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■オープニング本文 梅雨は、梅の実を摘む季節。ここは朱藩の田舎の村。 「親父、なんで無茶したんだ!」 「うるせい! ‥‥痛っ」 裏山の頂上には、白梅の木がたたずむ。実摘みに行った青年が裏山から戻ってみれば、父親は身体を痛めて寝込んでいた。 「梅の実を摘むぐらい、俺がやるのに。山から戻るまで、待てよ!」 「お前が、きちんと帰ってくる保証がないからだ。二年も音沙汰なしに、旅三昧だったくせに」 「ぐっ‥‥」 頭を抱えて、言葉につまる放蕩息子。布団の上ですごす父親に、返す言葉もない。 村の入口にも、村の家々も白梅の木がある。庭の梅の実を摘もうとして、父親は木から落ちたらしい。木のてっぺんから。 翌日。山から流れてくる小川で、野菜を洗っていた村娘。隣でいくつも石を投げる青年を、見上げた。 「お父さんの具合は、どうなの?」 「‥‥最悪だ。もう二度と、歩けないかもしれん」 「そう‥‥」 村娘は目を伏せる。青年の投げた石が、小川の中に沈んだ。 「あ、姉ちゃん、清兄ちゃん!」 「あら、良助」 村娘が振り返れば、カゴを背負った少年が手を振っていた。二人に、駆け寄ってくる。 「清兄ちゃん、おじさんの体はどう?」 「‥‥大丈夫だ、すぐに治るさ」 「そっか。お父さんが、すごく悪いって言うから」 「昨夜のお父さんとお母さんの会話を、黙って聞いていたわね。 早く寝なさいって、言ったでしょ?」 「えっと‥‥。僕、お使いの途中だから、またあとでね!」 「良助、待ちなさい!」 村娘は、弟の行儀の悪さをしかった。旗色の悪くなった少年。青年との会話もそこそこに、逃げ出す。 「おじさん、姉ちゃんと清兄ちゃんの婚礼に間に合うよね?」 「ああ、心配するな」 遠くから叫ぶ少年。青年の答えに手を振り、笑顔で二人と別れる。 十八歳の青年と、同い年で幼馴染の村娘は、もうすぐ祝言をあげる予定だった。 「清君」 「‥‥良助に、本当の事は言えない」 「そうだけど‥‥」 見上げれば、こわばった表情の青年の顔。村娘は、再び目を伏せる。 「‥‥花梨に頼んでみる」 「花梨さんに?」 「花梨は開拓者だ。なにか治療できる方法を、知っているかもしれない」 普段は神楽の都に住む、青年の従妹の名をあげる。武天の道場の娘で、駆け出しのサムライ。 その日の夕刻。神楽の都の開拓者ギルドに、息を切らして飛び込んできたサムライ娘。 「至急、お願いしたい依頼があります!」 「娘さん? とにかく受付へ」 入り口で叫ぶサムライ娘を、顔見知りのベテランギルド員は受付へ引っ張った。 「どうしたんだ、そんなに慌てて?」 「弥次さん! 治癒の使える開拓者を、派遣してもらえませんか?」 「治癒? けが人がいるのか?」 「伯父が、足を折ったらしくて‥‥。従兄の婚礼までに、どうしても治して欲しいのです!」 「婚礼? 先日の二人か!」 「はい。あと五日しかないので、お願いします!」 ベテランギルド員は、祝言をあげる二人を知っていた。婚礼衣装の反物を買うために、理穴の呉服問屋を紹介した縁。 「治癒と言ってもな‥‥。期間が限定されれば、適任者が見つかる可能性も低くなるぞ」 「そこをなんとか!」 「一応、募集をかけてみよう‥‥期待はできんぞ」 「‥‥分かりました」 ベテランギルド員の口調は渋い。ぐっと、耐えるサムライ娘。 「‥‥薬草では足りんな、きっと」 「‥‥?」 ぶつぶつと何かを呟き、思案するベテランギルド員。サムライ娘は、不思議そうに眺める。 元開拓者のベテランギルド員には、少し心当たりがあった。 「娘さんは、なに薬草以外の薬を持っているか?」 「薬? あっ、符水が一個だけあります!」 「一個か‥‥。すまんが、それを預かってもいいか? 治癒の使える者が現れなかったときは、代わりに届けて貰うように手配しておこう」 「はい、構いません。従兄のためですから」 体力の回復する薬の入った竹筒を、サムライ娘は懐から取り出す。ベテランギルド員は、大事そうに受け取った。 「娘さんは、一緒に行かないのか?」 「行きたいのは山々なのですが。先日、お願いしていた婚礼衣装を取りに、理穴まで行く予定だったので‥‥」 「予想外の事態‥‥時間が足りないようだな」 「はい‥‥」 ベテランギルド員の口調は重い。サムライ娘は、依頼に希望を託すしかなかった。 |
■参加者一覧
純之江 椋菓(ia0823)
17歳・女・武
アルーシュ・リトナ(ib0119)
19歳・女・吟
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
サガラ・ディヤーナ(ib6644)
14歳・女・ジ
サフィリーン(ib6756)
15歳・女・ジ
シャギアブロード(ib7035)
19歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ● 村への道中、道理に外れた集団に出会う。力なき者を襲う、山賊。 「もうしないかー?」 「人に迷惑をかけては、いけませんよ!」 羽喰 琥珀(ib3263)は犬歯を見せて、虎しっぽを揺らす。薙刀「巴御前」を構えつつ、純之江 椋菓(ia0823)も厳しい顔。 「ふふ、私の爪は凶暴です。今度すれば‥‥どうなるか分かりますね?」 泰爪を見せつつ、シャギアブロード(ib7035)も、軽く睨む。身ぐるみ剥がされ、ふんどし一丁になった山賊たち。 「さて、どうしますか?」 「奪ったものは、襲われた村に戻すのが、一番でしょうね」 「こいつらは、役所に付きだそーぜ」 山賊たちを連れて、来た道を戻る三人。大事な道中だったが、困った人を助けるのも開拓者の仕事。治療は仲間に任せて、悪者退治を引き受けた。 一足先に向かった仲間は、村に着いた頃だろうか。 梅の実がまだ少し残る、白梅の木。村の入口で出迎えるのは、大きく手を振る良助だった。 「あ、姉ちゃんたち、こっち!」 「無事に巫女さんを、お届けしましたよ」 いつ見ても変わらぬ、穏やかなアルーシュ・リトナ(ib0119)の笑み。以前もお世話になった良助は、ほっとする。 「さて、まずはお父さんを治さなくちゃ」 「おじさん、大丈夫かな?」 サガラ・ディヤーナ(ib6644)とサフィリーン(ib6756)が顔を見合す。視線は、最後尾へ向けられた。 「あ、あのっ‥‥私、がんばります。怪我をした方は、絶対に治してみせます‥‥!」 皆の影に隠れるようにしていた、ファムニス・ピサレット(ib5896)は、慌てる。懸命に宣言した。 ● はしごをかけ、梅の実を摘んでいる者。 「清太郎さん、お久しぶりですね」 アルーシュは、遠くから片手を振る。仕事をする清太郎に、明後日に花婿になる気配は、微塵もない。 「久しぶりだな、今日はすまない」 「あれ、仕事は?」 「違うよ、私たちが来るのを待ってたの」 開拓者の姿を認め、急いではしごを降りる清太郎。梅実の入ったカゴは、ほっぽりだす。 サガラが不思議がると、サフィリーンが耳元で内緒話。実摘みを口実に、外を見ていたのだろう。 「親父、治しにきてくれたぞ!」 「本当に、俺の足は治るのか?」 布団の上に寝付いている、清太郎の父。いつもの豪快さはない。気弱そうな雰囲気を、漂わせていた。 「怪我をされた方の為。お二人が素晴らしい結婚式を、挙げられるようにする為。必ず成功させます!」 布団の隣に座る、ファムニス。安心させるように、清太郎の父の手を、力強く握りしめる。 依頼の中で治癒を行うのは、これが初めて。しかし自分は巫女、そして開拓者。 「ファムニスさん、お手伝いしますね。威力が強ければ、全快までの時間も縮まりますよ」 なめらかな音色が、一弦。心配そうに見つめる良助を、優しく撫でるアルーシュ。 「良助。おりんに、親父は大丈夫と伝えてくれるか」 「うん!」 「手伝いも忘れるなよ」 「お手伝いって、何をするのですか?」 「梅の実摘みだよ、一緒にやる?」 「やる、やる♪ 天儀は来たばかりで、キラキラ、ワクワクの宝庫だもん!」 「ボクもお手伝いしますよ♪」 清太郎の言葉に、サガラが興味を示す。良助が誘うと、好奇心旺盛なサフィリーンは、手を叩いて喜んだ。 「ほんとに、遅くなったぜー」 「でも、良いことをしましたよ!」 「ふぅ、金が無くては、何にもできませんね」 「お団子を頂いてから、言う台詞じゃないですよ?」 「あんこが、口のはたに付いてるぜー」 「‥‥ほっといて下さい」 道を知る琥珀と椋菓の後ろから、シャギアブロードはついて行く。襲われた村に寄った先で、お礼に団子を貰った。 「きみの鼻にも、あんこが付いていますよ」 「えー!? 本当だ‥‥」 「ふふ、おあいこですね♪」 エルフ耳には、天儀の食べ物はめずらしい。ヤンチャ小僧も、たくさんご馳走になった。 無言で、口をぬぐうシャギアブロードと、鼻をこする琥珀。椋菓の黒髪が、楽しそうに揺れた。 ファムニスは、大きく深呼吸。耳に届く、甘い音色が後押しをしてくれる。 器を借り、精霊の加護を受けた聖水を注いだ。落ち着いた微笑で、内服するように勧める。けが人が、飲み干たことを確認すると、器を清太郎に返した。 手鎖「契」を、手首にはめる。引っ込み思案で、おどおどしている少女は、ここには居ない。 アルーシュの竪琴が、一音高くなった。長く、長く、引き延ばされる音色。穏やかなアルーシュの性格が、にじみ出ている。 竪琴の飾りのリンゴのように、ファムニスの腕輪の宝珠のひとつが、淡く赤みを帯びる。 折れたという患部に、ファムニスは両手を添えた。痛みが鈍くなり、清太郎の父は瞬きをする。 竪琴の音が、また一音。アルーシュの音が重なるたびに、痛みが消えていく。腫れていた患部は、薄桃から肌色へ変化する。 精霊の御力が、余す所無く注がれていた。ビロードのような音色が、満ちていた。必ず治りますようにと。 宝珠の輝きが消え、竪琴の演奏が終わった。両手をのけて、ファムニスは頷く。 アルーシュに言われるまま、恐る恐る、つま先を動かした。腰に走る痛みはない。 次にゆっくり曲げる膝、ぎこちなく右は曲がった。左は、もっと早く動かせる! 雄叫びのような声をあげて、清太郎の父は、ファムニスを抱きしめた。右手で、アルーシュの竪琴を握る。 「‥‥なんでしょうか、今の吠えるような音は」 「さぁ?」 入口の白梅の木の前で、道中で一緒になった花梨と椋菓は首を傾げる。シャギアブロードも、分からない。 「あの入口の梅の木を、摘むのですね」 「あ、良助たちだ。 おーい!」 「はーい、わーい♪」 良助につれられ、カゴを抱えるサガラを見つけた。嬉さに虎耳が立つ、忙しく振られる琥珀の虎しっぽ。 叫ぶ声に、二人の後ろを行くサフィリーンが、飛びはねた。 「けが人は、どーなんだ?」 「ファムニスさんと、アルーシュさんが、バッチリ治してくれているよ」 気がかりを、一番に尋ねる琥珀。サフィリーンは片目を閉じて、太鼓判を押す。 「そうですか」 どこか安堵と、残念さが入り混じった、椋菓の声。 「今から実摘みだけど、一緒にやる?」 「うーん、俺は別の仕事があるんだよなー」 「あー、あれでしょ?」 「練習もあるから、先にお手伝いを済ませませんか?」 良助の誘いに、琥珀は思案顔。くるりと月のヴェールを弾ませる、サフィリーン。銀の月も踊る。 顎に人差指を当てて、サガラは提案。赤い瞳が、利発そうに動く。不思議そうな良助を巻き込み、四人は円陣を組んだ。 交わされる内緒話、四つの笑顔が咲く。琥珀と良助が、木登りを開始。サガラとサフィリーンは、下から梅の実の場所を教え始めた。 元気な子供たちを横目に、清太郎の家に歩みを進める花梨。一言も発しない椋菓を気遣う。 「あの‥‥?」 「私は志士の身ゆえ、残念ながら人を癒す術は心得ていません。一刻も早く、薬を届けられるように急いでいました」 唐突に語り始める椋菓に、花梨は立ち止る。シャギアブロードは横やりを入れた。 「今回は巫女に、仕事を譲った‥‥」 「はい。ですが、符水をお預かりする任を務めさせていただいて、良かったと思っています」 素直な性格の持ち主は、晴々した笑顔。椋菓は、竹筒を懐から取り出した。 「ご両人とは、浅からぬ縁もあります。花梨さんのためにも、非才ながらお手伝できることがありました」 符水に目を落とす、縁とは本当に奇妙なものだ。この小さな薬が、何人もの思いを繋いでいる。 「積もる話は、立ち話より、家が良いと思いますけどね」 大事な薬を、椋菓から取り上げる、シャギアブロード。二人に、行こうと促す。 「そうですね」 「あ、従兄の家はあちらです」 我に帰った、椋菓。花梨は、二人を新郎の家へ案内する。 ● 「テンギの婚礼料理って、どんなのなんだろう。覚えて帰って、お母さんや村の子供たちに作ってあげたら、喜ぶかな〜?」 「どんな料理とか、見たいね‥‥あ、でも、お料理は苦手なんだ」 「‥‥団子は、もう一度食べても良いですね」 良い匂いがする台所をのぞき込む、エルフ耳たち。ワクワクする気持ちを抑えきれず、サガラは思いをはせる。 料理が不得意なサフィリーンは、ため息をついた。二人の頭の上で、シャギアブロードは自己主張。 「お祝いの品ということで。つまらないものですが、ご両人と村の方々へ」 「駄目ですよ、患者さんの体を‥‥」 「遠慮すんなって。本人も大丈夫って言ってるし」 椋菓のお祝いの葡萄酒に、元けが人の介添えをしていたファムニスは、難色を示した。 気苦労も知らず、ありがたく頂戴しようとする清太郎の父。琥珀のひと押しもあり、無事に新郎の父親に手渡された。 「うふふ‥‥選びきれなくて、色々お持ちしたんですよ♪」 アルーシュは、悪戯っぽく笑う。主役のりんの前に、お色直しの品が広げられた。 花霞の白粉を塗り、白無垢を着た、りん。頭には、白梅の簪も挿されている。 近くて、遠い、我が家へ、一礼。ファムニスが見上げるも、うつむき加減の花嫁の表情は、良く見えない。 静々と、花嫁行列が行く。琥珀の前を通り過ぎるとき、良助が瑠璃の腕輪をはめた手を振った。村の子供たちに混ざり、サフィリーンは行列を追い掛ける。 賑わいの中に、どこか哀愁が漂った。りんの母が、椋菓に渡された布で、そっと涙をふいていたからだろうか。 花嫁行列は、裏山から流れてくる小川を渡る。水面に映る花嫁姿に、砂漠育ちのサガラは感銘。 花婿の家の前で、シャギアブロードは待ち構える。異国の婚礼を拝むのも、悪くはないか。 一室を借り、花嫁の到着を、心待ちにするアルーシュ。心通じ合わせた二人の、祝福を願う。 つつがなく、婚礼は進む。媒酌人により、幾久しくと挨拶がなされた。本来なら、これですべて終わりだ。 しかし今日は、開拓者がいる。音頭をとる、異国の儀の者もたくさん。 「さあ、参りましょう!」 はりきって椋菓は、アルーシュと花梨の待つ部屋へ、りんを連れて行く。時間が惜しい。 「こちらも行きましょう」 シャギアブロードも、別室へ清太郎を引っ張った。押しつけられた介助役に、軽く嘆息しながら。 「一番は、白い清らなユノードレスでしょうか。鮮やかなスカーレットドレスも良いですね」 「この十二単も‥‥綺麗ですね♪」 「呉服問屋で貸してもらいました」 うきうきと、アルーシュは衣装を広げる。花梨の重そうな荷物が気になっていたが、椋菓は中身に納得。 「どれも良くお似合い‥‥迷ってしまいます」 「あの、本当にどれでも‥‥?」 「今日の主役は、おりんさんですよ♪」 りんの身に、次々と衣装が当てられる。アルーシュのはしゃぐ声。戸惑うりんに、椋菓は笑う。 「全部、着ましょう♪」 「あ、待って下さい。ほら‥‥」 「じゃあ、向こうに伝えてきますね」 手を打ちアルーシュの名案。椋菓は、二人に耳打ちをする。にっこり笑う娘たち。花梨は従兄の部屋へ向かった。 「清さん、先に十二単を着ます。どれすは、その後らしいですよ」 「分かった。‥‥すまないが、ここを持ってくれ」 「これで良いですか?」 「つぎは、こっちだ」 「なかなか、難しいですね」 介助役のシャギアブロード。清太郎に請われるまま、手伝う。 どんどん華やかさも、歓声も増す花嫁の部屋。反対に、花婿の部屋は静まり返り、無言になっていく。 「素敵ですね‥‥」 「どれを着ても、似合いますね♪」 花梨の感嘆がもれ、目を輝かせる椋菓。異国の花嫁衣装を見る機会は、なかなかない。 「青いものや、借り物‥‥幸せになるいわれは、沢山あるんですよ。はい。これをはいて、最後は外にでましょうね」 「はい」 結婚の女神の加護を受けている、ユノードレス。水晶のティアラには、月明かりのように白いヴェールを乗せる。 希望の耳飾りに、桜乙女の首飾り、小さな四葉のクローバーのついたハイヒール。 りんの衣装を仕立てあげ、アルーシュは満足顔。 「できた‥‥?」 「これで問題ないでしょう」 シャギアブロードは、白い手袋を、清太郎の胸のポケットに押し込む。花婿も完成だ。 清太郎に手をとられ、りんは慣れぬ靴で表にでてくる。異国の衣装とあって、見物人は絶えない。 花婿と花嫁の上に、梅の花が降ってきた。白梅の花の季節は、とっくに終わっている。 驚き見上げれば、清太郎の庭の梅の木で、琥珀と良助が笑っていた。 「本物じゃねーけど、春告草の祝福をってな♪ 二人とも幸せになれよー」 「清兄ちゃん、姉ちゃんを頼んだよ!」 梅の花弁の形の紙吹雪。研究のかいもあって、散らし方も本物みたいだ。 「ボクの住む砂漠にはなかった、お花。いっぱい、いっぱい作りましたよ♪」 「楽しくって、思い出深い一時に、なります様に!」 「みんなからのお祝いです!」 サガラさんと目をあわし、サフィリーンはにっこり笑う。ファムニスは、懸命に花吹雪を浴びせた。 「おっと、まだ終わりじゃないぜー」 銀の指輪をはめた手が、横笛をとりだした。明るい曲調の演奏が始まる。アルーシュの竪琴も追随。 「お祝いの舞を舞います」 ファムニスは神楽鈴を鳴らしながら、扇を広げた。伝統的な舞に、ジルべリアの民族舞踊も取り入れた、活動的な舞いを披露する。 「ボクも、華やかで賑やかなお祝いの踊りを、花嫁さんと花婿さんに贈るよ」 サガラの、バラージドレスの裾が広がった。故郷の村で、お祝いの時に歌う歌も一緒に添える。賑やかで楽しく、笑顔になれるような明るい曲。飛んで、跳ねて、くるりと回って、ぽぽんと手拍子♪ 「お祝いの席の余興は、ジプシーの本分! 張り切っちゃいます☆」 衣装をひらめかせ、柔らかく伸びる指先。サフィリーンの踊りに合わせて、曲調が変化してきた。 軽快で明るいおはやし。村人もノリだし、何人かが一緒に踊り始めた。 別れのときが迫る。 「清太郎さん。こんなに綺麗で、素敵なお嫁さんを手離しちゃ駄目ですよ? おりんさん。ニ年待った分、幸せになって下さいね」 「もし清太郎が浮気したら、ギルドに依頼してくれなー。思いっきりこらしめてやっから」 りんを抱きしめ、名残惜しそうなアルーシュ。にかっと、笑い琥珀はからかう。 「お二人の末永い幸せを、お祈りします」 「これからいっぱい、幸せになってくださいね♪」 お辞儀をするファムニスの隣で、サガラはほほ笑む。 「良い式になりましたね。花梨さんのおかげですよ」 「恋愛成就のお守り、ご利益あるんじゃないかな」 まだ村に残る花梨に、椋菓は語りかけた。お守りを押しつけるサフィリーン。 シャギアブロードは良助に片手をあげて、村を後にする。 入口の、花のない白梅の木。 代わりにお守りの花祝が、引き出物の中で白い花を咲かせていた。 |