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■オープニング本文 ●雪、雪、ふれ、ふれ その日、安州は大雪に見舞われていた。ここ数年見たことがなかったほどの大雪だ。屋根につもった雪は、路上へとずり落ちて道のすみに雪山ができている。 子どもたちは大はしゃぎで雪玉を丸めては雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりしている。中には道具を持ち出してきて、かまくらまで作っている子どもたちもいた。 「やっぱりさあ、雪だるまは大きいのと小さいのと雪玉を二つ並べないとね」 「もっと大きいのを作ろうよ」 子どもたちが作った雪だるまは三つ。大きいのと中くらいのと小さいのと。 「お父さんとお母さんと子どもみたいだねー」 「じゃあさ、お兄さんとお姉さんも作ろうよ!」 「赤ちゃん雪だるまも作ろうかな!」 子どもたちは元気だ。寒さに負けずどんどん雪だるまが追加される。 こうして夕方になる頃には、お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さん、男の子、女の子、赤ちゃん(余談ながら性別不明である)と七つの雪だるま、そして立派なかまくらが完成した。 さすがにくたびれた子どもたちは、たがいに翌日の雪遊びを約束して、それぞれの家へと帰って行った。 ●翌朝の惨劇 「うわああああんっ」 子どもたちの泣き声が通りに響きわたる。昨日みんなで力を合わせて作成した雪だるまがことごとく倒されているのだ。倒された雪だるまは踏みにじられてぐちゃぐちゃになっている。かまくらも跡形もなくなっていた。 「誰がやったんだ、ひどい話だな」 子どもたちをなだめようとした父親の一人が、破壊された雪だるまのうち一体の下が赤く染まっていることに気づく。 「おまえたち、向こうで遊べ。母さん、ちょっと子どもたちを頼むよ」 子どもたちを追い払っておいて、父親は周囲を取り囲んでいた男たちを呼び集めた。元は雪だるまだった雪の塊を転がしてどけてみる。すると、そこは雪が赤く染められ、骨のようなものが落ちていた。 「待て、こっちもだ。こっちの雪だるまの下もだぞ」 向こうで遊ぶように言われた子どもたちも母親も、遠巻きにその様子を見守っている。 「んー、これは血なのか?」 「これは骨、だよな?」 「とりあえず誰かギルドに行ってこい!」 呼ばれた開拓者ギルドの職員は、雪の上に残った赤い色を血の跡と断定した。人のものかそれ以外のものかまではわからなかったけれども。 周囲を聞き込んでみると、昨日飲みに行った若い衆が三人帰っていないと言う。さらに、彼らが着ていた着物の切れ端が少し離れたところで発見された。それも血の色に染め上げられている。 「これはアヤカシの仕業ですね」 別の職員が断定する。人のものでも動物のものでもない足跡が現場に残っていた。 「皆さん、避難してください。安全が確認されるまで戻ってこないように」 そう言って皆を避難させると、職員たちは周囲の警戒にあたる者と開拓者を集めるためにギルドに戻る者に別れて行動を開始したのだった。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
和奏(ia8807)
17歳・男・志
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
ヴィオラッテ・桜葉(ib6041)
15歳・女・巫
ルカ・ジョルジェット(ib8687)
23歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●現場検証 開拓者たちは、開拓者ギルドで問題の現場の見取り図を受け取った。事前に周囲の地形や建物の位置を把握してから現場へと足を向ける。 竜哉(ia8037)は、アヤカシが現れたという現場を訪れていた。 「街中まで来るってーのはいささか問題なんだがね……」 竜哉は踏み荒らされた雪だるまを見ながら考え込む。今までに町の外で存在が確認されていたというのならばともかく、いきなり街中にアヤカシが現れるとは。この周囲に瘴気の発生しやすい場所でもあるのだろうか。 「んー……確かに剣狼っぽいケド。変だね。こんなに街中まで入って来るアヤカシだっけ?」 蒼井 御子(ib4444)は、竜哉と並んで足跡を確認していた。確かに雪の上に残された足跡は犬や狼などのものによく似ている。 「雪玉遊びは父様の田舎でよくやったものですし、またできるよう危険を排除したいですね」 そう言った杉野 九寿重(ib3226)は、崩れた雪だるまを見ながら考えていた。 確かに剣狼としてはおかしな点が多いのかもしれない。滅多にない大雪だ。この大雪に適応したアヤカシが現れたのだとしたらそれはまた脅威となりうる。 「四体しかいないのなら楽だが、甘い考えは捨てた方がいいだろうな」 羅喉丸(ia0347)は、アヤカシの数を懸念していた。足跡は四体分であろう、というのがギルドで与えられた情報だった。複数のアヤカシの足跡を一体の物と解釈してしまう可能性も否定できない。またはこの現場にはいなかった仲間のアヤカシが近くにいるということも考えられる。 それから彼は周囲の建物の位置をギルドから受け取ってきた地図と比較して、状況を把握しようとする。ギルドからは、周囲の建物に損害を与えてもかまわない、とは言われている。それでも被害は最小限に抑える方がいい。 ルカ・ジョルジェット(ib8687)は、凍える手に息を吹きかけて暖めようとしている。戦闘時に手がぶれるのだけは避けたかった。 和奏(ia8807)は「しろくまんと・純白のブーツ・赤狐の襟巻」着用で防寒対策はばっちりだった。いささか着膨れている気がしなくもないが、戦う邪魔にはならないだろう。 「ここまで堂々と入ってくるアヤカシにはお引き取りいただかなければなりませんね」 ヴィオラッテ・桜葉(ib6041)は、スキルの『瘴索結界』を使いながら、表情を引き締める。幸い探索系のスキルを持った仲間の数は多い。ローテーションでスキルを使いながらアヤカシを探知しようという作戦である。 からす(ia6525)は水筒からお茶を一口飲むと、懐中時計ド・マリニーを取り出した。瘴気の流れを探知できる優れ物だ。 「とゆーか、足跡が無かったら雪だるま犯人説! とか言いたいよ、ボク」 と、御子はとぼけた台詞を口にする。 膝まで埋もれてしまいそうな雪の中を、開拓者たちは用心しながら進み始めた。 ●雪の中の探索 「単独行動は避けていこう。先行して、アヤカシに発見されたなんてことになったら洒落にならないからな」 羅喉丸は雪の上に残った足跡の後を追いながら言った。幸いなことにアヤカシの足跡は深い雪の中にくっきりと残っていた。 獲物を探しているのだろうか。足跡はぐるりと大きく回り、子どもたちが雪遊びをしていた通りとはまた別の、もう一本の広い通りの方へと続いている。 足跡だけではなく、アヤカシを探知できるスキルを使用しながらとはいえ、雪の中の行軍は神経をすり減らす。冷たい雪は容赦なく開拓者たちの体温を奪い、冷えた身体は動きが鈍くなっていく。 「『流逆』、漂い嘆く魂の怨敵はどこへ?」 懐中時計ド・マリニーをのぞき、からすは弓を弾いた。『鏡弦』でアヤカシのいるおおよその位置を探り出そうとする。 竜哉は、仲間から離れない程度に時々足を止めては大きく息を吸い込んだ。そして空気中の血の臭いを嗅ぎわけようとする。被害者たちは無残にも食い荒らされていたから、アヤカシたちの口には血が残っているはずだ。身体に返り血もついているかもしれない。 九寿重は、建物の陰に目をやる。ここは街中だ。建物の陰からアヤカシたちがいきなり襲いかかってくるという可能性も十分ありえる。竜哉と同様に、空気中の臭いにも気を配る。 「ねえ、何か聞こえる。ちょっと皆止まって!」 御子が叫んだ。『超越聴覚』を使っている御子の耳には、あたり一面雪に包み込まれている中、さくさくという音が聞こえていた。 「雪を踏む音のような気がする……」 この町の人たちは皆、退避しているため開拓者たち以外に物音をたてる存在といえばアヤカシしかいないはずだ。 「どうやらアヤカシのようですね」 ヴィオラッテの『瘴索結界』にもアヤカシの気配が探知された。 「来ましたね……皆様ご注意を!」 九寿重が皆の注意を促す。 「シニョーラヴィオラッテ〜、ミーと一緒にさがって〜!」 ルカはヴィオラッテを手招きした。ヴィオラッテは、言葉の通り素直に後退する。攻撃を喰らえばひとたまりもないのは、ヴィオラッテ自身が一番理解している。 ルカは、探知されたアヤカシの気配から一番距離を取れる場所へヴィオラッテを誘導しながら『呼吸法』を使う。 「この町に人はいない……ということはこちらに向かって来る物は全てアヤカシとして認識していいわけですね」 和奏は刀を引き抜いた。 「念には念を、ってねー。精霊さん!手を貸して!」 御子は竪琴をかき鳴らす。アヤカシの攻撃がどんなものなのかはわからないが、これで敵の攻撃に御子の能力と同じ能力を持って抵抗できるようになる。 ヴィオラッテは扇子を手に舞い始めた。『神楽舞・攻』により、皆の士気が高まっていく。 ルカが『単動作』を使ってマスケットに弾を装填する。アヤカシの方も人の気配に気がついたのか、開拓者たちの前に姿を現したのだった。 ●アヤカシの出現 戦闘開始の合図は、ルカの放った銃弾だった。深く積もった雪を切り裂くように飛んでいった弾が、アヤカシのうち一体の前足を打ち砕く。 ぐるぐるという不気味な声を発しながら近づいてきたアヤカシは、開拓者ギルドから与えられた情報どおり四体だった。先頭に一体。その後方から三体が開拓者たち目がけ駆け寄ってくる。 からすは素早く『猟兵射』を使って矢を放ち、ルカに続いた。 「地面が雪に覆われている分、踏み込みは難しそうだな……!」 『カミエテッドチャージ』を使って、竜哉は一気にアヤカシとの距離をつめながら槍での攻撃を試みた。先頭に立っていたアヤカシの横に回りこむことに成功し、わき腹に槍を突き通す。 怒りの声をあげたアヤカシが、竜哉の方を振り向いた。噛み付こうと大きく口を開いた――かと思うと、その口から冷気が発せられる。 「何だと!」 竜哉は身体を捻った。直撃は避けられたが、左肩を冷気がかすめていく。思わずよろめいて膝をつきかけると、和奏が飛び込んできた。和奏の刀が閃く。 先頭にいたアヤカシが崩れ落ちた。 「大丈夫ですか!?」 和奏の問いに、竜哉は首を縦にふる。少々左肩が冷たいがたいした負傷ではない。しかし、動きが鈍っているということは否定できないだろう。 「口から冷気を吐く……か。厄介な相手だな」 竜哉は嘆息した。至近距離に近づけば、冷気の攻撃を喰らうことになってしまう。 「横からの攻撃ならば冷気の攻撃は避けられるでしょう!」 九寿重の言葉に皆同意した。口から吐き出す冷気だけではない。牙の攻撃もある。正面から挑みかかるのは愚かというものだ。 からすがもう一度弓を引く。二体目のアヤカシの右目に矢が突き立った。 「俺にまかせろ!」 羅喉丸が囮役を買って出た。彼の左腕には盾が装備されている。この背後に身を隠せば冷気から身を守ることができる。アヤカシの牙や背中の剣も盾で受け止めることができるだろう。 和奏が横に飛んだ。三体横並びになっているアヤカシの横から、刀に練力を集中させ、風の刃で相手を攻撃する。その攻撃と同時に、からすの矢が目に刺さっているアヤカシが咆哮した。口を大きく開き、背中に生えた剣を逆立てる。 正面に立つ羅喉丸にアヤカシは飛びかかった。背中の剣が次々に羅喉丸に襲いかかる。羅喉丸は、雪の中で両脚を踏ん張り、『八極門』を使った上で、ベイル「アヴァロン」で次々に襲いくる剣を受け止める。 「横からいかせてもらう!」 竜哉はそのアヤカシの横から槍を突き出した。わき腹に槍の刃が食い込む。アヤカシがよろめく。 羅喉丸の蹴り攻撃がアヤカシに炸裂した。二体目のアヤカシが雪の上に倒れる。 その間に、御子は演奏する旋律を『剣の舞』へと変化させていた。激しいリズムの楽曲が、仲間たちの攻撃力を高めていく。 ヴィオラッテは後方にさがり、再び『瘴索結界』を使う。今開拓者たちが相手をしているアヤカシたち以外にも、アヤカシがいるのではないかと警戒してのことだ。 「前方……戦闘しているアヤカシ以外にいませんね……でも、西に……!」 ヴィオラッテは声を張り上げた。 「皆さん! 西の方にまだアヤカシがいる気配があります!」 その声に開拓者たちが反応した。 ●さらに現れたアヤカシ 「油断なんてしてないさ〜」 ルカは、『強弾撃』を使ってマスカットの引き金を引く。放たれた弾丸が、アヤカシの背中に命中した。背中に生えた剣が一本、弾によって跳ね飛ばされる。 竜哉は背中を傷つけられたアヤカシ目がけ、『聖堂騎士剣』を使った攻撃を繰り出す。十分にスピードの乗った攻撃は、アヤカシのわき腹を貫き通す。 和奏が駆け寄ってきた。『秋水』を使った攻撃に、三体目のアヤカシが雪の上に倒れこむ。 和奏の背後から、残ったアヤカシが冷気を噴きつけようとした。和奏は雪の上に倒れこむようにしてその攻撃をかわす。 からすは弓を引き絞った。『響鳴弓』に寄って放たれた矢が、四体目のアヤカシの肩をかすめていく。 「外したか……」 からすはもう一本矢をつがえた。 跳ね起きた和奏が『秋水』による一撃をアヤカシに喰らわせる。 ルカが続けて射撃攻撃を行った。弾を撃ちこまれたアヤカシがよろめく。九寿重が刀を構えて走り寄った。全力の攻撃がアヤカシの首を切り落とし、アヤカシは数歩走って横倒しになった。 通りに立ち並ぶ家の角を回って、ヴィオラッテの発見したもう一体のアヤカシが姿を現した。リーダー格なのだろうか。それ以前に相手をした四体よりも一回り大きく見えた。 「子どもたちのためにも頑張らなくてはな」 羅喉丸は、新たに現れたアヤカシへと対峙する。 「これで終わりといこうか〜」 ルカは、『単動作』で弾を再装填した。すかさず『強弾撃』でアヤカシの背を狙い撃つ。最後に登場したアヤカシの額に見事攻撃が命中した。 九寿重はアヤカシの退路を断つように移動した。『炎魂縛武』を使って、アヤカシに斬りつける。 最後の力を振り絞ってアヤカシは羅喉丸に突撃を仕かけてきた。口を開いて吐いた冷気を羅喉丸は盾の背後に身を隠すことで耐える。 竜哉が振り返った。背後から槍を突き出す。それと同時に羅喉丸の骨法起承拳が炸裂し、最後に現れたアヤカシは動かなくなった。 「安全は取り戻せたようですね……」 九寿重は、念のために『心眼』を使って周囲を再確認する。どこにもアヤカシの気配は感じられなかった。 「そうだね。これで任務終了っと」 御子が同意する。 ヴィオラッテは瞑目した。死者たちのために祈りを捧げる。葬儀はこれからだと聞き、そちらの手伝いへと向かうことにした。 和奏は、雪遊びは遠慮することにした。開拓者ギルドに戻って、暖かい暖炉の前でぬくぬくしている方がいい。からすも暖炉の前にやってきて、温かいお茶をふるまってくれた。 「さて、お疲れ様」 あとは報告書を書いてギルドに提出するだけだ。 「さって、それじゃあ、遊ぼうか!」 アヤカシがいなくなった通りに、御子は子どもたちを呼び集める。御子も加わって、七つの雪だるまとかまくらを作り直した。 「子どもは元気が――え? ボクも? ボクはもう十六歳だってのー!」 子どもは元気が一番と微笑ましく、見守っていた大人に声をかけられて御子はぷんぷんと両腕を振り回す。確かに御子の外見年齢は年よりはるかに幼いのだけれど。 「ま、まあいいよ! それより雪合戦をしよう!」 子どもたちの先頭に立って御子は雪の中へと突っ込んでいく。平和になった通りに、子どもたちの明るい笑い声が響き渡った。 |