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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 巨勢王の娘、綾姫は開拓者の協力を得て新大陸の希儀で苺探しをしたことがある。 その際、自然繁殖していた苺の苗と保存されていた種の両方を手に入れた。それらは武天の都、此隅近郊の畑ですくすくと育っていた。 「楽しみなのじゃ♪ おー、めんこい実じゃの〜♪」 綾姫は侍女と護衛の者達を連れて毎日のように畑へと出向く。自ら畑仕事をこなし、まだ青くて小さい実が少しずつ大きくなるのを楽しみにしていたのである。 天儀の地に元々あった苺、希儀で自然繁殖していた苗を移した苺、希儀で見つけた種から育てた苺。 今年は三種類の苺を食べ比べられる。 苺大好きの綾姫にとっては待ちに待った瞬間が迫っていた。 「そうじゃった。開拓者と約束しておったのじゃ! いや、したかどうかは忘れてしもうたが食してもらいたいのは確かなのじゃ!!」 苺を眺めるために屈んでいた綾姫がすくっと立つ。希儀の苺を入手するために尽力してくれた開拓者にも、この苺を食べてもらいたいと言葉にしながら。 「こちらでよいかの。頼みたいことがあるのじゃ」 「はい、こちらで‥‥あ、綾姫様?! もちろんで御座います」 綾姫は自ら此隅ギルドへと出向いて依頼する。開拓者に苺の収穫を手伝ってもらいたいといった内容だが、一緒に食べて楽しんでもらいたいのも大いに含まれる。 「生で食べるのもよいが、何か料理にするのもよさそうじゃの〜♪」 帰り道、綾姫の足取りは軽い。 「綾姫様〜、お待ちを〜〜」 この日、街中では綾姫を追いかける護衛の姿が見かけられたという。 とにもかくにも苺の収穫は間近に迫っていた。 |
■参加者一覧
紙木城 遥平(ia0562)
19歳・男・巫
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
将門(ib1770)
25歳・男・サ
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
多由羅(ic0271)
20歳・女・サ
迅脚(ic0399)
14歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●苺畑 緑色の葉や茎に混じって赤い果実がちらほらと。此隅近郊の苺畑にも朝が訪れる。 「今日はたくさん摘むのじゃ♪」 開拓者が手伝いに来る日なので綾姫は普段よりも張り切っていた。お供の侍女やサムライ達はまだ眠そうな雰囲気である。 まもなく開拓者達も苺畑に姿を現す。 「綾姫様、もういるんだ?!」 蒼井 御子(ib4444)は帽子の鍔を持ち上げながら驚きの表情を浮かべた。 開拓者一行は真夜中に此隅を訪れてそのまま待機し、朝日と共に苺畑へと出向いたのである。先に綾姫がいたことは驚くしかなかった。 「早起きしたのでな♪」 「そうなんだ。収穫、だね! うまく育ったみたいで何よりだよっ!」 蒼井御子と綾姫は一緒に並んで苺の実を眺める。 「姫、ついに収穫の日がきましたな。自分も探索に同行した分、嬉しく思います」 サムライの礼儀をもって西中島 導仁(ia9595)は綾姫に挨拶する。 「導仁殿にも苦労をかけたの〜。じゃがこうやって実りにまで達することが出来た。礼をいうぞよ」 綾姫は満面の笑みで西中島に言葉をかけた。 迅脚(ic0399)は綾姫と西中島のやり取りを少し離れたところから眺めていた。 「す、凄い、本物のお姫様!」 心の中で呟いたつもりが思わず言葉として出てしまう。綾姫が迅脚へと振り返って近づいた。 「武天の王、巨勢宗禅の娘、綾なのじゃ。よろしく頼むぞよ♪」 「わ、私は迅脚です」 綾姫は迅脚と挨拶を交わす。 「綾姫、お誘いどうもありがとう♪」 フェンリエッタ(ib0018)が挨拶すると綾姫は近くの苺を一つだけもいだ。そして桶の水で軽く濯いで手渡す。 「フェンリエッタ殿、よく来てくれた♪ この実は希儀の苗から育てた苺なのじゃ。皆も一つずつ味見してみるがよい♪」 「これがあの綾苺なのね」 フェンリエッタが苺を囓る。他の開拓者も一粒ずつ食べてみた。 天儀の苺よりも清々しい味。程良い範囲だが酸味は強めに感じられる。 「お砂糖とかの甘味と合わせるとよいかも?」 「わらわもこれは調理して頂くのに適していると思うのじゃ」 苺の味の感想を述べながら全員で隣の畑へ。希儀で手に入れた種から育て、株分けをして植え替えた苺畑である。 「この苺が食べられるのも綾姫の好奇心のお蔭だな」 「苺のためなら地の果てまで飛んでいくのじゃ♪」 将門(ib1770)の一言に綾姫が返し、二人して大いに笑う。 実は今日、将門がこの畑を訪れたのは二回目。警備の状況を確かめるために真夜中にこっそりと苺畑一帯を見回っている。 (「もしものためです。苺をついばむ鳥がいたらついでに追い払っておきましょう」) 宿奈 芳純(ia9695)は休憩用の椅子に腰掛けると人魂で符を鶯へと変化させた。そして苺畑を飛び回らせて安全を確かめる。 紙木城 遥平(ia0562)は作業開始の前に苺に関する知識を綾姫へと伝えた。 「姫さま、苺を育てるにあたって普段最も気を配るべきは苗の先端成長点だそうです」 「ほー、成長点とはここかや?」 「はい。こちらが傷つくと苗は成長出来なくなり、茎や花などにも影響が出て痩果、果実というかこれから摘み取って食べる部分ですね。よい物に成りません。成長点は概して軟らかく虫も付きやすいそうです。僕たちが来られる時はお手伝いできますがこれからの時期もご注意くださいませ」 「せっかくなら美味しい苺がよいからの〜」 綾姫は侍女に紙木城の覚えを書き留めさせておいた。苺に関して姫様はどん欲である。 「イチゴ狩りは初めてだ」 最後に多由羅(ic0271)が綾姫に挨拶する。 「せっかくなので苺の摘み方を教えようぞ。なに簡単じゃ」 綾姫は開拓者を集めて実演してみせた。 苺の実をやさしく片手で掴むと人差し指でヘタを軽く抑える。そしてヘタを下にするようにして引っ張ると茎から苺の実が離れた。 苺畑は三面存在する。一同は苺摘みを始めるのであった。 ●収穫 畑の苺を跳び越える迅脚は笊を二つに合わせにして運んでいた。笊の間に並んでいるのは収穫されたばかりの苺の粒である。 「ここに置いていきます!」 迅脚は小屋にいた侍女達に苺を預けて畑へと戻った。 「加工用にはこちらの自然繁殖の苺を使いましょう。きっと美味しいはずです」 紙木城は自然繁殖した苗から出来た苺の粒を使うことにする。 「おやすいご用だ」 西中島は水汲みや荷運びにアーマー・碧甲を活用した。 「よく熟しているな」 多由羅は一粒の苺を頭上にかざしてみた。よくぞここまで育ってくれたと感心する程の鮮やかな赤色である。 「ダメだよ、ツキ。食べたくなるのは分かるケド、あとにしようね。それより何か変なものを見たりした?」 蒼井御子は迅鷹・ツキに畑の上空を飛んで警戒してもらった。そうすれば危険な敵はもちろんこと、苺を狙う野鳥や虫を威嚇することが出来るからだ。 宿奈芳純は警戒を迅鷹・ツキに任せて苺摘みに専念する。 「花粉を別の畑に運ばないよう叩いてから向かいましょう」 作業を終えて別の畑に移動する際、宿奈芳純は注意を促す。 「おー、忘れとったのじゃ〜」 綾姫が思い出したように自らの服を手のひらで叩いた。背中には手が届かないので、フェンリエッタとお風呂の背中の流しっこの要領で叩き合う。 次の畑は希儀で手に入れた種から育てた苺である。 「形の悪い苺の方が甘くて美味しいらしいけど、本当?」 「食べ比べても構わないぞよ」 フェンリエッタは先に形の良い苺の味を確かめる。次に形の悪い苺を頬張った。 「甘いかも?」 「ほー?」 心なしか形の悪い苺の方が甘く感じられた。綾姫も食べてみて確かにと呟く。 「形の悪い苺は俺も使うつもりだ。どのみち煮くずれるからな」 将門は三種類の苺からそれぞれの苺ジャムを作るつもりでいた。綾姫は楽しみだと大いに喜んだ。 熟した苺の収穫は午前中に終了するのであった。 ●生の苺 「一言で苺といっても個性がありますね」 紙木城は味を楽しみながら自らの料理に使う苺を選んだ。 「苺は美味いの〜♪ 今日は何度呟いたことか。導仁殿よ、ご苦労。食べるがよい」 「よ、よろしいのですか?」 綾姫がまだ荷を運んでいた西中島の口元に苺の実を近づける。 「うむ。そのままガブリとな」 西中島は綾姫の手から直接苺を食べた。誉れではあるものの、巨勢王に知られた大変だと思いながら呑み込む。 「ツキ。約束の生苺、あげるねっ」 蒼井御子が苺をあげるとツキは嬉しそうに嘴でついばんだ。自身も生苺を頬張ってもぐもぐ。香り高く甘い苺に表情を顔を綻ばせる。 「苺大福の苺は加熱しませんから‥‥元々甘みの強いものがよいでしょうね」 三種類のうちどの苺を菓子に使おうかと悩んでいた宿奈芳純も決めたようである。 「夕食もきっと苺づくしになるわね♪」 「なんと良き日かや♪」 フェンリエッタがフライパンを片手に綾姫へとウインク。 「せっかくなので父様にも食べさせたいの〜」 綾姫はやはり巨勢王を呼ぼうかと考え始めた。 「私が此隅城まで行ってこようか?」 「おお、助かる! 急いで文を用意するのじゃ〜」 多由羅は生苺を堪能してから綾姫から頼まれた手紙を届けに此隅城へと向かった。 (「巨勢王が来られなかった場合でもジャムならば持ち帰れるか‥‥」) 将門は生苺を頂きながら巨勢王がパンに苺ジャムをつけて食べる姿を想像する。少し咽せた将門である。 「う、牛?!」 迅脚は小屋に雌牛が届けられて驚いた。 午前の苺摘みの最中、牛の乳が欲しいと綾姫に頼んだのは事実である。しかし牛そのものが手配されるとは考えてもみなかった。 せっかくなので迅脚は牛の乳搾りに挑戦する。 「わらわもやってみたいのじゃ」 「こうするといいみたいです」 迅脚と綾姫は仲間達の分も含めて大きな桶いっぱいの牛乳を搾るのだった。 ●調理の時間 「あの瓶を満たせばもう水は充分だろう」 「薪はこれぐらいでよいか?」 西中島と多由羅は調理する仲間の主に力仕事を手伝う。 「複雑なのじゃ」 綾姫が紙木城の作業を覗き込む。 「水菓子になりますが、それ以上は後でのお楽しみです」 紙木城はまず心太を煮出す。 それから苺を潰したものに黒糖を溶かした液を合わせて加熱。実の歯ごたえも欲しいところなので荒刻みの苺をさらに追加。 そして氷霊結の出番である。氷を作り出して冷水を用意し、先程の材料を混ぜ合わせる。 紙木城の隣りでは宿奈芳純が調理を行っていた。 ヘタをとった苺を白餡で包み、次に鍋へと水、白玉粉、蜂蜜を入れて加熱しながら混ぜ合わる。再加熱をし、鍋の中でよく練った上で皿の上に取り出す。片栗粉をまぶして柔らかさを調整。それを生地にして苺入りの白餡を包んでいった。 将門は釜戸の前で薪をくべながら火加減を調整。釜戸の上に並ぶ鍋は三つ。三種類の苺ジャムを同時に作っていたのである。 「うーん。甘みはこんなものか?」 将門は小さじで味見をして首を傾げる。 「どれどれ?」 「綾姫、いつの間に」 ひょこっと現れた綾姫にも味見をしてもらった。綾姫の意見を聞いて将門はわずかに塩を足す。ようはお汁粉作りと同じ隠し味だ。 「そろそろ止めないと、夕食が食べられないかも、でもあと一粒だけもらおっかな」 「お、ここにいたのじゃな」 蒼井御子は現れた綾姫に摘み作業の際に知った苺の生育状況を伝えた。 苺は多年草なのでずっと残り続けることになる。なので病気の広がりは畑の全滅を意味していた。蒼井御子の見立てでは今のところ大丈夫なようだ。 調理中の迅脚がよそ見をすると走龍・健脚が目に入った。 「食わせてやろう」 苺に興味津々のようなので一粒あげる。啼いて喜んだのでこれで終わりだともう少しだけ。苺摘みの際に荷運びを頑張ってくれたご褒美である。 綾姫がやって来たので迅脚は作りかけの料理の説明をした。 「イチゴのスムージー、イチゴのかん、イチゴチリソースかけを作ろうと思っています」 「美味そうなのじゃ」 迅脚から聞いた綾姫は思わず唾を呑み込み、はしたないことしたと顔を真っ赤にする。 手に入りにくい食材に関しては牛乳と同様に綾姫の侍女が手に入れてくれたので問題ない。後は完成させるのみである。 「フェンリエッタ殿も凝った料理を作っておるの〜」 「綾姫も一緒に作ってみる?」 綾姫は小屋でくつろいでいるうちにエプロン姿のフェンリエッタの調理を手伝うことに。苺を使った料理も作るがますはパンケーキを焼き始めた。 「巨勢王もいらっしゃるといいわね」 「あの手紙を読めば父様は来てくれるのじゃ。そのエプロン、ふりふりがかわいいのぉ〜」 フライパンを濡れ布巾の上に乗せて熱さを調節しながら次々と焼いてゆく。 「美味そうなにおいで腹が減って死にそうじゃ」 「父様!」 調理が終わろうとした頃に巨勢王が現れた。綾姫は即座に駆け寄った。従者も連れず、一人で城からやってきたらしい。 まだ暮れなずむ頃、早めの夕食が野外で行われるのであった。 ●苺苺苺 「ささ、姫さま苺を混ぜ込んだ水菓子にしてみました。名は『心太苺風味』といいます。お試しくださいませ」 「心太苺風味か。さっそく頂くのじゃ」 紙木城が持ってきた皿には赤黒の寒天が盛りつけられていた。サジで掬って口に運んだ綾姫は二口、三口と食べてから紙木城を見つめる。 「とても心太とは思えぬ。香りよし、味よしじゃ♪ 野外故の葛湯の心遣いも痛み入る。城殿よ、ありがとうなのじゃ♪」 嬉しそうな綾姫の様子に紙木城は喜んだ。綾姫の隣で巨勢王も感心していた。 次に料理を運んできたのは宿奈芳純だ。 「見事な苺大福じゃの〜♪ かつては変わり種のお菓子じゃったが、わらわの中ではすでに定番なのじゃ!」 ぱくりと頂いた綾姫が微笑んだ。彼女の口の中で酸味と甘味、そして柔らかい外の食感が踊る。 「あやつにも食べさせたものだ」 「多めに作りましたのでどうかお持ち帰りを」 巨勢王の希望で宿奈芳純は苺大福を包んで土産を用意するのだった。 三番目に料理を運んだのは迅脚である。 「どれもうまいのじゃ♪」 「うむ、特にこの皿は見事!」 イチゴチリソースかけ、イチゴのかん、イチゴのスムージーの順に綾姫と巨勢王が食す。 特にイチゴチリソースかけを親子揃って好んだ。 隠し味に使った苺ジャムは将門から譲ってもらったもの。辛いチリソースが苺ジャムのおかげで丸味を帯びて深い味わいになっていた。 四番目はフェンリエッタだ。 「飲み終わるのが惜しいのじゃ♪」 冷たい苺のジュースは特に綾姫のお気に入り。荒く潰した苺の食感が好みのようだ。 パンケーキは小さめに切って好みの味付けで楽しめるようにたくさんのソースが用意されていた。苺ソース、蜂蜜、バター、チョコソース、カスタードクリーム、苺ジャム、カット苺などなど。 綾姫は苺を主に食べていたが、巨勢王はチョコレート系を好んだ。 クレープも好評である。 「やはりこのチョコ味で頼むぞ」 巨勢王の希望でチョコ生地のクレープを巻くフェンリエッタ。 チョコレート味のホイップに苺のスライスを加えて完成。同じものを綾姫も望んだのですぐに作ってあげる。 親子揃ってクレープを食べる姿は誰が見ても微笑ましかった。 「宴はまだ続くが忘れないうちに渡しておこう」 「おお、苺ジャムか。助かるのじゃ〜。これさえあればいつでも苺を楽しめるからの〜♪」 将門が用意した三種類の苺ジャムを綾姫は大いに喜んだ。どれが好みなのかをじっくりと確かめた上で今後の収穫の一部をジャムに加工するつもりだという。 「パンケーキの苺ソースをつけたの、美味しいねっ。生苺ものっけると最高だよっ!」 「意見が合うの〜わらわもじゃ♪」 お腹がいっぱいになってきたので蒼井御子と綾姫はパンケーキの切れ端を半分こにして頂いた。 (「生とは全然違うものなのだな」) 西中島は生と料理された苺を比べながら食べ進めた。生では敬遠されがちな強い酸味も人の手が加わることで万人が好む味へと昇華する。 武天出身の西中島にとって巨勢王と同じくイチゴチリソースかけは驚きの料理だったようだ。 夕食の締めとして西中島は綾姫と一緒に心太苺風味を頂いた。ちなみに綾姫にとって最後に頂く甘味は別腹である。 「ふー、もう食べられないな」 多由羅も満足した様子。 開拓者には帰り際に土産としてオリーブオイルが手渡された。 「苺、一緒食べられて楽しかったのじゃ〜♪ またの〜〜」 見送りの綾姫は遠ざかる開拓者が見えなくなるまで手を振り続けたのであった。 |