|
■オープニング本文 東房国。 ここは広大な領土の三分の二が魔の森に侵食される、冥越国の次に危険な国だ。 国内の主要都市は、常にアヤカシや魔の森との闘いに時間の殆どを費やしている。 そして東房国の首都・安積寺より僅かに離れた都市・霜蓮寺(ソウレンジ)もまた、アヤカシや魔の森との闘いが行われていた。 ●霜蓮寺(ソウレンジ) 霜蓮寺・統括の間にて、僧服に身を包んだ久万(クマ)は、目の前に腰を据えた主を見ながら苦笑を零した。 手にした書面、そこにあるのはアヤカシ退治の依頼だ。 統括に呼ばれ参じた久万は、入って直ぐにこれを渡された。 東房国の砂浜にアヤカシが大量発生した。それを退治して欲しいというもので、別段おかしな点はない。 だが‥‥。 「『嘉栄(カエ)に海での遊び方を教えて欲しい』‥‥なんですかな、これは‥‥」 依頼書の最後に付け加えられるように書かれた言葉、字からして統括が書いたものに間違いはない。 「嘉栄は働き過ぎなのだ。少し羽を伸ばしても罰は当たらないだろう」 「それは、そうなのですが‥‥」 確かにアヤカシの退治を終えれば、浜辺で遊ぶことも可能だろう。 だがそれは通常の人間が相手の場合だ。 「嘉栄が退治終了後に遊ぶとは、とても‥‥」 嘉栄は超がつく程の真面目人間だ。 依頼が終了すれば、すぐさま次の仕事に向かうだろう。 しかし統括は言う。 「だからこそ、依頼にしたのだ」 真面目に返された言葉に間違いはない。 依頼にして、無理矢理遊びに引っ張り出して貰えば、嘉栄も遊ぶかもしれない。 だからと言って、久万にはどうしても腑に落ちないことがあった。 「――統括」 言い辛そうに口を開く久万に、統括は何事かと首を傾げる。 それを見た上で、久万はどうしても引っ掛かっていたことを口にした。 「‥‥わざわざ、アヤカシ退治を混ぜる必要があったのでしょうか?」 そう、休暇を与えたいのなら、わざわざアヤカシ退治など混ぜる必要がない。 そもそもアヤカシ退治をするということは、それだけ仕事をするということになる。 「ここは普通に休暇をあげ、開拓者の方々に遊び方を教えて貰うだけで良かったのでは‥‥」 この言葉に統括はハッとなったが、開拓者ギルドの仕事は早かった。 この久万と統括とのやり取りと時を同じくして、開拓者ギルドには統括の願いどおりの依頼書が張り出されたのだった。 |
■参加者一覧
銀雨(ia2691)
20歳・女・泰
百地 佐大夫(ib0796)
23歳・男・シ
小(ib0897)
15歳・男・サ
四方山 揺徳(ib0906)
17歳・女・巫
千亞(ib3238)
16歳・女・シ
愛鈴(ib3564)
17歳・女・泰 |
■リプレイ本文 青い空、白い砂浜、寄せては返す波の音。 「う・み・だー!」 透き通った海に響き渡る歓喜の声。 それを発したのは両手に風呂敷包みを持った、愛鈴(ib3564)だ。 包みの中には西瓜が入っており、彼女はそれを下ろすと辺りを見回した。 「さーてさて、踊るワカメはどこかなーと‥‥ん?」 視線を巡らす先に見えた開拓者数名の姿。それに愛鈴の首が傾げられる。 「アレが行楽のついで、海藻でござるか‥‥いや、逆だったかもしれないけど、さほど違いは無しでござるー!」 両拳を掲げて叫ぶ四方山 揺徳(ib0906)の前には、ぐるぐる回る物体がある。 陽の光を浴びて、手を取り合って踊るアヤカシ――海藻人間5体が、楽しそうに踊っている。 「なんで踊ってんだ、なんか呼んでんのか?」 そう口にしたのは銀雨(ia2691)で、その声に傍にいた小(ib0897)も同意して頷く。 「‥‥踊ってるだけって害は無い気がするけど‥‥なんか、きめぇな‥‥」 ぐるぐる、くるくる回って踊る海藻人間は、確かに気持ちが悪い。 しかも何を考えて、何を目的にしているのかわからないので、尚のこと気持ちが悪いのだろう。 「ここは、チャチャッと終わらせて、遊びましょう!」 長い耳を揺らして千亞(ib3238)が頷けば、彼女も持ってきた遊び道具を足元に置いた。 「‥‥仕事だよな? あれ? 遊びが目的だった、か?」 完全に遊びを最前線に置いた千亞の声に小が首を捻るが、それはこの際どうでも良い。 千亞はニッコリ笑って嘉栄を振り返ると、彼女に双節棍を差し出した。 「私はまだ新参者ですので、気を抜かす真剣に頑張りますッ――と言う訳で、嘉栄さんはよかったらこれを使って下さい」 「‥‥これは?」 「切ると増殖するらしいぞ」 棍を手に目を瞬く嘉栄へ、百地 佐大夫(ib0796)が呟く。 その声に「なるほど」と嘉栄が棍を握り締めれば、他の開拓者も攻撃の準備に入った。 そして――。 「あ、危うく引きこまれるところだったわっ!」 言って、愛鈴は額に浮かんだ汗を拭った。 その上で魔術のように踊り、参加を促す海藻人間に拳を握る。 「これが状態異常と言うやつね‥‥なんて強力な!」 「違うと思います。でも、一緒に踊りたい気持ちはわからないでも‥‥でもっ!」 千亞が首を横に振って飛手を構える。 そして一気に間合いを詰めると、拳で殴り付けた。 それに海藻人間が揺らぐと、彼女の赤い目がキラリと光る。 「出でよ火兎!!」 瞬く間に上がった炎。 それが拳を伝って海藻人間に移行する。 当然、海藻人間は燃えるのだが‥‥ 「燃えながら踊ってますっ!」 目の前で炎を纏って、踊り狂う相手にズザッと後じさった。 そこに透かさず小の鉄傘が殴り込む。 「きめぇって!」 震える千亞を庇いながら鉄傘を下ろせば、海藻人間は呆気なく砂浜に沈む。すると今度は、別の方角から声が響いてきた。 「うお!? 誰だ、刃物使ったヤツ!!」 佐大夫は僅かな破片から増えた海藻人間にギョッとした。 その声に銀雨がナイフをしまう。 「増やして倒すほうが、たくさんになって瘴気が薄まんじゃね‥‥とか」 真面目な顔して呟く姿に、全員から「お前か!!」と突っ込みが入る。 だが、増えてしまったものは仕方がない。 「本当に増えたでござる‥‥一応注意するでござ――刃物はご法度でござるー!」 再びナイフで海藻人間を増やそうとする銀雨に、揺徳がスライディングをしてナイフを奪えば、引き攣った顔で銀雨を覗き込んだ。 「ダ・メ・で、ござるよ?」 「‥‥仕方ねえな」 ナイフを取りあげられてはこれ以上増やせない。 銀雨は増えた海藻人間に向き直ると、渋々拳で対抗した。 「ったく、油断も隙も――てぇ、ちょっと待てぇ!」 再びあがった佐大夫の声に、今度は何事かと皆が振り返る。 そこにいたのは、海藻に絡め取られた愛鈴だ。 「あいたたた! 骨がっ、骨がー!」 どうやら海藻人間に格闘を挑んで、返り討ちにあったようだ。 ギブギブと浜を叩く姿に、嘉栄が棍で強烈な打撃を加える。 すると呆気なく解放された愛鈴は、キッと涙目で海藻人間を睨みつけた。 「‥‥もう、怒ったわよ!」 一気に間合いを奪い、拳を連打させる。そして畳み込むように足払いを掛けると、透かさず佐大夫が炎を放った。 こうして徐々に海藻人間は退治されて行き‥‥。 ○ 「この度はお手を貸して頂けたこと、心より感謝いたします」 嘉栄はそう言って頭を下げると、ニッコリ微笑んだ。 その仕草に全員が顔を見合わせる。 「また何かありましたら、お手をお貸しください。では――」 「ああー! 嘉栄さん、待って待ってー!」 踵を返しかけた嘉栄の腕を、愛鈴が掴んで引き止めた。 「えっと‥‥それでは、今回の依頼の目標を、はっぴょーしまーす♪」 「え?」 驚く嘉栄の顔を見てから、愛鈴は両手を広げてジャジャーンッと声を上げた。 「目標、それは思いっきり遊ぶだ」 「‥‥遊ぶ、ですか?」 銀雨の声に目を瞬く嘉栄へ、揺徳が言葉を捕捉する。 「アヤカシ退治の後、遊ぶのも依頼に含まれてるでござる」 「それは‥‥」 如何いうことなのか。 問いかける嘉栄へ、開拓者たちは今回の依頼内容を詳しく説明して見せた。 「――内容はわかりましたが、流石に寺の者たちを差し置いて私だけが遊ぶなど‥‥」 「こう考えてみるでござる」 渋る嘉栄へ、揺徳は体や精神面を休めるには遊ぶのが一番だと語る。 長く、西瓜割りにかき氷、遊びに関する想いを語る揺徳を他所に、佐大夫が別の方面から説得に入った。 「今回はアヤカシの特性を鑑み、現地で一日様子を見た方が良い」 「破片から増えないか確かめようぜ」 佐大夫の声に乗って、銀雨が言う。 そもそも海藻人間が増えたのは銀雨のせいなのだが、彼女自身はどこ吹く風「誰のせいだろ?」と周囲からの突っ込みを受け流す。 「それに、良い機会だから一度心身ともに一息ついたらどうだろうか?」 「そうですよ。アヤカシの破片の調査も気になりますし、それに‥‥」 佐大夫の言葉を受けて思案する嘉栄へ、千亞が身を乗り出して彼女の手元に視線を落とした。 「せっかくの洋装、着用してみませんか? きっと嘉栄さんに似合うと思うのですっ!」 ググッと拳を握る千亞に、嘉栄は統括から持たされていた荷物に視線を落とした。 中には袴に近い色のワンピースが入っている。 幾ら鈍くとも、今回の目的を聞けば、何のために持たされた物なのかわかる。嘉栄は苦笑いを噛み殺すと、小さく息を吐いた。 そんな彼女の腕を愛鈴と、千亞が捕獲する。 「じゃあ・ま・ず・は! 嘉栄さんの着替え着替えー♪」 「え? あの‥‥」 有無を言わさず引っ張られて行く嘉栄を見送り、揺徳は桶に水を張って、そこに西瓜を入れた。 「さて、拙者は西瓜を冷やすでござる」 言って、氷霊結を放つ。こうすることで、キンキンに冷えた西瓜を用意しようと言うのだ。 「‥‥海かぁ‥‥」 女性陣が準備に入ると男性陣は途端に暇になる。 小は砂浜に腰を下ろすと、感慨深げに息を吐いた。その様子に同じく暇になった佐大夫が首を傾げる。 「‥‥気のせいか俺、あんまり記憶がねぇ‥‥」 記憶がないとかこれ如何に。 目を瞬いた佐大夫に、小は僅かに首を傾げると、2人静かに海を眺めたのだった。 ●西瓜割り! 「これが、洋装‥‥ヒラヒラと防御性のない物なのですね」 「防御性を気にするなら、俺なんかもっとないぞ‥‥」 ワンピースの裾を摘まんで呟く嘉栄に、銀雨が言葉き返す。 そんな彼女はヘソを出した水着を着ていた。 どうやら海藻人間を増やした罰らしい。 普段の様子からは想像できない程に、居心地悪げにヘソを隠している。 「ご希望でしたら、嘉栄さんにもご用意してみましたっ」 黒のビキニを着た千亞が、ヒラリとシンプルな水着を開いて見せた。 「む、無理です! 絶対に無理です!」 水着を見た途端に首を横に振った嘉栄へ、千亞は残念そうに耳を下げた。 そこに待ちきれなくなった揺徳が木陰から覗き込む。 「そろそろ西瓜が冷える頃でござるよー」 これを聞けば着替えは終了。 千亞は項垂れていた耳をピンッと上げると、笑顔で嘉栄の手を取った。 「では、夏の遊びを満喫しましょうっ!」 ○ 「びーちぼーるの代わり、忘れた‥‥」 小はガックリ項垂れると、近くで繰り広げられる西瓜割りに視線を向けた。 「良いか? コイツは武芸にも通じる遊びなんだ」 目隠しを手に嘉栄に説明するのは銀雨だ。 「つまり‥‥目隠しで精神を集中させ、目標を的確に倒すのですね?」 「嘉栄さん、嘉栄さん。声を頼りに西瓜を割るんだよ!」 透かさず訂正を加えたのは愛鈴だ。 一度海に入ったのか、濡れた服を絞りながら解説してくれる。 それでもまだ嘉栄が納得していないのを確認すると、まずは銀雨が手本を見せることになった。 「もっと右でござるー」 ふらふらと定まらない足取りで右へ、左へ。 その姿に仲間が声を掛ける。 「ああ、行き過ぎ! 今度は左だよ!」 愛鈴がやきもきと叫ぶ中、銀雨はピタリと動きを止めた。 きっと狙いを定めたのだろう。 「――ここだッ!」 拳を振り下ろした瞬間、紅い波動が上がった。 それが西瓜の横を通り過ぎる。 「あー! 銀雨さん、スキル使ったー!」 「くそっ! 当たってねぇ!」 目隠しを外して悔しがる銀雨に、愛鈴が飛びついて抗議する。 しかし、その動きすらも遊びに変われば、辺りは一瞬にして和やかな空気に包まれた。 「見てるだけか?」 先程やってみないかと声を掛けられたが、どうも性分でない嘉栄は、皆と同じ位置で西瓜割りの様子を眺めていた。 「参加していますよ。見えませんか?」 小の言葉にクスリと笑った嘉栄に、彼の目が泳ぐ。 遊んでいると言うよりは、保護者に徹しているように見える。 その考えを見越してなのか、嘉栄が言葉を続けた。 「それに、霜蓮寺のことを思えば、あまり嵌めを外し過ぎる訳にも」 「まあ、それは良いんじゃねぇのか。‥‥それとも、暇なら勝負するか?」 小が示したのは、未だ割られていない西瓜だ。 「嘉栄さんもやってみましょう!」 きっと会話を聞いていたのだろう。 先程海藻人間を殴った棍を手渡して腕を引いてくる。 これで半ば無理矢理参加することになったのだが、まずは小が挑戦することに。 「真っ直ぐ、そのまま真っ直ぐです!」 「おーらーぃ‥‥って、うぶおぉ!?」 真っ直ぐ西瓜に向かっていた足が、突如何かに躓いた。 しかも顔面から砂に突っ込み倒れ込む。 そこに佐大夫が慌てて駆け寄ってきた。 「大丈夫か?」 砂から引き起こして無事を確認した小は、目をぐるぐる回している。 それを見て、佐大夫はふと何かに思い至ったように苦笑した。 「‥‥これが、記憶のない理由か」 運動があまり得意でない彼は、こうして普段から記憶を飛ばしているようだ。 その直ぐ傍では、目隠しをされた嘉栄が西瓜割りに挑戦していた。 精神を集中させて、真っ直ぐ西瓜に向かって歩いて行く。 その姿に、皆が唖然とする。 「‥‥あれ、遊びとしてやってないだろ」 「真面目だね〜」 この声が聞こえているのか、いないのか。 嘉栄は西瓜の前でピタリと止まると、ブレの無い動きで棍を振り下ろした。 ――カパーンッ☆ 西瓜は見事に真っ二つ。 目隠しを外してそれを確認した嘉栄は、嬉しそうに笑って皆を振り返った。 ●海遊び! 「む、無理です!」 身体に掛かった砂を押して起きあがった嘉栄は、服に付いた砂をそのままに逃げた。 「あーあ、我慢する修業だったのにな」 残念そうに崩れた砂を眺めるのは銀雨だ。 彼女は嘉栄を横にさせて砂を掛けた。 その掛け方と言うのが、女性の体の形にして、凹凸部の三カ所に海藻を飾るというもの。 これに対して嘉栄は、体を押し潰す程の砂を跳ねのけると、顔を真っ赤にして行ってしまった。 その向かった先には、釣り糸を海に落とす揺徳がいる。 「さて、何が釣れるでござるかな」 彼女はのんびり浮きを眺めると、離れた位置の仲間の声に耳を傾けた。 「西瓜も美味しかったでござるからな、魚も美味しい筈でござる」 コクコク頷きながら、魚が来るのを待つ――と、そこに嘉栄がやってきた。 「‥‥四方山殿は釣りですか?」 「ん? 砂まみれでござるな」 揺徳はワンピースに付いた砂を手で払ってやると、嘉栄に隣を勧めた。 「砂の重みに堪える修行をしていたのですが、砂の形に我慢できず‥‥」 僅かに苦笑する嘉栄に、揺徳は「なるほど」と頷き、視線を竿に戻した。 ――その時だ。 「これは大きいでござるよ!」 浮きが大きく沈みだした。 明らかに魚が掛かっている。 「手伝うでござる!!」 揺徳の声に、嘉栄は慌てて立ち上がると、彼女の竿に手を掛けた。 そして‥‥バシャンッ☆ 「「釣れた!」」 目の前に現れた大きな魚に歓声が上がる。 その声に思わず顔を見合わせると、2人は楽しそうに笑い合った。 ●夏の夜は 「これで明日の夕刻まで食い繋げるでござる」 揺徳は、釣れた魚の入った桶を眺め満足げに呟いた。 その手には焼いたばかりの魚がある。 「ハクハク、ンググ‥‥美味しい♪」 愛鈴は美味しそうに魚を口に運び、次々と食材を平らげて行く。 そこにバケツと花火を持った千亞がやってきた。 「さあ、花火ですよ!」 手持ち花火を浜に置いて、準備を始める。 そんな彼女の服装は、ピンクのワンピースだ。 「‥‥おまえら、元気‥‥だな」 小はぐったりしながら、魚を口に運んだ。 その額には、僅かな掠り傷がある。 「ほら、嘉栄さんも。これもおっさん連中の気持ちだ」 銀雨はそう言うと、嘉栄の手に花火を持たせた。 花火をするというのは初めての経験。 色とりどりの火花が散る様子を眺めていると、頬が綻ぶのを感じる。 そんな彼女に、千亞が声を掛けた。 「おっきぃ花火も見ごたえありますが、手持ちのものも皆で楽しめて良いですよね?」 その言葉に思わず頷いてしまう。 こうして花火を続け、締めは線香花火だ。 「そう言えば、あれから好きな人は出来たか?」 線香花火の僅かな灯りを眺めていた嘉栄へ、佐大夫が問うた。 彼の言うアレからとは、志士とのお見合い以降‥‥と言うことだ。 「‥‥さあ、どうでしょう」 少し考えた後にそう答えると、僅かに微笑んだ。 「嘉栄さん、嘉栄さん。少しは身体や心、休まりましたでしょうか?」 千亞の何気ない言葉に嘉栄は目を瞬いた。 先程、銀雨にも統括たちの気持ちを酌んでやるように言われた。 その言葉と似ていて、思わず笑みが零れる。 「そうですね、すっかり‥‥ありがとうございました」 言って微笑んだ嘉栄の耳に、美しい笛の音が響く。 目を向ければ体力の回復した小が持参した横笛を奏でていた。 こうして夏の夜は、潮騒と花火の音、仲間たちと笛の音を響かせながら深けて行ったのだった。 |