もう一体のギガ〜興志王〜
マスター名：天田洋介
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| ■オープニング本文 前回のリプレイを見る 海に浮かぶ船を今更重宝してどうする？ 超大型飛空船『赤光』の建造を推進した当人が飛空船を否定するのか！ 希儀の運河工事に関して世間からの非難の声が興志王に浴びせかけられていた。しかし興志王は意に介さない。賛美の声も同程度届いていたからだ。 （「適材適所ってわかってくれねぇもんかな。ま、仕方がないか」） 興志王は巨人ギガが穴を掘る様子を眺めながらお握りを頬張る。運河工事はすでに始まっていた。 今のところ巨人ギガが大まかに掘った溝を多数の駆鎧が整える形で進行している。 四メートルのキロ級巨人の投入はもう間もなく。 以前に鹵獲したのと合わせて全部で九体分の頭部が揃う。しかし外部が破損していないからといって必ずしも動くとは限らない。稼働まて持って行けそうな七体は現在調整中である。 巨人ギガの左腕には穴掘りに適した形状の道具が取りつけられていた。為人屋を誘い込んだときに古代遺跡で発見された部位を組み合わせたものだ。 為人屋と真実眼屋は石塔屋の下部組織にあたる。そのすべてを興志王と開拓者達が壊滅状態まで追いやった。 数日後、尋問中の石塔屋の一人が取引に応じて重要な証言を吐露した。 それは巨人ギガの他にもう一体、十八メートルギガ級の存在についてだ。おそらくだが逃げ延びた石塔屋関係者が逆転の策としてその一体を悪用しようとしていることも。 もう一体のギガ級が隠されている場所はこれまでのように遺跡ではなかった。希儀中央に広がる地中海のどこかに沈んでいるらしい。 「奴らが動かす前に押さえねぇと大変なことになる‥‥」 興志王は即座に招集をかける。急遽、ギルドから懇意の開拓者を呼び寄せるのであった。 |
■参加者一覧
芦屋 璃凛（ia0303）19歳・女・陰 
リューリャ・ドラッケン（ia8037）22歳・男・騎 
フィーネ・オレアリス（ib0409）20歳・女・騎 
十 砂魚（ib5408）16歳・女・砲 |
| ■リプレイ本文 ●地中海へ 森の樹木よりも高い人型が大地を歩く。 開拓者達の賛同もあって巨人ギガは『ギガ級巨人』探索の旅に同行する。 紛らわしいので捜索対象のギガ級巨人は二番目を意味する『ベータ』と仮称されることとなった。これは竜哉（ia8037）が『ギガ２ｎｄ』、十 砂魚（ib5408）が『二号』と呼んでいたところからの興志王による発案である。 一行を乗せた朱藩所属飛空船は巨人ギガの右上空百メートルほどの高さをゆっくりと併飛行していた。 「ギガを連れて行くことでの負の要因は到着の遅れと目立つことぐらいか。ギガがいりゃ捜索の効率でお釣りが戻ってくる。それにベータの起動に必要かも知れねぇしな。いい判断だ」 操船席に座る興志王が斜め下方の巨人ギガを見下ろす。 「夜間も飛べば明日の宵の口には地中海沿岸まで到達しますの」 現在副操船手担当の十砂魚がこれまで辿った地点を航路地図へと描き込んだ。 「だとすれば実質的に明後日の朝からが調査開始だな。なら早めに寝ておこうか」 つい先程興志王と操船手を交代した竜哉は欠伸をしながら操船室からでて行った。夜間の操船担当に備えるためだ。 『定時報告です。宝珠機関は順調に動いていますわ。巡航下限の速さなので姿勢をとるのが難しいと思いますけど、機関に負担をかけたくないので現状のままよろしくです』 機関室のフィーネ・オレアリス（ib0409）の声が伝声管を通じて操船室に届く。 「もうすぐ偵察に向かった芦屋が戻ってくるはずだ。そうしたら交代して休んでくれ」 『わかりましたわ』 興志王が伝えた数分後に鋼龍・風絶を駆る芦屋 璃凛（ia0303）が偵察飛行から戻ってくる。彼女は風絶を船倉に移動させて食事を与えてから機関室へと向かう。予定通りにフィーネと代わってしばらく機関手を担当した。 「ちょうどお腹が空いていたところやで。ありがとうな」 芦屋璃凛は調理担当の砲術士が持ってきてくれたお握りを頬張って空腹を満たす。 興志王と開拓者四名以外にも砲術士三名が乗船している。計八名の持ち回りで理穴所属飛空船は運航されていた。 巨人ギガが歩きやすいよう平地の経路を選んだのでわずかながら遠回りとなる。それでも予定の一日強の遅れで目的の地中海沿岸まで辿り着いた。 ●到着 羽流阿出州を出立してから三日目の早朝。砲術士三名に朱藩所属飛空船の留守番を任せる。開拓者達は興志王に一言ずつ残してベータ探しへと向かう。 「海の上空を飛んで岩を探してみるところから始めようと思うとるんや。なあ、風絶兄さん」 芦屋璃凛が手綱を引くと鋼龍・風絶が翼を羽ばたかせて風が巻き起こる。そのまま地中海の海岸線に沿って飛んでいった。 「大空の翼で飛んで岩や潮の満ち引きを調べてみるつもりだ。光鷹、行くぞ」 竜哉が甲板から砂浜に飛び降りて走りだす。大空に舞った輝鷹・光鷹が滑空しながら主人を追いかける。 「この辺りではチョウザメを始めとした漁が行われていると聞き及んでいます。その方々と接触できればベータの位置がわかるのではないかと。それでは」 「岩礁などに一番詳しいのは、この辺りで船を出している漁師さんですの。不審船や不審者の話も聞くつもりですの」 フィーネと十砂魚は羽流阿出州で得た情報を元に別々の集落を訪ねる予定だ。 「んじゃギガ、俺達も行くか」 『わかった。そうしよう』 興志王が立ち上がった巨人ギガの肩によじ登って南方を指さす。巨人ギガはゆっくりと向きを変えて一歩を踏みだすのであった。 ●露出した岩の状態 「陸に囲まれているだけあって穏やかな海面やな。波高もほんのちょっとや」 芦屋璃凛は鋼龍・風絶の背中から身を乗りだすようにして地中海を観察した。波打ち際に沿って飛び続けたものの、ベータの一部らしき岩は見つからなかった。 「岩礁とかもっとぎょうさんあると思うとったやけんど」 元々低く飛んでいたがさらに下げて風絶を超低空飛行させる。波飛沫がかかるほどの距離まで近づいてようやく海中の岩が見えた。 「潮が引いてきたおかげもありそうや。焦らず待ってみよか、兄さん」 ベータが巨人ギガと同程度の十八メートルを誇るのならば目立つに違いない。 例えば小指の先だけ海面から飛びでているとは考えにくかった。露出しているのならばそれなりの大きさだろうと推測する。 ベータ探索を始めて三時間が過ぎ去った。引き潮になったおかげでようやくそれらしき岩が海面から現れる。 「そろりそろりと、ゆっくりゆっくりやで。し、しまったっけっとととっと！ まけへん、負けへんのやぁ！」 風絶から岩の上に降りた芦屋璃凛は足を滑らす。しかし何とか姿勢を立て直して転ばずに済んだ。 「これは‥‥」 岩には大量の緑色をした苔と牡蛎が張りついていた。削ぎ取って岩肌を直接調べてみたが普通である。巨人ギガを構成する素材とはほど遠かった。 ベータを発見できなかったものの、芦屋璃凛は重要な情報を得る。 「本物のギガ級、ベータがいたとして‥‥おそらくこないな風に苔と牡蛎だらけに違いないわ。こりゃ見破るのしんどいで」 芦屋璃凛は飛んできた風絶の足を掴んで海上の岩から離れる。海岸で風絶の背中に乗り直し、仲間が待つ拠点へと戻るのであった。 ●干満の差 「ギガは王に謁見する者のように片膝をつけた姿勢で休む場合があるか」 竜哉は興志王から巨人ギガが休息するときの姿勢を教えてもらっていた。 呟いたのとは別に仰向けで横たわる場合もあるようだ。どちらかといえば片膝をついた場合が多いらしい。 （「仰向けの場合はこの際無視するしかないか。片膝の姿勢だとすれば、頭部、または後頭部から両肩ぐらいが海面から露出していそうなものだな‥‥」） 竜哉はいろいろな状況を予測しながら潮の満ち引きの状態を調べる。 具体的には荒縄に重しをつけたものを海底へと沈めて海面までの距離を測る。輝鷹・光鷹と同化して光の翼で飛べば容易い作業だ。 ベータが沈んでいると思われる海岸線を移動しながら記録を取っていく。見かけた岩などは後の調査のために地図へと記しておいた。 同じ基点で最低二回は測らないと潮の満ち引きはわからない。湾のような海岸だったり遠浅など条件によって結構満ち引きの差は生じるものである。 「この辺りは激しいな。二尺は変わっているぞ。干満の最大値ではないはずなのに」 竜哉はそうやってベータが沈んでいるのであろう海域を絞り込んでいった。 ●岩礁と魚介類 フィーネが訪ねたのは人が住み始めて半年しか経っていない新しい集落だ。地中海での漁を生業とする。交易商人に頼らず、集落が所有する飛空船で大都市まで魚介類を売り捌いていた。 「地中海の潮の満ち引きかい？」 「ええ、教えて頂けませんでしょうか？」 フィーネが樽いっぱいの新鮮な魚介類を買った上で質問する。するとご機嫌な様子で干潮の正確な時間や岩場の多い海岸を教えてくれた。 さっそく教えてもらった海岸に出向いて沖を眺める。 「どうでしょうね、あの岩は。角付きの頭部のような、そうではないような――」 フィーネは出発前に描いた巨人ギガの似顔絵と各岩の形を見比べた。全身図だけでなく、手や頭部などの一部を細部まで描写した絵も描いてある。 ざっと眺めるだけでも大小二十の岩が海面から露出していた。潮が満ちると残るのは数個になるらしい。現在は一旦潮が引いてからの満潮に移行する頃だ。 「もうすぐ日が暮れますし‥‥明日の英気を養うのも重要ですよね」 いくつか当たりをつけたところで少し早めに拠点へと戻ることにする。フィーネは留守番していた砲術士にも手伝ってもらいながら魚介鍋と焼き魚を作り上げた。 ●残党の存在 「どうかしましたの？ 大丈夫ですの？」 十砂魚は集落に向かう途中、放置された荷車の横で倒れている中年女性を発見した。駆けよって声をかけると意識がある。 「後ろから殴られて‥‥誰かに大事な米俵を奪われて、しまったんです‥‥」 中年女性は痛がっていたものの特に外傷はない。 ひとまず安心した十砂魚は周囲を見回したが誰もいなかった。近くの樹木に登ってあらためて眺めてみると沖に小舟が浮かんでいる。 眼を凝らしてよく見れば舟には米俵が載せられていた。櫂で漕いでいる人物が中年女性を襲った犯人のようである。 「みーちゃん、お願いしますの。犯人を追いかけて欲しいのですの」 十砂魚は介抱で中年女性の近くから離れられなかった。同行していたミヅチ・みーちゃんに小舟で遠ざかる犯人を追跡してもらう。 宙を浮かぶみーちゃんは海岸に降りてそのまま海へと飛び込んだ。さすがミヅチである。あっという間に小舟へと辿り着く。 跳ねたみーちゃんが犯人に『たいあたり』をかます。姿勢を崩した犯人が海中へと落ちる。 「みーちゃん、いいから戻ってくるのですの！」 嫌な予感がした十砂魚は何度も叫んだ。彼女の声が届いたのかみーちゃんはそれ以上犯人を追うことはなかった。米俵が積まれた舟を押して海岸に戻ってくる。 「飛空船？ 私が乗ってきた朱藩のではないですの」 まもなく海上に一隻の飛空船が着水する。数分後、離水して遠くの空へと消えてしまう。（「漂流中の犯人を救出したに違いないですの」） 十砂魚は米俵と中年女性を荷車に乗せて集落まで送り届けた。 「母ちゃんを助けてくれてありがとう。痛がっていますが、たんこぶ程度ですみそうです。実はこの数週間で三度も何者かに食料を奪われているんですよ。一人じゃ危ないからっていっておいたのに」 中年女性の息子が感謝しながら十砂魚に最近の事情を話してくれる。 （「きっとあいつらですの」） 犯人は石塔屋の残党ではないかと勘を働かせる十砂魚であった。 ●興志王 日が暮れるまでに全員が拠点へと戻った。飛空船内の食堂で晩御飯を食べながらベータの捜索で得られた情報を突き合わせる。 「南方を確かめたが沖にそれらしき岩は見つからなかったな。一個所だけこれはと思ったんだが、ギガに海の中を探ってもらったら残念ながら違っていたぜ」 興志王から始まって順に開拓者達が報告を行う。 それぞれの情報には重要な価値があった。 総合して注目すべき基点は三個所に絞られる。後は干潮時にそれらの岩の状態を精査すればベータが眠っている場所がわかるはず。そのような結論が導かれた。 「ギガはでかいからどうしても目立つ。石塔屋の残党がこの周辺を彷徨いているとすれば俺達の存在に気づいているはずさ。それにベータの居場所を発見済みなら食いもんの泥棒なんてしている暇はねぇはずだ。とっととベータを起動させて、暴れるように仕向けて、トンズラこけばいいんだからな。ってことは残党の奴らはまだ見つけちゃいねぇんじゃねぇのか？」 興志王の推理は開拓者からの報告を踏まえたものである。 石塔屋の残党がどのような手を打ってくるとしても、どのみちベータを発見しなければ始まらなかった。 ●どの岩が本物なのか 夜が明けて朝が訪れる。一行は基点とした岩が眺められる三個所に分かれて干潮の時を待った。 壱の基点は飛空船ごと移動した砲術士三名が監視した。 弐の基点は巨人ギガ、そして十砂魚と興志王が見張った。 参の基点は芦屋璃凛、フィーネ、竜哉の三名が待機する。 海岸の波打ち際が徐々に遠ざかっていく。それにつれて各基点の岩が露わになっていった。 「こりゃ違うな。巨人じゃありえねぇ」 「では外れの赤いのを撃ちますの」 興志王の指示で十砂魚が頭上に向けて狼煙銃の引き金を引く。 壱の基点もベータではなくて赤色に輝く狼煙銃が撃たれている。残念ながら遠すぎて弐の基点周辺からは確認できなかった。 「青‥‥。参の基点が当たりか！」 望遠鏡で西の方角を確認した興志王が大声をあげる。 「ギガ、あの煙があがっている方角だ。全速力で頼む。ここらは無人のはずだが、もしいたら踏まないよう気をつけてくれよ。畑や建物もな」 『わかった、王よ』 巨人ギガが右手に興志王、左手に十砂魚とミヅチ・みーちゃんを乗せたまま駆けだす。側を通り過ぎる度に樹木の幹が激しく揺れた。 参の基点が見えてきたのは巨人ギガが走り始めて二十分が過ぎた頃である。 岩が露出する海面近くには飛空船が着水していた。それは壱の基点を見張っていた朱藩所属飛空船ではなかった。 「あれは盗っ人の飛空船ですの！ きっと石塔屋ですの！」 十砂魚が叫んで興志王に伝える。 「つまり石塔屋の残党が横からベータをかっ攫おうとしているってことか。警告をだすとかそういう段階はとっくに越えているな。覚悟を決めるぞ！！」 「こうなれば仕方がないですの」 興志王が担いでいた愛用の銃砲を手に取った。十砂魚も『マスケット「クルマルス」』を取りだして構える。 参の基点へ近づくうちに仲間と敵の区別がはっきりとわかってくる。射程距離に入ったところで興志王が巨人ギガを停止させた。 「俺は赤い布を首に巻いたやつを狙う」 「では茶色い上着の方を撃ちますの」 十砂魚と興志王が狙い定めて銃弾を放つ。 岩の上で刀剣を振り回していた残党らしき男性二名にそれぞれの弾が命中。双方とも海中へと叩き落とされた。 ●ギガ級巨人 時は少し遡る。 参の基点で待機するフィーネ、竜哉、芦屋璃凛の三名は海面から徐々に現れてくる岩に注目していた。 「左側の岩、あれが巨人の頭のような」 フィーネが指さして巨人ギガと岩の共通点を指摘する。 「直接調べてみるか」 「それがええな」 竜哉は輝鷹・光鷹と同化して飛行。芦屋璃凛は鋼龍・風絶に乗って岩の上へと移動した。 「これはまた凄まじいな」 転びそうになった竜哉が眉をしかめる。聞いていた印象以上に牡蛎や緑苔で覆われている岩の上は滑りやすかった。 「少しぐらい剥がしても岩肌は全然見えへんな。でも形状からいってこの岩で間違いないやろ」。 芦屋璃凛は合図として両手を大きく振り、海岸のフィーネにベータでまず間違いないことを伝えた。 「それでは」 準備済みのフィーネが空に向けて狼煙銃を撃つ。当たりを示す青い輝きが上空へと伸びていく。 岩上の竜哉と芦屋璃凛が表面を剥がす作業をどうしようかと話していると頭上から轟音が響いてきた。当然、フィーネの耳にも入る。 「あの飛空船‥‥十さんがいっていたものでは？」 訝しんだフィーネはアーマー「人狼」・ロートリッター弐に乗り込んで駆動の準備を行う。 「やはり石塔屋だ！」 「弓矢を構えとるわ！」 着水しながら迫る飛空船からの飛矢を避けるために竜哉と芦屋璃凛が海中へと飛び込んだ。光鷹と風絶は一旦大空へと舞い上がる。 石塔屋と思われる飛空船が水飛沫をまき散らしながら岩に横着けした。それからすぐに遠くから地響きが聞こえてくるようになる。 地響きの原因は巨人ギガの走り。参の基点へと急速に迫っていた。 岩に何かを施そうとした石塔屋の二名だか焦ってうまくいかない。そうこうするうちに銃弾を受けて二名とも転げて海の中へ。 海面に浮上した竜哉は輝鷹・光鷹と同化。芦屋璃凛は風絶の足に掴まってから勢いをつけて背中へと移動した。 「逃がさへんで！」 芦屋璃凛は飛空船後部の風宝珠による推進部を狙う。風絶の爪先から放たれた『衝撃爪』が外部装甲を引き剥がす。 「卑怯者は最後まで卑怯者か」 竜哉はしならせた『ソードウィップ「ウシュムガル」』で推進部の重要部分を斬り刻む。離水しようとしていた石塔屋飛空船だが失速して海岸に突っ込んでいく。 「飛んで火に入る夏の虫ですわね」 フィーネが駆るアーマー・ロートリッター弐が放った『アーマーマスケット』の銃撃が止めとなる。操船室の窓に巨大な銃弾が撃ち込まれると船体が炎に包まれた。 海に飛び込んで逃げようとした石塔屋の残党はミヅチ・みーちゃんが全員捕まえてくれる。 事態が収拾し、巨人ギガが海中に足を踏み入れて岩へと近づく。肩に乗っていた興志王が岩を見下ろす。確かに岩は屈む巨人の胸元から上の部分に見えた。 （「生き残りの石塔屋の奴らを絞れば正しい手順の復活方法もわかるかも知れないが。まず間違いなく俺達を騙そうとするだろうな‥‥」） 興志王が迷っていると巨人ギガが海面に露出している岩にそっと触った。すると突然、岩が輝きだす。 表面を覆っていた牡蛎や緑苔などがぼろぼろと剥がれていく。やがて巨人の頭部が現れて立ち上がる。 海岸にいた開拓者達が天を仰ぐ。波打ち際から数十メートル先では二体の巨人が佇んでいた。 ●羽流阿出州へ ベータに危険な兆候は表れなかった。 巨人ギガからの知識が伝わったのか理由は不明なものの、言葉も基本的なものはすでに話すことができた。但し心の方は無垢なままなようである。 羽流阿出州への復路は往路よりもゆっくりと進んだ。 甲板でくつろぐ竜哉と興志王は二体のギガ級巨人を眺めながら運河建設を話題にした。 「希儀内の流通を全部飛空船でやろうとすればコストが途方もなくなる上に潤うのは発着場のある場所同士、点と点のみだ。間が無視されてちまう。流通網を作ってこそ、定植しての開拓が出来るんだろう。唯の人さえ自由に行き来できる通商の場として、運河はあったほうがいい」 「その通りなんだがな。中々理解されないこともあるのさ。やって納得させるしかないと思っている。ありがとうな」 興志王は竜哉の前で一瞬照れたように笑う。 「高所といっても風絶兄さんで飛ぶのとは一味違うもんやな」 「もっと揺れるかと思いましたが、大丈夫なのですね」 巨人ギガの肩の上には芦屋璃凛とフィーネが乗っていた。 十砂魚はベータの肩に座りながら名前を話題にする。 「ベータという名は仮ですの。よい名前があればそれがよいのですの」 『なまえ、なまえ――』 十砂魚は思いついた名前を適当にあげてみた。しかしベータはしっくりとこないようだ。 帰路について四日後。一行は無事に羽流阿出州へと帰り着く。 羽流阿出州の住民はギガ級がもう一体増えた事実に驚いたという。 |
