【砂輝】一年後の試練
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/29 00:15



■オープニング本文

●おあしす!
「サンドワーム、ですか?」
 突然の来訪者が提示した名前に、一三成は首を傾げた。
「えぇ、馬鹿みたいに巨大な砂蟲でね。見たことあるかしら」
「僅かですが、報告には聞いています」
「あれがオアシスの周囲に縄張りを作っちゃってね。十匹、二十匹と退治したいのよ」
「‥‥」
 その女性の提案に、三成は、長くて薄いため息を付いた。
「ちょっと数が多くてね」
 女性は、口端を持ち上げて意地悪そうな笑みを浮かべている。黒い肌に白く長い服を纏い、スマートで、それでいて開けた胸元は強調され、何より特徴的であるのは、その細長く尖った耳。
 エルフ。
 アル=カマル人口のほぼ三割を占めるという人々だ。
「‥‥で、どうする? 報酬額は提示した通り支払われるわ」
 氏族からの書簡をトントンと叩く彼女を前に、小さく、解りましたと頷くや、三成の手がすっと取られる。エルフの彼女は、三成の細い掌をきゅっと握り締めた。
「なら契約は成立。私はメリト・ネイト。ご覧の通りベドウィンよ」

●開拓者ギルド
 開拓者ギルドに呼び出された志摩・軍事は、難しい表情で書類を見る山本・善治郎に息を吐いた。
「駄々を捏ねたって仕方ねえだろ。やるべきことはやる。それが俺たちの仕事だ」
「それはそうなんだが‥‥」
 山本は息を共に呟くと志摩を見上げた。
 書類にはサンドワームと呼ばれる砂蟲を退治しろというもの。
 その大きさや強さは並みのアヤカシ以上と聞く。それを複数退治しろと言うのは正直、骨の折れる厄介な話だ。
「何もいっぺんに全部退治しろってんじゃないんだ。一匹ずつでも始末すりゃいい‥‥違うか?」
 言って、志摩は彼の手から書類を取り上げた。
 その上で綴られる文字に目を通す。
「志摩、出来ればお前にも行ってほしいんだが――」
「いや、これは義貞にやらせる」
「は?」
 聞こえた声に山本は驚いたように目を見開いた。
 今、聞き間違いでなければ「義貞にやらせる」そう言わなかっただろうか。
 義貞と言えば、昨年開拓者になった少年で、未だその能力は開発途中。
 多少は経験を積んで成長しているが、それでも実力が備わっているとは言い辛い。それに彼には困った癖もある。
「義貞じゃ荷が重いと思うぞ。もしあいつが状況も見ずに突進したら‥‥」
「アイツが開拓者になってもうすぐ一年だ。正しい状況判断は開拓者ならば出来て当然。腕試しにはちょうど良いだろう」
「腕試しって‥‥」
 開拓者は1人で依頼をこなす訳ではない。
 多くの人と力を合わせ、その上で依頼を解決に導いてゆく。
 1人の勝手な判断で状況が大きく崩れることも、誰かが死んでしまうこともある。
 状況判断が出来ず猪突猛進してしまう。それは開拓者にとってある意味致命的なのだ。
「俺は、アイツがどれだけ成長したか見てみたい」
 駄目か?
 そう問いかけた志摩に、山本は思案気に目を落とすと、苦笑を滲ませ頷きを返した。
 そこに元気な足音が響いてくる。
「おっちゃーん! 話ってなんだー?」
 ギルドの扉を勢い良く開けて駆け込んでくるのは、今話題に上がっていた義貞だ。
 彼は落ち着きない様子で志摩の傍まで来ると、期待の籠った瞳を彼に向けた。
「おう、お前さんに頼みたい依頼があってな」
「おっちゃんが、俺に依頼?」
 何だろう。そう首を傾げた彼に、志摩はニッと笑みを滲ませると今回の依頼の内容を説明して聞かせたのだった。


■参加者一覧
高倉八十八彦(ia0927
13歳・男・志
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
言ノ葉 薺(ib3225
10歳・男・志
東鬼 護刃(ib3264
29歳・女・シ
リリア・ローラント(ib3628
17歳・女・魔


■リプレイ本文

 砂に覆われた大地。
 そこに向かうよう告げられた陶 義貞(iz0159)は、仲間と共にオアシスと呼ばれる場所を目指していた。
「『さうんどわあむ』とかの退治だって聞いてきたけど‥‥あづぃ‥‥」
 足を取る砂、照りつける太陽が、歩く度に体力を奪って行く。
 ペケ(ia5365)は今にもベバッてしまいそうな義貞の隣を歩きながら、依頼対象のサンドワーム――大砂蟲を思い出していた。
「聞いた話ではデカくて硬くて物凄く強そうですねー」
 オアシスの周辺に出没する砂漠のケモノ。
 その退治もさることながら、それに対して実力を試されると言う義貞に、ペケは少なからず思う所がある。
「大砂蟲みてビビったりしないかな?」
 自らも未熟な開拓者だ。
 故に、同じく未熟な彼の身が仲間として心配だったりする。
 それにペケ自身、大砂蟲を前にしたら正直チビリそうだと思っているのだ。
 やはりここは一言彼に言っておくべきだろう。
「陶さん」
 ペケは隣を歩く義貞に真剣な表情を向けた。
 これに義貞の目が向かう。
「怖いのは全く恥じゃありません。深呼吸して、自分と仲間を信じましょう」
 にこりと笑って見せる彼女に、義貞の目が瞬かれる。そしてニッと笑うと彼はいつものように出来る限りの元気を籠めて頷きを返した。
 だが暑さは容赦なく、降り注ぐ。
「義貞のあんちゃん、今回もがんばろーね‥‥って、大丈夫かのぉ?」
 突如背に響いた衝撃。それによって砂に倒れ込みそうになった義貞へ、高倉八十八彦(ia0927)が問いかけると、元気のない返事だけが返ってきた。
 それを目にして彼の幼い瞳が瞬かれる。
「仕方ないのぉ」
 彼はそう呟くと、自らの腕を振るって、用意していた水に練力を送り込んだ。
 途端に凍る水に、義貞の目がキラキラと輝く。
 その様子を、少し後ろを歩きながら見つめていた東鬼 護刃(ib3264)は、此度の依頼を思って僅かに笑んだ。
「義貞の成長具合を見にと思うたが‥‥」
 純粋に義貞の成長を見たい。
 そう思い同行したものの、照りつける太陽に茹だるような暑さが彼女の思考を奪う。
 義貞には水筒を持たせたが、それでも水分が足りきっているとは思えない。
「‥‥新儀はとんでもなく暑いところじゃのぅ。とっとと片付けて、水浴びの1つでもしたいところじゃなぁ」
「そうですね。ですが――」
 譲刃の傍を付かず離れず歩く言ノ葉 薺(ib3225)は、自らが踏み締める大地に視線を落とすと少しだけ表情を綻ばせた。
「新儀に足を踏み入れると言うのは、やはり旅人として心湧くものがありますね」
 とは言え――と、言葉を切って前方を見やる。
 そこには開拓者になって一年を迎えると言う義貞の姿がある。
「今回はお仕事。気を引き締めてゆきましょう」
 その声に譲刃が頷きを返し、その声を聞き止めた雲母(ia6295)がふと呟いた。
「サンドワーム退治とお守か‥‥前にあったことがあったかな」
 義貞と雲母は実際に会ったことがある。
 しかしその頃、義貞は開拓者ではなかった。
 それに記憶に残るような目覚ましい動きをしたわけでもない。
「ま、足手まといにならなければ十分か」
 呟き、煙管から白い煙を吐き出す。
 そうして見上げた空には変わらず太陽が照っている――が、突如その光に影が差した。
 耳に響く滝のように流れる砂の音。
 それに皆の目が向かう。
「ま、まさか‥‥これが‥‥?」
 目の前に現れた巨大な生き物。砂の中から見える頭は、遥か頭上だ。
 明らかに人の手に負える代物ではない生き物に、全員が言葉を失った。
 その時だ――
「すっげえ、でっけぇミミズぅーッ!!!!」
 ちょっと待てえええええ!!
 そう叫びたくなる嬉々たる声が響いた。
 声の主はそう‥‥義貞だ。
 大きな口を開き、自分たちを呑み込もうとしている大砂蟲。それを前に臆すどころか目を輝かせている彼に、雲母が苦笑する。
「ふむ。‥‥しかし、砂蟲とは。なんとも普通の名前だ、誰がつけたんだ」
 砂の中にいる虫だから砂蟲。確かに安易と言えば安易だ。
 しかも他の開拓者は驚いているのに、雲母は冷製な様子で武器を構えようと用意を進めている。
 そんな彼女とは対照的に、若干躊躇いがちに大船蟲を見るのはリリア・ローラント(ib3628)だ。
 彼女は大きな口を開く敵を見ながら、波打つ杖を握り締めた。
 そしてその目が、大きな存在の後ろを捉える。
 話に聞いた水辺は見えないが、この存在の先にそれはあるのだろう。そして僅か後方に見える砂煙は、きっと目の前の大砂蟲の仲間。
「‥‥あのコ達は、アヤカシじゃないんですね。ケモノ‥‥」
 呟き、杖を握る手に力を籠める。
「‥‥大丈夫か?」
「あ、い、いえ。大丈夫。きちんと、頑張らせて、頂きますよ」
 義貞の声にリリアは慌てて頷きを返した。
 そしてふと、義貞を見詰る。その表情にもう戸惑いはない。
「義貞さん。志摩さんに、いい報告ができるよう。頑張りましょうね」
 力強く言われた声に義貞が頷きを返すと、いざ大砂蟲との戦闘が開始された。

●大砂蟲
「やったるけんねえ!」
 そう叫んだのは、精霊力を宿した木刀を手にする八十八彦だ。
 彼は意気込む義貞の脇に立ち、その切っ先を大砂蟲に向けている。しかし無暗に突っ込むことはしない。
「義貞のあんちゃん、まずは敵と自分たちの能力を比較して、どう倒すか考えるんじゃ」
 自分よりも年下ではあるが、先輩開拓者の彼の言葉には重みがある。
 それに義貞が頷きを返すと、ペケが呟いた。
「見た目からしてタフそうですね」
「そうだな。でかいだけの能無しではないといいんだが」
 雲母が武器を回しながら、ペケと同じく呟きを漏らす。
 そうして白銀に輝く銃の先端を敵に向けると、煙管を咥えたままの口角が上がった。
「敵は2匹。大砂蟲相手に鬼ごっこは御免だからな。まずは引き離すぞ」
 弾を込める動きを見せず、雲母の銃が唸る。
 それに合わせて他の開拓者たちも動き始めた。
「では、縄張りの外まで誘導しましょう」
 大砂蟲の数は雲母が言うとおり2匹。それらを同時に相手にするのは大きさから考えても厳しい。
 ならば引き離せばいい。
 薺はそう口にすると、大砂蟲の間合いに入った。
 だが大砂蟲は存在自体が大きい。それ故に間合いが何処までかも判断がし辛い。
 それに惹きつけると言ってもその方法もわからない。ただ闇雲に攻撃を加えて効くかどうか。
 それでも、一撃見舞おうと紅蓮の炎を纏う刃が大砂蟲に向けられる――と、その時だ。
「これは効くじゃろう」
 飛んで来た氷の刃。それが今まさに攻撃を咥えようとしていた場所に突き刺さる。
 それに合わせて敵周辺の温度が下がると、薺の足が砂を深く踏み締めた。
「まずは、腹部‥‥っ!」
 風と炎を纏い加えられる一撃に、大砂蟲が呻く。
 その様子を、杖を手に見詰めて、リリアが新たな術を紡ぐ。
「‥‥正しい、状況判断なんて‥‥私には、まだまだ、できないけれど」
 それでも自分に出来ることを精一杯、いつものようにするだけ。
 彼女は杖に冷気を纏わせ振るうと、前衛の補助をと腕を振るった。
 しかし彼女の視界には、目の前の大砂蟲の他に、引き離した大砂蟲の姿が入っている。
「‥‥大家族さん‥‥」
 呟き、瞼を伏せ攻撃に集中しようとする。
「ここは、危ないのに‥別の所じゃ、だめ‥‥なのか、なぁ?」
 大砂蟲がこの場を選んだ理由はわからない。
 ここに固執する理由。ここにさえいなければ倒されることも無かったのではないか。
 そう思うと、僅かに躊躇いも生まれる。それでも倒さなければいけない存在である以上、闘わなければいけない。
 彼女は改めて、杖を翳すと氷の粒を放った。
 これに大砂蟲の身が大きく捩れる。
 体温を冷却するような攻撃から逃れようとする大砂蟲。そしてその身が砂煙と共に隠れた。
「あれ? あの大砂蟲どこ行きました?」
 舞い上がる砂に紛れて消えた敵に、ペケの目が周囲に向かう。
 それに伴い譲刃が超越聴覚を使おうとするのだが、彼女の目が見開かれた。
「ぬぅ‥‥忘れてきたのじゃ」
 こうなると砂に埋もれた相手を探す術はない。
――その時だ。
「ひゃあぁっ、真下から!?」
 ペケの悲鳴に皆が反応した。
 ぽっかりと大口を開けた大砂蟲がペケを呑み込もうとしている。
 だが彼女は慌てなかった。
 携帯していた焙烙玉を、砂を蹴りながら放ったのだ。
 それが大きな口に吸いこまれる。
 無防備に空いた口。そこで弾ける攻撃に大砂蟲は轟音を響かせ呻いた。だがこれだけでは倒すには至らない。
「っ‥‥間に合わないです!?」
 大砂蟲は砂を蹴り、体勢を崩したペケを呑み込もうと更に動く。
 距離は逃げるには足りない。このままでは呑み込まれてしまう。
 そう思った時、譲刃が氷の刃を放った。
 しかしそれでも大砂蟲は止まらない。
「――チッ‥‥退け!」
 紫煙と共に放たれた怒声。それと同時に響く轟音に、譲刃が改めて氷の刃を放つ。
「義貞! 今が好機じゃ、逃すでないぞっ!!」
 雲母が再び大砂蟲の頭を撃ち抜く。
 そうして出来た最大の隙。これに譲刃が叫んだ。
 その声に義貞がハッとなって動き、彼の動きを補助しようと薺も動く。
「灼狼の戦い方、ご覧に入れましょう!」
 炎に包まれた二つの刃が、大砂蟲の甲殻を打ち破ろうと同時に突き刺さる。
 そうして全員で1体の大砂蟲を砂に沈めたのだが、この時の音に引き離したはずのもう一匹が気付いた。
「水を‥‥と、思いましたが、そうもいかないようですね」
 苦笑を滲ませ呟く薺の目は、既にもう1体の大砂蟲を捉えている。
 そんな彼らの後方では、八十八彦がペケに治療を施していた。
「大丈夫かいの?」
「はい、なんとか」
 その声に頷きながら、彼は改めて大砂蟲を見た。
「口は弱点ではないんじゃな。となると確実にダメージを与えて倒すしかないんじゃろうか」
 彼の声に傷を癒してもらったペケは、思案気に敵の動きを見据えた。
 先程、口の中に焙烙玉を投げた際、まったく訊いてない訳ではなかったはず。それでもこれだけ大きく強い相手ならばあの攻撃だけでは足りなかったのだろう。
 ペケは宝珠の埋め込まれた鎧のような鋼拳を装備すると、自らの手を握り締めた。
「それならば‥‥竜札忍拳で勝負です」
「竜札忍拳?」
 八十八彦の問いに頷き返しながら、ペケの足が砂を蹴った。
 素早く大砂蟲の間合いに入った彼女は、動きの速さを活かして敵を翻弄してゆく。それに相手の動きが鈍くなった。
 これを機に薺が長身の矛を手に前に出る。続いて義貞も前に出るのだが、薺の目があるからか今以上に前に出る気配はない。
「1年開拓者をやってればお守はいらないと思っていたが‥‥まあ、そうだろうな」
 呟き、雲母が大砂蟲の頭に銃弾を撃ち込んでゆく。この動きが、攻撃に転じようとする敵の動きを遮っていた。
 そうして叩き込まれる攻撃は、ある程度一点に集中している。それは強い甲殻をやがて打ち破らん勢いだ。
 これに対して大砂蟲が奇妙な動きを見せた。
「皆、攻撃に備えるのじゃ!」
 身を捩り大きく吸い込まれた空気に譲刃が叫ぶが、僅かに遅かった。
「――ッ」
「こ、これは‥‥」
 突如吐き出された大量の砂と空気が、間合いに控えていた開拓者を襲う。
 これに義貞が膝を着き、彼を庇うように覆い被さった薺が膝を着いた。
「あかん!」
 八十八彦は急ぎ癒しを施すが、受けたダメージは大きい。
 そこに大砂蟲が再び迫ろうとするのだが、それを遮るように鈴の音が響き渡った。
「‥‥そう、こっち‥‥こっちに」
 そう言って、所持していたブレスレット・ベルを鳴らすのはリリアだ。
 彼女はベルを鳴らしながら、聴覚の優れた敵の注意を惹く。この動きは直ぐに良い結果を招いた。
 鳴らすベルの音に、大砂蟲が反応して動き出したのだ。
 それを見止めたリリアが、次の行動に出る。
「ごめん、ね‥‥」
 囁き、彼女の手からベルが放たれた。
 弧線を描き遠く離れた砂の上に落ちるソレ。大砂蟲は迷うことなくそこに方向を変えた。
 そして一気に砂の中に潜ってゆく。
 その行き着く先は明確で、次に姿を現す時こそ最大の攻撃時期の筈。
「コイツは潰す」
「はい、このままにする訳には行きません」
 雲母の声にペケが頷く。
 本来ならば撤退すべき状況だ。
 しかし敵を放置したままでは退路が確保できない。少なくとも、今砂に潜った大砂蟲は倒すべきだ。
 雲母はベルがあるその場所に銃口を向けるた――次の瞬間、大砂蟲の顔が覗く。
「――逝け」
 呟きと共に間髪入れず幾つもの銃弾が放たれる。
 それに合わせて脚力を強化したペケが、弾丸を受けて逸れた大砂蟲の胴に接近する。
 そうして先ほど薺と義貞が集中して攻撃を加えていた場所を見定めると、彼女の拳が大きく振り上げられた。
「ひっさぁぁぁつ! 竜札忍拳殴竜脳天地獄!!」
 全身の体重を掛けて叩き込まれた一撃に大砂蟲が呻く。
「退け、もう1つ加える」
 ペケが退くと同時に叩き込まれた一撃が、寸分の狂いもなく弱った部分を突いた。
――直後、大砂蟲が大きな体を逸らして硬直する。
 そして僅かな間の後に崩れ落ちると、辺りに轟音と砂煙が舞い上がったのだった。

●戦いを終え
 砂の上、水分を取りながら体力回復に努める一行は、改めて八十八彦から回復の手を受けていた。
「‥‥やれやれだ」
 その様子を、煙管を咥えて眺めるのは雲母だ。
 ゆらゆらと昇る白い煙は戦闘時も健在だった。
 それを眺めていたペケは、水分を補給しながら、すぐ傍で治療を受ける義貞を見やった。
「大丈夫じゃろうか?」
 そう問いかける八十八彦は、大砂蟲の対策を色々考えていた。
 だが結局弱点らしきものは見当たらず、敵を力押しで倒したに過ぎない。それでも危ない攻撃があることはわかった。
「砂と空気圧の攻撃‥‥これは、ギルドに報告しないとダメじゃね」
 言って、義貞に水を差し出す。
「義貞、大丈夫かのぅ?」
「‥‥うん‥‥姉ちゃんたちは大丈夫か?」
 譲刃の声に義貞が頷きを返す。
 そうした問いに頷きを返しながら、彼女は義貞の頭を優しく撫でた。
「わしはピンピンしておるわ。どうじゃ、頑張った褒美に後で何ぞ奢ってやろうかの」
 撤退こそしたものの2匹の大砂蟲を倒すことが出来た。
 それだけでも大したものだ。そう口にする彼女の声に義貞の目が輝く。
 そしてその姿を近くで見ていた薺は、苦笑と微笑、その両方を合わせて微笑むと、青く広がる空を見上げた。
「陶殿が目指す場所。その周りにはどんな景色が見えるのでしょうね」
 まだ成長途中の彼がどのように育つのか。そしてどうした未来を描くのか。
 興味は尽きない。
 そしてそれらの会話を耳にしながら、リリアは静かにオアシスの方を見詰めていた。
「‥‥ごめん、ね」
 呟き、自らが奪った命を思う。
 そうして視線を皆に戻すと、彼女は今浮かべていた悲しみの表情を消して、仲間の元に戻って行った。