお着きで」 「うむ。ご苦労だ、西中島よ」 暗闇から音もなく現れた巨体に西中島 導仁(ia9595)は身構えたが、すぐに礼を尽くす。武天国王『巨勢宗禅』の登場である。 「三隻も用意してくれたのか。これは旅が楽になるのう」 「巨勢王よ。そちらは?」 巨勢王は将門(ib1770)に指摘されて両肩に担いでいたイノシシを思い出す。 「途中で見かけてな。飯代わりにちょうどよいと思って狩ってきたのだ。調理は任す」 巨勢王が将門にイノシシを預ける。 「王が担いでいると小さく見えたが‥‥かなりの大物だな」 「これだけで旅の食事が間に合ってしまいそうです」 将門はライ・ネック(ib5781)に手伝ってもらいながら商用小型船・ドラコニアへとイノシシを運び込む。 巨勢王は気分で各船を渡ることになるが、まずは快速小型船・雪へと乗り込んだ。 快速小型船・式を操るのは鈴木透子。手伝いは将門とからくり・焔。 快速小型船・雪を操るのはジークリンデ。こちらは西中島と紙木城が手伝う。 残る全員が商用小型船・ドラコニアへと乗船する。 「ライさんが用意したこちらをキグルミを着てもらえるでしょうか? お手伝いします」 「これは‥‥まるごともふらか?」 紙木城 遥平(ia0562)は巨勢王を個室へと案内する。そしてまるごともふらを運んできた。 一行は雑伎団を名乗って理穴奏生までの空の旅を安全にやり過ごそうとしていた。目立つ容姿の巨勢王を隠すにはまるごとを着込んでもらうのが一番だと仲間で相談して決めたのである。 此隅周辺なので監察方の巡回飛空船による突然の臨検があるかも知れない。越境する際も注意が必要だろう。 「こっちは?」 「それは僕が作りかけた土偶ゴーレムの張り子です。まるごともふらが用意できたので、不要になりましたが‥‥」 「ふむ‥‥。もし奏生の到着に間に合うのなら頭の部分だけでも完成させてくれるか? わしに考えがある」 「わかりました。で、何にお使いになるのでしょう」 紙木城は耳打ちされて頷く。巨勢王はまるでイタズラ好きの子僧のように笑った。 離陸直前まで快速小型船・雪に留まったリィムナ・ピサレット(ib5201)はもふらとして自然な振る舞いはどうすればよいのか巨勢王に指導する。 「王様、語尾は『もふ』です♪ 練習してみるもふよ♪ もふ〜♪」 「わかった、わかっておる。だが四つん這い歩きだけはせんからな‥‥もふっ」 見上げるリィムナにもふら姿の巨勢王は恥ずかしそうに視線をそらす。何にしてもちゃんと『もふ』とつけてくれたことにリィムナは笑顔を浮かべた。 そうこうするうちに飛空船三隻は離陸。横たわっていた大地からまだ暗い夜空へ。 目指すは理穴の首都、奏生。各船は進路を北北西にとるのであった。 ●臨検 「南西に飛空船発見! 数、三隻。どれも小型と思われます」 すでに空高く太陽が昇った頃の武天と理穴の国境線上空。武天監察方所属の警戒飛空船が理穴方面へ進路をとる小型飛空船団三隻を発見した。 「一隻の船首には『もふもふ雑伎団』と書かれております。また三隻に取り付けられた靡く旗にも同様に――」 監察方飛空船の操縦室で望遠鏡を覗く船員が細かく船長へと報告をいれる。船長が臨検の必要ありと判断し、徐行を指示する狼煙銃が青空に打ち上げられた。 『もふもふ雑伎団』と名乗る船団は速さを緩めて乗船を許す。 五名のサムライが監察方飛空船からそれぞれの龍に乗って飛び立つ。そのうちの三名が快速小型船・式の甲板へと下りて臨検が開始された。 「お勤めご苦労様です。他の船の分も含めて、こちらが積み荷の目録になります」 甲板から船内に入ったばかりの廊下。将門に操縦席を預けて臨検者達と最初に会ったのは鈴木透子だ。足下では忍犬・遮那王が行儀良く座っていた。 「船に雑伎団と書かれているが相違ないな。その犬も芸をするのか?」 臨検者達の長が目録の頁を捲りながら鈴木透子に問いかける。 「もちろんです。お見せしますね」 鈴木透子が右の人差し指を回すと忍犬・遮那王が壁を駆けるように跳ねた。立体攻撃を利用した動きで宙に舞う。身体を捻りクルクルと。最後には鈴木透子の頭の上へと着地した。 「お手」 鈴木透子がそういって伸ばした右手に忍犬・遮那王が右手を添える。思わず臨検者達の間から感嘆の声が沸き上がった。 鈴木透子はそのまま操縦室まで臨検者達を案内する。 「これはご苦労様です。船を動かしているのですみませんがこのままで失礼します」 将門は敬語を使い、操縦席に座ったまま臨検者達に挨拶をした。 「そちらの婦人は?」 間近まで近づいて臨検者の一人がようやく気がついた。副操縦席に座っていたのが、からくりの焔なのを。 「試しに教えているところです。巡航のときぐらいは任せられると思っているのですが」 将門がからくり・焔を紹介。どうやら臨検者達は初めてからくりを見たようだった。 次に臨検者達が乗り込んだのが快速小型船・雪。この時、巨勢王はジークリンデと西中島の駆鎧を見学しようとこちらの船へと移っていた。 「これはかなり窮屈なのだぞ」 「それはわかりますがお早くお願いしたく」 巨勢王は西中島に急かされながらまるごとの頭を被ってもふら姿に変装する。 その直後に臨検者達が甲板から乗船。西中島ともふら姿の巨勢王が出迎えた。 「大まかなことは先の船の者から聞いておるが、 もふもふ雑伎団と名乗っているからには、そのもふらのまるごと姿の者がこの雑伎団の看板演技者なのか?」 「はい。その通りです。こちらが雑伎団の看板役者です。俺はこちらの駆鎧で様々な技を披露しています。愛機はジルベリア正式採用三代目駆鎧の遠雷を基本にして識別名は『碧甲』です。こちらの駆鎧は現在船を動かしているジークリンデ殿の機体で『火竜』の名で呼ばれていまして――」 船倉で西中島が懸命に臨検者達の注目を自らに向けさせようとする。駆鎧を軽く動かしてみせると臨検者達はとても興味深げに眺めていた。 次に臨検者達が興味を示したのが紙木城が作っていたゴーレムの張り子である。紙木城は機関士を担当していたので機関室近くの空いた物置場が作業空間になっていた。 「僕が小道具を担当しています。次の開催のときに披露しようと思っていまして、まだ作りかけなんです」 そういって紙木城はゴーレムの頭を胸に抱えながら説明する。試しに被ってみてゴーレムを真似た動きを演じてみせた。 「な、なんだ?」 「小右衛門は大事な相棒です」 不意に飛んできた火の玉に臨検者達が驚く。 その正体は鬼火玉・小右衛門。合図を出すと空中で円運動を始めた。紙木城は小右衛門がとてもいうこと聞く相棒なのを臨検者達に示したのである。 臨検者達は操縦室も訪れた。 操縦を西中島に代わってもらい、ジークリンデは臨検者達と相対する。 「これは皆様、もふもふ雑伎団へようこそ」 丁寧に挨拶をするジークリンデに畏まる臨検者達。そして試作中の大福を勧める。儀弐王へのお土産とするためのものだ。 「こちら実は見せ物の際に売ってみようかと考えていまして。毒などは入っていませんので安心してくださいませ」 ジークリンデは皿の上に並んだ大福の中から臨検者の一人に選ばせて自ら食べて見せた。せっかくだからと臨検者達も口にする。 「?! 中に入っておるのは苺か! なんと贅沢でかつ妙な‥‥いやいや、美味いものだな」 驚きつつ臨検者全員が大福を食べ終わった。満足して他の船に移ろうと踵を返す臨検者達。 西中島とジークリンデがこれで終わりかと心の中で呟くと臨検者の長が急に立ち止まって振り返る。 「そういえば、そちらのもふらはどのような芸をするのだ? 看板役者なのだからさぞかしすごいのだろう」 臨検者の長は興味津々にもふら姿の巨勢王を眺める。 このまま立ち去ってくれればよいのに、と西中島とジークリンデは思ったが口には出さなかった。 「もふ♪」 もふら姿の巨勢王は拍をとって片足で一回り。いきなり踊り始める。巨体だというのにとても軽やか。まるで翼が生えたのように長い滞空で動き回った。 (「臨検のみなさん‥‥まるごとの中身が巨勢王だと知ったのなら‥‥きっと‥‥」) 気になってやってきた紙木城が開閉扉の隙間から操縦室を覗き込む。 (「後々、大事にならなければよいのですが」) ジークリンデも紙木城と同じようなことを考えていた。 (「俺は見ていない‥‥。それが今後のためだ‥‥」) ちらりと巨勢王の踊りを見てしまった操縦席の西中島はこみ上げる笑いをひたすら我慢する。この場で一番辛かったのはおそらくサムライの西中島だろう。 「なかなかの道化だ。子供達を楽しませてやってくれ」 笑いながら臨検者達が船外へと立ち去ってゆく。 ちなみに巨勢王は後にこのことを一切なかったことにする。当たり前だが臨検者達に罰を与えるような真似もしなかった。 最後に臨検を受けたのは商用小型船・ドラコニアである。 「ようこそ、もふもふ雑伎団へ」 「ん? どこにいる?」 声が聞こえても姿は見えず。臨検者達は甲板から船内に入ったばかりの廊下で周囲を見回した。 足下から犬の小さな吠えが聞こえて臨検者全員が驚き背中を震わす。上方ばかり気にしていたせいだが、知らぬ間に犬が目前の床でお座りをしていた。 「私がご案内します」 「え?」 今度は上から声が聞こえて天井を仰いだ。先程まではいなかったはずなのに、いつの間にか今度は女性が張り付いていた。 女性は犬の隣りに着地すると片膝をついてお辞儀。ドラコニアで臨検者達を出迎えたのはライと忍犬・ルプスである。 「見事だな。それも雑伎団の技なのか」 「はい、日々鍛錬を欠かさないようにしております」 本当はシノビの体術なのだがと思いながらライは臨検者達に相づちを打った。そうこうするうちに臨検者達を連れて機関室へと辿り着く。 機関室ではリィムナとからくり・ヴェローチェが宝珠を監視管理していた。 『リィムにゃん、このひとたちは誰にゃ?』 「武天を守ってくれているみんなだよ♪ お勤め大変だからご挨拶するよ」 リィムナに合わせて、からくり・ヴェローチェも元気に挨拶する。 「ほう、こちらにもからくりがいるのか。すごい雑伎団だな」 機関を調整する、からくり・ヴェローチェの手先の器用さに臨検者達が関心を示す。つい先程にリィムナが機関室の仕事一通りを教えたばかり。今はその復習である。 「こういうときは、こっちをあげるいいよ♪」 『にゃにゃ! ヴェローチェ頑張りますにゃ!』 リィムナはチョコレートハウスと呼ばれる中型飛空船で研鑽を積んでいた。その時に得た知識をからくり・ヴェローチェに伝える。 『そういえば、もふらちゃんどうだったにゃ?』 「あのまるごともふらか。踊りがうまくて楽しかったぞ。あれなら子供達にも人気だろうな」 からくり・ヴェローチェの問いに臨検者の一人が答える。 リィムナは巨勢王が正体を明かさずにうまく誤魔化したようで安心した。ヴェローチェと一緒に踊りを教えた甲斐があったというものだ。 「リンスちゃんによろしくね〜♪」 ライと共に操縦室へ向かう臨検者達をリィムナとからくり・ヴェローチェは元気よく送り出すのだった。 「こちらが操縦室です」 ライが操縦室の扉を開けて臨検者達を導く。操縦席に座っていたのは船長のリンスガルトだ。 「我がこのドラコニアの船長にして、もふもふ雑伎団の団長リンスガルト・ギーベリと申す者じゃ」 ライと操縦を代わったリンスガルトは臨検者達に挨拶する。 「怪しまれると何なので伝えておくが、船倉には輸送を頼まれた布地も積み込んでおる。後で確認してもらえるか?」 「すでに疑いはないので安心せよ。船長殿」 リンスガルトは臨検者達の長といくらかの世話話を交わした。 「あのもふらの踊りか。よかったぞ。あれなら子供達に大受けだろう」 臨検者達の誉めにリンスガルトが頷く。ただリンスガルト自身はまだもふら姿の巨勢王が踊る様子を見学してはいなかった。 (「リィムナがうまく踊りを王に教えたようじゃな。それにしてもどのようなものか、早く見たいものじゃ」) リンスガルトは流行る気持ちを抑え込んだ。沸き上がるもふらさまにもふもふしたい衝動と共に。 臨検は無事に済んで部外者全員が立ち去った。 リンスガルトは理穴の空域へ完全に入ってから滑空艇・Suで斥候に出て安全を確かめる。たまたまだろうが理穴側の臨検に合うことなく空の旅は続く。 一夜明けてもふもふ雑伎団の飛空船団は理穴の首都、奏生へと辿り着いた。 「こうしないと駄目なのか?」 「ここは静かにお願いします」 下船の際も巨勢王はまるごともふらさまを着たまま。紙木城が台車付きの籠で運び、多くの目がある飛空船基地を抜け出すのであった。 ●狩りの騒動 「快晴でよかったのう〜♪」 「本当に」 森の中、従者達を連れて歩く綾姫と儀弐王。知らない者からすれば歳の離れた姉妹のようにも見える二人は仲が良かった。 二人は険しい山道もなんのその。時には儀弐王が綾姫を抱きかかえて十メートル前後の崖を一気に登ってしまう。従者達は懸命に追いかけていた。 「綾姫、少しお待ちを」 儀弐王の求めに綾姫がこくりと頷いた。 背負っていた巨大な弓を手にとり少しも気負うことなく矢を放つ儀弐王。いとも簡単に飛翔していた雉を仕留めてしまう。 「頼みますよ」 儀弐王は後方に待機していた愛犬達に指示を出す。競うようにして森の茂みに犬達は飛び込んでゆく。 「よく仕付けられておるの〜。犬もよいものじゃな」 「綾姫は猫派でしたね」 「そうなのじゃ♪ でも父様は猫がどうも苦手のようなのじゃ」 「それは初耳です」 儀弐王と綾姫が雑談を交わしていると茂みがざわめいた。犬達が獲物の雉を運んできたかと思った二人だが、姿を現したのはまったく異質な存在。 「うおおおおっ!」 ズドドドドッと遠すぎてゆく巨大な白いかたまり。 「もふらさまだったのじゃ‥‥。何故か雉を片手に握っていたような‥‥」 「あれはまるごとのキグルミでしょう。それにしても何事でしょうか」 儀弐王と綾姫は振り返った格好でしばらく固まる。すでにまるごとのもふらの姿が見えなくなっているのにも関わらず。 遅れて犬達が茂みの中から飛び出してきた。犬達は儀弐王が仕留めた雉をまるごとのもふらに奪われて追いかけているようだ。 「綾姫様、舌を噛みますので喋らないように」 「うむ、わかったぞよ」 儀弐王に抱きかかえられた綾姫は自らもしがみつく。ようやく追いついた従者達を置いて儀弐王が宙に舞う。樹木の幹を駆け上がって枝から枝へと。 開拓者達はその様子を遠くから眺めていた。 (「巨勢王、派手ですね‥‥」) 鈴木透子は口にこそ出さなかったが、突然巨勢王が始めた追いかけっこに目を丸くする。 「怪我ならさぬとよいのだが」 「その点は大丈夫だと思いますわ」 西中島とジークリンデは念のために駆鎧をいつでも動かせるように待機していた。 「いつの間にか気に入られたようですね。あのまるごとのもふらさま」 「喜んで頂けたなら。その‥‥、作られていた土偶ゴーレムの張り子はどうされたのですか?」 紙木城とライは杉の木のてっぺんに掴まりながら疾走するもふら姿の巨勢王を見学する。 「茶目っ気タップリな方だな。巨勢王は。そう思わないか?」 飛空船の留守番を買って出た将門もからくり・焔と一緒に快速小型船・式の甲板で高見の見物としゃれ込んだ。 からくり・焔が頷くと将門は大きな声で笑う。 「リィムナ、ちょっといってくるね〜♪」 ゴーグルをつけてリンスガルトは滑空艇・Suを操作して浮かび上がらせる。 「あたしも地上から向かうよ。あとでね♪」 飛んでいった滑空艇・Suに手を振ったリィムナは、からくり・ヴェローチェにドラコニアの留守を頼んで姿を消す。 リンスガルト、リィムナの双方とも巨勢王の元へと向かっていた。 巨勢王と儀弐王、そしておまけの綾姫の追いかけっこは続いていた。しかし徐々に差は詰められてゆく。 「ここまでですね‥‥」 「そうなのじゃ! 雉を返すのじゃぞ」 立ち止まった儀弐王は綾姫を地面へと下ろした。 崖っぷちまで追いつめられたもふら姿の巨勢王はやれやれといった道化の仕草をして掴んでいた雉を崖下へと放り投げる。 「勝手に獲物を捨てるなどと!」 怒る綾姫。もふら姿の巨勢王はキグルミの頭の部分を外す。 「もふらの中に‥‥土偶?」 きょとんとした顔を見せる儀弐王。怒っていた綾姫もあんぐりとした表情を浮かべる。 「実は巨勢王様でした! 綾姫様、おひさぶり〜♪」 駆け寄ったリィムナがトンカチで土偶の頭を叩くと割れて破片が散らばった。中からは巨勢王の頭が。 「久しいの、儀弐王」 かっかと笑う巨勢王。 そして崖下から浮上していた滑空艇・Suを操るリンスガルトの手には雉が握られていた。 状況を理解した儀弐王はいつもの惚けた表情に戻る。しかし多くの者は瞳を大きく見開いて驚く儀弐王の様を目撃したのだった。 ●そして 儀弐王は呆れ気味ながらも巨勢王の来訪を歓迎する。 綾姫は巨勢王のもふら姿に大喜び。リンスガルトが予備のまるごともふらを綾姫に貸す。 揃ってもふらの格好をした巨勢親子だ。ちなみにリンスガルトはその間に入って大満足。大いにもふもふを楽しんだという。 狩りが終わって雉だけでなくたくさんの獲物が手に入る。 理穴側の野営地に三隻の飛空船を移動させ、開拓者達も野趣料理のご相伴に預かった。 「うまいの〜♪」 「本当に。こちらでも作らせましょう」 食事の最後、ジークリンデが用意した苺大福を綾姫と儀弐王も美味しく頂いたという。 開拓者達も楽しい時間を過ごしたのだった。 |