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■オープニング本文 四方を山に囲まれた里。 そこで旅立ちを前に胸を弾ませている少年がいた。 「俺、絶対に天儀一の開拓者になるからな!」 瞳を輝かせ意気込む少年は、里に生まれた唯一の志体持ち。 本来ならこの場に残り、里をアヤカシから守って欲しい、そう思っていた。 しかしそうした思いとは裏腹に、少年は里を出る決意をする。 そして今日、開拓者になるべく旅立ちの時を迎えた。 「んじゃ、行ってくる! 開拓者になったら、ちゃんと仕送りするからな!」 里は裕福とは言えない。 現状を見れば、開拓者になり通常よりも多い仕送りをすれば、里の者たちの暮らしは良くなるだろう。 だからこそ期待はある。だが不安があるのも確かだ。 里の者たちは元気いっぱいに旅立つ少年を、複雑な心境で送りだしたのだった。 ●開拓者ギルド これは穏やかな、とある日の出来事。 「おーい、志摩ー! 上から文預かって来たぞー!」 開拓者ギルドの職員・山本は、志摩・軍事(シマ・グンジ)が生活している部屋の戸を開けると、中の様子に目を瞬いた。 「あれ? だいぶ片付いてる、か?」 以前はあちらこちらに物が転がっていた部屋の中が綺麗に片付いている。しかも物も少しだが減っているようだ。 「おう、山本か。上から文って‥‥何かしたっけか?」 部屋の隅で書物を分けていたのだろう。 古ぼけた書を手に立ちあがると、志摩は卓の傍にある座布団を山本に勧め、自分は何もない場所に腰を下ろした。 「俺が知るかよ。つーか‥‥急に戻って来たと思ったら片付けか? まだ試練の途中だろうに」 「まあな。今後を考えると片付けておいて間違いはない気がしてな。で、文とやらはどれだ?」 志摩はそう言うと、山本から文を受け取ると、中身に目を通し始めた。 「こいつは‥‥」 「どうした? 何か無理難題でもあったか?」 「いや‥‥そう言う訳じゃないんだが‥‥」 読み終えた文を差し出しながら眉間に皺を刻む。 それを見ながら山本も文を受け取ると、そこに書かれている文字に目を落とした。 その瞬間――。 「――っ、わはははは! 何だコレッ!!」 大爆笑した山本に、大きなため息が漏れた。 だが山本は構わず笑い続け、バシバシと志摩の背を叩く。 「前代未聞な難題だな!」 笑ったままの山本の声に、志摩はもう一度息を吐くと彼の前に湯呑を置いた。 「難題‥‥いや、世間一般には無理じゃねえ筈だ‥‥だが、なぁ‥‥」 志摩は山本から文を奪い取ると、今一度そこに視線を落とした。 その内容が、これだ‥‥ 試練が半数以上終わったこと、これに関して感謝の意を示す。 このままいけば陶義貞は無事開拓者への道を歩めるだろう。 だが陶義貞には問題がある。 現状のままでは、彼を開拓者ギルドから送り出す事はできない。 その問題点は彼の身なりだ。 ついては、近日中に開拓者に相応しい身なりを整え、その上で残りの試練に当たるよう努めてほしい。 正直、今のままではギルドの名を名乗らせたくないのが実情だ。 教育係として、もう少し身辺に気を配る事を願おう。 「‥‥身なりを整えろって‥‥俺にどうしろってんだ」 額に手を添えて呟く志摩に、山本は漸く笑い声を納めると、彼が淹れてくれたお茶に手を伸ばした。 「まあ、確かに今のままじゃ見た目が悪いよな」 確かに、今の義貞は田舎から出て来た時より髪も伸び、新しい着物を着ていたと言う記憶もない。 そもそも教育係の志摩が服やそうした事に無頓着な上、あろうことか彼はあまり風呂も好きではなかった。 その為か、お世辞にも身なりが整っているとは言えない。 「そう言えば‥‥この前、物乞いに間違えられていたような。やっぱマズイかねぇ」 「物乞い!?」 志摩の何気ない一言に、山本の顔が変わった。 「‥‥志摩、悪いことは言わねえ。ちゃんとした格好させてやれ」 肩を叩き、神妙な表情で訴える山本に、志摩は目を眇めて茶を啜る。 「俺はそう言うのは良く分からん」 「『良く分からん』で括るなっ! これは義貞の為だ! お前は別に物乞いに間違えられても良いが、前途ある若者にんな思い出せんじゃねえ!」 ダンッと卓を叩いた山本に、志摩が目を見開く。 「いや、俺が間違えられても良いってのも問題が‥‥」 「お前は良いんだよ!」 きっぱり言い切った山本の剣幕は相当のものだ。 まあ、預かっている子供が物乞いに間違われると言うのは確かに問題ではある。 預かっている以上はきちんと面倒を見なければいけないのは当然であるし、まともな格好をさせる事も責任の1つであるはずだ。 だが志摩からすれば、如何して良いのかわからないのも事実。 「服くらいは買えるだろうが、センスはねぇ‥‥俺が選んだところで、な」 「そうだ! いっそこれを依頼として出すか!」 名案とばかりに手を打った山本に、志摩は目を瞬く。それを見て彼の顔に悪戯っ子の笑みが浮かんだ。 「いや、上からのお達しなら試練に絡めて報酬も出せるかもだしさ。1つやってみないか?」 「それは、出るかもだが‥‥これは俺と義貞の問題な気がしないでもないんだが‥‥」 「これを乗り越えなきゃ試練は終えられないってんなら、お前らだけの問題じゃない!」 山本はノリ気しない志摩に容赦ない言葉を投げると、やる気満々に茶を飲み干した。 「上が気に入る容姿に出来たら、試練成功ってことで、ギルドから金出して貰おう! あ、そうそう。義貞の身なりを整える支度金は、お前が出せよ?」 「何ぃ!?」 こうして開拓者ギルドに奇妙な依頼が出される事となる。 そして当の本人はと言うと、今日も都をふらつき物乞いに間違えられて握り飯を貰って来たとか‥‥。 |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
高倉八十八彦(ia0927)
13歳・男・志
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
空(ia1704)
33歳・男・砂
荒屋敷(ia3801)
17歳・男・サ
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
リンカ・ティニーブルー(ib0345)
25歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●志摩の自室 「スマン、迷惑かける」 部屋に集まった開拓者に、志摩はまずそう口を開く。 そんな彼に高遠・竣嶽(ia0295)が苦笑を零した。 「まさか、こういうところで引っ掛かるとは‥‥考えてもみませんでした」 竣嶽は試練以前より義貞の成長を見てきた。 それだけに複雑な心境は隠せないのだが、身嗜みの重要性は承知している。 だからこそ今回も協力を申し出たのだ。 「魅力なぁ‥‥ついでにお父さんもきちんとしたらいいのになー」 そう言いながら志摩の隣で胡坐をかくのはブラッディ・D(ia6200)だ。その隣には腰を据えて首を傾げる高倉八十八彦(ia0927)の姿もある。 「義貞のあにさん飾り付けついでに、おっちゃんも飾り付け?」 「俺としてはお父さんも格好良くしたい!」 キリッとして見せるブラッディに、八十八彦が頷く。 そんな2人は、「おっさん遊び隊」を結成している。要は志摩と遊ぶための隊だ。 「俺は今のままで十分イケメンだろ?」 ここまで静かに話を聞いていた志摩がイキナリ世迷言を口にした。 そのことに、場が一瞬にして凍りつくのだが、遊び隊の2人は違った。 「お父さんカッコイイ!」 「うむ、イケメンじゃが!」 キャッキャと笑って志摩を構ってくれる。 そんな3人に他の開拓者が呆気に取られていると、廊下の方から激しい足音が響いて来た。 「俺の刀がねぇ!」 勢い良く開いた襖。その向こうに立つ少年に、志摩を除く全員が目を見開いた。 ボサボサの髪に、ボロの服。そこはかとなく異臭を放つ少年‥‥。 「義貞、か?」 呟いたのは恵皇(ia0150)だ。 彼は義貞と会ったことがある。だからこその呟きだが、想像以上に酷かった。 「確かに‥‥これじゃ誤解を受けても無理は無いか」 報告書で聞いていたが、状況は深刻だ。 何とかしなければと言う思いが湧いてくる。 「いやあ、田舎出だと大変だよなぁ!」 目を逸らした恵皇の傍で、笑って義貞に声を掛けたのは荒屋敷(ia3801)だった。 明るく元気な姿は義貞に近い。だが決定的に違うのはその清潔感。 「そんなんじゃ女にモテないぞ?」 ニンマリ笑って湯呑を煽る。そんな彼の好きな事はナンパだ。 「なあ、おっちゃんこいつら――」 「ぅ、クサッ」 疑問を口にしようとした義貞を、入口の傍にいた八十神 蔵人(ia1422)が、鼻を押さえて遮った。 「聞きしに勝る、やな。最悪、川に突き落としてモップで擦るか?」 「モップ‥‥」 ズーンっと義貞のテンションが落ちた。 そこに追い打ちが掛かる。 「ッヒヒ、ク‥‥ヒヒ、ハハアッハ! ヒヒ‥‥なァる程、こりゃアレに見えるっつーのも納得つーか」 いつの間に傍に来たのか。義貞の姿を眺めた空(ia1704)が、涙目になった目を拭ってキリッと表情を引き締めた。 「良いセンスだ!」 「ぜってぇ思ってねぇ!」 義貞の突っ込みにもう一度笑うと、空はニイッと口角を上げた。 「まァ、開拓者なんて凄い格好してる奴も多い。少なくともマシに見えるだけの服はもっとけ」 「せやで」 空の声を傍らで聞いていた蔵人が、鼻から手を離して義貞を見た。 「想像してみ。お前がどこぞの村人で、金払って頼んでやってきた開拓者が、物乞いみたいな姿のお前」 蔵人はそこで言葉を切ると「どうや?」と彼の顔を仰ぎ見た。 「詐欺か! って思うやろ。嫌過ぎや」 確かに依頼を受けた者が、義貞の様な姿だったら嫌に決まっている。それは義貞も想像できたようで、静かに首を縦に振って頷いた。 「じゃあ、どうすれば‥‥」 「やる気が出たようだし。これを持っておきな」 「え?」 反射的に差出された筆記用具を受け取った義貞に、リンカ・ティニーブルー(ib0345)が微笑む。 「今後を見据えた時に役立つ事もあるはずだよ。その時のために、聞いた事を書き留めて、時々見返すんだね」 「え、っと?」 「要は常にメモを取って参考に、言うことじゃ」 どうもわかっていない義貞に、八十八彦が捕捉する。 そんな彼に刀が差し出された。 「おびき出しは成功したからな、返すぞ」 「ああ、俺の刀っ!」 慌てて抱き寄せた刀に、八十八彦がニコッと笑った。 「おー、あの刀? 嬉しいのう」 以前、八十八彦からプレゼントされた刀が義貞をお引き寄せる人質だったようだ。 「さて、後は任せて俺は何処かで‥‥うん?」 義貞を託して席を立とうとした志摩の腕をブラッディが掴んだ。 それに習って八十八彦も反対の腕を掴む。 「‥‥何だ、この手は?」 「保護者ならこういうの参加しないと、いざというとき頼られなくなっちゃうよ?」 何かがグサッと胸に刺さった。 そこに空がヌッと近付く。 「おゥ、財布も一緒に来い」 「そうそう。金出してくれる人が一緒じゃないとな♪」 荒屋敷も楽しそうに続き、こうして志摩も無理矢理改造計画に参加することになった。 ●断髪式 開拓者一行は、川辺にやってくると義貞を囲んで話し合っていた。 「義貞のあにさんは、髪の長さに拘りはあるんじゃろうか?」 八十八彦の声に義貞が首を捻る。 先程から何を聞いてもこんな感じだ。 流石にこれでは先に進まないと、恵皇が腕を組んだまま口を開いた。 「俺としては、いっそのこと丸坊主にしちまえばいいと思うな」 「!?」 突如出た坊主発言に、今まで首を捻るだけだった頭が盛大に揺れた。 「その内に伸びてくるだろうが暫くは楽だぞ?」 「嫌だ! 坊主は嫌だ!」 過去に何かあったのでは‥‥そう言いたくなるほどの否定に、恵皇が残念そうに項垂れる。 「では長い髪には、何か思い入れがあるのでしょうか?」 坊主が嫌なら切るのが嫌なのかもしれない。 そんな思いで竣嶽が問うと、これにも義貞の首が横に揺れた。 「いんや、切るのが面倒だっただけだ!」 「なら、短くでしても良いかもしれませんね」 坊主が嫌だが切られるのは嫌ではない。 これがわかっただけでも前進だ。 「そうだね。自分で整えられるなら、長髪の方が周囲の人々の心証も良いとは思うけど‥‥」 リンカはそう呟くと、義貞の髪を手にとって眺めた。 髪質は剛毛。しかも癖があると来れば手入れは大変だろう。 「こんな依頼が出てる以上、手入れの完璧は無理だろうね」 そう言いきったリンカは、髪の長さが中途半端だと跳ねる心配があるとまで指摘する。 「なもんで、あたいは短く刈って、白手拭いを粋に被るのも良いんじゃないか‥‥と思うんだが、どうだろうね」 そう言って義貞の髪から手を離した。 そんな彼女に、竣嶽が思案気に呟く。 「ひとまず、前髪は最低限どうにかしておいた方がよろしいかと。目が見えぬ、というのは存外印象がよろしくないものですからね」 「俺も前髪で目が隠れるのは悪ィと思うんだよなぁ」 竣嶽の声に同意したのは荒屋敷だ。 「同意。少なくとも前髪はどーにかしろよ。後ろは長さの好みも聞く。聞くかどうかは知らんケド」 ゲラリと笑った空に義貞がぶるりと震えた。 どうも彼の言動は義貞に危機感を与えるようだ。 そこに蔵人も同意するよう頷く。 「わしも皆に賛成や。ええ目つきしとるやろうし、髪で隠すのは勿体無い」 「目にかからない、戦闘の邪魔にならないような短髪とか良いな」 蔵人の言葉に便乗してブラッディもこっそり呟いた。 「坊主か、短髪か、布や小物で纏めるか‥‥どれが良い?」 「う〜ん‥‥短く、かな?」 話を聞いていて自分には短髪が良いと思ったのだろう。 荒屋敷の言葉にそう口にした義貞に、皆が頷く。 そして八十八彦が改めて皆を振り返った。 「ほんなら髪切れる人おらんじゃろぅか?」 開拓者の中には色々な経験や趣味の者がいる。だからこそ問いかけたのだが‥‥。 「居なさそうだな‥‥よし! 義貞、そこに座れ!」 「へ?」 無理矢理持たされた鏡。 それを手に石の上に座ると、ブラッディは用意しておいた鋏を持って言った。 「俺達で義貞が丁度いい長さまで切ろう!」 「!?」 慌てて振り返った義貞の頭が強引に戻された。 「断髪式みたいに1人1人切るってわけか。記念に残るかもな」 「い、嫌だッ!」 ガクガク震えだした義貞。 そんな彼の肩を前からがっしり掴む者がいた。 「義貞‥‥良いって思ったところでちゃんと言うんだぞ。でないと‥‥禿げる」 志摩の神妙な声に、義貞は声無き悲鳴を上げたのだった。 ●身嗜み 都にある風呂屋。 そこで義貞の垢を、荒屋敷が必死に擦り落としていた。 「これから着せ替えすんだもんな、折角の新品が汗臭くなったらやだろ?」 手拭いで擦る度に、垢がボロボロ落ちてくる。その様子を八十八彦が、湯船の中で楽しげに眺めていた。 「逃げだしたらだめじゃけえ、見張るんじゃ。じゃけぇ、蒸し暑い時は風呂が気持ちええのぉ♪」 湯船の中で遊ぶ姿は、監視とは程遠い。そんな彼を恨めしそうに見つめる義貞の髪は短くなっていた。 散髪はどうやら終了したようだ。 ただし最後の方で怯えた義貞がストップを掛けたため、後ろ髪が中途半端になっている。 そのせいか、濡れているにも関わらず、髪の毛が良く跳ねていた。 「温いでぇ。コイツで擦ったれ!」 そう言ってモップを手に現れたのは蔵人だ。 彼は荒屋敷よりも強引に体を擦り、義貞の悲鳴を倍増させた。 そして‥‥。 「残すは服だ。開拓者の服装なんて十人十色。ちょっとアレな格好の奴もいるから好きに選べ」 そう言って義貞の髪を拭くのは恵皇だ。 そんな義貞の服は、荒屋敷が勧めた作務衣になっているのだが、彼にはもっと勧めたい服装があった。 「俺のお勧めは、着流しに上等な布を羽織る、有名志士さんの簡易バージョン!」 元気にイメージを言いきる彼に、義貞が「おお」と呟く。 「ぶっちゃけ、服装は汚く見えるのでなければなんだっていいと思うぞ」 「‥‥身も蓋もねぇ」 恵皇の言葉は尤もだが、荒屋敷からすれば面白くない。 「まあ、統一感があらあ1ランク上に見えるけえね。意見を聞きながら常識的に合わせたらええ」 義貞と同じく風呂上がりの八十八彦はそう言って笑う。 そこに、万商店へ出掛けていた数名が戻って来た。 「万商店で服を見繕って来ました」 大量の布を抱えた竣嶽は、そう言うと手にしていた服を下ろした。 「予算は志摩持ちだ。他人の金なんだし甘えてドーンとフルフルとか無駄に高いの買って貰えや」 今はまだ借りてきた段階。 ここから絞り込むのだが、いったいどれだけ買わされる事か‥‥。 「お父さん、頑張れ!」 「頑張れって‥‥おい‥‥」 蒼白に呟く志摩に、ブラッディはにっこり笑い返す。 その間も服を持ってきた蔵人は、義貞が見易いように並べていた。 「鎧と靴、外套‥‥あ、自前でも幾つか携持ってきたで。お古やけど気に入った物あればもってけ。ついでに、わしの勧めは動きやすい甚平か袴でびしっと、やな」 ニッと笑って服を広げる蔵人に、リンカが服を手に呟く。 「そうだね‥‥何も一から全部新品に拘らなくても良いかもね」 「せやろ?」 「後は、継接ぎの着物は部屋着にしたらどうだろう。外着だけ新品とかさ」 リンカはそう言うと手にしていた服を置いた。 その近くではブラッディが思案気にしている。 「それじゃあ外着は、かっこよく志士らしい服を勧めてみよっかな」 「‥‥あー、あの志士の王サマっぽく袴とか羽織りみてーな方向で固めてみっか?」 ブラッディの声を拾って空が口にしたのは、北面の王様の事だ。 「泰系の服で纏めてみるのもアリかァ? 後は俺みてーに着流しでも、良いけどな。魅力、見せてやろォかァ?」 ニヤッと笑った空の雰囲気が一変した。 それに慌てたのは志摩だ。 急いで義貞を引っ掴むと強引に空と距離を置かせた。 その姿に空は「つまんねぇな」と呟いたが、夜春を使って魅力を教えようとするのは駄目と、志摩が判断した。 故にこれ以上は無理だ。 「ま、マトモっぽく見せるなら袴が主流じゃね?」 仕方なく普通の提案をすると、荒屋敷がそれを真っ向から否定した。 「いやいや、袴なんて履かなくていいし! 上等な布を羽織れば、上等な感じすんじゃん」 ばさっと布を羽織って見せる荒屋敷。 だが今度は蔵人が物申した。 「依頼中は袴でも履いてりゃそれなりに見えるはずやで?」 「‥‥うーん。このままだと収集つかんし、義貞に選ばせよう」 突然話を振られた義貞は、キョトンとして皆を見回した。 確かに収集付かない気配は出ている。 そして、そんな中義貞が選んだのは‥‥。 「俺、これにする。後は、えっと‥‥これだ!」 選んだのは数種類の服。 だが如何にもセンスが悪い。 「義貞。色がバラバラ。強い男ってイメージで渋く決めてみたらどうだろ?」 「色の統一?」 首を傾げる義貞に、ブラッディはそうだと頷く。 その助言を受け、義貞が最終的に絞った服は、袴と泰服、その他に着流だ。 「これを全部組み合わせると大変なことになりそうね‥‥あ、でもこれを組み合わせてとか、どうかね?」 リンカが手早く泰服のシャツと袴を合わせる。 麻で出来たシャツに袴が良く合う。だが何か物足りない。 「あの、私が以前使っていたものですが‥‥」 そう言って峻嶽が差出されたのは、蒼天の外套だ。 青と白の外套は見た目に涼しく、爽やかな印象を受ける。 アクセントにはバッチリだろう。 「本当は試練が完了した時に、と思っておりましたが折角ですからこの機会に」 「良いの?」 「これからの季節は暑いですけれども、場合によっては羽織る以外にも使えますからあって損はありませんよ」 そう言って微笑んだ竣嶽に、義貞は頬を紅潮させて外套を受け取った。 ●結果 開拓者ギルドへ向かった義貞は、黒に鮮やかな青を落とした着物を纏い、自らを改造してくれた者たちの元へ戻って来た。 「結果、どうだった?」 今回は試練なのだから気に入られるように頑張れ‥‥そう、義貞に説いたブラッディが問う。 その声に義貞がニッと笑って見せた。 「よし、魅力も完了か!」 「案外マトモだったなァ」 恵皇に続いて空が呟く。そこに八十八彦が囁いてきた。 「後はアレじゃあ。さっき言うたイメージ‥‥自分の得意とするスタイルを見つけて、磨きをかけるんじゃぞ?」 「うん!」 彼は義貞に開拓者としてのイメージを説いた。 それをどう受け取るかは義貞次第だが、義貞はそれを素直に受け取ったようだ。 そしてその傍ではリンカが頭を撫でている。 「髪が結局跳ねてるね。お疲れさんだ」 「なあ今度、首飾りやピアス、腕輪とか見繕ったろ。何やった彫り物でもやるか?」 ニッと笑った蔵人に義貞は興味津々だ。 そこに竣嶽が声を掛けた。 「おめでとうございます」 単刀直入な祝辞に、義貞の元気いっぱいの笑顔が浮かんだ。 そして、少し距離を置いた場所で服を抱えて笑う人物がいた。 「選ばなかった服や布は格安で俺が貰う。いやぁ志摩さん、悪ィっす☆」 荒屋敷だ。 満面の笑みで頭を下げる姿に、志摩の財布が薄くなったのは言うまでもないだろう。 |