墓地のアヤカシ
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
EX :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/07 23:41



■オープニング本文

「ああ、やだなぁ‥‥」
 セラは、ぶるぶるっと身を震わせた。何しろ、彼女がこれから向かおうとしているのは墓地なのだ。今が昼間であろうがなんだろうがぞっとすることにはかわりがない。
「これも仕事なんだから、我慢しろよ」
 と、返したのは一緒に墓地に向かう仲間の陰陽師だった。セラと彼が墓場に向かおうとしているのは、瘴気を回収するためである。
 墓地という場所のためなのか、なぜかここには瘴気がたまりやすかった。アヤカシの発生する可能性を極力低いものにするため、定期的に陰陽師が派遣されて回収するのである。

 セラはまだ駆け出しで、アヤカシと戦ったことはない。こうして瘴気の回収作業に同行することによって少しずつ経験をつもうと考えているところだった。
「それじゃ行こうか」
 仲間の陰陽師が先に立って墓地へと足を踏み入れる。セラは少し後から続いた。
「相当たまっているみたいだな‥‥」
 瘴気回収で周囲の瘴気を回収した仲間が言う。セラもそれに同意した。
 こういうことは経験なのだろうか。
「さて、そろそろ‥‥」
 仲間がセラを促そうとした時だった。
「セラ! 逃げろ!」
 急に言葉をとめた彼は叫ぶ。
「逃げろ! 逃げて開拓者ギルドへ連絡するんだ! 墓地にアヤカシ――!」
 彼は言葉を続けることはできなかった。あらわれたアヤカシの攻撃を避けるので精一杯だったからだ。
 彼の手元から符が放たれるのを、一度だけ振り返ったセラは見た。
 そして、彼の目の前にいるのが死に装束をまとった女であることも。

 開拓者ギルドはセラの報告を聞くとすぐに開拓者を派遣することを決めた。場所は墓地。死に装束をまとった女――死体に瘴気が憑いたアヤカシであろうことは容易に想像することができる。
 場所が墓地、ということは死体はいくらでも埋まっているわけで瘴気の集まり具合によっては二体目、三体目のアヤカシが生じるであろうことも予想できる。
 そして、今アヤカシと対峙している陰陽師――彼の安否も気づかわれる。
 急いで現場へ向かおうとする開拓者たちに、セラは同行を願い出たのだった。


■参加者一覧
緋炎 龍牙(ia0190
26歳・男・サ
氷海 威(ia1004
23歳・男・陰
空(ia1704
33歳・男・砂
山奈 康平(ib6047
25歳・男・巫
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
和亜伊(ib7459
36歳・男・砲
ミルシェ・ロームズ(ib7560
17歳・女・魔
破軍(ib8103
19歳・男・サ


■リプレイ本文

●開拓者の覚悟
 開拓者ギルドを出ようとした開拓者たちに声をかけたセラは、一緒に連れて行って欲しいと懇願した。
「先輩が心配なんですっ」
 空(ia1704)は、そんなセラに皮肉めいた視線を向ける。
「ついて来たいなら好きにしなァ。選ぶコトが出来るッてなァ幸せなモンだ、同行者が逃がしてくれたコトもな」
 ごくりとセラが息を呑むのを見ると、空は続けた。
「急ぎ件の場所へ、連れて行くなら場所ぐらいは分かるだろ。最短距離で行けるな、案内しろや」
「は‥‥、はいっ」
 どうひいき目に見てもセラは緊張している。山奈 康平(ib6047)は、そっと彼女に声をかけた。
「同行してもらえるなら、こちらとしてもありがたい。手が多ければ仲間を救うこともできるかもしれないしな」
 口調はぶっきらぼうだが、根底に流れているものは優しい。緋炎 龍牙(ia0190)は、
「まずは、現場に残ったという陰陽師の救出が最優先だな」
 とつぶやいた。
 笹倉 靖(ib6125)は、セラにかけるべき言葉を持たなかった。頭をかいて、その役目は他の人に譲る。ただ、どうしても伝えておかねばならないことだけは口にした。
「如何なるときも心構えと心の切り替えは大事だぞ。できる事はやるが無理や無茶をするってのとは違うからな」
 神妙な顔をして、セラは靖の話に耳を傾けていた。
 ミルシェ・ロームズ(ib7560)は、セラに寄り添うようにして、言葉をかける。
「お仲間が無事だと‥‥いいですね‥‥」
 その言葉に、セラは表情を曇らせる。大急ぎで逃げ出してきたから、先輩の安否までは確認できていないのだ。
「全力を尽くそう。だが間に合わず辛いものを見る可能性もある。それだけは考えていてくれ」
「わかりました!」
 氷海 威(ia1004)の言葉に、彼女は全力でうなずいた。
「同行するというのなら、出発前に周囲の状況を確認させてくれ」
 破軍(ib8103)は、セラを呼び止める。開拓者たちは、その場で状況を確認するとすぐに作戦をたてはじめた。
 ひとまずセラの同行は許可された。現場までの案内はいた方がいい。実戦経験のない彼女は、前には出ない。後方からミルシェとともに符で攻撃することが決められた。
 和亜伊(ib7459)は、出発前にセラに最後の意思確認をする。
「アヤカシになってないで欲しいがな‥‥万が一があったら‥‥躊躇したら死ぬぞ」
 開拓者たちの戦いは、甘い物ではない。それを飲み込んだセラは、それでも
「よろしくお願いします」
 と、開拓者たちに深々と頭を下げたのだった。

●墓地の救出劇
 ミルシェは、先を急ぎながらセラと手順を打ち合わせていた。
「アヤカシは一体とは限りません‥‥。もし、複数あらわれた場合には、私のフローズとセラさんの呪縛符で、相手の動きを鈍らせます」
 こくり、とセラは首を縦にふった。
「恐怖を覚えるだろうが落ち着いて行動するんだ。アヤカシには接近しないように」
 威は、注意を重ねる。セラは、開拓者といえど実戦経験はない。恐怖にかられてとんでもない行動に出てしまう可能性もある。威はそれを牽制した。

 墓地の前について、空は耳をすませてみたが、戦いの物音はしない。
「‥‥戦いは終わっちまったかァ?」
 そうつぶやきながら空は弓を弾き、鏡弦を使ってアヤカシの気配を探り出そうとする。
 アヤカシの気配はしない。顔をしかめて、空はもう一度弓を弾いてアヤカシの気配を探ろうとする。
 破軍、龍牙、空に神楽舞「武」を、付与した靖は、ついで破軍、龍牙、靖自身に神楽舞「衛」をかけた。
「死者を操るらしいし、場所が墓地だから可能な限り戦場を墓地から離したほうがいいんじゃないかね」
 そう靖が言うと、
「そうだな‥‥可能ならばやってみよう」
 と、破軍が同意した。

「どうやらこっちのようだなァ」
 空は墓地の中を指さした。龍牙と破軍を先頭に一同は墓地へと足を踏み入れる。
 空の先導で奥に向かっていくと、白い死に装束を着た女が地面にかがんでいるのが見えた。その足元には、開拓者らしい男が倒れている。
 威は、隷役を使った上で呪声を放った。攻撃をくらったアヤカシは立ち上がり、男から離れて開拓者たちの方を見る。
「食いつかれないように腕を‥‥! 片腕、頼む!」
 亜伊の言葉に、空は弓を引き絞る。彼の場所からでは墓石が邪魔をして、アヤカシを射抜くことができない。月涙を使って、強引に障害物をすり抜けさせた。
 亜伊は左右の手に持った銃を同時に発射した。フェイントショットを使い、相手の回避を低下させるのも忘れてはいない。
 空の矢と、亜伊の銃弾はアヤカシのそれぞれの肩に命中した。亜伊の銃弾が命中した方の肩の肉が削げ落ちる。不自由そうにアヤカシは両腕を振り回し、開拓者たちを威嚇しようとする。
「前に出るんじゃない!」
 飛び出そうとしたセラを靖は止めた。戦闘中も煙管を加えたままの靖だが、注意力が散漫になっているというわけではない。
 ミルシェがウィンドカッターを放った。生み出された風の刃がアヤカシを切り刻む。
 破軍の咆哮により、アヤカシの注意がセラの先輩陰陽師からそれる――その隙に威が走り出た。
 龍牙がアヤカシへと切りかかる。矢を受けている方の肩を狙うと、龍牙の刀が閃いた。腕を切り落とし、大きく跳んで距離をあける。破軍がもう一方の腕を切り落とした。アヤカシは怒りの声をあげて、破軍に噛み付こうとするが腕を落とされていては組みつくことはできない。
 倒れている男を引きずるようにして、後方へと威が戻ってくる。
「よかった‥‥まだ息はある‥‥!」
 善戦したのだろう。重傷を負ってはいたものの、まだかろうじて息をしていた。
 仲間たちに加護結界を付与していた康平もその言葉にほっと息をつく。
「西から近づいてくる気配があるぞ!」
 瘴索結界「念」を張っていた靖が声を張り上げる。開拓者たちは目線を交わすと、新たに出現したアヤカシに対抗できるように、素早く立ち位置を変えた。

●第二のアヤカシ
 龍牙は、両腕を落とされたアヤカシへ直閃を使った攻撃を繰り出した。一刀でアヤカシの首が跳ね飛ばされる。地面に落ちた首は、ごろりと転がって停止した。瘴気へと返っていく様子が見られないのは、死体に瘴気が憑いたからだろう。
 龍牙は、不動を発動した上で、新たにあらわれたアヤカシを睨みつけるようにして立った。
 今度現れたアヤカシも、死体に瘴気がとり憑いたもののようだった。先に出現したアヤカシは、死後それほどたっておらず女と判断できたが、今度のアヤカシは違う。半分白骨化した姿からは男か女か判断することもできない。
 後方にいるセラたちを見たアヤカシを牽制するように、康平は浄炎を発動した。清らかな炎がアヤカシの目の前に現れ、進もうとするアヤカシを妨げる。
「セラさん‥‥いきますよ‥‥」
 ミルシェはフローズを放った。冷気がアヤカシの動きを鈍らせる。セラは言われたとおりにした。セラの生み出した式がアヤカシの足に絡みつく。
「足元から新手が‥‥なんてのはごめんだからな」
 靖は瘴索結界「念」を使い、周囲への警戒を怠ってはいない。ここは墓地。死体にとり憑くタイプのアヤカシがこのあたりにいるならば、埋められている死体に瘴気がとりついて新しいアヤカシが出現しないとも限らないのだ。
「‥‥ここでの手当だけでは無理か」
 男の様子を見ていた威は眉をひそめる。できればこの場から連れ出してゆっくりと手当てしたいところだが、アヤカシがまだ出没するのか否かわからない状態でうかつにこの場を離れることはできない。
「あんたを死なせはしねえ、それが俺達の仕事だ!」
 亜伊は、単動作で再装填をすませると、左右の銃で続けざまに狙い撃った。アヤカシの胴に吸い込まれるかのように弾が命中する。
 破軍は、肩に取り付けていた黙苦無を投擲した。アヤカシの肩に刺さったのを見てとると、そのまま距離をつめる。
「足を切り落とせればいいんだが‥‥な!」
 破軍の刀が閃く。腿を切り裂かれ、アヤカシは一瞬動きを止めた。
 空は弓を引き絞った。セラの先輩が救助されたのならば遠慮はいらない。目を細め、狙いを定めて矢を放つ。
 龍牙がアヤカシに斬りかかった。大きく刀を振りかぶり、アヤカシの上半身を袈裟懸けに切り裂く。
 アヤカシはなおも腕を伸ばして前進しようとした。龍牙が飛び退くのと入れ替わるようにして、破軍がアヤカシの前に立ち塞がった。
 強力を使った渾身の一撃。それがアヤカシの胴を横に払う。
 開拓者に手を届かせることなく、アヤカシは倒れこんだ。一度、二度立ち上がろうとするがそのまま動かなくなる。
「セラ、ついて来い」
 破軍は、駆け出しの陰陽師を呼んだ。
「敵が残っていないか調べる。ついでに瘴気の回収もするんだ」
 瘴気の発生源があるならば、それもつきとめることができればなおいい。瘴索結界「念」を使うことのできる靖も協力をして周囲を探索したのだった。

●救出成功
「おッと死んで無いとは運が良いな、普段の行いが良いのかねェ? 貸し壱なァ!」
 空は、苦しそうに息をしているセラの先輩の様子を確認する。とりあえず生きてはいるが、空の言葉が聞こえている気配はない。
「とりあえず近くの民家を借りて手当てをしよう」
 威はそう言うと、倒れていた陰陽師を最寄りの家へと運び込む手はずを整えた。反魂香を用いての手当てを試みるつもりだ。
 話を聞いた家人も、こころよく部屋を提供してくれた。威は反魂香に火をつけ、改めて手当てを行う。

 周囲の探索を終えて戻ってきたセラは、地面に転がっている死体を見て、何も言えないようだった。龍牙はセラに声をかける。
「死んでも尚、身体を操られ尖兵として使われる‥‥。こんな事をするアヤカシは許せない、そうだろう?」
 靖は、そんな龍牙から視線をそらせた。以前の依頼で一緒になったことがあるが、龍牙の表情はあいかわらずだ。
 龍牙は、なおもセラに話を続けた。
「彼らは人に災いを運び、今もどこかで誰かを悲しませているだろう。ならその根源‥‥アヤカシを滅ぼしてしまえばいい。そうすれば誰も悲しまずに住むし、世の中も平和になる」
 セラは静かに龍牙の言葉に耳を傾けている。龍牙は、その言葉を自分で実行していた――家族や友人を奪われた報いを晴らすために。その言葉の重みは、セラの胸をうった。
 事後の処理を終えた開拓者たちは、威がセラの先輩陰陽師を運び込んだ家へと向かうことにした。
「墓地は別れの場所ではない。死者と生者の待ち合わせ場所のようなものだ。死者を鎮め、生者の心を安らげることが出来ればいいが」
 墓地を後にしかけた康平は、ふり向いて口にする。それは巫女の果たすべき役割だろうか‥‥。

 開拓者たちがその家にたどり着いた時、ちょうど威は手当てを終えたところだった。
「‥‥何とか助かった。まだしばらくは動けそうもないが」
 威は、仲間たちに経過の報告をした。
「よかった‥‥本当によかった!」
 ミルシェは、セラに抱きつくようにして喜びの声をあげた。ほっとしたようにセラも大きく息をつく。
「皆さん、ありがとうございました」
 セラは同行した開拓者たちに深々と頭を下げた。
「少しでも、何かを変えられる力があるのだと‥‥そう思っても‥‥いいのでしょうか‥‥?」
 ミルシェの答えはまだ出ない。けれど‥‥、未来は明るいものであるように彼女には思えた。
 いずれセラも一人前の開拓者としてアヤカシとの戦いの場に出て行くことだろう。この件は彼女の糧となり、今後の力になるに違いない。
 志を新たにした開拓者の誕生と共に、この事件は幕を下ろしたのだった。