|
■オープニング本文 この学園には一つの伝説があるの。 校舎裏にあるもふらの像。その前で告白すると、二人は永遠のカップルになれるんだって――。 ただしどちらかがヤンデレになる。 「全然解決してないじゃないですかァーッ! やだー!」 教頭は思わず叫んでしまった。 「ええーまっじでー。ちょー謝るからさぁメンゴメンゴ☆」 髭のデブのくせに理事長がウィンクしながら笑った。正直キモい。 「というわけで」 「というわけでじゃねぇよ、このデブ」 教頭がすかさず突っ込みをいれた。関係ないが禿である。 「何か言ったかね」 「いえ何も」 「我が校のサッカー部はそこそこ強い。だがいつも予選敗退してしまう。なぜならサッカー部は人気がある。だがこの学校で人気があるということは、イコールヤンデレに好かれるということになってしまう! だからせめて! 春の大会までは心身共に無事でいてもらいたい! そしてサッカー部員以外はどうでもいい!」 教育者にあるまじきことを口走る理事長であった。 「あ、ちなみに禿教頭。三ヶ月間給料なしね」 「メタボこじらせて死ね!!」 ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
杉下 香澄(ia0152)
16歳・女・巫
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ |
■リプレイ本文 「という涙なしには語れないかなしいかなしーい伝説がこの学校にはあるのだよ」 理事長はハンカチで流れてもいない涙を拭きながらもふら像の伝説を語った。 「伝説っちゅうか、たちの悪い呪いやろ、それ。カップルになる代わりにヤンデレってどんだけやねん」 とりあえず天津疾也(ia0019)はどん引きしていた。 「あ、ちなみに部員以外はどうなってもいいからね☆」 気に入ってるのか理事長はウィンクしながら「キラッ☆」などと右手の拳をかわいく、少なくとも理事長はかわいいつもりで顔の横に添えた。 「ちっともかわいくないっちゅーねん!」 疾也の張り手突っ込み! 理事長は派手に吹き飛んだ。 「ブヒィ!」 豚のような悲鳴をあげた理事長は杉下 香澄(ia0152)の足元に倒れこんだ。香澄の心まで凍りそうな絶対零度の視線が理事長にびしびしと突き刺さる。 「任せてくださいブタ‥‥もとい理事長、ハゲ‥‥じゃなくて教頭。私の知識と計算があればお茶の子歳々です」 香澄は手に持った本をぱたりと閉じた。背表紙には『ヤンデレ入門』なる不穏なタイトルが踊っている。 「情報収集は完璧です」 冷静に呟く香澄の足元、ブタ理事長が「ブヒィありがとうございます!」と罵りと見下しの礼をブヒ叫んだ。 「んー‥‥部員が安全ならいいんだね? 向かって来るヤンデレさん達については『対象外』と。それはそれはとても楽しいね‥‥!」 本当に楽しそうに蒼井 御子(ib4444)はにっこりと笑った。怖い。その笑顔が怖すぎる。理事長が何かの気配を察知して見えない尻尾を振っていた。 「その本、後で貸してもらえませんかね? 参考にしたいんです」 各務 英流(ib6372)が香澄の手にある『ヤンデレ入門』を指差しながら言った。ちなみに英流の手には恋愛小説がある。英流曰く 「今回は運命を感じる人は居ないです‥‥けれど、他の人の運命の出会いを護る為に戦います」 というわけで運命の出会いを護る資料らしい。 「おや‥‥あなたも部員の誰かを狙っているのですか?」 ふふ、とどこか冷たい笑みで香澄は笑った。 「んー、私の場合あなたとは逆ってところです」 「なるほど‥‥それは協力しないといけませんね」 うふふふふと二人はお互いに顔を見合わせて黒く笑いあった。 嵐の予感を感じたのか理事長室の片隅では教頭がストレスで薄さが進行しつつある頭を抱えてガタガタ震えながら何かに命乞いをしていた。 朝。普通の生徒ならのんびりと登校する時間だが運動部は違う。朝の練習のために通常よりも早く登校しなければならないのだが。 「くそッ、三十分も時間を飛ばすなんて‥‥! 機関め、汚い真似をする!」 雪原 敦志。今朝練に遅れそうになって全力疾走している僕は舵天照学園に通う普通のサッカー部員。強いて違うところをあげるとすれば四重人格で常に何かと戦っている(妄想をしている)ってとこかナー。 彼の通常運転はこんなだ。つまり周囲に気を向けるわけもなく、目の前に誰かがいることに気付いたのは鼻の先数センチに来てからだった。 ドンッ! 「きゃっ!」 誰かと正面からぶつかった衝撃。続いて聞こえる可愛い悲鳴。さすがサッカー部員といったところか、ぐっと踏み込むことで倒れることはなかったのだが。 「くっ、機関のてさ、き‥‥‥‥青?」 目の前にいる刺客を睨みつけようと視線を動かした先、そこに見えたのは ぱんつ。 春の空のような水色のぱんつだ。 「あ、ご、ごめんっ! だいじょうぶ!?」 さすがに恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしながら雪原はぶつかった相手に手を差し伸べた。上目遣いの視線が男とは違う細い肩幅がか弱い印象を与えて、雪原は知らず胸をどきどきと高鳴らせた。 「ありがとうございます」 「ぼ、僕部活があるから!」 礼を言う女子生徒を残し、雪原は自分の顔を見られないように隠しながら慌ててグラウンドへと逃げた。 後に一人残された女子、香澄は 「計画通りです」 とリンゴ好きの死神でも連れていそうな黒い笑みを浮かべていた。 朝のグラウンドでは運動部の生徒達がそれぞれに練習している。 もちろん一番人気で理事長期待のサッカー部はどうどうとグラウンドの中心を使っている。 「なんやかったるいわ‥‥さぼってもええかな?」 「ダメだよー、ただでさえ人手が足りないんだから」 あくびをしながらグラウンドに立つ疾也を御子がたしなめた。 「でもそれなら――確実に安全な方法があるよ。試合まで、みんな別のところに隠す、とかね。例えば地面の‥‥」 そう言いながら御子は体育倉庫から持ってきたスコップを掲げた。 「さすがに土に埋めたらあかんやろ」 「え? 駄目? だよねー」 疾也の軽いツッコミに御子はあははと笑った。「ちぇっ」と小さく呟いていたのは聞こえなかったことにしよう。 突然、二人の目が鋭いものになる。第三者がグラウンドに入る気配だ。 第三者、それは―― 「ハハハ、順調のようで何よりだ」 理事長だった。 「このグラウンドから出てけ、デブ!!」 御子の斧が理事長目がけて大きく振りかぶられた! 確かにさっきまで持っていたのはスコップでそんなものはどこにも見当たらなかったはずなのに。 「ぶぼッ!」 派手にぶっ飛んだ理事長はさすがに叫んだ。 「何をするんだね、君!」 「うん? 何で自分を殴るのか? 言ったハズだよー。出る者入る物問わず、ってね」 「‥‥そーいうことも聞いたよーな‥‥え、でもデブって名指しで‥‥」 その時もう一人、グラウンドへ向かってくる者がいた。 「すまん! 妹の登校を陰からじっくり見守ってたら遅れてしまった!」 危ないことを爽やかに言う人気部員の一人、鬼山だ。 ブンッ! 理事長を殴り飛ばした斧が半円を描き鬼山の頭に振り下ろされ――‥‥! 「おっと危ない危ない」 刃は鬼山の額寸前でぴたりと止まった。 「怪我はないから大丈夫だね!」 何が大丈夫なんだろう、という気もするがあえて突っ込む気もしなかった。 一方その頃校舎の中では。 「いっけなぁーい、朝錬がはじまっちゃう、急がないと!」 ごついカメラを片手に廊下を走る女子生徒。どこかで見たような風景である。 ドンッ! 「きゃっ!」 そしてやはり何者かとぶつかった女子生徒は思い切り後ろに倒れこんでしまった。 「大丈夫? 怪我は無かったかい」 女子生徒にそっと差し伸べられる手。まるで美女のような中性的な顔立ちに学ランがストイックさをかもし出している‥‥まるでというか本当に女である英流が男装しているだけだったりする。 だがそんなことも知らない女子生徒はぽーっとしながらも差し出された手を握りしめて立ち上がった。 「け、怪我はありません」と女子生徒。 「そうよかった。君みたいな可愛い子に怪我をさせたら罪の重さに胸が張り裂けてしまう。――ああ、でも怪我をしてたら君を看病して独り占めすることができるのかな‥‥?」 つん、と英流の人差し指が女子生徒の額を突いた。なお事前に読んだ恋愛小説のシーンそのまんまである。 「なぁんて冗談だよ。でも昼休み暇かな? お詫びに学食を奢りたいんだ」 英流は女子生徒の右手を取り、耳に囁いた。 「いいかい?」 「は、はい!」 「そう、よかった。それじゃあ昼休みに食堂の前で」 キラキラと何かの粒子を出しながら英流は笑い、女子生徒に手を振りながら別れた。ぼんやり見送る女子生徒と十分に離れたことを確認し、英流は深々とため息を吐いた。 「ファンの子達も、運命の素晴らしさを知ればヤンデレから立ち直るハズ‥‥」 ぐっと拳を強く握りしめ、英流は次のターゲットを探しに行くことにした。 朝練も終わり部員が休憩ともなると差し入れに来る生徒が多い。遠回りに女子生徒達が黄色い声援を浴びせてくる。傍から見ればリアルが充実した世界だろう。 「爆発すればいいのに‥‥!」 依頼をしたはずの理事長がハンカチを噛み締めていた。 「誰か妙な真似せぇへんとええけど‥‥」 普通に見れば微笑ましい光景を睨みつける疾也。練習の際には何人かのヤンデレがグラウンドに忍び込もうとしたがすべて御子の斧により吹き飛ばされた。おかげでグラウンドの遠くで唸り声をあげるヤンデレが数匹いるだけである。 「雪原君、お疲れ様です。はい、タオル」 「君は誰だ? すまない、今の私には君とぶつかった記憶はないようだ」 タオルを差し出す香澄に雪原は頭を振って告げた。 「うふふ、わかってますよ。レモンの蜂蜜漬けなんていかがですか? あーん」 香澄は雪原のセリフに突っ込むことなどせずにフォークに刺したレモンの蜂蜜漬けを差し出した。 ここで雪原視点を説明。 相手が食べやすいように屈んでいる制服の襟元から香澄の形のいい白い胸が、胸の谷間がよーく見えていたり‥‥ 「ぼ、僕レモンよりマシュマロの方が‥‥」 「ちょっとあなた! そんな脂肪の塊を見せ付けてどうするつもりなの!」 いつの間にか近くにいた女子生徒が香澄に罵声を浴びせてきた。さすが女子、どういう魂胆で屈んでいたのかお見通しだ。恐ろしい。 「脂肪なんてひどい‥‥!」 よろりとショックで怯えた(フリをした)香澄は隣にいる雪原の腕にぎゅっと抱きついた。無論腕に胸が密着するようにである。柔らかくほどよい弾力の物体が一枚の布越しに触れる感触! 「そそそそその、けけ喧嘩はよくないと思うよ?」 「そんな雪原君! そんな女に惑わされてしまって‥‥ううん、いいの。雪原君は純粋だから、ね‥‥すぐにその女の毒気を抜いてあげる!」 どこかから取り出した鈍色の包丁を構える女子生徒、いやヤンデレ達。 「包丁で毒なんか抜けるかい! つか、あかん!」 成り行きを見守っていた疾也は走っても間に合わないと判断し、隣にいた理事長の襟首をむんずと掴んだ。 「理事長バリアー!!」 「なんですとー!?」 ヤンデレ目がけて飛んでいく肉の弾、いや理事長。ヤンデレ達は理事長と一緒にぽぽぽぽーんとボウリングのように弾け飛んだ。 「え? サッカー部員以外はどうでもいいと本人がいってたやん」 何か言いたげな部員達の視線に疾也は朗らかに笑った。 だがチャンスとばかりにグラウンドを囲んでいたヤンデレ達が突貫を始めてしまった。 「私と一緒に死んでー!」 「一億と二千年後に会おうよ!」 「言成死ね!」 いろんな意味で危ないセリフを口々に叫びながら突っ込むヤンデレ達。対してこちらの護衛は二人。 「ってこのままじゃあかんな‥‥おい円、餌だ! 鬼山、校門に来ていた妹が誰かに絡まれていたで」 「わん!」 「なんだと!?」 疾也はおにぎりを遠く投げつけながら叫んだ。おにぎりと言葉に反応した二人が猛スピードでグラウンドから離脱していく。 「バリアーというかミサイルだよね!」 あははと笑いながらぶんぶんと斧を振り回す御子。ひゅんひゅんと飛んでいくヤンデレ達は断末魔の声をあげながら瘴気に還った。最早人間でもなかったらしい。 「だめだよぉ、女の子には優しくし‥‥うッ!」 御子を止めようとした市ヶ谷のみぞおちには疾也の無言のワンパンチがズドム! と入った。 ――こうして部員だけには大した怪我もなくヤンデレ達は駆逐された。 「ふー。でもこれだとキリがないね。合宿に行くことを提案してみるけど、どう?」 グラウンドの端のバスケットゴールに汚いケツを突っ込んでいる理事長はこくこくと頷きその案に同意した。 さてサッカー部は合宿へと旅立ってしまったわけだが。 地の果てまで追いかけるかと思ったヤンデレ達はそうでもなかった。 「きみみたいな素敵な子と出会えて嬉しいよ。また会いたいな」 あの日ぶつかった女子生徒に学食を奢り、別れ際に英流は囁いた。もちろんヤンデレ仲間のことを聞き出してからだ。 ある時は図書館にて。 「この本かい?」 本が取れなくて困っていた女子生徒に高いところから英流は微笑みながら目的の本を手渡した。ちなみに台座を使っていたがシチュエーションに惚けてしまった生徒はまったく気付かなかった。 英流は女子生徒に向かって柔らかく微笑んだ。 「実はボク、文芸部に入りたいって思ってるんだ」 またある時は盗撮するために望遠鏡を購入した女子生徒に囁いた。 「星を見たいな‥‥すてきな女の子と一緒にね」 誤解のないように言っておくがこれはすべて 「これは彼女達の人生も救うことになるのです」 と固く信じた英流の信念により引き起こされている。そんな趣味なんてないはずだ。 おかげでヤンデレ達はどこかに合宿に行ってしまったサッカー部よりも幻の王子と呼ばれ始めた男装の英流を探すことに夢中になってしまった。 今日も舵天照学園では血眼になったヤンデレ達が包丁と麻酔銃を片手に王子様をハンティングするために彷徨っている。 「あの方は風紀委員がいいと言ってましたわ!」 「いいえ、あの方は必ず茶道部に来るはずです!」 そんな殺伐としたヤンデレ達の横を通常の制服を着た英流が通り過ぎた。 「男装は完璧でしたが‥‥完璧でよかった」 英流は自分が女であることを改めて幸運に感じた。 合宿には部員の他には護衛の依頼を受けた生徒だけが同行を許された。 つまりヤンデレの襲撃もなく香澄は雪原にべたべたと付きっ切りになり‥‥そして合宿最終日。 「四重人格でも関係ない‥‥貴方の全部が好きなの!」 合宿先の裏庭に雪原を呼び出した香澄は大胆な告白をした。 「え、えっとその僕、サッカーあるし‥‥」 「そんなこと言わないで!」 むぎゅう! 戸惑う顔を見せた雪原に香澄は思い切り抱きついた。不自然にも雪原の顔は香澄の胸と胸の間に挟まる位置に落ち着いた。 (情報によれば男は乳好き。これで上手く行く筈) またも「計算通り」と暗黒な微笑を浮かべる香澄。乳の間で幸せ死という名の窒息をしかけている雪原に気付くのはもう少し後のことだ。 というわけでサッカー部員は試合開始まで無事であったが試合結果に関しては散々だったらしい。部員はそれぞれ「乳が」「リア充氏ね」などと意味不明な供述をしているが依頼外のことなので関係ないはずだ。 そして学園の裏、もふら像の前。 「これかぁ‥‥うん。このままだと結ばれないし像のせいでヤンデレがなんてのももふら像にも迷惑な話だからどうにかしないとね」 御子が何やらもふら像の前で呟いていた。 「像と人だとどうもなれないのは分かっているから仕方ないけどあぁもしかしたら来世では変わるかもだねそうしたら今ここにある像は駄目だねこれだとどうしようもないこれは無かった事にし――」 無意識に斧を振り上げかけ、はっと御子は何かに気付いた顔を見せた。 「危ない危ない。変な物でもついてるのかな? これは」 大丈夫! すべて四月のバカ騒ぎだからね! |