【武炎】訝しの目
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/31 19:48



■オープニング本文

●伊織の里
 その名を出されて、高橋甲斐は険しい表情を見せた。
 彼に対する上座に座る少年、立花伊織は、慌てて頷き、書状を開いた。
「はい、朝廷と和議の成った修羅について‥‥」
「御館様」
 丁寧な少年の言葉を、初老の甲斐は、やんわりと、しかし厳しい口調で遮った。びくりと肩を震わせた少年が、小さく咳払いをして、きちんと居住まいを正す。
「うむ。巨勢王よりも書状が参った。酒天を伊織の里で相まみえて見極めんとの仰せだ」
 目下の者に対する言葉遣いに、甲斐は小さく頷いた。伊織もまた、安心したように肩の力を抜くと、書状を畳んで祐筆に下げ、ゆっくりと時間を掛けて下座に向き直った。
「して甲斐。朝廷の意向であればともかく、これは巨勢王の決定である故、異論は許されぬと思う。差配は任せるが良いか」
「はっ。開拓者ギルドにも遣いを出し、万全の体制を整えまする」

●朱藩と武天の国境付近
 朱藩と武天の国境付近、伊織の里からもほど近い場所に、天元征四郎(iz0001)は足を運んでいた。
「アヤカシの目撃情報が後を絶ちません‥‥中には被害にあった村も‥‥」
 国境を警備する砦。
 そこで警備にあたっていた兵は、戦闘の際に失った右腕を摩る。その姿を見ながら征四郎の目が、背後に控える砦を捉えた。
「出現したアヤカシの情報収集は、他の者が行っている‥‥今は、その報告を待つしかないだろう」
――とは言え、被害が出ている以上、何もしない訳にはいかない。
 国境付近であるが故に、どちらの国も軍を動かすことは出来ない。故にギルドに声が掛かり、開拓者が集められたのだ。
「さて、如何するか‥‥」
 そう呟いた時だ、征四郎の視界にあるものが飛び込んで来た。
「あれは――」
 見上げた先に居たのは、空を舞う緑色の龍だ。
 雲の合間をうねる様に駆け抜けるその姿に、征四郎の眉が顰められる。
「蔓雲の怪龍(かずらぐものかいりゅう)‥‥面倒なのが出て来てるじゃねえか」
「!」
 突如聞こえた声に、征四郎の目が飛んだ。
 そこに立っていたのは、周囲の聞き込みに向かった筈の志摩軍事(iz0129)だ。
「ここ暫く、他のアヤカシもだが、蔓雲の怪龍の目撃情報が多数出てやがる‥‥目的は何だ?」
 訝しむように呟く彼に、征四郎は数度目を瞬き、空に目を戻した。
 一見すれば心地良さそうに空を泳ぐ龍は無害にも見える。しかし志摩の情報が確かなら、上級アヤカシが無害であるはずがない。
「そう言やぁ、この近くの村が襲われたって話を聞いたぜ。だがまあ、こういった話はそこかしこで耳にしたな」
 国境が目的――それにしては、襲われた村や里は多岐に渡っていると志摩は言う。
 そもそも国境を目的にする理由が分からない。それに国境を目的にするのであれば、砦を直接攻撃してしまえば良いのだ。
「なんつーか、詰めが甘いってのか‥‥訳がわかんねえな」
 ぼやくよう口にした彼に、征四郎は「ふむ」と息を吐く。
「他のアヤカシを、蔓雲の怪龍が指揮している可能性は、あるのか‥‥?」
 蔓雲の怪龍と同じく目撃情報が多いとされるアヤカシ達。目的が定かではないにしろ、現れたアヤカシが蔓雲の怪龍と無関係とは言えないのではないだろうか。
 そう問いかける征四郎に、志摩は自らの顎を摩って唸った。
「そこはなんとも、だな」
 結局の所、この辺に派遣された開拓者たちはアヤカシからの攻撃に対する防衛と、蔓雲の怪龍の警戒に追われている。
 蔓雲の怪龍や他のアヤカシの目的を探る事は出来ていないのだ。
「なあ、天元流の坊ちゃん。ちっとばかし、動いてみねえか?」
「何?」
 訝しむよう眉を潜めた征四郎に、志摩はニンマリ笑うとある提案を持ちかけた。

●襲撃跡
 征四郎に面倒を託した後、志摩は昨夜襲われたばかりだと言う村を訪れていた。
 未だ燻る戦闘の火。鼻に吐く匂いは、僅かな生臭さを含んでいる。
「生存者はいるにはいたが、住めるようになるには時間が必要‥‥か」
 溜息と共に声を零し、志摩の目が周囲に向かう。
 半壊した家、そこかしこに残る血痕が、襲撃が真新しいものだと言うことを語っている。
 志摩はふと目を落すと、足元に転がる人形に手を伸ばした。
「いつ見ても胸クソ悪いぜ」
 被害は最少だったとは言え、襲われた場所を見ると言うのは気分が悪い。
 志摩は万が一を考え連れてきた開拓者を振り返ると、今回の目的を話し出した。
「俺達は、此処で出来る限りの情報を集める。幸いっちゃあナンだが、まだ誰の手も入っちゃいねえ。どんな事でも良い、集められる情報全てを掻き集めるぞ」
 見える家々は、僅かに崩壊しているものばかり。
「やっぱり、腑に落ちねえ‥‥」
 志摩はそう呟き、人形を雨が凌げる民家の影に置いた。
 そうして改めて開拓者を振り返る。
「敵の残像が残ってるかも知れないからな、調査には注意しながら当たれよ」
 そう、此処は襲撃されて間もない村。
 民間人の保護は完了しているが、アヤカシが出ない保証はない。
 志摩は改めてこの場所の危険性を解くと、調査開始の合図を出したのだった。


■参加者一覧
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
アルマ・ムリフェイン(ib3629
17歳・男・吟
エレナ(ib6205
22歳・女・騎
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂


■リプレイ本文

「今回の目的は、アヤカシの襲撃目的などを調査する‥‥ですか」
 エレナ(ib6205)はそう呟き周囲を見回した。
「こうした光景は、何度見ても気分の良いものではありませんね」
 密かに吐いた息、それを隠すように視線を巡らせと、調査の為に目を凝らすアルバルク(ib6635)を見た。
「アルバルク殿」
「おう、どうした嬢ちゃん」
「嬢ちゃん‥‥」
 思わぬ呼び方に言葉に詰まる。
 それを見止め、アルバルクは米神に指を添えた――直後、彼の瞳孔が大きく開かれる。
「流石は国境付近ってだけのことはあるか。国を隔てる山に森が見える‥‥後は――」
 どうやら彼はバダドサイトを使用した様だ。
 その様子にエレナは口を噤む。
 調査は依頼人の志摩 軍事(iz0129)を含めてる。今回は人数を3つに分け行動することになっており、エレナはアルバルクと一緒になった。
「殆どの家に外傷があるな‥‥デカいってわけじゃないが‥‥」
 そこまで口にして唸り声が漏れた。
「どうされました?」
「いや、上級アヤカシの被害ってのは、もっと酷いもんだと思ってたんだけどなぁ?」
 確かに、彼が言う様に上級アヤカシが襲った土地の被害はこんなものではない。
「どうやら今回はちっとばかり毛色が違うみたいだな」
「襲撃された場所の共通点を事前に調べましたが、何処も此処と似たような被害だったようです」
「まっ、攫うだけ攫って、どっかしら引っ掛かればいいなー」
 調査を進める程に謎が浮きあがる被害にそう言葉を零すと、彼はふと歩き出したエレナを見た。
「嬢ちゃん、さっきは何を言おうとしたんだ?」
「いえ、国境付近に村や里が多く分布していると聞きましたので、この辺りは水源が豊かなのではないかと」
 彼女は村にある井戸に目を向けるとそちらに足を進める。
「まずは川や井戸、その調査から初めてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わんよ。手を貸せることはお互いに手を貸して行こうぜ」
 そう言って口角を上げた彼に、エレナは数度目を瞬くと頭を下げるように頷きを返した。

 時を同じく、別の組み合わせで調査に入るアルマ・ムリフェイン(ib3629)は、爪痕の残る村を見てゆっくり息を吸った。
「‥‥ん、平気平気」
 僅かに燻る火の香りに一瞬眉を潜めるが、火の粉が見える訳ではない。
 ただ燃えた木々の匂いが残っているだけだ。
「こういう火が大きくなる前に調べきらないとね」
 そうして呟くと、彼はダイアモンドが嵌る杖を構えた。
 そうする事で纏った光が彼に多くを教えてくれる。
「今のところはアヤカシの気配はないかな‥‥少し、瘴気が残ってるけど」
 まだ大丈夫。そう呟き、彼は共に行動する羽喰 琥珀(ib3263)を見た。
「んー‥‥それなら少し大きく動いても大丈夫かもだな」
「どこか、行きたいところがあるの?」
 琥珀の言葉には目的がある様に感じられる。
 彼は掛けられた問いに頷くと、一番被害の多そうな場所を指差した。
「あそこだ!」
 彼が示したのは村はずれにある民家だ。
「他の皆とは違う場所だし、良いと思うよ」
「なら行こう!」
 そう言って駆け出した琥珀に、アルマは急いで彼の後を追った。
 その途中で、ふと気付く。
「そう言えば、鶏を飼ってるって言ってたかも‥‥」
 しかし、鶏の姿は見えない。
 襲われていなくなったのか、共に非難をしたのか、どちらにせよ羽根が散らばった痕が見えない。
「繰り返し襲われて、対策もしてて‥‥でも、アヤカシはうろついてて‥‥」
 アルマは「うーん」と眉を顰めると、この近くにある里の存在を思い出した。
「‥‥伊織の里の‥‥宝珠とかがあったりしないよね?」
 これまでの経験からの勘だろうか。
 彼はそう呟くと、一足先に民家に辿り着いた琥珀に気付いた。
「おーい、早くしろよー」
「あ‥‥ごめん」
 そう言って駆け寄った彼は、周囲にチラリと目を寄越し琥珀と合流した。

 一方、ブラッディ・D(ia6200)は父と仰ぐ志摩と遊びたい気持ちを堪えながら、村の様子に眉を潜めた。
「お父さんと一緒の依頼っ! ‥‥でも、色々怪しい感じだなぁ」
 彼女が目にする村には、色々と不可解な点が多い。それは一見しても、噂を耳にしても変わらない感想だ。
 そして共に行動する鹿角 結(ib3119)もその考えに同意する。
「上級のアヤカシが、ただのきまぐれで動いているとも思えませんが‥‥読めないだけに不気味です」
 そう口にしながら、ある民家の前で足を止めた。
「今回は色々と調べることがあるみたいだね」
「そうですね‥‥先手を取るとまでは言わないまでも、後手に回らないように手を尽くすとしましょう」
 ブラッディの声に頷いて結が言うと、彼女も頷きを返す。
 村の位置や襲われた理由は調査の対象になる筈だ。
「他のトコが襲われる前に分かれば対策とかもできるし、ぱぱっと調べちゃおう!」
 ブラッディはそう言って民家に向き直る。
 そんな彼女の頭を撫で、志摩は苦笑気味に口角を上げた。
「頼りにしてるぜ、頼むな」
 そう言った彼に、ブラッディの嬉しそうな目が向かう。
「お父さんも頼りにしてるよーっ!」
「おう、任せろ」
 こうして蔓雲の怪龍に襲撃を受けた村の調査が開始された。


 民家に入った結は、僅かに眉を潜めた。
「襲われたばかりで、生き残りの方がいらっしゃる‥‥きっと、気持ちの整理などついていない方が大半でしょうね」
 彼女はそう言い、此処に向かう前に顔を合わせた村人たちを思い出す。
「立ち入りの許可と調査の許可は頂きましたが、どの方も表情はすぐれませんでした」
 襲撃されたのは昨日の事。
 そう簡単に整理が着く筈もない。
 彼女はまず村人の言葉に耳を傾け、それから話を伺うよう気を遣った。
 そして得た情報は彼女の内にある。
「何か分かった事でもあるのか?」
 問いかけに結の視線が落ちる。
「恐怖心はさることながら、上級アヤカシへの不信感というものが見え隠れしておりました」
「不信感?」
 ブラッディは民家の壁に開いた穴を見てから彼女を振り返る。
「上空を飛ぶ姿、村を襲い攻撃を行う姿、どれをとっても目的があるようには見えなかった‥‥と」
 そう、今回の襲撃に何か目的があるようには見えない。
 そして今回はそれが目につく。
「本当は、この地や人に『種』でも植えつけられているのでは、と思ったのですが‥‥」
 彼女は敵が植物に似た姿ということからそう想像した。
 しかしそうした情報は出て来ていない。
「目的がある様に見せないのが目的‥‥とか?」
 ふとブラッディが口にした言葉に志摩が唸る。
 もしそうだとしたら、大きな思考が絡んでいる可能性がある。
 襲撃を目的としない、そして目的にしないからこそ浮上する多くの目的。そのどれかに絞るにはやはり情報が不足している。
「他の家も見てみるか」
 そう言って外に出ようとした志摩の足をブラッディが止めた。
 民家の外に浮遊する白い物体。
「残されたアヤカシが居りましたか」
 結はそう口にして藍染の弓を構える。それに習いブラッディも白く不思議な色合いの剣を構えた。
「数は少数だし集まるのを避けるためにも倒しちゃったほうが良いよね」
 ブラッディはそう言うと地を蹴って走り出した。
 一気に縮まる敵との距離。
 彼女はすぐさま間合いに入ると、下から一気に切り上げる。そうして一体消すと、次の敵が目に入った。
 それを結の矢が射抜き、最後の一体を志摩が切り捨てると、3人は周囲を警戒しながら武器を下げた。
「他にはいないみたいだけど、見つけたらすぐ倒したほうが良さそうだね‥‥あの超音波的なのを出させないようにしないと」
 相乗効果が起こった時が怖い、とブラッディは言う。
「そうですね、1人で孤立だけはしないように調査を続けましょう」
 結はそう言って頷くと、次の民家に向かうため足を動かした。

 その頃、民家ではなく村が生活用水として活用している井戸を調べていたエレナは、水を手に掬いその透明度を確認していた。
「‥‥問題はなさそうですね」
 口にして飲んだ水は、何の違和感もなく彼女の中に溶け込んでゆく。
 その様子を見ていたアルバルクは僅かに首を傾げた。
「何を調べてるんだ?」
「最近、上級アヤカシで魔の森を発生させられるモノが出てきたようなので、襲撃された大地にその兆しが無いかと調査していました」
 彼女の言うように、この近辺に魔の森を発生させられる上級アヤカシが目撃されている。
 そしてもし、蔓雲の怪龍にもその性質があったら、この地の水や草木は魔の森に変化している可能性もあると踏んだのだ。
「結果は正常、襲撃のみ行われたと判断して良いでしょう」
 あとは‥‥そう、動いた彼女の目が捉えたのは、民家に残る僅かな煙だ。
 既に火の鎮火は済んでいる。
「あれは家事途中の火が原因みたいだぜ」
「そうなのですか?」
 エレナは自分の考えを読み取ったように降る声に目を見開くと、アルバルクの顔を見た。
 その視線に頷き、彼は自らの顎を摩る。
「燃え方がそんな感じだな‥‥っと、何かでてきやがった」
 彼は民家を見ていた瞳を眇めると、装備していた刀を銃に替えそれを構えた。
 これにエレナも慌てて宝石に彩られた剣と逆五角形の盾を構える。
「ついでにこいつ等についても、やっとくかい‥‥」
 発見したのは白羽根玉だ。
 敵はエレナとアルバルクに気付き此方に向かってきている。
「これ以上の収集は見込めそうにねえしな、行くぞ」
 言って放った弾丸が敵の羽根を貫くと、彼の目がもう1体の敵に向かった。
「嬢ちゃん、一気に接近してぶった切っちまえ」
「接近、ですか?」
 敵の能力を考慮すると無暗に近付かないほうが良い気もする。しかしアルバルクは言う。
「攻撃する前に斬っちまえば問題ねえ」
 なんだか無茶苦茶な気もするが、攻撃は最大の防御もという。
 それに敵の性質を考える以上、盾に効果があるとも思えない。
「わかりました」
 彼女はそう言うとトンッと地を蹴って駆け出した。
 そうして敵の間合いに入ると一気に剣を突き入れる。その視界に先程アルバルクが撃った敵が入るが、それは新たな銃弾によって討ち落とされた。
「お疲れさん‥‥しっかし‥‥」
 アルバルクはエレナの肩を叩きふと視線を泳がせた。
 先程別の場所からも戦闘音が聞こえた。
 音の位置からして敵の配置は不規則のようだ。
「‥‥意味があるとは思えねえ、か」
 彼はそう口にすると、調査に戻る為に足を動かした。

 琥珀は民家の中に入ると、すぐさま心眼を使った。
「生き物の気配はないみたいだ。これなら安心して調べられるなー」
 この声に、民家に入る前に外観を確認していたアルマは、中に入りながら頷きを向けた。
「特に変わった事なかったみたい」
 でも‥‥と一瞬言葉を詰まらせる。
 集中して残る血痕や荒らされた痕はない。しかし僅かながらそうした痕跡は残っていた。
「見たくないなんて言ってられないもんね‥‥」
 彼はそう口にして中を見回した。
 中も外と同様、少しだけ荒らされているが目立った損傷はない。
 空腹とも、遊ぶとも、継続な犠牲が目的とも思えない。なら何処かに襲撃の目安になるものはないか。
 彼は民家に置かれた荷物を見ると、一瞬だけ触れることに躊躇いを見せた。
 そこに琥珀が近付いて来る。
「この箱、開けるのか?」
「あ、うん‥‥」
 躊躇うアルマに対し、琥珀は堂々としたものだ。
「生き残った奴らには悪りーけど、ここで手がかりみつけねーと、また同じような目にあうとこが増えるだけだしなー」
 そう言って箱を開けると、中に入っている着物に目を瞬いた。
「やっぱり、ないかな‥‥」
 苦笑気味に呟いた声に琥珀が首を傾げる。
「‥‥宝珠類や武器類がないかな、って」
「宝珠かぁ‥‥あ、さっき本ならあったぞ!」
「え」
 アルマは僅かに目を見開き、彼に書物があった場所に案内して貰った。
「家計簿‥‥収穫情報‥‥地図‥‥」
 食器棚だろうか、そこに置かれた書物はどれも生活に密着したものだ。
 琥珀はその中の収穫情報の書物を手にすると、この村で獲れている作物などの情報を得た。
 そしてアルマはというと‥‥
「‥‥あれ?」
 とりあえず、と手にした地図に記された村の位置と武天、朱藩の位置。そして彼が気になっている伊織の里の位置を見比べる。
「これって‥‥」
 彼はそう呟き地図を手の中に納めた。
「なあ、この村って伊織の里に作物を売りに行ってたんだな」
「そうなんだね‥‥でも、うん‥‥分かる気がする」
 彼はそう頷くと、琥珀に一度皆の元に戻ろうと声を掛けるのだった。


 アルマの呼びかけで集まった面々は、収集した情報を開示していた。
「収穫らしい収穫はないです」
 そう言うのはエレナだ。
 あの後、他の場所も調べたが有益な情報は出なかった。
「白羽根玉への有効な手段もあまり、だな」
「俺達が白羽根玉と闘ったのはココとココと‥‥」
 アルバルクの声に捕捉する様に、村の地図に指を置くブラッディ。彼女のその動きを見る限り、何かに重点を置いているとは思えない。
「おいら、やってみたい事があったんだ」
 琥珀はそう言って、白羽根玉に対して行ってみたいと思っていたことを告げた。
「おいおい、そりゃあ危ねえだろ」
 志摩は僅かに苦笑して彼の頭を撫でる。
 琥珀が行って見たかったのは、敵の周囲や地面を調査すること――ここまではまあ良い。
 だがその他に、複数敵がいる場所へ向かい、そこで波動を出させ共鳴を起こさせ、他のアヤカシを誘き寄せないかを調査したいと言った。
 これには志摩が反対をした。
「数が集まりゃあそれだけ戦闘の可能性が高くなる。数に寄っちゃあ、俺らもタダじゃすまねえ‥‥」
 だが‥‥と、言葉を切り、志摩は琥珀の頭を撫でる。
「後で俺達が白羽根玉を退治した場所を調べてみるか。何か分かるかもしれねえからな」
 この声に彼は頷き、そして結が本題に戻す。
「この地図‥‥随分と伊織の里に近いのですね」
「うん。この村は作物を伊織の里付近に売りに行っているし、距離はそう遠くない‥‥この地図に、他にも襲撃を受けた土地に印をつけると‥‥」
 アルマはそう言って地図の上に筆を落とす。
 そうして出来上がったのは、一見すれば不揃いな点の集団。しかし――
「武天寄り――ううん、伊織の里付近に、襲撃が多くある‥‥これって、収益にならないかな?」
 志摩は小首を傾げるアルマを見てふむと息を吐く。
「そうだな、1つの情報としては足りる。あとは天元流の坊ちゃんが手にする情報次第、だな」
 彼はそう言うと、眉間に皺を刻んだ。
 そこにブラッディが近付き、顔を覗き込んでくる。
「お父さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。最近遊んでやれずに悪いな、これが済んだらたっぷり遊んでやる」
 楽しみにしとけ。そう言って頭を撫でた志摩に、ブラッディは嬉しそうに目を細め頷きを返したのだった。