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■オープニング本文 神楽の都、開拓者ギルドから然程離れない位置に建つ屋敷。 そこに陶・義貞が下宿人として身を寄せてから数日が経った。 未だ自分以外の下宿人が訪れないそこでは、やることが山積みにある。 庭の掃除に、屋敷の掃除、食事の準備なども全部1人でこなす。 今もその内の1つ、屋敷の掃除をしようと、外に出た。 そして箒で掃き始めようとした時、思わぬ人物がやってきた。 「よお、元気でやってるか?」 右目に眼帯を嵌めた大男――志摩・軍事だ。 飄々とした態度は変わらず、義貞を見て片手を上げてくる。その姿に目を見張ると、義貞は慌てて頭を下げた。 「‥‥まだ、駄目ゥ‥‥」 思わず苦笑した志摩に、義貞は視線を逸らす。 実の所、義貞が志摩の部屋を出るまでずっとこの調子だった。 1人で暮らし始めれば何か変わるかと思ったが、そう簡単なことでもないらしい。相変わらず気まずさと言うか、余所余所しさが漂う中、志摩が大きく咳払いを零した。 「あー‥‥さっき、この屋敷を買ったオヤジと話をしてきたんだ」 唐突に切りだされた言葉に、義貞の目が向かう。 それを受けて目を眇めると、志摩は一枚の書類を義貞に見せた。 「‥‥依頼書?」 そう、それはギルドに身を寄せていた頃に良く目にしていた物だ。 怪奇屋敷管理人募集――この怪奇屋敷とは、義貞の下宿先の屋敷だろう。 どうもこの屋敷に住みたがる管理人が居なかったらしい。故に誰に頼むか迷い、ギルドに話を出してきたらしい。 「ふーん‥‥じゃあ、まだ暫くは俺一人なんだな」 管理人がいなければ、下宿人はやって来ない――というか、下宿人募集を出せない。 だから、管理人が現れるまで、義貞は1人でこの屋敷に住むことになる。 だが‥‥ 「いいや。俺がここの管理人だ」 「!」 義貞の目が弾かれたように上がった。 マジマジと見つめる視線に、志摩の口元に苦笑い物が浮かんだ。 「ギルドへの恩返しは住処を変えても出来るしな。それに、ここの管理人になれば、お前の監視が出来て安心なんだとさ」 主にギルドが――そう言葉を添え、志摩は頬を指掻いた。 実際の所は依頼書を見つけた志摩が、山本に直談判して奪った仕事だったりする。だがまあ、それは伏せておくに越した事は無いだろう。 「でも‥‥志摩さんは‥‥開拓者としての仕事があるし」 語尾を小さくして俯いた義貞。 そんな彼に苦笑を深めて、志摩は彼の頭を撫でた。 「そん時は、お前や山本に管理を任せるさ。それにほれ、まだ本調子でないしな」 眼帯を示してゲラリと笑った志摩に、義貞がギュッと手を握り締める。 それを目にして口を噤むが、既に遅い。 不用意な一言に、俯いたまま箒を握り締めると、義貞は志摩に背を向けた。 「まあ、志摩さんがそれで良いなら別に良いけど‥‥」 地面に散らばった草やらなんやらを履き始めた義貞に溜息が洩れる。 「ンじゃあ、明日の夜にでも荷物纏めて来るかな。で、その後は宴会だ」 サラリと言った言葉に、義貞が振り返る。 目を見張って志摩を見る彼に、ニッと口角を上げた。 「お前の試練合格祝いと、俺の快気祝いだ。お前も、きちんと準備しておけよ」 ぽふっと頭を撫で、志摩は背を向けて歩いて行った。 その姿を見送る義貞の胸中は複雑だ。 だが志摩がやると言ったことを覆さないのは、今までの行動を見て知っている。 「‥‥快気祝い‥‥」 呟いて、義貞は服の胸元を探った。 そこにあるのは前回初めて出た依頼で手にしたお金。それをしばらく見つめると、彼は箒を手に屋敷の中に入って行ったのだった。 ●開拓者ギルド 「つーわけで、如何にかならねえか?」 受付で筆を取っていた山本は、志摩の言葉に苦笑を零した。 「何でお前ら親子の仲直りに協力しなきゃなんねえんだよ」 「親子じゃねえ‥‥」 ポツリと呟いた志摩に、山本は筆を置くと小首を傾げた。 「似たようなもんだろ。大体、ギルドでは金出さないぞ」 しれっと返す山本はご機嫌斜めだ。 その理由は、今まで雑務を手伝ってくれた志摩が他所へ行ってしまうから。そうなれば忙しいのは必然だ。 「とにかく、宴会ってことで人集めてくれ。頼むっ!!」 このとおりだ! そう言って頭を下げた志摩に、山本は大きく息を吐いた。 「‥‥お前、過保護過ぎだぞ」 「そ、それは――」 山本から管理人の仕事を奪ったり、試練の合格祝いをしてやったり、正直否定は出来ない。 「‥‥確かに、この目の傷はあいつの所為だし、あいつへの戒めとして見せてるがな‥‥だが、あの態度は無いだろ! まともに口を利かなくなって、もう半月だぞ!!」 バンバンっとカウンターを叩く志摩に、山本は苦笑したまま姿勢を正した。 「本当に親子みたいだな、オイ‥‥まあ良いか。今回だけ協力してやる。けど、資金は全部出せよ?」 「何、半分出してくれるんじゃないのか?」 「ヘソクリ‥‥持ってるんだろ?」 ヒクッと志摩の顔が引きつった。 そう言えば、部屋を片付けているときに山本が何か見ていたような。 「よし、志摩持ちで宴会決定!」 「ちょっと待てぇぇ!!!」 サラサラと筆を走らせた山本に、志摩が慌てて手を伸ばす。 しかし山本は素早く文面を纏めると、さっさと掲示に張り付けた。 こうして宴会が開かれることになったのだが、如何なることやら‥‥。 |
■参加者一覧 / 六条 雪巳(ia0179) / 高遠・竣嶽(ia0295) / 奈々月纏(ia0456) / 柚乃(ia0638) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 海神 江流(ia0800) / 奈々月琉央(ia1012) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 喪越(ia1670) / 瀬崎 静乃(ia4468) / ブラッディ・D(ia6200) / からす(ia6525) / リエット・ネーヴ(ia8814) / フラウ・ノート(ib0009) / リンカ・ティニーブルー(ib0345) / キオルティス(ib0457) / 百地 佐大夫(ib0796) / 琉宇(ib1119) / 五十君 晴臣(ib1730) / 羽喰 琥珀(ib3263) |
■リプレイ本文 少し前まで怪奇屋敷と呼ばれたそこに、開拓者たちが集まり始めたのは日の入り前のこと。 「てめぇも参加しろ」 言って、無理やり連れて来た天元征四郎を広間に放り込んだのは、今回の依頼人である志摩軍事だ。 彼は既に集まっている開拓者たちを見て、満足そうに笑みを浮かべる。 「‥‥これだけいれば、必要ない――」 「つべこべ言うんじゃねぇ。ほれ、たぁんと食ってけよ。育ち盛り!」 志摩は征四郎の頭を撫でると、先に宴会を開始している仲間たちの元に向かった。 その中には祝うべき対象の1人、陶義貞もいるのだが、そこにはどうにも近寄り辛い。そう思い視線を外した時だ。 「う〜む。むっつりスケベだったあの志摩が、ツンデレ系過保護パパリンに変貌したり、志士を目指していた義貞が御機嫌な陰陽師になったり‥‥人生何が起こるか分からねぇから面白いもんよ」 しみじみと紡がれる声に、志摩の目が向かう。 そしてそこにいた相手に目にして、彼は大げさに息を吐いた。 「‥‥喪越‥‥」 視線の先にいるのは、依頼で何度か顔を合わせたことのある喪越(ia1670)だ。 彼は開拓者たちへ志摩と義貞の説明をしていたのだが、そのどれもが語弊や間違いがあるものばかり。 しかも志摩たちに面識のない者なので、それを信じきっている。 「ふぅん、志摩さんはむっつりスケベで、義貞さんは元志士志望だったのね‥‥本当に、人生何があるかわからないわね」 湯呑を手に、フラウ・ノート(ib0009)がしみじみと呟けば、流石の志摩も黙ってはいなかった。 「もーこーすーッ! てンめぇは、あることないこと、吹き込んじゃねえっ!」 首を掴んで頭を抑え込む。 だが喪越は平然と志摩を見上げると、片手をあげて見せた。 「おお、ツンデレ系過保護パパリン!」 「だぁれが、ツンデレ系保護者パパリンだぁ!」 グリグリと米神を押す仕草に、喪越はヘラリと笑う。そしてスルリと抜け出すと距離を取った。 然程力を入れてなかったとはいえ、流石は開拓者だ。 飄々と次の公演場所に向かう喪越に頭を掻くと、フラウと目が合った。 「ども♪ 怪我完治と試練合格したらしいわね。おめでと」 「おう、アリガトウな。確か嬢ちゃんとは初か? 俺が志摩だ。良ければ嬢ちゃんの名前を聞いても良いか?」 「‥‥と。ごめん。あたし、フラウね。今回は楽しませて貰うわ。よろしく♪」 「おう、宜しくな」 言ってニッと笑うと、志摩はフラウの頭をぽんっと撫でた。 そこに六条 雪巳(ia0179)が加わる。 「私もご挨拶させて頂いてもよろしいでしょうか?」 立っている位置からして、義貞に挨拶をして来たのだろう。 ふわりと微笑んで頭を下げる姿に、志摩は頷きを返す。 「お初にお目にかかります。宴には楽が付き物かと思いまして、微力ながらお手伝いに参りました。どうぞよろしくお願いいたしますね」 「おう、わざわざすまねぇな。こっちこそ、よろしく頼むぜ。まあ、まずは腹を満たして‥‥だな」 言って空いている席を勧める志摩の横から、キオルティス(ib0457)が顔を覗かせた。 「お嬢さん、俺と一緒に飲まねェ?」 煙管を手に飄々と話かける彼に、雪巳の目が周囲に向かう。 この場にいる女性と言えば、フラウくらいだ。 「ちょっとちょっと、そこの綺麗なお嬢さんだって」 「綺麗なお嬢さん‥‥もしや、私の事ですか?」 僅かに眉を潜めてキオルティスを見ると、雪巳は自分を指差した。 その仕草に彼はコクコクと頷く。 「あの、私は‥‥」 女性に間違われることは多々あれど、こうして堂々と間違われるとは‥‥。 戸惑う雪巳に、志摩が豪快に笑って間に入った。 「残念だが、こいつは男だぜ」 「‥‥へ?」 驚くキオルティスに、志摩は雪巳を仰ぎ見る。 その視線に彼はコクリと頷くと、キオルティスの「嘘だぁああ!!」という叫び声が広間に響いた。 宴会とくればご飯だ。 心意気は「ゴチになります!」の柚乃(ia0638)は、お腹に視線を落とすと、そこを押さえた。 「‥‥お腹、すいた」 目の前に置かれた料理は、志摩が近くの店に頼んで持って来て貰ったものだ。 どれも美味しそうで目移りする。 「志摩さんが御馳走してくれるっていうから来たけど‥‥食べて良いのかな?」 「‥‥良いだろ、別に‥‥」 柚乃の呟きを拾い、征四郎が呟いた。 その声に驚いた柚乃は、マジマジと彼の顔を見る。 「居たんだ、ね‥‥気付かなかったの」 不機嫌そうに腰を据えたまま動かない征四郎に、柚乃はカクリと首を傾げる。 呼べれば呼んでみたいと思っていたが、既に居たとは驚きだ。 「‥‥人が集まる所は、ダメだと思ってたの」 「‥‥いい加減なサムライに呼ばれた‥‥」 それで誰だかわかってしまうのも問題だが、柚乃はコクリと頷くと、目の前の料理を取り分けた。 そして思い出したように征四郎の前にも皿を置く。 「タダだし、食べた方が良いの」 そう言い、柚乃は食べ始めたのだが、何の抵抗か‥‥征四郎は目の前に置かれた料理を眺めて箸を付けようとしなかった。 その姿を縁側に腰かけ、遠目に眺めるのは鴇ノ宮 風葉(ia0799)だ。 彼女はホッと息を吐くと、茶を手に戻ってきた海神 江流(ia0800)を見た。 「‥‥まあ、無事なら良いわ」 呟き、茶を受け取る。 その声に首を傾げるものの、江流は何も言わずに彼女の隣に腰を下ろして庭を見た。 「宴会があるから来いって言われたけど‥‥門出と言うか、節目を祝う席なんだな」 目に入る、半分だけ完成した日本庭園。それと月を眺め、のんびりお茶を啜る。 そんな彼に風葉は思い出したように目を向けた。 「あんた、ちゃんとお菓子出してきたんでしょうね」 「勿論。ついでに料理も貰ってきた‥‥お前も食うか?」 江流が差し出したのは、里芋の煮つけだ。 巫女故に肉や魚がダメな彼女の為に、選んできた食べ物でもある。 「自分からいろんな処に首を突っ込む割りに妙な距離をとるよな、お前」 「賑やかなのは性に合わないのよ。あー、そだ、海神。将棋でも指す? 囲碁でもいーよー?」 里芋の煮つけを1つ拝借しながら言う風葉に、江流は目を瞬くと徐に立ち上がった。 「わかった。じゃあ、将棋の道具を借りて来るかな」 言って、江流は広間の方に歩いて行った。 「晴れて開拓者になったとか‥‥おめでとう」 お茶を手に考え込んでいた義貞に声が掛かったのは、宴会が開始されて直ぐの事だった。 目を向ければ、自分よりも小さな子供――からす(ia6525)がいる。 「‥‥あれ? 何で、子供が‥‥」 「からすだ。宜しく」 言って差し出された手に、反射的に手を重ねると、彼女は少し笑ってから手を離した。 「それで、義貞殿は何故開拓者になりたいと思ったんだ?」 「あ、それは僕も聞きたい!」 そう言って、話しに入ってきたのは琉宇(ib1119)だ。 彼はからすと義貞を挟むようにして立つと、彼の顔を覗き見た。 その仕草に、言い辛そうに義貞の口が動く。 「皆の、役に立ちたくて‥‥それで、天儀一の開拓者になれればって‥‥」 ぽつぽつと話し始めたこれまでの経由、そして自らの想いを聞きながら、琉宇はうんうんと頷いた。 「記念すべき最初の依頼って、このお屋敷だったんだ。まさに『開拓』だったんだね」 「うん。怪奇屋敷って言ってさ、お化けが出るとか言われて、怖かった」 思い出したのか、ブルリと震えた義貞に、琉宇は「ふぅん」と呟いて横笛を構えた。 「それじゃあ折角だから‥‥」 突如響いた、ヒュ〜‥‥と言う音。それに義貞の肩が揺れる。 まるでこの後、ドロドロ〜と続きそうな音に、義貞の顔が蒼くなって行く。 それに気付くと、琉宇はすぐにその音を止めた。 「あはは、冗談だよ! それよりも、天儀一って凄い目標だね!」 「ああ、天儀一とは大きく出たな」 頷くからすに、琉宇は「だよね」と言葉を返す。 「いろいろ大変だろうが、頑張るのだよ」 そう言葉を向け、からすは義貞の傍を離れて行った。 「‥‥からすも、開拓者なのか?」 肝心なことを聞きそびれた。 そんな思いで目を瞬いていると、広間に大きな声が響いた。 「おっめでとぉー!!」 声に振り返れば、リエット・ネーヴ(ia8814)が右腕を振り上げて叫んでいるのが見える。 「おーおー、元気な嬢ちゃんだな」 リエットは志摩に満面の笑みを浮かべると、義貞にも同じように笑顔を向けた。 「私、リエットゆぅーの。よろしくだじぇ!!」 「お、おう‥‥よろし、く‥‥?」 見上げながらの言葉にタジタジになりながら頷く。 そこに琉央(ia1012)と、恋人の藤村纏(ia0456)、瀬崎 静乃(ia4468)が近付いてきた。 「お前が義貞か。さっき志摩にも挨拶したが、お招き感謝だ。ゆっくりさせて貰う」 「試練合格、おめでとーございます♪」 琉央に続き、纏が丁寧に頭を下げると、それに習って静乃も頭を下げた。 「‥‥合格、おめでとうございます」 丁寧な挨拶を向けてくる相手に、更にタジタジになった義貞だったが、直ぐに首を横に振ると、元気の良い笑顔を浮かべた。 「うん。ありがとう! 俺、義貞ってんだ。兄ちゃんたちは?」 そう言えば名前を聞いていない。 そう思い問いかけると、纏が今気付いたようにパンッと手を打った。 「あ、忘れてた。か、勘忍なー。ウチ、藤村ゆーねん。よろしくお願いするわ〜」 「俺は琉央だ」 「‥‥瀬崎‥‥よろしく」 3人の声に義貞は頷いて、口の中で名前を反芻する。 それを見止めた琉央は、ポンッと義貞の頭を撫でた。 「それじゃ、俺は風葉たちにも挨拶してくるんでな」 「ほんなら、またあとでなー」 そう言うと、2人は彼の傍から離れて行った。 「そう言えば、あの方は、お父君‥‥ですか?」 義貞の傍で茶を啜っていた雪巳が、不意に問いかけた。 その視線の先には志摩がいる。 「‥‥いや、父ちゃんではない、かな」 「そうですか」 ふと視線を志摩に向ける雪巳に、義貞は目を瞬く。 「何で? やっぱ、年とか‥‥」 「いえ、貴方の事を、とても大切に思ってらっしゃる風ですから」 思いもかけない言葉に目を瞬く義貞へ、雪巳は穏やかに微笑んで見せる。 その顔に若干照れるように苦笑すると、彼の肩を叩く者があった。 「ん?」 振り返った瞬間に頬を圧迫した指。 それに、義貞の頬がピクリと揺れる。 「よう! まぁた引っ掛かったな!」 ゲラゲラ笑うのは羽喰 琥珀(ib3263)だ。 頬に突き刺さった指は琥珀のもの。 「琥珀‥‥お前ぇっ!」 ぶんっと振りあげられた腕を、琥珀はひょいっと避けると、「へへ〜ん」と笑う。 「引っ掛かる方が悪いんだって!」 「なんだとっ!」 こうして追いかけっこが始まるかと思いきや、仲裁に入る者がいた。 「久々に義貞の顔が見たくて来てみれば‥‥あんまり変わった感じはないね」 苦笑しながら双方の間に入ったのは、五十君 晴臣(ib1730)だ。 「とと、隼の兄ちゃん‥‥」 「隼って‥‥」 確かに晴臣は隼の式を使役する。 だからそう言ったのだろうが、そこだけを抜き取るのも如何なのだろう。 だが今気にするのはそこではない。 「さっきから見てたけど、最後の試練以来、志摩と上手く向き合えてないのかな?」 「それは、私も気になりました」 晴臣の声に同意してきたのは高遠・竣嶽(ia0295)だ。 彼女の姿を見た義貞は途端に大人しくなる。 「‥‥こ、こんばんは」 「‥‥普通に挨拶してるぅ」 琥珀のボソッとした声に、義貞がキッと視線を送ると、晴臣が透かさずそれを遮った。 「まさか来られるとは思ってなかったな」 「お酒は飲めませんが、正式にお祝いもしておりませんし、丁度良いかと思い来てみたのです」 クスリと笑った竣嶽に、晴臣は「成る程」と頷く。 その上で志摩を見ると、彼は再び苦笑を滲ませた。 「流石に自分のせいで失明させてしまったのだし、わだかまりは残るか‥‥」 「それにしては、気にしすぎよね」 リンカ・ティニーブルー(ib0345)はそう言うと、義貞の顔を覗き込んだ。その上で、「おめでとう」と言葉をかける。 「陶様。責任を感じてしまう気持ちも分かりますが、如何しようもないことを気にし過ぎるのも双方にとってはよろしくない事ですよ」 竣嶽の諭す声に、義貞の表情が固まった。 それでもじっと彼女の言葉に耳を傾けている。 それがわかっているから、竣嶽も言葉を続けた。 「忘れるなどは論外ですが、しっかりと詫びて、今後の糧に出来るように努力することが、一番の責任の果たし方だと思いますね」 「‥‥一番の責任の果たし方」 彼女の言葉を反芻する義貞に、晴臣が言葉を添える。 「今回の事を乗り越えてこそ、また1つ大人になるって思ってる」 「どうせ義貞のことだ。何か考えてるんだろ?」 リンカはそう言うと義貞の頭を撫でた。 その声に彼の目が落ちる。 「何かするなら手伝うよ?」 「‥‥うん」 もじもじとハッキリしない義貞に、3人は顔を見合わせた。 「なー、『ありがとう』っていうの、そんなに難しいことなんか?」 琥珀の唐突な言葉に、義貞の目が飛んだ。 その目が琥珀とぶつかると、彼は不思議そうに目を瞬く。 「『ありがとう』もいえねーんじゃ、天儀一の開拓者なんて夢のまた夢じゃねーか?」 歯に衣を着せない子供らしい発言に、3人は苦笑した。 それでも言っていることは間違いではない。 「‥‥お礼とお詫びは、したいって思ってる」 ポツリ、零された声にリンカの首が傾げられる。 「もしお礼をするなら、あまり気張りすぎない方が相手も受け取り易いと思うよ」 「気張りすぎない物、ですか‥‥例えば、どの様な‥‥」 「日頃の感謝の気持ちなら、日常使いの身の回り品や携帯品類にすると良いんじゃないかな?」 義貞はリンカの声に俯くと、服の中から布袋を取り出した。 そして、その中から何かを取り出す。 「実は、これを渡そうと思ってるんだ‥‥」 そう言って見せた物に、琥珀を含めた4人は目を瞬いたのだった。 宴会が賑わう中、纏は琉央の為にと料理を取り分けていた。 その量はかなりなもの。 それを目にした琉央は、苦笑しながらも可愛い恋人のこの仕草に満足していた。 だが、気になることもある。 「‥‥ほら、遠慮しないでいいからな、纏」 新たな酒を注いで貰いながら、彼女の取り分けた料理を進める。 その声に頷くと、纏は端に手を伸ばした。 「はわ!? これ、めっちゃ美味しいわー。なあなあ、琉央も食べへん?」 目を輝かせながら頬に手を添えて訴える恋人に、琉央の口元に笑みが零れる。 そうして一口貰えば、彼の顔も綻んだ。 「ん‥‥確かに、美味いな」 「せやろ。で、こっちもまたっ!」 嬉々として料理を口に運ぶ姿に、ハタと何かに気付いた。 彼女の脇に置かれるお猪口。そこに注がれているのは紛れもなく酒だ。 「‥‥飲んでるのか?」 「未成年やから飲んでへんよ〜」 ニコニコと言葉を発するが、口数から考えても間違いないだろう。 「飲みすぎて倒れたらお持ち帰りだからな」 半分冗談、半分本気でカラカイながら、酒を口に運ぶ。 当の纏は、お持ち帰りの意味を理解しておらず「かまへんよ」と呑気に言葉を返している。 そして、ほんの数分後――。 「何だ、酔いつぶれちまったのか?」 「いや、茶を飲んで倒れただけだ」 志摩の問いに、琉央は自分の膝枕で夢を見る纏を見る。 何の夢を見ているのか、むにゃむにゃと呟く姿は可愛らしい。そんな彼女の頭を撫でながら、お猪口を口に運んだ。 「‥‥さて、どうするかな」 そう言い、琉央は口元に僅かな笑みを乗せた。 「ギルド近くに下宿出来る屋敷があると聞いて見に来たのですが‥‥何か、お手伝いしますか?」 下宿先を探してやってきた礼野 真夢紀(ia1144)は、中の様子を確認して誰にともなく問いかけた。 そこに琉宇が顔を覗かせる。 「あら、あなたも下宿先を‥‥?」 「違うよ。僕はギルドで張り紙を見ていたら、宴には楽師が付き物だ、報酬は出せないが食べ放題だぞって言われてここに案内されたんだ」 けれども‥‥と、言葉を切ると、琉宇は中を見回した。 「おつまみ類が足りなさそうですね」 「そうなんだよね‥‥って、何処に行くの?」 「おつまみをご用意してきます!」 真夢紀はそう言うと、パタパタと炊事場に走って行った。 その姿を見送って、琉宇は中に戻る。 そのとき目に飛び込んできたのは、ブラッディ・D(ia6200)に志摩が懐かれている姿だった。 「‥‥親子?」 そう口にしてしまう程に、2人は仲が良い。 「年頃の子供は色々と複雑なもんさ‥‥ま、お父さんが大好きなのは変わらないけどな。俺も‥‥義貞も、ね」 首に纏わりつきながらブラッディが言う。 父と呼ぶ志摩に元気が無いのが気になったらしい。それで励ましに来たのだ。 「悪ぃな、気ぃ使わせちまって」 「そう言う訳じゃないけど。と、そう言えば。お父さん、怪我は大丈夫なの?」 眼帯で隠れているが、傷が覗く顔にブラッディの表情が曇る。 それを見止めた志摩は、ニイッと笑うと彼女の頭を撫でた。 「問題ねぇ。心配掛けたな」 「うん‥‥大丈夫ならいいけどね」 そう言いながら抱きついたり、膝に寝転がったり甘え放題。そうして、ひとしきり甘え終えると、膝に頭を乗せて志摩の顔を見上げた。 「娘がこんなにべったりなんだから、ちょっとは元気出せー?」 「‥‥何を言うかと思えば」 そう言いながらも喉で笑った志摩は、嬉しそうだったとか。 そして、その姿を末席で見ていた月宵嘉栄は、珍しいものでも見たというような表情で固まっていた。 「‥‥志摩殿が、あのようになられるとは‥‥」 しみじみと呟きながら箸を置く。 そこに、声が掛かった。 「よぉ、こんなところで会うとは奇遇だなあ」 言って、隣に腰を下ろしたのは百地 佐大夫(ib0796)だ。 彼は志摩や義貞とは面識が無い。ただ、好きに飲み食いできると聞き、この場に足を運んだ。 「百地殿‥‥確かに奇遇ですね」 「そういやぁ、ここに居るってことはあの2人と知り合いか?」 志摩や義貞を見て問う姿に、嘉栄は頷きを返す。 「ええ。志摩殿は彼が霜蓮寺で修行していた時からの‥‥義貞殿は、彼が試練を受けた際に、手を貸しました感じですね」 「ふぅん‥‥ん? 何だ、飲み物空っぽじゃないか。何か飲むか?」 「あ、はい‥‥では、お茶を‥‥」 突然の言葉に驚いた表情を見せる嘉栄に気付き、佐大夫はハッとなると、彼女の湯呑を取りあげた。 「べ、別に自分のついでだからだぞ!」 「あ、はい‥‥」 言い捨てるように言われた言葉に、何となく頷くと、そこに嘉栄の聞き覚えのある声が聞こえて来た。 「今日は無礼講だ、義貞も飲め飲め〜!」 ヤンヤヤンヤと騒ぐのは喪越だ。 その声に嘉栄の目が向かう。そして声の主を確認した瞬間、彼女の顔が前を向いた。 「‥‥あの方は、確か‥‥」 いつぞやの苦い記憶が蘇り、目を合わせないように考慮する。 しかし――。 「ん? ありゃ月宵セニョリータじゃねえか。今日も相変わらず――あっ、しまった!」 大げさに響く声に、何事かと視線を向ける。 だが、それが拙かった。 「あの――は、魔性――。一度目にしてしまえば心奪われるという‥‥見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ‥‥」 そう言いながら徐々に近付く喪越に、嘉栄の米神が揺れた。 だが喪越は気にせず傍に寄ると、持っていた手鏡を取り出し、光を反射させて嘉栄の「――」‥‥いや、デコに当てた。 「アゥチッ!」 反射した(かもしれない)光に喪越が目を逸らす。 そしてその瞬間『ブチッ』と何かが切れる音がした。 「っ‥‥あ、貴方と言う人はっ!!」 勢い良く立ち上がった嘉栄が刀に手をかける。 そこに茶を持って戻ってきた佐大夫が、慌てて駆け寄った。 「嘉栄さん、それは拙いって!」 普段温厚な嘉栄の豹変ぶりに、佐大夫は大焦りだ。 後ろから抱えるように羽交い締めにして行動を押さえこむ。 「離して下さいっ! 今日と言う今日は――」 「だから、刃物は拙いって! ちょっと、あんたもその手鏡しまえって!」 暴れる嘉栄を押さえこみながら、目の前で手鏡を翳し続ける喪越に叫ぶ。 そんな中でも、気にせず料理を食べる者はいるようで、静乃は周囲に纏わりつくように話しかけるリエット共に、宴会料理に舌鼓を打っていた。 「あの料理が美味しかったんだじぇ!」 「‥‥これも美味しいよ」 コクリと頷いて食べ続ける静乃に、リエットは少し考えた後に腰を下ろした。 普段はきゃいきゃいと落ち着きのない彼女だが、食べる時はきちんと正座する。 その上で料理を口に運べば、彼女の青い瞳がきらきらと輝いた。 「おお! ‥‥美味しぃ〜!」 パクパクと食べて行くリエットに習って、静乃も食を進めて行く。 そしてリエットのお腹が主に一杯になると、彼女は不意に立ち上がりとある場所に向かった。 抜足で近付くのは、お酒が置かれている場所だ。そこに気配を殺して近付き、お酒に手を伸ばす。 だが――。 「おっと、これは駄目だぞ」 そう言って酒の瓶を取りあげたのはキオルティスだ。 その姿に彼女は顔を上げると、唐突に前転し始めた。 「ぅおっ!」 慌てて飛び退くキオルティス。 そんな彼に、リエットは距離を取って振り返ると、ニンマリ笑った。 「うじぇ! 脱出ッ♪」 笑って再び前転して静乃の元に戻る。 「失敗したんだじぇ!」 言って満面の笑みで報告したリエットに静乃が頷いた時だ。 ――ガッシャーン☆ 酒瓶の割れる音が響いた。 どうやら、未だに嘉栄が喪越相手に暴れているらしい。 しかも被害は静乃たちの傍まで迫っている。 「おお、危ないんだじぇ!」 慌ててその場を離れるリエット。 しかし静乃は黙々と食べ続ける。そして悲劇は起きた。 ――ゴドッ! 凄まじい音と共に卓に鞘が叩きつけられた。 それに合わせて舞い上がる料理立たち。 「おぉ!」 リエットはそれを眺め、静乃は舞い上がった料理を無言でキャッチ。 そうして少し離れた場所に正座すると、彼女は再び料理を食べ始めた。 「凄いわね‥‥」 その光景を遠目に見ながら視線を戻すと、風葉は将棋の駒に視線を落とした。 「囲碁でも良かったんだけどね‥‥っと、そうきたか」 目の前に置かれた駒を見つめて呟く。 その声に江流が目を上げると、空になった彼女の湯呑に茶を注いだ。 「ふぅん‥‥強くなってるじゃない。前は負けたのに‥‥」 呟く声に、江流の米神がヒクリと揺れる。 以前、江流自身の土偶ゴーレムと将棋を指した事があった。その際に負けて以降、彼は密かに将棋の勉強をしていたのだ。 「突撃脳のお前にまで負けたら立ち直れないからな!」 「そう言うことなら‥‥はい、王手」 「な、なんだってっ!」 大人げなく真剣勝負に出ていたのだが、どうにも歩が悪い。 頭を抱えた江流に、風葉はしれっとして茶を啜った。 「風葉ー! 何してるんだー?」 突然舞い降りた衝撃に、驚いて後ろを振り返る。 そこにいたのは、背に抱きつくブラッディだ。 「月! 勝負がダメになるじゃない!」 「えー‥‥何してるのかと思ってさ」 「将棋をしてたのよ」 ほら、と勝負途中の将棋を見せる風葉に、ブラッディは納得したように頷く。 将棋の台は江流が守りきった。 それを確認して、ブラッディが盤面を覗き込む。 「どっちが優勢?」 「あたしよ」「僕だね」 同時に発せられた声に双方が顔を見合わせる。 その事に首を傾げると、ブラッディがじっと盤面を見つめたのだった。 「はい、おつまみです」 言って、炊事場から出て来た真夢紀は、用意した料理を並べた。 料理はジャガイモと肉を炒めたもの、牛乳を加工させてパンで挟んだもの、そしてお刺身など様々だ。 「真夢紀さんが来てくれて助かったわ。私1人じゃ手伝いきれなかったもの」 そう言いながら、フラウも料理を並べて行く。 彼女も真夢紀同様に料理の心得があった。 だからこそ、宴会料理が足りなくなりそうなのを見て、料理の追加をしてくれたのだが‥‥。 「なあ、この食材の金‥‥」 「ああ、お財布借りたわよ♪」 にっこり笑うフラウに、志摩が目を見開く。 その傍では、ガツガツとご飯を掻き込む琥珀があった。 「お、おい‥‥食い過ぎだろ?」 「だって、おっちゃんの奢りなんだろ? だったら、どんどん食わねえと勿体ないじゃん!」 言って更に掻きこむ姿に口元が引き攣る。 「義貞が2人いる‥‥」 ガックリ項垂れた志摩に、フラウがサッパリしたデザートを置く。 見た感じ、ジルベリアの物だろうか。 「出すペースが早くて手が回らないようなら、もう少し手伝うわよ」 にこりと笑って見せる彼女に、頷きかけてハッとする。 「ちょっと待て‥‥その手にあるのは、何だ?」 「うふふ、お財布♪ さ、真夢紀さん、次の料理は豪華に行きましょうか♪」 「あ、はい。簡単に出来て、大量に作って良いものを作りたいです」 「了解よ♪ じゃあ、買い物に行きましょう♪」 ニコニコ歩き出したフラウに、虚しく志摩の手が泳ぐ。 「俺の金が‥‥」 「あーあ、やられたね」 クスリと笑って声をかけたのは晴臣だ。 「こんばんは。体の調子はどう?」 「おう。お蔭さんでピンピン動けるようになったぜ」 「そう、それは良かった。‥‥嘉栄にも挨拶に行こうと思ったんだけど、後の方が良いかな?」 最後の試練で顔を合わせた彼女にも挨拶したい。そう思っていたのだが、未だに騒ぎは終結していないようだ。 「そう言えば、ここが下宿になるんなら入ることは可能なのかな? 今の住処はギルドが遠いんだよね」 「そうだな、もう少し状態が整ってから募集する予定ではいる」 その答えを聞き、晴臣は「そうか」と頷きを返す。 そこに柚乃が近付いてきた。 「‥‥あの子‥‥志摩さんの息子さん?」 「あ?」 唐突な問いに目を瞬く志摩へ、柚乃はカクリと首を傾げる。 そうして何かに思い至ったように目を見開くと、わなわなと震えて見せた。 「ま、まさか、志摩さんは少年が‥‥」 「ぅおいッ!」 「‥‥志摩、見損なったぞ」 「ちっげーえよっ!!」 どんな誤解だ! と叫ぶ志摩に、柚乃と征四郎は顔を見合わせる。 そして互いに首を横に振ると、食事に戻って行った。 「な、何なんだ‥‥いったい‥‥」 「お父さん、今大丈夫?」 「‥‥今度は何だ」 脱力したまま顔を上げた志摩に、ブラッディがニッと笑った。 その前には義貞の姿がある。 「ほら、前の事が吹っ飛ぶくらい喜ばしてやろうよ、な?」 ブラッディに言われて気まずそうに志摩を見る義貞に、彼の口元に苦笑が浮ぶ。 「仕方ねェ、少し小細工するか」 場の雰囲気に気付いてキルティオスが口笛を吹く。 その音色で僅かに場が和むと、義貞の目が手元に落ちた。 「ほら、渡すんだろ?」 「大丈夫です‥‥まあ、気持ちの問題ですから」 リンカに背を押されて前に出た義貞を見て竣嶽が言う。 先ほど見せられた物を思い出し、苦笑してしまうが、何であれ気持ちが重要だ。 その言葉を受け止めて、義貞の顔が上がった。 そして持っていた物を前に差し出す。 「志摩さ‥‥いや、おっちゃん。これ! この前は、ありがとう!」 言って差し出された手に、志摩の目が瞬かれる。 そうして直ぐに笑みを浮かべると、志摩は彼の頭を撫でた。 「おう。試練終了、おめでとさん。これ、貰って良いのか――‥‥?」 「うん! って、如何したんだ?」 手を伸ばした彼の動きが止まった。 その仕草にリンカと竣嶽が目を逸らす。 「義貞‥‥こいつぁ、何だ?」 「お守りだろ?」 確かに義貞が買ってきたのはお守りだ。 だが普通のお守りではない。 「お前、こりゃぁ恋愛成就のお守りだぞ‥‥安全祈願とかじゃねえ」 「え?」 驚いて固まる義貞に、呆れる志摩。まあ、買ってしまった物は仕方がない。 お守りを受け取った志摩の耳に、驚愕の事実が届いた。 「俺、みんなの分も買っちまった‥‥」 みんな? その言葉に皆が目を瞬く。 「てめぇは‥‥やっぱ抜けてやがるな」 苦笑した志摩に、誰が同意したかは分からないが、これで場の雰囲気が一気に軽くなった。 「2人がなんか上手くいったみたいだし、ここは俺らで盛り上げるか!」 言って、キオルティスがハープで賑やかな学を奏で始める。 それに合わせて琉宇もリュートを、雪巳が横笛を奏でると、辺りは柔らかで賑やかな雰囲気に包まれた。 宴会が終わる頃、酒を口にしてしまった雪巳を担ぎあげた志摩は、真夢紀に掴まっていた。 「ギルドに近いし台所設備整ってるし‥‥下宿人早く募集しないですか?」 聞こえる声に、志摩はふむと頷く。 先ほど晴臣にも言ったが、まだ準備が出来ていないのだ。 「もう少し落ち着いてからだな。だが、あれだけの料理が作れるんだ。こっちとしちゃあ歓迎だ」 ポンッと彼女の頭を撫で叩く。 その仕草に真夢紀は頷きを返すと、後の事を想像して笑みを零した。 「所で‥‥その方は、どれだけ飲まれたのでしょうか?」 「あー‥‥確か、お猪口2杯くらいか?」 今夜は屋敷の一室に寝かせておくしかないだろう。 そうして去ってゆく志摩を遠目に眺め、嘉栄はようやく落ち着いたように、柚乃が淹れてくれた冷茶を口に運んでいた。 「ちょっぴりほんわり香草入りで、リラックス」 可愛らしく言う柚乃に、嘉栄は頷く。 口の中に広がる香草の香りのおかげか、幾分か気分が落ち着いていた。 そこにからすが声をかけて来た。 「嘉栄殿は、彼をどう見る?」 唐突な問いに、彼女の視線を追う。 その先にいたのは義貞だ。 「私は強くなると思うが‥‥ああ、この強さとは心の強さだ。迷いある者ほど成長する」 「‥‥そうですね。彼はこれからどんどん強くなるでしょう」 嘉栄の言葉に頷き、からすはフッと微笑んだ。 「――将来が楽しみだ」 そう囁く声に、嘉栄を含めその近くにいた者たちは頷きを返した。 |