ケモノ狩り大会！
マスター名：朝臣 あむ
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| ■オープニング本文 開拓者ギルド受付。 そこに眠そうに腰を据えるおっさんこと、志摩軍事が子もふらを膝に乗せた状態で依頼書の整理にあたっていた。 「‥‥やべぇ、眠みぃ」 零れ落ちた大欠伸。 目尻に浮かぶ涙をぬぐって、志摩の手が新たな依頼書を手にした。 既に何枚目の依頼書か。 戦闘、非戦闘と分類された依頼を、更に難易度によって分類する。その作業を続けていた彼の手が止まった。 「こいつは‥‥」 先ほどまでの眠そうな態度は何処へやら。 一気に覚醒した志摩は、膝で眠っていた子もふらを持ちあげると、カウンターの上に置いた。 「悪ぃな。ちと留守番頼む」 ぽんっと頭に置かれた手に、子もふらの顔が上がる。不思議そうに見上げられた視線に苦笑を滲ませ、子もふらの前に筆を置いた。 「こいつで、来客の対応してくれ。なぁに、直ぐに戻る」 志摩はそう言うと、もう一度子もふらの頭を撫でて受付を後にした。 ●魅力的な依頼‥‥ 「さぁて、詳しい説明をして貰おうか」 そう言って志摩が顔を覗き込んだのは、同じギルド内で働く職員だ。 念のために言っておくが、この職員は志体持ちではない。 「お、俺は知らない。そもそも、何で志摩が依頼書を‥‥」 「たまたま俺が書類整理しててなぁ。偶然見つけたんだ。何で黙ってたんだろうなぁ？」 ニッと笑いながら、武骨な手が職員の頭を掴んだ。 これに、職員の表情が硬直する。 今は手加減しているが、志摩は志体持ちだ。しかもそれなりに腕がたつ。 そんな彼に頭を掴まれれば、大抵の者は臆してしまうだろう。だが、職員も負けなかった。 「上に黙ってろと言われたんだ。俺のせいじゃない！」 きっぱり言い放った言葉に、ピクリと志摩の眉があがった。 「上が‥‥そりゃ、どうこうとだ」 訝しげに寄せられた眉と、眇められる瞳。 一見すれば凄まれているようにしか見えない視線に、職員の喉が上下に動いた。 「よ、義貞の面倒を誰が見るのかって‥‥その依頼、少し遠いだろ。だから、さ‥‥」 「！？」 志摩の顔が驚愕に歪んだ。 その上で職員の頭を掴んでいた手が放される。 「‥‥義貞の面倒見るのが嫌で黙ってたのか‥‥ひでぇ‥‥」 「義貞、最近異様に力が出てて、そろそろ俺らじゃ面倒見れないんだよ。上はいい加減、試練をしようと考えてるみたいだしな。そんな奴の相手できるのはお前しかいない」 ショックを受け、その場に打ちひしがれる志摩の肩に職員の手が置かれた。 その感触に目を上げる彼の口からは、重い溜息が洩れるばかりだ。 「確かに、それについては理解できる。けどな、俺だってアイツが試練始めりゃ、忙しくなる。こんな風に自由が利かなくなる訳だ」 「そ、それは、どうだけど‥‥」 これからの志摩の事を考えれば、時間に余裕がなくなるのは必須。その前に好きな事をさせてあげても良いとは思う。 しかし‥‥。 「肉食い放題なんて、天国みたいな依頼じゃねえか。これに行かずして、どんな依頼に行けっつーんだよ！」 「違うだろ！」 拳を握りしめて力説する志摩に、透かさず突っ込みが入った。 「正しくは、山開き記念・ケモノ狩り大会だ！」 「一緒だろ？」 全く違う。だがそう突っ込む気力はなかったようだ。 職員は疲れたように息を吐いて、彼が持ってきた依頼書に視線を落とした。 「‥‥山開きをするにあたって、危険因子を少しでも減らそうと言う趣旨の元で開かれる大会だ。別に食べる訳じゃ‥‥」 「狩ったケモノは食って良し！ そう書いてある！」 ビシッと依頼書を指差す姿に、職員は言葉に詰まった。 そしてこの一言を言い放つ。 「志摩が依頼に出ても、報酬はないぞ？」 志摩はまだギルドに奉仕している状態だ。 どんな依頼に参加しようと、金は出ない。 その事を強調したのだが、今の彼の耳には届かなかった。 「肉さえくれりゃ良い！」 「食えりゃって‥‥あ、まさか、お前生で‥‥」 ぶるぶると震えた職員に、志摩がニンマリと笑う。 その顔を見て職員は何かを確信した。 この後、志摩は上へと直談判し、依頼書の掲示許可と依頼同行の許可を得た。 その際に色々と揉めたらしいが、それはまた別の話‥‥。 |
■参加者一覧
高倉八十八彦（ia0927）13歳・男・志 
銀雨（ia2691）20歳・女・泰 
ブラッディ・Ｄ（ia6200）20歳・女・泰 
痕離（ia6954）26歳・女・シ 
緋宇美・桜（ia9271）20歳・女・弓 
アリシア・ヴェーラー（ib0809）26歳・女・騎 |
| ■リプレイ本文 ●大会、その前に 青空の下に集まった狩人や開拓者たち。 その視線の先に設けられた舞台上には、今大会の主催者が熱弁とルールを語っていた。が、大抵の者は聞いちゃいない。 その証拠に‥‥。 「やー、お会いできて嬉しいよ。今回はよろしくかな？」 主催者の熱弁をスルーして志摩に声をかけたのは痕離（ia6954）だ。 当の志摩も話など聞いちゃいない。今までふらふら歩いていたのだが、痕離の声に足を止めてニッと笑った。 「よう、よろしく頼むぜ。俺のためにたんっと肉を獲って来てくれ」 「頑張りはするけど、志摩殿のためではないよ」 そう言って笑う痕離は、勝ち負けよりも、とにかく楽しくやれれば良いとの思いを持っている。 「丁度いい夕飯になりそうだと思ったから、少し頑張ろうかな、とは思うけどね」 「そうか！」 ポンッと頭に手を置いた志摩に、痕離が微笑する。そんな彼女の頭を撫でる志摩の耳に、元気の良い声が響いた。 「オッサンと遊べる上に肉も食えると聞いて俺参上！！」 「おっさーん、遊ぼうやあ！」 ズザザッと滑り込んできた黒い影。それに続いて飛びついて来た子供に、志摩が顔面から地面に激突する。 「し、志摩殿、大丈夫かい？」 「問題ねえ‥‥つーか、この声は‥‥」 痕離に片手を上げ、顔を上げた志摩の目に飛び込んできた顔。それを見て思わず苦笑する。 「てめぇら」 そこに居たのは、可憐な大和撫子男児、高倉八十八彦（ia0927）と、子犬のように目を輝かせるブラッディ・Ｄ（ia6200）だ。 「ブラッディのあねさんと一緒に、『おっさんと遊び隊』をけっせーい！」 「にーくにーくー！ オッサンとにーくー！」 「ったく、元気だな、てめぇらは」 ゲラッと笑って立ちあがった志摩は、そのまま八十八彦を持ちあげて肩に乗せた。 その姿に、ブラッディも飛ぶ付いてくる。 「オッサン、俺も俺も！！」 「へいへい」 せがまれるままにブラッディをおんぶすると、志摩は大会開催までの僅かな時間を２人と遊ぶことにした。 そんな姿を遠目に見るのは銀雨（ia2691）だ。 「あれ、あんときのサムライか」 以前、とある依頼でサムライと対峙した事があった。それが志摩だったとは‥‥。 「んがーっ！！」 「大丈夫です？」 頭を抱えた銀雨を覗き込んだのは、ぴょこんと出たアホ毛が特徴の少女、緋宇美・桜（ia9271）だ。 彼女は銀雨の顔を覗き込むと、カクリと首を傾げた。 「いや、別に照れてないよ？」 「そんなこと聞いてないのです？」 不思議そうに首を傾げた桜に、銀雨はふたたび「うがーっ」と頭を抱えたのだった。 そんな開拓者全てのやり取りを、アリシア・ヴェーラー（ib0809）は遠くから眺めていた。 「さて、少しずつ勘を取り戻しませんとねぇ。獣狩りなら丁度良さそうです」 にこやかに、笑顔で語る彼女の目的は狩りだけではない。今仕えているご主人に、お肉を食べさせてあげたい。そんな思いもあってなのだが‥‥。 「ああ、ご主人肉駄目なんでしたっけ‥‥」 ふと思い出して手を打つ。 「まあ、自分で食べたりしましょう、食事浮きますし」 そう言って微笑み、武器の手入れを開始した。 こうして賑やかな雰囲気の中、各々の思いを胸にケモノ狩り大会の幕は切って落とされたのだった。 ●元気に狩りを 「お前ら、狩りに行かねえのか？」 そう言って首を傾げたのは志摩だ。 その両隣りには、八十八彦とブラッディがいる。 「様子を見とるんよ、縄張り荒らされ怒って出てくる大物狙い一択じゃけえ」 八十八彦はそう言うと正飴を舐めた。 そんな彼の言い分は、大物狙いでカッコイイ物を狙う方が趣味にあっていると言うものだ。 「それに気性の荒い奴を優先する方が、山開きの依頼に沿うじゃろ？」 「まあ、確かにそうだな」 「大物と言えば主に、クマ、イノシシ、鹿かなぁ」 「わしもそこら辺が狙い目じゃあ、思うちょる」 意見を出し合う２人を見てから、志摩の目が頭上に向かった。 大会開始から、そんなに時間は経っていない。 「時間はまだたんとある。いっぱい狩って、たんと食えば良いさ。さて、俺も狩らねえとだしな。負ける気はねえぞ？」 ニッと笑う志摩に、八十八彦とブラッディが顔を見合わせる。 そして‥‥。 「わしも負けないんじゃ！」 「俺も八十八彦といっぱい肉獲ってくるからな！ オッサンも頑張れなーっ！」 こうして２人は志摩と別れ、山の中での狩りに突入した。 その後の２人の展開は早かった。 あっという間に３羽のウサギを仕留め、それと同じだけの数の鹿も仕留めた。 ただし鹿以外はどれも狙うはずではなかったのだが、ブラッディが瞬脚で駆け寄り、瞬く間に倒してしまったのだ。 そして今は‥‥。 「わしが牽制と誘導をするけえ、あねさん仕留めるんじゃ」 そう言いながら、愛用の扇子から短弓に持ち替え身構えるのは八十八彦である。 目線の先にいるのは、息荒く足を踏み鳴らすイノシシだ。 「剣でザクザクーっと‥‥援護射撃は任せた！」 「了解じゃぁ」 矢の先をイノシシに向け、一矢が放たれた。 それに驚いたイノシシが飛び退くが、そこにブラッディが迫る。 「甘い甘い！」 へへんっと笑ってイノシシに飛びかかる。しかし相手の逃げ足の方が速かった。 だがこっちもそのままではない。 逃げた先に再び一矢を加えたのだ。すると、それを受けたイノシシの動きが変化した。 キラーンッと目を輝かせ、勢い良く突進してきたのだ。 「チャンス、一発逆転！」 ブラッディは突進してくるイノシシを避けると、迫りくる勢いを利用して強烈な一撃を見舞った。 これにはイノシシも堪らず転倒。呆気なく終了となった。 「勝利っ！」 ブラッディの声に八十八彦がホッと胸を撫で下ろす。しかしこれで終わりではなかった。 ガサッ、ガサガサ。 物音に動く２人の視線。その先に飛び込んできた大きな熊を見て、２人の顔が青ざめる――事はなかった。 「大物発見！！」 「さっき爪痕を見つけてたんじゃ。猟師の人に聞いたら、ほぼ同じ道を通るらしいけえ、当たりを付けてて正解じゃったのぉ」 にんまり笑う２人の開拓者。 その想像外の反応に、クマが面くらったように目を瞬いた。 クマ、絶体絶命の大ピンチ。 「いっけぇぇ！！」 ブラッディの声に呼応して、八十八彦の矢が容赦なくクマに降り注いだのだった。 ●それぞれの闘い 「優勝賞金よりも山の安全、なのです」 そう言って里穴弓を手に山を行くのは桜だ。 心眼を使いながら周囲を探る彼女の手には、２羽のウサギが握られている。その胴には見事なまでに急所を一突きした痕が残っていた。 「何かいます！」 そう言って瞳を眇めた先、そこに２頭の鹿が見える。 「これは大物です」 ２頭同時に見つけられるとはラッキーだ。 桜は足元にウサギを置くと弓を構えた。 ゆっくり、匂いで相手に察知されないように、草ずれの音に気を付けながら風下へと移動する。そして狙いを定め‥‥。 ――スパンッ！ 鹿の足に矢が命中した。 それに驚いたもう一頭の鹿が飛びあがる。そこに即射を使ってもう一矢加えると、それも足に命中した。 同時に倒れる２頭の鹿に、透かさずもう１本の矢を射る。これで勝負が決まった。 「これでウサギ２羽と、鹿が２頭です！」 ガサッ。 「？」 大物ゲットに喜ぶ桜の耳に物音が入った。 徐々に近付く音。それに彼女の目が向いた。そして目に入ったのは、木に残された大きな爪痕。 足元を見れば巨大な糞まで落ちている。 「まさか‥‥」 嫌な考えが脳裏をよぎる。 そして物音が完全に消え、振り返った桜の目に、そのまさかが飛び込んできた。 「！？！？」 ニンマリ笑ったクマと目があった。 「み、皆さんにお知らせしないとッ！」 慌てて動かした足、それにクマが反応した。 ガウッ！ 「ひゃうっ！」 反射的に弓を構えるが、下手に手を出さない方が良いのは知っている。だからと言って、目の前のクマは何だかやる気だ。 「冬眠明け直後ではないけれど、飢えたクマはおっかないのです！ こ、ここは逃げるのです！」 ヒュッと矢を射って飛び出した。 そんな彼女の後ろからクマが追いかけてくる。 「何で、追いかけてくるんですか！ 獲物ならそこにありますっ！」 転げられたウサギや鹿をお勧めするが、クマは知ったこっちゃない。こうして桜とクマの追いかけっこが始まった。 サラサラと流れる小川。 その川辺に立てられた「ぎんざめ」と書かれた看板の前に、獲ったばかりのウサギを並べるのは銀雨だ。 「何でウサギが突進してくるんだ？」 首を傾げる彼女の狙いは大物。にも拘らず、ウサギばかり発見し、しかもウサギは彼女を発見すると物凄い勢いで突進してくる。 その結果、４羽のウサギを仕留めたのだが、どうにも納得いかない。 だがその理由は、彼女にあったのかもしれない。 彼女の体に塗られた匂いを誤魔化すための砂や泥。そして１羽目のウサギを倒した際に塗りたくった糞尿の匂い。 怯えたのか、仲間と思ったのかは定かではないが、その匂いにウサギがつられたのは確かだ。 ガサガサッ。 「この音、大物か？」 突如聞こえた音に構えをとる。そこに飛び出してきたのは‥‥。 「イノシシッ！」 フガフガ荒い息に、血走った目。 いったい何があってそこまで興奮しているのかわからないが、確実に狙いは銀雨だ。 「弾丸のような体型、短く俊敏な足、隙ねぇーっ！」 どう見ても攻撃できる隙などあったものではない。 銀雨はチラリと後方を見やると、踏み込んだ足に力を込めた。 そして‥‥。 「逃げるっ！」 くるりと反転して駆け出した彼女に、イノシシが一瞬ぎょっとするが、直ぐに突進してきた。 フンガッ！ 一気に鼻息を噴出して追いかけてくるその勢いたるや、正に猪突猛進。凄まじい勢いで追いかけてくるイノシシを尻目に、銀雨は前方にある木に飛びあがった。 足りない勢いは、幹を蹴って補足し、枝の上へと飛び乗る。そこにイノシシが勢い良くぶつかってきた。 ――ドッカーンッ☆ ぐらぐらと揺れる木の上で、銀雨は拳を握りしめる。 「正面からが打ち負けるが、これなら如何だ！」 木の上から落下するように叩き込まれた拳。それがイノシシの背中に命中する。 勝負あり。 目を回して倒れ込むイノシシを、銀雨が肩に担ぎ起こす。そして看板の所まで行くと彼女の足が止まった。 「うん？ 何か聞こえたか？」 何かの物音、その中に悲鳴のようなものが混じって聞こえたような。 「助けてくださ〜いっ！」 「緋宇美さん？」 息を切らせて飛び込んできた桜。 その姿に目を瞬く銀雨の目が、彼女の後方に飛んだ。 「く、クマッ！？」 「遭遇してしまいました！」 駆けこんできた桜が、銀雨の後ろに隠れる。 クマは明らかに興奮状態で、息荒く２人の姿を見ている。 「‥‥クマには勝ったことねーんだ。今の俺なら勝てるか？」 そう言いながら拳を握る。 銀雨はやる気だ。それを見て桜も覚悟を決めたようだ。 「１人よりは、２人で闘えば！」 覚悟を決めた開拓者は強い。 こうしてクマと開拓者の闘い、パート２が開始されたのだった。 ●目的のために 「可能であればアリシアとペアを組んで行動したいな」 そう言った痕離の言葉で、アリシアと痕離は共に行動することにした。 アリシアの手に握られるのはルーンソード。痕離の手には双剣「蜂」が握られている。 そして２人の足もとには今までに仕留めた獲物が転がっている。 「よっ、と‥‥さて、これで何匹になったかな」 並べられているのは４頭の鹿。 これだけの頭数を仕留められたのは、痕離のスキル「超越聴覚」があったからかもしれない。 彼女は今もまだ、そのスキルを生かして細かな物音を取り逃さないように周囲を探っている。 「ん‥‥物音がする」 静かに呟いた痕離の声に、アリシアが彼女の視線を追う。 それが捉える方向には、確かに草の揺れが見える。 「あれは小物でしょうか？」 「かもしれないけど、一応行ってみよう」 言うが早いか、素早さを生かして痕離が駆けてゆく。それにアリシアも続くと、迷いもなく互いの刃が獲物を貫いた。 「――小物だ」 痕離の声にアリシアがウサギを持ち上げながら頷く。と、彼女の首が傾げられた。 「こうしてみると、鹿が一番の大物でしょうか」 「そうだね。周りを見る限り、イノシシやクマの形跡はないようだよ」 目を凝らしても、クマの爪跡やその糞らしきものはない。そうなると、２人が手に入れられるケモノで大きなのは鹿と言うことになる。 「でも、警戒は怠らないようにしましょう」 「そうだね」 いつ何が起こるかわからない。不意打ちだってあるかもしれない。 アリシアの尤もな言葉に頷き、ふと痕離の足が止まった。 「痕離さん？」 「しっ‥‥聞き慣れない音がする」 目を眇め、耳を凝らす彼女の目に鋭い光が射した。 「アリシア殿、気を引き締めた方が良い」 双剣構える痕離に習って、アリシアも剣を構える。 その時だ。突如２人の前に影が差した。 「ッ！？」 「くっ」 襲いかかって来た巨大な腕。目を辿ればクマの腕だ。 それを痕離が双剣で受け止めると、隙を突いてアリシアの刃がクマの胴に迫った。 「やはり、数よりも質です」 開かれた彼女の青い瞳が、容赦なくクマを見据える。そして一気に刃が薙ぎ払われた。 グアアアッ！ 大きくよろけたクマの体。そして‥‥。 「獣如き蹴散らせぬようでは、ご主人を守ることはできません」 アリシアと、痕離の刃が同時にクマの胸に突き刺した。 ドサッ。 地面に倒れた巨体。それを見て、痕離とアリシアは顔を見合わせてホッと息を吐いたのだった。 ●大会終了 「優勝ですか。ご主人に報告しないとですね」 そう言って、他の開拓者と一緒に焚き火を囲んで肉を捌くのはアリシアだ。 自分の取り分はしっかり確保して、今は肉料理を披露している。 その傍では、用意された肉料理に手を伸ばす痕離がいた。 「クマは、どうやって食べるべきなんだろう？」 「生だ、肉は生で食え！」 叫ぶ志摩に痕離が苦笑する。 そんな彼は何故か満身創痍。しかも収穫はほぼゼロ。いったい何をしていたのか。 「肉、肉―！ 思う存分食べるー！」 「火の炙りに、スープ。もちろん、梅干しと甘酒も持ってきたー」 はぐはぐと出来上がった料理を食べるブラッディと八十八彦。 志摩に習って生肉を食べては見たが、やはり料理されている方が良いらしい。 ハグハグと食べる姿は見ていて心地が良い。 「チクショー、負けたー！ クマには勝ったのに！」 「銀雨さんの背拳綺麗でした！」 ケモノの血抜きを手伝いながら言う桜の声に、銀雨は焼いた肉を手に微笑した。 「ま、まあ、アンタの矢の腕も凄かった、ぞ」 ぼそっと呟く銀雨に、桜は嬉しそうに笑みを零す。 それを見て、銀雨は肉を口に頬張った。 こうしてケモノ狩り大会はクマを３頭も退治して、大成功の元に終了したのだった。 |
