【急変】不浄の水 〜理穴
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/30 22:29



■オープニング本文

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 三日間に及ぶ魔の森浸食を乗り切った遠野村には穏やかな日常が訪れる。
 未だ理穴軍飛空船の宿営地化はしているものの、アヤカシとの戦闘が殆ど起きていなかったからである。魔の森方面は静寂に包まれていた。
「円平、心配はいらぬ。もう大丈夫じゃよ」
 衰弱していた水精霊の湖底姫が元気を取り戻す。
 彼女は倒れている間も清浄の水を湧かし続ける。巨大な水溜まりの一部は小川となって遠野村の隅々まで流れ、再び大地へと染み込んでいた。
「突然いなくなるのは絶対に許しません。現状が続く限りは目を離しませんから」
 若き村長の円平は事態が収束するまでは湖底姫の側にいようと心に決める。湖底姫は村の要。村人の多くもそれを望んでいた。
 深夜、櫓で警戒していた理穴兵達が空から舞い落ちてきた雪に表情を強ばらせる。
 激しく鳴らされる警鐘。
 雪降りはすぐに止んでしまうものの、眠っていた村人や理穴兵達が目を覚ます。
「‥‥‥‥何事かが起きておる」
 円平宅の縁側に立つ湖底姫が南南西を眺めながら呟いた。
 遙か遠方になるが遠野村からその方角には魔の森との境界線が長く横たわっていた。一旦収束した戦いが再開したかも知れないと湖底姫は円平に予感を伝える。
 わずかな間だけ雪こそ降ったものの遠野村は静か。遠野村を取り囲む魔の森も繁茂を起こしていなかった。
 湖底姫の推測はこうだ。
 上位のアヤカシの指示によって遠野村周辺に棲息していた個体の殆どが理穴東部の魔の森境界線まで移動してしまった。最前線は大変な事態になっていると思われるが、留守となった遠野村周辺の魔の森は逆に静かになってしまったのだろうと。
 宿営中の理穴兵達は遠野村護衛が主任務なので要請がない限り現状維持が妥当。静観の構えを見せることだろう。しかし湖底姫はこれを反撃の機会と捉えていた。
 遠野村を脅かし続けている不浄の水の出所について湖底姫は一つの仮説を立てる。
「遠野村の敷地から外れた魔の森にまで地下遺跡の一部は達しておる。おそらく不浄の水を垂れ流すアヤカシはそこに巣くっておるのじゃろう。そやつを叩きたい。待機中の開拓者何名かに力を貸してもらいたいのじゃ」
 殆どのアヤカシが姿を消した今こそが好機。不浄の水の流れが変わっていない現状からして、その個体は遠野村周辺に残っているはずである。
「正直にいって遠野村がこの先、どうなるのかわらわにもわからぬ‥‥。しかしじゃ! 不浄の水を垂れ流し続けておるアヤカシは遠野村にとって最大の敵といって過言ではないじゃろう。今後がどうであれ、叩けるときに排除しておくべきだとわらわは考える。円平はどう思う?」
 湖底姫に見つめられた円平はしばし考え込んだ。
「‥‥‥‥不浄の水を流せるアヤカシはたくさんいるのでしょうか?」
「滅多に所持しえない能力と考えておる。それ故に油断して今の状況を許してしまったのじゃが」
「わかりました。アヤカシの殆どが出払った今だからこそやるべきですね」
「わらわも一緒に行かせてもらうぞ。なに、大した距離ではないので遠野村に影響はない。心配無用じゃ」
 円平と湖底姫は開拓者達に声をかける。そして賛同してくれた者達と一緒に遠野村外縁の魔の森へと足を踏み入れるのであった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
一心(ia8409
20歳・男・弓
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
玄間 北斗(ib0342
25歳・男・シ
十野間 空(ib0346
30歳・男・陰
ニクス・ソル(ib0444
21歳・男・騎
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
針野(ib3728
21歳・女・弓
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎


■リプレイ本文

●魔の森へ
 円平と湖底姫、開拓者九名に朋友を加えた一行は夜明けを待って遠野村の外へと出発する。
 魔の森とはいえ人が住んでいる村に近い土地。また水精霊の湖底姫が同行しているおかげか付近に充満した瘴気の影響は今のところ無視できるものであった。
「鉄龍さ、不浄の水のアヤカシってどんなだと思うん? わしは離れた遠野村に大量の不浄の水を流すあたり、図体がデカそうって思うんよ」
「不浄とはいえ水を扱うアヤカシなら水棲動物に似ているかも知れないな。魚や蛙とか」
 針野(ib3728)と鉄龍(ib3794)は武器を手にしながら殿を務める。
『八作‥‥もふもふ‥‥』
 前方には足下の又鬼犬・八作をじっと見つめながら歩くからくり・御神槌の姿が。非常時なのでもふもふしたいのを我慢しているようである。
 一行は遠野村外縁から約二キロメートルほど進んだ。ここまで奇怪な植物が辺りを占めているものの、あれだけ徘徊していたアヤカシの姿はどこにも見あたらなかった。湖底姫の推測はどうやら当たっているようだ。
「もしかしてこれか?」
 先頭を歩いていた羅喉丸(ia0347)が苔むした石造りの巨大な井戸のような縦坑の遺跡を発見する。注意して覗き込んでみるが、あまりにも深くて真っ暗で何も見えなかった。ただ耳を澄ませば川の流れのような水音が聞こえてくる。
「とてつもなく久しぶりだが間違いない。遠野村と同様の遺跡に相違ないぞよ。地下を通じて繋がっておる。おそらく不浄の水の敵はこの下にいるはずじゃ」
 湖底姫は縦坑の内壁に沿って造られた螺旋状の石階段を指し示す。手すり代わりの綱はとうの昔に朽ち果てていた。残っていた綱固定用の金具も腐食が激しい。
「黒曜、お願いなのだぁ〜」
 人が使用する前に玄間 北斗(ib0342)の忍犬・黒曜が石階段に乗って大丈夫かどうか確かめる。
 もしも石階段が崩壊しても黒曜なら飛跳躍で簡単に逃げられる。石階段は未だ頑丈で問題は見あたらなかった。
 一行は針野と玄間北斗が用意してくれた松明をかざしながら、念のため同じ段には乗らないよう少々長めの列で地下を目指す。
 ちなみに使用した分の松明は後で円平が補充する予定。その他の消耗品についても同様だ。
(「重音お姉さん大丈夫かにゃ〜? 平気と思うけど、ちょっとだけ心配なのにゃ」)
 パラーリア・ゲラー(ia9712)は一段一段下りながら当事者中の当事者である理穴女王の儀弐重音のことを思い出す。彼女の性格ならば最前線で戦っているはず。怪我をしないようにと心の中で祈るパラーリアだ。
 縦坑の底に下りるにつれて水音が大きくなった。もう少しで辿り着くといったところで円平が停止の合図として手を挙げる。
「湖底姫、問題がなければここでお願いします」
『うむ。十分じゃ』
 円平の指示に従って湖底姫はここで清浄の水の術を使うことに。護衛役として鉄龍とからくり・御神槌もここに残ることとなった。
「水中での戦いは覚悟しているが、そうでない場所もあればいいのだが」
 一心(ia8409)は水中呼吸器を取りだしていつでも使えるように準備を整える。また戦闘とは直接関係のない備品はここに置いていった。仲間達も同様である。
 人妖に対する清浄の水の影響を心配していた一心だが、無視できる程度だと湖底姫から答えをもらっていた。また不浄の水と相殺されたのならその心配すらいらないようである。
「人と共に歩んで頂ける方が居られる、ただそれだけの事がこれ程心強く、嬉しい事だとは思いませんでした。戦いの間、よろしくお願いします」
『空殿よ、くれぐれも怪我をせぬようにな』
 十野間 空(ib0346)は湖底姫に戦闘前の挨拶を済ませると『夜光虫』と呼ばれる式を呼び出した。辺りを照らす式であり、これで戦闘中の視界は確保されたといってよい。
「早紀ちゃんに湖底姫さんのこと、くれぐれも宜しくって頼まれたもん。アヤカシ退治、頑張るよ!」
『彼女にはいろいろと世話になっておる。そうか、すまぬがこれも安らぎの土地を取り戻すためじゃ。頼むぞよ』
 蓮 神音(ib2662)も戦いに赴く前に湖底姫と言葉を交わす。
 まもなく湖底姫は清浄なる水を足下から溢れさせる。
 縦坑の底は湖底姫の事前説明通り、用水路と化した横坑へと繋がっている。清浄の水は夜光虫のおかげで薄ぼんやりと見える眼下の水面へと流れていった。
 十数分後、清浄と不浄の相殺は十分だと判断した湖底姫が頷いてみせる。続いて針野が『鳴弦の弓』の弦を弾いて鳴り響かせた。
「わしの位置から十一時の方向、下三メートルのところにアヤカシがおるんよ」
 鏡弦による探知でアヤカシ一体を発見。針野は眼下の水中を指さすのであった。

●水
 前衛の円平と開拓者達は水中呼吸器を口に銜えて次々と水中に飛び込んだ。朋友達もそれに続く。
 後衛と一部の開拓者は横坑の脇にある階段の踊り場のような場所で状況を見守る。
 湖底姫は後衛よりもさらに上の階段上で清浄の水を流し続けていた。護衛の鉄龍とからくり・御神槌は踊り場のような場所と湖底姫の中間で待機する。
(「頑鉄、ここで踏ん張るからな。アヤカシを一歩たりとも後ろにはやらせん」)
 水中でありながら羅喉丸は鋼龍・頑鉄と共にある。水深は二メートルから三メートルなので頑鉄が背中を伸ばした状態ならば呼吸に問題はなかった。
 鋼龍・頑鉄はその巨体を持ってして探知したアヤカシよりも下流にて水中での盾となっていた。
 敵が水棲のアヤカシだとしても流れに逆らって上流に逃げるのは苦労するはず。羅喉丸が採った行動の意図は敵の封じ込めにあった。
 横坑の水の勢いはかなりのもので、常に上流に向かって泳ぎ続けなければ流されてしまう。そして上流でも対策が講じられる。
「ぬこにゃん、ここに通すのにゃ。あたしはあっちで支えているよ〜」
 互いを命綱で繋いだパラーリアと猫又・ぬこにゃんは鉄龍達とは反対の川上で作業をしていた。理穴軍から借りた小型の錨をいくつか沈め、さらに網を結んで水流が弱まるように工夫を凝らす。
 錨の用意はパラーリアの案によるもの。網については円平が考えた。
 錨だけではなく壁の突起に縄を引っかけて繋げ、網の固定を強固なものにする。これで上流下流の双方から水中きアヤカシを挟み込んだことになる。
「水中の物陰に隠れているのでしょうか。もう少し近づけましょう‥‥」
 踊り場で状況を見守る野間空は夜光虫をさらに水面へと近づける。不慮の事態を考えて予備としてもう一つ夜光虫を出現させておいた。
(「‥‥あっちなんよ!」)
 水中の針野は再び鏡弦でアヤカシの位置を探った。その行動にどうしても隙が生じるものの、水呼吸が可能な又鬼犬・八作が守ってくれるので心配はいらなかった。
(「見つけたのだぁ‥‥」)
 針野が示した先を水中の玄間北斗は暗視の術で凝視する。
 沈んでいた岩の後ろに隠れていたので全身が見えず、最初は鯰だと判断する。しかしがどうやら違う。よく見ればアヤカシは大山椒魚の姿をしていた。但し全長三メートルの化け物であった。
「大山椒魚に似たアヤカシなのだぁ〜!」
 玄間北斗は水面に飛び出して叫んだ。その声は仲間全員に伝わる。忍犬・黒曜は主人に危険が及ばないよう気を配っていた。
「大山椒魚って毒を持っていたかな?」
 踊り場の蓮神音は人妖・カナンに話しかけながら首を傾げる。
「ガマの油のような白い液を皮膚から出すと聞いたことがあるな。毒ではないはずだが、アヤカシならそうであってもおかしくはない。それと噛みついたら雷が鳴っても離さないといわれている」
 一心は『神弓「ラアド」』を構えながら蓮神音に話しかける。必要ならば『槍「烈風」』に持ち替えていつでも水中に飛び込むつもりでいた。
「カナン、そういうことなのでもしものときは解毒をよろしくね。それと暗視でアヤカシの位置を教えてくれるかな」
『治療は私に任せてね♪ 暗視も♪』
 蓮神音と人妖・カナンは勢いをつけて水中へと飛び込んだ。
「俺は下を守る。御神槌は上を頼んだ」
『わかった‥‥』
 鉄龍は状況を鑑みて配置を変更する。
 からくり・御神槌には石階段をもう少し上ったところで待機してもらう。
 ここに至る地上では一体もアヤカシを見かけなかったが、大山椒魚・妖の護衛としてわずかに残っていてもおかしくはなかった。
 縦坑の入り口となる地上付近は十野間空の甲龍・月光が残り見張ってくれていた。何かが起きれば物音が伝わってきてわかるはずである。
 大山椒魚・妖は突然に牙を剥いた。水中行動から水蜘蛛の術での水面歩行に切り替えた玄間北斗に襲いかかる。
 この行動はわざと。玄間北斗は自ら水面近くに大山椒魚・妖を誘き寄せるための囮となった。
「こっちなのだぁ〜!」
 玄間北斗は大山椒魚・妖が跳ねて水面から飛び出す度に『北条手裏剣』を投げることで威嚇し続けた。囮なので当たる当たらないは関係ない。それよりも引きつけることこそが肝心である。
 忍犬・黒曜は飛跳躍で横坑の壁を蹴って飛んだ。宙で弧を描きながら大山椒魚・妖の背中へと体当たりを敢行する。湖底姫の護衛は十分なので主人の加勢に加わっていた。
 大山椒魚・妖は体勢を崩したまま水中へ。その真下の底で待ちかまえていたのが蓮神音である。
(「信じて託してくれた早紀ちゃんのためにも、神音は絶対負けないよ! えいっ!!」)
 蓮神音が振り切った拳が大山椒魚・妖の左腹部へとめり込んだ。『鋼拳鎧「龍札」』により増加した衝撃が大山椒魚・妖を弾き飛ばす。水中とは思えないほどの勢いでアヤカシの巨体が横坑の壁へと叩きつけられる。
 そして大山椒魚・妖はふらふらとしながらも大暴れ。懲りずに跳ねて再び水面上へ。その勢いは凄まじく湖底姫が待機する石階段の高さまで到達する。
 大山椒魚・妖は大きく口を開けて牙を剥いた。清浄の水を流しているために身動きできない湖底姫に噛みつこうとする。
『守る‥‥お姫様守る‥‥許さない‥‥』
 からくり・御神槌は『青銅巨魁剣』で大山椒魚・妖の頭を殴りつけて迫る勢いを弱めた。まるで玄翁で釘を打つように。
「よくやった! 後は任せろ!!」
 鉄龍は『ペンタグラムシールド』を当て大山椒魚・妖を押し返す。結果、大山椒魚・妖は湖底姫に何もできないまま水中へと落ちていった。
 大山椒魚・妖もただやられているだけではなかった。真正面からの戦いでは分が悪いと判断したのか別の手をうってくる。
 突然、大山椒魚・妖の背中の皮膚から白い液体が溢れ出た。それは事前に危惧されていたように毒。しかも水に溶け込んでも影響があり、その時浸かっていた全員が痺れる毒におかされる。
『えっと、次は!』
 人妖・カナンは大忙しで解毒の術に努めた。水は流れているので毒は停滞しない。繰り返されない限りは一人につき一度の解毒で治療は完了する。
 痺れ毒によって動きが鈍くなった開拓者達の隙をついて、大山椒魚・妖はこの場からの脱出をはかった。下流へと向けて猛突進する。
 しかし毒で痺れていても羅喉丸はその行動を見逃しはしなかった。
「くっ‥‥頑鉄、右三歩! 翼を広げて屈め!!』
 羅喉丸の指示通りに鋼龍・頑鉄は動いた。龍戈衛装も発動させて完全に逃げ道を遮断する。
 それでも強引に隙間へと頭を突っ込んで逃げようとする大山椒魚・妖。
 羅喉丸は鋼龍・頑鉄の後ろに回り、『タワーシールド「アイスロック」』で大山椒魚・妖の頭を押し返す。
 下流への脱出は無理だと悟った大山椒魚・妖が今度は上流へ。水の勢いに逆らいながらも設置された網の位置まで到達する。
 網を押すものの勢いをつけられずに破れない。牙で切断しようとしても口を大きく開ければ水の抵抗を受けて前に進めなかった。それほど大山椒魚・妖は弱っていた。しかし隙間を見つけてようやくくぐり抜ける。
(「かかったのにゃ‥‥」)
 その網の隙間はパラーリアが敢えて作ったもの。網より上流では円平と猫又・ぬこにゃんが待機していた。
「遠野村を滅ぼそうとする奴は許さない!」
 円平は大山椒魚・妖を縦坑の南側に追い込むように大げさに刀を振るう。
 刀の攻撃を避けて南側に寄る大山椒魚・妖。
 その間に猫又・ぬこにゃんが罠発動用の縄を発火の術で焼き切った。すると高所に設置されていた錨が落下。その勢いを利用した仕組みの水中の板が跳ね上がる。
 大山椒魚・妖は水中の板で弾き飛ばされ、横坑脇の踊り場へと落ちた。後衛の開拓者達が待機していた場所とは違っていたが簡単に辿り着ける近さである。
「黒曜、アヤカシの尻尾を狙いたい。修正を頼む」
 一心が大山椒魚・妖に向けて矢を放つ。その度に人妖・黒曜が掴んだ一心の服を左右に引っ張って正確な位置を教えた。黒曜は暗視の術で大山椒魚・妖を見通せたのである。
 そのおかげで一心は大山椒魚・妖が再び水中に戻らないよう尻尾を床へと縫い止めるのに成功する。
「これで見えるはずです! みなさん、よろしくお願いします!」
 十野間空が夜光虫を移動させ、大山椒魚・妖を暗闇から浮かび上がらせた。
「不浄の水を流すなんて許せないんよ!」
 針野は月涙の術を使って矢を射った。
 円平と猫又・ぬこにゃんを避けるように弧を描きながら大山椒魚・妖に命中。真上から刺さったので縫い止めの補強にもなる。
「よくやったのにゃ。あとでお魚のご褒美のたくさんあげるよ〜♪」
 パラーリアも『戦弓「夏侯妙才」』で大山椒魚・妖を狙う。次々と矢が突き刺さり、大山椒魚・妖がさらに弱っていった。
 それでも最後の力を振り絞ったのか、大山椒魚・妖は周囲から大量の不浄の水を沸き出させた。その勢いで自分の身体を縫い止めていた矢を床から抜いた。横坑の水中に戻ろうと大きく跳ねる。しかしそれは徒労に終わった。
 鉄龍とからくり・御神槌によって階段下まで移動した湖底姫が清浄の水を叩きつけたからである。
 羅喉丸が繰り出した『蛇鞭「銀鱗裂牙」』によって雁字搦めにされた大山椒魚・妖は再び動けなくなる。
 雨のよう降り注ぐ清浄の水を浴びながら蓮神音が踊り場を突進。毒を浴びるのを厭わず拳を叩きつけた。
 円平も力を振り絞って大山椒魚・妖の額へと刀を突き刺す。
 大山椒魚・妖は動かなくなる。さらさらと瘴気の塵へと戻っていくのを確かめてから前線の開拓者達は少しだけ退いた。
 完全に消え去るまで手にした武器を仕舞わずに一行は見届けたのであった。

●勝利の声
 大山椒魚・妖を退治した一行は魔の森の瘴気が薄いうちに遠野村へと戻る。
 遠野村にとっての災いは取り除いたといってよかった。その意味では勝利なのだが、問題なのは理穴そのものの行く末である。
『もう少し遊ぶ‥‥』
 村に帰ったからくり・御神槌はようやく又鬼犬・八作をもふもふ出来てご満悦のようだ。
 翌朝、円平と湖底姫は縁側に並んで座って遠方の魔の森を眺める。
「何だか魔の森が落ち着いたように思えるんだけど、気のせいだろうか。嵐の前の静けさじゃなければいいんだけど」
『これはわらわの印象なのじゃが――』
 心配する円平に湖底姫は災いなる魔の森の蠢きは失われたと話す。
(「いいなー。神音も早くセンセーとあんな風になりたいなー」)
 蓮神音は仲睦まじい円平と湖底姫の様子を見てうらやましく感じるのであった。
 その日の暮れなずむ頃、大雪加香織の命によって伝令の飛空船が遠野村を訪れる。
 宿営中の理穴軍に呼ばれた円平は最新の情報を教えてもらった。
 儀弐王率いる理穴軍は武天、朱藩の力を借りて東部を覆っていた魔の森の主である大アヤカシ『砂羅』と『氷羅』の討伐に成功したとの報を。
「‥‥そ、そうなのですか‥‥‥‥」
 聞き終わった円平は一言だけ呟いた。うち震えてそれ以上話せなかったのである。
 その後、円平の口から理穴軍勝利が伝えられると遠野村の民は歓喜で沸き返った。開拓者達も一緒に喜んでくれる。
 それからの三日間。遠野村ではまるでお祭りのような日々が続いたという。