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■オープニング本文 ●少年少女、開拓者見習いにつき 東房に、『鳩塾』という名の、泰拳士の為の道場がある。三剣鳩座という開拓者が師範を務めるその道場では、志体をもつ二十名ほどの子供達が在籍し、日々一人前の戦士となるための修練を積んでいた。 その日、この道場に籍を置く二人の見習い泰拳士が、自分たちの指導役である姉弟子に対して、とある野外訓練を願いでた。 「霧羽山の瓢箪沼まで、行きたいんだ」 「‥‥その、薬草を、取りに、いきたくて」 一人は、少年・鵜飼大地。十一歳の、負けん気の強い少年‥‥所謂、ガキ大将。坊主頭に、はっきりとした目鼻立ちの、明朗快活な子供。 もう一人は、少女・滝本ツグミ。大地と同い年だが、こちらは大地の後ろに隠れてはしどろもどろに話す、内気な少女だった。 二人の子供達の唐突な申し出に、対する姉弟子は、些か戸惑ったような反応を返した。 「霧羽山? ‥‥歩いて丸一日かかるじゃない」 魔の森の侵攻が著しい東房では、人里を少し離れただけでもアヤカシに遭遇することは珍しくない。鳩塾も霧羽山も、そう魔の森に近い場所にあるわけではないのだが、それでも泰拳士としての経験浅いこの二人に行かせるのは危険が伴う。 「貴方達だけじゃ、ちょっと行かせらんないなあ。鳩先生は動けないし、代わりに師兄達がアヤカシ退治に出払ってるし、私は他のコの面倒みなきゃいけないし‥‥」 「だからさ。先生、この前アヤカシとの戦いでケガしたろ。それ、治してやりたくって」 姉弟子の言葉に、大地が割って入った。折しも、道場主である彼らの師範は、先のアヤカシ――それも聞いた話では、相当強力な――との戦いで大怪我を負ってしまっていた。 今回の外出願いは、その怪我を治してやりたいがためだ、と少年は言う。 「先生は、皆を守るためにアヤカシと戦ってケガしたんだろ。それで今、師兄や師姉達はみんな、先生の代わりにアヤカシと戦ってて‥‥それなのに俺ら、子供だってだけで何にもできてねえじゃん。そういうの、その、すげえ悔しい」 開拓者として泰拳士として、相応の修練を日々重ねているとはいえ‥‥彼らの力はまだまだ未熟で、実戦に出たことさえ、殆ど無かった。つい先日に初陣は経験したものの、結果は散々で、先輩の開拓者に助けて貰ってようやく命拾いをした程だ。 でも、だからこそ‥‥今、何かをしたい。彼らはそう、思っていた。 自分の未熟さを知っているからこそ。 東房も、この道場も大変な、今だからこそ。 「‥‥私たちに、できること。やりたいんです。だから」 いつもは極端に口数の少ないツグミでさえ、熱を持った瞳で語るのをみて、姉弟子もさすがに表情を改めた。 「そっかあ‥‥ちょぉっと待ってて、鳩先生に相談してくるから」 ●彼らの師 弟弟子達が、師のために、薬草を取りに行きたいと言っている。 年少組の纏め役である少女・谷上ウズラのそんな相談に、鳩塾の師範・三剣鳩座は、床に臥せったままで即答した。 「行かせてあげましょう」 「‥‥やけに、あっさり許可しますね?」 「や、なに。大地は勝手に飛び出さないだけ、ツグミは自分からやりたいと申し出るだけ、それぞれ相当な進歩でしょう。多分、大丈夫ですよ」 横になって尚、ハハハと軽く笑う鳩座。ウズラも苦笑する。 「はあ‥‥でも、流石にあのコ達だけじゃ」 「ギルドで開拓者に引率をお願いなさい。彼らと共に行動すれば、それも、良い経験となるでしょう。ギルドへの連絡はウズラ、貴方が」 「はあい。じゃ、早速行ってきますね。失礼します」 「はいはい。いってらっしゃい」 鳩座が落ち着き払って指示を出すと、ウズラももう何も心配事はなくなったらしく、ギルドへ向かう為に部屋を出て行った。 残された鳩座は、機嫌よさげにふっと笑い、天井を仰ぐ。 あの子供達を送り出すことに、確かに不安はある。 だが今、大事なのは、彼らが自らの意思で動き、自らの頭で考え始めたことだ。 あとは開拓者達に任せれば、まあ大丈夫だろう。彼らの教えもきっと、子供達の、今後の糧となる。 「そう、そろそろ始めましょう。私たちの明日の為に、ね」 鳩座は誰にともなく呟くと、これからくるだろう開拓者達に、少々気早い期待を寄せるのだった。 |
■参加者一覧
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
十 宗軒(ib3472)
48歳・男・シ
宍戸・鈴華(ib6400)
10歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●子供達 出発の朝は、快晴だった。 道場の門前で待ち構えていた子供達は、やってきた開拓者達の姿を見るや、緊張した面もちで、フライング気味で挨拶をしてきた。 「おはようございます! 今日は、よろしくお願いします!」 声を張り上げた大地に、負けじと大きな声で挨拶を返たのは、サムライの少女、宍戸・鈴華(ib6400)。 「うん、よろしく! 怪我した師匠の為に薬草をかぁ‥‥偉いよねぇ」 と、そのまま大地と握手する。それだけで大地も打ち解けたようで、表情を柔らかくして手を握り返した。 その大地の後ろで、もう一人の見習い泰拳士ツグミは、控えめに頭を下げる。 「あ、あの、よろしくお願いします」 目があったのは、魔術師の雪斗(ia5470)。穏やかに微笑んで、ツグミに歩みよった。 「うん、よろしく。僕も元拳士の身、君達とは無縁じゃない。力になれれば幸いだよ」 踏み出した一歩は確かに、爪先から爪先へと重心を移す拳士の歩法。ツグミがそれに気づいたかは果たしてわからないが、雪斗の優しげな雰囲気には、緊張を多少和らげたようだった。 そんな子供達の様子を、霧咲 水奏(ia9145)と深山 千草(ia0889)は一歩下がった場所で、微笑ましげに見つめていた。 「師のために、で御座いまするか。幼き頃を思い出しまするな‥‥」 「ふふ、いじらしいわね」 どちらも心の奥に、保護欲というか母性というか、そういう感情が動いているのかもしれない。そうでなくても、後進の手助けをすることには、やぶさかでないのだし。 「此度の遠征が、彼らの成長を助くきっかけとなれば、よう御座いまするな」 「ええ。大地くんとツグミちゃんが自分の可能性をみつけられるように‥‥私達もがんばらなきゃね」 目配せした互いの瞳は優しげで、そこには子供達の成長を見守ろうとする意思が、明白に感じ取れるのだった。 「じゃあ、神音ちゃん。悪いけどこのコ達のこと、よろしくね」 二人の横で、その姉弟子ウズラは多少申し訳なさそうな顔をしつつ、友人である石動 神音(ib2662)に頼まれていた荷物‥‥味噌やら塩といった調味料を手渡した。 「うん、二人の事はどーんと任せてよ!」 対する神音は自分の胸をとんと叩いて、にこやかな笑を返す。神音自身も自らの師匠‥‥『センセー』を強く想うだけに、師のために何かしたいという二人の指導に、いつにも増して張り切っているように見えた。 挨拶もそこそこに、開拓者と子供達は出立の準備にかかる。 「さて、大地君、ツグミさん。事前に言っていた課題はできていますか」 十 宗軒(ib3472)が、そう子供達に問いかけた。課題というのは、『自分の準備を自分で行うこと』だ。 「おうよ、準備はバッチリだぜ!」 と、そういう大地の荷物には短剣やら旋棍やら、コレでもかと武器ばかりが詰まっている。ツグミはそれより幾分かマシだが、しかしこちらも着替えやら食料やらが多すぎた。 「二日分の荷物としては、ちょっと多すぎまするな。あとは、滑落した際等に使う縄が、抜けておりまするよ」 荷物が多すぎるのは、初めての遠征に対する不安の現れだろう。水奏が苦笑しつつ、荷物の抜けについても指摘する。 「はい、あの、すみません‥‥」 顔を真っ赤にして俯いてしまったツグミの肩を、宗軒はとんと叩いて言った。 「何事も経験です。色々試してみて、自分のやり方を見つけてください」 まだ出発もしていないのだ、落ち込むには早過ぎる。間違っても、いい。その為に自分達がついているのだから。 そう告げると、ツグミも顔を上げて、はい、としっかりとした返事をかえした。 ●道中 目的地までは、歩いて丸一日かかる。 であれば出発は早いほうがいいと、開拓者たちは準備が終わるとすぐに道場を発った。 水奏の提案で、大地は先頭に立って道案内、ツグミは後方で周囲警戒にあたることになった。とはいえ、今回の依頼は護衛というよりは引率であり、開拓者達もそこまで厳密な隊列にはこだわらなかった。 「なんと言いますか、お二人とも初々しいですね」 宗軒が、二人の様子を観察しながら、ふっと頬を緩めた。大地とツグミは落ち着かない様子で、いかにも仕事しています! というふうに、辺りをキョロキョロと見回している。 宗軒でなくとも、これは微笑ましく思ってしまう‥‥誰にでもある、自身の駈け出しの頃の記憶を思い出させるのだから。 「鳩座先生のお具合は、どう? まだ、良くないのかしら」 千草はそんな二人の緊張を和らげようと、時折そういう風に話しかけて、彼らと打ち解けようとしていた。 「‥‥ここんとこ、ずっと寝てばっかりだよ。本人は大丈夫とか言ってんだけど」 「そう‥‥大地君の目標はやっぱり、鳩座さんなのかしら」 鳩座についての病状を聞いて千草は一瞬顔を曇らせたが、すぐに元の和んだ笑顔を取り戻し、質問を変えた。そちらは心配しても始まらない。そも、その為に薬草を取りに行くのだから。 「もちろん! 先生、普段はテキトーだけどさ、本気出すとすっげぇ強いんだ。なあ、神音さん!」 急に熱っぽく語りだした大地に話を振られ、神音は困惑の表情を浮かべた。 「‥‥鳩座センセーが戦ってるところ、そういえば見たことないかも」 「えーっ、ま、マジかよ!」 もう何回も会ってるはずなのになー? と首を傾げる神音の横で、それを残念がる大地。千草はそんな二人を見て、くすくすと楽しげに笑っていた。 一方、隊列の後ろ側では、ツグミが地図を取り出し、水奏達と共に道順の確認を行っていた。 「えと、ここが鳩塾で、こっちが霧羽山で‥‥瓢箪沼は、このあたり。危険なケモノの話とかは、聞いたことないです」 たどたどしくも、ツグミの説明は要領を得ていた。少なくとも、これで道に迷うということはなさそうだ。 「何もなければ良いんだけど‥‥」 と、雪斗が手にしたカードの束を切って、慣れた手つきで先頭の一枚をめくると、それを見たツグミが、物珍しそうに顔を寄せた。 「なんですか、それ‥‥?」 「ん? タロットだよ、占いの道具さ」 占いと聞いて、ツグミが目を輝かせる。その辺は、やはり女の子なのだろう。 「初めて、見ました。あの、どんな結果、でしたか‥‥?」 興味津々なツグミの質問に、雪斗は黙って微笑んだまま、太陽が描かれたカードを見せた。 『太陽の正位置』、そのニュアンスを知るところのないツグミはぽかんとしていたが‥‥先行きは、決して暗くはなさそうだった。 ●霧羽山にて 幸いにして行きの道は何も起こること無く、一行は日の暮れる前に霧羽山は瓢箪池へと到着した。 「おお、ついたーっ!」 「あ、大地、待って!」 気が逸って駈け出した大地の首根っこを、鈴華がひっつかんだ。 「一人で飛び出しちゃ危ないよ。皆から離れたらダメだって」 「‥‥そう、人は目的に近づいた瞬間にこそ、一番気が緩むものに御座いまするからな」 水奏が、一転して真剣な表情で弓を構え、矢を番えぬままに弦を引き鳴らした。ぴぃん‥‥という、鏡弦の独特の反響音を聞くと、彼女の面持ちは一層深刻な物となった。 「え、あの、なにか、いるんですか」 「向こうの岩の陰に五体‥‥小さいな相手だけど。何か潜んでるわね」 怯え出すツグミに、心眼で探りを入れた千草が、努めて穏やかな声色で伝えた。 案の定、すぐに小鬼の群が現れ、こちらへ襲いかかってきた。 「無理に戦おうとしなくてもいいよ? 大地達の仕事は薬草を持って帰ることだからね」 「いや、やれるぜ鈴華。ここで下がっちゃ鳩塾門下生の名がすたるぁ!」 清々しいまでの勇み足で、大地が先頭の小鬼に殴りかかっていく。 負けじと鈴華も一緒に前に出て、咆哮で小鬼の目標を自分に向けた。 「負けてらんないな。よし、来な! 全力の一撃をお見舞いしてやる!」 多少の危険も伴うとはいえ、子供達にその意思があるのであれば、戦闘に参加してもいいだろう。概ねそういう方針を持っていた他の開拓者達も、すぐに後を追った。 「ツグミちゃんは、やれそう?」 「‥‥はい。やり、ます」 ツグミも、千草に問われると意を決して首を縦に振った。呼吸を整え、自分の獲物である棍を構える。 「無理しない範囲でやればいい。援護するよ」 雪斗がそう言いながら、七色に光る鎌を振りかざした。 「風よ贖え、逆行の流転をここに‥‥切り裂け!」 ウィンドカッターの詠唱が始まると、彼の周囲で圧縮された大気がやがて刃となって、大地に相対した小鬼へと向けて吐き出された。 「だいじょーぶ、何かあったら神音達がフォローするからね!」 神音が、叫びながら紅砲を放つ。開拓者達の援護を受けて、二人の見習い開拓者も奮戦した。案の定、大地は焦って前に出過ぎるし、ツグミはへっぴり腰だったが‥‥小鬼の攻撃の大多数は鈴華が引き受けていたし、二人が攻撃を受けそうになれば、近くに付いていた宗軒がそれをフォローし、未然に危険を防いだ。 ツグミが小鬼に力負けして押し倒されそうになったところに手裏剣が飛び、小鬼の眉間に突き立った。 「これは少々、ツグミさんには荷が重いですか」 「‥‥まだ、頑張れますっ」 助けられたツグミは宗軒と足並み揃えつつ、再び相手との間合いを測った。 大地の方は鈴華と共に最前線で暴れまわっていたが、そちらのフォローは水奏と千草の役目だ。千草は大地の側に立って死角を守り、水奏は即射で以て小鬼の機先を制す。 相手が下級のアヤカシということもあって、子供達が大怪我を負うということもなく、小鬼共は程なくして一匹残らず退治されたのだった。 場の安全が確認されると、一行はいよいよ目的の薬草・金丹草を探し始める。 「金丹草の特徴って、『細い』以外に何かないの?」 と、神音。 「えと、水のすぐ近くにしか、生えないそうです。あと、色は、凄く薄い緑で‥‥」 応えるツグミが必死に思い出すように紡いだ情報をもとに、開拓者達も金丹草を探すことに相成った。 鈴華だけは 「薬草も良いけどさ、やっぱり体力をつけるにはお肉だよね!」 などと言いつつ、薬草ついでに猪やら熊やらが居ないか探していたが、残念ながら見つけることはできなかった。そんな猛獣に遭遇したらそれはそれで一大事なのだが‥‥大地だけは期待していたのか、鈴華と一緒に口惜しそうにしていた。 金丹草自体は半刻も立たずに見つかったが、その時既に日は沈みかけていたので、開拓者達は予定通り、その場で一晩明かすことにした。 千草が道すがらこつこつと拾い集めていた薪木を燃やしつつ、神音が集めてきた山菜を味噌で煮込んで、出汁汁を作る。 食事が終わったころにはもうすっかり日は落ちて夜となり、一行は早々に眠りにつくことにした。 夜の警戒は、半分ずつの班分けで、交代で行う。先ほどはアヤカシと遭遇したばかりなだけに、気は抜けないはずなのだが‥‥ 「あはは、やっぱり寝ちゃったねー」 「もう、しょうがないなぁ」 大地とツグミは案の定、かくりかくりと船を漕いでいる。 神音と鈴華は互いに顔を見合わせ、二人に毛布を掛けてやった。無理に起こしてまで頑張らせることも、まあないだろう。 「見張り、お疲れ様でした。やはり、こうなりましたか」 交代の時間が来ると、体は横にしつつも完徹で起きたままだった宗軒が、最初に天幕から出てくる。続いて、千草、雪斗、水奏と続いて起きてきて、引き継ぎの準備に入った。 「‥‥静かなもんだな‥‥夜ともなると‥‥」 つぶやきながら雪斗が見上げた星空には、雲のひとつも無い。明日の帰り道も、晴れそうだった。 ●成果 明くる日、瓢箪池を発った開拓者達は、再び丸一日の道程を踏破して道場に帰還した。 そしていよいよ、持って帰った金丹草を師匠へ呑ませる段階に至るのだが。 『ううん‥‥取り敢えず、アクをしっかり取って、煮る、炒める、煎じる‥‥あたりかしら?』 『うわ‥‥なんだこの臭い! 潰したとたんに臭ってきた!』 『臭いとは聞いてたけど‥‥コレはっ』 『お粥を牛乳で延ばして、ミルク粥にしたらどうかな。ねぇツグミちゃん』 『牛乳、ですか。あったかなぁ‥‥けほっ』 『塩を振ったらいいよ。消える訳じゃないけど、臭みはだいぶマシになると思う』 『‥‥ていうかこれ、ほんとに飲めるの!?』 ‥‥などとまあ、鳩塾の台所は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。 その声は金丹草の強烈な臭いとともに、大地とツグミの師である、鳩座の私室にも届いていたのだが‥‥そこにいる者達は動じるでもなく、むしろ子供達の嬌声を楽しそうに聞いている。 「三剣殿は、よい弟子に恵まれているようですな」 くすくす、と緩む口元を手で覆いつつ、水奏が言った。 「彼ら、随分心配していたからね。僕も‥‥先生がご無事なら何よりだって思うよ」 隣の雪斗は、鳩座の容態を伺いながら告げた。今は魔術師であったとは言え、一度は泰拳士として歩んだ身であれば、自らの師父を慕い案ずる子供達の気持ちも、痛いほど判る。初めて会った鳩座が思いのほか血色の良い顔をしていたのを見て、ようやく安心したくらいだ。 「ええ、本当に‥‥有難うございます。や、皆様にはいくら御礼を言っても足りませんが。どうでしたか、あの子達は」 頭を下げた鳩座が、改まってそう問うと、始終子供達の様子を見ていた宗軒が、声を穏やかに答えた。 「よく、やっていましたよ。勿論、正すべきところはまだまだ沢山ありますが」 傾向をみれば、大地は大胆すぎるし、ツグミは慎重すぎる。細部に置いても、間違いは多々あった。 だが、全てこれから正し、次に活かせばいいことだ。それはその場の誰もが、言わずもがな共有する意識。 「そうですか。是非、二人に直接伝えてあげてください。彼等にとっては金言に‥‥」 と、嬉しそうな鳩座が語り終える前に、台所からどたどたと足音が近づいてきて、麩が乱暴に開けられた。 「先生、千草さんがさ、金丹草、寒天にしてみようって!」 「あと、お塩もいれて、そしたら、飲みやすいって、鈴華ちゃんが」 飛び込んできたのは、大地とツグミ。後ろには調理を手伝っていた者達もついてきている。 「晩ご飯、もうちょっとまっててね、鳩座センセー!」 「ふふ、今日は金丹草づくしだよ」 張り切る神音と鈴華。一同の表情が僅かに引きつる。特に鳩座。 「ふふ、でも鳩座さんは『美味しい』って、平らげてくれそう。二人のお料理ですもの」 と、苦笑いしつつも、千草。鳩座もすかさず頷いて、いくらでも食べると強がってみせた。 子供達の初めての任務、その成果は、十分にあった。 金丹草の料理には些か苦戦するかもしれないが、それもあるいは、積み重ねて御馳走にすることもできるだろう。 重要なのは、今回の経験を、次の機会へと活かすことだ。 開拓者達も、鳩座も、そして大地とツグミも‥‥その最初の一歩への、確かな手応えを感じていた。 |