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■オープニング本文 ●白い妖精はどこに? 寒い季節に現れるという「白い妖精」の話は、開拓者ギルドでも評判となった。 開拓者ギルドに勤める若い女性は、特に「素敵な出会い」がお目当てである。彼女たちもまた、妖精発見の報告を待ち望んでいた。 ギルドには、知恵と工夫を凝らした依頼がいくつも貼り出される。美しい景色を探すもの、楽しい雰囲気を演出するもの…内容はさまざまだ。 さらに貼り出される場所もさまざまなので、偶然にも新しい何かが見つかるかもしれない。そんな期待までもが膨らむ「白い妖精」の探索となった。 ●冬って何? 猫族一家の故郷、泰の南部はとても温暖な気候。年中、薄着の服「夏威夷衫」(中国的アロハシャツ)を纏うのが常。 夏威夷衫のほとんどは、刺繍が施されている。その為に刺繍も盛んな土地柄で、虎娘の司空 亜祈(iz0234)の趣味の裁縫も頷けた。 南国育ちの猫族一家は、初めて天儀の冬を体験中。神楽の都の家では、身を寄せ合い、布団にくるまるミノムシが四人居た。 「気温がおかしいわ、体が動かないの」 「…がるる」 「…うにゃ」 「うちの身体、氷みたいや」 二番目の姉、虎娘の司空 亜祈(しくう あき:iz0234)を筆頭に、下の双子の虎少年と猫娘も、飼い子猫又も動けない。一人動いているのは、台所の長兄だけ。 「亜祈(あき)、炒飯と餃子と素湯(野菜の中華スープ)、作れるね? お昼ご飯は下ごしらえしてあるから」 「ええ、作るわ。調理場は暖かいもの」 「えっと、兄上はお仕事に行ってくるよ」 長袍(男性用チャイナドレス)に身を包んだ、新人ギルド員。上の妹に言いつけると、開拓者ギルドの本部に出勤していく。 留守番たちの声はすれども、布団の中から顔を出すことはなかった。 「つまり、その白い妖精が現れたら、神楽の都は寒いと言うことだな」 「白い妖精が楽しげな雰囲気が好きなら、うちにも来ますかね? 新しい友達ができると、子供たちが喜びそうです♪」 「でも家族全員が動けないんだろう…喜多(きた)も、大丈夫なのか?」 「僕は大丈夫です。開拓者だった父上も、僕らと同じ家で、何年も過ごしたんですから」 ベテランギルド員は、鼻をすする折れ猫耳の虎猫獣人に声をかける。ときどき歯を鳴らしながら答える新人ギルド員を見ていると、心配で仕方ない。 「雪なんて降ったら、えらいことだな」 「雪って、かき氷みたいなものですよね。見たことないですけど」 「…俺の故郷の理穴は雪深かったが、お前さんところは降らないか」 「少なくとも、こんな長袖を着るなんて、今までありませんでしたよ! 父上が『持っていけ』って言うから、不思議に思っていました」 一年中、薄着で過ごせる土地柄は、雪国育ちのベテランギルド員には想像がつかない。長袖を着て行動するなど、南国育ちの新人ギルド員が考えもしなかったのと同じで。 「何か、方法ありませんか? 僕は良いですけど、家族が可哀そうで」 「そうだな…家の中なら、火鉢、こたつか? 外の甲龍は、服の重ね着しか浮かばないぞ」 虎猫しっぽに元気がない新人ギルド員の質問に、ベテランギルド員は唸る。布団で一日中過ごす猫族弟妹や、ずっと外で過ごす甲龍を思うと、さすがに気の毒だ。 「火鉢? こたつ? どこで手に入るんですか?」 「…二、三日休みをやる。俺が担当してやるから、依頼人になれ。買うところから、使い方まで、まるごと教えて貰った方が早いとおもうぞ」 「ついでに他の暖かくなる方法も、教えて頂けるようにお願いします」 「分かった。このままじゃ、家族そろって、真冬に凍死しかねんからな」 大げさに表現するベテランギルド員だが、初めて冬を体験する猫族一家ならありえた。 「色々な儀の知恵を、借りるのが良いだろう」 ベテランギルド員が教えることもできるが、理穴よりもジルベリアは寒いと聞く。アル=カマルは、昼と夜の温度差が激しいらしい。 猫族一家と同じく、温暖な揚州出身の修羅にも、参考になるはず。ひそかに異種文化の交流を目指して、ベテランギルド員は依頼書の作成にかかった。 ●風邪って何? 突然、ギルドの入口で、龍の鳴き声が‥‥否、泣き声が響いた。やけに激しい。ギルド員たちが見に行くと、道の真ん中に翡翠色の甲龍がいた。 「亜祈、どうしたの!? 金(きん)と、ギルドまで来るなんて」 「兄上、三人の熱が高いの! 急いで帰ってきて!」 『喜多殿、なんとかしてやってくれ!』 虎娘とその朋友の登場に、新人ギルド員の驚きの声が上がる。芸達者な甲龍は、身ぶりをつけながら鳴いた。 「三人って、双子と藤(ふじ)!? 熱って…何がどうしたわけ?」 「ええ、そうよ! お昼前に、金が遊びにきたんだけど、三人とも動かないの。咳が止まらなくって、鼻水が出て、身体も震えるばかりで…治癒符が効かないから、病気だと思うわ!」 どうやら虎娘が昼食を準備しかけたときに、甲龍が庭まで遊びに来たらしい。しかし、猫族一家の子供たちは、布団から出て来なかった。 準備を放り出し、虎娘は甲龍と兄のいるギルドを目指す。 『てやんでい、俺っちは無力だ…。喜多殿を一刻も早く、家に連れて帰るしかできねぇ!』 甲龍は悲しげに鳴き、己の無力を嘆く仕草をする。猫族一家の下の双子と、猫又の居る家の方向を向くと、龍の外套をはためかせて羽ばたいた。 「喜多、すぐに帰ってやれ! たぶん、風邪をひいたんだ」 「か、かぜ? 先輩、どんな病気なんですか!?」 「どうやって、治療すればよいの? 教えてちょうだい!」 「お前さんたち、風邪も知らないのか!?」 泰出身の猫族一家、天儀の風邪と言うものが分からない。泰の感冒と同じらしいと知るのは、ずっと後。 説明するより、専門家に任せた方が早い。ギルドの入口から、ベテランギルド員は声を張り上げる。 「誰か、医術や薬学の心得はないか? 民家療法でも良い 子供たちが熱を出した、看てやってくれ!」 いつも元気な子供でも、初めての環境には適応しきれなかった。生まれて初めての「冬の寒さ」は、体力や抵抗力を奪った様子。 「それから、冬を暖かく過ごせる方法もだ!」 ほぼ常夏の泰南部からやって来た、猫族の兄と姉と甲龍。今は元気でも、下の子供たちと同じ運命を辿るかもしれない。 ある意味、猫族一家の生命存続に関わる頼みが、ギルドの中にこだました。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
リディエール(ib0241)
19歳・女・魔
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
神座真紀(ib6579)
19歳・女・サ
月雲 左京(ib8108)
18歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●風邪っぴきぴき 「皆さん、お風邪をひかれてしまったのですね……風邪もこじらせれば大変な事になりま す」 巫女のファムニス・ピサレット(ib5896)は、子供たちが早く元気になる様に祈った。 「おや……いつも元気いっぱいな司空家の子達も、流石に初めての冬には勝てませんか」 張り出された依頼書を眺めていた、劉 星晶(ib3478)。表の騒ぎに顔をだした。 「藤様に勇喜様、伽羅様も……心配で、御座います」 月雲 左京(ib8108)は、歩く途中でうつむき加減になった。白い横髪が動き、顔を覆い隠す。 「まゆのお姉様も体弱いから、看病ちぃ姉様と一緒に良くしました。他人事じゃないです」 礼野 真夢紀(ia1144)には、体の弱い長姉と彼女を守る責務を負う次姉がいる。折に触れ、二人と文を交わしているが、長姉も風邪をひいてないか心配がよぎった。 「あらあら……『初めての冬』は、猫族さんには少し大変なようですね」 リディエール(ib0241)御先祖さまの神教会のジルベリア人は、柔軟な思考の人間だった。移り住んだ天儀で、神も精霊も等しく尊いものとして奉る。 「確かに生まれ育ちがこの地ならば、自然と身に付く事柄でしょうが。移住してきた皆に取り、戸惑う事は必然なのでしょうね」 杉野 九寿重(ib3226)は、北面・仁生における実力有る剣士を輩出する道場宗主の縁戚。四季がある天儀で、生活してきた。 「ほみ? みんな風邪ひいちゃったの〜!? 大変たいへ〜ん、ボクがぬっくぬく看病したげるよ〜!」 プレシア・ベルティーニ(ib3541)の目が、どんぐりまなこになった。心配のあまり、亜祈に抱きゅり。 「うーん、ジルベリアよりはましやろけど、天儀の冬も寒いからな。暖かい所出身の人にはきつかったかな? 子供らも心配やし、早くなんとかしたらんとな」 少なくとも、目の前の猫族兄妹は振えている。神座真紀(ib6579)は大きな白いリボンでポニーテールにしている長い黒髪を揺らし、ちょっと考え込んだ。 「これからもこの状況に向き合うならば、ちゃんとした心構えは教えておきたいですしね」 まだ雪は降っていない、天儀はもっと寒くなる。九寿重は一肌脱ぐことを決めた。 「暖かく元気に過ごせるように、生活改善と参りましょうか」 纏うセイントローブは、ジルベリアのワンピースを改良したもの。だがリディエール・アンティロープは、天儀生まれの天儀育ち。青い瞳と白銀の髪は、優しくほほ笑む。 猫族一家の家は、おんぼろだった。子供たちが盛大に開けた、襖(ふすま)や障子(しょうじ)の穴がお目見えする。 「司空家を冬仕様に改造と行きましょうか。喜多さんや亜祈さんまで倒れられては大変ですし、……やはりこの子達は、元気に飛び回っている方が似合ってますから」 星晶は寝込んだ子供たちの布団を見下ろし、持ってきた毛布をかけてやる。 「食べるんは、治ってからやで」 甘刀「正飴」、子供にとっては夢のような刀。藤には鰹節。 真紀は子供たちの枕元にお見舞いを並べる。咳こみながら、お礼が返ってきた。 「衣服を取り替え、体を清めましょう」 熱の出た双子の身体は、汗まみれ。人肌の温度の湯入りの桶を持ってきた。左京は、隣部屋に一人づつ連れていく。 「藤様は風邪となりては、目やになどが出てしまい、肉球で触られると目が傷つきます故……」 最後の清め拭く対象は、藤。左京はマフラー「オーロラウェーブ」を膝上に広げる。藤を乗せると、塗らした手拭いで、目元を綺麗にした。 真夢紀は双子が着替える間に、布団に予備の毛布を掛けた。もふらの毛を使って編み上げた、もふら〜の上に子猫又を寝かせる。 心配そうに子供たちを見守る金のために、真夢紀の七輪は庭に置かれた。 「外で屋根もないとなると、厚着か重ね着……ううん、毛皮の外套も良いかしら」 「毛布も買って、金用に毛布で外套を仕立ててみよか。これでも十年主婦代わりやっとるから、裁縫は出来るで」 金の冬支度。リディエールは頭を揺らしながら、悩んでいた。真紀も思案する。 「体には『病を治そうとする力』がありますから、しっかり食べてよく寝れば普通の風邪なら治るはずです」 リディエールは森に関する知識や薬草・ハーブの扱いに長ける。猫族一家に言い聞かせた。 念のため、咳止めと熱冷ましの薬を調薬してきたことは、内緒。長引くようなら、切り札登場だ。 「ん〜、看病はいいの〜? 分かったの〜、じゃあ、買い物のお手伝いしてくるね☆」 元気なプレシア。その後、露店で色々もっきゅもっきゅ買い食いを。一番気に入ったサツマイモを購入した。 「私としては食材関係に気を配る形でしょうかね」 犬耳がピンと立った。九寿重は自分の考えと、仲間の考えを照らし合わせる。 リディエールは指折り数えている。猫族一家は、六人家族。 「地の厚い物や綿入れ、羊毛を編んだ物などが冬向きの衣服ですね」 他に大きな物は冬用布団、毛布、火鉢、炬燵。 「うちの龍にも、手伝ってもらいましょう。クラヴィアです」 リディエールに紹介された龍は、深々と頭を下げる。やや温厚な甲龍らしかった。 「俺も荷物持ちに、翔星を連れていきます」 基本無視する鷲獅鳥。今回は、可愛い子供たちの健康がかかっているので、大変素直だった。 請われるまま、背負いに荷物を載せていく。 ●暖かく 「咳止め、苦いですけど、頑張って飲んで下さい。この後は、飲み易い物が出来ますから」 真夢紀が作ったのは、蓮根のしぼり汁。咳止めを飲む双子は、顔を歪ませる。 「真……惨き事で御座います……」 眺める左京も、悲しげに顔を歪ませた。 次に真夢紀が手掛けたのは、大根の蜂蜜漬け。大根の皮を剥いて実を賽の目に切り、それが被る位の蜂蜜を入れる。 「本当は一晩置くのが一番良いんですけど」 一日数回、飲むと良いらしい。時間差で飲ますため、おちょこや、湯呑にいくつも作っていく。 暫く置いておくと、大根から汁が出てきた。大根の汁入り蜂蜜を、さじ一杯飲むように促す。 「鼻水が出るという事は、水分補給も必要ですね。ゆず茶は喉が痛いのが収まりますよ」 急須には柚子蜜を溶かした、自家製ゆず茶。真夢紀の故郷の島は、主産業が農業。 地元で取れた柚子を綺麗に洗い、皮も実も千切りにして作る。 「しかしとて、皆、猫舌で御座いましょうし……冷ます事も忘れぬよう」 柚子茶は熱い。湯呑みを受け取っただけで、双子のしっぽが逆立つ。 左京は戻ってきた湯呑みに息を吹きかけ、冷ましながら笑みを浮かべた。 真紀は喜多に防寒器具の説明をしながら、買出しする。 「まずは火鉢。炭火をおいて温まるんやけど、それだけやのうて網をおいて餅もやけるし、湯も沸かせるで」 風邪には乾燥が大敵。買って帰ったら、早速、薬缶かけて加湿した方が良いだろう。 「炬燵は置炬燵がええか。火鉢と櫓を一体にして布団かけたもんやね。囲炉裏に置く掘り炬燵もあるけど、ご飯食べる部屋に置いた方がええやろし」 結局、掘りごたつとなったのは、いろいろと理由がある。置きごたつは子供が蹴飛ばすと危ないと、お店の人に止められた。 「あたしは炬燵に入って蜜柑食べるんが、冬の楽しみやわ♪」 のんきに笑っていた真紀も、置きごたつの値段に黙った。妹二人の母親代わりでもあった真紀は、喜多の気持ちを察する。 「懐炉(カイロ)や行火(アンカ)は、寝るとき布団の中に入れて使うかな」 暖房器具を見つくろいながら、真紀は説明していく。喜多は次々と記録に残した。 「寒さを凌ぐ為に、私達の故郷ではペチカ……暖炉がありますが、流石にお家に取り付けるのは難しいでしょうね……」 暖房器具を見ていたファムニスの呟きに、猫族一家は反応する。 「煉瓦で作って、煙突も作らないといけませんから。すごく暖かいんですけどね」 ファムニスはジルべリアの庶民出身、一年中冬の国の生まれだ。両手で、大きな暖炉の形を作って見せた。 「兄妹さん向けに、毛糸のパンツを……ないですね。後で作ります。あ、下着の上に穿くもので、とても暖かいんですよ?」 ……引っ込み思案でいつもおどおどしているファムニスは、正確に伝えられない。 「お帰りなさいませ、外は寒う御座いましょう」 買い出し斑の帰還。左京は温かいお茶を用意し、次々と差し出す。 湯呑みを傾けた星晶、黒猫耳が天を指した。猫族兄妹と共に、湯呑みをそっと畳の上に置く。 黄昏れながら、湯気を見つめる泰の猫族たち。 「……は!? ……星晶様も、にゃんにゃん様で御座いましたよね?」 大切な友人の星晶は、黒猫獣人。思い至った左京、湯呑みを取り上げた。 猫舌たちには、少し冷ましたお茶が手渡される。 「藤さん専用の部屋です、周りが囲んであるので暖かいと思いますよ?」 ファムニスは空き箱に毛布やタオルを敷き詰める、藤の寝床の完成。藤は鼻声で喜びを伝える。 「食べてほっこほこ、たき火でも暖まれるんだよ〜☆」 プレシアが火炎獣を召喚し、落ち葉の中にてんこ盛りに芋を放り込む。星晶が寄ってきた。 「……まぁ、俺も一年前に此処へ来た時は、部屋から出られなかったのですが。恐るべし、天儀の冬。ジルベリアはもっと寒いんでしょうね……」 怖い想像をする。遠い視線の黒猫耳は、猫族一家と同じ泰出身。 ジルベリア育ちの狐耳は、枝で突きながら、焼き芋の出来具合を確かめる。 「ふに〜、ボクは寒い方が暑いよりも良いと思うんだよね〜。だって〜、いっぱい着たりこたつ砦でぬっくぬくに出来るけど、暑いと服全部脱いだら終わりだもんね〜」 プレシアは天儀生まれだが、生後間もなくジルベリアで親とはぐれたため、当時の記憶は無い。 「それに〜、外でいっぱい遊んだら、冬でもあっつあつになるの♪ みんなは〜? ……やっぱり暑い方がいいのかな〜」 ふにぃと、プレシアの狐しっぽはうなだれる。フォックスファーを纏う星晶の様子を、そっとうかがった。 「冬は寒いですが、今しかみれない綺麗な景色も沢山あります。……元気になったら、皆で遊びに行きましょうね」 星晶は穏和で物静かだが好奇心は強く、面白いモノ好き。黒猫耳は穏やかに笑った。 ●伝統 猫又の藤にネギは食べさせないようにと、お達しつき。 「まずは湯を煮立たせて、柚子湯・生姜湯用に廻してください。崩して食べ易い、鶏汁仕立ての湯豆腐ですね」 九寿重は、薬味に七味を添える。藤には、あぶった白身魚を準備した。真夢紀は味の柔らかい物中心の献立を、伝授していく。 主食は卵粥、鮭のほぐし身入り粥、芋粥。お粥は、すべて梅干し付。そしてネギと鶏肉と人参入りのうどん。メバルやカレイ等の白身魚の煮つけに、湯どうふが副食向け。 「おかゆに付け合せるのには梅干が良いですね」 九寿重は梅干しの壺を差し出す。 「あと飲み物として勧めるのが、白湯に梅干、卵酒ですかね」 天儀の飲酒年齢は十四歳を過ぎてから。流石に十一歳の双子に、お酒はまずい。持参した携帯汁粉を準備する。 甘酒に卵を入れて一煮立ちさせる調理法を、九寿重は亜祈に見せた。犬耳と虎耳は、くすくす笑いながら、内緒のお酒を味わう。 「室内で火を焚くと部屋が乾燥しますから」 リディエールは手際良く、洗濯ものを干していく。囲炉裏やかんにローズティーセットを加えると、ほっとする香が広がった。 「そうそう、花梨や金柑を漬けた蜂蜜を、湯で溶いて飲むのも良いですよ」 ふっと思い出したリディエールは、にっこりと笑う。 「さぁ〜、隙間を埋めるよ〜♪ 天井裏を調べるね〜」 プレシアは、陰陽符「アラハバキ」を構えた。夜光虫で照らしながら、人魂で隅々まで調べる。 「ちまちま‥‥ちま〜♪」 隙間が見つかった、ちま〜っと埋めてみる。ただ、背がちょっと低い事を気にしているらしいプレシア。背伸びしながら、天井の穴と悪戦苦闘。 襖や障子の張り替え開始。星晶は障子は刷毛(はけ)で水を塗り、古い紙を全部剥がした。乾かした格子に糊を塗りつつ、紙を平行に張っていく。 襖は表面の穴や中の骨を補修し、襖紙を張った。星晶、襖が上手くいくか自信がない。 空気が入らないように注意した。障子や襖は外へ置いて乾かす。 「障子や襖の穴を塞ぎましたし、風邪の元を追い出すためにも、時々窓を開けて空気を入れ替えて下さいね」 家中の穴の確認をする、リディエール。子供たちの通り道の襖の穴も、布が張られていた。 ファムニスはひたすら編み物。編み棒と毛糸を用意してきた。 藤にはチョッキ、金には鼻を覆える大きさのマスクを作る。市場に無かった、子供用の毛糸のパンツや腹巻も忘れずに。 ファムニスの胸元で、誓いのペンダント「月」も応援していた。 ●記念日 港で金の試着会。 「甲龍の大きさは時間がかかりましたね」 リディエールはなんとなく、相棒と金を見比べる。クラヴィアも甲龍。 「竜は鼻が体の一番先にあるので、冷えそうですからね」 ファムニスの名前のない相棒も、手作りマスクの贈り物を頂いた。なんだかんだと、ファムニスは相棒を心配している。 「鈴麗も欲しいですか?」 駿龍は、毛皮をまとった甲龍を眺める。真夢紀に不思議そうに鳴いた。 「白虎は羽毛がありますね」 身を震わせて、おねだりしてみる鷲獅鳥。九寿重は犬耳を伏せて答えた。 「元気になって良かったですよね、翔星」 やっぱり、星晶の言葉は無視。猫族一家の子供たちの呼びかけに、鷲獅鳥は愛想を振りまく。 「ほむらのと、ちゃうで」 炎龍は外套に興味を示す。金への贈り物を抱えた真紀は、苦笑を浮かべた。運ぶ途中で、左京とぶつかりそうになる。 角無き修羅の左京は、人族が苦手。喋る事は出来るが、触れるとまでは行かない。人族に触れると、体が震え、涙が止まらなくなる。 「篁? ……ありがとうございます」 炎龍は左京の首根っこをくわえた。危険から引き離すという過保護具合は、健在。 「イストリアも、焼き芋しようよ〜」 甲龍の足元に、プレシアは寄りかかる。猫族一家のサツマイモを、譲って貰った。 後日、開拓者たちは、ギルド本部で呼び止められた。受付の喜多は、家族を救ってくれた恩人たちに、手触りのよい一枚の布を手渡す。 ファムニスが作った毛糸のマスクを、甲龍は大変喜んだ。双子や藤も欲しがり、亜祈が真似をして手掛けたという。 泰の布で作られた、口罩「猫冬」(マスク「ふゆごもり」)。鮮やかな一点ものの刺繍には、猫族一家の感謝の気持ちが込められていた。 「白い妖精? 思い当たるは、空から舞い降りる幻想的な雪……ぐらいで御座いましょうか?」 猫族一家の質問に、左京は小首を傾げる。 「彼らの悪戯にかかり、また風邪を引かぬよう。気をつけなければ、なりませぬよ?」 左京は微笑みを浮かべた。天儀の冬が深まり、猫族一家が「初雪」に触れる日も近い。 |