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■オープニング本文 「作物が荒らされて収穫に難が出そう‥‥そう云う事ですね?」 天元 恭一郎(iz0229)はそう口にすると、農夫らしき男の言葉に耳を傾けた。 「この様なお話をお聞かせするのは心苦しいのですが、開拓者ギルドが当てにならず、私達では如何にも出来ませんので‥‥」 「構いません。皆さんが安心して暮らせる場を護る‥‥それも、僕達の――いえ、『彼』の願いですから」 恭一郎が言う――彼――とは、真田悠の事だ。 日頃から彼と共に行動し、彼の為になる事をと動く恭一郎にとって、民衆の願いを聞くことは当然の事だった。 「事前に分かっている事があれば、聞かせて下さい」 「あ、はい」 被害はここ数日の事だった。 夜になると何処からともなく足音が響き、畑を荒らす音がするのだという。 そして朝になると、畑の作物は壊滅。 大地は薄気味悪い気配に覆われ、簡単には耕せなくなっているらしい。 「実際に、外に出て確認はしたのでしょうか?」 「はい。若いのが数名、様子を見に行っております」 状況は? そう問う彼に、農夫は頷く。 「腹の膨らんだ子供が畑を歩いていたらしいのです。手には家畜らしきモノを持っていて、それを目にした若いのは急いで逃げたそうです」 「賢明ですね」 どうやら被害は畑と家畜だけに留まっているらしい。 もし荒らしている犯人がアヤカシなら、いずれは人間を襲い、それを食べるだろう。 だが気になる事がある。 「アヤカシが人間と同じ物を食べるとは考え辛いですね。何か裏が‥‥」 思案気に視線を落とした彼に、農夫は「わからない」と言った様子で首を横に振った。 それを見止めて彼の首が縦に動く。 「何にしても退治はするべきでしょう。お任せ下さい、数日の内には解決します」 そう言った彼に、農夫は至極喜んだ様子で表情を綻ばせると、頭を下げたのだった。 ●燻るは餓鬼 農夫の言葉を頼りに、恭一郎は数名の開拓者を連れて、教えられた畑に来ていた。 頭上に浮かぶのは三日月で、そこには薄らと雲が掛かっている。 「もうすぐ足音を聞いたという刻限ですね‥‥今日も来ると良いですが」 恭一郎は口元に手を添えて視線を落とすと、周囲の音に耳を澄ませた――と、そこに土を踏む音がする。 「――‥‥静かに」 彼は声を潜めると、畑の奥に視線を這わせた。 僅かな月明かりの元、楽しげに畑を舞う小さな影。 右に左に踊る姿は一見すればただの子供だ。 しかしその姿はほぼ裸。そして腹は大きく膨れて異様な雰囲気を醸し出している。 「餓鬼ですね‥‥退治は容易ですが、他にも潜んでいる可能性があります」 そう口にして、此処の他に2つ、無事な畑がある事を告げた。 その上で言う。 「人手を3つに分けましょう。但し、人手を分ける以上、今以上に慎重にお願いします。畑が瘴気に侵されていた‥‥この状況が、如何も気になるのです」 他にもアヤカシがいるのか、それとも瘴気を生める何かを持っているのか。はたまた、目に見える以上の数の餓鬼が潜んでいるのか。 いずれにせよ、調査し、解明する必要がある。 「何か手がかりがあれば良いのだが‥‥」 呟き、人手を分けようとした時だ。 彼の目に複数の足跡が入った。 それは子供のように小さい物から、大人の足と同じくらいの大きさの物まである。 しかも、そのどれもが裸足で、田畑を耕す者達のモノとは違うようだ。 「‥‥新手と数を視野に入れた方が良いな」 そう呟くと、恭一郎は改めて人員を3手に分けた。 「何かあれば逃げる‥‥若しくは、助けを呼ぶなどの対処をして下さい。決して無理はしないように‥‥此れが、僕からの願いです」 では、行きましょう。 そう言った彼に従い、皆はそれぞれの畑へと足を向けたのだった。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
ジルベール・ダリエ(ia9952)
27歳・男・志
針野(ib3728)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 夜の闇の中、天元 恭一郎(iz0229)は声を潜めて言う。 「何かあれば逃げる‥‥若しくは、助けを呼ぶなどの対処をして下さい。決して無理はしないように‥‥此れが、僕からの願いです」 この声を聞き、キース・グレイン(ia1248)は「ふむ」と息を吐く。 「皆が安心して暮らせる場を護る、か。それには俺も、協力を惜しむつもりはないな」 だが‥‥と、キースは眉を潜める。 「真田と、真田の願いと‥‥征四郎と。恭一郎の本心は、何処にあるのだろうな」 呟き考えるが答えは出ない。 何せその答えは恭一郎の中に仕舞われているのだから‥‥。 そして彼女と同じく眉を潜める志藤 久遠(ia0597)は、現状を危惧する恭一郎の声に、別の思いを馳せていた。 「先日のアヤカシの卵といい、瘴海が残した言葉といい、どうにもここのところ妙な違和感がつきまといますね」 視線の先には恭一郎が発見したのと同じ足跡がある。子供のような足跡と、大きな足跡。 個体だけではない情報と、事前にもたらされた情報は、彼女の中で僅かに危機感を生む。 「こちらが成長するように敵も成長している、ということなのか」 思考を巡らし呟くが、直ぐに答えの出るものでもない。久遠は小さく息を吐くと、ふとその目を同行者の1人――針野(ib3728)に向けた。 「餓鬼だけなら、なんとかなりそうな気もするけど‥‥」 針野は誰の耳にも届かないであろう小さな声で呟くと、直ぐに頭を振った。 「――いや、なにが出るか分からんもんね。油断は禁物、慎重に行きましょう!」 油断大敵とは良く言ったもの。 針野はグッと拳を握ると決意も新たに顔を上げた――と、その目が久遠と合う。 「ええ、気を抜かずにまいりましょう」 微かに笑んで零された声に、針野の頬にサッと朱が差す。それを誤魔化すように腕を振ると、彼女は改めて拳を握り、頷きを返した。 この遣り取りの外――僅かに皆と離れた場所で、羅喉丸(ia0347)は記憶にある苦い思いを一掃するよう目を伏せていた。 「この拳で何かを守れるのならば‥‥」 口にして瞼を上げる。その先に在るのは握り締めた自らの拳だ。 「――何よりではないか。武をもって侠を為さん」 更に拳に力を込めて顔を上げると、彼の肩を叩く感覚があった。 「羅喉丸さん、今回はよろしゅう頼むな」 「此方こそ、よろしく頼む」 1人決意を固める羅喉丸に気付いたのだろう。ジルベール(ia9952)が気さくに声を掛けてくる。 其れに頷きを返すと、彼は先程得た情報を交えて口を開いた。 「足跡が複数ちゅーんが気になるな」 「ああ、他にも何か居ると考えるべきだろう」 「せやな。何が起こるか分からんし、用心してかかろうか」 此の声に頷き、羅喉丸は一度皆の元に戻るのだが、その時聞こえてきた声に、彼はジルベールと顔を見合わせた。 「正直、瘴気が残っている理由がわからない」 こう言葉を零すのはからす(ia6525)だ。 彼女は思案気に目を落し、頭の中で情報を整理する。 「『餓鬼が生みだしている』のか『餓鬼以外のアヤカシがいる』のか、それとも‥‥」 彼女は小さく息を吐き、残る可能性に眉を潜める。 この場合において最も良くない状況は、先に上げた2つの状況を足した物。つまり―― 「『瘴気を生みだす程大量のアヤカシがいる』か」 悪い状況を想定し動く事は悪くない。 何かあった時に即時に対応する事が出来るからだ。 「高位のアヤカシが餓鬼を率いて何かやっている可能性もある」 そう口にする羅喉丸に、ジルベールも同意する。 「それやったら散開する前に、有事の合図や対処を決めておこうや。それこそ、何があってもええように」 「なら、わしに案があるよ」 針野はそう言うと、3種類の狼煙銃を取り出した。 何かあった時、狼煙銃の色で合図を行うと言う。 「最悪、非情に危険な場合は呼子笛を鳴らす」 どうだろう? そう首を傾げた彼女に反対の意見は出なかった。 「それじゃあ、そろそろ行こうか」 餓鬼は既に畑で遊んでいる。此れ以上の被害は避けるべきだ。 キースはそう口にすると、自らが対処すべき畑に向かった。 ● 微かな月明かりを受け、からすは身の丈の倍以上はあろうかと言う弓を構えていた。 「さて、何処にどれだけ居るか‥‥」 呟き弾くのは空気を震わす音色。 自身の耳にだけ届く音色に耳を澄ませ、彼女の赤い瞳が闇を探る。 「前方、畑の上に1体。脇に3体、此方に向かうモノが2体‥‥計6体が周辺にいると出た」 方角、数、敵までの距離、全てを告げた後、彼女の表情が曇る。 「如何されました?」 恭一郎はそう問いながら、前方より響く音に踏み込みを深くする。その様子に目を向けると、からすは小さく唸った。 「‥‥1つ、読み切れないモノがあった」 「餓鬼が暴れ回っただけで瘴気が充満するとは、考え難い。足跡からして、他の何かがいると考えるべき‥‥つまり、その考えるべき相手が潜んでいるかもしれないって事か?」 キースの声にからすが頷く。 可能性はあくまで可能性。しかし読み切れないモノがあり、危険性がある以上、可能性を完全に否定する事は出来ない。 「‥‥まずは、あの1体を此方に寄せて倒してしまおう。恭一郎は心眼を使って、からすの言った存在を感知したら教えてくれ――からす、頼む」 キースは拳に巻いた布を握り締め、戦闘の構えを取る――と、それに合わせてからすが弓を構えた。 「見えずとも撃つ頃は出来る」 零した声と共に闇に矢が消えてゆく。其れを見送り、からすは新たな矢を手にする。 矢は闇を抜け、餓鬼へと迫った。 そして踊る腕を射抜き、注意を惹く事に成功する。だが、敵が3人の元に到達するよりも早く、別の存在が彼女たちの前に現れた。 「キース殿、前方に新たな存在を感じます」 恭一郎の声に目を凝らす。 闇に慣れ始めた目は、新たな餓鬼を捉えた。 その数は、先程からすが感知したのと同じだ。 「もう来たのか‥‥」 キースはそう呟き、大地を踏み締めると自身の筋肉に力を注ぐ。そうして息を吸い込むと、彼女は天高く声を上げた。 まるで獣の雄叫びのような声に、畑に侵入を果たした餓鬼が一斉に向く。すると、彼女はそれを目にして一気に駆け出した。 本来なら瘴気に侵されている可能性のある畑に入るのは憚られる。しかしそうも言ってられない。 恭一郎はそんな彼女に加勢をし、何とか一体ずつ敵を倒してゆく。 「埒が開かぬな」 その様子を視界に留めていたからすが、ぽつりとつぶやいた。 彼女は徐に複数の矢を手にし、全てを弓に番える。 そして―― 「キース殿、恭一郎殿、そこを退かれい!」 凛っとした声に、キースと恭一郎が後方に飛ぶ。直後、凄まじい勢いで矢が放たれた。 まるで雨のように降り注ぐ矢が、次々と餓鬼を撃ち抜く。 そして討ち零れた存在を、キースと恭一郎が滅すると、不意に彼の目がキースを捉えた。 「其処を動きませんよう」 放たれた声に彼女の目が見開かれ、次の瞬間、頬を鋭い風が通り過ぎた。 恭一郎の槍が彼女の後方を突いたのだ。 ドサリと音がし、何かが土の上に転がる。その音に振り返ると、キースは表情を引き締めて頬に浮かんだ朱の線を拭った。 「ほう、此れが大きな足跡の正体か」 からすはそう口にすると、狼煙銃を抜いて夜空にそれを放った。 ● 闇に登る白の狼煙。 其れを目にした久遠と針野は、僅かに眉を潜めて武器を握り締めた。 「新手が出ましたか‥‥っ、危ない!」 久遠は巨大な穂先を振り上げると、重力のままに振り下ろした。 それが針野に迫った餓鬼を吹き飛ばす。 「術を使う時は周囲に注意して下さい」 「ごめさね‥‥でも、わかった事があるんよ」 そう言いながら彼女は天儀弓を構える。 そして矢を番えながら背を合わせると、周囲に集まった餓鬼を見た。 「敵の数は全部で5体‥‥幸いー言ったらおかしいけど、餓鬼はこっちに集まって来てるんよ」 「それは好都合ですね。確実に1体ずつ片付けて行きましょう‥‥せいやっ!」 2人が畑を訪れた時、彼女たちは気配を殺していた為に敵に発見されなかった。 しかし、索敵を始めた瞬間、彼女たちの存在は敵に知られた。 嗅覚、それとも聴覚なのかはわからない。ただ確実なのは、敵は彼女たちに気付き、襲い掛かって来たと言う事。 「鎧は外してきたと言うのに‥‥如何云う事なのでしょう」 考えれば考える程わからなくなる。 しかし今は、目の前の敵を討ち払う事に集中すべきだ。 久遠は出来るだけ力の消費を抑える様に立ち回る。そうした動きに、彼女が携帯した丈身槍は大いに役立った。 空気を揺らして振り切られる穂先は、手首の動きに合わせて自在に軌道を変える。反動を利用している為、その時の動きも最低限の物だ。 「此れで終いです」 ザッと土を踏み、一気に穂先を突き入れる。 この動きに餓鬼は、否応なしに吹き飛び、彼女は迷う事無く止めを刺した。 そこに針野の声が響いてくる。 「これから収穫期だってのに、なんちゅーことをしてくれるさー!」 彼女は番えた矢に力を送り込むと、瞳を眇めて射った。 放たれた矢は、霞のようにその身を揺らして迫る。軌道の読めぬ攻撃に戸惑う餓鬼。それをを射抜くと、彼女は迷わずもう一矢放った。 「お見事です」 敵は見事に地に伏し、其れに久遠が声を掛ける。と、そんな彼女の目が地面に落ちた。 複数に存在する足跡は、今の戦闘でついた物ばかり。 しかし―― 「! 針野殿、急ぎ鏡弦を!」 「りょ、了解だよー」 針野は訳も分からず、周囲を探る術を放つ――と、彼女の顔にも驚きが浮かんだ。 「久遠さん、あそこ‥‥小屋の隅に何か居るよ」 「あれは‥‥」 久遠はそう口にするのと同時に、狼煙銃を放っていた。その色は白。 2人は狼煙の行方を見届ける事無く戦闘準備に入る。 三日月の仄かな明かりを受けて姿を現した巨大な存在に、久遠が真っ先に大地を蹴った。 其れに合せて針野が矢を放つと、巨大な存在の足を射抜く。 途端に上がる雄叫びを耳に、久遠は相手の間合いに入り込む。 そして―― 「見極めさせて頂きます」 言うが早いか、彼女は素早い二太刀を巨体に叩き込み、先手を取った。 ● ジルベールは、畑の傍に建てられた小屋の隅に身を潜めながら、2つ目の狼煙を見ていた。 「白、か‥‥向かいたいのは山々なんやけど‥‥な」 呟き、やや大型の弓を構えて弦を弾く。 耳に響き、肌に感じる振動。そこから伝わるのは周辺に潜む敵の存在。 「羅喉丸さんが抑えてくれた敵が3体‥‥残る3体もどうにかなりそうやけど」 ジルベールは己が目を眇めると、静かな動作で弓を持ち替えた。 窺うのは羅喉丸が居る畑。 彼は注意を惹くために自身の傍に松明を立て周囲を照らしている。 「狼煙は白。自分達で対処できると判断したか。ならば――」 羅喉丸は身軽な動作で1体の餓鬼を惹きつけると、注意深くその身を探った。 「――此処か!」 踏み締めた足を軸に、敵の懐に入る。 直後、彼の膝が餓鬼の胸を突き、反動で浮き上がった体を、軸足とは別の脚が突いた。 そして彼の足が地面に着くと、餓鬼はあまりにもあっさり大地に伏したのだった。 「残るは2体か。格下と侮らず、堅実に」 羅喉丸は自身に言い聞かせるように呟くと、次の存在に向き直った。 羅喉丸の言う様に、「目に見える敵は」2体。それはジルベールも承知している。 「あいつも元々はどっかで生きてた人間の子やったんやな」 羅喉丸が対峙する2体の餓鬼を視界に、ジルベールが呟く。 胸中に渦巻く複雑な思いに目が一瞬伏せられるが、其れは直ぐに消えた。 「倒せば、救われるんや」 本当の意味で「終わり」を迎えれば、彼の存在も無へ還るだろう。其れを救いと信じて、彼は弓を構える。 淡い桜色の光が彼の手を、そして武器を包み込む。そうして矢を番えた瞬間、彼の手から桃色の軌跡が放たれた。 真っ直ぐに、幾重にも枝を伸ばして進む矢が貫くのは、餓鬼の膨らんだ腹。 そしてその攻撃に気を取られた残る1体を地面に伏すと、羅喉丸は息を吐いた。 だが―― 「羅喉丸さん、もう1体いるで!」 「!」 頬を掠めるように突き抜けた矢が何かを突いた。 振り返った先に居たのは、自身の背を越える身の丈を持った存在――鬼だ。 「大きな足跡の正体‥‥ジルベールさん、時間は俺が稼ぐ」 その間にコイツを―― 羅喉丸はそう言葉を添えると、逆五角形の盾を構えた。 其処に痛烈な一打が加えられる。 「っ、‥‥」 仄かな気が立ち昇り、羅喉丸は自身の防御を高めてゆく。 彼はジルベールに攻撃の隙を与える様、攻撃を受け続けるつもりらしい。 「無理しはる」 呟き、ギリギリまで弦を引く。攻撃の機会は見逃さない。 ジルベールは瞳を眇め―― 「――狙うは、此の場所‥‥、‥‥!」 羅喉丸の脚が、敵の急所を見極め蹴り上げた。 次の瞬間、敵が大きく揺らいぐ。 ジルべールは一瞬の隙を見逃さなかった。 迷いも無く放った矢が、敵の急所を射抜く。 そうしてゆっくり崩れ落ちた存在を目に留め、彼は他に潜む存在は無いか、確認したのだった。 ● 餓鬼が居なくなった畑は、実に静かだった。 ジルベールは地面に落ちた物を見て、眉を潜める。 「それは?」 「餓鬼が持ってたもんや‥‥鶏、やな」 羅喉丸の声に、頭の無い鶏を持ち上げて見せる。 「こいつも、供養してやらんと」 言って腰を上げた彼に、羅喉丸も同行する。 そして彼らの傍では、針野が畑に残る瘴気の気配を静かに見ていた。 「ここは‥‥そうでもないんね」 触れた土に残る瘴気は、然程濃くない。 ただ、餓鬼に荒らされたせいか、全くと言う訳ではないのが悲しい所。 「此れならば、瘴気回収を開拓者ギルドや陰陽師等に頼めば、畑も元に戻るかもしれないな」 からすはそう言い、皆に茶を勧めた。 だが気になる事はある。 「出てきたアヤカシの数が多い。何かあるのだろうか」 「そうですね。あまりに活発過ぎます」 からすの声に頷き、久遠が呟く。 ここ最近のアヤカシの動きは頻繁だ。神楽の都周辺での事件も多い。 全てが無関係と括るには早計過ぎる気がする。 思案する久遠、其れに習う様に皆が思考を巡らせていると、別の畑を見に行っていたキースが戻って来た。 「瘴気は放っておくとアヤカシの発生源になりかねないからな‥‥瘴気さえなくなれば、復旧の手伝いも出来るんだが」 他の畑も此処と同じ。 無事とは言い切れないが、作物はある程度無事だった。 皆で手を合わせれば最低限の収穫は見込める筈だ。 「先程、からす殿が仰っていたように、知り合いの陰陽師に声を掛けてみましょう。瘴気に対しては何か改善するかもしれません」 恭一郎はそう口にすると、からすから茶を受け取り、思案気に目を細めたのだった。 |