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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 興志王が統べる朱藩国の安州ではこの時期に『海産祭』と名づけられた豊穣の祭りが開催される。 天儀本島から遠く離れた浮遊大陸とはいえ希儀も秋の様相を呈していた。なら羽流阿出州でも豊穣祭を開催して秋の実りを祝おうとするのは自然の流れといえた。 「う〜ん、いい名が浮かばねぇな」 興志王は掘られたばかりの運河沿いを散歩する。遠くから届く巨人達の激しい作業音を聞きながら。 その頃、羽流阿出州の沖では一隻の漁船が大漁旗を靡かせていた。 「短時間で大量のカツオが獲れるとはな」 「あと一尾、甲板に揚げただけで船が沈んじまいそうだ」 漁師達が軽口を交わしながら羽流阿出州への海路を急ぐ。 漁船は帆と風宝珠による補助推進を備えた併用型である。今は十分な海風が吹いていくので帆の揚力だけで動いていた。 「ん、何だ?」 漁師の一人が変異に気づいたときには遅かった。海面が盛り上がったのと同時に漁船は大きく揺れる。舵取りのうまさで転覆せずに済んだが、それだけでは終わらない。 「おい、海に投げ出された者はいな‥‥‥‥なななななん、なんだ?」 船内から飛びだしてきた船長が声を震わせた。 「つ、月?」 漁船の前で巨大な影が行き先を阻んでいた。そして上空には輝く球が浮かんでいる。 「せ、船長! アンコウですぜ。でっけぇアンコウだぁ!」 「まさか! いや、しかし‥‥」 信じられなかったが、その姿はまさしくアンコウ。但し、鯨並の大きさとしか見えなかった。 慌て声で指示をだし、風宝珠を駆動させて全速力で逃げる。しかしあまりに船体が重くて逃げおおせなかった。 「なんでもいいから捨てて軽くしろ!」 船長が叫ぶ。漁師達がカツオを海に投棄すると追いかけてくる巨大アンコウが頬張る。 これは使えると瞬時に判断した船長はカツオを投げることで巨大アンコウの動きを誘導させた。 激突を回避し続け、やがて軽くなった漁船は巨大アンコウを引き離す。獲ったカツオは三分の一にまで減っていたが命あっての物種である。 この事実は羽流阿出州に戻った漁師達によって伝えられた。 巨大アンコウがカツオを食べた事実。そして接触した船体部分に皮が残っていたところからアヤカシではなくケモノだと考えられる。 今後の危険を憂慮した漁師達は金を出し合って開拓者ギルドに依頼をだす。巨大アンコウを倒してくれないかと。 |
■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
サエ サフラワーユ(ib9923)
15歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●巨大アンコウ退治へ 羽流阿出州の港から巨大アンコウ退治を目的とした一隻の中型飛空船が飛び立つ。 操船は漁師の中から選ばれた六名が担当。おかげで開拓者一行は退治に専念できる。 漁船が巨大アンコウと遭遇した羽流阿出州沖までそれなりの距離があったものの、飛行しての移動だと大したものではなかった。わずか十数分程度で目的の沖上空まで辿り着く。 広い甲板で待機していた開拓者達が次々と動きだす。 「んじゃいくで。風絶兄さん」 芦屋 璃凛(ia0303)が手綱を引くと乗っていた鋼龍・風絶が立ち上がって翼を広げる。踏み込むようにして甲板から飛び降り、風に乗って大空へと舞った。 「後で聞きに来るつもりだ。その時はよろしく」 竜哉(ia8037)はそれまで相談していた漁師から少し離れて、輝鷹・光鷹に『大空の翼』を使わせる。光鷹が激しい風を巻き起こしながら同化。背中に生えた光の翼で竜哉が飛び立つ。 「ケモノなら、別に倒しても良さそうですの」 すでに飛行中の轟龍・風月を駆る十 砂魚(ib5408)は海面を見下ろす。 太陽光が波に反射しているせいで海中を覗くことはできなかったが、相手が鯨並の大きさならば事情は変わってくる。海面近くまで浮上してきたのなら影の輪郭が浮かび上がることだろう。 そうなったときにいち早く見つけられそうな技を持つのがクロウ・カルガギラ(ib6817)である。 「漁師の上前はねるような真似は見過ごせないよな。アンコウとかいう奴、倒してみせるぜ」 クロウは天翔る翔馬・プラティンに騎乗しながら視力向上の『バダドサイト』を自らに付与する。一分の効果だがうまく使えば索敵として非常に役立つ。 「おねがいっ! リュウくんっ!」 怖々と駿龍に跨がったサエ サフラワーユ(ib9923)は焦って手綱を思いっきり引っ張ってしまう。暴れるように翼をばたつかせた駿龍の足が甲板から離れて風に流される。すぐに失速して真っ逆さまに落下していく。 「お、おちっ! ‥‥おちちゃう〜〜っ!!」 駿龍も冷たい海に落ちるのは嫌だったらしく、自力で姿勢を立て直す。その間、サエは涙目で駿龍の首にしがみつくしかなかった。 リィムナ・ピサレット(ib5201)は港の漁師達に手伝ってもらい、特別な仕掛け『カツオ縄』を準備してきていた。 「大きなアンコウを倒したらギガが入れる深さのところまで引っ張る必要があるよね♪ なんだかワクワクしてきたよ♪」 仕掛けは荒縄と釣り糸を組み合わせたもので大きめの釣り針には餌としてカツオがつけられている。 「あれ、け、けっこう重い‥‥」 想像していたよりも重量があってリィムナ単独で海面に垂らすのは難しかった。そこで飛空船から直接カツオ縄を垂らす。 リィムナは輝鷹・サジタリオと同化して空を飛び、カツオ縄の中間部分を掴んで適度に揺らす。こうすることで海中の餌カツオはそれらしく動くはずである。 そうやって一時間が経つ。やがて二時間が過ぎていく。 開拓者達は時折飛空船に戻り休憩を取った。諦めずに周辺海域の捜索は続く。 そして四時間後。 「海の色が変わったような‥‥。いやこれは確実に変わったな」 海面に変化が現れたのをクロウは見逃さなかった。漁師から預かっていた狼煙銃を上空に向けて撃ち、仲間達へ発見の合図を送る。 「あ、あの真っ直ぐな煙まで飛んでい、あ、あああ、アンコウが飛んでるぅ〜〜〜?!」 ゆらゆらと駿龍で飛んでいたサエも巨大なアンコウが海面から跳ねた瞬間をその目に焼き付けた。周辺にまき散らされた海水がしばらくの間、豪雨のように降り注ぐ。 「あのばかでかいのがアンコウか」 「本当に鯨みたいですの」 並んで飛んでいた竜哉と十砂魚が顔を見合わす。 「でかすぎるで。ほんまに」 芦屋璃凛は海面に未だ残っている波紋をじっと見つめた。 距離こそまちまちだったが、わずかに遅れて到達した飛空船一同以外の全員が巨大アンコウを目撃したことになる。 全員が相談のために出現海面点を中心にして旋回する飛空船へと一旦帰還する。 「色々なアンコウを描いておいたのにゃ♪」 一口にアンコウといってもいくつかの種類に分かれていた。リィムナが魚市場で素描してきた絵と比較して、先程の巨大アンコウがどれなのか特定を試みる。 「これ‥‥いや違うですの」 「いやこっちかも‥‥う〜ん」 十砂魚とサエが一緒に首を傾げた。 開拓者達が相談している間、漁師数人が次々とカツオを海中に投げ入れた。再び浮かんでくるようにと撒き餌を続けていたのである。 「大きく開いた口内を目撃しましたが、斑点はなかったはず」 「ならこれで間違いないやろ」 クロウと芦屋璃凛が同時に同じ絵を指さす。それは一般に美味しいとされているキアンコウと呼ばれる種類。ホンアンコウともいう。 「巨大アンコウがこの種類からの発達だとすれば、心臓はどの辺りになりそうだ?」 「そうだな。この絵でいえば腹側の結構上の方で――」 竜哉は相談に参加してもらっていた漁師から急所となる心臓の位置を教えてもらう。ズダズタに切り裂くよりも、なるべく苦しめないように仕留めたいと考えていたからだ。 「海面に影が現れた!」 「来るぞ!!」 撒き餌をしていた漁師達が次々と叫んだ。 開拓者達は一斉に散らばり、各々のやり方で空中に浮かび上がる。 「よいしょっとっ!」 リィムナは新たなカツオ縄を海中へと投げ入れる。 飛空船に旋回を続けてもらいながら数分が経過。強力な引きによる衝撃が襲い、飛空船は安定姿勢を崩した。 「閃光は効かないよ!」 カツオ縄の誘導を飛空船に任せたリィムナは『暗視』を自らに付与する。 未だ巨大アンコウは海の中。姿勢を立て直した飛空船が引っ張りあげようとしてもびくともしない。反対に巨大アンコウが本気を出せば海の底まで引きずられる危険がある。 「お前が悪という訳じゃない。せめて全力にて葬ろう」 竜哉は先に射程の長い『魔槍砲「ヴォータン」』を構えて巨大アンコウとの距離を目視で測る。深度も含めて計算に入れつつ、ぶっ放す。 さらに近づいたところで『魔槍砲「赤刃」』を使用。狙ったのは尾びれの部分。ここが傷つけば自由に泳げなくなるだろうと判断したからだ。 二本の水柱が海中から立ちのぼる。 「今や!」 芦屋璃凛は巨大アンコウが海面に浮かんだ瞬間を狙って『氷龍』の式を打つ。氷薄に包まれた巨大アンコウが動きを鈍らせているうちに仲間達が更なる攻撃を仕掛けた。 「い、いきますっ!」 あたふたしながらもサエが放った『呪縛符』の式が巨大アンコウに絡みつく。 二つの技によって巨大アンコウは海面に漂うただの塊と化す。但し、効果は長く続かなかった。 「潜られる前に片付けるですの!」 海面ぎりぎりまでの低空飛行をしていた十砂魚が『マスケット「クルマルス」』で頭部を狙い撃つ。 「こっちだ。ほらカツオがある。うまそうだろ!」 クロウは巨大アンコウの視界に入るようにして五本のカツオを見せつけた。翔馬・プラティンの胴から縄でぶら下げるカツオが振り子のように揺れる。 巨大アンコウが動きだしても海中に戻らないようにするための策であった。 功を奏したのか巨大アンコウは潜る選択は選ばない。その代わりに提灯の先端部分を太陽のように輝かせた。 「落ち着け。ひとまず上空に退避だ」 クロウは閃光に備えて『ゴーグル「オズ」』で両目を保護していた。そのおかげで少々眩しい程度で済む。少し高度を取りつつ『宝珠銃「ネルガル」』を構える。 狙ったのは輝く提灯の先端。 クロウだけでなく輝きが収まると仲間達も提灯の破壊を優先した。前兆を感じて直視を回避した十砂魚も銃弾を叩き込む。 「いっくよぉ〜〜!」 暗視のおかげでリィムナも閃光をものともしていなかった。修羅道で自らを強化しつつ『黄泉より這い出る者』による死の呪いを巨大アンコウにかけ続けた。 提灯が千切れてもなおも続く攻撃に巨大アンコウが苦しみだす。 巨大アンコウが海面を跳ねたちょうどよい瞬間に飛空船が引っ張ってくれた。巨大アンコウは姿勢を崩してひっくり返り仰向けとなる。 「ここが急所だ!」 竜哉が狙ったのは巨大アンコウの心臓の位置。キアンコウと同じ構造であれば急所はそこ。仲間達も攻撃を集中させる。 仰向けになってからの巨大アンコウは呆気なかった。三十秒後も経たない間に動かなくなって波間に漂う肉塊と化す。 今のところ浮いているが、いつ沈むかわからない状態。口に引っかかっていた針を強固に食い込ませてから着水させた飛空船で海岸まで急いで運ぶ。 陸がはっきりと見えるよりも先に巨人ギガの姿が見えた。 「ギガ頑張れ〜♪ もう少しだよ〜♪」 リィムナが巨人ギガの頭の上で声援を送る。巨人ギガは巨大アンコウを肩に担いで海岸まで揚げてくれた。 「アンコウといえば、吊るし切りですの。でも、これだけ大きいと、吊るすのも一苦労ですの」 「此処までのサイズだと吊るし切りは難しいだろう」 巨人ギガがどうやって巨大アンコウを捌くつもりなのか、十砂魚と竜哉が興味津々で見つめる。 『もう一杯、飲ませる』 特別な櫓がない限り吊るし切りは無理なので、寝かして切ることに。海水を飲ませて腹を膨らませるまでは巨人ギガがやってくれた。 十数メートルの巨大アンコウが海岸で仰向けになっている姿は圧巻である。噂を聞きつけた羽流阿出州からの見物人が徐々に集まりだす。 「これって希儀の精霊様からの贈り物かな♪ 精霊様も羽流阿出州を祝福してくれていますよ〜♪」 白いキトンに着替えて月桂冠を被ったリィムナは、祝福と感謝として巫女舞いで祝う。実際の豊穣祭は明日からなので前祝いといったところである。 「よかったらこの豪剣リベンジゴッドを使ってくれ」 『ありがとう、クロウなる者よ』 クロウから借りた『豪剣「リベンジゴッド」』は巨人ギガにとってペーパーナイフのようなものだ。 この大きさが巨大アンコウの腹を割くには都合が良かった。内臓を傷つけずに皮だけを切ることができる。 「おっきなギガさんすごいなー。私もちゃんとお料理できるよーにならないとお嫁にいけないかも‥‥。あの、どの辺りが美味しいのかな?」 「そうやな、あのでかいのは海水で一杯になった胃袋や。水袋ともいうんや。二番目にでかい隣にあるのが肝心要のアンキモやな。こいつがとてつもなくうまいんや!」 サエに質問された芦屋璃凛が捌かれるアンコウを解説する。 その会話を聞いていた見物人達がざわめき出す。アンキモは相撲取り十人分ぐらいの量がありそうだ。 まず巨人ギガがアンキモや胃袋などの主要な部分を切り取ってくれる。 「皮を剥きたいところだがそれは難しそうだな。少しずつ身の部分を切り取っていくしかないだろう」 竜哉が漁師から借りた巨大包丁を手にして一歩踏みだす。興味ある仲間達も同じように巨大包丁を手にして巨大アンコウの解体を手伝う。 その量は凄まじかった。開拓者達は身の一部だけをもらう。残りすべては依頼者の漁師達が豊穣祭で振る舞うために使われる。 「これで無料振る舞いのアンコウ鍋が豪快になりそうだ。ありがとう、開拓者のみなさん」 漁師の代表者はほくほく顔だ。 大量のアンコウ食材は漁師達によって木箱に詰められる。そして飛空船に積み込まれて羽流阿出州へと運ばれた。すべてを運び終えるまでに三往復を要したという。 ●豊穣祭前夜 アンコウ鍋は明日の楽しみにとっておかれる。今晩は身の部分をから揚げにして頂くことに。漁師が手配してくれた宿の者に頼むと二つ返事で調理してくれた。 晩御飯を食べる前に肉食が平気な朋友達へとアンコウの身をお裾分け。巨体の龍でも満腹になれる量が振る舞われる。しかも味は抜群にうまかった。 開拓者達は宿の畳部屋で食事をとる。 「さて、アンコウの身のから揚げの味はどんなものだ?」 竜哉が最初にから揚げを頬張った。 飲み込んだ後で大きく頷き、傍らに置いてあった天儀酒の杯をぐい飲みしてにやりと笑う。 「ふぅ‥‥‥‥」 サエは巨大アンコウ退治だけでかなり疲れていた。 捌く作業も経験してへなへなの状態。宿の厩舎にいる駿龍にアンコウの身をあげて戻ってきてからは部屋の隅でずっと横になっている。 「ご飯ですの」 十砂魚に身体を揺すられて、のろのろと起きたサエがようやく箸を手にした。 「リュウくんに乗っているだけで疲れちゃった‥‥」 朦朧としながらから揚げを一口。すると瞼半分閉じていた瞳がまん丸お目々に様変わり。 「アンコウさん、おいしいですっ!」 から揚げと一緒だとご飯がとても進んだ。あっという間に茶碗が空になって二杯目を頂く。 「こりゃうまいで〜♪ 明日のアンコウ鍋も楽しみや」 「あんこう鍋の他にアンキモだけを使ったどぶ汁も用意されると聞きましたの」 芦屋璃凛と十砂魚は豊穣祭で出される予定の料理を話題にする。 「明日もサジ太と一緒にたらふく食べるからね♪ んひゃああ♪ おいちい♪」 輝鷹・サジタリオはから揚げを頂くリィムナの傍らで生のアンコウの身を啄む。薄切りにされているので刺身といっても差し支えがない。 「さっき使いものがやって来て伝言を残していったぞ。明日には興志王が合流するそうだ」 報告を済ませたクロウもプリプリのから揚げに舌鼓を打つ。 お腹いっぱいに食べてぐっすりと寝れば身体の回復は早い。翌朝に目覚めた開拓者は誰もが元気いっぱいであった。 ●豊穣祭 そして豊穣祭当日。 普段空き地の羽流阿出州の広場にはたくさんの屋台や露店が並ぶ。漁師振る舞いの巨大釜によるアンコウ鍋は大人気で長蛇の列が続いている。その他にも歌や踊りなど催し物が開催されて賑わいをみせていた。 「そうか。そうやってばかでかいアンコウを倒したのか。俺もアンコウを捌くとこ、見たかったぜ」 興志王が合流しての昼食は野外で鍋を囲んだ。 七輪の炭火にかけられていたどぶ汁のアンコウ鍋はそろそろ頃合いである。 「できあがったのですの」 十砂魚が蓋を外すと湯気と一緒に空腹を誘うにおいが漂う。実際、誰かの腹の虫が大きく鳴った。とはいえ余計な詮索はせずさっそく食べることに。 「はい。興志王さんの分ですっ!」 サエが率先して椀によそってくれる。 「このどぶ汁の濃厚さは特筆すべきものがあるな」 クロウがアンコウの身やアンキモを味わってから汁を啜る。 「まさか羽流阿出州の露天でもジンジャースパークが売っとるとは思いもせんかったわ」 芦屋璃凛はジンジャースパークの大元と考えた一人である。とても機嫌良くどぶ汁を味わった。 「いっただきます〜。‥‥‥‥おいしいですっ。えっとこんな味がするんだっ!」 「アンコウは、捨てる場所がないといわれる程の食材ですの。アンキモがいちばんですけど、おいしいところばかりですの」 サエと十砂魚はお喋りを楽しんだ。二人してほっぺたを押さえつつ、どぶ汁を食べ進める。 「このぷるぷるとした皮の部分はお肌にも良いと聞きますの」 「そ、そうなんですか十砂魚さん!」 サエはさっそく皮の部分を頂いた。そのとろりとした食感がやみつきとなる。 「解体の際に試してみたが、アンコウの表皮はぬめりがあって刃が通りにくかったな。銃を選択して正解でしたよ」 「こういうときに効果を発するのが銃だよな。ほら、いける口なら飲め飲め♪」 クロウと興志王はしばらく銃についてを談義した。興志王は銃の話しを始めるとなかなか止まらない。 「運河も順調だしこの豊穣祭も盛況で終われば、羽流阿出州は万々歳。希儀の未来にも繋がるとくりゃ!」 酒が入ったせいもあって興志王は超ご機嫌てある。竜哉は興志王の杯に熱燗の天儀酒を注いだ。 「ありがとよ。そういや運河に名前をつけてぇんだが、誰かよさそうなのねぇかな」 「運河、運河か‥‥。オケアノス、とかはどうだろね? 何時だったか遺跡に潜ったときに、水の神様の名として見かけたんだが。水難事故が起きないような願掛けにはなるかもよ?」 竜哉が思いついた名前を興志王に聞かせる。 「王様、運河の名前が決まらないの? あんこうという海の恵みを記念して『ペスカンドリッツァ』はどうかな? 希儀の言葉で『あんこう』って意味らしいよ♪」 リィムナも案をだしてくれて興志王は喜びのあまり、自分の膝を叩く。 「オケアノスにペスカンドリッツァか。希儀はまだ謎だらけだから、古代の言葉をそのまんま使うと不都合があるかも知れねぇからな。二つ合わせて『オケドリッツァ』にしようか。よし、決めたぜ!」 竜哉とリィムナは興志王が酔っ払っていたのでこの発言に半信半疑であった。後日、正式発表されたときには非常に驚いたという。 「あああん、あああん、あんこうだ〜♪ とっても美味しい海の恵み♪」 「よ、うめぇな。こうすればいいのか? よいよいっと♪」 余興でリィムナが踊りだすと興志王も加わった。二人して適当に踊って場を盛り上げる。 「サジ太、よかったねぇ〜♪」 輝鷹・サジタリオもリィムナからもらったアンコウ鍋の具を頬張る。 ちなみに屋台で売っていたムール貝のパスタやパエリア、カツオのカルパッチョも野外の卓に並べられた。全員で楽しく頂く。 「お菓子も売っていましたよ。ほら♪」 サエが買ってきたのは小麦粉の生地を丸く揚げた菓子だ。蜂蜜がたっぷりとかけられた甘い味は食後の絞めとして好評を博す。 「次は俺が注ぐ番だ。そういや、竜哉は結構こっちに来てるよな。最近入り浸りの俺がいうのも何だがよ」 「俺が希儀に良く関わる理由か? ‥‥いずれこっちに移住するためさ。だから、今のうちにね」 興志王と竜哉の前には徳利の山が積まれていく。 寒空の下、開拓者達と興志王は身も心も温かかった。 |