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■オープニング本文 ●山の小村で 秋を終えて、厳しい冬の到来を迎えた、とある山のふもとの小村。 農夫の娘、佐代はいまだ土の色をしている遠くの山肌を眺めながら、父に呼びかけた。 「おっとう、雪はいつ降るかな」 季節がら、吐く息が白くなるほどに空気が冷たいが、それでも雪はまだ降っていない。大人たちにとっては生活の障害と捉えがちな雪も、まだまだ幼い佐代にとっては天然の遊び道具であり、純粋な期待の対象だった。 問われた彼女の父・吾郎は、娘につられて山々を見渡し、去年の記憶と照らし合わせながら、答えを返した。 「ああ、もう降ってもおかしくは無ぇ頃だなぁ」 それを聞いて、佐代ははしゃいだ様子で、やにわ父にまくしたてる。 「あたい、雪が降ったら、かまくら作るんだ。それから、ソリで遊んでー、雪だるまもつくってー‥‥あ、雪合戦! 雪合戦やろう、おっとう」 まだ幼い娘が一生懸命に雪遊びを語る姿を、吾郎はほほえましく思いながら、頷いた。だが、山に近いとは言え、この辺りに降る雪は北方に比べれば多くなく、佐代が満足に遊べるほどの雪が降るには、もう少し待たなければならない。 いや、とはいえ、その時もすぐに訪れるだろう。もう今年も師走に至って、最近はこの村でも、せわしなく時が過ぎている。そう考え、吾郎は佐代の頭を撫でながら頷いた。 「おう、雪が積もればな、死ぬほど遊んでやらぁ。だからほれ、今日はもう家に入れ」 「はーい」 そう言って吾郎は娘と共に家に帰る。最後にもう一度だけ、空と、近くの山を見渡した。 ‥‥このごろは急に冷え込みが厳しくなった。近く、雪も降るのは確かだろうと‥‥吾郎はそう考えつつ自身も家に入り、その日は早くに床についた。 ●どか雪 ところが、事件はその翌日に起きた。 「なんじゃこりゃぁー!?」 朝、起きて目覚めてみれば、晩秋の景色だった昨日と打って変わり、村は一面白銀に染まって‥‥つまり、雪が降り積もっていたのである。 しかも吾郎の腰か胸の高さまで積もるような、いわゆる『どか雪』だ。ついでに昨日までは段違いに、異常なほど、寒い。 「おっとう、なにこれ、ささささささ寒い」 かたかたと震えながら、佐代が起き上ってくる。が、玄関の外一面に銀色の雪景色をみて、とたん眠気も寒気も吹っ飛ばしたように元気になった。 「うわぁい、雪だー!」 「まてまて、佐代、こりゃいくらなんでもおかしい」 着の身着のまま外へと飛び出しそうな佐代の首根っこをつかみ、吾郎は慎重に外の景色を見渡した。 ‥‥このごろはいつ雪が降ってもおかしくない寒さだったとはいえ、それでも初雪でこれほどの雪が降るのは異常だ。三十年以上この村に住んでいるが、こんなことは今まで一度もなかった。 吾郎があたりを見回すと、遠くのほうに、雪原となった平野で飛び回る物体が見えた。なにやらロっこい物体だと思って、目を凝らす。 「おっとう、あれ雪だるまだよ、雪だるま!」 佐代が叫んだ。そう、その飛び跳ねる物体の姿はまごうことなく、雪達磨であった。いちおう、目やら口やらが集まった顔のようなものが付いており、その口からは息吹と共に大量の雪を吐き出している。 「‥‥アヤカシか。ワシらを氷付けにでもして食うつもりかぁ?」 これはマズイことになった。こんな豪雪を降らされ続けたら、村中身動きが取れなくなって、雪に埋もれてしまう。もっとも、その前にアヤカシに食われるかもしれないが。 思案をめぐらせる吾郎の横で、佐代は雪だるまを興味津々、眺めている。初雪で遊びたくてしょうがないらしい。くいくいと吾郎の着物のすそを引っ張る。 「おっとう、雪合戦したい」 「まて、そらいかん‥‥というか何を考えとるんだお前は。アヤカシに食われるぞ」 「死ぬほど遊んでやるって、昨日言った」 「アヤカシの目の前で雪遊びなぞしてたら、本当に死んでしまうわ!」 「ぶー」 こればっかりはしょうがない。 不満顔の佐代を尻目に、吾郎はこれからのことを考えた。 アヤカシは、今すぐには村を襲う気配はないが、おそらくそう間をおかずに、こちらへ向かってくるだろう。そう思ったほうがいい。そして、なんの準備もなしにコレだけの雪が降ったことで、村人達は非常に動きをとりづらい状況に陥っていた。今、アヤカシが村に狙いをつければ、なす術はない。 急いで開拓者ギルドに連絡を入れるべきだろう。そう決めた吾郎は、すぐにありったけの防寒具をひっぱりだし、身に着け始めた。 「佐代、俺はアヤカシをやっつけてもらうためにギルドに行ってくるから、それまでおとなしくまってろよ」 「えー」 「頼むから、外にはでるんじゃねぇぞ‥‥」 ウズウズしてる佐代を見ると、どうにも心配である。が、とりあえず佐代も、父の言葉に頷いた。 「うん、わかった。早く帰ってきてね」 佐代に見送られ、吾郎は雪を掻き分けつつ、家の外へと踏み出す。 「なるべく早く、か‥‥わが娘ながら無茶言うのぉ」 アヤカシの目に触れぬように身をかがめながら、深雪の中を進むのは存外きつい。だが、娘の安全と、雪遊びの約束を考えれば、こんなことで足踏みもできまい。 力強い足取りで銀色の雪原を突っ切りながら、吾郎は開拓者ギルドへと向かった。 |
■参加者一覧
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
ハイドランジア(ia8642)
21歳・女・弓
東鬼 護刃(ib3264)
29歳・女・シ
三太夫(ib5336)
23歳・女・シ
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰
匂坂 尚哉(ib5766)
18歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●銀色の世界で 凍えるような寒気と、すっかり白雪色に染まった大地。突き刺さるような冷たい風が流れる雪原を唯一、雪達磨のアヤカシだけが元気に飛び跳ね回っていた。 「あらまあ、本当に雪達磨さんなのね」 アヤカシの姿を見て深山 千草(ia0889)が、開口一番にそう言った。いささか気の抜ける外見ではあるが、こんなのでも人間を食う恐ろしい存在には違いない。 「いい雪達磨だったらほのぼのファンタジーなんだがねぇ」 防寒用の衣服で完全武装したシノビの三太夫(ib5336)は、口では呑気なことを言いつつ、鋭い瞳でアヤカシを観察している。この異常な寒さと降雪は、紛れもなくあの雪達磨がもたらした物だ。気を抜くことはできない。 「まあ、どんな相手でもアヤカシは倒さないとね。この季節には厄介な相手だね、全く。」 浅井 灰音(ia7439)も、白い息を吐き出しながら、どう対応したものか考えを巡らせている。考えながら右目を瞑っているのは、彼女のいつもの癖だ。 「雪見するにも良い季節と思うたが、流石に此処まで雪で埋もれると辟易するのう」 ぽつりと呟くのは、東鬼 護刃(ib3264)。降り積もった雪は、志体持ちの足にさえも悪影響を与えていた。開拓者達は予めかんじきなどで雪への対策を行っていたが、それでも普段通りに動くことは難しく感じた。 「すごい雪だね〜。ホントすごい。でもこんなに雪あっても困るね。歩き難いとかそういう状態じゃないし」 弓術士のハイドランジア(ia8642)は、弓と矢筒が濡れないように庇いながら、えっちらおっちらと雪を踏みしめている。防寒具として買った靴が可愛くないのが不満で、ちょっとばかり、機嫌が悪そうだ。 皇 りょう(ia1673)も、雪をかき分け歩きながら、その足場の悪さに小さく唸り声をあげた。 「冬場の凛と張り詰めた空気は心を引き締めさせ、鍛錬するにはもってこいなのだが‥‥ふむ、これ程までに雪が積もってしまうと、そうも言ってられんな」 きりりと顔を引き締め、向こうの雪達磨を睨みつけた。ちょっと可愛らしい‥‥なんて考えがうっかり頭をよぎるが、りょうは自分には似合わぬことと、すぐにその考えを打ち消した。 「さあ、油断せずに参ろうか」 ●吹雪 「慣れねえ雪で大変かもしれんが、どうか、宜しく頼む」 依頼人の吾郎は、貸して欲しいと言われた鋤や鍬を開拓者達に渡しながら、深々頭を下げた。その後に隠れて、娘の佐代が開拓者達を興味津々に見ている。 (「娘に思い切り雪遊びをさせてやりたいという吾郎の思い、ぜひともかなえてやりたいが‥‥」) その姿を見ながら、泰拳士の蓮 蒼馬(ib5707)は、一人複雑な想いを抱えていた。記憶を失い、娘の存在すら忘れてしまった彼だが、吾郎父子の姿を見て何か、大事な物が呼び起こされそうな気がしている。 (「吾郎の思いを叶えてやれれば、少しは親としての思いを取り戻せるだろうか?」) だとすれば尚のこと、目の前のアヤカシを討たなければならないだろう。蒼馬は深く頷き、吾郎から道具を受け取った。 状況が状況だけになるべく早くアヤカシを討ち取りたいところだが、ことはそう簡単にいかない。見るにアヤカシは雪上でも問題無く活動できるのに、開拓者達は二本の足で深雪を跨がなければならない不利を背負っている。そこで開拓者達は、一先ず最低限の雪を取り除いて、戦うための足場を作ることにした。 「よーし、これで準備は整ったな」 サムライの匂坂 尚哉(ib5766)は、持ってきた天儀酒を飲んで体を温め、鋤を振りかざして叫んだ。 「初めての仕事だ、気合い入れて頑張るぜ!」 最近修行を終えたばかりの彼だが、初陣の恐怖は無いようだ。意気揚々と、周辺の雪を掘り下げていく彼に、他の開拓者達も続いた。 一方のアヤカシも既に、開拓者を警戒するような動きを見せている。囮役となった千草と護刃、そして尚哉は、アヤカシが動いたのを見るとすぐに作業を中止し、塹壕から離れて動き出した。 「こっちだ、来なぁッ!」 尚哉の大気を震わす咆哮がアヤカシまで届くと、相手はぴくりと反応し、尚哉へ一直線に向かってきた。 「よし、かかった‥‥そのまま付いて来いよ!」 次いで、全力で刀を振り下ろして地断撃を放ち、雪原を抉って道を作る。尚哉はその道に沿って走り、自分を追うアヤカシを味方から引き離した。千草と護刃も、彼を追って駈け出す。 「尚哉くんだけ危ない目には合わせられないし、私はしっかり護らなきゃいけないわね」 アヤカシはヒュウヒュウと、風の音か唸り声かわからない音と共に、凍てつく空気を叩きつけてくる。 千草はガードをかざしながら、尚哉の前に出て、彼を吹雪から庇った。防盾術で吹雪の被害を最小限に留めるが、それでも冷たいものは冷たい。懐の温石が、一気に熱を奪われるのがわかる。 「用心はしてたけど‥‥想像以上の寒さね」 「ほれ、おぬしの相手はこちらじゃ!」 千草と尚哉が攻撃を受けている間に横から回りこんだ護刃は、手裏剣や雪玉を矢継ぎ早にアヤカシに投げつけた。 「流石にアヤカシと、それも雪達磨相手に雪合戦するとは思わんかったのぅ」 などと言いつつ、アヤカシに雪玉を放り、挑発する。アヤカシは怒り狂い、手当たりしだいに雪を撒き散らし始めたが、護刃は空蝉で自らの幻影を映し出し、相手の狙いを絞らせない。 尚哉達が上手くアヤカシをひきつけている間、他の開拓者は急ピッチで除雪を行い、戦闘の為の環境を作っていった。 「あっちも長くはもたなそうだ、作業は必要最小限に止めよう」 アヤカシにも注意を傾けながら、三太夫は雪原に塹壕を作っていた。急ぎ足場を踏み固め、除雪した雪を積んで、防御用の壁を築く。 「塹壕、できれば二つ三つあればいいんだけど‥‥この状況だと、一つ作るのが限界かな」 ハイドランジアも手を動かしながら、囮の者達に心配そうな視線を贈る。彼等のお陰でアヤカシからはだいぶ離れているのに、放たれる冷気がここまで届いている気がする。 「こっちはいいぞ、準備完了だ!」 少し離れた場所で、接近戦の為のスペースをつくっていた蒼馬が、叫んだ。天儀酒を飲み体を温めていたお陰で、作業はかなり捗ったようだ。 「向こうは‥‥大丈夫そうかな」 灰音が囮役の三人に視線をやると、苦戦しながらもなんとか持ちこたえている姿が見えた。 「よし、みんな持ち場につきな。合図を出す」 三太夫が、呼子笛を高らかに吹き鳴らした。ハイドランジアも、塹壕の中に伏せ、叫ぶ。 「できたーっ!」 囮役の三人は合図を受けて、できたばかりの足場へアヤカシを誘導しつつ移動する。 護刃がアヤカシの後方に火遁を放つと、アヤカシも誘いに乗って開拓者の思惑通りの方向へ進み始めた。 予定の位置にアヤカシが来ると、護刃は踵を反してアヤカシに向き直り、両手で印を結んだ。 「さあて雪合戦に鬼ごっこは仕舞いにしよう。その動き、ちと縛らせてもらうぞっ!」 放たれた影縛りの術が、アヤカシの動きを鈍らせる。 あわせて他の開拓者達も一斉に動き、闘いは真っ向勝負の形となった。 ●反撃 「さっきのお返しだっ!」 攻勢に転じた尚哉がアヤカシに対し刀を振り下ろすと、血の代わりに銀色の雪の飛沫が舞いあがる。が、アヤカシはすぐさま反撃とばかり、尚哉に息吹を浴びせた。 「うおっ‥‥くそ、やっぱり正面からは無理か!?」 開拓者達はアヤカシを上手く包囲したが、その反撃は熾烈を極めていた。目の前を白く覆わんばかりの吹雪が放たれ、開拓者達に襲いかかった。 「くっ、こう視界が悪いと‥‥」 灰音は銃を構えながら敵に近づくが、吹雪の所為で狙いは中々付けられない。宝珠式の銃が火を吹き、打ち出された弾がアヤカシの体を僅かにかすめた。 塹壕からアヤカシを狙撃しようとしているハイドランジアも同じで、強風と視界の悪さに辟易しながら矢を射掛けている。アヤカシのすばしっこさも相まって、こちらも苦戦しているようだ。 「‥‥まずは、この吹雪をどうにかしなければならぬか」 一計を案じたりょうは塹壕から飛び出し、全力で駆けてアヤカシの背後に回りこんだ。 りょうが愛刀・朱天を高く掲げると、その刃と同じ朱色の淡い光が発せられ、アヤカシに降り注ぐ。相手の気脈を乱して攻撃を阻む志士の秘技・『斜陽』である。光を浴びた雪達磨は、心持ち体を縮め、吹雪の勢いを幾分か弱らせた。 「各々方、今の内に!」 りょうが叫びをあげると塹壕に隠れていた者達も散開し、アヤカシに勝負を仕掛けた。彼女自身も、体を低くしながらアヤカシへと斬りかかっていく。 「やああああーッ!」 いかにアヤカシの吐く吹雪が強力であろうと、相手は一体しか居ない以上、複数で同時にかかれば必ず死角が生じるのだ。他の前衛もりょうに続き、アヤカシとの距離を詰める。 (「『地面を蹴らずに重心移動に脚がついていく、という感覚で動くといーよ』‥‥か」) 蒼馬は、娘が言っていた、氷結した地面での歩法を復唱しながら走った。自分が教えたことらしいが、蒼馬にその覚えはなかった。記憶を失った自分を見る悲しげな娘の顔が思い出されるが、今は戦闘に集中しなければと、蒼馬はアヤカシへ近づいていく。 「くらえっ‥‥」 記憶は失えども、鍛錬によって体に刻み込んだ技は忘れ得ない。地面を蹴って跳躍し、疾風脚を顔面に叩き込んだ。 「冥府魔道は東鬼が道じゃ。わしの焔が三途の火坑へ案内してやろう」 護刃は、迫る吹雪を掻き分けるように、再度火遁を放つ。今度は、本体めがけての直接攻撃だ。たまらずアヤカシは逃げ出そうとするが、三太夫が早駆して回りこみ、霊刀カミナギで斬りつけた。 「逃さないよ‥‥これで、いい的だ」 すれ違い様、三太夫は懐の筆記具から墨汁をとりだし、アヤカシの顔面に浴びせかける。 一面真白の雪原で、墨の黒色は実によく映えた。後方からアヤカシを狙っていたハイドランジアが、その黒い点を狙い、限界まで弓を引き絞る。 「飛び跳ねるなら、着地する瞬間を狙えば‥‥」 射かけるは全精神を集中させた強射「朔月」。渾身の矢は吹雪の中を突っ切って、あやまたず雪達磨の、墨に染まった頭を貫いた。 「口を狙えば、この雪も封じられるかしら。それさえできれば、あとは‥‥!」 相手の動きが鈍ってきたところで、千草がその口に目掛け、鋭く平突を入れる。手応えは雪に刀を刺すのと変わらなかったが、相手の反応を見るに、確実に痛がって怯んではいるようだ。吹雪は弱まり、勝機が見える。 追い詰められたアヤカシは最後の反撃とばかり、吹雪を吐き出そうとしたが、そうはさせぬと、灰音が懐に入った。銃を剣に持ち替え、一気に踏み込む。 「ここまで距離を詰めれば‥‥この一撃、捉えさせはしない‥‥!」 灰音の剣は円月を描いて閃き、雪達磨の首と胴とを二つに分けた。 雪達磨は、二つの雪玉として地面に転がるとそれっきり動かなくなり、やがて溶けるようにゆっくりと、瘴気に戻っていった。 ●どか雪のもたらしたもの アヤカシは倒れるとあたりの寒さも多少は和らいだが、積もらされた雪は残った為、開拓者達はそのまま村の除雪作業を始めることにした。 手始めに護刃と三太夫が火遁で炎を放って雪を溶かし、村の中央に道を作る。 「あたしは、病人が居ないかどうか見てくるよ」 三太夫はそう言って、一足先に家々を見て回りに行った。とは言え、アヤカシとの闘いが長引かずに済んだお陰で、村人たちは概ね健康なようだ。会う村人は皆、口々に開拓者へ感謝の言葉を述べた。 三太夫は唯一、寒さで動けなくなっていた老人をおぶって、作りのしっかりした家に送り届けた。 「おっとう、見た、さっきの!? ひゅ、ぱっ! って! ぱーっ、って!」 依頼人の娘・佐代は、開拓者達の勇姿を思い出しながら、興奮覚めやらぬ様子で父に語りかけている。父の吾郎は、話を聞いてやりつつも、同じく開拓者達と共に雪かきに当たっていた。 「掘って投げて、掬って放って‥‥一苦労だけれど、こういう時、志体は便利よねえ」 千草は、佐代の様子をにこにこと眺めながら、率先して鋤を振るっていた。佐代の他にも村には数人子供がいたが、皆、開拓者達に興味津々の様子だ。 「どけた雪は一箇所に集めて‥‥佐代ちゃん達も手伝ってくれる?」 はーい、と子供達がハイドランジアに倣って、雪を運んでいく。 子供たちを見ながら、護刃が何か思いついて、口を開いた。 「よし、一番多く雪掻きした者には、木彫りの大もふ様像をやろう。さ、怪我せんように頼むぞ?」 木彫りのもふら様を見て、子供たちのやる気も促される。我先にと作業にかかる子供達を見て、護刃はくすくすと優しく笑った。 「それ、いい剣だなぁ、なんて剣なんだ?」 一方、雪かきを手伝いつつも尚哉は、灰音の持つヴィーナスソードに興味を惹かれていた。刀の美しさに魅せられ開拓者となった彼のこと、剣といえども珍しい武器には目が無いようだ。眼を輝かせる尚哉に、灰音も微笑ましげに対応する。 「‥‥気になるんなら、見てみるかい?」 「おおっ、いいのか!?」 先ほど見事アヤカシを討ち取った剣を間近に見て、嘆息する尚哉。 その横では、りょうが黙々と作業に当たっている。 「心頭滅却すれば火もまた涼し。逆もまた然り。この程度の寒さに怯んでいては、御先祖様に笑われてしまう。要は気の持ちようだ」 自分に言い聞かせるように、毅然たる態度で雪かきに望むりょう。流石、武家の女性は違うなと、一同が眼を見張るが―― 「――くしゅん」 可愛らしいくしゃみに、微妙な沈黙が流れた。 ‥‥まあ、突っ込むのは辞めておこう。 村の主要な道が復旧する頃には村もすっかり機能を取り戻し、子供たちを交えた除雪作業は、半ば雪遊びと化していた。 千草やハイドランジアがかまくらを作ってやると、子供たちは大喜びで中に入る。火鉢やら蜜柑やら、甘酒やらが運び込まれて、かまくらはさながら、子供たちの小さな家となった。 「喜んでもらえたのなら、よかったわぁ」 はしゃぐ子供達に、千草はまるで、母親の様に優しい笑みを向けていた。 「おう、よかったな、佐代」 吾郎がかまくらを覗き込み、佐代に語りかけると、佐代も満面の笑顔で答えた。 「‥‥うん。超楽しい」 その姿を遠巻きに見ながら、蒼馬は、ふと、脳裏にかすかに残った記憶に気づく。言葉に表せないような、何かすごく大事な記憶。娘と、一緒に、遊んだ。 「‥‥何か‥‥もう少しで‥‥」 おぼろげに娘と遊んだ過去の記憶が浮かんできて、蒼馬は吾郎父子を見つめながら、いつまでも物思いにふけった。 やがて日は暮れて、村の家々には灯りがつき始める。 開拓者達が作ったかまくらにも、蝋燭で小さな灯りがともされた。 冷たい雪原の中の、暖かな灯火。開拓者達が村を去った後も、その光は長く灯され続けたのだった。 |