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■オープニング本文 ●神楽の都 雪が降ったある日。 開拓者ギルドの受付で書類整理にあたっていた山本・善治郎(ヤマモト・ゼンジロウ)は、訪れた依頼人の言葉に目を瞬いた。 「え‥‥雪うさぎ退治?」 なんですかそれ。 そう言外に問いかけた彼に、依頼人である老人は皺くちゃの顔に更なる皺を刻んで唸った。 「今朝、畑に行こうとしたらのぉ、道の真ん中に大量の雪うさぎが居ったんじゃわ」 言って大きく腕を広げてみせる老人は、年の割には背筋がピンとしていて背が高い。 その様子を少し羨ましく感じながら、山本は僅かに首を傾げた。 「雪うさぎなら壊せば良いじゃないですか。別に退治とか大それたことする必要ないと思いますけど」 誰かが悪戯で作ったのなら壊せば良いし、それが心苦しいなら大変だが横にずらせば良い。 だが老人は言う。 「それがのぉ、そういう訳にもいかんのじゃよ」 「どういうことですか?」 「逃げるんじゃよ。しかものぉ、その雪うさぎは噛みついても来るんじゃ」 声を潜めて発せられた言葉に、山本の眉間に皺が寄った。 逃げる上に噛み付く――つまりそれは、意志を持って生きているということだ。 「‥‥それ、本当に雪うさぎですか?」 訝しげに問いかける彼に、老人の眉が上がった。 「わしがそう言うんじゃ! 雪うさぎに決まっておろう!!」 「!?」 突然怒鳴った老人に、山本の目が見開かれる。 いや、誰がどう言おうが雪うさぎでないものは雪うさぎじゃないと思う。 そんな言葉を呑みこみ咳払いを零すと、一応記録のために筆を走らせた。 「えっと‥‥それじゃあ、依頼内容はその雪うさぎの確認と、必要であれば退治で良いですか?」 どうせ老人が寝惚けたか、もしくはうさぎが大量発生したかのどちらかだろう。 そう思いながら依頼書の作成に入る。 そこに勢い良く駆け込んでくる者があった。 「雪うさぎを退治してくれっ!!!」 「へ?」 きょとんと見やった先にいたのは年若い青年だ。 彼は頭から雪を被った状態で、息を切らせて駆けてくると受付の目の前で座り込んだ。 「あの‥‥今、雪うさぎって言いました?」 山本は受付から出てくると彼の前に膝を折った。 そして羽織っていた羽織りをかけてやる。 「あ、ああ。道の真ん中にでっかい雪うさぎがいて、道を塞いでたんだ。それに、周りにはなんだか小さい雪うさぎもいたし‥‥何なんだ、あれ」 怯えたように項垂れる青年に、山本は首を傾げた。 先ほど老人が言っていたのは、小さい雪うさぎだけだ。 しかし青年は大きな雪うさぎもいたという。 「でっかい雪うさぎに、小さい雪うさぎ‥‥これってアヤカシなのか?」 思わず呟いた彼に、青年は緩く首を振って見せた。 「いや、それまではわかんないけど、小さい雪うさぎをでっかいのが吸収してるようにも見えたかな。そのたびに大きくネってたような‥‥」 雪は足せば大きくなる。 その習性通りに大きくなっているのだとしたら厄介だ。 それに話を聞く限り、普通のうさぎや雪うさぎではなさそうだ。 「わかりました。急いで開拓者を集めて対処します。だいぶ冷えてますから、奥で温まって行ってください」 そう言って青年に笑いかけると、彼は急ぎ依頼書の作成に入って行った。 |
■参加者一覧
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
エレイン・F・クランツ(ib3909)
13歳・男・騎
白南風 レイ(ib5308)
18歳・女・魔
ソウェル ノイラート(ib5397)
24歳・女・砲
葛籠・遊生(ib5458)
23歳・女・砲
ジナイーダ・クルトィフ(ib5753)
22歳・女・魔 |
■リプレイ本文 真っ白な雪が積もる道。 進む度に足跡を刻むそこを歩きながら、エレイン・F・クランツ(ib3909)は出発前に仕入れていた情報を口にした。 「出発前に依頼人さんから、『小さいうさぎを吸収して大きくなった』辺りの話を聞いたんだけど‥‥」 そう言って、出発前に老人と青年から聞いた話を思い出す。 「雪うさぎは、雪だるまに雪をくっつけて大きくしていく感じに大きくなっていったみたい」 雪玉を大きくするには雪の上を転がすか、雪自体を付着させて大きくすれば良い。 そして今回のアヤカシは、雪を付着させる形で大きくなっていると言う。 それを聞いたソウェル ノイラート(ib5397)はゆっくりと紫の瞳を細めた。 「雪をくっつけてねぇ」 はあっと吐き出す息は白い。 それでも実家の寒さに比べれば大分暖かい事に安堵しながら、今回のアヤカシを思い浮かべた。 「話を聞く限りじゃ余りピンとこないんだけど、実際の光景に笑わない自信がないなぁ」 そう言って肩を竦めるソウェルの横では、寒さに耐性のない葛籠・遊生(ib5458)が垂れた黒い毛並みの耳を震わせていた。 「わふ、結構雪もあるみたいですね。‥‥う、さむいっ」 言って両の手を擦り合せる。 それでも逃げ切れない寒さが彼女の身を震わすと、垂れていた尻尾がゾワゾワッと逆立った。 そこに白南風 レイ(ib5308)の声が響く。 「‥‥すこし、冷えますね‥‥」 そう呟いて頷きながら、道の端から端までを見る。 「聞いた話だと‥‥数は、不明みたいです。最後に見た大きさは、道を塞ぐくらい‥‥そう、言ってました」 大人が5、6人並んで歩ける道は、大きいとは言えない。 それでもそこを塞ぐ大きさに雪うさぎがなっているのだとすれば、かなり大きいに決まっている。 「道を塞ぐくらいね。何処まで大きくなるのか、ちょっとばかり興味が無いでも無いけれど‥‥」 ジナイーダ・クルトィフ(ib5753)はそう呟くと、事前に得ていた情報を元に周囲を見回した。 幸いなことにここに来るまでの間に擦れ違った人はいない。 「雪のおかげかしらね」 そう呟く彼女の横で、弖志峰 直羽(ia1884)の持つ扇子「月桂樹」がヒラリと舞った。 「そろそろ目撃情報付近。念のために、掛けておこう」 倒すアヤカシは雪うさぎで、周囲は雪の積もった道。 大きい雪うさぎはともかく、小さい雪うさぎは保護色と言うこともあって見え辛いだろう。 そう判断して瘴策結界を使用すると、彼は足を止めたジナイーダの横を通り過ぎ、直ぐに足を止めた。 「ん?」 僅かに感じた瘴気の気配に、彼の目が雪の奥深くを見定める。 そしてそれに気づいた他の開拓者たちも足を止めると、僅か先に緑の葉の耳に、赤い木の実を目にした雪うさぎが跳ねているのが見えた。 「あ。ちびちゃん発見、ですっ!」 ぴこんっと耳を揺らして叫んだ遊生に、きゅんっと胸を鳴らしたレイは、食い入るように雪うさぎを見つめた。 「‥‥ゆき、うさぎ‥‥? これも、アヤカシ‥‥なんですか‥‥?」 開拓者として戦うことを少しは経験した彼女だったが、こうした見た目の可愛いアヤカシと戦うのは初めてだった。 そして今回が初依頼のジナイーダは、現れたアヤカシの可愛さに拍子抜けしている。 「へえ、あれが雪うさぎ‥‥なかなか、可愛いじゃない」 「うん‥‥ちょっとだけ、かわいいかも‥‥?」 ジナイーダの声を拾って、レイがコクリと頷く。 そんな2人の言葉を聞いていた直羽は、ふむと頷くと呟いた。 「確かに、見た目なんか可愛くて和むよなぁ♪ アヤカシなのが残念‥‥」 そう口にした上で、彼はキリリと表情を引き締めると、扇子を前に掲げた。 そして―― 「敢えて言おう。この可愛さこそが、雪うさぎ最大の武器であると‥‥!」 カッコ良く決めたポーズと言葉に、ソウェルがクスリと笑う。 そうして彼の肩を叩くと、一歩前に出た。 「敢えて言わなくても、皆自覚してるみたいだよ」 言って示した面々は、それぞれ違う反応はしているものの、雪うさぎの可愛さに釘付けになっているようだった。 「それにしても、想像以上に面白い光景だね」 含み笑いの元に呟き、短銃を取り出したソウェルに、直羽がバッと彼女を振り返った。 「か、可愛くっても手加減なんかしないんだからねっ!」 反論するように叫んでいるが、内心はそわそわだ。 うずうずと落ち着かない気持ちで改めて前を見て警戒しながら進む――と、その目に無数の小さな雪うさぎが飛び込んできた。 目を凝らせば、後方には大きな雪うさぎの姿も見える。 「大きいのから小さいのまで、雪うさぎがいっぱい‥‥!」 緑の瞳をキラキラさせながら、エレインが身を乗り出す。 だが相手はいくら可愛くてもアヤカシだ。 それは彼もわかっているのだろう。 ふるふると首を横に振ると、持っていた血約の剣を構えた。 猫の目のような宝珠が、光を浴びてキラリと光る。そしてそんな彼に習うように、他の皆も戦闘の態勢を取った。 「一般の人に被害が出る前に片付けてしまおうか。さあ、うさぎさんと根競べだ‥‥!」 可愛い容姿に反して勇ましく前に出たエレインに、ソウェルが眼にも止まらぬ速さで銃を引き抜く。 「そうだね。さっさと倒してオイシイお酒で体を温めたいわ」 そう言うと、彼女の短銃「ピースメーカー」が戦闘開始の音を響かせたのだった。 ●レッツ・雪合戦? 目の前に現れた巨大な雪うさぎは、最後に目撃された時よりも更に大きくなって道を塞いでいた。 道をはみ出て脇の畑にまで体を伸ばすその姿は、雪うさぎと言うよりは鏡餅に近い。 そんな鏡餅と化した雪うさぎの周りには、小さな雪うさぎが開拓者を威嚇するようにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。 「すっごくかわいいけど‥‥アヤカシ、アヤカシ」 遊生は自己暗示のように呟くと、黄金色の宝珠が嵌められた短銃を握り締めた。 そして意を決したように顔を上げる。 「よし、がんばるぞっ!」 声と共に、今まで垂れ下がっていた耳が、勇ましく立ち上がる。そして次の瞬間、綺麗に狙いを定めた彼女の銃が、飛び跳ねる雪うさぎの一つを貫いた。 それに続いてソウェルの銃も別の雪うさぎを撃破する。 「まずは小さいのを減らしてから大きいのへだけど‥‥小さいし雪に同化して見づらいね」 そう言いながら次の弾を装填する。 小さな雪うさぎの数は、目で見えるだけで結構なものだ。 これを全て倒すには骨が折れるだろう。 それでもやらなければいけないのは事実。勿論それは、この場の全員がわかっていた。 「小さい雪うさぎの位置は、俺に任せて良いからね――っと、エレインさん、左ですよ!」 瘴策結界を使用している直羽は、瘴気の動きで見えづらい雪うさぎを感知すると、唯一の前衛であるエレインに呼びかけた。 その声に白と黒の山羊の頭部を模した小さな盾を構える。 そうして飛び掛かってきた雪うさぎを抑えると、手にしている剣で勢いよくその身を叩き落とした。 「僕の盾は、仲間を守るための『武器』だから」 言って仲間に向かってくる雪うさぎを一人で薙ぎ払ってゆく。 「向かいゆく仲間のために――」 言って、直羽が神楽舞「衛」を舞い彼の動きを援護する。その上で彼の目が周囲を見回すと、僅かな苦笑が口を吐いた。 「生憎と遮蔽物はありませんか」 場所は見通しの良い一本道、しかも時期も時期だけに、周りの畑には雪以外なにもない。 少しでも木が埋まっていれば違ったのだろうが、ここにはそれらしきものもなかった。 「――っと、見とれている場合じゃない‥‥っ!」 雪うさぎのアヤカシに目を奪われていたレイの元に、小さな雪うさぎが飛び込んでくる。 それを北斗七星の杖を翻し、火の玉で払うと彼女の目が改めて大きな雪うさぎを捉えた。 「小雪うさぎには手が回らないけど‥‥彼に試すだけでも、意味はありそう、です」 言って杖に練力を送り込む。 そうして集まった冷気を一気に大きな雪うさぎに放った。 ――‥‥。 僅かに雪がずれる音がし、大きな雪うさぎの耳が動いた気がした。 それを目にした遊生が問う。 「わふ? 今のはなんですか?」 「フローズです‥‥動きを阻めるかなって」 小首を傾げて杖を構えなおすが、動かない相手にどれだけ効いているのはイマイチわからない。 少しだけ効果があった気もするのだが、確実ではない。 「とにかく、小さいのを減らさないと大きいのに近づけないわね」 雷撃を放ち小さな雪うさぎを撃破したジナイーダは、そう言うと新たな雷撃のために白羽扇を翻す。 その声にレイが頷こうとしたとき、彼女の視界に白い何かが飛び込んできた。 「あ、ジナイーダさん!」 「おっと、危ない」 レイとソウェル。 その双方の声と同時に、彼女の目の前で雪の塊が弾ける。 「これは‥‥」 「あの大きいのは雪玉を吐くみたいだね。油断してると雪まみれになっちゃうよ」 そう言うとソウェルは迷うことなく、次々と放たれる雪玉と、飛び掛かる雪うさぎを撃ち落してゆく。 こうした戦闘の時ばかりは、ソウェルの普段雑な動きは形を潜める。的確で落ち着いた射撃に、ジナイーダも負けじと練力を力に変える。 そんな後衛の前では、エレインが雪玉を吐き始めた大きな雪うさぎの気を引こうと立ち回っていた。 オーラで自身の能力を上げ、盾と剣を屈指して、出来るだけ後方に攻撃が向かない様に動く。 そうして動きながら、彼は雪玉と小さい雪うさぎを的確に減らしていた。 「どうも、2つに割っても増えることはなさそうだね」 先ほどから数えきれないほどの雪うさぎを斬っているが、どうにも増える様子はない。 そんな彼の言葉に、死角を補うように銃撃を繰り返していた遊生がコクリと頷いた。 「そうですね‥‥――わ、っ!」 いつの間に近づいたのだろう。 遊生の死角に飛び込んだ雪うさぎに彼女の足が雪を踏みしめる。その上で練力の弾を作り上げると、即座にそれを撃ち抜いた。 「び、びっくりした‥‥」 そう言いながら状況を把握しようと目が動く。 「ッ、合体はさせませんよっ!」 大きな雪うさぎにくっつこうとする雪うさぎを発見した。 彼女はすぐさま銃弾を放ち、その雪うさぎを撃ち落す。それでも落としきれない雪うさぎを、レイとジナイーダが補助する様に撃破した。 「なんつーか、雪合戦の様相だなぁ‥‥あの玉が当たったら、雪合戦どころの騒ぎじゃないけどさ」 呟き、直羽は苦笑した。 対峙してわかったのだが、雪うさぎは本当の雪で出来ているわけではないようだ。 なので雪うさぎの攻撃を受けただけでは雪まみれにはならない。 だが足元の雪は本物で、動く度に雪が舞い上がり、開拓者たちの服を確実に雪にまみれさせていた。 「動き難いし、うっかり氷を踏ん付けて転ばない様に気を付けよう」 うんうんと頷きながら、新たな舞をエレインに送る。 そんな彼の胸中にあるのは、「女の子の前で転んだら恥ずかしいし!」という男の子(?)らしいものだ。 「とにかく数が多い。これを減らすだけで苦労だよ」 ソウェルの声に誰ともなく頷く様子が見える。 そうして小さな雪うさぎを殆ど倒し終えるころには、大きな雪うさぎにも変化が訪れていた。 「そろそろ打ち止めかね?」 冗談めかして弾を補充するソウェルの視線の先。 大きな雪うさぎの大きさは、開拓者たちの苦労もあって発見した時とほぼ変わっていない。 変わっているものがあるとすれば、ソウェルが言ったように吐き出す雪玉の数が減ったことだ。 「このまま総攻撃です‥‥!」 遊生は練力を短銃に集中させて雪うさぎに狙いを定める。 それに習って、同じ砲術士のソウェルも銃を構えると、2人の弾丸が雪うさぎに向かった。 そしてその攻撃を援護する様に、レイとダナイーダの雷撃が迫りくる僅かな雪玉を叩き落とす。 「エレインさん、今ですよ!」 攻撃に集中できる瞬間ができた。 それを直羽の声で確認すると、エレインは一気に駆け出した。 そして迷うことなく、その大きな体に刃を突き立てる。 しかしそれだけでこの大きな存在が倒れるわけもなく、引き抜いた彼の剣が弧線を描き敵に迫った。 「これでトドメだっ!」 大きく振り上げられた剣が巨大な雪うさぎを切り裂く。 そしてそれを援護する様に、雷撃と火の玉、そして銃弾が彼の切り裂いた箇所を撃ち抜いた。 ――ゴゴゴゴゴ‥‥ッ。 雪煙を上げながら倒れてゆく雪うさぎ。 その身が道を逸れ、畑に沈むと、開拓者たちはホッと息を吐いて各々の武器を下げたのだった。 ●これが本当の‥‥ 「寒い中で良くやるね‥‥と、それって雪うさぎじゃないよね?」 雪うさぎを退治しても、雪は綺麗に残っていた。 そんな中で雪を弄るエレイン。 彼に声をかけたのはソウェルだ。 彼女は彼が作り上げた物体を覗き込むと、緩やかにその首を傾げた。 「丸い胴体に、くるんと巻いた角‥‥これってまさか」 「雪ヒツジ♪」 得意げに笑って見せるエレインに、ソウェルの口元に笑みが乗る。 「どうだろう、可愛くないかな?」 真剣な表情で雪ヒツジの顔を覗き込む姿に、彼の頭をぽふぽふ撫でる。 「いやいや、可愛いと思うよ」 そう言って笑う彼女に、エレインは照れ臭そうに笑って雪ヒツジを抱え上げた。 そんな彼らのすぐ傍では、遊生が自作の雪うさぎを作成中だ。 「アヤカシじゃない雪うさぎも作りたいよね」 そう言いながら集めた雪を丸く整えてゆく。 そこにジナイーダが物珍しそうに近付いてきた。 「それが実物の雪うさぎですか?」 「うん、そうだよ!」 出来上がった雪うさぎは、さきほど倒した雪うさぎに似ている。 それでも飛び掛かってこないので、この雪うさぎは安全だ。 その姿を間近で確認したジナイーダの頬がほろりと緩む。 「へえ、可愛いですね」 「‥‥えへへ、やっぱり雪うさぎはかわいくないとですよねっ」 そう言って笑った遊生に、ジナイーダは心からの頷きを返した。 「ふんふん、ふふ〜ん♪」 直羽は雪を足で踏み馴らしながら、周囲の状況を注意深く見回していた。 その際に自身に施したのは、瘴策結界だ。 大きな雪うさぎは目に見えて倒したが、小さな雪うさぎは撃ち漏らしている可能性がある。 だから最終確認に、雪を踏みながら瘴気がないか確認しているのだ。 そんな彼の目にレイの姿が飛び込んでくる。 「何してるんですか?」 もう殆ど瘴気と化してしまったアヤカシを見ながら胸の前で手を組む姿に僅かに首を傾げた。 そんな彼にレイの目が向かう。 「いえ、可愛かったので‥‥」 そう呟き言葉を濁す。 雪うさぎの可愛さと、命を奪うことに胸が痛む胸中は伏せ、レイは微かに笑んで見せた。 そして再び消えゆくアヤカシに目を向けると「ごめん、ね‥‥?」と口中で呟き、雪と戯れる仲間の元に戻って行ったのだった。 |