【祭強】雪と鍋と道具と
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/01/26 14:15



■オープニング本文

●東房国・霜蓮寺
 雪が積もり白く染まった世界を見詰めながら、霜蓮寺現統括は困惑した様子で溜息を吐いた。
「天儀一武道会、か……天輪王は何を考えていらっしゃるのか」
 世界最強を決める過去の祭典を再び行うにあたって、東房国の各所にも天儀一武道会のお触れが出された。
 当然此処、霜蓮寺へもその通達が来たのだが、統括には今それに関わっている余裕はない。
「統括、餓鬼山の付近までの除雪が終了しましたぞ」
 統括の自室の戸を開けて現れたのは、巨大な雪かきを抱えた久万だ。彼は防寒の為に着込んだ着物を捲って言う。
「半日掛かって其処までと言うのが痛いですなぁ……嘉栄も寺社内の除雪に苦労しておるようですし、何か良い道具でもあれば良いのですが」
 霜蓮寺には今、例年では有り得ない程の雪が積もっている。僧兵総出で寺社と他社へ続く道の除雪を行っているが追い付かない状況だ。
「除雪のための道具か……確かにそうしたものがあれば便利だが、此処にそうした知識を持つ物もおらぬしな」
 普段から何か対策を練っていれば良かったのだが、霜蓮寺では雪も修行の一部と真面な除雪を行ってこなかった。
 結果、今苦労している訳だが、きっと霜蓮寺だけの問題ではないだろう。
「如何したものか……」
「おや? 統括、手にされているのは天輪王からの文ですかな?」
「ああ、そうだが?」
 言いながら差し出した文を、久万が器用に受け取る。そうして何かを思案する事数分。彼は手袋に覆われた手を叩くと、明暗を思いついたと言わんばかりに声を上げた。
「統括、開拓者に声を掛けましょうぞ」
「何?」
「天儀一武道会とは武を競うだけでなく、国に貢献せねばならぬのでしょう。ならばこれぞ好機! 除雪の為の道具を作る知恵を、開拓者に貰っては如何でしょうな?」
 うまくいけば、その道具を天輪王に届けて国中の困っている地域へ知識の共有が出来るかもしれない。
 そう語る久万に、統括は面食らったように目を瞬いた。
「そんな事で良いのか? だがしがし、今は他国も天儀一武道会の為に開拓者を募っているであろう。除雪の道具を作るだけで来てくれるだろうか」
 隠居が近付いている所為か最近後ろ向きな統括である。そんな声を聞いてか聞かずか、月宵 嘉栄(iz0097)が除雪の合間に戻って来た。
「統括、民が精進鍋を用意したのでどうぞと……如何かされましたか?」
 部屋に入った直後向けられた2つの視線に嘉栄の首が傾げられる。そうして嘉栄に何の説明もないまま、統括と久万は顔を見合わせると頷き合った。
「久万、精進鍋で行くぞ!」
「そうですな、統括。知恵を出して貰う礼に、精進鍋をご馳走すれば開拓者も来てくれるかもしれませぬ!」
「嘉栄、今すぐ開拓者ギルドへ依頼を出してくれ」
「は?」
 何が何やらサッパリ。とは言え統括の申し出を断る訳にはいかない。嘉栄は不思議そうな表情で頷くと、統括が素早く書いた依頼書を受け取った。
「ああ、そうだ。嘉栄は作らなくて良いからな。材料だけ集めてくれ。絶対に材料だけだぞ!」
「はあ……」
 やはり意味が分からない。
 嘉栄は首を傾げ気味に頷くと、統括のお遣いをこなす為に部屋を出て行った。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
千見寺 葎(ia5851
20歳・女・シ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
二式丸(ib9801
16歳・男・武


■リプレイ本文

 見渡す限り雪に埋もれた寺社を前に、戸隠 菫(ib9794)は白の息を吐き出した。
「依頼が出るくらいだから相当だとは思ってたけど、凄い雪ね……」
 何処を見ても雪ばかり。少しだけ雪を盛った跡は見えるが、既に他の雪が積もって対処が間に合わない状態が見て取れる。
「これは一筋縄ではいかないかな」
 そう言って腕を捲ろうとした所で「うわぁ!」と言う声が聞こえた。その声に振り返ると、ケイウス=アルカーム(ib7387)の姿が見える。
「雪、珍しいの?」
 パッと見でもわかる程に目を輝かせる彼に首を傾げる。するとすぐさま彼の顔が赤く染まった。
「ご、ごめん。困ってる人がいるのにわくわくするとか不謹慎だよね……っ!」
「そこまでは言ってないけど、確かに不謹慎ね」
 両手をバタつかせて鳥の様に慌てる姿にコクリと頷く。とは言え、見た所彼の出身は天儀では無いようだ。
 雪が珍しいという事はアル=カマルだろう。そうなれば雪は珍しいだろうし、これだけ積もった姿を見るのも初めてに違いない。
「え、っと……」
「安曇寺の戸隠菫だよ、よろしくね」
「あ、俺はケイウスだよ。菫は雪は馴染み深いのかな?」
「雪かき自体も修行の一環だったかな。そりゃまあ、修行に雪は良いけど、一般の信者さんも来るから程々が良いのは確かかな」
 思案気に零される声に「おお」と何故か感心するケイウス。だがすぐに彼の目は別の人物へと飛んだ。
 雪を見てしきりに瞬きを繰り返すのは二式丸(ib9801)だ。
「二式丸も雪が珍しいのか?」
 仲間発見。そんな勢いで身を乗り出したケイウスに彼の足が下がる。そして僅かに視線を逸らすとポツリと零した。
「え……あ、いや……陽州から天儀に、来て。雪はそこそこ……見慣れたつもり、だったんだけ、ど……この量は、ちょっと……すごい」
「そっかー! そうだよな、凄い雪だもんなっ!」
 言いながら二式丸の肩を抱くケイウス。そんな2人を見てに笑みを零した千見寺 葎(ia5851)は、隣に立つ羅喉丸(ia0347)を仰ぎ見た。
「天儀一武道会か、良いことだな。今までは多くのものが対アヤカシに向けられていたが、それ以外にも向けられる余裕が出てきたという事かな」
 確かに、これまではアヤカシの脅威に怯えるばかりで国全体がお祭り騒ぎという事は早々なかった。
 勿論、王様総選挙や流星祭などもあったが……。
「さいきょう……随分和やかな催しを開かれるようになられましたね……」
 まさか彼が発案して祭りを開くなんて思わなかった。それだけにこの話を聞いた時は驚いたものだ。
 けれど同時に安堵の想いも湧いてくる。
「これが初めて、ですね……」
 そう呟いて再び笑みが零れる。こうして良い方向へ色々な事が動けば良い。そう思いながら足を動かすと、羽喰 琥珀(ib3263)の元気な声が響いた。
「おーい、皆早く来いよ! あっちに使って良い資材があるってさ!」
 大きく手を振りながら皆を招く琥珀。その傍には月宵 嘉栄(iz0097)の姿も見える。
「よーし、頑張るぞっ!」
 ケイウスはそう言って拳を振り上げると、第一歩で盛大に雪へ倒れ込んだ。


 トントン、カンカン。
 軽快な音を鳴らしながら、琥珀は器用に道具の作成を行っていた。
「あとは雪が付かないように蝋燭を塗って……っと、これで完成だ!」
 器用に蝋を塗った彼の手元に在るのは、竹竿を等間隔に切断して作成した雪下ろしの道具だ。
「屋根の高さに合わせて長さ調節できるし、分解すれば仕舞うのも簡単だし、壊れたら壊れた所だけ交換出来るし、いー事尽くめだぜ」
 竹竿の1本1本に心棒が入っており、竿を継ぎ足せる仕組みになっている。先端には立鎌も付いているので雪を引っ掻く様にして落とす事も可能なのだという。
「確かに良いこと尽くめですが……雪を掻いた時に頭に落ちて来るという心配はありませんか?」
 問い掛ける嘉栄に、菫が「あ」と声を上げた。
「そうそう。屋根の雪を下すときに危険なのは、つらら。家に刺さって破損させる事があるから、雪下ろしの前に落とした方が良いよね」
「てーことは、つららを落としてから雪かきした方が安全ってことか」
 成程。そう視線を落とした琥珀とは対照的に、菫は今ので名案が生まれたらしい。
「よし、つらら切りを作ってみよ、うん。街道向きのは安積寺で。屋根の雪下ろしの前につららを切って試験だね。えっと、薙鎌と同様の形状で、刃を鋸にしたものを作れば……」
 ぐっと拳を握って筆を走らせ始めた彼女。その姿に羅喉丸の目が瞬かれる。
「戸隠さん、こっちは……」
「設計の方は出来てるから後は作れるかどうかだと思うんだよね。さっき羅喉丸さん試してたからわかると思うけど、一般の人じゃ押すのは無理だと思うし」
「……確かに」
 唸る様に視線を落とした羅喉丸の手に在るのはタワーシールド「アイスロック」だ。
 彼は先程外でこの盾を雪に突き刺して押してみた。その理由は押す事で雪を避けれるならそれが除雪になるのでは、と思ったからだ。
 だが、結果は駄目だった。
「雪の量が如何せん多過ぎる……持ち手の位置を変える事も模索したが、志体持ちでなければ厳しいという事がわかっただけだ。だが、戸隠さんの案ならば……」
 菫が提案したのは盾とは違う、漏斗のような形状をした大きな物を押して雪を掻き出すと言う方法だ。だが、これも難点がある。
「今は其処まで大掛かりな物を作る事は出来ないかと……」
 構造や案は有益な物だが、今作るとなると話は別。嘉栄の言葉に羅喉丸が再び唸ったところで、琥珀が声を上げた。
「なあなあ、アーマーとか龍とかを使うの前提ならこの道具使えるんじゃないか?」
 大きな道を除雪するなら人の手よりも相棒を使った方が楽かもしれないという彼の言葉に、全員の目から鱗が落ちた。
「確かに道具を作っておくだけなら可能だと思います」
 慌てて頷く嘉栄に、琥珀がニッと笑う。
「やったね! 相棒なら羅喉丸さんの提案にある箱型の大きな盾作って雪を押せるようにすれば効率良いよ」
「それなら下側をスコップのような形状にする事で、雪に刺しやすくならないだろうか……」
 嬉々として羅喉丸と話を始めた琥珀に、嘉栄の目元が緩まる。そうして2人の案が纏まり始める頃、別の作業を続けていた二式丸が顔を上げた。
「設計図、完成した……」
 無表情に持ち上げてみせたのはソリの設計図だ。以前ケイウスが砂の上を走らせるソリを作ったという経験から考え出された物で、雪を乗せて運べるように箱型になっている。
「このソリでしたら資材の消費は予定の範囲内で納まりそうです」
 事前に嘉栄に使用出来る資材の量を確認していた葎は、設計図とメモの双方を見比べて呟く。その声に俄然やる気を出したケイウスが新しい板を持って来た。
「組立とか切るのは任せてよ! あ、取っ手は引っ張るのもだけど押せるようにもしたら如何かな?」
「取っ手……良い、竹がある」
 コクリ、頷いた二式丸は集められた資材の内、熱で曲げやすそうな竹を手に取ると、器用にそれを曲げ始めた。


 実際に出来上がった雪かき道具を試す為、開拓者達は外に出る事にした。
「短時間でこんなに……」
 凄い。そう零す嘉栄の前には、各人の想いが詰まった道具が置かれている。
 その中の1つ、まずは葎と二式丸、そしてケイウスが主に作成した箱ソリの実践からだ。
「ソリは1人ないし2人で使えるように大きさに考慮してあります。あと、ソリの部分に雪が付かないように琥珀さんの蝋燭の案をお借りした感じです」
 葎はそう言うと、実際に使用している様子を見せるように二式丸とケイウスに頷いて見せた。
「それじゃあ引っ張るよっ!」
 ソリの取っ手に付けた紐を勢いよく引っ張るケイウスと、それを押す二式丸。ソリはケイウスの提案で真っ赤に着色されている。
 彼曰く、遊んでいる訳ではなく雪で埋もれた際に発見されやすくする為、だとか。
「うん、やっぱり楽だね♪」
 雪を乗せた箱ソリは彼等の予想通り軽快に動き出した。だが次の瞬間――
「うわ」
 深い雪に慣れていない二式丸が転び、引っ張る勢いを掻いたケイウスもつんのめる形で転んだ。
 これに葎が慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「あはは、大丈夫、大丈夫! 雪のお蔭で怪我は全然してないよ!」
 笑顔で雪を払うケイウスと、無表情で頷く二式丸。その様子に安堵の息を零し、葎は手を差し伸べる事で2人を立ち上がらせた。

 次に道具を披露したのは琥珀と菫だ。
 2人が主に作成したのは屋根の雪下ろしの為の道具。
「あたしが作ったのは氷柱落しよ」
 素早い動きで、屋根の下に出来た氷柱を落とす。その動きは流石で、本来なら雪に足を取られて容易ではない作業も難なくこなした。
「安曇寺の僧はやはり凄いですね」
「何処の僧かは関係ないよ。修行を積めば誰だって出来るようになるんだから」
 そうは言うがやはり簡単な事ではない。
 嘉栄は感心しながら菫の動きを目で追っていたが、次に聞こえた声で目を琥珀の元へ飛ばした。
「氷柱が無くなって安全になったら、屋根の雪を下ろすんだ。雪下ろしのコツは無理をしないことかな」
 志体持ちなら多少の無理は大丈夫だろう。けれど一般人となれば無理は禁物だ。
 少しずつ屋根の雪を落としてゆくように指導する琥珀は、手にしている雪下ろしの道具の長さを調節しながら着実に作業を進めていく。
 そしてある程度雪を下ろし終えると、自分を見ているケイウスと二式丸を手招いた。
「そのソリに雪を詰めて、ぎゅうって押せないかな?」
「ぎゅう?」
 表情なく首を傾げた二式丸に琥珀が頷く。
「そうそう、こうやって雪を詰めて……んで、固めたらひっくり返す!」
 彼が作り出したのは、正方形の雪。
「これを積み重ねて雪の家とか作ったら観光客も呼べるかも」
 何より面白いし、楽しそーだろ? そう言って笑う彼に嘉栄の目が瞬かれる。
 確かにただ雪かきをするよりは後々の効果が上がるかも知れない。観光客が呼べれば資金面での潤いも期待出来る。
「後程、統括に相談してみます」
 嘉栄はそう言うと、大きく頷いた。

 最後に披露されたのは羅喉丸の提案した相棒用の雪かき道具と、菫が提案した漏斗型の雪かきの設計図だ。
「始めは人が推す事を考慮していたが、琥珀さんの提案で相棒用に大きさを改良してみた。雪に突き刺す事で安定を図り、箱型にする事で左右に雪が流れるのを防いだ感じだ」
 羅喉丸が作成した雪かきは、街道の雪かきを前面に押し出した物だ。
 面積も大きく、雪を掻ける量も多いのが特徴で、何より取っ手を幾つも付けた事で複数の相棒に特化している。
 他にも取っ手には役割があり、押す位置によって疲労度にも差が出るという。
「一応、志体持ちでも押す事は出来ると思うが……」
 押してみるか? そう視線を流した瞬間、全員の目が逸らされた。それを期に菫が設計図を差出す。
「これも街道の雪かきを考えて書いてみたの。巧く行くかはわからないけど、作れそうだったら作ってみて」
 設計図は漏斗の様な形の装置に羽根車を付けた物だ。ペダルを踏む事で羽根車を回転させ、呑み込んだ雪を外に飛ばす作用がある。
「たぶん志体持ち用かな」
 雪を押すのは一般人では厳しいものがあるだろう。そう言って笑う菫に笑みを零し、嘉栄は有り難く設計図を受け取った。


 僧兵用の寄宿舎に足を運んだ開拓者は、其処に在る食堂に入れると、用意されている精進鍋を囲う様に腰を下ろした。
 其処には何故か、統括や久万の姿もある。
「わしらまでご相伴に預かって良いのでしょうか?」
「鍋は皆で食べた方が美味しいって決まってるだろ? だから一緒で良いんだよ」
 な? そう言って全員に器を配るのは琥珀だ。彼の隣には笑顔で鍋を覗き込むケイウスもいる。
「そうそう、鍋は皆で食べるのが美味しいよ。それに寒い時の鍋って最高だよね。精進鍋は初めて食べるけど、楽しみだな!」
 出汁は何で取っているのだろう。少し濁っているので具材は見えないが、なかなか良い香りをしている。
「寒さに堪えていた所だ、ありがとう」
 羅喉丸は皆に鍋の中身を分ける嘉栄に礼を言い、器に視線を落とした。其処に在るのは何となく見覚えのある長い物。それを目にした瞬間、統括と久万が顔を見合わせた。
「まさか……」
「門外不出の精進鍋と聞きますし、楽しみです。では頂きます――」
 葎の声に合わせて全員が手を合わせる。そうして各々が鍋の具を口に運んだ所で衝撃が走った。
「……っ」
 ゴクリ。何処からともなく強引に何かを呑み込む音がする。そうして黙々と箸が進む中、ケイウスが声を上げた。
「これが精進鍋! なるほど、修行の一環なんだね……!」
 明るく言っているが顔色が若干悪い。その隣で黙々と箸を走らせる二式丸は、口に入れた瞬間に固まり、首を傾げてから再び箸を動かしている。
「嘉栄……まさかとは思うが、お主……」
 鍋を口に入れた久万の言葉に嘉栄の目が瞬かれる。
「あ、はい。折角の鍋ですし温まる様にと工夫を」
「あれほど材料だけだと言ったであろう」
 器を片手に頭を抱える統括。そしてそんな姿を眺める琥珀は何処か楽しそうだ。
「ごちそうさま、でした」
 不意に静かに響いた声に統括と久万の目が向かう。どうやら二式丸が完食したらしい。良く見れば羅喉丸や菫も食べ終わっている。
「思った以上に体が温まっているな。月宵さん、中に入っていた肉は何を?」
「蛇と蛙、それと種類はわかりませんが赤みの肉を入れました」
「蛇と蛙は良いとして……何のお肉なんだろう」
 思わず鍋を見詰めるケイウスだったが、直ぐに感じた気配に表情を引き攣らせた。
「これ、美味しいと思ったの?」
 静かに発せられるのは菫の声だ。
 彼女は怒りのオーラ全開で嘉栄を見ると、頷く姿にピキッと米神を揺らした。
「薬草の種類を増やし、それだけでは苦いと思い蜂の巣も……」
 嘉栄が入れた薬草の数と種類が次々と揚げられる中、ケイウスの目が瞬かれた。
「この味、嘉栄が……? えっと……味見、した?」
 とは言え、彼女が皆を思って頑張ったのは伝わってくる。そう援護しようと思ったのだが、菫は容赦なかった。
「へえ、食べる相手のこと考えたの?」
「あ、はい。でもその反応からすると、やはり少し苦かったのでしょうか……」
「そういう問題じゃないのよ!」
 ダンッと地面を踏んだ彼女に嘉栄はキョトンと目を瞬くばかりだ。これには菫も頭を抱えてしまう。
 怒っても怒りが通じないと逆にジレンマになるものだ。そしてこれらの遣り取りを見ていた葎は、そっと嘉栄に近付くと、彼女の手を取って言った。
「……嘉栄さん。その……次に料理をされる機会がありましたら、僕もぜひお手伝いを」
 全てを止められるとは思わない。思わないが少しでも皆の舌を守れたら。
 葎はそう願いを込めて彼女の目を見詰めた。