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■オープニング本文 ガタ‥‥ガタガタ‥‥。 草木も眠る丑三つ時。 奇妙な物音に目を覚ました助次(すけじ)は、枕元に添えていた刀を手に起き上がった。 襖を開け、物音の正体を確かめようと忍び足で歩く。 助次は神楽の都から僅かに離れた村に住む開拓者だ。 開拓者稼業は普通の者より収入が多い。 其れは受ける仕事と対価が見合っているが故。助次はそれなりに腕のたつ開拓者で、危険な依頼にも進んで参加していた。 だからだろう。彼の屋敷は村の中でもそれなりに大きい。 金よりも品を貯め、財産を作りあげる事、自身の懐を肥やす事に意識を向け、徐々に資産家として名を上げ始めていた。 だから、物盗りが彼の家に押し入ってもおかしくはない。寧ろ、そうした家だからこそ、金目の物があると踏んで押し入ったのだ。 「‥‥開拓者の家に押し入るとは、相当腕に自信のある者か‥‥それとも、ただの馬鹿か」 先にも述べたが助次は腕のたつ開拓者だ。 心眼を使いどの部屋に人の気配があるかを探る。そうして判別した部屋の前に来た所で、彼の手が刀の柄に触れた。 「――参る」 障子が2つに割れ、目の前に人影が差す。 助次は障子を斬る為に舞わした刃を返し、踏み込みを深くして影の懐に入った。 「深夜に人家に踏み入った事‥‥あの世で後悔するのだな」 如何なる理由であれ、深夜に忍び込むのは普通ではない。 殺されたとしても文句は言えないだろう。 助次は赤い炎を纏わせた刃を振り斬ると、此れで終いと今一度刃を振り上げる。 しかし―― 「ッ‥‥ぁ‥‥」 カランッ。 彼の手から刀が落ちた。 見開く目に映るのは、同じく見開き此方を見る目だ。 予想外の展開に驚き、狼狽して揺れ動く瞳。 家主に見つかる事も、戦闘になる事も予想していなかった瞳が彼を捉える。 「‥‥こ、殺すつもりは‥‥」 微かに漏れた声。其れに助次は何かを言おうと口を開いた。 「‥‥、‥‥ヒュ‥‥っ、‥‥」 掻き切れた喉から洩れた風が、鮮血を飛ばす。 助次は目の前の人物の腕を掴み、そして崩れ落ちた。 ドサリと言う音と、目の前に広がって行く赤い染み。其れを見詰める目が更に見開かれる。 「死んだ‥‥のか‥‥?」 そう呟いた人物は、蒼く光る宝珠を確りと握り締め、その場を駆け出して行った。 ●神楽の都 東房国・霜蓮寺(そうれんじ)を出て数日が経った頃、月宵 嘉栄(iz0097)は下宿先の管理人・志摩軍事の言葉を受け、神楽の都に出ていた。 ――住む場所を知らねば、いざと言う時に動けまい。 確かに志摩の言う事には一理ある。 しかし都を知ろうにも何処へ行けば都合が良いのか‥‥其れすら不明な身としては、当てもなく適当に歩くしかない。 「市場は人が多いですし、ギルドへの顔出しはほぼ毎日行っていますし‥‥」 後は―― そう呟いた所で、彼女の足が止まった。 此処は民家が連なる道すがら。 先に進めば市場へ。後ろに下がれば港に出る。 人の往来は少なくはないが多くもない。故に、彼女が足を止めたとしても誰も気に留めなかった。 「今、何か光った気が‥‥」 嘉栄は民家の隙間――路地に足を進めると、「やはり」と目を瞬いた。 光も殆ど入らない路地。 其処で僅かな光を放つ存在に、彼女の目が落ちる。 「宝珠‥‥何故、このような場所に」 嘉栄は身を屈めて其れを拾い上げて眉を潜めた。 蒼く光る美しい宝珠は自然の産物ではない。 このような場所に落ちている事がまず不自然な代物だ。 「落とし物‥‥とは言え、場所が場所。開拓者が依頼の最中にでも――」 「‥‥姉ちゃん‥‥開拓者か‥‥?」 不意に聞こえた声に嘉栄の目が上がった。 空耳ではない。確かに聞こえた声に警戒が滲む。 「やっぱりそうか‥‥ああ、そんなに警戒せんでもええよ‥‥わいは此処や‥‥」 ――此処、此処。 そう呟く声に「まさか」と宝珠を見る。 その瞬間、彼女の前に青白い光を纏う物体が飛び出してきた。 尖った耳にひょろ長い胴。 ふわふわと浮遊するその姿は一見すれば狐に見えなくもない。 「何や、管狐を見るんは初めてかいな?」 自らを管狐と称した物体は、そう問いながら嘉栄を物色するようにジロジロと見る。 その視線に些か居心地の悪さを感じた嘉栄は、小さく咳払いをすると管狐から視線を外した。 「管狐の宝珠でしたか‥‥何故、仔のような場所に?」 落とすにしても場所が場所だ。 ただ落としたと言う訳では無さそうである。 その問いに、管狐は無理矢理嘉栄の視界に入って頷く。 「そうなんや。わい、盗難に会うてしまってな‥‥ご主人は死んでまうし、こないな場所に落とされるしで、途方に暮れてたんよ」 「盗難?」 「そや。わいは助次言う開拓者の相棒だったんよ。出来る事ならご主人の仇も討ちたいんやけど‥‥わい1人じゃどうにも出来ん。そこで姉ちゃん登場や!」 管狐は一瞬落ち込んだ気配を消すように明るい声を上げると、ニイッと口角を上げて嘉栄の顔を覗き込んだ。 「姉ちゃん、見た所手練れの開拓者やな? わいと一緒にご主人を討った奴を探して欲しいねん」 「それなら開拓者ギルドへ依頼を出せばよいのでは‥‥」 「管狐が1人で出せるかい!」 「あ‥‥」 言われてみればそうだ。 「姉ちゃん、大丈夫かいな‥‥腕がたつだけでは開拓者は務まりへんで」 呆れたような管狐に思わず苦笑が漏れる。 少々癪ではあるが、管狐の言うことは尤もだ。 此れは嘉栄にとって良い機会なのかもしれない。 「では、共に開拓者ギルドへ参りましょう。都を捜索し、先ずは情報を集めましょう」 そう言った彼女に、管狐は「姉ちゃん、話わかるわ!」と言って喜びの声を上げたのだった。 |
■参加者一覧
氷(ia1083)
29歳・男・陰
珠樹(ia8689)
18歳・女・シ
将門(ib1770)
25歳・男・サ
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫 |
■リプレイ本文 賑わう広場に足を踏み入れた緋那岐(ib5664)は、中を見回すと目的の人物を探した。 「確か場所は此処だったはず‥‥っと、いた」 広場の中央に佇む月宵 嘉栄(iz0097)を見付けた彼は、すぐさま駆け寄る。 「嘉栄さん、お久しぶり」 この声に頭を下げた嘉栄を見て、緋那岐の視線が彼女の肩に向かった。 「なんや、わいが美男? そんなんわかってるわぁ♪」 じっと見る視線に身をくねらす管狐。それに対して、緋那岐の首が傾げられた。 「妹の管狐もひと癖ある奴だけど、なんつーか‥‥管狐ってこういうのばっかか?」 「失礼やな。わいは管狐一やで、もっと敬わんかい」 えっへんと胸を張った管狐だが、緋那岐も負けてはいなかった。 ビシッと指を突き付けて叫ぶ。 「俺は緋那岐だ。おい、管狐! お前の名前はなんだ?!」 「わいの名前やて? そやな、わいの名前は‥‥名前は‥‥」 あれ? と管狐の首が傾げられた。 その様子に緋那岐の眉が上がる。 「まさか‥‥名前が無いのか?」 「‥‥あ、思い出したで! わいの名前は管狐や!」 「ちょっと待て」 思わずツッコんだ緋那岐に、管狐の楽しげな笑い声が響く。 「何、してるんだ?」 突如響いた声に、嘉栄の目が向かう。 「これは将門殿。お久しぶりです」 「ああ、ようこそ神楽の都へ。着いてそうそう大変そうだな」 将門(ib1770)は嘉栄にそう言葉を向けると、管狐を見た。 「確かにお喋りそうだな。となると、管狐による犯罪の露見を怖れて探している可能性はあるか」 呟き、思案気に視線を落とす。 やたら喋る管狐が、犯人の行いを何時までも黙っている保証はない。 ただ‥‥と、将門は眉が顰めた。 「他の宝珠を狙っている可能性もあるか」 可能性は幾らでも考えるられる。 将門はやれやれと息を吐いた――と、其処に新たな声が響いてくる。 「上京早々厄介ごとに巻き込まれるとは、前途多難だねぇ」 声と共にやって来たのは氷(ia1083)だ。 彼は集まった面々を見て欠伸を零すと、近場に腰を据えて嘉栄を見上げた。 「ま、これも見聞を広げるいい機会かね」 彼は嘉栄が上京した経由を知っている。 故にこうした物言いをするのだろう。 その様子に苦笑を滲ませた嘉栄の頭が下がる。そして言葉を交わそうとした所で、管狐がそれを遮った。 「兄ちゃん陰陽師やな!」 「符術士」 すかさず返された言葉に、管狐の尾が揺れる。 「つれないのう。わい陰陽師は大好きなんよ〜?」 言いながら纏わりつく管狐だが、氷は気にした様子もなく肩を竦めると、そのままの状態でウトウトし始めた。 「氷は流石ね」 呆れ半分、尊敬半分。 そんな様子で呟いたのは、いつの間にか傍にいた珠樹(ia8689)だ。 「あんたのいるところ事件ありね‥‥」 そう言って視線を寄越した先には嘉栄がいる。彼女は珠樹の視線を受けて申し訳なさそうに苦笑した。 「別に非難してるわけじゃないわ。そういう人間もいるってこと」 気にするんじゃないわよ。 そう言葉を添えて、彼女は少しだけ笑んだ。 「我々が最後ですか。お待たせして申し訳ありません」 優しげな声音を含んで声を掛けてきたのは長谷部 円秀 (ib4529)だ。 彼は笹倉 靖(ib6125)と共にやって来ると、軽く頭を下げた。 「一緒に来たんだな」 「ええ、広場の入り口で一緒になりまして」 将門の声に頷いた円秀は、靖を振り返り笑みを滲ませる。 そして管狐に目を向けると、表情を引き締めた。 「詳細は分かりませんが‥‥主人の仇をとりたいと言う気持ちは分かります。ですので、できる限り力になりましょう」 言って管狐の手を取ると、彼は驚きつつ頷いた。 此れで漸く管狐が大人しくなるのだが、宙に浮かぶ様子だけは変わらない。 其れを眺めていた靖は、煙管の紫煙を吐き出すとクスリと笑った。 「ゆらゆら、ふわふわ‥‥まるで煙みたいな生き物だ」 「煙って言うか、風? つーか、俺が神楽に出てきた頃よりも物騒になったもんだ。‥‥妹んトコにも管狐がいるし、他人事とは思えねぇ」 「ほお、兄ちゃんの所にも――って、うわぁ!」 緋那岐の言葉に、興味深い。そう言葉を返そうとした管狐から悲鳴が上がった。 その原因は氷だ。 「な、なんやの‥‥起きたんなら言うてや」 「起きた――で、何か話したりしたんかい?」 管狐がお喋りだと犯人は知っている――と聞いた。 それはつまり、何かしらの言葉を交わしたと言う事だろう。 しかし‥‥ 「うんにゃ。わいが1人で喋ってただけや。犯人は『う、煩い‥‥黙れ』だけやな」 なんて役に立たない。 珠樹は溜息を零すと首を横に振った。 「まぁ、情報収集ってことらしいから全員で集合場所だけは決めて、まずは散開ね」 「場所は此処で良いんじゃないかね」 そう口にした所で、靖は歩き出そうとした円秀を呼び止めた。 「良ければ、一緒に如何だい?」 円秀とは複数回依頼を共にした事がある上、信頼を寄せる友でもある。 彼となら行動もし易いだろう。 そして其の想いは円秀もあるようだった。 「構いませんよ」 そう言って微笑んだ彼に笑みを返し、靖は自らの足を動かしたのだった。 ● 開拓者ギルドを訪れた氷と珠樹は、受付に足を運ぶと欲しい情報の開示を求めていた。 「助次って開拓者が殺傷された事件について、資料とかある?」 「助次、ですか‥‥」 「手練れの開拓者の殺傷事件なんて放っておいていい事案じゃないし、何かしらあると思うんだけど」 確かに。 職員は珠樹の声に頷くと「待っていて下さい」と資料を探しに動いた。 その姿に氷も別の資料を要求する。 「助次の受けていた依頼や、管狐の購入時期なんかが分かる物があれば、それも見たいんだけど」 「わかりました」 職員はそう言って奥に消えた。 そしてその直後、聴覚を研ぎ澄ましていた珠樹の耳に、気になる情報が流れてきた。 「窃盗事件、急に無くなったわね」 「確かに。別の街にでも移ったのかね?」 窃盗事件が突然無くなった? 「‥‥関係あるのかしら」 「お待たせしました。これが資料です」 思案する珠樹の前に置かれた資料。 此れに珠樹だけではなく氷も目を瞬く。 「‥‥多いわね」 「ふーむ、中々精力的に働いてた御仁みたいだねえ」 言って氷は、助次の依頼経歴が書かれた書を取り上げた。 此れだけで優に3冊はある。 しかし、殺傷事件の資料はその半分以下と少ない。 「ねえ、助次の殺傷事件の資料はこれだけ?」 「はい。調査途中と言う事でこれしか‥‥」 資料は聞き込み内容を纏めた物と、助次の屋敷の間取り、周辺の情報等だ。 「蔵があるのね。でも蔵は狙わずに屋敷の中へ‥‥殺害現場は此処?」 「みたいだねえ」 庭に添った通路を奥へ行った場所。其処に赤い印がある。 蔵を避けたと言う事は、蔵の開錠を試みるよりも楽で確実な場所を狙ったとも考えられる。 「後は、不審人物の目撃情報とか‥‥あったみたいね」 「だな。それに、助次は宝珠購入後、自慢してたみたいだ。『この宝珠は損所そこらの宝珠じゃない』って‥‥」 連ねられる文字を見ながら、2人は重要そうな情報を拾い上げてゆく。 「如何も、貴重品に手をつけてないと、盗まれた管狐が無関係とは思えないんだよなぁ」 氷はそう呟くと、他にも情報は無いかと資料を捲り始めた。 ● 「まずは、あそこで聞くか」 将門はそう言うと、港で荷を下ろす青年に歩み寄った。 その後ろを嘉栄、緋那岐が続く。 「少し聞きたいんだが、宝珠を扱う商人とか知らないか?」 「宝珠?」 「そう、宝珠」 ニッと笑った将門に青年の目が動く。 「おいらの親方がそうだよ」 「親方?」 緋那岐の声に商人風の男が指差された。 額から左目に掛けて大きな傷を持ち、全身に貴金属を付ける、パッと見、堅気とは思えない男がそこには居た。 「あれ、ヤバいで」 思わず上がった管狐の声に、嘉栄が慌て口を塞ぐ。 「まあ、話だけでも聞いてみよう」 将門はそう言うと、男に歩み寄った。 「すまないんだが、少し良いか?」 「何ぞ、わしに用か?」 男は脂ぎった腹を撫でて問う。 「宝珠を売りたいとかって人間がこなかったか?」 「あとは、宝珠を売るなら何処がある?」 将門と緋那岐の問い。 此れに男の眉が上がった。 「宝珠‥‥買うも売るも色んなルートがあるぞ。何じゃい、お前さんら何を探っとるんじゃ」 この声に将門が助次の話を例として、宝珠の盗難事件等が起きていないか訪ねた。 此れに男が唸る。 「宝珠は無いのぉ。ただ‥‥」 「ただ?」 「金品目的の窃盗なら相次いでおったという話じゃ。わしは商人じゃ。そうした輩の情報は随時仕入にゃならん」 「おった‥‥って事は、今は無いのか?」 「これ以上はタダでは教えられんのぉ」 男はそう言うと、商品の1つを手に差し出してきた。 此れに将門が苦笑する。 「一つ貰おう」 「うむ。窃盗が続いておったのは、一週間位前の事じゃ。それ以降はピタリと止まってしまったそうじゃぞ」 ――一週間。 助次の事件はその間に起きている。 2人は顔を見合わせると、男から商品を買ってこの場を離れた。 次いで訪れたのは、宝珠が落ちていた場所だ。 「この辺りで何かを探してる人間に気付かなかったか?」 真剣な面持ちで近隣の家を訪ね歩く将門。 そんな彼と少し離れ、緋那岐は新たな情報を手に入れようと管狐に詰め寄っていた。 「洗い浚い吐け」 「な、なんやのん‥‥」 「些細な事でも良い。狙われる心当たりとかはないか?」 緋那岐の真剣な眼差しに、管狐がたじろぐ。 「こ、心当たりなんてないわい。御主人は真面目だったんよ‥‥」 「じゃあ、些細な事でも良いから気付いた事とかないか。吐いたら後で飯を奢ってやる‥‥かも?」 「かもってなんやのん。せやけど‥‥」 管狐は長い尾を揺らすと、緋那岐を見て声を潜めた。 「犯人は初め、馴れた泥棒やと感じたんよ。せやけど、御主人を殺した後は‥‥なんや、素人みたいになっとったわ」 そう言った後、管狐は寂しそうに耳を下げ、嘉栄の肩の上で丸くなってしまった。 ● 円秀は事前の情報を頭に市場を訪れていた。 「事件場所に直接入れなかった以上、聞き込みをするしかなさそうですね」 現場は調査中で封鎖。 事件は窃盗と殺人の両方で調べられているらしいが、解決には至っていないらしい。 「なら、俺は酒場辺りに行ってこよう」 「では私は助次の人となりを聞きに、市場を歩いてみましょう」 言って互いに頷き合うと、2人はこの場を離れた。 見た目が派手で、人目を惹く靖は、酒場に入ると同時に客の目を集めたようだ。 しかし彼は、それを気にもせず中を見回すと、隅の方で酒を飲んでいる男に目を止めた。 「よう、前良いかい?」 言って腰を据えると同時に、少し高めの酒を頼む。 そうして酒が届くと、男の猪口に酒を注ぎ、自分も一杯口に運んだ。 此れに黙していた男が口を開く。 「何か?」 「なんでも蒼く光る宝珠があるそうじゃないか、あるなら高値で購入したいと思ってるんだけど心当たりないかね」 貴金属が好きな道楽者。そう見える様、振る舞いつつ問う。 「蒼い宝珠、か‥‥昨今は珍しい宝珠もあるが。此れと言って当て嵌まる物は無い。だが‥‥」 そこまで言って男は声を潜めた。 「最近殺された開拓者。如何も奴の屋敷から宝珠が盗まれたらしい。結構高値で売れる代物だったらしいぜ」 「へぇ‥‥宝珠が‥‥」 靖はそう呟きつつ、酒を煽った。 助次の事件は此処まで詳細に流れているのか。となれば、犯人はさぞ生きた心地がしないだろう。 「ちなみに、腕利きで金に困ってる奴や、最近様子のおかしい奴はいないか?」 「何だか物騒な事を聞いてきやがるな‥‥まあ良い」 教えてやる。 男は美味い酒に上機嫌になり、持っている情報を話し始めた。 一方、円秀は聞き込み内容に僅かな息を漏らしていた。 「人当たりも良く、仕事も真面目にこなす御仁‥‥それは、惜しい方を亡くしましたね」 先程から耳にする助次の話は、どれもが良い。 中には商品を凄く値切られたという話もあるが、それでも助次を悪く言う者はいなかった。 「交友関係も良好‥‥問題のある人物も周囲にいない、ですか‥‥」 困りましたね。 そう呟いた時だ、靖が戻って来た。 「お帰りなさい。如何でしたか?」 「まあ、上々かな」 そう言うと靖は、酒場で手に入れてきた情報を円秀に話した。 ● 夕暮れ時、広場には数名の開拓者が戻って来ていた。 「人の多さに酔ったりしてないかい、嘉栄ちゃん?」 氷のこの声に、嘉栄はすんなりと頷きを返す。 そして其れを確認してから、情報の照合が始められた。 「情報としては、宝珠を拾った付近で『坊主のひょろっとした男』が目撃されてるらしい」 そう語るのは将門だ。 男の発見時期は、嘉栄が宝珠を発見した時期と重なる。 「聞いた感じ、自身の意思で犯行を行ったのか、他の誰か、第三者に頼まれたのか。どっちだろ」 ただの物取りでない可能性もあるし、物取りである可能性も高い。 「それに、売り払って金にするだけなら、ともかく――てまぁ、それも良くない事だけど。別に目的があったとしたら?」 「確かに俺もそれは引っ掛かっていた。宝珠奪取は単純に換金目的か否か‥‥換金目的なら管狐の宝珠が唯一無二ではない。それに、盗品を売りさばく必要を考えれば仲間の有無も気になるな」 腕を組む緋那岐に続き、将門も腕を組んで考え込む。 「そも、態々腕利きの開拓者のモン狙ってどうするよ」 「まあな。助次に油断があったとしても腕利きの志体持ちの可能性が高い」 其処まで聞いて緋那岐の顔が上がった。 「でも、人を殺したのは初めてかもしれない」 盗んだ後の犯人の挙動を考えればそうなるだろう。 「こっちでは、頻繁に起きていた窃盗事件が納まったって話を聞いたわね。あとは此れ‥‥」 珠樹が差し出したのは、助次の屋敷の間取りだ。 ギルドを出る際に転写させて貰い、必要な情報も映してきた。 「窃盗が止まったって話は、こっちでも得てる。商人たちの間でも話題になってたみたいだ」 将門はそう呟くと、集まった情報に視線を落とした。 そこに靖の声が響く。 「助次の事件も流れていたよ。あと、さっきの証言と同じ、禿げた長身の男が怪しいね」 「そして、その男性が住職である‥‥とか」 情報を照らし合わせた後、円秀は改めて聞き込みをした。 そうして浮かび上がって来たのが『何処かの寺の住職』と言うものだ。 「怪しいのはこの人物、かねえ」 氷のこの言葉を受け、円秀が頷く。 「でしょうね。取り敢えず、今日はここまでにして一度解散‥‥と言うのは如何でしょう?」 これを受け、夜も近いと解散になった。 そして帰ろうとした頃、嘉栄を呼び止める声があった。 「下宿先まで送るわ。もしかすると、犯人が出るかもしれないし」 嘉栄は珠樹の心遣いに笑みを零すと、彼女と共にこの場を後にした。 |