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■オープニング本文 ● 暦の上ではすでに秋となっている。ここ、北面国の都、仁生に館を構える嵯峨宮家でも重陽の節句の準備が進められていた。 重陽の節句とは別名「菊の節供」とも呼ばれるとおり、菊をメインとした節供である。自分や家族の長寿と一家の繁栄を祈る行事であり、菊を眺めながら詩歌などを読み、また自慢の菊を持ち寄って菊合わせをしてその美しさを競い合ったり、菊の花を浸した菊酒を酌み交わしたりして長寿を祈る。 嵯峨宮家では管理させていた菊畑にアヤカシが現れ、管理人一家を惨殺するという事件が起こった。アヤカシ自体は開拓者たちの手によって退治されたものの、菊畑の殆どが使い物にならなくなってしまったのだ。 菊だけでなく人の命も散った事から今年の菊の節供は鎮魂の意をこめて行ってはどうかという意見も出た。また、節供自体を取りやめる事は自分たちの育てた菊に自信を持っていた管理人達の心を考えると好ましくないではないかという意見もあった。 よって、通常の菊の節供の期間に鎮魂の儀を行い、その後に改めて菊の節供を催す事となった。他家とは多少期間がずれるが、色々な事情をかんがみると今年はこれでよいのかもしれなかった。 ● 嵯峨宮家に仕える志士、紫上瀞がその話を聞いたのは、志士団の宿舎の一角でだった。 「菊泥棒?」 問い返した瀞に、年上の同僚は杯を傾けながら頷いた。 「そう。重陽の節供の折にな、頻発したんだと。貴族の方々は菊合わせのために方々から菊を集めていたわけだ。その菊が盗まれたんだと」 「盗んだ菊はどうするのですか? まさか盗人が菊合わせに出るわけでもありますまい?」 正面に座って瀞が聞き返すと、同僚ははは、と笑った。 「馬鹿だな、転売するに決まってるだろうが。そうして金を稼ぐんだろう。菊合わせで見事な菊を披露したいと思う奴らがいくらでも金を出すんじゃないか?」 酔いが回ってきたのだろうか、同僚は口調が少々荒くなっている。瀞は勧められた杯を断って、もっと詳しく話を聞こうと姿勢を正した。 「盗人は捕まったのですか? 目星は?」 「捕まってたら話題になってねーな。襲われるのは貴族の家に菊を運ぼうとする商人や、主人の命で菊を買い付けた使用人が夜、運んでいるのを襲われるっていうのと、家の庭に侵入されて奪われるっていうのとがあるらしい」 大降りの花を咲かせる立派な菊は、高値をつけてでも欲しがるものもいる。菊合わせで立派な菊を出す事が出来れば、それだけで場の注目を浴び、名を上げる事が出来るからだ。別に地位が上がるとかそういうわけではないが、それだけ立派な菊を手に入れる事が出来る、そう思われるのが心地良かったり、家の名誉に関わって来たりもするのだろう。 「ですが‥‥菊合わせも、殆どの家はもう済んでい‥‥」 瀞はそこまで口にして、言葉を止める。そうだ、まだ済んでいない家があるではないか。 「まさか、菊泥棒は、まだ仕事を終えない‥‥と?」 「その通りだ」 「「!?」」 確認するように呟いた瀞の言葉に低い声が返ってきた。同僚は瀞の背後を見て口をぱくぱくし、瀞はまさかと思いつつもゆっくりと振り返る。 「若様! お呼びいただければ参上いたしましたものの!」 そう、そこに立っていたのは嵯峨宮家の嫡男であり、瀞が傍仕えをする若君。通常であればこの様な場所に足を運ばずとも、用がある人間を呼び出す事で事足りる。 「たまにはこうして部下の過ごしている場所を視察するのも上に立つ者の役目。ところでその菊泥棒だが」 「はっ」 若君の声に瀞は頭を垂れ、そして続きを待った。 「なんとしてでも捕らえよ」 それは嵯峨宮家の体面をかけた命令だった。 ● 少し遅れた菊の節供が行われると聞いて、とある商人から見事な大ぶりの花を咲かせる菊を献上したいとの申し出があったという。 前述の通り他家での菊の節供の時期は過ぎており、嵯峨宮家での菊合わせに呼ばれている者達も、他家で使用した菊をそのまま使用することはほぼできない。生花にも、定められた命がある。 そこで参加者は新たに菊を求める必要があった。通常と時期がずれているため、市での入手も多少困難になる。つまり――価格の高騰が見込めるというわけだ。 となれば盗人どもがこの機会を逃すとも思えず。若君は嵯峨宮家に見事な菊が献上されることを噂として広め、盗人どもをおびき出す事を考えたらしい。 この盗人どもは集団でかなり強引に手段で菊を奪うらしく、大怪我を負わされた者達もでているとか。だが役人たちは盗人どもを捉えることが出来ないまま、宴の機会を逃してしまったのだ。 そこでこの盗人どもを捕らえれば、菊を盗まれるという泥がつくことなく、しかも逆に捕縛の指示を出して成功させた嵯峨宮家の名も挙がるというもの――若君はそう考えたらしい。当主と違って切れ者である若君らしい、とは心のうちで思っていても口には出せないが。 というわけで、瀞は助力を請うべく開拓者ギルドを訪ねた。 商人が菊を届けるのは夜。しかも普段あまり人の通らない道を通る。この時使う道筋も自然と情報が流れるようにしてある。菊は荷車に載せて運ばれるが、あからさまに武装した集団が守っていては分が悪いと判断して狙われない恐れもあるのでその辺は注意が必要だ。 そして、盗人は殺さずに捕らえて欲しい。 |
■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043)
23歳・男・陰
相馬 玄蕃助(ia0925)
20歳・男・志
空(ia1704)
33歳・男・砂
奏音(ia5213)
13歳・女・陰
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
隠神(ia5645)
19歳・男・シ
莠莉(ia6843)
12歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ● 「‥‥なぜ、常人の身としては優れた力、才があり、人を傷つける事に使うのか‥‥理解できぬ」 ぽつり、呟いたのは隠神(ia5645)。買う者がいるから盗む者がでる。かといって盗んだ者の罪が消えるわけではない。人を傷つけたとあれば尚更の事。 「菊泥棒ね‥‥少しでもお金になる匂いがするとすぐに群がるんだから。ホント盗人ってセコいよね」 輝血(ia5431)が小さく溜息をつく。それにこくこくと頷いて、奏音(ia5213)がのんびりと同意を示した。 「ひとのものを〜とっちゃうのは〜わるいこと〜なの〜わるいひとは〜奏音が〜『め〜』って〜こらしめちゃうの〜」 「自身の益のために人を傷つけてまで盗みを働くとは‥‥どのような理由があれ、天罰が必要のようですねっ」 鏃を潰して殺傷能力を下げた矢を手に莠莉(ia6843)がくっと拳を握り締める横で。 「祭りだか何だかはよく知らんが、活気があることはイイことさ。俺も、色々と仕事がヤリ易くなるからなァ‥‥ヒヒ」 怪しげに笑った空(ia1704)の横で紫上瀞が「仕事?」と首を傾げていた。 「紫上さんには相手に負けていただいて、油断を誘っていただきたいのですが、どうでしょうか?」 「負ける‥‥か」 檄征令琳(ia0043)に声をかけられた瀞はそちらを向き、暫し考えるような仕草を見せた。それを見た令琳は後押しするように言葉を紡ぐ。 「武に生きる者として、振りとはいえ負ける事は恥ですが、御考え下さい。負けなくても、苦戦する振りでも良いと思います」 強制ではありません、と言われ。そしてそれが任務遂行の為だというならば強硬に断る理由もなく、瀞は頷いた。 そんな思い思いのやり取りが行われている隅の方で、風鬼(ia5399)と相馬玄蕃助(ia0925)が他に聞き取られぬように小さな声で言葉を交わしていた。 「この時期に菊合せをするのが嵯峨宮家だけなら、足がつきやすい。堅気の盗っ人なら避けるような、危ないシノギですなあ。果して、それでも襲って来るでしょうか」 「むぅ‥‥それも一理あるが、若君としては襲われなかったら襲われなかったで良いのではなかろうか」 「そういえば若君の発案でしたか。ははあ、それでは、‥‥、来るよう祈るしかありませんな」 はっきり言葉にするには憚られる感情を沈黙に込めた風鬼に対し、玄蕃助は違う角度から物事を捉えていて。 「我らが上手くやれば、開拓者を巧みに使ったと評価も高まる。しくじっても、直接の手の者が失敗した訳では無い。節供の期間がずれたのはアヤカシが理由と聞くが、それも上手く利用する‥‥むう。嵯峨宮家の若様とやら、切れ者にござるな」 果たして若君は愚か賢か――。 ● 夜闇の中、松明を掲げた令琳や瀞が護衛をする荷車が予定通りの経路を進み始める。荷車の引き手は空だ。 「道はこちらでよいかね」 「ええ。合ってます」 一般人の引き手を装う空は言葉遣いも改めて。傍についている瀞が驚いたような表情を見せたところで彼は小声で呟く。 「え、言葉遣いが違うと? 仕方ないでしょう、流石に何時も通りだと色々ね」 ニヤァと笑った空は、菊の鉢を倒さないようにとゆっくりと荷車を引いた。一応縄で台車に括りつけてあるが、注意するに越した事はない。 (「まだこの辺は大丈夫ですねっ」) 莠莉は荷車から離れすぎない距離を保って歩いていた。何か音が聞こえれば即座に駆けつけられる位置だ。輝血や隠神、風鬼らそれぞれ下見を行った者達と意見を交わした結果、襲って来るであろう場所はいくつかに絞れていた。まだその場所ではないからといって油断は出来ないので注意はそらさない。 (「さて、賊は出るでしょうか」) 風鬼はあえて荷車と同じ道は使わず、民家を挟んだ先の道を進んでいた。民家と民家の間から、荷車の気配を感じる。 その荷車からは玄蕃助の大きな声が聞こえてきていた。 「いやはや助かりました。妹が眠ってしまったのでござる。まあ子供は夜になると眠くなるもの、仕方がないでござるが」 「途中までしかお送りできませんがね。方向が同じですからこのくらいはお安い御用です。菊だけは傷つけないでいただければ」 返すのは輸送隊の責任者を装う令琳。この菊を無事に届ければ自分の株も上がるだろうから機嫌が良いついでに人助けでも、そんな感じだ。玄蕃助の年の離れた妹を演じる奏音は、菊を固定する縄の張り巡らされた荷台に座り、猫の人形を抱きしめたまますーすーと寝息を立てている。勿論寝た振りである。 「ほうほう、この菊はそんなに高価なものでござるか」 玄蕃助の食いつきに、令琳の目が輝く。彼は玄蕃助を見て、そして瀞に。 「この菊を菊合わせに使えば、注目される事、間違い無しです。今年一番良い菊ですよ。はっはっは」 自慢げに笑ってみせた。 黙って荷車を引きながらも辺りの様子を伺っていた空は、少し先の横道に人の気配を感じた。力に任せる盗賊は気配を隠すのが下手なのか、はたまたその必要はないと踏んでいるのか。夜道という事もありそれまで人とすれ違う事は無かったが、明らかにそちらから人の気配がする。 「一般人の俺には雅さはわからないが、貴族の方々にはそのよさがわかるんだろうなぁ」 ぽつりと呟くようにして空が会話に加わった。合図を決めていたわけではないが、突然彼が会話に加わった事で何かを感じ取ったのか、荷車組の心中に緊張が走る。だがあくまで表面上は常を装って。 間もなく横道に差し掛かる――その時、人影が荷車の行く手を遮った。きらり、松明の光に反射したのは刀だろうか。 「ヒィッ‥‥!」 一番最初に声を上げたのは荷車を引いていた空だ。思わず足を止めたので荷車が止まり、後ろを歩いていた玄蕃助が荷車にぶつかる。そして「何事でござるか?」と顔を上げて荷車前方に陣取る三人の男達を視界に納めた。 「貴様らが賊どもか! おのれ賊共め、さっさぁ貴方の出番です。賊を倒して下さい!」 令琳が護衛の瀞を前面に押し出す。刀を抜いた瀞に、三人の賊はそれぞれ獲物を手にしたまま無言で襲い掛かった。その間に空が荷車ごと後ずさりながら、心眼を試みる。 「ん〜何が起きたの〜」 まるで今起きたように奏音は目をこすりながらも、きょろりとして賊の数を数える。前に三人、そして玄蕃助の後ろに一人。 (「足りない〜の〜」) こっそり人魂を使った奏音は、残りの賊を探させる事にして。 「我らは偶然同行しただけのただの平民だ。我らの命は、どうかお助けをっ!」 後ろから迫られる玄蕃助は奏音を庇うようにしながら懇願し。 一方、三人に集中的に攻撃を受けている瀞は、事前の打ち合わせどおりに段々と押されていく演技を見せて。衣服もところどころ斬られる。そしてそれを見た令琳は、すぐさま顔色を変えた。 「ひっひぃっ、菊は全て差し上げます。命ばかりはお助け下さい」 「お助け‥‥ヒィッ‥‥ヒ‥‥ヒヒッ、もういいかァ?」 同じく怯えた様子を見せていた空も、ニヤリと笑った。令琳が懐から符を取り出し、玄蕃助は仕込み杖を抜く。 ――反撃の始まりだ。 (「始まった‥‥でも人数が少ないっ」) 輝血は荷車に襲いかかる敵の数が少ないのを見て、残りの敵を探した。今まで荷車が通ってきた道にはいない。となれば先の道か、後方に回り込んだか。 「いたっ!」 後方の横道に一人、こっそり様子を伺っている男を見つけて輝血は早駆で距離を詰める。同じように隠神も早駆で駆けつけた。輝血が飛苦無を男の足を狙って投げる。 「なに!?」 突然の攻撃に一瞬見せた隙を突いて隠神は男に接近、脛に一発叩き込む。 「ぐぁぁぁぁっ!?」 驚きの声が痛みの声に変わった。痛む足を庇うようにして重心を崩す男に、輝血が片手棍を打ち込む――無事なほうの足に。 機動力を奪ってしまえば、後はこっちのもの。 「‥‥これまで重傷者すら出してきたとの話だ、捕らえるための多少のやりすぎはお目こぼしされよ」 開拓者の力で打ち込んだ打撃は男の骨を痛めているかもしれない。だがこの賊は菊を奪うために重傷者すら出しているという。不殺で捕らえよとのことだが少しくらい痛い目を味合わせてもよいだろう。 「君、運が無かったね」 男を見下ろした輝血は、その腕を素早く捻り上げた。 (「この様な場合は見張りを置くのが常道‥‥」) 戦闘が始まったのを察知した風鬼は、塀の上に登って自身の予測に基づいた場所へと向かう。荷車とは別の道を使っているからして、相手には気づかれていないだろう。思った通り、別の分岐点に辺りの様子を伺う怪しげな男がいて。男が警戒しているのは道のみで、もちろん上から誰かに襲われる事など予測しておらず。つまり、背後に風鬼が降り立った事に気づく前に当身を食らわされて均衡を崩す。 「がっ‥‥」 何事かと刀の柄に手を当てながら振り向こうとする男のみぞおちに、十手を叩き込む。風鬼は戦闘中は喋らない。無言で打撃を叩き込むのみ。男のうめき声だけが当たりに響き渡る。 三割ほど抜きかけられた刀は抜かれることなく、男は意識を失って地面に崩れ落ちた。風鬼は注意しながら男を縛り上げていく。 「そこまでです。生きたまま捕えよとの命ですが‥‥抵抗なさるようでしたら、手足の4、5本は覚悟して頂きますっ」 莠莉の放った瞬足の矢が、令琳の符から繰り出された攻撃を受けた仲間を見て後ずさった男の足元へと飛来する。 「のこりのわるいひとは〜ちゃんと他の人達が〜捕まえているの〜」 「それでは我々は目の前の敵を逃がさぬようにしなくてはならないでござる」 人魂を使った奏音の報告を受けた玄蕃助は振り下ろされた刀を、仕込み杖の刃を少し出してで受け止め、それを力を込めて押し返す。力で押されて二、三歩後ろに下がった男の手元を狙い、玄蕃助は思い切り仕込み杖を振り下ろした――勿論刃はしまった状態でである。 「うがぁっ!?」 刀を握った手をしたたかに打たれた男は刀を取り落とし、空いた手で手首を押さえて痛みにのた打ち回る。もしかしたら手首が折れたのかもしれない。 武器を失って利き手を痛めつけられ、次に男が取る行動は逃亡――しかしくるりと向きを変えたところでその動きがぴたりと止まる。「あ、あ‥‥」と怯えたように声を漏らして男は尻餅をついた。荷台から奏音がのんびりした声色で告げた。 「逃げると〜次は〜あてちゃうのですよぉ〜♪」 奏音が使ったのは大龍符。龍が襲い掛かるような幻影を見せるだけで実際に攻撃させる事は無いが、一般人である賊の男はそれを知るまい。脅しには十分だった。 「大人しくお縄につくでござる」 腰を抜かした男を、玄蕃助が縛り上げた。 「考えが甘いですね、そのまま動かないで下さい。動くと命の保証は出来ませんよ」 呪縛符で束縛した男に令琳が呼びかける。だが三人のうち一人は破れかぶれになったのか、荷車へと突進していく。 「おっと、悪イ。つい手が滑っちまった」 勿論菊の奪取を許すわけはなく。荷車についていた空が仕込み杖を強く打ち付けて男の刀を落とさせる。そしてそのみぞおちへと杖を突きこむ。「つい」といってるがわざとである。 「逃がしはいたしませんっ」 再び逃げようとするもう一人には、莠莉の矢が飛んだ。鏃を潰してあるので殺傷能力は下がっているが、それでも逃亡しようとしているところに飛んで来る矢は恐怖の対象である。 「私達は全員、志体持ちの開拓者です。貴方達に勝ち目はありません。武器を捨てて降参して下さい。そうそう、大勢のシノビが包囲してますので、逃げるのも難しいと思いますよ」 朗々と声を上げて他の賊の牽制にかかる令琳。もちろん大勢のシノビなんていないのだが、すでに十分自分達の不利を悟っている男達には効果があったとみえて。 諦めたのか、意識のある賊たちは軒並み大人しくなった。 「‥‥もちろん、あまり酷い事は冗談にございますれど、あなた方がした事はそれくらいの仕打ちを受けたとしても文句のいえないことだと思ってください」 男達に近づいた莠莉が、空や令琳、瀞と共に男達を縛り上げていく。 その頃には前後の道でそれぞれ一人ずつ捕縛した風鬼と輝血、隠神も賊を連れて合流を果たした。 ● 「ヒャハ、紫上サンよォ、コイツ等どうするつもりよ? ただこのまま引き渡すだけならよ、すこォし再教育してもイイかァ?」 「今夜のところは嵯峨宮家で身柄を預かり、明日の朝引渡しという事になるだろうが‥‥再教育?」 「なァに、少し今までの行いを後悔して貰うぜけさァ。ヒヒヒ‥‥」 空の問いに答えた瀞は「殺さぬ程度に」と念を押して。 菊を乗せている荷車に賊六人を乗せて運ぶわけにもいかず、急ぎ嵯峨宮家に報告へと赴いた隠神と風鬼が志士団から人手を借りてきた。その間に「再教育」された賊たちは、夜があけるのを待って、官憲に引き渡される。 「一応辺りを見て回ったけど、残党はいないみたい。それにしても菊の節句ってどんな感じなんだろうね‥‥少し見てみたいよ」 「きっと〜あの菊みたいなのが〜いっぱいで〜綺麗なのです〜」 輝血の言葉に、荷車から降りた奏音がにこりと笑って告げる。 「賊が捉えられたという話が広まれば、来年は平和に菊の宴が迎えられるかもしれないでござる」 うむ、と頷く玄蕃助の横で、風鬼は「賊が本当に現れてよかったですなぁ」と心中で思って。まさか名を上げるためにわざわざ賊を雇う事まではしないだろう、だとしたら賊が本当に危ない橋を平気で渡るような頭のやつらだったのか、それともこれまで成功したからと気をよくしていたのか。本当の事はわからないから頭の中を想像のみが駆け巡る。 「無事に菊を届けることが出来て、良かったです」 族たちを見張るのは仲間達に任せて、空と令琳、瀞と共に嵯峨宮家に菊を運んだ莠莉は安心したのかあふ、とあくびをしかけて。 「眠いですか? 夜も遅いですからね」 「夜更けの依頼は堪えますが‥‥いえ、眠くなどないです。僕は子供ではありませんのでっ」 令琳の問いに思わず出てしまった本音を隠すようにして、彼は手を振る。その光景を令琳は微笑んでみていた。 「お疲れ様でした。他の皆さんが戻っていらっしゃったら、今晩は志士団の宿舎へお部屋を用意してありますのでゆっくりお休みください」 「僕は子供ではありませんので、眠くなど無いですっ」 若君への報告から戻ってきた瀞の言葉に、莠莉は今述べた言葉をもう一度繰り返して。瀞はからかうつもりで言ったわけではないのだが、ちょっと間合いが悪かった。 少しむきになった莠莉と不思議そうに首を傾げる瀞を見て、令琳がくす、と笑みを零した。 |