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■オープニング本文 ●青空に腐れ外道 「いやぁーっ! 誰か助けてー!」 青空の広がる山道に、若い娘の叫びがこだまする。 「げへへへへへ、よいではないか、よいではないか」 次いで聞こえるのは、男達の下卑たしゃがれ声。全身黒ずくめに黒覆面というあやしい出で立ちの男達が、必死に逃げる一人の娘を追いかけまわしていた。 「きゃーっ!」 「ふへへ、逃げても無駄じゃぁ!」 男達が術符を取り出し、何やらぶつぶつと唱えると、符が娘めがけて飛んでいき、その背中にぴとりとくっついた。 すると、符からどろどろとした泥濘が湧き出し、逃げ惑う娘を覆い始める。 「‥‥ひっ」 泥濘は意思をもっているかのようにウネウネと動きまわり、娘の身体にまとわりついた。 そのまま娘は泥濘に足を取られて、その場に倒れてしまう。 あろうことか、泥濘に覆われた服が溶け始め、白い肌が露出しはじめている。貞操の危機を感じた娘は、全力で叫んで助けを呼んだ。 「ああ、ああっ、誰か、誰か助けて!」 「ぐへへへ、叫んでも誰も来ぬぞ!」 男達が、娘の悶える様を眺めながら、ハァハァと呼吸を荒くしている。 「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ‥‥が、そこで術が切れて泥濘は消える。息も絶え絶え、何が起こったか解らずに戸惑う娘の周りで、男達が残念そうに嘆息する。 「‥‥むゥ、もう時間切れか。術の持続が短すぎる」 「効果はバツグンなのだが。もちっと改良が必要だの」 「うむ。悶えるおなごの姿を楽しむには、いささか時間が足りぬ!」 「よし、帰って研究しなおそう。皆、引き揚げるぞ!」 「おうッ!」 「娘、もう行って良いぞ。このままお前に触れては、大人の事情的にシャレにならぬのでな!」 「ではさらばだ!」 身勝手極まりない内容の会話の後、男達は引き上げていく。 後には、呆然と座り込む娘が一人、残された。 「‥‥な、なんだったの‥‥?」 ●女の怒り ‥‥その女性は、恐るべき鬼気を纏って開拓者ギルドに現れた。あまりの殺気に、居合わせた開拓者達が思わず刀に手をかけ、身構えたほどである。 歳は三十路を過ぎた頃か、そこそこの美人であるはずだろうその顔は、まさに般若のごとき形相によって台無しになっている。 「‥‥山道に現れた、助平陰陽師の噂はご存知でありましょうか」 こめかみに青筋を立て、静かな怒りを込めながら、女性がそう、語り始めた。 最近山道に出没するようになった、助平陰陽師の集団。外法の陰陽術を用いて、若い娘を悶えさせ、その様を見て楽しむ腐れ外道‥‥確かに、そんな風の噂は、ギルドにも聞こえ始めていた。 「その助平陰陽師共の頭領は、私の夫でございます」 葉子と名乗ったその女の、夫‥‥千石麟平というのが、陰陽師の頭領格の名であった。 聞けばその麟平という男、生来大層など助平であったという。 若い娘を好むのはモチロンのこと、当人は直接触れるよりも、相手が悶える様を眺めて楽しむ性癖を持つという、大変な変態である。 もとは優秀な陰陽師であったにもかかわらず、その才能を思い切り間違った方向に花開かせ、『えろいことをする為の陰陽術』の研究に没頭し、果てに同志をかき集めて家を飛び出し、山に篭ってその術を実験しているのだ、と‥‥葉子は重々しく語った。 「前々から愚かしいまでに女好きの男だとは思っていましたが、そこまで腐れて居るとは思いもよらず‥‥」 修行を積み、陰陽師として腕をあげるにしたがって、麟平は術を自らの欲望の為に使うようになった。即ち、綺麗なおなごにちょっかいを出して悦ぶために! 「百歩譲って、私以外の女に目をくらますのは半殺しに済ますとしても! 顔を隠して他所様の婦女子を山道で襲うなど、野盗の如き不届き千万の行いなれば弁解の余地無しッ! あのバカ亭主を、どうか! どうか取っ捕まえてしばき上げ、首根っこ引っつかんで私のもとに連れてきて下さいませ!」 とうとう怒りを堪えきれずに叫んだ葉子を、慌てて周囲のものが抑え、なだめる。 ギルドの受付係は、怒り心頭の葉子からどうにか麟平ら陰陽師一味の情報を聞きだし、依頼の受諾を決めた。 「‥‥どうか、ご用心を。夫は救いようのない阿呆で努助平な腐れ外道なれど、陰陽師としての腕だけは確かでございます」 それだけに余計、手に負えぬと、ようやく落ち着いた葉子は目を伏せ、ほぞを噛む。 ‥‥面倒な依頼になりそうだと、周囲の誰もが、そう思った。 ●男の闘い 「麟平殿、大変じゃ!」 「どうした!?」 山中で術の研究を続けていた麟平の元に、仲間の陰陽師が駆けつける。 「街に買出しに出て、小耳に挟んだが‥‥あんたの嫁の葉子殿が、開拓者ギルドに駆け込んだようだぞ」 「何!?」 「恐らくは討手が来る‥‥どうする、逃げるか?」 驚く麟平に、仲間は深刻な面持ちで問う。だが麟平は、凛と引き締まった顔で仲間に答えた。 「否! 此処で逃げては陰陽師の、いや男の恥よ‥‥我らが術の力を、討手に見せつけてくれるべきぞ!」 「おお、頼もしいな麟平殿! やろう! やらいでか!」 「‥‥それに討手の開拓者の中にも、可愛いおなごが混じっとるやもしれぬしのう、ぐへへへへへへ」 「ナルホド、ぐへへへへへへ」 ‥‥討手が迫ると知っても尚、どぐされ陰陽師共の士気は旺盛。麟平達はいそいそと、迎撃の準備を初めた。 |
■参加者一覧
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
盾男(ib1622)
23歳・男・サ
千亞(ib3238)
16歳・女・シ
孔王(ib3939)
25歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●少女たちの反応 「うう‥‥私は怒ってます、怒り狂ってます! 乙女の心を! 体を! なんだと思っているのでしょう!」 依頼人より事情を聞いたアルネイス(ia6104)が、開口一番にそう叫んだ。 妻を持ちながら、見ず知らずの女性に対して危害を加える陰陽師の存在は、既婚者であり、今なお恋する乙女でもある彼女にとっては、到底許しがたい。 「綺麗な奥様がいらっしゃるのに‥‥オトコゴコロって難しいのですねぇ」 シノビにして白兎の獣人、千亞(ib3238)は首をかしげながら、必要な道具を荷袋に詰め込んでいた。捕縛用の荒縄と、予備の鉄爪、着替え用のシャツと‥‥それからぱんつも、最悪の事態を想定して。 「いや〜、唯のバカなんじゃないかなぁ? 本物のバカ、というか‥‥」 同じくシノビの叢雲・暁(ia5363)は、状況を少し面白がっているようにも見える。もちろん彼女も一応、そんな馬鹿はきっちり仕置しておかねばならないとは思っているのだが。 「人が苦しむのを見て喜ぶ、なんて‥‥そんな方々を、放っておくわけには、いきません。そんなことはいけないと、分かって頂かないと‥‥」 シャンテ・ラインハルト(ib0069)は、か細い身体をすくませながらもそう決意した。 そんなシャンテに、からす(ia6525)がすました顔で横槍を入れる。 「厳密には、『女子が』『悶える』のを愉しんでるんだよ、彼らは」 「‥‥?」 きょとんとするシャンテ。どうやら彼女には、性癖という概念は理解しがたいらしい。シャンテよりも童顔で一回り背の低いからすの方がむしろ、さもありなんという顔で弓の手入れをしていた。 ●討伐 道行く女性を襲う相手の性質を考えれば、囮作戦が手っ取り早い。そう考えた開拓者達は、二手に分かれて山道を歩き、陰陽師達を誘き寄せることにした。 「行進曲でも吹けば、却ってあちらが私たちを見つけやすくなるかもしれませんね」 そう言って、シャンテが笛を吹き鳴らしながら進む。 そしてその勇壮な行進曲の下、並々ならぬ決意を固めるオトコが一人。 「変態陰陽師め、この紳士的なナイトが成敗してやる」 囮部隊の女性陣5人から少し離れた後方で、フード付きのコートに身を包んだ盾男(ib1622)が不敵な笑みを浮かべていた‥‥なにやら秘策があるらしい。 敵の背後を突く奇襲部隊としては、アルティア・L・ナイン(ia1273)と孔王(ib3939)が、木々の間に身を隠して囮部隊を追う。 周囲に人影が無いか注意しながら、アルティアがぼそりと呟いた。 「陰陽術で女性を悶えさせる集団かぁ‥‥その情熱をもっと別の事に使えば良いだろうにね」 「まぁ、たちの悪い悪戯だな」 自身の女好きを認める孔王ですら、流石に今回の相手は弁護しようが無い。 (「だが、他に人を襲う陰陽師の情報が得られるかもしれん」) 自らの家族の死に関わる陰陽師について、何か情報が得られるのではないか? そんな淡い希望も抱きつつ、彼は件の陰陽師についての対策を考えていた。 「そのついでに、あの女の子達の心を脱がせれば‥‥完璧だな」 「‥‥孔王君、それは女性陣に聞かれないようにした方が身の為だね」 思考の間に思わず口に出てしまった本音に、アルティアが苦笑しながら忠告した。 ●対決 暫くして、ゆらりと開拓者達の前に立ちはだかる影が六つ。それが件の陰陽師、千石麟平の一味であろうことは、誰もが予想できた。 「現れましたわね‥‥思い通りになると思ったら、大間違いです!」 麟平の合図で一斉に術を唱えようとした陰陽師達の先手を討って、アルネイスが斬撃符を見舞った。 「おのれ、やはり討手か!」 麟平は、彼女達が自分たちへ向けられた討手だと云うことも察して、戦闘態勢を取った。 開拓者と陰陽師達がそれぞれ散開し、対峙する。 「‥‥みなさん、お気をつけて。あまり、離れないように‥‥」 シャンテが、演奏を霊鎧の歌へと切り替える。味方を相手の術から守るのと同時に、それは別働隊へ戦闘開始の合図を送る役割も果たした。アルティアと孔王は、陰陽師達の後ろへ回りこむ為に移動を開始する。 陰陽師の一人と対峙したからすは、小柄な身体に大きな弓を構えながら、ふとある疑問が頭に湧いた。 「見た目が子供な私は、獲物としてはどうなのだろう」 「問題無し!」 「ああ、それはいろいろな意味で罪だな」 親指を立てて即答した陰陽師に、からすは容赦なく矢を射かける。もとより見られて恥ずかしい身体だとは思っていないが、違う意味でも彼らに気を許してはいけない気がした。 開拓者達の攻撃に対して、麟平率いる陰陽師達は、少しずつ後退する戦法をとった。逃げながら一斉に術を放ち牽制してくるものだから、うかつに近寄れない‥‥ などと思っていると、戦場の後方から、高らかな男の叫びが響いた。 「そこまでだ!!」 盾男である。彼はそれまで着ていたコートを脱ぎ捨て、一気に最前列へと踊り出る。 その出で立ちは裸‥‥ジルベリアに伝わるという、裸男(ラマン)と呼ばれる全裸戦闘部隊の姿だった。 それは装備を劣化させる術を使う相手に対し、始めから裸で戦うと云う、究極の防衛策。上半身は一糸纏わぬ裸体にして、下半身は‥‥あえてご想像にお任せしたい! 「露男(ロマン)に囚われた変態め。この裸男(ラマン)が成敗してやるネ」 威風堂々と名乗りをあげつつ、ラマンこと盾男はマッスルポーズを取って陰陽師達の注意を引きつける。 「グォッ、目が潰れる!」 効果は覿面、突如現れたラマンのセクシーさに当てられた陰陽師達は、思わず狼狽し目を塞いでしまう。 そのスキを逃さず、アルネイスやからすが、それぞれ斬撃符と五文銭で攻撃を加える。 陰陽師達は狼狽したが、麟平だけは冷静に仲間の陰陽師に呼びかける。 「落ち着け皆の衆! 相手が裸なら、こちらも裸になれば対等だ!」 「おお、成程!」 何が成程なのかはわからないが、陰陽師達は盾男に対抗して服を脱ぎ捨てる。 陰陽師達は、あえて自分たちも裸となることで落ち着きを取り戻したのだった。 「フッ‥‥なかなかやるネ」 「見くびってもらっては困る!」 火花を散らす盾男と陰陽師達。全員裸。 戦況は、混沌を極めようとしていた‥‥後方ではシャンテが、両手で赤面した顔を覆っている。 盾男に対抗して同じく裸男となった陰陽師達は、落ち着きと統率を取り戻し、腹立たしいまでに見事な後退戦を展開した。一斉に錆壊符や斬撃符を放った後、全速力で距離を取り、逃げまわる。 目の前の男達の裸体が乱舞する場の真ん中で、シャンテが必死に『騎士の魂』の曲を奏でている。戦いの中で、皆の心が折れないように、と。 「既に色々耐え難い光景な気もしますが‥‥」 ‥‥シャンテはむしろ、自分の心が一番折れそうな気がした。 「小娘、邪魔をするな!」 と、陰陽師がシャンテに放つ錆壊符を、しかし盾男が身を呈して受け止める。 泥濘が盾男の身体を這い回るが、もとより裸の彼に実害は無い。 「危ない所でしたね。ミーも裸じゃなければやばかった」 「あ、あの‥‥どうも、ありがとうございます‥‥」 シャンテはそう言いつつも、どうしても盾男とは目を合わせられない。視線のやり場に困るのだ。非常に。 しかし、シャンテが歌を奏でて術への抵抗を助け、盾男がその名の通りの盾となり味方を護ったとは言え、流石に陰陽師六名全ての術を受けきるのには無理があった。 「あっ!」 後退し続ける陰陽師の一人を追いかけていた暁に、放たれた変型錆壊符が命中してしまう。暁はそのまま足を絡め取られ、倒れこんだ。 放たれた泥濘は、暁の身体を這い回り、包み込もうとしていく。 「あ、や‥‥ら、らめぇっ」 泥濘はつま先から足首へ、足首から脛へ、脛から腿へ‥‥ずるりずるりと這い上がり、暁の身体を蹂躙する。 「ふふ、嫌がっていても身体は正直ではないか!」 「こ、こんなやつらに‥‥くやしい‥‥でも、感じちゃうっ‥‥」 びくんびくんっ、と、過剰なまでに反応のいい暁に相手の陰陽師もノリノリであった。 そのすぐ近くでは千亞が、陰陽師の仕掛けた地縛霊に足を取られていた。後退しながら木の影に巧妙に隠された、罠型の術である。 「隙アリ!」 陰陽師の一人が藪の中から飛び出し、千亞に錆壊符を浴びせる。 「くぅ‥‥! このウネウネは、ちょっと、ヤ、です‥‥!」 着ていた服はとっくに溶け始めており、もはや服としての役目を果たさなくなるのも時間の問題であった。 「あン、そこは駄目ですっ!?」 「げへへ、このまま嫁に行けなくしてやろうか!?」 こちらは最早一線を超えそうな勢いである。助けようにも、仲間は他の陰陽師を追って手一杯。 陰陽師の手に落ちた暁と千亞、ダブルハード‥‥もとい、二人は色々な意味で洒落にならない状態になりつつあった。 ●奇襲 「よし、なんとか間に合ったな」 戦闘の間に大きく回り道をして、ようやく相手の背後に出た孔王が、木の影から戦況を確認する。 「‥‥間に合ったというか、ある意味手遅れというか‥‥とにかく、そろそろ収集をつけないと」 次いでアルティアが、急いで仲間の様子を確認した。 目の前では暁と千亞があられもない姿で、口では言えない様な凄いコトをされている。 「‥‥あー、うん、これは確かに何と言うか」 「‥‥あの娘、意外と胸があるな」 絶景。 思わず見とれるアルティアと孔王だったが、やがてハッと我に帰り、本来の任務を思い出す。 「──ちょっぴり気持ちが判ったかも‥‥まあ、とはいえコレはやっぱりアウトだけれども」 アルティアはそう言いながら最後尾の陰陽師に瞬脚で近づき、空気撃で容赦なく投げ飛ばした。 「という訳で、手加減なしで行かせてもらうよ」 「ぬぉ、どこから沸いてでた!?」 慌てた陰陽師達は辺りを見渡すが、アルティアは既に瞬脚で木々の間に身を隠している。そのまま次々と目標を変えて攻撃し、相手を撹乱していく。 孔王は、暁と千亞を襲う陰陽師に対し、背後から近づいて猿轡を被せた。そのまま十手で鳩尾を突いて気絶させた後、荒縄を取り出して動けぬよう縛り上げる。 「女としっぽりいくときは体じゃなくて心を脱がすもんだぜ、次からは気をつけな‥‥大丈夫かい? お嬢さん方」 と、ようやく泥濘から開放された暁と千亞を見やる。二人は、大変悩ましい姿のまま、なんとか起き上がった。 「ま、夜春で演技してただけなんだけどね。ちょっと悪ノリしすぎたかな」 「うぅ‥‥私、もうお嫁に行けないっ‥‥」 けろりとしている暁と対称的に悲嘆にくれる千亞。こちらは演技抜きだったようである。 二人の服は大部分が溶かされていたが、暁の方は気にせずに駈け出し、戦列に戻った。 「全裸の徒手空拳こそNINJAの究極スタイル! 急所にイッたらゴメンね〜」 「わ、わ、暁さん、流石に全裸はマズいですっ!」 むしろ服を脱ぎ捨てようとした暁を千亞が止めるが、彼女も見えそうで見えないレッドシグナル状態である。 「いいもん見たぜ‥‥っと、俺もグズグズしてられんな」 二人の白い背中に一瞬見惚れつつ、孔王も慌てて手裏剣を取り出し、後を追った。 背後から奇襲を受けた陰陽師達は、更に機を見てシャンテが奏でた精霊の狂想曲の狂想曲によって混乱状態に陥り、開拓者達に各個撃破されていく。 仲間が次々捕えられ、遂に最後の一人となった麟平を、アルネイスとからすが追い詰める。 「一応聞いておこうか。奥方に不満でも?」 からすが、弓を番えながら麟平に問いかけた。 「無い!」 即答する麟平。つまるところ、彼らは本当に唯の好色なのである。救い難い程の。 アルネイスが、怒りを堪えられず激昂する。 「なら尚のこと、こんな所業は許されません! もし貴方の奥さんや娘さんが同じ目に合わされたら‥‥それを考えた事はあるんですか? 今、大人しく捕まり今後このような行為をしないと誓うなら、私は貴方達にこれ以上何かしたりはしません。これが最後の警告です!」 「ここで投降する程度の覚悟ならば端からこんなことはせぬ! 既に裸一貫にして今更何を恐れる物があろう、掛かって来い!」 もはや平行線、語る余地は無し。麟平が符を取り出し、自身の全力で錆壊符を唱えようとして―― 「そうか。では奥方と被害者の怒りを代弁しよう」 「ぐぉ」 ――からすの心毒翔が、ぷす、ぷす、と麟平の腕と足に突き立つ。ずっと弓を構えていたのだ、麟平より先に動けるのが自然の道理。 「観念なさい!」 「ぬおーっ!」 膝をついた麟平にアルネイスの斬撃符が直撃し、どぐされ陰陽師の最後の一人が戦闘不能になった。 ●成敗 ビダァーンッ! と、轟音を立てて麟平が平手打ちを食らう。依頼人の葉子が、開拓者に捕縛されてきた夫に対し、拷問とも呼べるような折檻を行っていた。 「ぐおぁっ、よせ葉子、これ以上は死んでしまう!」 「問答無用、罪の重さを思い知りなさい!」 他の陰陽師達も、それぞれの家内が駆けつけ、似たような状況になっている。 「当然の報いです! どうぞ思う存分今までの鬱憤を晴らしてくださいませ」 アルネイスは、葉子を握り拳で応援している‥‥流石に加勢まではしていないが。 「わぁ、愛の力って凄いですねぇ」 「こ、これは愛の力とはちょっと違うような‥‥」 のほほんとしている千亞の横で、シャンテはやや心配そうにその惨状を見守っていた。 「あの、怒るのは尤もだけど流石にやりすぎな──ああうん、なんでもないですよ?」 そのあまりの凄惨な制裁に、思わずアルティアが口を挟もうとする、が‥‥横目で自分を睨んだ奥様方の顔があまりにも恐ろしかったので口を止めた。 (「――怖っ!?」) 「助兵衛も度が過ぎれば痛い目に会う、ということだ」 からすが達観した様な態度でアルティアに言った‥‥多少、忠告するようなニュアンスがあった気がしないでもない。 陰陽師達は家内の制裁を受けた後、ギルドに引き渡された。この後、それ相応の‥‥恐らくは厳罰が下されるだろう。 「葉子ー! 儂は諦めんぞ! 必ずまた、研究を再開してやる!」 叫びながら、邏卒に引きずられていく麟平達。 「‥‥懲りない奴らだな。まぁ、気持ちは判らんでもないが」 孔王が溜息をつきながら呟く。女の子と親睦を深める目的は果たせた(?)が、結局、彼が追う陰陽師の情報は、得られなかった。 「寧ろ、バカもココまで逝くと神々しい位だよね」 どっと疲れた様子の開拓者の中で唯一、暁はけらけらと笑って麟平達を見送っている。 「ふう、変態は困りものアルネ。それにしても、ミーももう少し見ごたえのアル体に鍛えた方がいいアルネー」 鏡で自分の肉体を確認しながら、最後にそうまとめた盾男に、仲間達が複雑な視線を送る。 ‥‥人を助ける英雄も、人を襲う外法者も、或いは紙一重なのかもしれない。 そんなことを思いながら、開拓者達は連れ去られていく陰陽師達を見送った。 |