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■オープニング本文 ●不変のもの アヤカシとは、人を喰らう存在である。 それは、どこに行っても変わらない事実。 ●柳次の想い 「ああ、しんどい」 「少し休みましょうか」 「ああ。かかあの持たせてくれたこの握り飯で腹を満たしてからにしよう」 柳次は同じ村から一緒に街を目指していた中年の男と一緒に、大きな木の根元に腰を下ろした。大事な商売道具の入った行李を丁寧に下ろし、竹筒の水筒から水を飲む。まだそんなに暑い時期ではなかったが、歩き続けてきた身には水が気持ちよく浸透して行った。 「出来はどうだい?」 「今回は、一つだけ会心の出来のものがあるんですよ」 男の言葉に柳次は笑って見せた。 柳次は村で細工師をしている。簪や櫛、髪紐や組紐などの装飾品を作り、街の装飾品屋へと卸している。今日も溜まった作品を卸しに行くためにこの道を歩んでいた。 「ほう、会心の出来か。高く買ってもらえるといいな」 「いえ、これは‥‥」 男は商売人として口にしたのだが、柳次は曖昧に笑って行李に視線を移した。その中に一つ、特別な簪が入っている。 今まで作ったどの簪よりも出来が良いと自負していた。確かに多少ふっかけてもその値段で買い取ってもらえる自信はある。だが――。 がさっ 「ん?」 男が握り飯を加えたまま顔を上げた。その顔色が一瞬にして青くなる。 「どうかしましたか?」 「ん、んんー!!」 柔らかく尋ねる柳次の背後を指して、男はうめき声を上げた。柳次が首をめぐらすと、そこにいたのは――醜悪な小鬼だった。手には棍棒や鋤などを持っている。 「まさか、アヤカシ!?」 柳次がそれに気がついた時、彼はもう小鬼の間合いに入っていた。立ち上がろうとするが、振り下ろされる武器を避ける事はできない。 「僕が抑えていますから、早く、逃げてください!」 痛みに顔をしかめながら彼は叫んだ。男は急いで握り飯を飲み下すと、荷物を置いたまま街の方へとかけて行った。 開拓者ではない柳次がアヤカシを抑えることなどできるはずがなかった。 できるのは、その身を盾にして、男が逃げる時間を稼ぐ事だけだった。 ●綾の想い 綾は街にある装飾品屋の娘だ。扱っているのは櫛や簪、髪紐や組紐などで、衣食住のように絶対に必要なものではない。嗜好品の類だ。故に店で扱っているものの価格もそれなりで、客も比較的裕福な人々が多い。故に綾の家は比較的裕福な商家である。 (「今日は柳次さんが来る日」) 綾は引き出しに大事にしまっておいた一本の簪を手に取る。これは柳次が初めて綾の店に品物を持ち込んできたときにあった簪のうちの一本だ。まだまだ未熟なところも感じられるが、綾は一目見て気に入り、父親にねだったのである。 (「――好き」) 簪を通して愛しい人の面影を見るように、綾は視線を固定した。そして鏡の前に座り、ゆっくりと簪を挿していく。 綾は柳次のことが好きだった。真面目で優しそうな彼自身も、彼の素敵な手が作り出す装飾品達も。だが、自分が想いを告げては彼は迷惑するだろうとずっと我慢していた。 街の商人の娘と、村の細工師。親とてあまりいい顔をすまい。だから、ずっと黙っていた。 彼が二週間に一度店を訪れる時に会える、それだけで良いと思っていた。 けれども日に日に思いは募り、綾の身体から溢れそうになる。 だから、今日は言ってしまおうと思っていた。 返事はいらない。ただ、自分が彼を思っていると知っていてほしいだけ。 彼を困らせてしまうかもしれない。でも、もう我慢が出来なかった。 「よし」 鏡の中の自分の姿を確認し、綾は頷く。その時、階下がにわかに騒がしくなった。 (「もういらっしゃったの?」) 早足で階段を下りる。とくんとくんといつも以上に鼓動が大きくなる。 だが店の入り口に居たのは、近所のおじさんと父親だった。柳次の姿はどこにも見えない。 「一体どうしたんだい?」 父がおじさんに声をかける。おじさんは大きく深呼吸を一つして。 「柳次ってお前んところに出入りしてる細工師だよな? アヤカシに襲われたんだと!」 「!?」 耳を疑った。それは父親も同じようで、どういうことだとおじさんを問い詰める。おじさんによれば、柳次に庇われて命からがら逃げてきた男が、事情を開拓者ギルドに報告したのだという。他にもアヤカシに襲われる者が居たら大変だ、すぐに開拓者を集める事になったのだと。 「残念ながら柳次って奴は助かるまい。なにせアヤカシは10匹近くもいたって話だからな」 ――カツン‥‥ 綾の頭から、簪がすべり落ちた。 しっかり刺したはずなのに、その簪は――土間に落ちて真ん中から真っ二つに折れた。 まるで――作り手の命をあらわしているかのように。 「綾!」 父親の声も耳に入らず綾は裸足のまま店を出て、開拓者ギルドへ走った。 自分が行っても何もできることはない、それはわかっているけれど。 でも、でも、でも――何もせずには居られないから。 信じられない‥‥だから。 現場へと赴く開拓者達に、自分の代わりに真実を見てきてもらいたくて。 |
■参加者一覧
一條・小雨(ia0066)
10歳・女・陰
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
赤城 京也(ia0123)
22歳・男・サ
香椎 梓(ia0253)
19歳・男・志
東雲 蔵人(ia0698)
17歳・男・サ
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
香坂 御影(ia0737)
20歳・男・サ
祁笙(ia0825)
23歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●臨む心意気 生暖かい風が肌を撫でてゆく。 八人の開拓者達は綾の涙と想いを背負って、街から現場へと向かっていた。 いずれも初仕事となる身、多少の緊張も隠せないが、それよりも無辜の人々の命を奪ってゆくアヤカシに対する憎しみが勝っている者もいた。 「これが初仕事‥‥ですか。気を引き締めて行く事にしましょう」 「ああ、この地での初仕事か。アヤカシを倒すだけだが、なんともな‥‥」 朝比奈空(ia0086)の緊張に祁笙(ia0825)が答えた。だがやっぱりなんとも言えぬ思いがこの依頼には付随している。 「綾さんの代わりに確認しておく事もありますからね‥‥。たとえそれが悪い事だったとしても‥‥」 言葉を濁した祁笙の代わりに空が引き継ぐ。その声には強い意思が込められているようだった。 「有り触れた悲劇の清算ね、しっかりきりましょう」 ありふれた悲劇――葛切カズラ(ia0725)の様にそう割り切ってしまえれば楽なのだが、人の心はそう簡単に割り切れるものではなく、全ての者が物事を客観的に見れるわけではなかった。 「ちっ、アヤカシの奴らめ罪も無い人を襲うとは‥‥」 怒りで拳を震わせるのは東雲蔵人(ia0698)。妹を救えなかったときの光景が脳裏によぎる。だが開拓者となった今は、あの時とは違う。 「今なら仇は取れる。同じ事を繰り返さぬ様にアヤカシを斬って捨てる!」 「今回は被害者も出ている上、綾さんから直接話も聞いている。絶対に敵を逃がすつもりはない」 刀の柄を握り締め、香坂御影(ia0737)も戦意を表した。そこへぽつり、と香椎梓(ia0253)が言葉を落とす。 「大切な人を突然失うのは辛いことだね‥‥。想いを告げることができなかったのは、さぞや無念だろうね。今は何を言っても彼女の心を慰めることはできない。私にできることは、ただ、アヤカシを討つことだけ」 いや、それだけでも十分だ。真実を知りたいと望む綾には、アヤカシを退治して柳次の仇を取ってあげることが一番なのかもしれない。 「アヤカシに襲われながら仲間を逃がす為にその身を盾にする‥‥なかなか出来ることではない。綾殿のためにも出来れば助けてやりたいが、ともかく今は急ぎその場に行くことが大切でしょう」 「そうやなぁ。また難儀な話やなぁ‥‥細工師の兄ちゃんも無茶しはるわ‥‥」 一歩一歩足を進めることが大事だという赤城京也(ia0123)の言葉に、一條・小雨(ia0066)の小さなため息がかぶった。 「これを予想しての行動やったら大したもんやでホンマ」 後に続けるようにして紡がれたその言葉。その言葉の真意は如何に? ●卑怯な小鬼 殆どの者達は、10匹近くの小鬼達になぶられている柳次を想像していた。だから、遠目からでも大木と小鬼の姿を捉えられるようになると、気持ちが逸る。だがまずは梓が心眼を使用する。そして小鬼達が大木を取り囲むようにしているのが解ると、今度は謎が生まれた。 何故小鬼達は木を取り囲むようにしている? 柳次という獲物を食べたのならば、その場を去っていてもおかしくはない。だが小鬼達は大木を取り囲み、鋤や棍棒で木の上を叩こうとしているようだった。体長が足りずに届かないのか、多少苛立たしげだ。 「聞いた状況やと逃げ場は一箇所しかあらへんやろなぁ‥‥」 小雨の呟きに、はっと誰かが息を飲んだ。 もしかしたら、もしかしたら――葉がおい茂って見えない木の上に、期待の視線が集まる。 「よし、行くぞ!」 蔵人の号令にあわせて、事前に決めていた前衛三人が大木へと近づく。すると小鬼達がギャーギャーと耳障りな声で鳴いているのがわかった。 「ギャ?」 あまり頭は良くないらしいその小鬼のうち一匹が三人の接近に気がついたとき、強力を使った蔵人の太刀が、背を向けて木の上をしきりに気にしている小鬼の背中を切り裂いた。続けて同じ敵に、強打を使った御影が切りかかる。個人的に人を襲うアヤカシには強い敵意を持っているため、その太刀筋にはためらいが見られない。 相手の数が多い場合、頭数を減らす事を考えるのが常套だ。 「貴様ら、人を食らうアヤカシどもめ! 容赦はしないぞ!」 強力を使った京也が隣の小鬼に重い一撃を叩き込む。すると漸く彼らを敵と認識したらしい小鬼達は、木の上をつつくのを諦めて開拓者達に向き直った。前衛三人の横をすり抜けて、三匹の子鬼が後方へと向かう。 「勝手に通ってんじゃねぇっ!」 京也が遠心力を生かして刀を横に振り、後方に向かおうとした小鬼一体を牽制する。だが彼の目の前にはまだ小鬼達が沢山居るのだ。棍棒や鋤が獲物とはいえ、攻撃されれば痛い。 「援護します」 前衛が取り囲まれないようにと飛び出したのは梓だ。巻き打ちを用い、確実に攻撃を当てていく。 「所詮は烏合の衆や! 膾に切り刻んだる!」 小雨が斬撃符を放った。その符は京也が切りつけた敵に命中し、カマイタチのような式が発動する。 「反対側は引き受ける」 後方へ抜けようとした小鬼に祁笙が攻撃を打ち込む。それに織り交ぜるようにして骨法起承拳が打ち込まれ、小鬼は身体を折った。 「あらあら、随分がっつきの良い♪」 からかうようにしながらカズラが呪縛符を放つ。小さな式が小鬼に絡みつき、動きを束縛する。 「アヤカシとはいえ小さいのと触手の組み合わせって言うのはナカナカ‥‥」 どうやら彼女には特殊な趣味があるようだが、それには言及しないで置こう。 「精霊よ彼の者を癒す力を‥‥」 前衛の負傷具合が蓄積してきている。空は風の精霊に祈り、神風恩寵でその体力を回復させていく。 「これで二体目だっ!」 蔵人が太刀を振りぬくと、小鬼は倒れ、そして瘴気となってその姿は消えていく。 「逃がしはしない」 先ほどまで相手にしていた人間――柳次との明らかな力の差を感じたのだろう、大木の反対側から様子を覗っていた小鬼達の様子が変わってきていることに御影は気づいた。こちら側では皆の適材適所といえる応対で、すでに半数の小鬼が姿を消していた。形勢不利と悟ったのか、御影の声に怯えたように小鬼は背中を向ける。 「逃がさないと言った筈です」 小鬼との距離を詰めた御影は、その背中を容赦なく切り裂いた。同時に遊撃にと追ってきた祁笙が拳を叩き込む。小鬼はふらふらしながらも反撃とばかりに武器を振るう。いくつか命中したが、その痛みよりも無抵抗のものを数の暴力で襲う卑劣さに対する怒りが、彼らを包み込んでいる。 「もう一匹縛っちゃうからよろしく〜♪」 カズラの符によって狙われた小鬼は、四肢から体幹に這うように絡められる式に抵抗できず、動きを奪われた。 蔵人は自然体で敵の武器を受け流し、そして隙を見つけては太刀を叩き込んでいく。あと少し。あと少しだ。 「卑しい異形の存在よ。大地に還るがいい」 静かに紡がれた梓の言葉に載せて、一匹の小鬼が消える。 「あとは畳み掛けるだけやな!」 戦況はこちらに有利とふんだ小雨が、斬撃符を投げた。同時に空も攻撃に転ずる。 「さあ、歪みに飲まれなさい‥‥!」 力の歪みによる歪みに体をねじられた小鬼は醜い声を上げながら地面に転がり、そして消えた。 「お前が最後の一匹だな。これで止めだ‥‥おとなしく斬られてろ!」 強力で強化された上でのスマッシュ。防御を無視した上段の構えから刀の重さを生かして全力で振り下ろし、敵の正中線に沿ってまっすぐ叩き斬る。 「ギャァァァァァァァ」 断末魔の叫びと共に、最後の小鬼はゆっくりと消えて行った。 ●弔い 「怪我した方はいませんか? いるなら無理をしないように」 空が怪我人を手当てして回る。回復を受けつつ、一同は大木を見上げた。 戦闘中に気づいた者も居たはずだ。だが、あえて口には出さなかった。 下方の大きな枝にうつ伏せにもたれかかるようにして倒れているその青年は、腕をだらりと下ろしていて。その指先からは、とめどなく血が流れ落ちて大木の根元に血だまりを作っていた。 衣服もそこかしこが破け、露出した腕や額にはあざのようなものも見える。鋤による引っかき傷もあった。 小鬼とはいえアヤカシ10匹に一般人が一人。集中攻撃をされたら打つ手はないだろう。だがその青年――柳次は何とか下枝に登り、そしてそこで力尽きたのだ。 「うちらがもっと早く駆けつけていれば、助けられたんやろか‥‥」 「いや‥‥元々生存は絶望視されていたんだ。五体満足に遺体が残っているだけでも、幸いだろう」 小雨の悲しげな呟きに、蔵人が答える。 「おろしてあげましょう」 空の提案に、京也と梓が協力して柳次の身体を下枝から下ろした。そして木の根元に寝かせる。 「あら、これはなにかしら〜」 カズラが目に留めたのは柳次の着物のあわせに押し込まれている縦長の包み。慌てて押し込んだのか扱いは雑に見えるが、良く見るとしっかりとした上質の布で包まれている。京也はその包みを手に取り、そして眺めた。 「これだけ、心の入り方が違うように思えます。おそらく誰か大切な人に渡すものだったのでしょう」 「この簪は‥‥素晴らしい出来だね。いい腕前の職人だったんだね」 横から覗き込んだ梓も、その出来に頷く。 木に登るときにこれだけはどうしても守りたかったのかもしれない。確認してみると、柳次の行李には慌てて開けて漁ったような跡があった。 「遺体を埋めよう」 遺体は大木の下に――意見の一致を見て御影が積極的に穴を掘り始める。他にも主に男性陣が穴掘りを手伝い、女性陣は遺品をまとめていった。 四半刻後にはもろもろの準備は整い、柳次の遺体はそっと穴に降ろされた。 「やはり、無念だったでしょうね‥‥ですが仇は私たちが討ちました。安らかに眠ってください」 京也は両手を合わせ、そして冥福を祈る。 「この木の下ならば、後にお参りに来る時に見つけやすいね」 梓は近くから野の花を見つけてきて、墓前に供えた。そして。 「今となっては遅いかもしれないけれど‥‥綾は柳次のことが好きだったんだよ」 もしも柳次の未練が綾にあるのだとしたら、その想いを知る事で未練を残さず成仏できるかもしれない。 「柳次さんの御霊に安らかな眠りを‥‥」 空の言葉に合わせ、一同は黙祷した。 行きとは違った爽やかな風が、彼らの頬を撫でていく。 気のせいか、その風が柳次の魂であるかのように思えた。 ありがとう、そう言っているかのように。 ●真実を知るか、真実から目をそむけるか 「知る事が良い事とは限りません‥‥それでも貴方は知る事を望みますか?」 街に戻ると、綾が入り口で待ち構えていた。もしかしたら一同が出発してからずっとそこに立っていたのかもしれない。 共に戻ってきた中に柳次の姿がない。それで全ては察しただろうが、念のために空が翳った表情で尋ねる。 「‥‥知りたい」 綾の声は震えている。だが、瞳は真っ直ぐ前を向いていた。 「残念ながら、助けるには間に合わへんかった‥‥」 「それは‥‥覚悟してましたから」 小雨の言葉に綾は弱々しく微笑んで。気を落さないでください、と小雨の手を握った。 「でも、遺体はアヤカシに喰われずに五体満足で埋葬できたから〜」 「そうですか‥‥ありがとうございます」 カズラの言葉に綾はほっとしたように小さく息を吐いた。 大切な人の最期を聞いているというのに、なぜか綾は落ち着いているように見える。 (「まだ、実感がないのでしょうね‥‥きっと、心が追いついていないのでしょう‥‥」) 京也は静かに、綾の背中を見守る。その背中は小さかった。 「アヤカシは全て倒してきた。これで墓参りにもいけるだろう」 「墓、参り‥‥」 御影の零したその言葉に、綾はびくんと反応をして。そして、その小さな肩が震えだす。 「墓‥‥あの人は、本当に死んでしまったのですね‥‥」 決まってしまった死を覆す事は出来ない。 「これは、柳次さんが死の際に大切に懐に抱いていた簪なんだ。恐らく最高の出来の品なんじゃないかな。これをどうしても渡したい人がいて。だからこれだけは守ったのだと思うよ」 梓は布からそっと簪を取り出し、綾の髪に優しく挿していく。 「彼の気持ちがこもった簪だね‥‥想いは一緒だったのかもしれないね」 「っ‥‥‥!!」 綾は口元を両手で覆い、膝を突いた。そして嗚咽を漏らす。 「柳次さん‥‥柳次さん‥‥好きだった、の‥‥」 その心の叫びに、一同は静かに耳を傾けていた。 「なんと言うか痛ましくてかける言葉も見つからんな。やはりアヤカシは許しておけんと認識したな」 少し離れたところで状況を見守っていた蔵人がため息をつく。するとそれにあわせるように祁笙も、空を仰いだ。 「閉鎖的だったあんな場所を抜けて正解だったな。これからもこの拳でアヤカシを倒して、今回みたいに理不尽にアヤカシに襲われない、アヤカシのいない世界になるようにしたいものだ」 アヤカシの居ない世界――。 理不尽にアヤカシに襲われない世界――。 そんな世界になったら、今回のような切ない悲劇は起こらなかっただろう。 いつの日かそんな世界が訪れる事をを信じて、開拓者達は前へと進んでいくのである。 |