雨を呼ぶ者
マスター名:有坂参八
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/25 01:58



■オープニング本文

●とある川辺の村にて
 雨が、降っていた。
 数日前より続いた土砂降りの雨は、今や横殴りの暴風雨となって、川を氾濫させていた。
 強風と共に、雨が身体に叩きつけられ、身体が吹き飛ばされそうになりながら、屈強な村の男衆が数人、川の様子を確認するために堤防を駆け登っていく。
「いかん、このままじゃ田も畑も家も全部もってかれるぞ!」
 雨によって水量の増した川は、あふれた水で村を押し流そうとしていた。既に所々で堤防を決壊させて、村の田畑に大きな被害を出し始めている。
「おい、なんだありゃ」
 男衆が堤防の上から川を見下ろすと、狂ったように乱れる川の波の中に、一筋の巨大な影がみえた。荒れ狂う水の中を、しかし自在に泳いで掻き分け、進んでいく。
「‥‥蛇?」
 それは、白い大蛇の様に見えた。だが、ただでさえ暴風雨で視界が悪い中、川の波間に出たり隠れたりするその影の正体は、容易には見極められない。
「でかいぞ、アヤカシかもしれん」
「与平、あまり川に近づくな。水に攫われるぞ」
 一人身を乗り出してその影の正体を確かめようとした、与平という村人を、周りの者が制止しようと手を伸ばす。だが、その手は一瞬遅かった。
「ぐお」
 生き物のように水が唸り、波となって与平を襲った。そのまま水は与平を攫って、川の中へと引きずり込んでしまう。
「与平!」
波の間で、与平が白い影に攫われていくのが見える。その後も影は、荒波の間で出たり隠れたりを繰り返した。
「なんてこった、儂らを誘っとる」
「儂らに手出しできんことを知って挑発しとるのか、くそったれ!」
 ここにきて雨は一層強さを増して、ここ数日で一番の降りとなっていた。もはや水滴ではない、水の塊が降っているかのような豪雨である。
「‥‥まさか、あのアヤカシが雨を呼んでいるのでは」
 数日前からつづいたこの雨は、村人たちでも異常に感じる程の豪雨だった。アヤカシが絡んでいたとしても不思議でないと思う程に。
 そしてそれだけに、状況はもはや村人の手に負えるものではなかった。
「ギルドに使いをやれ、水害とアヤカシ同時に来られては‥‥この村が滅ぶぞ」

 数刻後、開拓者ギルドに緊急の依頼が飛び込んだ。
 『氾濫した川に現れたアヤカシを退治されたし』と。

 そうして、川辺の村の命運は、開拓者達の手に委ねられた。


■参加者一覧
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
浅井 灰音(ia7439
20歳・女・志
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
賀 雨鈴(ia9967
18歳・女・弓
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
寿々丸(ib3788
10歳・男・陰


■リプレイ本文

●水の脅威
 開拓者達が件の村についたとき、村には既に大量の川水が流れこんでいた。
 ただひたすら、水と風が暴れている‥‥そんな状態である。
「雨を呼んで村一つ滅ぼしかねないってアヤカシか‥‥すんげえのが出てきたな!」
 濁流で村に打ち上げられた流木をどかしながら、ルオウ(ia2445)が叫んだ。村の被害も気になるが、今はアヤカシの姿を確認せねばならないと、足を速める。
「水害を起こすなど、迷惑千万な大蛇でございまするな」
 ルオウに続いて、足元が滑らぬように慎重に歩きつつ、寿々丸(ib3788)が呟いた。頭に生やした狐の耳が雨粒で叩かれる感触が不快で、彼は眉をひそめる。
「荒れる気象とアヤカシね‥‥気象を操るアヤカシなんて初めて聞くけれど、早く退治して村の人達を安心させてあげないとね」
 賀 雨鈴(ia9967)も、頭から被るように纏った外套の隙間から、川や村の様子を見渡し、焦燥するような表情を見せた。
 このままでは村が滅ぶのも、遅からず現実の事態となりそうだ。急がなければなるまい。

 川を見下ろせる堤防に上がると、開拓者たちは速やかに、アヤカシを討つ準備にとりかかる。
「私は、もう少し上から川を見てみます」
 既に頭を戦闘状態へと切り替えた茜ヶ原 ほとり(ia9204)は短くそう告げ、堤防の一番高い場所へと登っていった。
 逆に、志士の浅井 灰音(ia7439)と天ヶ瀬 焔騎(ia8250)の二人は、心眼で敵の位置を捉える為、僅かに川瀬に歩み寄る。
「何度目だろうなぁ、蛇のアヤカシ‥‥」
 降りしきる雨の中、灰音は右目を瞑りながら、自分と蛇との奇縁について考えを巡らせていた。何故か自分は、よく蛇のアヤカシに出くわす、と。蛇は好きでも嫌いでもないが、こう何度も続くと、何がしかの運命の意図を感じずにはいられない。
「白蛇、か。伝承では守り神、水神の化身と謳われる存在、だが‥‥」
 そんな灰音の思考を知ってか知らずか、天ヶ瀬 焔騎(ia8250)が、灰音の言葉に続く。
「例え相手が守り神だろうが、爆進本懐を志す志士・天ヶ瀬。容赦なくぶっ潰すぜ」
 雨に濡れながら、瞳に熱い炎を燃やす焔騎。色々と熱すぎて、雨に濡れた身体から湯気が上がっていた。
「蛇かー、そろそろ新しい式欲しいのよね。うまく従えたりできないかしら?」
 その横では霧崎 灯華(ia1054)が、不敵な笑みを浮かべながら、まだ見ぬ敵への偏った期待を寄せている。白蛇を従えながら、死神の鎌を操り戦う姿は、さぞ絵になることだろう‥‥実現できれば、だが。
 一方で琥龍 蒼羅(ib0214)は、冷静にあたりの地形を観察している。
「アヤカシ本体よりも状況そのものが厄介だな。敵の有利な地形に加え、この雨‥‥」
 話には効いていたが、雨による被害状況はひどいものだった。環境にも注意しなければ、アヤカシ以上の危険が待っているだろう。
「これ、飲んでおくといいわ。身体の冷え防止に、ね」
 そういって賀 雨鈴(ia9967)が、武烈という銘の天儀酒を取り出し、皆に少しずつ配って回った。雨で気温が下がる中、身体が冷えて本来の力が出せぬことを防ぐための配慮だ。
「あら、あなたは‥‥辞めておいたほうがいいかしら」
 酒を配りつつ、最後に未成年の寿々丸と目があう。
「うう‥‥お酒などなくとも、寿々は頑張れますぞっ!」
 寿々丸が小さく唸りつつ、握りこぶしを作って答えると、雨鈴はくす、と苦笑した。

●蛇狩り
 まずはアヤカシを探し出したいところだが、目の前にはそれこそ龍のごとくうねる濁流があり、足元には泥でぬかるむ最悪の足場があった。
「命綱は、あったほうがいいよな」
 水に身体を攫われることがないよう、ルオウが荒縄で、自分の身体と近くの大木を結びつける。
「ま、やれることはやっとかないとね」
 灯華も頷きつつ、命綱を結びつける。もしも川に流されれば、一貫の終わり‥‥とまでは行かないかもしれないが、非常に危険に陥るのは間違いない。

 堤防の最も高い位置から、アヤカシを探していたほとりの方は、早くも川の波間に白い影を見つけた。
「天さん、あっちに、影が!」
 下で警戒をしている焔騎や灰音に、大きく手を振って合図する。そして自身は、入念に防水対策を施しておいた弓を取り出した。雨に濡れぬよう口を塞いでおいた矢筒の蓋を外し、矢をつがえる。
 ‥‥一箭、ほとりが川にむかって矢を射ると、矢は笛の様な高音を響かせながら、白い影にむかって飛んでいった。
 ほとりの空鏑の音を聞いた寿々丸も、あわせて川の水面に斬撃符を打ち込む。
「このまま引きつけまするぞ!」
 続けて灰音も矢を、蒼羅は苦無を飛ばし、アヤカシの注意を引きつけ続ける。
 それらが影に命中していたかは怪しいが、自分を攻撃する者の存在に気づいた影は、川辺へと近づいてきた。
「‥‥よし」
 うまく行った。おびき寄せに成功したほとりは、にこりと微笑んで、再び下の仲間たちへ合図を出す。

「よーし‥‥こっちに来やがれ、蛇野郎!!」
 極めつけにルオウが、声を高らかに咆哮する。これで、確実にアヤカシはこちらに釘付けになるはずだ。
 焔騎と灰音が、心眼で相手の位置を探りつつ、身構えた。
「‥‥皆、来るよ!」
 灰音が叫んでからすぐに、白い大蛇が、水流と共に姿をみせる。同時に水流が、まるで鉄砲か何かのような勢いで、開拓者達に打ち付けられた。
「先ずはアヤカシを、引きずり出す必要があるな‥‥敵の土俵に上がらないのは戦の定石だ」
 顔にかかった水を忌々しげに払いながら、なお冷静な態度で蒼羅が呟いた。このまま相手が水中にいては、誰の目に見ても開拓者が不利だ。
「俺が引き寄せる。水中でも燃え盛る志士、天ヶ瀬に死角は無しッ!」
 蛇矛を手にした焔騎が、アヤカシに対して構えを取る。蛇矛には荒縄が巻きつけてあり、これをモリのようにアヤカシに打ち込み、引きずり出そうという算段だった。
「と、そうだ‥‥誰か荒縄の端を持ってくれたら助かる」
「縄は俺達が引こう。思いっきりやってくれ」
 振り返った焔騎に応えて、すかさず蒼羅が縄の端を持った。それに続いて周囲の者も、それぞれ縄を掴む。
「よし! じゃ、突き刺してくるぜ」
 そういうと焔騎はアヤカシに駆け寄り、槍投げの要領で蛇矛を投げつける。曲がりくねった刃が唸りをあげて飛び、蛇の腹に深々と突き刺さる。
「普通の蛇と、同じならソレが仇になる所だっ!」
 蛇に蛇矛を突き刺すという彼なりの皮肉である。それ自体に特別の意味があるわけではないが‥‥波打った刃は、しっかりとアヤカシの身体を捉えたようだ。
「このまま引き揚げるよ!」
 灰音の声に合わせて、皆が一斉に蛇矛についた縄を引き、暴れまわるアヤカシを川から遠ざけていく。泥に足を取られそうになりつつも、複数人で縄を引いて、アヤカシとの力との差は五分五分といったところだ。

「‥‥あたしはコレがあれば、どんな状況でもなんとかできるんだけどね」
 灯華は始め、身構えながらも距離をとりつつ、しかし相手をじっくりと観察していた‥‥すなわち、かのアヤカシが、自分が従えるに相応しい存在かを。獲物の死神の鎌を用いれば、彼女は遠近に置いて敵に有効打を与えることが出来るのだ。
 しかし、アヤカシが灯華に気づいて頭突きの要領で襲いかかると、灯華は初めてその鎌を振るって、その刃を蛇の胴体に突き立てた。
「あら‥‥あたしに近づくと怪我するわよ♪」
 気が変わったのか、そのまま灯華も、刺さった鎌でアヤカシを引きずり回す。その手際は、縄で引くより幾分か乱暴だ。
「‥‥そろそろ、頃合いね」
 仲間がアヤカシを引き揚げるのに合わせて、後方で待機していた寿々丸と雨鈴が飛び出した。
「行きますぞ、雨鈴殿!」
 まずは寿々丸が呪縛符を放って、アヤカシの動きを阻害する。
「大人しくなさい‥‥!」
 続けて雨鈴が二胡で重力の爆音を奏でる。精霊の力で重い轟音が響くと、アヤカシは苦しむようにのたうち、悶えた。その隙をついて他の開拓者達は、相手の身体を一気に引き寄せ、川から引き離す。

●蛇討ち
 そして川から十分な距離を取ると、開拓者達は各々の獲物を構え、真っ向勝負の姿勢に出た。
「さて、これで俎板の上の鯉、と言う奴かな。この悪天候だ。さっさと終わらせようか!」
 今も、ルオウが咆哮でアヤカシを釘付けにしている‥‥決めるのなら、今だ。
「くらい‥‥やがれぇえええ!!!」
 手始めに、そのルオウがタイ捨剣で仕掛けた。アヤカシの喉元を蹴飛ばして姿勢を崩すと、続けざまに刃を走らせ、斬りつける。
 さらに好機を逃すこと無く、灰音が跳躍した。そのまま蛇の顔面目掛けて、刀を振り下ろす。
「捉えた‥‥この一撃で沈め‥‥!」
 流し切りで鋭く額を切り裂かれると、アヤカシは悶絶するように身をよじらせた。不気味な咆哮を挙げながら、怒り狂ったように、猛然と開拓者達に反撃する。
 ルオウの咆哮や、雨鈴と寿々丸の支援によって動きを阻害されたアヤカシの直接攻撃は、開拓者達にとって見切れない程のものではなかった。
 だが、脅威となったのは川の水である。時折、川の中から意思を持ったかのように水流が飛び出し、予期せぬタイミングで開拓者達を襲った。
「きゃっ‥‥!」
 ずいぶんと川から離れたというのに、それでも身体ごと押し倒す勢いを持った水が襲いかかり、ほとりが足を滑らせる。一瞬、波に身体を攫われそうになるが、とっさに焔騎がほとりの手を掴み、それを助けた。
「おっと! 気をつけろよ」
「あぅ‥‥ありがとうございます、天さん」
 矢が泥をかぶってないか気を使うほとり。その横では、雨鈴がアヤカシをじっと見つめている。
「あのアヤカシは、やはり水流自体を操れるようね‥‥」
 雨鈴は楽器が濡れないように注意しながら、前衛を援護するように、精霊の力を込めた音楽を奏でた。奴隷戦士の葛藤の唄が、雨音に混じって響き渡ると、アヤカシはその動きを更に鈍らせる。 
「水流、か。厄介な‥‥水中に落ちる事だけは、避けなければな」
 予測していたことではあるが、やはり時間を掛けては不利になる。そう踏んだ蒼羅は、愛刀の獅子王の柄に手を掛け、一気に前線に躍り出た。
「纏うは紅‥‥、抜刀両断」
 紅蓮紅葉の赤い燐光を放ちながら閃光が走って、アヤカシの肌にばっくりと赤い筋が浮かぶ。動きの鈍ったアヤカシが相手ならば、もとより反し技を得意手とする蒼羅にとって、その動きを捉えることは容易だった。

 しかし、水中から引きずりだされて本来の動きが出来ないとは言え、白い大蛇は、しぶとく抵抗した。開拓者達の攻撃は確実に効果を上げてはいたが、アヤカシに止めを刺すには今だ至っていない。
 濁流が幾度も開拓者達に遅い掛かり、そのたびに開拓者たちは姿勢を崩された。
「どっちが先に力尽きるか、根比べね‥‥ま、それくらいじゃないと面白くないけど」
 灯華はそんなアヤカシに、むしろ嬉しそうな表情で対峙している。彼女にとっては、仮にも式として従えようとする対象だ。これぐらい頑丈な方がいい。
「呪声をたっぷり味わうといいわ!」
 灯華が死神の鎌をかざすと、人間の断末魔のような叫び声がアヤカシを襲う。
 たまらずアヤカシが、一旦水中に逃げ込もうとするが、すかさずルオウが、再度の咆哮でそれを封じる。
「逃がさねえぞ‥‥絶対仕留めてやるからな!」
 一瞬アヤカシが背を見せたことで、開拓者達に勝機が訪れた。
「隙有り‥‥!」
 後方からほとりがアヤカシを、即射で狙撃する。降りしきる雨と風を斬り裂くように矢が飛翔し、蛇の目に突き立つ。
「天さん、今です!」
「まかせろ‥‥朱雀悠焔! 紅蓮椿ッ!」
 ほとりの狙撃と同時に駆け出した焔騎も、紅椿と紅蓮紅葉を同時に発動させ飛びかかり、もう片方の目を斬りつける。
 アヤカシもまた苦しみながら、一層激しく開拓者達に襲いかかるが、戦況は既に開拓者達に傾いていた。
「受けて貰おう、獅子の一太刀を」
 最後の抵抗とばかりに向かってくるアヤカシの頭を、蒼羅が半歩の差でかわし、すれ違い様に雪折で刀を抜き打つ。
 アヤカシの喉元に剣閃が走ると、ついにアヤカシは断末魔の悲鳴をあげてその場に倒れこんだ。

●災いは過ぎて
「‥‥仕留め、ましたか?」
 アヤカシが動かなくなったのを見て、寿々丸が恐る恐る近づいていく。アヤカシは既に骸となり、その身体は僅かずつだが、元となる瘴気に戻り始めていた。
「手応えはあった‥‥確実に仕留めたよ。あとは、この雨だが‥‥」
 蒼羅が言うや、それまで続いた豪雨も矢庭にその勢いを失い、気づけば雲の間に太陽の光が差し込んでいた。
 灰音は川の様子はどうなったかを確認しに水辺に向かったが、こちらもかなり流れの勢いを失っている。
「ん、大丈夫のようだね」
 完全に元に戻るには時間を要するだろうが、状況が悪化することはもう無いだろう。
「‥‥全く、そろそろ蛇型のアヤカシとの因縁も断ち切りたいものだよ」
 振り返って蛇の亡骸を見やり、溜息をつく灰音。或いはそれが、彼女の持って生まれた宿命なのか。
 悩む灰音とは裏腹に、灯華の方の表情はあっけらかんとしていた。
「うぅん‥‥やっぱり、こいつをあたしの式にするのは無理だったわね」
 もとより陰陽師の召喚する式は、アヤカシに似て非なるものだ。野生のアヤカシを式とすることは、陰陽師の技では無理である。
 ‥‥とは言え今後、蛇の式を操る参考にはなった。それでよしとしようかと、灯華は肩の力を抜き、事後処理の作業についた。

「酷い惨状ね。復旧にはどれくらいかかるやら‥‥」
 すべてが終わって、雨鈴が村の様子を見ながら、顔を曇らせて溜息をついた。村の中の川に近い地域は、軒並み水流による被害をうけていた。田畑も少なからず、泥に沈んでしまっている。
 しかし、ある村人は、開拓者達に言った。
「それでも、人死には随分少ねぇ。惨状にゃ間違いないが‥‥村が死に絶えるよりゃずっとマシさ。あんたらがアヤカシを始末してくれたお陰だよ」
 開拓者達がアヤカシを倒してすぐに、豪雨も、川の氾濫も静まった。確証こそないが、因果関係があったのはほぼ間違いあるまい。だからこそ、開拓者達の迅速な行動が、村をかろうじて救ったのだと、村人は礼を述べた。
「俺、復興作業、手伝うよ」
 ルオウにがそう言うと、他の面々も続いて、流木や瓦礫をどける作業に付いていく。
 一人堤防に残ったほとりは、川辺に華を供えて、不幸にも命を落とした村人たちへ黙祷を捧げた。
「どうか、安らかに‥‥」

 焔騎が言った通り、天儀において白蛇は守り神や、水神として奉られることがある。
 アヤカシがどうしてその白蛇の姿となって現れたのか、確かな理由はわからない。だが、本物の白蛇がそう扱われるように‥‥あのアヤカシは時として人間に牙を剥く、水という自然の猛威そのものの化身として、生まれ出たのかもしれなかった。