鰻屋の災難 〜満腹屋〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/26 20:07



■オープニング本文

 朱藩の首都、安州。
 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。
 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。
 そんな安州に一階が飯処、二階が宿屋になっている智塚家が営む『満腹屋』はあった。


「ふう‥‥」
 昼下がり。夕方に備えての仕込みの閉店時間。智塚光奈は椅子に座って卓へと頬杖をついていた。
「光奈さん、どうしたの。あら? これは『そ〜すぅ』の瓶‥‥ではないわね」
 姉の鏡子は元気のない妹へ声をかける。
「これ、鰻の蒲焼きのタレなのです〜。ついさっき預かったのですよ」
 光奈は事情を話す。
 蒲焼きのタレは光奈が常連として通っている『鰻のにょろ屋』のものだ。昨日、火事でお店が全焼してしまった。
 にょろ屋の若主人は継ぎ足しのタレが入ったこの瓶を火事場から取ってきた際に火傷を負う。幸い命に別状ないようだがお店がなくなった状況でどうしようもなくなり、光奈を頼ってきたという。
「この間の夜、半鐘が遠くで鳴っていたけどきっとそれだったのね」
「そうなのです。このタレ、あんまり放置するとダメになっちゃうのですよ〜。しばらくは地下の氷室近くの涼しい部屋に置いておけば大丈夫とは思いますけど」
「にょろ屋さんが使っていた鰻の仕入先に他の鰻屋さんを紹介してもらったら? まあ、他の鰻屋に秘伝のタレは預けたくないから光奈さんに頼んだのでしょうけれど」
「鰻の仕入先‥‥にょろ屋さんの二軒隣でこちらも火事で燃えちゃったのです‥‥。他の鰻屋さんも別の仕入先を求めて右往左往の状態で‥‥にょろ屋さんに構ってられないみたいなのです」
「それは困ったわね。タレが駄目になったら、それこそ鰻屋として再起不能よね」
「大問題なのです」
 光奈と鏡子は二人とも胸の前で腕を組んで唸る。
「何とか鰻さえ手に入れば秘伝のタレも持続できるわね」
「継ぎ足しのタレの作り方は教えてもらっているのでそれは大丈夫なのです。鰻、うなぎ、ウナギ‥‥。そ、そうなのです〜♪」
 鏡子の一言で光奈はよい案を思いついた。さっそく出かけるとまずは飛空船基地に滞在中の旅泰の呂に相談を持ちかけた上で、にゅろ屋が仕入れていた鰻問屋の主人の元を訪ねる。
 鰻問屋は一部分だがある川の漁業権利を手に入れ、そこで鰻を獲らせて在庫を確保していた。当然、今でも漁業権利は鰻問屋にある。
 光奈は鰻問屋の主人に交渉して証文を書いてもらう。それは二ヶ月限定の権利委譲の内容だ。
 鰻問屋も再建の間、買い手を放っておくわけにはいかない。二ヶ月の間は満腹屋と旅泰の呂が鰻問屋を代理する。また再建後は格安で鰻を卸してもらう約束も取り付けた。
 さっそく現地に向かう予定を立てる光奈である。護衛とお手伝いとしてギルドで開拓者を募集するのも忘れなかった。


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
利穏(ia9760
14歳・男・陰
十野間 月与(ib0343
22歳・女・サ
セフィール・アズブラウ(ib6196
16歳・女・砲
駆魔 仁兵衛(ib6293
14歳・男・サ


■リプレイ本文

●説明会
 朱藩の首都、安州から空路で一時間弱。呂の商隊飛空船で現地へと到着した一行は村へと続く小道を歩いていた。
「にょろ屋さんは何ともお気の毒です。預かったタレを駄目にしない為にも、頑張りましょうっ」
「にょろ屋さん復活のために頑張るのです☆ あ? あれ川なのです?」
 利穏(ia9760)と並んで歩いていた光奈が道からそれる。雑草の茂みを抜けると川が佇んでいた。開拓者達も光奈を追いかけて川辺へと下りる。
「綺麗な川ね」
「キラキラと光っていますの」
 十野間 月与(ib0343)と礼野 真夢紀(ia1144)は水辺の岩の上で屈んだ。小魚の群れが目の前を通り過ぎてゆく。
「ウナギ! ウナギはどこだ。いねーかな? ヤツメがいれば最高なんだがなー」
 水面スレスレまで顔を近づけて眼を凝らしていたのは駆魔 仁兵衛(ib6293)。空の上では光奈と食べ物談義に花を咲かせていたぐらい美味いものには目がないようである。
「これってきっと罠の一部ですよね」
 倉城 紬(ia5229)が川辺の地面に刺さる杭を発見した。結わえられている縄は川の中へと消えている。
「こちらではこうやって獲るのですか」
 セフィール・アズブラウ(ib6196)は興味深げに川面を見つめた。おそらく罠が沈んでいるのに違いないと。
「もしや鰻問屋さんに関係ある方々かな」
 一行が話しているところに五十代と思われる男性二人が近づいてきた。
「そうなのです。安州・満腹屋の智塚光奈といいます」
「こりゃ失礼。わしは壺作。こっちは――」
 現れた二人はこれから向かう村の住人だという。漁業権を持つ鰻問屋と契約を結んで川から鰻を獲っていた漁師でもある。
 漁師二人に案内された一行は村の寄り合い所へと案内された。呂を含めた商隊の者達は飛空船を点検を終えてから少し遅れて到着する。
「こちらが二ヶ月間の権利委譲を記した証文なのです。写しを何枚かお渡しするのですよ」
 光奈は村人達の懐疑心に満ちた目を前にしても物怖じしなかった。本業としているのはわずかだが村の約三分の一が何らかの形で鰻獲りに関わっているようだ。
 事前に鰻問屋から手紙が届いているので村人側もある程度は把握している。これまでと一緒であるのを信じてもらおうと光奈は説明を試みた。
「俺、知ってんぞ。満腹屋で食ったそぉ〜すぅお好み焼きは忘れらんねぇ」
 幸いに安州を訪ねたことがある村人が満腹屋を知っていた。かなり意欲的な料理を出す店で安州内でも評判だと話してくれる。おかげでここからの話し合いはトントン拍子に進む。
 一行はを行うつもりだが一日に獲る量には制限を設ける。また引き続きこの村の人達とのみ契約を交わすといった内容を確認するのだった。

●鰻筌
 話がまとまったところで一行は一旦飛空船へと戻る。
「商売始めるアルよ」
 呂は村人から鰻を買い集めようと隊員達を動かす。しばらく行われていないので漁師達も鰻の在庫を抱えているはずだ。
 安州では鰻が不足気味である。確実に売り捌ける当てがあるので買い叩くような真似はしないよう指示が出された。今は儲けよりも村人から信頼を得る方が大切だと。
 光奈と開拓者達は鰻獲りの準備をした上で再び水辺へ。礼野と月与は水着へと着替えていた。
「この罠を仕掛けるのですよ〜♪」
 光奈は運んできた木箱から竹で編まれた『鰻筌』を取り出す。
「なるほど。この道具で、鰻は獲るのですね。簡単な作りです!」
 倉城紬は眼鏡を光らせながら受け取った鰻筌を興味津々に眺める。漏斗状の口によって一度中に入ったら逃げにくい構造になっていた。
 先程見せてもらった村で使われている罠もこのようなものである。杭と縄も準備されていた。
「確か罠って、引き上げるまでに1日置くって聞いた事ある気がするですの」
「漁師さんに聞いたら動物系の餌なら何でもだって」
 礼野と月与は鰻筌に満腹屋の銘が入った小さな竹板を取り付ける。村の漁との区別をつけるために。
「ミミズでも大丈夫とか?」
「ミミズは釣りにはもってこいなのです。この罠用には余り物のエビの頭とか小魚をお店から持ってきたのですよ♪」
 利穏に答えながら光奈は餌の材料が入った袋を木箱から持ち上げた。礼野が氷霊結で作ってくれた氷のおかげで未だ新鮮である。
「これで擦ればいいんだよな」
「そうなのです☆」
 駆魔は木箱からすり鉢とすりこぎを取り出すと岩の上であぐらをかいた。
「力仕事は任せてな!」
 駆魔はすり鉢をエビや小魚を入れると両手で握ったすりこぎを回す。あっという間に練り状態になり、それを五回繰り返して材料をすべて使い切った。
 利穏は駆魔が作ってくれた練り物を適当に団子状にして鰻筌の中に入れてゆく。
 後は川底へ仕掛けるだけと川に入ろうとした光奈を礼野と月与が止める。
「漁師さんから鰻がいるところを教えてもらったですの。でも‥‥」
「そう、聞いたんだけどね‥‥」
 礼野と月与は軽いため息をついた。
 すでに鰻獲りの穴場には罠が仕掛けてられてある。漁師同士の暗黙の了解で十メートル程度はお互いに離してあるようだ。つまり空きはないといえる。
「俺も聞いたけど釣り用の川岸の範囲には罠を仕掛けたらだめらしいな」
 駆魔の情報も鑑みた上で一行は川岸を歩いてみた。
「おー、寄り合いで会った安州の人達か。どうしたんだ? 浮かない顔をして」
 すると仕掛けた鰻筌を引き揚げている若い漁師と遭遇する。
「鰻獲りの場所が見つからなくて」
 利穏が若い漁師に相談すると明後日まで場所を譲ってくれるという。しばらく買い取りがなかったせいでこれ以上鰻を獲っても活かしておく術がないそうだ。
「今、呂さんの商隊が鰻を買い付けに村へ行っているのですよ〜♪」
「おーそうなのかい。そりゃ急いで帰らないとな」
 光奈はお礼にと一筆書き加えた満腹屋の割引札を若い漁師に手渡す。これを呂の商隊の者に渡せばいくらか高く鰻を買ってもらえると。
「明日が楽しみね、まゆちゃん」
「きっとお料理のやりがいがありますの」
 水着姿の月与と礼野は深い川底へと鰻筌を仕掛けてゆく。
「この辺りがよさそうなのですよ〜」
「うまくかかってくれますようにっと」
 光奈と倉城紬は裾をまくってから水辺へと入った。比較的浅い水辺に鰻筌を置いて流されないよう岩を乗せて固定する。
「等間隔がよさそうですね」
「よし、打つからな!」
 杭打ちは利穏と駆魔がやってくれる。
「複数の鰻が一つの罠にかかることもあると聞きましたがどうでしょうか」
 セフィールが縄を杭に結んでくれて二十の鰻筌が仕掛け終わるのだった。

●各々
 罠が仕掛け終わったところで自由時間となる。
「西瓜、冷やしておこ」
 礼野は丁度良い水辺の岩場へと西瓜を沈めると月与と一緒に釣りを楽しんだ。竿を垂らすやり方とは違って竹棒の先に餌をつけた針を引っかけたものを使う穴釣り。餌はミミズだ。
(「隠れてそうですの」)
(「あたいはこっちをやるね」)
 水面に顔をつけながら礼野と月与はアイコンタクトで狙いを絞る。それぞれに岩の隙間へと針の部分を入れてみた。
「すごいのです〜♪」
 礼野と月与を川辺で見ていた光奈が拍手を送る。二人とも見事に大物鰻を釣り上げたのだ。
 光奈は普通の釣り竿を垂らす形での鰻釣りを試していた。
「釣れるといいですね」
「任せてくださいなのです☆」
 倉城紬は木漏れ日の場所に座りながら光奈に声をかける。川面の煌めきの美しさ、ゆっくりと流れてゆく青空の雲を眺めながらしばしの休息を過ごす。
 駆魔もまた上流の川に入っていたが探していたのはヤツメウナギである。
「上流なら見かけたことあるって村の人がいってたんだが‥‥」
 駆魔は時折、潜って岩の暗がりに目を凝らす。
(「?!」)
 駆魔は突然、矢のように向かってきた物体を避ける。
「あれは‥‥ヤツメウナギだよな」
 川面から顔を出した駆魔の瞳には炎が揺らめく。川辺へとあがって釣り糸を垂らすのだった。
 利穏とセフィールは村でせっかくなので新鮮な食材を買い求めていた。蒲焼き以外の鰻の調理方法を試すために。
 豆腐屋が見つかって利穏は喜んだ。セフィールは村人が奢ってくれた酸っぱい朱藩田舎の料理を味わって目を丸くして驚く。
 呂の商隊は二往復をこなして鰻を渇望の安州へと届けていた。
「清水に丸一日ですか。調理する前の鯉と同じなのですね‥‥」
 倉城紬は泥吐かせ用の大桶の中をまじまじと見つめる。釣りで得た鰻は全部で四匹。おまけで駆魔がヤツメ鰻を一匹釣っている。
 夕方には呂の商隊も戻ってきたので一行は船内で休んだ。
「鰻と一緒に食べちゃいけなかったのはこの西瓜だったかな?」
「それは梅干しですの」
 首を傾げる光奈に礼野が答える。西瓜を食べて和気藹々と夕べを過ごすのだった。

●にょろにょろ
「大漁なのです〜♪」
 二日目の昼頃、鰻筌を引き揚げた一行は満足げな表情を浮かべていた。獲れた鰻は二十九匹。充分な量である。
 夕方には昨日の四匹とおまけ一匹の泥吐かせが完了。村人から買い取った内の五匹を商隊の分として加え、にょろ屋の鰻丼を再現することとなった。
 倉城紬、礼野、月与が鰻を捌いてくれる。光奈は串を打つ。ちなみに朱藩は砲術士の国なので特に背開き、腹開きといった約束事はないらしい。
 駆魔と利穏が熾してくれた炭火で光奈が鰻を焼く。やがて白焼きに仕上がり、瓶の中のタレへと浸けられた。
 再び炭火で焼かれた鰻は激しい音を立てる。炭の上に落ちたタレと脂が焦げるにおいが食欲を誘う。
 頃合いをみたセフィールが炊いたご飯を丼によそってくれる。串から抜かれた鰻が置かれ、タレがかけられて完成。
「ああ、今俺、人生の絶頂だなぁ‥‥」
 駆魔は普通のとヤツメの鰻丼を味比べしながら食を進める。お酒も一緒に頂いてご機嫌の駆魔だ。
「にょろ屋さんの味なのです☆」
 そういいながら光奈は香りが足りないような気がしていた。しばらく保存していたせいなのだろう。一週間も使い続ければ元に戻るはずである。
「にょろ屋さんの鰻丼を二ヶ月間代用で出すとしても、その後はにょろ屋さんで出さない料理をやった方が角が立たないと思いますし」
「復帰するまで、にょろ屋さんの代わりに満腹屋で味わえますって感じかな」
 礼野と月与の意見を美味しく頂きながら光奈は耳を傾ける。
「光奈さん、お願いがあるのですが」
「なんでしょ?」
 利穏の耳打ちされた光奈は何度も頷いた。
「そうするのです☆」
 光奈はにっこりと利穏に微笑むのだった。

●鰻あれこれ
 三日目の昼過ぎには鰻筌で獲った鰻の泥吐かせも終わる。
 昨日はにょろ屋の鰻の蒲焼きの再現だったが今日の料理は自由。それぞれに食材と格闘する。
 日が暮れる前には帰るので暮れなずむ頃の試食を兼ねた夕食となった。
「光奈の姉ちゃんからもらった『そぉす』で味付けしてみたんだけど」
 駆魔はそぉ〜す味の鰻の蒲焼きで作った鰻丼を口にする。食べてみれば悪くはない。美味しいかは人それぞれだが駆魔はとても気に入った。
 ヤツメ鰻に関しては、今後村に訪ねた際には自由に釣って構わないという。生息数がとても少ないので商売としては成り立たないからだ。
「昨日食べた鰻丼はとても美味しく、あれが一番のようにも思えましたが、他にも試してみました」
 セフィールにとって鰻で思いつく食べ物は鰻のゼリー寄せである。しかし天儀の人々の舌に合うとは到底思えずアレンジが施されている。
 鰻の白焼をざく切りにして、酒・出汁・醤油を合せたものに浸ける。火にかけ沸騰させない程度に馴染ませて寒天で固めたものだ。
「プルンプルンしているのです。煮凝りか心太みたいなのですよ♪」
 光奈は面白い食感をとても楽しんだ。他にも油で揚げた鰻の白焼きのフライ。鰻チーズは削ったチーズをのせて丸めてまとめたもの。姉の鏡子が好きな味だと光奈は自分の分をお土産として包んでもらった。
「さあ、お熱いうちに召し上がれ」
「これは‥‥ドジョウの柳川風なのですね」
 月与が出した鰻丼は半熟玉子でとじられていた。一口食べた光奈はタレの甘辛に驚く。にょろ屋のタレとはまた違った味わいである。にょろ屋さんとの差別化を図るために考案したという。
「こちらはどうでしょうか」
「おお、なんだか本格的なのですよ〜」
 利穏が用意した料理は鰻の身以外の部位を使った料理の数々。
 鰹だしのあっさりした味わいの肝吸い。加えて肝の酢の物。
 鰻の頭は半助豆腐に化けていた。焼き豆腐に酒、みりん、醤油、砂糖で味が浸けられている。夏場よりも寒い季節にぴったりの料理といえた。
「おつまみにもなる!」
「おおっ!」
 光奈の前に差し出されたのは骨。素揚げした鰻の骨はぽりぽりと歯ごたえがよい。お酒を嗜む者達にはとても好評だ。
「夏バテ防止の為にも是非お腹一杯‥‥いえ、これもお仕事ですお仕事です」
 利穏自身もたっぷりと鰻をお腹に収めるのだった。
「タレをつけたり色々と手を加えても美味しいですが、私はこれが大好きでして〜♪」
「ほほ〜」
 倉城紬が作ったのは蒸してから焼いた鰻の白焼きである。
 鰻が素朴な分、薬味として山葵や葱、かぼすを足す。薬味を変えながら少しずつ頂く倉城紬はとても笑顔だ。もう一匹捌けばよかったのではと聞かれた倉城紬は真っ赤な顔で小食なのでと俯いてみせる。
「少しもらってもいいのです?」
「どうぞ♪」
 光奈もかぼすを絞っただけの白焼きを頂いた。清流で獲れた鰻だけあってとても美味しい。
「いろいろと作ってみましたの」
 礼野が作った料理は多岐に渡った。
 卵で鰻を包んだう巻き。酢と胡瓜を和えて作るうざく。穴子代わりに鰻を使ったちらし寿司。サラダの具。海老代わりにして茶碗蒸し。また空豆と合わされた冷製茶碗蒸しも。中でも鰻と枝豆のかき揚げはとても好評だ。
「このかき揚げと鰻入りの磯辺焼き。どっちも美味しいのです〜」
 満腹屋の客層と合っているのではないかと考えながら光奈は味わう。
 試食の時間が終わると飛空船に乗り込んで帰路に就いた。
 宵の口には安州へと到着。暖簾が外された閉店の満腹屋へと開拓者達は光奈と一緒に立ち寄った。
「これ、美味しいわ。とっても♪」
「お口に合ったのなら光栄です」
 セフィールの鰻料理を鏡子はとても喜んでくれる。
 しばらくして利穏と駆魔が大八車に乗せて、にょろ屋の若主人を満腹屋へと連れてきてくれた。
 光奈によって若主人がついた卓へと運ばれたのは鰻丼。満腹屋の炊事場を借りた礼野、月与、倉城紬の手によって再現されていた。
「うまい。間違いない‥‥。俺がいうのも何だが、うちの味だよ」
 若主人は涙を浮かべながら丼のすべてを食べきる。一日でも早く再出発するつもりだと若主人は光奈や開拓者達に頭を下げるのだった。