【花祝】白梅の里の婚礼
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/23 21:45



■オープニング本文

 梅雨は、梅の実を摘む季節。ここは朱藩の田舎の村。
「親父、なんで無茶したんだ!」
「うるせい! ‥‥痛っ」
 裏山の頂上には、白梅の木がたたずむ。実摘みに行った青年が裏山から戻ってみれば、父親は身体を痛めて寝込んでいた。
「梅の実を摘むぐらい、俺がやるのに。山から戻るまで、待てよ!」
「お前が、きちんと帰ってくる保証がないからだ。二年も音沙汰なしに、旅三昧だったくせに」
「ぐっ‥‥」
 頭を抱えて、言葉につまる放蕩息子。布団の上ですごす父親に、返す言葉もない。
 村の入口にも、村の家々も白梅の木がある。庭の梅の実を摘もうとして、父親は木から落ちたらしい。木のてっぺんから。


 翌日。山から流れてくる小川で、野菜を洗っていた村娘。隣でいくつも石を投げる青年を、見上げた。
「お父さんの具合は、どうなの?」
「‥‥最悪だ。もう二度と、歩けないかもしれん」
「そう‥‥」
 村娘は目を伏せる。青年の投げた石が、小川の中に沈んだ。
「あ、姉ちゃん、清兄ちゃん!」
「あら、良助」
 村娘が振り返れば、カゴを背負った少年が手を振っていた。二人に、駆け寄ってくる。
「清兄ちゃん、おじさんの体はどう?」
「‥‥大丈夫だ、すぐに治るさ」
「そっか。お父さんが、すごく悪いって言うから」
「昨夜のお父さんとお母さんの会話を、黙って聞いていたわね。 早く寝なさいって、言ったでしょ?」
「えっと‥‥。僕、お使いの途中だから、またあとでね!」
「良助、待ちなさい!」
 村娘は、弟の行儀の悪さをしかった。旗色の悪くなった少年。青年との会話もそこそこに、逃げ出す。
「おじさん、姉ちゃんと清兄ちゃんの婚礼に間に合うよね?」
「ああ、心配するな」
 遠くから叫ぶ少年。青年の答えに手を振り、笑顔で二人と別れる。
 十八歳の青年と、同い年で幼馴染の村娘は、もうすぐ祝言をあげる予定だった。

「清君」
「‥‥良助に、本当の事は言えない」
「そうだけど‥‥」
 見上げれば、こわばった表情の青年の顔。村娘は、再び目を伏せる。
「‥‥花梨に頼んでみる」
「花梨さんに?」
「花梨は開拓者だ。なにか治療できる方法を、知っているかもしれない」
 普段は神楽の都に住む、青年の従妹の名をあげる。武天の道場の娘で、駆け出しのサムライ。


 その日の夕刻。神楽の都の開拓者ギルドに、息を切らして飛び込んできたサムライ娘。
「至急、お願いしたい依頼があります!」
「娘さん? とにかく受付へ」
 入り口で叫ぶサムライ娘を、顔見知りのベテランギルド員は受付へ引っ張った。
「どうしたんだ、そんなに慌てて?」
「弥次さん! 治癒の使える開拓者を、派遣してもらえませんか?」
「治癒? けが人がいるのか?」
「伯父が、足を折ったらしくて‥‥。従兄の婚礼までに、どうしても治して欲しいのです!」
「婚礼? 先日の二人か!」
「はい。あと五日しかないので、お願いします!」
 ベテランギルド員は、祝言をあげる二人を知っていた。婚礼衣装の反物を買うために、理穴の呉服問屋を紹介した縁。
「治癒と言ってもな‥‥。期間が限定されれば、適任者が見つかる可能性も低くなるぞ」
「そこをなんとか!」
「一応、募集をかけてみよう‥‥期待はできんぞ」
「‥‥分かりました」
 ベテランギルド員の口調は渋い。ぐっと、耐えるサムライ娘。
「‥‥薬草では足りんな、きっと」
「‥‥?」
 ぶつぶつと何かを呟き、思案するベテランギルド員。サムライ娘は、不思議そうに眺める。
 元開拓者のベテランギルド員には、少し心当たりがあった。
「娘さんは、なに薬草以外の薬を持っているか?」
「薬? あっ、符水が一個だけあります!」
「一個か‥‥。すまんが、それを預かってもいいか? 治癒の使える者が現れなかったときは、代わりに届けて貰うように手配しておこう」
「はい、構いません。従兄のためですから」
 体力の回復する薬の入った竹筒を、サムライ娘は懐から取り出す。ベテランギルド員は、大事そうに受け取った。
「娘さんは、一緒に行かないのか?」
「行きたいのは山々なのですが。先日、お願いしていた婚礼衣装を取りに、理穴まで行く予定だったので‥‥」
「予想外の事態‥‥時間が足りないようだな」
「はい‥‥」
 ベテランギルド員の口調は重い。サムライ娘は、依頼に希望を託すしかなかった。


■参加者一覧
純之江 椋菓(ia0823
17歳・女・武
アルーシュ・リトナ(ib0119
19歳・女・吟
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
サガラ・ディヤーナ(ib6644
14歳・女・ジ
サフィリーン(ib6756
15歳・女・ジ
シャギアブロード(ib7035
19歳・男・泰


■リプレイ本文


 村への道中、道理に外れた集団に出会う。力なき者を襲う、山賊。
「もうしないかー?」
「人に迷惑をかけては、いけませんよ!」
 羽喰 琥珀(ib3263)は犬歯を見せて、虎しっぽを揺らす。薙刀「巴御前」を構えつつ、純之江 椋菓(ia0823)も厳しい顔。
「ふふ、私の爪は凶暴です。今度すれば‥‥どうなるか分かりますね?」
 泰爪を見せつつ、シャギアブロード(ib7035)も、軽く睨む。身ぐるみ剥がされ、ふんどし一丁になった山賊たち。
「さて、どうしますか?」
「奪ったものは、襲われた村に戻すのが、一番でしょうね」
「こいつらは、役所に付きだそーぜ」
 山賊たちを連れて、来た道を戻る三人。大事な道中だったが、困った人を助けるのも開拓者の仕事。治療は仲間に任せて、悪者退治を引き受けた。
 一足先に向かった仲間は、村に着いた頃だろうか。


 梅の実がまだ少し残る、白梅の木。村の入口で出迎えるのは、大きく手を振る良助だった。
「あ、姉ちゃんたち、こっち!」
「無事に巫女さんを、お届けしましたよ」
 いつ見ても変わらぬ、穏やかなアルーシュ・リトナ(ib0119)の笑み。以前もお世話になった良助は、ほっとする。
「さて、まずはお父さんを治さなくちゃ」
「おじさん、大丈夫かな?」
 サガラ・ディヤーナ(ib6644)とサフィリーン(ib6756)が顔を見合す。視線は、最後尾へ向けられた。
「あ、あのっ‥‥私、がんばります。怪我をした方は、絶対に治してみせます‥‥!」
 皆の影に隠れるようにしていた、ファムニス・ピサレット(ib5896)は、慌てる。懸命に宣言した。



 はしごをかけ、梅の実を摘んでいる者。
「清太郎さん、お久しぶりですね」
 アルーシュは、遠くから片手を振る。仕事をする清太郎に、明後日に花婿になる気配は、微塵もない。
「久しぶりだな、今日はすまない」
「あれ、仕事は?」
「違うよ、私たちが来るのを待ってたの」
 開拓者の姿を認め、急いではしごを降りる清太郎。梅実の入ったカゴは、ほっぽりだす。
 サガラが不思議がると、サフィリーンが耳元で内緒話。実摘みを口実に、外を見ていたのだろう。
「親父、治しにきてくれたぞ!」
「本当に、俺の足は治るのか?」
 布団の上に寝付いている、清太郎の父。いつもの豪快さはない。気弱そうな雰囲気を、漂わせていた。
「怪我をされた方の為。お二人が素晴らしい結婚式を、挙げられるようにする為。必ず成功させます!」
 布団の隣に座る、ファムニス。安心させるように、清太郎の父の手を、力強く握りしめる。
 依頼の中で治癒を行うのは、これが初めて。しかし自分は巫女、そして開拓者。
「ファムニスさん、お手伝いしますね。威力が強ければ、全快までの時間も縮まりますよ」
 なめらかな音色が、一弦。心配そうに見つめる良助を、優しく撫でるアルーシュ。
「良助。おりんに、親父は大丈夫と伝えてくれるか」
「うん!」
「手伝いも忘れるなよ」
「お手伝いって、何をするのですか?」
「梅の実摘みだよ、一緒にやる?」
「やる、やる♪ 天儀は来たばかりで、キラキラ、ワクワクの宝庫だもん!」
「ボクもお手伝いしますよ♪」
 清太郎の言葉に、サガラが興味を示す。良助が誘うと、好奇心旺盛なサフィリーンは、手を叩いて喜んだ。


「ほんとに、遅くなったぜー」
「でも、良いことをしましたよ!」
「ふぅ、金が無くては、何にもできませんね」
「お団子を頂いてから、言う台詞じゃないですよ?」
「あんこが、口のはたに付いてるぜー」
「‥‥ほっといて下さい」
 道を知る琥珀と椋菓の後ろから、シャギアブロードはついて行く。襲われた村に寄った先で、お礼に団子を貰った。
「きみの鼻にも、あんこが付いていますよ」
「えー!? 本当だ‥‥」
「ふふ、おあいこですね♪」
 エルフ耳には、天儀の食べ物はめずらしい。ヤンチャ小僧も、たくさんご馳走になった。
 無言で、口をぬぐうシャギアブロードと、鼻をこする琥珀。椋菓の黒髪が、楽しそうに揺れた。


 ファムニスは、大きく深呼吸。耳に届く、甘い音色が後押しをしてくれる。
 器を借り、精霊の加護を受けた聖水を注いだ。落ち着いた微笑で、内服するように勧める。けが人が、飲み干たことを確認すると、器を清太郎に返した。
 手鎖「契」を、手首にはめる。引っ込み思案で、おどおどしている少女は、ここには居ない。
 アルーシュの竪琴が、一音高くなった。長く、長く、引き延ばされる音色。穏やかなアルーシュの性格が、にじみ出ている。
 竪琴の飾りのリンゴのように、ファムニスの腕輪の宝珠のひとつが、淡く赤みを帯びる。
 折れたという患部に、ファムニスは両手を添えた。痛みが鈍くなり、清太郎の父は瞬きをする。
 竪琴の音が、また一音。アルーシュの音が重なるたびに、痛みが消えていく。腫れていた患部は、薄桃から肌色へ変化する。
 精霊の御力が、余す所無く注がれていた。ビロードのような音色が、満ちていた。必ず治りますようにと。
 宝珠の輝きが消え、竪琴の演奏が終わった。両手をのけて、ファムニスは頷く。
 アルーシュに言われるまま、恐る恐る、つま先を動かした。腰に走る痛みはない。
 次にゆっくり曲げる膝、ぎこちなく右は曲がった。左は、もっと早く動かせる!
 雄叫びのような声をあげて、清太郎の父は、ファムニスを抱きしめた。右手で、アルーシュの竪琴を握る。


「‥‥なんでしょうか、今の吠えるような音は」
「さぁ?」
 入口の白梅の木の前で、道中で一緒になった花梨と椋菓は首を傾げる。シャギアブロードも、分からない。
「あの入口の梅の木を、摘むのですね」
「あ、良助たちだ。 おーい!」
「はーい、わーい♪」
 良助につれられ、カゴを抱えるサガラを見つけた。嬉さに虎耳が立つ、忙しく振られる琥珀の虎しっぽ。
 叫ぶ声に、二人の後ろを行くサフィリーンが、飛びはねた。
「けが人は、どーなんだ?」
「ファムニスさんと、アルーシュさんが、バッチリ治してくれているよ」
 気がかりを、一番に尋ねる琥珀。サフィリーンは片目を閉じて、太鼓判を押す。
「そうですか」
 どこか安堵と、残念さが入り混じった、椋菓の声。
「今から実摘みだけど、一緒にやる?」
「うーん、俺は別の仕事があるんだよなー」
「あー、あれでしょ?」
「練習もあるから、先にお手伝いを済ませませんか?」
 良助の誘いに、琥珀は思案顔。くるりと月のヴェールを弾ませる、サフィリーン。銀の月も踊る。
 顎に人差指を当てて、サガラは提案。赤い瞳が、利発そうに動く。不思議そうな良助を巻き込み、四人は円陣を組んだ。
 交わされる内緒話、四つの笑顔が咲く。琥珀と良助が、木登りを開始。サガラとサフィリーンは、下から梅の実の場所を教え始めた。
 元気な子供たちを横目に、清太郎の家に歩みを進める花梨。一言も発しない椋菓を気遣う。
「あの‥‥?」
「私は志士の身ゆえ、残念ながら人を癒す術は心得ていません。一刻も早く、薬を届けられるように急いでいました」
 唐突に語り始める椋菓に、花梨は立ち止る。シャギアブロードは横やりを入れた。
「今回は巫女に、仕事を譲った‥‥」
「はい。ですが、符水をお預かりする任を務めさせていただいて、良かったと思っています」
 素直な性格の持ち主は、晴々した笑顔。椋菓は、竹筒を懐から取り出した。
「ご両人とは、浅からぬ縁もあります。花梨さんのためにも、非才ながらお手伝できることがありました」
 符水に目を落とす、縁とは本当に奇妙なものだ。この小さな薬が、何人もの思いを繋いでいる。
「積もる話は、立ち話より、家が良いと思いますけどね」
 大事な薬を、椋菓から取り上げる、シャギアブロード。二人に、行こうと促す。
「そうですね」
「あ、従兄の家はあちらです」
 我に帰った、椋菓。花梨は、二人を新郎の家へ案内する。



「テンギの婚礼料理って、どんなのなんだろう。覚えて帰って、お母さんや村の子供たちに作ってあげたら、喜ぶかな〜?」
「どんな料理とか、見たいね‥‥あ、でも、お料理は苦手なんだ」
「‥‥団子は、もう一度食べても良いですね」
 良い匂いがする台所をのぞき込む、エルフ耳たち。ワクワクする気持ちを抑えきれず、サガラは思いをはせる。
 料理が不得意なサフィリーンは、ため息をついた。二人の頭の上で、シャギアブロードは自己主張。
「お祝いの品ということで。つまらないものですが、ご両人と村の方々へ」
「駄目ですよ、患者さんの体を‥‥」
「遠慮すんなって。本人も大丈夫って言ってるし」
 椋菓のお祝いの葡萄酒に、元けが人の介添えをしていたファムニスは、難色を示した。
 気苦労も知らず、ありがたく頂戴しようとする清太郎の父。琥珀のひと押しもあり、無事に新郎の父親に手渡された。
「うふふ‥‥選びきれなくて、色々お持ちしたんですよ♪」
アルーシュは、悪戯っぽく笑う。主役のりんの前に、お色直しの品が広げられた。


 花霞の白粉を塗り、白無垢を着た、りん。頭には、白梅の簪も挿されている。
 近くて、遠い、我が家へ、一礼。ファムニスが見上げるも、うつむき加減の花嫁の表情は、良く見えない。
 静々と、花嫁行列が行く。琥珀の前を通り過ぎるとき、良助が瑠璃の腕輪をはめた手を振った。村の子供たちに混ざり、サフィリーンは行列を追い掛ける。
 賑わいの中に、どこか哀愁が漂った。りんの母が、椋菓に渡された布で、そっと涙をふいていたからだろうか。
 花嫁行列は、裏山から流れてくる小川を渡る。水面に映る花嫁姿に、砂漠育ちのサガラは感銘。
花婿の家の前で、シャギアブロードは待ち構える。異国の婚礼を拝むのも、悪くはないか。
 一室を借り、花嫁の到着を、心待ちにするアルーシュ。心通じ合わせた二人の、祝福を願う。


 つつがなく、婚礼は進む。媒酌人により、幾久しくと挨拶がなされた。本来なら、これですべて終わりだ。
 しかし今日は、開拓者がいる。音頭をとる、異国の儀の者もたくさん。
「さあ、参りましょう!」
 はりきって椋菓は、アルーシュと花梨の待つ部屋へ、りんを連れて行く。時間が惜しい。
「こちらも行きましょう」
 シャギアブロードも、別室へ清太郎を引っ張った。押しつけられた介助役に、軽く嘆息しながら。
「一番は、白い清らなユノードレスでしょうか。鮮やかなスカーレットドレスも良いですね」
「この十二単も‥‥綺麗ですね♪」
「呉服問屋で貸してもらいました」
 うきうきと、アルーシュは衣装を広げる。花梨の重そうな荷物が気になっていたが、椋菓は中身に納得。
「どれも良くお似合い‥‥迷ってしまいます」
「あの、本当にどれでも‥‥?」
「今日の主役は、おりんさんですよ♪」
 りんの身に、次々と衣装が当てられる。アルーシュのはしゃぐ声。戸惑うりんに、椋菓は笑う。
「全部、着ましょう♪」
「あ、待って下さい。ほら‥‥」
「じゃあ、向こうに伝えてきますね」
 手を打ちアルーシュの名案。椋菓は、二人に耳打ちをする。にっこり笑う娘たち。花梨は従兄の部屋へ向かった。
「清さん、先に十二単を着ます。どれすは、その後らしいですよ」
「分かった。‥‥すまないが、ここを持ってくれ」
「これで良いですか?」
「つぎは、こっちだ」
「なかなか、難しいですね」
 介助役のシャギアブロード。清太郎に請われるまま、手伝う。
 どんどん華やかさも、歓声も増す花嫁の部屋。反対に、花婿の部屋は静まり返り、無言になっていく。
「素敵ですね‥‥」
「どれを着ても、似合いますね♪」
 花梨の感嘆がもれ、目を輝かせる椋菓。異国の花嫁衣装を見る機会は、なかなかない。
「青いものや、借り物‥‥幸せになるいわれは、沢山あるんですよ。はい。これをはいて、最後は外にでましょうね」
「はい」
 結婚の女神の加護を受けている、ユノードレス。水晶のティアラには、月明かりのように白いヴェールを乗せる。
 希望の耳飾りに、桜乙女の首飾り、小さな四葉のクローバーのついたハイヒール。
 りんの衣装を仕立てあげ、アルーシュは満足顔。
「できた‥‥?」
「これで問題ないでしょう」
 シャギアブロードは、白い手袋を、清太郎の胸のポケットに押し込む。花婿も完成だ。


 清太郎に手をとられ、りんは慣れぬ靴で表にでてくる。異国の衣装とあって、見物人は絶えない。
 花婿と花嫁の上に、梅の花が降ってきた。白梅の花の季節は、とっくに終わっている。
 驚き見上げれば、清太郎の庭の梅の木で、琥珀と良助が笑っていた。
「本物じゃねーけど、春告草の祝福をってな♪ 二人とも幸せになれよー」
「清兄ちゃん、姉ちゃんを頼んだよ!」
 梅の花弁の形の紙吹雪。研究のかいもあって、散らし方も本物みたいだ。
「ボクの住む砂漠にはなかった、お花。いっぱい、いっぱい作りましたよ♪」
「楽しくって、思い出深い一時に、なります様に!」
「みんなからのお祝いです!」
 サガラさんと目をあわし、サフィリーンはにっこり笑う。ファムニスは、懸命に花吹雪を浴びせた。
「おっと、まだ終わりじゃないぜー」
 銀の指輪をはめた手が、横笛をとりだした。明るい曲調の演奏が始まる。アルーシュの竪琴も追随。
「お祝いの舞を舞います」
 ファムニスは神楽鈴を鳴らしながら、扇を広げた。伝統的な舞に、ジルべリアの民族舞踊も取り入れた、活動的な舞いを披露する。
「ボクも、華やかで賑やかなお祝いの踊りを、花嫁さんと花婿さんに贈るよ」
 サガラの、バラージドレスの裾が広がった。故郷の村で、お祝いの時に歌う歌も一緒に添える。賑やかで楽しく、笑顔になれるような明るい曲。飛んで、跳ねて、くるりと回って、ぽぽんと手拍子♪
「お祝いの席の余興は、ジプシーの本分! 張り切っちゃいます☆」
 衣装をひらめかせ、柔らかく伸びる指先。サフィリーンの踊りに合わせて、曲調が変化してきた。
 軽快で明るいおはやし。村人もノリだし、何人かが一緒に踊り始めた。


 別れのときが迫る。
「清太郎さん。こんなに綺麗で、素敵なお嫁さんを手離しちゃ駄目ですよ?
おりんさん。ニ年待った分、幸せになって下さいね」
「もし清太郎が浮気したら、ギルドに依頼してくれなー。思いっきりこらしめてやっから」
 りんを抱きしめ、名残惜しそうなアルーシュ。にかっと、笑い琥珀はからかう。
「お二人の末永い幸せを、お祈りします」
「これからいっぱい、幸せになってくださいね♪」
 お辞儀をするファムニスの隣で、サガラはほほ笑む。
「良い式になりましたね。花梨さんのおかげですよ」
「恋愛成就のお守り、ご利益あるんじゃないかな」
 まだ村に残る花梨に、椋菓は語りかけた。お守りを押しつけるサフィリーン。
 シャギアブロードは良助に片手をあげて、村を後にする。
 入口の、花のない白梅の木。
 代わりにお守りの花祝が、引き出物の中で白い花を咲かせていた。