夜叉の流儀
マスター名:有坂参八
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/27 13:20



■オープニング本文

●東房にて
 天儀の東に位置する東房の国は、六王国の中でも特にアヤカシの被害の大きな地域である。
 東房の、特に中央以北の村々は、常にアヤカシの被害に脅かされて日々を過ごしていた。

 だが、人々の恐怖となっているのは決してアヤカシだけではない。
 時としてアヤカシ以上に恐ろしい存在が、罪なき人々へ牙を向くのである。
 ‥‥真の悪は人か魔か。今、ひとつの村が、その両方からの脅威に晒されていた。


●老住職と泰拳士
 東房のとある村にある、小寺の薄暗い一室で、二人の男が顔をつきあわせていた。
 一人は老人でこの寺の住職、もう一人は初老で、開拓者の泰拳士である。
「して鳩座よ、人攫いの野盗共が村を狙っているとは、真か」
 住職が、鳩座と呼んだ目の前の男に対し、そう切り出した。
 泰拳士・三剣鳩座は静かに頷き、言葉を紡ぐ。
「間違いありません、幸いにも開拓者の同志から知らせがありました。
 『夜叉衆』と呼ばれる一党が、この村に狙いを絞った、と」
「夜叉衆・・‥」
 耳慣れぬその名を、住職が繰り返した。
「アヤカシに襲われた村を専門に襲う、開拓者崩れの野盗です‥‥元は陰殻の抜け忍だとか。
 奪う者は金品ではなく、人間。人を食い物にして儲けを得る故、夜叉を名乗ったそうで」
「ほ。気取りおる」
 住職は顔に深く皺を刻み、そう、吐き捨てた。常々アヤカシに頭を悩まされている、この上に夜叉気取りの人攫いとは。
 鳩座は、苦々しげな住職の顔を穏やかに見つめながら、言葉を続けた。
「近頃はこの辺りのアヤカシの動きも活発になっています。先日、大道峠に現れた、鬼の一軍も然り。
 そういった機運を、読みとったのでしょう‥‥今もまた、北方に新たな鬼の群が現れています。そちらももう少し数が増えればおそらくは、こちらの村に向けて動き出すでしょう」
「人攫い共は、動くと思うか」
「間違いなく。彼らから見れば、絶好の機会」
 住職の問いに鳩座は即答し、住職はそのまま顔をしかめて考えこんでしまう。

 ‥‥数十年前に比べれば、この村もずいぶんと魔の森が近くなった。既に冥越が魔の森に呑まれ、東房の国土も随分と侵食されている。ついに近年になってこの村が、小規模とはいえアヤカシの散発的な襲撃を受け始めた。
 村にはアヤカシに対する慢性的な不安と焦燥が満ちている。確かに、その隙に乗じて何者かが村に入り込んで盗みを働いたとて‥‥すぐには、対応できぬだろう。何の備えもなかったとすれば。
「ヒトとアヤカシ、どちらも我らに害をなすか。おお、怖や怖や。
 しかし、あまり時間が無いな‥‥お主のところの弟子は使えんのか。鷹なり、鶉なり」
 住職が鳩座の弟子の名を出すと、鳩座はかぶりをふった。
「生憎、別口の依頼に借し出してしまいまして。それに‥‥今回は人間との争いも有り得ます‥‥あの子供達には、今少し時期が早いかと」
 愛弟子のことを語る鳩座の態度に、住職は苦笑する。
「爺のお節介を言えば、ちと甘い気がするがの。まぁ、おまえの弟子じゃし強くは言えまい、そこは好きにせい」
「恐縮です。では、ギルドに連絡を?」
「それは勿論だが‥‥これ、まさか貴様まで見物を決め込む気ではあるまいな、鳩座。
 さすがにお前には働いてもらうぞ」
 近所のいたずら小僧をしかるような口調で住職が言うと、鳩座も苦笑しながら肩をすくめた。
「私もそこまで薄情ではありませんよ、ええ、ええ。大恩ある住職殿とその村の苦難に、立ち上がらずにはいられましょうか」
「かっ、白々しい。まぁええ、とにかくギルドに連絡を入れてくれ。儂は小坊主達と共に、村人に避難を呼びかける」
「では、そちらはよしなに」

 話が纏まり、鳩座は歳の行った外見の割には、軽やかな動作で立ち上がった。部屋を出る直前、その背中に住職が語りかける。
「‥‥防ぐぞ、鳩座。儂らはアヤカシに食われるのも、人攫いに売り飛ばされるのも御免じゃ」
「ええ。皆、気持ちは同じでしょう。お力添えいたしますよ、住職殿」
 言葉は身のこなしと同じく、柔らかく軽やかに。そう受け答えて、鳩座は部屋を去った。


●依頼
 そして開拓者ギルドにやってきて、信用できそうな開拓者達をかき集めた鳩座は、依頼の内容を手短に告げた。
「我らの村の北方に、十匹ほどの鬼の群が現れ、こちらに向かっております。しかし、問題はそれだけではありません。
 アヤカシと同時に、夜叉衆を名乗る野盗が動いております。彼らは人攫いを働くシノビの集団であり、村がアヤカシに教われ混乱している間に、村人を攫う腹積もりの様子。
 アヤカシに人攫い。この二つから村を守るために、手を貸してはいただけないでしょうか?」
 既に鬼の一団は、村に向けて移動を始め、村人たちも一箇所にまとまって避難をしている最中だと云う。
 そしてまた、夜叉を名乗る外法者も。
「時間は余り残されていません。詳しい話は、移動しながら説明いたします故‥‥何卒お力添えを頂きたく」
 初老の泰拳士は、開拓者達に敬々しく頭を下げ、そう願い出たのだった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
キース・グレイン(ia1248
25歳・女・シ
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓


■リプレイ本文

●入村前
「同族を食い物にするなどと‥‥見下げ果てた連中だな」
 件の村へと向かう道中、キース・グレイン(ia1248)は、話に聞いた外道の人攫いを、そう斬って捨てた。どんな事情があろうと、そのやり口を考えれば彼らに同情する余地は無い。
「村を襲う鬼の群れに、それに乗じて人攫いをする連中ね‥‥小賢しいというか、何と言うか」
 そういうアルティア・L・ナイン(ia1273)も、表向きの態度こそ軽いが、鋭い瞳で愛用の二刀を握りしめている。
「アヤカシの恐怖で憔悴してるのに、更に人が人を苦しめるなんて‥‥許さない」
 人々を守る事を開拓者の責務とする只木 岑(ia6834)は、その信念が故に、野盗・夜叉衆に対して怒りを燃やす。村の人々に、少しでも穏やかな暮らしをして貰いたいと、岑は決意を秘めた目で戦いに臨もうとしている。

「人を攫ってどうするのかは聞かないでおきたいですが、いずれにしても良いことではありません‥‥できれば捕縛されて悔い改めてほしいと思います」
「ええ。必ず捕らえて、法の裁きを受けさせましょう‥‥この村の方達に危害は加えさせません」
 控えめな態度の柊沢 霞澄(ia0067)に、シノビの菊池 志郎(ia5584)が頷いて同調した。志郎は、自らが夜叉衆と同じシノビだからこそ、夜叉衆の行いを許すまじと感じていた。

 そんな開拓者達に、依頼人の三剣鳩座が改めて、頼み込むように頭を下げる。
「急ぎの依頼の上に無理を申し付けて、相済みませんが‥‥何卒よろしくお願いします」
 霧崎 灯華(ia1054)は肩をすくめて、余裕の笑みでそれに答えた。
「ま、面白そうだから一暴れさせてもらうわよ。取り敢えず、村の構造と村人の顔は一通り覚えておきたいわね」
 狂気を含んだ笑みを浮かべながらも、灯華は冷静に策を講じている。
 敵が来れば村には大なり小なり混乱が生ずる。村人も交え、それにどう対応するか話しあっておきたいと、開拓者達は考えていた。
「敵もシノビとあれば、どこでどう監視しとるかわかりませんな。盗聴されても平気な様に合言葉を決めておきますか」
 志郎と同じくシノビの風鬼(ia5399)は、どこか呑気な空気を漂わせながら、しかし鋭い眼つきで村の周辺を見回している。

 結局、開拓者達は二手に分かれ、鬼と野盗を同時に迎え撃つことにした。
 鬼に対応する組は霞澄、キース・グレイン、崇山 薫(ia1747)、そして鳩座の四人。
 夜叉衆に対応する組は、灯華、アルティア、風鬼、志郎、岑の五人、という構成だ。

「三剣さん、村への迂回路はありますかね。一部のメンバーは伏せたまま村に入りたいのですが」
 風鬼に言われ、鳩座は僅かな思案の後、西側の林を指さした。薄暗い林の中に、普段村人が使う抜け道があるという。主に夜叉衆に対応する者達の一部が伏兵として、その林を抜けて秘密裏に村に入ることにした。
 アルティアや変装した風鬼、灯華は、アヤカシ組と共に件の村へと入っていく。

●鬼
 村に入った後、霞澄、キース、薫、鳩座の四人は村の北側へと移動し、アヤカシへの迎撃の姿勢を取った。

「相手は突進力があるから‥‥万が一にも突破されて、村に入られたりしないようにしなきゃいけないわね」
 辺りを警戒しながら、薫が言った。
 十匹の敵に対し、迎撃の開拓者は四人。少ない人数を補う為に、あたりには霞澄とキースが持ってきたおびただしい数の撒菱が巻かれている。
「気休めかもしれんが、これで少しでもアヤカシの進軍を緩和できれば、な」
 撒菱を辺りに巻き終えたキースは既に、臨戦態勢を整えて迎撃の構えを取っている。
「怪我をすれば、私がすぐに治せるように備えておきますので‥‥」
 霞澄も支援のできるよう、他の三人のやや後ろで待機していた。巫女として回復を担うつもりだが、この人数では自身も攻撃に回る必要も出てくるかもしれないと、予め白霊弾を準備している。

 アヤカシに備える鳩座の様子を見て、彼と同じ泰拳士の薫は、ふと思い立ったように声をかけた。
「そういえば、東房系の拳法流派にはあまり詳しくないのよね‥‥うちの流派は殆どが泰国流れの拳法だから。
 機会あれば鳩座さんのお手並みを拝見したいところだわ」
 一流派の師範である薫にとっては、ごく自然な興味と言えよう。薫が値踏みするような視線を送ると、鳩座は柔和に笑いながらそれに受け答える。
「‥‥お望みとあらば、村を守った後にでもご覧に入れましょう」

 やがて、近場の藪から鬼たちが現れ、こちらへと駆けてくる。十匹の鬼の中に数匹、体格のいい甲冑を纏ったものが紛れている。
「来たわね‥‥小型の雑兵から片付けるわよ」
 まずは数を減らすこと、そして機動力に長けた者を潰すことが肝要である。薫はある程度アヤカシを引き寄せると、撒菱は避けつつ積極的に前に出ていった。
「破ッ!」
 極神点穴で突かれた鬼が、大きく身体をよろめかせて唸りをあげた。すぐさま追撃の蹴りが叩き込まれ、絶命する。
「次!」
 八極天陣の構えを取った薫は、そのまま敵陣の真っ只中に立って鬼達を殲滅していった。彼女に手を出す鬼は、返し技の転反攻で容赦なく仕留められていく。

 一方、一歩下がったところではキースと鳩座が、防衛網を抜けようとする鬼達を抑えていた。撒菱を踏みつけた鬼達は、痛がりはするものの、やはり侵攻を止める決め手にはならない。
「‥‥来いッ!」
 キースは、不動で自らの身体を硬質化させ、守りを固める。
 大勢の人間の気配を感じ取ったのか、背後の村へと抜けようとする鬼をひっ捕まえ、直閃による強烈な鉄拳を見舞う。
「おらぁーッ!」
 本来サムライの彼女が放つ拳は、泰拳士のそれとはまた異質な威力がある。傍らで戦う鳩座が、感嘆の声をあげた。
「御見事。サムライ式の徒手空拳とは、重さが違いますな」
 鳩座もキースと同様に、空気撃にて手近なアヤカシを撒菱の上へと投げ、足止めしている。
「あまり無駄打ちはできませんが‥‥」
 そして二人が仕留め切れなかった敵は、霞澄が後方からの白霊弾で仕留めていく。そうして、なんとかアヤカシを押さえ込んでいる状況だ。
 薫が最前線で敵の数を減らしつつ、他の三人が足止めをするという形で、アヤカシの迎撃自体は比較的順調に進んでいた。
(「あとは‥‥夜叉衆、か」)
 キース戦いの最中、自分の背後にある村を振り返った。なにやら怒号と、村人たちのどよめく声が聞こえたが‥‥今は、目の前の敵に集中するしか無かった。

●夜叉
 野盗・夜叉衆に対応する五人は、村に入るとそれぞれの配置についた。
「あたしは、ソロで動かせてもらうわよ」
 そういう灯華は、既に村娘の風体に変装済みだ。一般人を装いつつ、服の裏には符を縫いつけ、懐には短刀を隠し持っている。村人にまぎれて騙し討ち、といったところだ。

「アヤカシは僕の仲間が片付けるから、皆さん、どうか心配しないで」
 アルティアはたった一人、護衛として堂々と村人の避難を誘導している。あえて手薄な防備を演出すれば、相手が却って油断するのではないかという発想だ。

 抜け道の林を通って村へ入った志郎は、小寺の前で村人たちに最初の心がまえを説いている。
「村人のふりをした賊が、皆さんを扇動して混乱させるかもしれません。何があっても取り乱したり、一人では行動しないようお願いします」
 同じく抜け道を通った岑は、寺の境内にある高めの松の木に上り、遠くを見渡せる態勢を整えた。北の方角では、既にキース達四人がアヤカシと交戦している。
(「向こうも変装して、紛れられると厄介ですね‥‥」)
 内部から騒ぎを起こされるのは一番避けたい事態だ。岑は寺から離れる人間にも注意しつつ、村の各所を警戒する。
「さて、そろそろ慎重にいきますかな」
 風鬼は超越聴覚を使い、周辺の物音に注意を払い始めた。彼女は村人風の着物に、ご丁寧にほっかむりまで被って民衆に溶け込んでいる‥‥尤も、彼女の異質なまでに青白い肌を隠すには、それくらいが妥当なのだが。

 そして――
「二郎、おいで‥‥!」
 風鬼と志郎の耳に、岑の符号が届く。
 東より来る四つの影が散開し、あっというまに村の柵を越えてきたのを、岑の目が捉えた。
 風鬼が一度手を高く挙げて振り、『二郎』を示す二本指を立てる。その仕草で、他の仲間にも敵の来襲が伝わった。五人の開拓者達に、それぞれ緊張が走る。

 夜叉衆は、開拓者達の目の前に、影のごとく静かに、疾くして現れた。
(「早駆か、ずいぶん強引に獲っていく――」)
 アルティアは、それが囮でも構わないから最も近い者を迎撃する、と腹を決めていた。
 だが、立ちはだかろうとするアルティアを前にしても、夜叉衆は彼を無視して迷わず村人達を狙い、ひたすらに駆けた。
 アルティアは冷静に夜叉衆を引きつけ、村人に手を出そうとする直前にあわせて瞬脚で夜叉衆に詰め寄る。地を這うような低姿勢から百虎箭疾歩を繰り出し、足を斬りつけた。「君たちみたいな手合いは気に食わないし、遠慮無く叩きのめすとしようか」
 夜叉衆の男はアルティアを睨みこそするが、応えはしない。強引に瞬脚で村人を捉えようとしたところに、容赦なく二回目の百虎箭疾歩が叩き込まれる。
(「‥‥こいつら、護衛は完全に無視か?」)
 アルティア一人を引きつければいいと踏んだか、あるいは端から誰か一人でも拉致に成功すればいいと考えているのか。
 とにかく残りの夜叉衆も、アルティアを完全に無視し、強引に村人へと近づいていく。
「させるかっ!」
 木から降りた岑は、夜叉衆を阻むように動きながら、心毒翔を放った。急所を狙って一撃の元に仕留めたいのが本音だが、歯を食いしばって足元を狙う。
 足元に矢を突き立てられた夜叉衆が転倒したところに、村人として伏せていた志郎が追い打ちをかけて気絶させる。
「これで二人‥‥できれば、殺さずに全員捕縛したいですが‥‥」
 アルティアが仕留めた夜叉衆共々、急いで相手を縛り上げながら、志郎は辺りの様子を確認する。
 岑が遠目に捉えた影は四つ、残る二人は既に村人達に迫ろうとしている。
「急いだ方がよさそうだな‥‥!」
 風鬼と灯華が、村人に混じって警護しているとは言え、安心はできない。岑ら三人は、すぐに残りの夜叉衆を追った。

 すでに多くの村人が避難を終えているが、未だ十数名の村人が寺の前に残っており、目の前に敵が現れた事で少なからず動揺をみせて、列を乱し初めている。
 仲間二人を犠牲にしてようやく村人に近づいた夜叉衆の一人が、しめたとばかり、列の最後尾の娘に手を伸ばすが‥‥
 ぷすり、と軽い音を立てて、夜叉衆、村人双方の動きが止まる。
「おっと。そのまま走ったらわたが出ますぜ」
 掴んだ村娘に刃を突き立てられたのを見て、夜叉衆は彼女が開拓者の囮だと悟った。だが、時既に遅し、短刀を腹に深々と刺された夜叉衆は、動けなくなってその場に倒れこむ。残るは、一人。

 開拓者の迎撃を逃れた夜叉衆の一人が、村人の集団から離れた若い娘に狙いを付けて駆けて行く。早駆を用いて、一気に近づき娘を抱えあげようとする。
「きゃ〜、助けてー! ‥‥なんてね」
 だが、絶好の獲物であるとみえたその娘に手を伸ばした瞬間、伸ばした手は繰り出された斬撃に切り刻まれた。
「!?」
 腕から豪快に血しぶきをあげる夜叉衆に、村娘に扮した灯華は満足気に微笑を浮かべた。
「夜叉だか何だか知らないけど、大層な名前名乗ってるのね。小娘一人に手玉に取られる癖に」
 夜叉衆は灯華の挑発にぴくりと反応するものの、背後から迫る仲間の開拓者を見て残りは自分一人と悟り、逃走の構えを見せた。
「あら‥‥もっと楽しませてよ?」
 その背後に灯華が容赦なく斬撃符を浴びせる。早駆で後を追った志郎と風鬼が手裏剣を放ると、夜叉衆はそのまま動かなくなった。


●村は護られて
 夜叉衆は開拓者の潜伏に気づかず、村人の護衛がアルティア一人と踏んだらしい。開拓者達が張った罠の中に飛び込み、結局は本物の村人に指一本触れること無く囚われたことになる。
 最後に逃走を測って討ち取られた一人を除き、結局は夜叉衆の内の三人が縄にかかった。

 対アヤカシ組も、鬼型のアヤカシを殲滅し、寺の前に集まった対夜叉衆組と合流する。
「精霊さん、皆さんの怪我を癒して‥‥」
 霞澄の閃癒で、傷付いたアヤカシ退治組の開拓者と、縛られた夜叉衆の傷が癒される。瘴索結界を用いて周囲のアヤカシの気配も確認する。
「周囲の瘴気も消えたようです‥‥アヤカシは、もう居ないと思います」
「夜叉衆の方も、これで落ち着いたようですが‥‥」
 超越聴覚を使いながら、いまだに警戒を怠らずにいた志郎も、安全を確認する。
「結局、夜叉衆は四人だけだったのかしら?」
 薫はそういいながら、村に被害が無いかを注意して確認している。北側の木柵が多少破損した以外は、さしたる被害は無いようだ。
 村人達が避難している寺の堂内から、住職が出てきて、薫の言葉に答えた。
「互いに確認し合ったが、特に欠けている者も居らなんだ。とりあえずは、凌いだと見て良いじゃろ」
 その言葉を聞いてようやく、一同はようやく胸をなで下ろし、緊張を解く。
「所詮君たちはアヤカシのおこぼれを狙う小賢しい小物。そんな輩が夜叉を名乗るなんて烏滸がましいにも程があるよ」
 アルティアが、縛られた夜叉衆を見下ろし言い放つ。言われた夜叉衆が開拓者達を睨み返すのを見て、キースが言葉を続けた。
「抜け忍であろうと、他に生きる術が無かったとは言わせんぞ。自ら野盗に身をやつした報い、受けて貰わねばな」
 開拓者達の言葉に、夜叉衆は短く呟いた。
「手厚い歓迎をしてくれた物だな。何も喋る気はないぞ」
 生かして捕えても無意味だと言わんばかり、それっきり押し黙る。
 
 鳩座は、そんな夜叉衆の態度も気にせず、満足気な顔で開拓者に向けて礼を述べた。
「事後処理は私がギルドと共に行います故、そちらはご心配なく。この度は、ありがとうございました」
 結果的に三人もの夜叉衆を捕えられたことに、鳩座は深く感謝していた。同じように住職も、開拓者達に深々と頭を下げる。
「夜叉衆の捕縛は今後の捜査の糸口となろう。何よりも、村人に一人の被害者も出さずに今回の危機を乗り越えられた。村人一同、感謝いたしまする」
 住職の後ろでは村人たちが、安堵した表情で、口々に開拓者達に礼を述べていた。

 開拓者達の人力のより、鬼と夜叉、二つの脅威から、村は守られた。
 依頼に関する諸事が終わったのを見て、薫が鳩座の背中に呼びかける。
「それで‥‥鳩座さん。お手並み拝見の方は叶うのかしら?」
「これは、覚えておいででしたか。この老骨でよろしければ、お礼も兼ねまして‥‥」
 苦笑した鳩座は、薫を寺の境内へと案内していく。
 後日、村には鳩座が助っ人の開拓者にこてんぱんにのされた、という噂が立ったが‥‥真相の程は不明である。