【遺跡/試練】扉の運試
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/29 18:27



■オープニング本文

 四方を山に囲まれた里。
 そこで旅立ちを前に胸を弾ませている少年がいた。
「俺、絶対に天儀一の開拓者になるからな!」
 瞳を輝かせ意気込む少年は、里に生まれた唯一の志体持ち。
 本来ならこの場に残り、里をアヤカシから守って欲しい、そう思っていた。
 しかしそうした思いとは裏腹に、少年は里を出る決意をする。
 そして今日、開拓者になるべく旅立ちの時を迎えた。
「んじゃ、行ってくる! 開拓者になったら、ちゃんと仕送りするからな!」
 里は裕福とは言えない。
 現状を見れば、開拓者になり通常よりも多い仕送りをすれば、里の者たちの暮らしは良くなるだろう。
 だからこそ期待はある。だが不安があるのも確かだ。
 里の者たちは元気いっぱいに旅立つ少年を、複雑な心境で送りだしたのだった。

●神楽の都
 開拓者ギルドに戻ってきた志摩・軍事(シマ・グンジ)は、開拓者ギルドの職員・山本に一枚の依頼書を差し出していた。
「この依頼を義貞の試練と合わせたい。協力して貰えねえか」
「協力って‥‥」
 訝しげに依頼書を受け取った山本の目が紙面に落ちる。
 そしてそれらを読み終えると彼の目が上がった。
「‥‥別に構わないが、次の試練は何なんだ?」
 山本が受け取った依頼書は、栢山遺跡の探索に関するものだ。
 探索と言っても内容は遺跡内部のアヤカシ退治。
 義貞に残された試練は「運」、「魅力、「体力」の3つになる。その中で当て嵌まりそうなのは体力だが、志摩は体力の試練は最後にやると言っていた。
 だからこそ、どの試練が依頼書の内容に当て嵌まるのか測りかねたのだ。
「次の試練は『運』だ」
「運‥‥それをこの依頼で試すのか?」
 そう口にすると、山本は再び依頼書に視線を落とした。
 そこに書かれている文字はこうだ。

 栢山遺跡のとある階層にて、2枚の扉が発見された。
 どちらの扉を開けてもアヤカシの存在が確認され、これ以上の探索が出来ない。
 故に早急なアヤカシ退治を望む。

――間違いなく内容はアヤカシ退治。
 記されているアヤカシの種類を見ても、難しい依頼じゃない。
「これのどこに運を試す要素があるんだ?」
「アヤカシの種類を見れば分かるだろ。義貞にとって、都合の悪いアヤカシがいる。そいつ以外のアヤカシを相手にする事ができたら、運の試練達成だ」
 自信満々に言い放った志摩に、山本が依頼書を見る。
 書かれているアヤカシの種類は「強酸性粘泥」と「苔鼠」。
 どちらも集団になると面倒な相手だ。
「‥‥ちなみに、どっちが都合悪いんだ?」
「単純馬鹿が何も考えずに突っ込んだ場合、危険な相手に決まってるだろ」
 そう言われて山本は直ぐにピンときた。
「‥‥泥‥‥」
 強酸性粘泥の特徴を考えると、義貞なら何も考えずに突っ込み、その結果馬鹿を見るだろう。
「まあ、良い経験ノはなるだろうが、それに成功した場合、残りの扉はどうする?」
「数が結構いそうだからな。開拓者にも協力願って、義貞の面倒ともう1つの扉のアヤカシ退治を頼むか」
 山本は志摩の声に成程と頷くと、彼の手から依頼書を受け取り立ちあがった。
「そうと決まれば依頼書を作り直しだな」
「あー‥‥それと、依頼書には義貞の癖も書いといてくれ」
「癖?」
「ああ。あの馬鹿が間違った扉に入りそうになるのを防ぐ、ヒントになるかもしれないからな」
 そうして声を潜めると、志摩はニッと笑って義貞の癖を話し始めた。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
衛島 雫(ia1241
23歳・女・サ
橘 楓子(ia4243
24歳・女・陰
日和(ib0532
23歳・女・シ
百々架(ib2570
17歳・女・志
神鳥 隼人(ib3024
34歳・男・砲


■リプレイ本文

●栢山遺跡前
「運試しも試練のうちだなんて格好良いわ!」
 百々架(ib2570)はそう口にすると、遺跡の前で意気込む義貞に歩み寄った。
「初めまして、義貞君。あたしは志士の百々架よ。これから宜しくねん♪」
「おう! ヨロシクな、モモ姉!」
 にっこり笑う百々架に、義貞は持ち前の明るさで笑顔を返す。その姿に「うんうん」と頷くと、彼女の中で気合が高まった。
「これは是非とも合格させてあげなくちゃね‥‥よーし、先輩志士として頑張っちゃうわよ〜!」
「オーッ!」
 気合を入れて拳を掲げる2人を、少し離れた位置で見ていた衛島 雫(ia1241)は、口元に淡い笑みを浮かべて目を細めた。
「聞いていた以上に元気だな」
 開拓者の卵と聞き、純粋に義貞の力となりたく今回の依頼を受けた。そんな彼女に犬神・彼方(ia0218)が同意するように頷く。
「陶とは羊蜘蛛以来かぁね? 元気そうでぇ何より」
 そう言って義貞に視線を移す姿に、雫の首が傾げられる。
「彼方は陶と面識があったのか」
「まぁな。試練、頑張ってぇいかねぇとな」
 改めて口にされた言葉に、雫もその心意気を込め頷いた。
「遺跡、か。どんな所なんだろうな」
 日和(ib0532)は遺跡を見つめながら呟いた。
 左目を閉じ、右の目だけで視界に納める遺跡はまさに未知の領域。期待が大きく膨らみ楽しみでならない。
「ハハハ、最近話題の出現した遺跡だな。確かにアヤカシが居るのなら調査の為にも何とかするべきだろう」
 そう言いながら同じく遺跡を見つめるのは神鳥 隼人(ib3024)だ。
「アヤカシ退治と‥‥義貞って子の開拓者になるための手伝い、だっけ?」
「ああ。試練も兼ねているようだし、出来るだけ堅実に行きたいものだな」
「そうだね。騒がしそうな子だけど、言ってだめなら多少強引にでも黙っててもらおうかな?」
 日和の容赦のない言葉に隼人は「ハハハ」と大らかな笑みを返す。
 その近くでは、三笠 三四郎(ia0163)が義貞にある提案をしていた。
「稽古を付けてあげましょう」
 この言葉に義貞の目がキラキラと輝く。
「ただ、私としても二刀流を完全に物にしている‥‥と言う訳ではないですので、それなりにですが」
「やるっ! 稽古するっ!」
 やる気満々に叫んだ義貞。
 そこに橘 楓子(ia4243)が手にしていた符を伸ばして彼の頬を叩いた。
「待ちな。稽古するってんなら、頭を使ってやりなよ」
「‥‥頭?」
 義貞の首がカクリと傾げられる。
「そうさ。アヤカシの特性を考えて、武器や戦闘方法を変えるのは当然のこと。仲間がいるなら連携も大事さ」
 フッと妖しげに笑う楓子に、義貞は「なるほど」と頷く。
「一人で暴走して突っ込んで、仲間にまで迷惑かけたり、危険な目に遭わせたりする事は厳禁だからさ」
「橘さんの仰るとおりです。状況によっては、一方を選べば不利に、もう一方を選べば有利にもなります。冷静に判断すれば良い手にも悪い手にも変化するんですよ」
 三四郎の声に目を瞬かせる義貞。
 わかっているのかどうかは微妙だが、人の話に耳を傾けることはできるようだ。
「けどまあ、一か八かで突っ込んじゃいなさいな。運なんて、自分で掴むものなのさ」
「自分で掴むもの‥‥おう、わかった!」
 一部だけを抜き取って頷いた義貞に、楓子がふと表情を潜める。そうして寄せられた顔に、彼の目が瞬かれた。
「ただし、あたしに迷惑かけたらアヤカシより恐ろしい目に合わせるからねぇ?」
「!?」
 ズザッと一気に下がった義貞に、他の仲間が何事かと視線を注ぐ。
 だが当の楓子は、義貞の反応にコロコロ笑い声を零すのみ。そして遺跡を見据えると、皆を振り返った。
「さあ、行こうかね」
 こうして遺跡へ足を踏み入れた一行は、目的の部屋を目指すのだった。

●右の扉
 遺跡内部を進む隊列は、事前に開拓者たちの間で決められていた。
 義貞を包囲するように歩く仲間たちの内、前を歩くのは三四郎と雫。彼の両脇を固めるのが、彼方と百々架。更に後方をがっちり固めるのが楓と日和、そして隼人だ。
 それぞれが、猪突猛進を絵にかいた義貞の不測の事態を警戒して囲んでいる。
「あたしはね、アヤカシに襲われていた所を助けられたのが切っ掛けで志士を目指すことにしたのよ」
 百々架はそう語りかけながら義貞の注意を惹いている。出来るだけ彼の気を逸らすのが目的だ。
 その甲斐あってか、義貞の注意は百々架に向いている。
「この分なぁら、緊張はなさそうだぁな。まぁ、気合やら期待やぁらが大きいような気はしてたが‥‥」
 少しでも緊張していたならそれを解してやろうと思っていた彼方だったが、その心配はなかったようだ。
「これが遺跡の中か‥‥思った通り暗いんだね」
「ハハハ、灯りがあって良かったな」
 日和はそう口にしながら、松明を手にした隼人と共に、最後に部屋の中に足を踏み入れた。
「これが二枚扉」
 誰ともなしに呟いた声に皆が頷く。
 部屋の中は報告書通り、2つの扉があった。
 右側は緑掛かった黒い扉。そして左側は黒く重い扉だ。
「1つは鼠、1つは泥だっけ?」
 日和の声に皆の注意が扉に向いた時だ。
――ジャリ‥‥ッ、ジャリジャリ‥‥。
 黒い左の扉から物音がした。
 何かを擦るような、そんな物音に彼方の目が義貞に向かう。
「陶、突進するんじゃぁないぞ――‥‥?」
「‥‥何処に行く気ですか?」
 彼方が義貞の姿を捉えた時には、皆が動き出していた。
 義貞の前に立ちはだかって行動を遮ったのは三四郎。それと同じく彼の動きを制したのは雫だ。
 突きつけられた斬るような動きに義貞は目を白黒させている。
「危険な場所での勇み足は厳禁だ」
「そうそう。あんたの試練はそっちじゃないだろ」
 既に動きは止まっているのだが、咄嗟に首根っこを掴んだ日和が、同意しながら頷く。
 その脇から撫でるように頭を掴んで引き止めたのは隼人だ。
「ふぅむ、取り敢えず私も止めに‥‥と思ったんだが、面白いことになったな、ハハハ」
 そう言った隼人の目が、義貞に抱きつく百々架に向かう。
「うふふ‥‥勝手に行ったらだめだってさっき言ったでしょお〜?」
 腕をお腹に回すようにして抱きつき、胸を押しつける百々架に、義貞の顔がキョロキョロと辺りを見回す。そして助けを求める相手を見つけたのだが‥‥。
「良かったわね。皆が止めてくれてさ。これで何かあったら‥‥フフ」
「!?」
 義貞の顔が青く染まり、無意識にコクコクと頷く。それを見て、ゆっくり皆が彼から離れた。
 そして視線を目的の扉に向ける。
「さて、片方には試練の正解が。もう片方には不正解がある。どちらが正しいかな?」
「苔鼠の特徴は知っているな?」
 三四郎の声に雫が問いを重ねる。
 その声に頷きを返すと、雫は簡単な捕捉を加えた。
「緑色が苔むした色、外部からの侵入が容易な薄い扉‥‥これを見れば選ぶ扉は絞られる」
「ここまで聞いて、どっちの扉を選ぶかは、あんたが決めな」
 楓子の言葉に、義貞の視線が落ちた。
 耳には左の扉から奇妙な音が届いている。
 だが普段の直感ではなく考えるとするなら‥‥。
「‥‥うん、こっちだ!」
 義貞はそう言うと、皆の顔を一度見てから扉を開いた。
 それが右の扉――苔鼠のいる扉だ。
「当たりだぁな。このまま苔鼠退治とぉいくかねぇ」
「あら、当たってたの?」
 彼方の声を拾いながら、呪殺符を構えて苦笑するのは楓子だ。
「さあ、行くぞ!」
 雫の声に皆が武器を手にする。
 それに習って義貞も二刀の刃を抜き取り、構えを取った。

 苔鼠を確実に、一匹ずつ倒す開拓者たち。
 その耳に甲高い声が響いたのは、戦い始めて間もなくのことだった。
「この声は‥‥」
 逸早く異変に気付いたのは日和だった。
 普段は閉じられた白い瞳が周囲を見回し、いっせいに集まった鼠たちに息を呑む。
「この数は‥‥彼だけでは無理ですね」
 出来るだけ手を貸さず、義貞に苔鼠の退治をさせようと補佐していた三四郎が呟く。
 それに同意するように、他の開拓者たちの動きが変化した。
「陶、踏ん張ぁれよ」
 次々と溢れだす鼠。そこに刃の風が迫る。
「まったく。面倒なことこの上ないね」
 そう言いながら彼方と同じく風を生みだすと、楓子は迷いもなくそれを鼠に放った。
「こっちにもチョロチョロとっ!」
 舞い上がった木の葉。それに隠れるように身を潜めると、日和は飛苦無に気を練り込み一気にそれを放つ。
 そうして義貞に目を向けると、再び自らが対峙すべき鼠に向き合った。
「確実に減っている。あと少しだ」
 さり気なく、義貞の死角に立ち彼が闘いに集中できるようサポートするのは雫だ。
 隼人も雫と同じように、義貞の護衛をしながら防御に徹している。
「ハハハ、もうひと踏ん張りだな。いけそうかね?」
「勿論だ!」
 義貞に気を使いながら、彼が討ち零した鼠を隼人が闇に葬ってゆく。こうして徐々に減ってゆく敵に最後の一撃が見舞われようとしていた。
「さあ、あたしの必殺技を喰らえぇぇっ! 黒猫騙しッ!」
 炎が絡む刃を掲げ、鼠に向かうのは百々架だ。
 斜めに斬り込み一瞬の内に崩れ去った鼠を視界に納める。だがそれで彼女の攻撃が終わることはない。
「トドメよ!」
 残り一匹が迫ると、もう一つの剣が下から突き上げるようにその身を斬り崩した。

●弱点を見極める
「ハハハ、お疲れ様だ」
 そう言ってテシテシと義貞の肩を叩くのは隼人だ。
 数が増えて苦戦したとはいえ、流石は開拓者。まだ体力を残している様子に義貞が感心したように目を瞬く。
「さて、次は‥‥」
「強酸性粘泥ですね」
 隼人の声を拾って三四郎が呟く。
 そこに予想外の疑問が降り注いだ。
「なあ、その何とか何だ?」
 義貞だ。
 苔鼠は試練と関係ある為に志摩が教えておいたが、強酸性粘泥は彼の性格を考慮した上で詳しい説明を伏せていたのだ。
「厄介なアヤカシだな。接近攻撃は厳禁だ」
「強酸性粘泥は武器をだめにする。二刀流志士が目標なら、その武器も大切にするのは当然だろ?」
 日和に言われて、差している2本の刀に目を落とした。
 1本は故郷を出る時に、もう1本は開拓者の先輩から貰ったものだ。どちらも義貞にとって大事なものである。
「さて、ここからはあたしらの出番だね。泥の性質なら、熱で乾燥させたら固くならないかしら」
 楓子がそう口にすると、同じ陰陽師の彼方が前に出た。
「武器を腐らせるってぇなら、直接攻撃するにゃぁ向かねぇな。試す価値はあるだぁろうさ」
 そう言い終えると、彼方が扉を開けた。
 そこにいたのは、巨大な緑色の姿をしたジェル状の生き物。
 もぞもぞと動きながら壁を溶かす姿は、明らかに異常。しかも大人2人分の大きさはある。
「あのまま引き止めなければ大惨事になっていたな」
 冷静に呟いた雫が、ナイフを手に前に進み出た。
「見ていると良い」
「っ、ナイフが‥‥」
 投げられたナイフが緑色の体に突き刺さる。すると次の瞬間、ナイフが見る間に腐敗し、無残な姿に変化した。
「見ての通り剣は使えない。だがやれる事はある」
 雫はそう言って、手持ちの弓「朏」を彼に差し出した。
「弓‥‥でも俺‥‥」
 思わず受け取ってしまったが、今まで弓など射ったことが無い。戸惑う義貞に三四郎が近づいた。
「なんでしたら、私と一緒にお留守番していますか?」
 三四郎は自らの戦法を考え、義貞との留守番を視野に入れていた。
 その声に弓と三四郎、双方を見た義貞が首を横に振る。
「‥‥俺も、戦う」
 そう言って真剣な眼差しで皆を見ると、全員の覚悟が決まった。
「決まったなら早急に決着をつけよう‥‥――いざッ!」
 雫の声が高らかに響いた。
 その声に緑の体がのっそりと動き出す。
「液体には火がお似合いだろうさ」
 そう囁き楓子の符から炎が放たれる。炎は円を刻みながら泥に向かい敵に纏わりつく。
「あらあら、ご自慢の体が固まってくねぇ」
 彼女の言葉通り、空気中の水分、そして体に付着する水分が蒸発して、その部分だけ固まっているのが見える。
「成る程、乾燥が弱点で良いみたいだね」
 日和も楓子を手伝い炎の術で応戦する。
 その姿を、距離を取って見つめる存在がいた。
 義貞だ。
「ハハハ、緊張しているのか? 大丈夫さ、きっと」
 弓を握りしめて表情を強張らせている義貞の肩を叩く。
 そして彼も刀を抜き取ると、大らかな笑顔を義貞に向けた。
 その笑みに義貞の肩に入った力が抜ける。
「固まってきたね! これで一気に‥‥」
 二刀の刃に再び炎を纏わせ百々架が呟く。
 目の前では炎によって動きを封じられ、表面を固まらせるアヤカシの姿がある。
「そろそろかぁねぇ?」
 そう口にした彼方から風の刃が放たれた。
――‥‥、‥‥ゴゴ‥‥。
 蠢く体にヒビが入り、乾燥していることが伺える。
「今なら行けそうです」
 三四郎の声に、隼人の刃に炎が乗った。
「陶、援護を頼む」
 雫の声に義貞の手にした弓の弦が軋む。
 そして一矢放たれると同時に、開拓者たちの足が動いた。
 乾燥した泥の表面に叩き込まれる攻撃。それを避ける術もない敵は見る間に傷を負ってゆく。
「おっと、邪魔な性質だね」
 傷によって覗いたジェル状の部位を、楓子と日和の炎が乾かし、再び攻撃が加えられた。
 そして‥‥。
――ゴゴゴ‥‥、ッ‥‥。
 遺跡内部に地響きのような音が響き、泥が抵抗するように蠢いた。
「逃がさぁないぞ」
 行き場を塞ぐように風の刃が迫り、そこに三四郎、百々架、隼人の刃が喰らい付く。
――‥‥ゴゴゴゴゴッ。
 一斉に攻撃を受けた敵は、その身を一瞬強張らせると、その場にゆっくり崩れ落ちたのだった。

●試練を終え
「ねえ、今度手合わせしようよ♪」
「うん、勿論だ!」
 遺跡から出てきても尚、元気な様子を伺わせる百々架に、義貞が嬉しそうに目を輝かせる。その上で元気に答えれば、楓子がふと呟いた。
「速く立派な開拓者になって、ちっとはあたしらに楽をさせておくれな?」
 唐突な言葉に驚きはしたものの、やはり義貞は笑顔で頷きを返す。
 そこに日和の手が伸びてきて、乱暴に彼の頭を撫でた。
「安易に突進はしないこと。そこ直さないといつか仲間も危険にさらすよ」
「ぬあ! わかってるって! ヒヨ姉は心配性だな!」
 わしゃわしゃと撫でる手から逃れようと動くが、更に頭に手が加わり動けなくなる。
「何時だって大人は子供を心配するものだ、ハッハッハッ」
 隼人だ。しかも傍には三四郎も佇み、その様子を微笑ましげに眺めている。
「でもまあ、良く頑張ったね」
「だぁな。無事終わったぁようで、何よりだぁ」
 同意するように彼方が頷き、三四郎が顔を覗き込んでくる。
「二択の件、忘れないでくださいね」
 それら全てのやり取りを眺め、雫はふと目元を緩めた。
「今は勢いだけだが、これからが楽しみだな」
 折角ならこのまま都に戻り、皆と一杯やりながら彼の将来について語りたい。
 そんな事を思い、雫は皆の輪に加わるとその旨を提案するのだった。