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■オープニング本文 「おっか、おっかぁ、蝶や、蝶々や」 「あら本当。綺麗な蝶々ね」 母親に手をひかれた幼子が空を舞う翅を指差した。燐粉がキラキラと宙に軌跡を残す。 「綺麗だけど、珍しい蝶ね。こんなの見たことないわ」 ここらの蝶は白や黄色でシジミ貝程の大きさしかない。だがその蝶は大人の掌頬程の大きさで、何よりも特徴的なのは光を反射するように輝く虹色の翅だった。 最初は一頭しかいなかった蝶も、親子を包むように二頭、三頭とその数を増やした。呑気に蝶を追いかけていた幼子もやがては異常さに気付き、母の着物をぎゅっと小さな手で握った。 蝶が舞うたびに輝く粉が空気中に撒かれる。 キラキラと。 キラキラと。 何処か夢心地にさせる風景が親子の脳裏で警鐘を鳴らした。 このままここにいてはいけない。 子供の手を掴んで走り出そうとした母親だったが、足がもつれて転んでしまった。 (駄目、こんなときに転んでしまうなんて‥‥!) 己の迂闊さを呪って立ち上がろうとしたが、手にも脚にも力が入らなかった。転んだのではない、体中の神経が麻痺しきっていた。 (せめて、あの子だけでも‥‥) 子供だけでもどうにか助けようと、母親は懸命に首を動かした。だがその必要はなかった。母の胸元に飛び込むように、幼子も地面に倒れ伏した。 「あぁ‥‥何てこと‥‥」 何処から現れたのか数え切れない程の蝶々が、親子を包み込むようにキラキラとキラキラと飛びまわっていた。 村がアヤカシに襲われた。 哀しい事にこの類の依頼は珍しいものではない。 今回その村を襲ったのは虹色に輝く蝶のようなアヤカシだという。燐粉には毒があり、気付いたときには動けなくなるという。安静にしていれば数時間程で回復できるが、その間に喰われないという保証は無論、ない。 既に何人かの村人が蝶に喰われていった。――その中には幼子を連れた母親もいた。そして妻と子供を同時に亡くした男がどうしたかというと、現在行方不明である。避難先に妻子がいないことを知るなり姿を消した。 村外れにある炭焼き小屋、その中に一人の男がいた。 「絶対に敵はとってやるからな‥‥!」 男がぶるぶると斧を握り締めながら呟いていた。戦闘用の斧ではなく、木を切るために適した小さな斧だ。だが男はそれ以上強い武器を持っていなかった。 相手は蝶の姿をしている。闇雲に振り回しても効果があるとは思えない。このまま突っ込んでもアヤカシの餌になるだけだ。 「どうにか、どうにかあいつらを倒す方法を‥‥!」 いくら考えても思いつく事ではなかった。 |
■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
皇 輝夜(ia0506)
16歳・女・志
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
奏音(ia5213)
13歳・女・陰
谷 松之助(ia7271)
10歳・男・志
八神 静馬(ia9904)
18歳・男・サ
ハイネル(ia9965)
32歳・男・騎
ルヴェル・ノール(ib0363)
30歳・男・魔 |
■リプレイ本文 アヤカシに襲われた村人のため、街の道場が宿として開かれた。そこにいる村人達に命の危機はない。だが、慣れない避難生活や犠牲者の事を思い、彼らは憔悴しきっていた。 「疲れているところにすまないが、現在の村の状況がわかる者はいるか? それと他に人が残っているか知りたいのだが」 ルヴェル・ノール(ib0363)が村人達を見渡しながら質問した。くたびれた村人の間から一人、白い髭を生やした老人が出てきた。どうやら彼が村長らしい。 「急いで逃げてきましたからなぁ‥‥できるだけ大勢に避難は促しました。ですが既に何人かは‥‥村にはもう人間は、いえ、一人だけいるかもしれません」 「それです。村人が一人家族の敵を討つために村に戻ったと聞きました。彼が身を潜めそうな場所に心当たりはありますか?」 ルヴェルと同行していた八神 静馬(ia9904)が村長にたずねた。 「‥‥村外れの炭焼き小屋にいるかもしれません。あそこなら薪割りの斧もありますから。ですが、彼は敵を討ちに出ましたからな‥‥いつまでも同じ場所にいるとも思えません」 村長と村人の間に諦めの表情が浮かんだ。とうに死んでいると思っているのだろう。 「もし彼の家族の形見があったら、俺に預けてくれませんか?」 「形見ですか‥‥」 静馬の頼みにそんなものがあっただろうかと村長は首を捻った。 「それなら私が」 会話を聞いていた一人の女性が進み出た。その手にはきれいにたたまれた布がある。 「避難の途中で見つけました。田んぼのあぜ道の中にこれだけが‥‥」 それは質素な女と子供用の着物だった。 静馬はそれを無言で受け取り、頷いた。 「今更の話だがアヤカシってなぁほんとに芸が細かいっつーかなんつーか‥‥」 酒々井 統真(ia0893)が聞いたアヤカシの感想を呟いた。開拓者達の目の前にはいくつかのわらぶきの小屋が見えてきている。遠目からは穏やかな農村に見えるが、今もアヤカシが取り囲んでいるらしい。 「綺麗なもんにはぁ毒があるってぇか‥‥ま、蝶の形でぇもアヤカシだし、綺麗なもんじゃぁないがぁな」と、犬神・彼方(ia0218)も統真の言葉に続いた。そしてにやりと笑い 「さて統真ぁ、相手は数ばかりのアヤカシと聞く。ここはどっちが早く多く倒せるか勝負してみねぇか?」などと勝負を持ちかけてきた。 「お、いいね。彼方には世話になってるが‥‥勝負と来たら話は別だ!」 「とーま、とーま! とーまがしょーぶするなら、私は何をすればいいの?」 統真の朋友である人妖のルイが、ぴょっこりと跳ねた。 「んー、そうだな。人魂で周囲を偵察してきてくれねぇか?」 「わかったわ!」 ルイの体が淡く光り、小鳥の姿へと変化した。 「私ががんばるんだもの、不意打ちなんて受けてたら承知しないからね!」 小鳥は主である統真にはっぱをかけ、村の上空へと飛んでいった。 「把握、彼方と統真が同行するのか? 移動、私はグロリアスと共に南から行きたいと思う」 「それには俺がつき合おう」 ハイネル(ia9965)の言葉に皇 輝夜(ia0506)が申し出た。相棒の誇鉄は輝夜が誰かと行動を共にするのは不満らしく「ぐぅ」と面白くなさそうに喉を鳴らした。麻痺という言葉を龍に説明するのは難しすぎる、輝夜は「これも任務だ」と誇鉄の背を撫でて説いた。 「ならば我は西から行動しよう。単独行動は避けたい。誰かきてくれるか?」 谷 松之助(ia7271)が同行者を求めた。 「私がしばらくしたらそちらに向かおう。まずは村の中にいるという男を捜したい」 ルヴェルの言葉に松之助が少し考え込む 「それまで独りか。少し辛いな」 「お互いの姿が見える距離にいよう。男がそちらにいないとも限らない話だからな」 「俺も行きますよ。早く見つけて早く合流すればいい。それに渡さなきゃいけない物があるんです」 ルヴェルの言葉に静馬が同行を告げた。その手には何かを包んだ物がある。 「剛よ、久々の戦闘だな」 松之助が剛の背を撫でると、甲龍はうれしそうにぐるぐると喉を鳴らした。 村の北にはいくつかの木の小屋が並んでいた。慌てて飛び出したのだろう、戸は開け放たれたままだし履物のいくつかが地面に転がっている。 生きていないものには興味はないのか、蝶が何頭もその上を命を求めてさまよっていた。 「よっしゃ! まず俺からだぜ!」 腕をぶんぶんと振り回しながら統真が宣言した。 目の前には虹色の翅を羽ばたかす蝶がいる。光を反射する不思議な色は美しかった。美しいが、どこか寒気を覚える美しさだ。燐粉で麻痺してしまうと知っているからかもしれない。粉を吸い込まないために、統真と犬神は口を布で覆っている。 「いくぞっ、空波掌!!」 統真は力強く構え掌を前にと突き出した。だが何も起こらない。 「? どぉした、統真ぁ?」 犬神が統真の仕草に首を傾げた。 「‥‥活性化、し忘れた‥‥」 「ぶははははははははっっ!!」 「‥‥笑うなっ!」 遠慮もなく笑う犬神に、統真が顔を真っ赤にした。 「わりぃ、わりぃ。そんなこともたまにはあるってなぁ」 愛しい子供をあやすように、犬神が統真の頭をぽんぽんと叩いた。 「まぁ、勝負は俺の勝ちってことで」 「まだ決まるもんか! 大物だろうが小粒だろうが、この拳でぶち抜くまでだ」 「だめだ。泰拳士のお前が前で麻痺されちゃ、さすがに護りきれねぇ。親としてのわがままを聞いてくれ」 「‥‥わかったよ」 前に出ようとした統真の足が止まった。犬神の朋友の黒狗が統真の背後に位置した。いざというときに羽ばたきで護るつもりのようだ。 「さぁて‥‥犬神一家の長の技ぁ、とくとご覧あれ」 陰陽の符を取り出しながら犬神がにやりと笑った。 「切り刻めやぁ、斬撃符!」 ザシッッ!! 犬神の放った符が真空の刃に切り刻まれた――違う、符が真空に成ったのだ。巻き起こった旋風が蝶達を巻き込んで切り刻んでいった。燐粉はアヤカシの一部だったのか、幾分か空気が浄化されたような気がする。だが蝶は多頭に飛び回っている。空気もまだ濁ったままだ。 「さあ、俺の力が尽きるのが先かぁ、あんた達の命が尽きるのが先か‥‥勝負しようぜぇ」 楽しそうに、それは子供のように犬神は笑った。 村の南には田んぼが広がっていた。ここを散歩していた母子は姿を消した――いや、喰われてしまったといった方が正しいだろう。 獲物はとっくにいなくなっているというのに蝶の姿をしたアヤカシが飛び回っている。 「成程、貴様らが母子を喰ったというアヤカシか」 ハイネルの眉間に皺がよった。普段はあまり見えない感情が浮かんでいる。嫌悪だ。 「敵の個々の能力は低いが、塵も積もれば山となる‥‥では、先に行かせてもらうぞ。誇鉄!」 輝夜は朋友、誇鉄の背に乗り号令をかけた。答えるように誇鉄は高く鳴き空へと舞い上がった。輝夜の手には大きな布の塊があった。村の中で拾ったものだ。 「ハッ!」 短い掛け声と共に輝夜はその中身を地面に向かって放った。目の細かい網だった。恐らく村の誰かが畑仕事に使うつもりだったのだろう。よく見ればじっとりと何かで湿っている。水、いや油のようだ。何頭ものアヤカシが逃れる術もなく網に捕らわれた。ばさばさともがいているのが輝夜の位置からはよく見えた。 「ただの蝶なら逃す情けもかけるが、アヤカシではな。誇鉄、思い切りやれ」 主人の命令に従い誇鉄が息を吸った。次に吐かれた息は炎の渦だった。網に捕らわれたままの蝶達は逃れる術もなく、ただ炎にまかれた。 「そのまま塵へ還れ」 情けもなく容赦もなく輝夜は冷たく言い放った。 「感服、よくやるものだ」 ごうごうと燃えさかるアヤカシを見ながらハイネルが呟いた。 「然し、見ているだけにもいくまい。行くぞ、グロリアス」 グロリアスは高く鳴いて返事とした。主人のハイネルと同じ気持ちであるらしい。 「では‥‥参る」 すっと両の瞼を閉じたハイネルの体が淡く光った。次にハイネルの眼が開かれた刹那、俊敏に手から手裏剣が放たれた。 ザシッ! ハイネルの放った刃の前に一頭の蝶が瘴気に還った。だが一頭だけだ。相手の数は多すぎる。 「難航、これでは倒した気になれんな」 アヤカシも同じ気持ちだったのだろう、今まで緩やかに飛んでいた蝶達にざわざわと波立つような動きがあった。瞬間。 ――ゴッ!! 蝶達はまるで波のように燐粉を撒きながら突貫してきた。 「オーダー、グロリアス。羽ばたけ」 「きゅいッ!」 ハイネルの命令にグロリアスは答え、ばさばさと力強く羽ばたき始めた。巻き起こった突風に燐粉が押し返される。多くの蝶達は粉と共に逃げてしまったが、数頭の蝶達がその場に残った。 「好機、逃すわけにはいかない」 ハイネルが武器も持たずに走りこんだ――否、隠していたのだ。相手が丸腰ならばと油断しきっていたアヤカシ達が何頭も同時に斬り払われた。無論その後に追撃を受けないためにもすぐにハイネルは後ろに退いた。 「迅速、早々に決する必要があるな」 まだ残る多くのアヤカシを見ながらハイネルは呟いた。彼の指先には僅かに痺れがあった。 村長から聞いた炭焼き小屋は村の西より少し離れた場所にあった。 駿龍の紫苑から降り立った静馬が小屋の戸を開けた。だがそこには誰もいなかった。地面がむき出しになっている床には出来たての足跡があった。 「命を捨てるには早すぎる」 小さく舌打ちをして静馬は外に出た。 「小屋があそこならこの辺りにいると思いたいが‥‥」 ルヴェルがラエルの背の上から村全体を見渡した。少し入り込んだ民家が立ち並ぶ場所では松之助が戦っているのが見える。普通の生き物が姿を消しきっているなか、同じように村の空を飛んでいる小鳥は統真の朋友のルイだろう。 そして視界の片隅にあるものが見えた。最初は蝶の数が多すぎて虹色の霧にしか見えなかった。だが一端に人の肌の色をしたものが目に入った。 「! あそこか!」 ラエルの背を叩きルヴェルはその場に急行させた。大きな甲龍の羽ばたきにその場にいた蝶達が慌てるように散らばっていった。そこには膝をつきながらもまだ意識を失っていない男がいた。抗い続けたのだろう、ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返していた。炭焼き小屋に向かっていた静馬もその場に追いついてきた。 静馬はその場にいた蝶の上に油を撒き、紫苑に命じた。 「今だ、焼き尽くせ紫苑!」 ごうっと吐かれた炎に蝶達は掬われ燃えていった。そのまま静馬は男の近くに降り立って安全を確認した。 「やらなければ‥‥一頭でも、多く、命と引き換えにしても‥‥!」 「敵討ちの他にやる事があるだろ、お前まで喰われたら誰があの二人の魂を弔ってやるんだ?」 這ってでも前に進もうとした男の斧を、静馬は奪い取った。抵抗するなら払うつもりだったがそんな力も残っていないようだ。 「だが、あいつら、俺の妻を、子供を‥‥!」 静馬は斧の代わりに懐に抱えていた包みを男に押しやった。それは男の家族の着物だった。包みの中身を見せると、男にもそれが何なのか理解できた。 「仇は俺達が必ず討つ、だからお前はこれ以上二人を悲しませるな」 「ああ‥‥うぁ、あああああっっ!!!!」 静馬の言葉に男の涙腺が決壊した。ぼたぼたと手に持つ着物の上に涙の染みが出来た。泣く男に肩を貸しながら、静馬は炭焼き小屋へと戻ることにした。 残ったルヴェルが蝶を数頭踏み潰した。仲間を殺されたことがわかるのか、蝶達がルヴェルを取り囲むように飛び回りはじめた。 「さあ――こい」 ルヴェルはラエルと共に飛んだ。 ――舞台を少し村の内部へと移そう。 そこでは松之助が朋友の剛と共に戦っていた。 「剛よ、吹き飛ばせるか?」 きゅうと鳴いて返事をした剛が力強く羽ばたいた。燐粉が風と共に押し流される。取り残された蝶達を松之助が流し斬りで一断した。 「しかし、数が多すぎるな‥‥」 流れてきた額の汗を手の甲で拭いながら松之助は呟いた。剛には硬質化で防御力を高めてもらっているし、麻痺の粉は羽ばたきで押し返している。 だが先程から松之助の指先から感覚が消えうせていた。近くにいるはずのルヴェルが遥か遠くに感じる。 「大丈夫か!?」 異変を察知したのか、ルヴェルが松之助のそばにやってきた。ルヴェルは男を取り囲んでいた蝶をひきつけていた。蝶の姿であるはずなのに、鳥のような速さで向かってきている。集団であるからその光景はぞっとさせる。 「ああ、何とか。汝はどうだ?」 「私も先程から指先が冷たい。だがこのまま喰われるわけにはいかない‥‥!」 シュッとルヴェルがロッドの切先を蝶の群へと向けた。 「全てを凍てつく吹雪となれ、ブリザーストーム!!」 ルヴェルの詠唱と共に魔術の雪煙が蝶達に襲い掛かった。吹き荒れる雪と氷の嵐に蝶達に抵抗する術はなかった。ぼたぼたと地面に堕ち、そのまま塵の姿となった。 周囲にいた蝶がいなくなったからか、松之助の指に僅かに感覚が戻ってきた。 「村にいた人は炭焼き小屋に寝かせてきました」 ばさばさと羽ばたき音を響かせながら紫苑が降りてきた。その背には静馬が騎乗している。 「よかった、間に合ったのだな」 ほっと松之助は安堵の息を吐いた。 「さて――俺にも活躍の場面はあっていいですよね?」 急に険しい眼差しで村の方向を睨みつける静馬。彼の視界に新しい蝶の姿が見えていた。それは虹色の蝶を引き連れながらも明らかに違う彩色を放っていた。虹という色を全部混ぜたらあのような毒々しい色になるのではないか。大きさも他の蝶とは違い一抱えもありそうな曲者だった。 ルヴェルが多くの蝶を一掃したので出てきたのだろう。仲間が倒されないと出てこないくらいの用心深さを兼ね備えている。 「女王蝶ってとこかな」 すうっと静馬は息を吸った。 「――――ッッッッ!!!!」 轟っと普段の彼から出たと思えない雄叫びが発せられた。挑発にのった蝶達が静馬を標的と見定め向かってきた。 好機を逃すわけにはいかない。 「紫苑、ソニックブレードで吹き飛ばせ!」 ガッと紫苑の翼が大きくはためいた。そして前へと出た刹那、衝撃波が巻き起こった。蝶を、アヤカシを全て巻き込んだ風となった。 こうして村にいたほとんどの蝶は開拓者達の手によって駆逐された。蝶がいなくなれば麻痺の効果は消えるようだ。ぐったりと身を投げ出していただけの男も今は自分の足で立てるようになった。だが男は家族の着物を抱きしめてすすり泣いていた。 「俺だって両親を目の前でアヤカシに食われたぁんだ、憎い気持ちもよく分かる‥‥が、死ににいくもんじゃぁない。きっちり確り、憎い蝶どもはぶっ潰したから‥‥あんたぁは自分の身を大切にしろ。じゃねぇと、また大事な奴を失ったって泣く奴が居るってわかるだぁろ。こぉいうのは確りと上から見られてるもんさね‥‥な?」 犬神の不器用ながらも慰めの言葉だった。 「はい、はい‥‥」とただ男は頷くことしか出来なかった。 時は既に夕刻、茜色の空は虹色のアヤカシよりもずっと美しく、そして哀しかった。 |