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■オープニング本文 少しだけ秋の風が混じり始める中、陶 義貞(iz0159)は開拓者ギルド下宿所の庭を掃いていた。 「大福ー、あんま転がってると汚れて風呂に入れられるぞー」 そう言いながら慣れた様子で箒を動かす。 開拓者ギルド下宿所に身を置く様になって既に三年以上。そろそろ雑事も含め、開拓者としての仕事にも慣れてきた。 一時期、拾った猫又の騒動で仕事も手につかなくなったが、だいぶそれも落ち着いて何とか出来ている。とは言え、懸念材料は多い。 「……もうちっと仕送りの金額増やした方が良いかな」 此処最近、アヤカシや人間が起こす悪行に寄ってかギルドへの仕事が増えている。表に出ているだけでも多いと感じるのだから、見えていない部分ではもっと大量に事件が転がっている筈だ。 それに比例して出身地である狭蘭の里での資金繰りも厳しくなっているようだ。ここ一年で里を捨てた者も居ると言うし、油断は出来ないだろう。 「ん? 如何した?」 考え込んで箒の手が止まっていたのだろう。心配そうに顔を見上げるもふらに笑んで、義貞は掃除を再開させた。 其処へ聞き慣れた声が響く。 「義貞! 義貞は居るか!?」 山本・善治郎だ。 彼は庭に駆け込むと、掃除に手を動かしていた義貞を見止めた。そして彼に詰め寄ると必死の様子でこう続けたのだ。 「悪いんだけど、今すぐ依頼を引き受けてくれないか!」 「え……俺で良いの、か?」 いつもなら真っ先に志摩を訪ねて来るはず。にも拘わらず今回は義貞を名指しだ。 その事に疑問を持ったのだが、山本は言う。 「志摩は今、手が離せない用事があるんだ。だから義貞に頼もうと思って……駄目か?」 成程、納得した。 義貞は箒を邪魔にならない場所に置くと、苦笑しながら首を横に振った。 「いや、俺で役に立つなら引き受けるよ。んで、その依頼ってのはどんななんだ?」 「ああ、それがな――」 そう言うと、山本は手短に彼へ用件を伝えた。 ●都沿いの街道 地図を片手に歩いてきた義貞は、同行している開拓者等と振り返ると足を止めた。 「この辺りかな?」 そう言って地図に視線を落とす。 これは山本が出発前に手渡した物で、都から一番近い村からのへの簡単な図が描かれている。其処に敷かれた一本の線が、今回彼等が辿っている物だ。 「んー……万商店に納める荷が来ないから調査してくれって言われたけど……此処に来る途中も何もないし、道に迷ってるとかじゃないのか?」 見た所、地図はかなり簡単に作られている。もし道を知らない者なら迷う可能性もあるかもしれない。 けれどそう思った矢先、思わぬ声が聞こえて来た。 「誰かー! 助けてくれぇ!!」 「! こっちだ!」 叫び声はこの先の道、2本に枝分かれした道の内一方、林に囲まれた街道から聞こえる。 義貞と開拓者は急ぎ街道に駆け込んだ。 其処で目にしたのは、荷物をひっくり返した状態で尻餅を付く商人の姿。彼はガクガクと震えながら、散乱した荷物を被っていた。 「こ、これは……」 散乱した荷物。それを目にした途端、義貞の頬が紅く染まる。それでも依頼を優先しようと商人に歩み寄ると、彼はとんでもない事を言い出した。 「さ、最上級の紐ショーツが盗まれた! 犯人を捕まえてくれ!」 「え」 今なんて言った? 言葉に固まる義貞を他所に商人は続ける。 「あの泥棒、行き成り道の端から襲って来たんだ。で『至高の下着を寄越すのだ!』って叫びながら商品をひっくり返しやがった!」 いや、確かに散らかっている商品を見れば今の言葉は納得出来る。 そもそも散らかっている商品は俗に言う下着類ばかり。襦袢にさらし、褌にショーツと、その種類も多種多様である。 「万商店の坊ちゃんから支給品が不足してるって依頼を受けて来たってのにっ!」 「え、あの支給品って……」 誰もが覚えのある物だろう。 ともかく、この商人があの下着類を運んでいたとして、だ。困るのは万商店のあの人だろう。 「えっと……犯人がどっちに行ったか、わかるか?」 「あっちだ!」 そう言って男が指差したのは林の中。 草が生い茂り、木々が軒を連ねる其処は、正直言って歩き辛そうだ。だが幸いな事もある。 「草が割れてる……これを辿れば追い付けそうだ」 そう。犯人は間抜けなのか、綺麗に道を作って走って行った。全力で追い掛ければ追いつくだろう。 義貞は開拓者等と目配せをすると、一気に駆け出した。そして直ぐに怪しい人影を発見する。 「おい、其処の変態、待ちやがれ!」 叫んだところで止まる事は期待していない。 しかし―― 「誰が変態だ! 俺は至高の収集家にして、至高の下着好き、陽光(ようこう)様だぞ! 損所そこらの変態と一緒にするな。失礼だろう!」 男はそう言うと、手にした紐ショーツを大きく掲げた。その姿は正に変態なのだが、男は何処か誇らしげだ。 「うるせえ! 下着握り締めて叫んでる時点で変態確定なんだよ! 良いからその下着を返せ!」 「嫌に決まってんだろ!」 即答で返された言葉に義貞の中でイラッと何かが揺れた。だが此処は我慢だ。 「折角最上級のショーツが手に入ったんだ。コイツは誰にも渡さん! 例え同じ収集家であるお前にも渡す訳にはいかん!」 ちょっと待て。誰が収集家だと言った? 流石に米神がヒク付き始めてきた。視線を落し、拳を握り締めて必死に堪える。 しかし変態こと陽光は更に続ける。 「だが機会を与えてやろう」 「は?」 「至高の芸術を手に入れたくば我を倒せ! さあ、倒して手に入れて見せよ!」 男はヌンチャクを取り出すと、ショーツを片手に華麗な演武を披露した。それを見るに、かなりの使い手だろう。 だが片手には紐ショーツ。 義貞は大きく息を吐くと静かに額を抑えた。 「……おっちゃんの苦労が、なんかわかった気がする」 そう言って視線を戻す。そして男が持つショーツを一瞥すると、自らの刀に手を掛ける。 「任された依頼は何であろうとこなす! 仕送りの為だ!」 義貞はそう言い切ると勢いよく2刀の刃を抜いた。 |
■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
リンカ・ティニーブルー(ib0345)
25歳・女・弓
東鬼 護刃(ib3264)
29歳・女・シ
匂坂 尚哉(ib5766)
18歳・男・サ
八条 高菜(ib7059)
35歳・女・シ
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 晴れ渡る空の下、匂坂 尚哉(ib5766)は何とも言えない表情で目の前の男――変態を見ていた。 「……なぁ、義貞」 ポツリ、零した声に覇気がない。それに気付いたのだろう。刀を手にした陶 義貞(iz0159)の首が傾げられる。 「俺らもそんな頭よくねぇけどさ、世の中にゃ上には上ってのが居るよな……」 盛大に呆れた顔で告げられる言葉に思わず同意しそうになる。だが此処は敢えて言おう。 「それは違う」 それこそ神妙な面持ちで応える義貞に、尚哉の目が瞬かれる。 「俺等の悪さと、アイツの悪さ。決定的に中身が違うっ!」 同列に考えたら駄目だ! そう言い切った彼に「あー」と声が漏れる。確かに言われてみれば質が違うと言うか、何と言うか……。 一瞬でも同列に考えてしまった事が悔やまれる。 思わず視線を逸らした尚哉。そんな彼の視界を颯爽と通り過ぎる者があった。 「ハァイ♪」 軽快に微笑みながら変態に声を掛けたのは雁久良 霧依(ib9706)だ。 彼女はまるでマントの様に羽織ったローブをそのままに腕を組むと、変態の容姿を上から下まで眺める様に見遣った。 「何だテメエは!」 「ふふ。貴方って下着が大好きなのね♪」 「あ?」 何を当たり前の事を。そんな表情で訝しんで見せる変態に霧依の口角が上がる。 彼女は一瞬だけ尚哉と義貞に目を向けると、すぐさま男に視線を戻す。そしてこう続けた。 「下着のどのへんがいいのかしら? よかったら教えてくれない?」 「ほう。嬢ちゃんは下着に興味があるのか」 コイツは見込みがある。そんな雰囲気を醸し出す変態。どうやら興味が霧依に向かったようだ。 それを見止めて、今まで様子を伺っていた東鬼 護刃(ib3264)が呆然としている尚哉と義貞に近付く。そして双方の袖を引くと、そっと耳元で囁いた。 「いやはや、お主らはつくづく妙な依頼を呼び込むようじゃのぅ?」 クツリと笑う感覚に、2人の目が勢いよく向く。けれど何かを口にする前に、護刃の口元に人差し指が立てられた。 「さ、真面目にひと仕事しに行こうかのぅ?」 告げて視線を茂みの向こうに向ける。其処には既に移動をはたした六条 雪巳(ia0179)とリンカ・ティニーブルー(ib0345)の姿が見えた。 二人の表情を見るに、思っている事は同じ……そんな所だろう。 妙に納得しながら、霧依に下着について力説し始めた変態を尻目に移動を開始する。すると霧依とは別にもう1人、変態に近付く者がいた。 「ふふ、ここは私たちにまかせてください。がんばって注意を惹きますからー」 そう言って穏やかに微笑むのは八条 高菜(ib7059)だ。彼女は何か考えでもあるのか、迷うことなく変態に近付いてゆく。 それが更なる助け舟となって難なく茂みに4人の身が沈むと、雪巳がしみじみと様子で呟いた。 「世の中というのは、広いのですねぇ」 見聞を広げる為に開拓者になったが、此処まで広げる必要があったのだろうか。と、若干憂いを抱いてしまう。 それでも依頼は依頼だ。 「触らぬ神に祟りなし、と行きたい所ですけれど、支給品は返して頂かなくてはなりませんし……何とかしましょう」 雪巳はそう零すと、意を決したように前を向いた。 それに習う様にリンカの目も前に向くのだが、その視線が一瞬にして落ちる。 「……楽しみにしてた依頼が、よりによってこの手の手合い……っ」 残暑も陰を潜めて過ごし易い季節になり、義貞も元気になってきて、一緒に依頼を受けるのが楽しみだった。 なのに、なのに、よりによってこの変態! リンカは指の先が変色しそうな程にキツク拳を握ると、キッと変態を睨み付けた。 ●変態談義 変態と顔を合せる霧依。彼女は切々と語られる下着への愛を耳に、不敵な笑みを絶やさない。 下着が最上、下着が夢、下着こそが正義! そんな馬鹿げた主張も彼女にとっては聞くべき大事な主張だ。そして変態も馬鹿にする事なく耳を傾けてくれる彼女に、少なからず心を許している様だった。 「そのお話に、私も混ぜてくれませんかあ?」 不意に響いた声。これに変態の目が向かう。 「お? 何だ、そっちの嬢ちゃ……姉ちゃんも下着に興味があるのか?」 「今、言い直しましたあ? 言い直しましたかあ?」 確かに言い直した。けれど変態は「さあ?」と首を傾げて誤魔化そうとする。 それにニッコリ微笑みながら、高菜は変態に詰め寄って行く。これに変態の足も下がるのだが、次いで聞こえた声に彼の足が止まった。 「まぁ怒りません。それよりも、私も良い下着を持っているんですが、ご覧になります?」 「ほう?」 どんなだ? そう目を見張る男に、高菜の瞳がいっそう微笑む。そして自らの小袖の合わせ目に手を差し入れると―― 「義貞さん、駄目!」 「……尚哉もじゃ」 茂みの中で様子を窺っていた義貞の目がリンカに、そして尚哉の目が護刃に塞がれる。 そして誰にも視界を塞がれる事の無かった雪巳の目に、驚愕の光景が飛び込んできた。 「さぁてさて、じゃあこんな下着はいかがでしょーうかっ」 ジャジャーン☆ と、効果音付きで披露されたのは、小袖の合間から擦り抜けてきた真っ赤な紐――否、これは紐ショーツだ! 「そちらにある紐ショーツの赤。そして使用――」 「使用済みは却下だ」 「!」 あっさりと却下されて高菜の目が見開かれる。 拒否するにも少し速過ぎやしないだろうか。だが男は言う。 「何者にも汚されていないからこそ至高! 究極の美を汚すなど、言語道断だっ!」 「む、楽にすめばいいと思ったのになあ」 そう言いながら赤の紐ショーツを指でくるくる回す。と、其処へ霧依の笑い声が響いてきた。 クツクツと喉奥で笑う声に、双方の目が向かう。 「貴方たち、判ってないわ。判ってない。そう、何も判ってないわ!」 くわっと目を見開いた彼女に、変態と何故か高菜が驚いた様に視線を注ぐ。 「下着とは何ぞや? そは日用品! 穿かれ、汚れ、洗われまた穿かれるを繰り返す! そして用いられる程にその美……実用品としての、雑器としての美を日々増してゆく……未だ穿かれてもいない下着を至高と呼ぶは愚の骨頂!」 ビシッと突き付けられた指に、変態の足が揺らぐ。 「貴方の手にあるのは只の綺麗な布に過ぎない。この至高の逸品を見よ!」 ジャジャーン☆ 本日二度目の効果音。 それと同時に取り出されたのは、暗器にもなると言われる究極の下着――女児ぱんつ「蜜蜂」だ。 「なん、だと……そ、その下着は究極の手作りぱんつ……っ!」 変態が衝撃を受けた様に膝を着く。だが霧依の反撃はこれで終わらない。 彼女はあろうことか手にした下着を頭に被ると、口角を吊り上げて変態を見下ろした。 「これは知人の10歳の女の子から盗――いえ借りたものよ。日々の使用で毛羽立ち、ほつれも見える。洗濯で落ちない汚れもある……これこそが下着の美よ!」 もう何が何だか。 けれど隣で聞いていた高菜は何故か拍手。そしてその音を聞いていた尚哉と義貞、そして護刃にリンカと雪巳は、何とも言えない面持ちで顔を見合わせると、どっと疲れた体を叱咤するように立ちあがった。 「……動くなら今の内じゃろう。わしが合図したら飛び掛かるんじゃぞ」 護刃はそう囁くと、シノビらしい軽やかな動きで変態の背後に移動すべく動き出した。 それを見送って雪巳が七色に輝く扇を開く。そして何事か思案するように瞳を動かし、そっと尚哉と義貞の手に触れた。 「……心を強く持てますように」 祈りを込めて囁き、最低限の加護を2人に与える。だがこれはつまり、そう言う事で…… 「義貞さん、尚哉さん、援護は任せて」 追い打ちをかける様に告げられたリンカの言葉に、尚哉と義貞は顔を見合わせて、大きな溜息を零したのだった。 ●変態を懲らしめろ! 茂みの向こうから様子を窺う雪巳の目に、勢いよく立ち上がる変態の姿が見える。 「師匠! ぜひ師匠と呼ばせて下さいっ!」 霧依に向かって詰め寄る変態の目は本気だ。 その姿に苦笑しながら、雪巳が新たな術を刻む。それは僅か先に見える変態が逃げるなどと言う馬鹿な真似をしないようにする為の保険だ。 「師匠、何故何も言って下さらないのか!」 変態は焦れたように霧依へ手を伸ばす。が、その手が触れる前に、変態は聞き覚えの無い声を耳にする。 「そう呼ぶ前に、その盗品を返して貰おうかのう」 背後から突如として響く声に振り返る。 其処に居たのは三枚の符を指に挟んで微笑む護刃だ。彼女は鋭い眼差しで変態を射抜くと、口の中で印を刻む。 「い、いつの間にッ」 変態は急ぎ踵を返そうとした。 この距離で何かしらの技を受ければ避ける事など出来なくなってしまう。けれどそんな動きを後方から飛んで来た矢が遮る。 「!」 ザッと頬を掠めて近くの木に刺さった矢。 それを辿った変態の目が新たに捉えたのはリンカの姿。彼女は新たな矢を番えながら呟く。 「我慢、出来なかった……」 下着について切々と変態が語る間、何度射抜こうと思ったか。 此処まで必死に耐えたのは仲間の為で、今だって仲間の為に射た事に違いない。それでも射足りない分は、もう一矢に籠める。 そんな彼女に続き、尚哉も地面を蹴る。皆で作り上げた最大の機会を逃す訳にはいかない。 彼はすぐさま変態の間合いに入ると、手にしている木刀に力を籠めた。 「ずっと話聞いてたけどさ、俺には理解できねぇ。つーか、変態の仲間入りするつもりもねぇから、わかる気もないけど!」 ガッと鈍い音が響いて、握っていたヌンチャクが地面に落ちる。けれど肝心のショーツはまだ変態の手の中だ。 「っ、この下着だけは……何としてもっ!」 この叫びに護刃の口角が上がった。 「それは良い心がけじゃな。下着を盾にするか傷つけるような動きはしてくれるなよ? 自らの身体を呈するくらいはせんとなぁ」 「何?」 変態が疑問を持ったのも束の間、彼の足元が大きく揺れた。直後、凄まじい水圧が男に襲い掛かる。 「こ、これはッ!?」 行く手を阻む水柱に動揺して、手からショーツが落ちそうになる。しかし流石は変態。 最後の手段にとショーツを懐にしまうと、ギリギリの平衡感覚で走り出した。 「尚哉、咆哮を使え!」 「任せろ――……って、あれ?」 注意を惹く為に咆哮を放とうとした尚哉がふと止まる。そして何事かを思案すると、くるりと義貞を振り返って、 「……ごめん」 「尚哉ぁッ!!」 えへっと舌を出した尚哉に、義貞が叫ぶ。 そうしている間にも変態は林を抜けようと必死だ。 転げそうな足をもつれさせつつ何とか林の中を駆けて行く。そしてもう少しで外に出れる。 其処まで来て何かが彼の足を叩いた。 「ふふ、逃げられると思ってるの? あなたには下着だけじゃなく女の子も興味を持てるようになって貰わないと」 クスクス笑いながら詰め寄ったのは、両の手に鞭を構えた高菜だ。 彼女はにこやかに。けれど何処か逃れられない気迫を懐きつつ近付いてくる。そして幾度となく変態の身に鞭を振り落してゆく。 「ほらほら、いいかげん諦めなさい」 「皆さん、あそこです!」 鞭で叩かれ足止めを喰らう変態。それを見付けて叫んだ雪巳に、変態も気付いた様で、皆の後方を駆けてくる霧依の姿に気付くと、あろうことかこんなことを叫び出した。 「師匠、助けてくれぇっ!」 「……最低ね」 ボソッと呟いたリンカの言葉は尤もだ。 変態は必死に霧依へ助けを求める。だが当の霧依はこの言葉に思わぬ行動へ出た。 「フォオオオ!」 雄叫びと共に頭に被っていた下着を顎の下まで伸ばして装着したのだ。しかもその瞬間に、自らへ聖なる光を纏って輝き出す始末。 これには変態を追い駆けていた全員が思わず足を止める。 「覚悟せよ。ユニコーン……パンツァー!」 「ぎゃあああああああっ!!!」 光を纏った霧依が下着に仕込まれた針をむき出しにして変態に突撃してゆく。そうして突き刺さった針に変態は沈み、彼は大人しく縄に付く事になったのだった。 ●万商店外 「さあ、キリキリ歩いて参りましょう♪」 万商店に支給品の配達を終えた高菜は、捕縛された変態の縄を締め直すと、鞭で彼を誘導しながら歩いてゆく。 どうやらこれから開拓者ギルドへ連れて行き、自ら矯正したいらしい。 そしてその姿を見守っていた霧依が、爽やかな笑顔を湛えながら変態に近付く。その瞳には慈愛の光が見え、 「罪を償ったら、また下着について語りましょう♪」 「師匠っ!」 瞳に涙を浮かべて頷く変態に満足そうな霧依。 そんな彼女等の遣り取りを他所に、雪巳は支給品に漏れが無いかの確認を行っていた。 「……ええと。女性ものの下着は、女性陣にお任せします、ね」 小さく息を吐き、男性用の下着の数を確認する。其処へ護刃の声が響く。 「数も間違いなさそうじゃな」 「そうね。破損もなさそうだし、問題ないと思うわ」 リンカも頷きながら支給品の無事を確認する。そうして皆で依頼の終了を確認すると、全員の口から重い溜息が漏れた。 「何だか、とても疲れました……」 雪巳の声に誰もが同意を示す。 そして妙な沈黙が流れると、それを破る様に尚哉が口を開いた。 「なあ、疲れた時は甘味が良いって聞いたことあるんだけど……」 伺う様に雪巳へ向けた視線に、彼の唇に笑みが乗る。 「そうですね。それでは甘いものでも食べに行きましょうか」 「やった!」 案外言ってみるものだ。 喜ぶ尚哉に笑みを向け、雪巳は義貞やリンカ、そして護刃にも目を向ける。 「皆さんも一緒に如何ですか?」 精神的にも疲労したのは皆同じだろう。となれば、全員で甘味を食べに行くのも悪くない。 そう提案した彼に断る者は居なかった。 「折角だし、気分転換を兼ねて行こうか?」 元々、義貞を誘って甘味を買いに行こうと思っていた。なので雪巳の提案は願ったり叶ったりだ。 リンカは隣に立つ義貞に目を向けると、彼は笑顔で頷き手を差出してきた。 それに彼女の目が瞬かれる。 「雪巳さんの驕りって事で甘味屋に急ごう! ほら、リンカさんも早く!」 そう言って彼女の手を取ると、義貞は皆の背を追うように小走りに歩き出した。 |