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■オープニング本文 ●清誠塾(しゅんせいじゅく) 『力が欲しいのなら手を貸そう』 こう、汚く、形の整わない文字で文が届いたのは、数刻前の事。 東堂派数名の浪志を前に、東堂・俊一(iz0236)はこの文を開示すると、緩く口角を上げた。 「嘆かわしい事ですね。このような手に誰が引っ掛かると言うのか‥‥」 文に差出人の名は無い。 だが、東堂にはこの文の差出人に思い当たり部分がある。 「先生、この文の差出人は俺たちの目的を――」 浪志の1人、チェン・リャン(iz0241)が思わず口を開く。それを人差し指を唇の前に添える事で遮ると、東堂は緩やかに笑みを湛えた。 何処で誰が聞いているのか分からない以上、不用意な言葉は控えるべき。そう言外に示すと、彼は己が目を障子の外へと向けた。 「――力が必要なのは確かですが、得体の知れない者と手を組む必要はありません。私達は私達の力で事を成す‥‥その為にも民に私達の存在を知って頂かなければなりません」 「そうですね‥‥民衆の中には、未だ力のある者への偏見もあると聞きます。ですから、出来るだけ野蛮な事は避けたいですね」 戸塚小枝は恭しい言葉で東堂に進言する。それを耳にし、彼の目が小枝を捉えた。 「私達の力は何も力を持たない者からすれば異端です。そして購う事の出来ない強大な力でもあります。不安に思い、恐怖心を抱いても不思議ではないでしょう」 それに‥‥。と、東堂は言葉を止めると息を吐いた。 力ある者達が集団を形成する。それは彼の言う力のない者には脅威でしかない筈。ましてやそうした集団が力を見せれば、やり方次第では印象を悪くさせかねない。 「ではこうしましょう。数日の内に私の私塾――清誠塾にて小規模ですが祭りを開きます。そこに一般の方も招待しましょう」 「お待ち下さい。確かにその方法であれば、民衆の不信感は拭えましょう。しかし、その怪しい文は如何なさるおつもりです?」 こう進言したのは真坂カヨ(iz0244)だ。 彼女は東堂の元で私塾を手伝ってくれている人物でもある。故に、東堂も彼女の言葉には少なからず信を置いていた。 「人が集まれば文の差出人も、都に蔓延るアヤカシも自ずと集まって来るでしょう」 「‥‥陽の気を発し、陰の気を集める――そう云う事で御座いましょうか」 このカヨの声に東堂は頷く。 「表向きは民を楽しませるために。その陰で、悪しきモノを出来る限り滅してしまいましょう。陽の気を集めた後であれば、多少の陰の気は目を瞑って頂けるはず」 「ですが、それだと私達だけでは些か人数が‥‥」 「それは問題ありません」 そう、東堂が口にした時だ。 廊下を真っ直ぐ歩いてくる音がする。その音は部屋の前で止まり、やがて緩やかに戸を叩く音へと変じる。 「東堂先生はおられますか」 声に次いで姿を現したのは、真田悠に近い人物――天元 恭一郎(iz0229)だ。 彼は私塾の奥に集められた面々を目に止めると、僅かに眉を顰め、直ぐにそれを正した。 「呼ばれて来てみれば、随分と仰々しい様子ですね。僕が来ても良かったのでしょうか?」 「ええ、態々足を運んで頂いて申し訳ありません。実は、恭一郎君に頼みたい事がありまして」 「東堂先生が、僕に頼みごとを‥‥?」 珍しい事もある。 そう眉を潜める彼に、東堂は穏やかに微笑んだ。 「先日、餓鬼の集団を退治したと聞きました。ぜひ、その続きをして頂けませんか?」 恭一郎は先日、餓鬼と鬼を同時に退治した。 ただその際に気になる部分があったらしく、彼はその退治以降も色々と動いていたようだ。 東堂はそんな彼に目を止めた。 「‥‥何か当てでも?」 「ええ、貴方にとって、真田君にとっても悪くない話だと思いますよ」 そう囁くと、彼は文の話は伏せ、祭りの裏でアヤカシを誘き寄せるという策を話し始めた。 ●私塾裏 恭一郎は東堂から与えられた情報を元に、私塾の周囲を歩いていた。 東堂が陰気の集まる場所として提示したのは、私塾の周辺に在る路地4カ所。 確かに薄暗く、夜になれば人目にも付かず隙も出来易い。アヤカシが何か事を起こすとすれば、この場所を侵入経路として選ぶはず。 しかし―― 「何故、アヤカシが来るとわかったんだ」 そう、東堂はアヤカシ襲来を前提として話を進めていた。それはつまり、確信があると言う事だ。 「東堂先生が根拠もなくこのような言動に出る筈がない。と言う事は、何か確実な情報があるのだとは思うが‥‥」 考えた所で答えが出る筈もない。 それに彼が示した情報は、確かに彼にとっても、真田にとっても良い物だった。 『周辺住民は、今や都に蔓延るアヤカシに怯えています。それは真田君にとって由々しき事態。勿論、私にとってもそうです』 違いますか? 東堂はそう問いかけ、言葉を続けた。 『私達の目的は同じ――民を危険分子から護り救う事。誰もが安心して眠れる夜を迎える為に、是非とも力を貸して下さい』 ――誰もが安心して眠れる夜を迎える。 それは真田の理想に近い。 そして真田ならば彼の言葉を受け入れ、行動に移すと考えた。 だからこそ恭一郎は東堂の言った陰の箇所を巡っているのだが、不意に彼の足が止まった。 「これは‥‥」 僅かに濃い瘴気が漂っている。 何か強い存在がこの場所に居たと言う事だろうか。 「瘴気が残る程の存在。時間が然程経っていないにしても、妙だな」 場所は私塾の真裏。 塀を越えれば其処には東堂の部屋がある。 「‥‥確証、か」 「恭一郎さん、言われた物が見つかりましたよ」 思案気に視線を落とした彼の耳に仲間の声が届く。 それに目を向けると、近くの路地に転がっていたと言う物を彼は差し出してきた。 「鶏‥‥間違いないですね。この近辺に先日の餓鬼がいる証拠です」 恭一郎はそう言うと、首のない鶏を見、私塾の東堂の部屋がある部分を見据えた。 「‥‥今は民を優先し貴方の言う通りに動きましょう。癪、ですがね‥‥」 呟くと、彼は増援を手配するのと同時に、更なる情報を集める為に動き始めた。 |
■参加者一覧
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
孔雀(ia4056)
31歳・男・陰
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
龍馬・ロスチャイルド(ib0039)
28歳・男・騎
リリア・ローラント(ib3628)
17歳・女・魔
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟
ベルナデット東條(ib5223)
16歳・女・志 |
■リプレイ本文 私塾の頭に陽が昇る頃。 普段は時折子供たちの声が響くだけの静かな通りに、賑やかな声が響いていた。 「これは賑やかですね」 龍馬・ロスチャイルド(ib0039)は眩しげに目を細めると、微かに唇に笑みを乗せた。 「この盾がこの人達の笑顔を護る‥‥」 騎士に憧れジルベリアへ渡った自分を養子にしてくれたロスチャイルド家。其処の人々のオンに報いる為にも、学んだ騎士道を存分に活かさなければ。 「あの人達に余計な心配はかけたくないですからね」 彼は翼竜の紋様が描かれる盾を一瞥すると、表情を引き締め、目の前に在る笑顔を見詰めた。 其処に静かな足音が近付いてくる。 「雪斗さん、お疲れさまです」 「ああ、お疲れ‥‥随分と賑やかだね」 振り返った先に居たのは、女性と相違ない容姿をした青年――鞍馬 雪斗(ia5470)だ。 彼は龍馬に頷きを返し、祭りの会場を見る。 その上で自らが着た場所、路地の先を見て息を詰めた。 「‥‥祭りを邪魔させる訳にはいかないが‥‥此方も、一筋縄ではいかなそうだな‥‥」 此れから起こるべき事態を想定し、思わず呟く。 「ええ、頑張らねばなりませんね」 「そうだね。出来る事をやれるだけ‥‥それしかないね」 雪斗は龍馬の声に頷いて見せると、ふと自身に駆け寄る子供の姿に気付いた。 「お姉ちゃんは、お祭りに行かないの?」 屈託なく笑い掛けるのは東堂の私塾の生徒だろうか。幼い期待の眼差しに思わず目を瞬く。 「いや、自分は――」 「君は東堂先生の所の子かな。如何かしましたか?」 「あ、恭兄ちゃん!」 ぱあっと表情を明るくして駆け寄った先に居たのは天元 恭一郎(iz0229)だ。 彼は子供の体を受け止めると、頭を撫でて龍馬と雪斗を見た。 「残るはお2人だけです」 他の皆は既に路地裏に集まっている。 そう言葉無く告げる彼に頷くと、2人は目礼を向けて路地に入って行った。 その背に、今別れたばかりの子供の声が聞こえてくる。 「恭兄達はお祭りに‥‥そっか。それなら、後で来てね!」 この声を聞きながら、ふと雪斗の目が落ちた。 「出来る事をやりきるだけ‥‥か」 出来る事、出来ない事。それらを見分けるのは大変な事だ。そしてそれをやりきれるかどうかは、本人の努力に掛かっている。 雪斗は自らの手を握り締めると、約束の場所に足を踏み入れた。 「あ、雪斗ちゃんに龍馬ちゃんも。こっちだよー!」 訪れた2人を見て声を上げたのはアルマ・ムリフェイン(ib3629)だ。 「表は凄く賑やかだったね。はい、これが周辺の地図だよ」 言って差し出したのは、アルマお手製の地図だ。 手帳の空きページを使って書いた地図には、出来るだけ詳細な絵と文字が刻まれている。 「俺もこの近辺は歩いてきたが、良く出来た地図だ」 「今ね、どうやって分かれるかを話してたんだ。僕と竜哉ちゃんがこの路地を担当して――」 竜哉(ia8037)の声に嬉しそうに笑うアルマは、私塾の裏手に当たる路地を指差した。 その路地は距離的に1番長く見える上、私塾側面の路地と交差する他、もう1つ路地らしきモノがある。 「ここは?」 「ここは罠を張って警戒かな。そこまで人が割けそうもなくて」 言葉と共に項垂れた狐耳に、問いを向けた龍馬が慌てて首を横に振る。 「い、いえ、人手が足りないのは仕方がない事ですし。それよりも他の班は如何なっているのですか?」 「あ、うん。それなんだけど――」 素直で感情が直ぐに表に出るアルマは、今下げたばかりの耳を立てると、笑顔で頷いた。 そうして紡ぎ出すのは他の路地を担当する者の名だ。 「私塾の側面に当たる路地2つは、キーちゃんと恭一郎ちゃんの班と、ベルナデットちゃん、孔雀ちゃん、それにリリアちゃんの3人班が担当だよ」 「残る民家を挟んで向こう側の路地。其処が鞍馬氏やロスチャイルド氏の担当だな」 言って、竜哉は預けていた背を塀から放し、視線を塀の向こうに在る私塾に向けた。 「‥‥疑念を持ったなら、持ったまま『時機』が来るまであえて踊らされていろ。下手に動けば、余計な血が流れるぞ――か」 ぽつり、零した声。 東堂に関し幾つか不審な点を見付けた竜哉は、敢えてそこには触れず、目撃されたアヤカシの撃破に重点を置く。 その行動の裏には、彼の持つ信念『一般人の生活を守る』と云うものがあるのかもしれない。 「竜哉ちゃん、罠の設置は路地の繋ぎ目で良いのかな? あと、鳴子も付けて良いんだよね?」 「問題ない。荒縄を張る高さ等も考えてあるのだろう?」 このアルマと言う少年。笑顔を絶やさず、天真爛漫な印象を受ける。 実際に天真爛漫で好奇心の赴くままに行動しているのだが、それが故にか、それとも彼の性格故なのか。 深い部分まで考えて行動している節がある。 「膝から足首の間くらいかな。1つだけじゃなくて、等間隔に張ったらどうかなって思ってる」 「それは良いな」 妙案だ。 竜哉は彼の提案に頷きを返すと、早速罠の設置に向かった。 その頃、同じく罠の設置で別の路地を訪れていた孔雀(ia4056)は、目の前で作業をする女性陣を前に口角を下げていた。 その理由は―― 「何よ、男が1人もいないじゃない」 確か、他の班には男がいた筈。にも拘らず、この班は女ばかり。 「あたしの美貌を邪魔するって程じゃないけど、どうせなら男と一緒が良かったわ」 そうぼやく彼には男色と言う趣向がある。故にこうした発言なのだが、それ以外にも彼の口角を下げさせる原因があった。 「これで良いかな」 「はわ‥‥これで、荒縄が切れたら、反応すように‥‥なってるんですね‥‥」 ベルナデット東條(ib5223)の設置した罠を見ながら目を瞬くリリア・ローラント(ib3628)。 2人はアヤカシの侵入に対し、出来るだけの罠を設置するよう工夫している。その姿は見ている側を穏やかなにしてくれる雰囲気だ。 だがこれを見ていた孔雀は違う。 「嗚呼、ムズムズする!」 喉を掻き毟る様にした彼の視線の先に居るのはリリアだ。 穏やかでおっとりとした雰囲気の彼女は、俗に言う『天然』と言う属性であるのだが、孔雀には如何もその『天然』部分が引っ掛かるらしい。 「普段何考えて生きてんのかしら天然って。んもう、化けの皮を剥いでやりたいわ」 苛々と紡ぎ出される声。 それとは裏腹にリリアはおっとりと作戦決行の準備を進めている。 「‥‥私塾は、お祭りで解放されてる‥‥から。中には沢山の人が、いる‥‥」 そう、塀を挟んで向こう側には、一般人が多く控えている。 「塀を越えさせないよう。最悪、東堂先生の部屋が、侵入経路にならないよう。そっちも、注意しないと‥‥」 そう口にして、1人頷く。と、その目が不意に瞬かれた。 そして、ニコリと笑んで駆け寄った先は―― 「な、何よ。来るんじゃないわよ!」 孔雀の元だ。 行き成り目が合い、駆け寄られた孔雀は若干引き気味に叫ぶ。しかし当のリリアは気にした様子もない。 「今回は、よろしく‥‥お願いします」 ぺこりと頭を下げて小さく笑う。 その様子に孔雀は口元を引き攣らせると、ふんっとそっぽを向いた。 「お願いされないでもやる事はやるわよ」 「はい。それにしても‥‥」 リリアはふと視線を彼の後ろに向けた。 その様子に孔雀の眉が上がる。 「首の無い鶏の死骸。かなりの出血があった筈、ですよね‥‥でも‥‥」 「血痕がない。とでも言いたいのかしら?」 確かに鶏の死骸があった場所に、血痕は無かった。 何処かに残っているのだとすれば、それを辿ればアヤカシの出所が分かるかもしれない。そう思っていただけに残念だ。 「首のない鶏ねえ。黒魔術や如何わしい宗教じゃあるまいし、一体何の意味があるのかしら」 「理由まではわかりませんが、先日、同じように上半身がない遺体が発見されました。それにはアヤカシが関わっていましたし、今回も無関係ではないと‥‥」 神楽の都を中心に起きているアヤカシ騒動。それが何処で如何繋がっているかは分からない。 それでも完全に無関係とは思えない。 ベルナデットはそう言葉を紡ぐと、視力を失っている左目を細めた。 「何れにせよ、祭りの夜に蠢く闇‥‥光るある場所へは通さない‥‥」 決意を込め呟いたベルナデットに、リリアはコクリと頷き、孔雀も頷きはしないまでも同意するように視線を路地の先へと向けた。 そして彼女たちと対面に位置する路地に身を置くキース・グレイン(ia1248)は、先に彼女たちが述べていたのと同じ事を考えていた。 「近場から狩ってきたのであれば、それなりの騒ぎが起きてもおかしくない筈だ」 調べた範囲で、近隣で家畜が被害に合ったという情報はない。 「目撃情報が極めて少なかったのであれば、そこから何処かへ戻って行った可能性もゼロではないように思えるが‥‥」 何れにせよ情報が少な過ぎる。だが、それ自体が情報だとも言える。 キースは思案気に目を細めると、やれやれと言った風に息を吐いた。 「先の依頼の様子では、結局のところ何処から出て来るかはわからなかったしな‥‥色々分からない点が多いか」 先の依頼では畑で暴れた餓鬼が、其処に瘴気を留まらせて作物を駄目にしたので退治して欲しいと言う物だった。 「先の一件と同様の事態が、場所を移して神楽で起こっている、のか?」 考えても分からない事ばかりだ。 そう何度目かの溜息を零した時、不意に声がした。 「完全に無関係、と言う訳ではないでしょう」 「恭一郎か‥‥遅かったが何かあったのか?」 ぶっきらぼうに問う声に、恭一郎は僅かに苦笑を滲ませる。 「子供を私塾に送り届けるついでに、東堂先生と話を」 「東堂と言えば、東堂の部屋の裏手に残っていたと言う瘴気がるな。その件だが、餓鬼が其処から出てきた『跡』という可能性もあるのではないだろうか」 さもなくば、何かしらが瘴気を発生させ、餓鬼などを呼び出しているのではないか。と彼女は言う。 その言葉に恭一郎はもう1つの可能性を口にする。 「後は、其処に長時間留まっていたか」 だがその場合、目撃情報が少ないと言うのは更に不自然だ。 「ともあれ作戦は直ぐ。準備は出来ましたか?」 「ああ。もう少し早く来れば手伝って貰ったんだが、大体の準備は1人で終わったよ」 言って口角を上げたキースに、恭一郎の眉が上がる。そうして苦笑を浮かべる。 「次は、善処します。では、他の班と合流しましょう。皆さんが気にしてらした情報の確認もしてきましたので」 そう言うと、彼はキースを路地の先へと促した。 ● 陽が斜めに傾き出す頃、開拓者たちは再び顔を合わせていた。 「明かりは松明で問題ないみたいだね。ただ、民家に燃え広がらないように注意してね。もし風が強い場合は消すように」 ベルナデットはそう口にすると、他から調達してきた松明を各班に配った。 そこにアルマの声が響く。 「竜哉ちゃん、如何かした?」 「目撃されている甲冑について考えていた。餓鬼や鬼が関わっているのであれば、甲冑も『鬼』に属するものなのでは‥‥と」 目撃されているのは黒い甲冑の何かだけ。 餓鬼や鬼が出ると言う情報は、あくまで恭一郎の憶測だ。 しかし昨今のアヤカシの動きを見る限り、恭一郎の予想は当っていると考えて良いだろう。 「目撃情報の割に被害が少ない以上、餓鬼も鬼も、何者かの統率化に在ると見て良いだろう」 ともなれば、気になるのは目撃情報のある『甲冑』。もし甲冑がアヤカシであり、中級以上の存在だとしたら―― 「‥‥少し、厄介だな」 「目撃証言と証拠の品は一致しないと言うのが、些か不信ではありますが、大事なのはアヤカシを退治すると言う事。これは必要ですしね」 そう言って頷くのは龍馬だ。 彼は路地に入る前に出会った子供の姿を思い出して盾を握り締める。 「祭り会場へは近付かせません」 とは言え、甲冑が気になるのは確か。 如何にか特徴だけでも覚えておければ良いのだが、可能な状況下に無かった時を考えると難しいだろうか。 「黒い甲冑に関しては、無理をしないことを第一に‥‥かな」 雪斗はそう言って、所持しているカードを取り出した。 これは彼が占いを行う時に使用する道具だ。 数多ものカードに描かれる幾筋もの運命。彼はその中の1つを手にすると「ふむ」と目を細めた。 「‥‥皇帝の正位置‥‥か」 幾つもの意味の中に『成就・達成』と云った意味を含むカード、それが皇帝の正位置だ。 「悪くはないが‥‥どうなるかね‥‥」 雪斗は依頼の成功を願ってカードを懐に仕舞うと、恭一郎に目を向けた。 「情報‥‥瘴気の、ことでしょうか‥‥?」 「まあ、皆が気にしてたって言ったら、そんな所かしらね」 「あ、孔雀さんも‥‥そう、思いますか?」 かくっと首を傾げたリリアに、孔雀の眉が上がる。 「別に、あんたに同意した訳じゃないわよ! イチイチ、話題振らないでちょうだい!」 「えへへ‥‥一緒、ですね‥‥」 苛立たしげに声を発する孔雀と、全く気にしてない様子のリリア。その様子を見ていたキースは苦笑すると、恭一郎に情報の開示を促した。 「それで情報ってのは?」 「ええ、情報は瘴気の物です。先程、ローランとさんから、濃い瘴気を出せるだけのアヤカシが部屋の裏に居た事、それを東堂先生は気付いていたのか‥‥との指摘がありまして、それを聞いて来ました」 開拓者であれば何かしら気付いていた面はあったのではないか。 リリアはそう思い問いを口にした。 それに関して恭一郎は、直接東堂に聞いて来たと言う。 「東堂先生は瘴気の存在に『気付いていない』と言っていました」 「『気付いていない』、か」 竜哉は訝しげに目を細めるが、それを伏せる事で隠し口を噤んだ。 其処に更なる声が届く。 「不甲斐なくて申し訳ないとも言っていました。それと同時に、皆さんに御武運を。とも」 祭り会場の陽の気に集められるアヤカシの数は不明。 皆は改めてアヤカシ討伐への決意を固め、それぞれの持ち場へと移動して行った。 ● 「あれ、工事中?」 「あら、本当ね。仕方ないわ。向こうから行きましょう」 親子連れが、路地の入口に張られた紙を見て迂回してゆく。 その様子を暗がりから確認し、リリアはホッと息を吐いた。 「なんとか、大丈夫そう‥‥ですね」 口にしてふと視線が落ちそうになるが、彼女は慌てて、自分の頬を叩くと首を横に振った。 「がんばろうって、決めたの‥‥がんば、る‥‥」 リリアは自らを奮い立たせると、波打つ美し色合いの杖をギュッと握り締めた。 ――と、その目に白煙が入る。 黒の空に浮かんだ白い煙は、祭りの場所を示す狼煙だ。 彼女はそれを見ると、すぐさま仲間の元に駆けて行った。 「表の様子は如何でしたか」 「大丈夫、です‥‥一般の人は、近付かないように‥‥してきました」 危惧の1つが解消された。 その事実に安堵の表情を浮かべると、ベルナデットは次なる危惧を消す為に松明に目を向けた。 「暗くなってきましたし、明かりを灯しましょう」 言って彼女が火を灯そうとした時だ。 「危ない‥‥っ!」 光が入らない塀の影。其処に出来た闇に乗じて迫る影に、リリアが氷の刃を放つ。 ぎゃあああああ! 響いた声に全員が戦闘態勢を取る。 「ベルナデットさん‥‥心眼、を‥‥!」 「今、やってるわ!」 突然湧いた敵に、ベルナデットが急ぎ周囲を探る。そうして彼女が見たのは、別の班が控える路地への道。 「この先に何か居るわ。数は‥‥っ、数え切れない!」 一瞬の探知では数え切れなかった。 少なくとも片手で数える範囲は越えている。そのような存在にベルナデットの中に焦りが浮かんだ。それはリリアも同様だったが、ただ1人、孔雀だけが余裕の表情で闇を見詰めていた。 「フーフフッ、崇高な美貌を持つ神に選ばれし存在。極めて優れた才知を授かり、幼い頃は振動を崇められしこの偉大な孔雀を前に、薄汚い下衆なアヤカシなど屑同前、否、塵以下よ!」 彼はハイヒールの踵を鳴らして大地を踏むと、鞘に納まっていた珠刀を抜き取った。 その上で流れる動作で刃を振るう。 直後、松明の灯りに照らされた影の1つが崩れ落ちる。それはお腹が膨れた小さな子供――餓鬼だ。 「流石あたし、完璧だわ。あんた達も、あたしを見習って精々役に立――って、ちょっと、人の話は最後まで聞きなさい! ああもう、これだから女はっ!!」 そう言うと、彼は自分の脇を通り過ぎた面々を追いかけた。 路地は然程広くない。 2人で通るのがやっとと云った広さの路地に、蠢く無数の影。 「どこから、こんなに‥‥あ‥‥!」 思考を遮る様に現れた巨大な影。 リリアは棍棒を振り上げる存在に杖を構えると、先程はなったのと同じ氷の刃を叩き込んだ。 其処にベルナデットと孔雀が斬り込んでゆく。 「大人しく、消えなさい!」 秋水の名を持つ美しい刀身に紅蓮の穂脳を纏わせ、ベルナデットの刃が餓鬼の腹を突く。 そうして前に出ると、孔雀が止めを刺し損ねた敵に止めを刺して前へと進む。 自然と連携の取れている2人だが、彼女たちが目指すのは、リリアが必死に攻撃を加える鬼の元だ。 「これじゃあ、誘き出す必要もないじゃない」 「‥‥何匹いるか、わからないけれど。逃がすわけには、いきません」 「あら、中々気の利くこと言うじゃない。そうよね、こんなに醜い生き物。生きてる価値なんてないもの」 考えに違いはあるが、アヤカシを逃がす訳にはいかない。リリアのその声に同意した孔雀は、餓鬼の体力を自らの物に変え、手にする刃を突き入れると前方を見据えた。 「このまま、路地を抜けます‥‥っ!」 眼前には巨大な鬼。 ベルナデットはそう叫ぶと同時に、大きく地面を蹴った。 直後、すれ違い様に鬼の胴を薙いで対面へと着地する。 鬼は堪らず呻くが攻撃はそれだけではない。 「冥界の覇王と謂わしめ天儀を震撼させしその圧倒的な力を前に、畏れ己の運命に絶望し地獄の業火に灼かれ引き裂かれる永遠の苦痛をとくと味わうがいい!」 孔雀は言葉と共に風の刃を放つと、間髪入れずに自らの刃を突き入れた。此れにベルナデットの刃も続く。 「此れで最後!」 「嗚呼、何て醜いの! 深めに刃を刺し込んであげるっ!」 ガッと突き入れたい刃が鬼の呼吸を奪う。 そうして刃を引き抜くと、孔雀の刺し込んだ刃が大きく肉を抉って引き抜かれた。 「あ、そっちは‥‥駄目‥‥!」 鬼を倒し安堵したのも束の間。 リリアの声にベルナデットと孔雀の目が飛ぶ。 「リリア殿、あの方向には――」 ベルナデットはそう声を発すると、急ぎアヤカシの後を追った。 ● キースは白煙を見上げた後、路地にその目を向けた。 其処には、彼女と同じ時を待つ恭一郎がいる。 距離的には、お互いの姿がギリギリ見える位。 きっとこの距離が、互いが駆け付けられる最大の距離であり、最善の距離である筈だ。 「今のところ、異変は無い‥‥」 そう、口にした時だ。 カ‥‥カタ‥‥ 風に混じって響く微かな音。 気を付けなければ聞き逃しそうな音に、彼女の目が上がる。 「恭一郎!」 キースの声に、恭一郎も愛用の赤い槍を構えるのだが、不意にその矛先が風を薙いだ。 同時に響く鈍い音に、キースの目が飛ぶ。 「何が――」 「松明に火を!」 声に慌てて火を灯す――と、その目に飛び込んで来たのは餓鬼と、それを従えるように見える鬼。 「これは‥‥」 「敵は僕の後方から‥‥と言う事は、懸念が現実になりましたね」 呟く恭一郎に眉を寄せるも、問い質すのは後だ。 「路地の先にはいかせない。恭一郎、進路を塞いで一気に叩くぞ!」 2人が護る路地の先は表通りだ。 如何あっても此処を抜けさせる訳にはいかない。 キースは勢い良く地面を蹴ると、前方を塞ぐ敵に向かって行った。 その際に使用するのは自らの肉体を硬質化させる術。その上で敵の中に身を投じると、彼女はすぐさま行動に転じた。 ダンッと大きく踏み込んだ足を軸に、一体ずつ確実に拳を叩き込んでゆく。 時には脚、肘、体の部位全てを武器とし、攻撃を加える姿に感嘆の声が零れる。 「流石ですね」 「世事は良い。それよりも敵の数は把握できるか」 「目視で良ければ、ザッと5‥‥鬼は1体のようです。他に目立った敵は居ないかと‥‥ただ」 恭一郎は一度背を預けた状態で言葉を切ると、じっと闇を見据えた。 「あの先に、複数のアヤカシが存在していそうです」 「あの先‥‥竜哉とアルマが居る場所か?」 無言で頷く恭一郎に、キースは眉を寄せ、再び背を放して拳を握り締めた。 手の中で握る布がヒラリと揺れる。其れを強く握り締める事で力を集めると、彼女は逃げようと足掻くモノを優先的に倒してゆく。 「この先へは行かせない」 呟き、息の根を止めた後、血の滲んだ拳に気付き、其処をひと舐めした。 残るは巨大な鬼のみ。 「コイツを倒して先に進む。行けるな」 「問題ありません」 「なら、行くぞ!」 キースはそう言うと、渾身の力を拳に篭め、一気に間合いを奪うと其れを腹に叩き込んだ。 ● 見通しも良く、僅かに広さを持つ場所。それが雪斗と龍馬が担う路地だった。 「‥‥随分な距離だな‥‥上手く止まってくれれば良いけど」 雪斗はそう口にすると、精霊の加護が宿る短剣を掲げて目を伏せる。 「刻め、棺の王女‥‥此処が汝の墓標だ」 言の葉と共に現れた雪の結晶。それが地面に吸い込まれるのを確認すると、彼は屈めていた身を起こして後ろを振り返った。 何度見ても路地の先は見えない。 「ここは罠に頼る他ないけど、出来る限り対応できれば良いな‥‥」 護る人数は限られている。 罠は今仕掛けたフロストマインの他に、縄を使って作った鳴子の物もある。 もし敵が引っ掛かれば、音でも感知できるという仕組みだ。しかしその音も何処まで響くかは疑問だ。 「雪斗さん、準備は出来ました」 「うん、こっちも出来たよ」 雪斗は一般人侵入防止の策を講じてきた龍馬に頷き返すと、ふと空を見上げた。 「お祭りは順調みたいだね」 白煙を視界に留め、彼の足が奥に向かう。 「そうですね。このまま何事もなく行けば良いのですが――」 カタッ‥‥カタカタカタ‥‥。 「!」 響いた音に、龍馬と雪斗の目が向かう。 音は罠を設置した場所だ。 目を凝らすが、何も確認する事が出来ない。 「雪斗さん!」 龍馬は現場に駆け付けようと意見を仰いだ。が、雪斗はその声に頷きを向ける事が出来なかった。 「駆け付けるのは後になりそうだ」 戻したばかりの視線の先に現れた巨体に、雪斗の頬を冷たい汗が伝う。 「鬼、か。その背後には餓鬼まで‥‥」 これほどの数がどうやって都に入り込んだのか。否、此処までどうやって来たのか。 思案する彼の背から、何者かの悲鳴が響いた。 如何やら餓鬼が罠に掛かったようだ。 しかし状態を確認しに行っている暇も、罠を再度設置しに行く暇もない。 「雪斗さんは私の後ろへ。援護をお願いします」 龍馬は盾を手に構えると、チラリと路地の先を見据えた。 「あの先へ入って後退しながら奥へ進みましょう。この数では皆と合流して戦う方が良いかと」 可能な限り敵の進軍は防ぎたい所だが、現状は味方数を増やして対処する方が良いだろう。それに懸念すべきは自分達がいない場所だ。 其処を進めば竜哉やアルマが控える場所に繋がる上、彼等が護る路地の中央にはもう1つ、始めから視野に入っていなかった路地が在る。 雪斗や龍馬が護る路地が護れれば、其処は安全だったかもしれない。しかし今更言っても無駄な事。 それに元々の原因は其処ではない。 「ッ、雪斗さん!」 龍馬は盾で敵の攻撃を受け止めると、大きく振り上げ、目の前の敵に叩き付けた。 この攻撃に敵の体勢が崩れると、龍馬は雪斗を促した。 「あ、ああ。行こう」 彼は手にする短剣を2本に増やすと、周囲を伺いながら注意深く奥へと進んだ。 ● 「竜哉ちゃん、松明点けても良いかな?」 アルマは火の無い松明を手に問うと、小首を傾げた。 その様子に黒の瞳が瞬かれる。 「何故そう問いを向う」 「あ、うん。もしかしたら、明かりで敵が集まって来るかもって‥‥」 確かに一理ある。 竜哉は「成程」と声を零す。と、思案気に視線を泳がせた。その目に白煙が入った。 祭り会場は直ぐ裏手。故にこの場にも賑やかな声や、ざわめきが届いている。 「案の定、音による判断は使えそうもないな。となると、視覚に頼る他ない訳だが‥‥」 視覚にも限界がある。それに加え、明かりが無いとなれば余計に、だ。 「ムリフェイン。松明無しで行こう」 竜哉はそう言うと、闇に慣れ始めた目を凝らした。 日中に覚えた地形を思い出し、影の出来方に不自然な部分がないか探る。その上で、小回りが利く様にと、黄金の竜が着いた短剣を取り出した。 「陰の気はここまで‥‥この先は、刀を持たなくても良い場所なんだから」 呟き、アルマが瘴策結界を発動させる。 その直後、彼の耳が立った。 「瘴気の気配が――」 カタ‥‥カタ、カタタ‥‥。 口にした瞬間響いた音は、アルマが仕掛けた鳴子の音だ。 「竜哉ちゃん、瘴気が‥‥ッ!」 「何処からだ!」 「‥‥あの路地‥‥あそこから、瘴気が」 互いの背を護る様に後退した足。それがぶつかると、竜哉はアルマの肩越しに、彼の示す先を見た。 其処は唯一班を置く事の無かった路地。 そして鳴子の音は、その路地の縄が切れると同時に発せられており、次いで餓鬼がその場に崩れ落ちる。 此れは雪斗の置いた氷の罠の結果だ。 如何やら敵は、餓鬼を盾に罠を進んで来たらしい。つまり、状況を考えれば無傷。 そして案の定、2人の視線の先からは、漆黒の甲冑姿をしたナニかが無傷で現れた。 それを目にした途端、2人は思う。 「‥‥アヤカシ、だね。‥‥ここにアヤカシを喚ぶのは、お前?」 渦巻く瘴気が目の前の相手をアヤカシだと語っている。 甲冑はアルマの声に答えない。 学がないのか、答える意味がないと思うのか。 「応援を呼びに行けるか」 「い、いけるけど、でも‥‥」 如何考えても1人では無理だ。 そう言外に告げる彼に、竜哉は苦笑を返す。 「太刀。それも、二刀か‥‥」 竜哉はアルマの肩を後方に引いて放すと、敵との間合いを測った。 その目は『塀』を見止めて隙を伺う――と、その時だ。 「‥‥る、‥‥斬る」 口籠るような響きの声が届いたかと思うと、甲冑が大地を蹴った。 その動きは―― 「速いっ!」 攻撃を避けようと動くが、間に合わない。 通り過ぎ様に肩から鮮血が上がり、竜哉の膝が着いた。 「ひゃはあ、血だぁぁぁああ!!!」 ゲラゲラ笑う相手に、竜哉の眉間に皺が寄る。 彼は落とした短剣に目をやると、もう1つの武器に視線を落とした。 「後はコイツで――」 「フッフフー。神々に見放されし哀れで醜い劣悪な者よ。貴様には特別に至高の術を御魅せ致そう」 竜哉の声を遮って響いた声に次いで、漆黒の龍が降り注ぐ。 「存分に思い知るがよい。この光り輝く妖しい程に艶かしい妖艶なさまを! 嗚呼!」 孔雀は己が放った龍に恍惚とした表情を浮かべると身を捩った。 しかし、甲冑は臆さない。それどころか、其処に身を突っ込み、孔雀に攻撃を加えてきた。 「く、ッ‥‥」 一瞬にして奪われた間合い。 膝を着いた彼の顔が苦痛で歪む。そこに癒しが降り注いだ。 「‥‥あんた」 リリアは孔雀の出血を止めると、すぐさま竜哉の止血に掛かった。 それと同時に駆け付けたベルナデットが、敵の前に出る。しかし―― 「‥‥斬る‥‥斬らせろぉぉおお!!」 「っ‥‥駄目‥‥!」 猛進してきた敵に気付いたリリアが、急ぎ動きを阻む蔦を紡ぐ。 勿論、ベルナデットも出来る限りで反応した。 敵の間合いに入り、攻撃を受け流して刃を振るう。しかし、敵はリリアの術を阻み、ベルナデットに迫った。 「‥、‥‥ァ‥‥!」 彼女の胴から滲んだ血に、甲冑がカタカタと金具を鳴らす。 その上、両腕に持つ二本の太刀をまるで鋏のように操ると、敵は再びベルナデットに迫った。 だがその攻撃は遮られる。 「――ッ、長くは、持ちませんっ!」 アルマが呼びに行っていた龍馬が到着したのだ。 彼は盾で刃を受け止めているが、力で押されて腕が小刻みに震えている。 「龍馬ちゃん頑張って! あ、敵――」 アルマは激励の言葉を飛ばし、この場の全員に癒しを送ろうとした。 だがその前に使用した瘴策結界が別の瘴気を捉える。場所は、甲冑が現れた路地だ。 「刻め、棺の女王!」 敵の出現。その寸前で術を紡いだ雪斗は、フロストマインを大地に埋めると、眼前の敵を討った。 そして次の罠を設置して同じ事を繰り返す。 このままでは埒が明かない。 そう思った時だ。 「不動――直閃!」 甲冑が飛んだ。 勢いよく塀ぶつかり、その場に崩れ落ちる。 その隙をついてアルマが癒しの唄を紡ぐが、敵が起き上がる方が速かった。 甲冑は奇声にも似た声を上げると、一気に突進してくる。だがまたしても、その動きは阻まれた。 「‥‥今こそ好機、お願いします」 静かに紡がれる声は恭一郎の物だ。 彼はアヤカシの太刀をその身に受け、且つ、槍を胴に刺して立っていた。 しかし此処まで来ても甲冑は余裕の様子。そしてその理由は敵の傷口にあった。 槍を受けた場所から噴射される瘴気。此れに、アルマや龍馬、そしてキースがふらつく。 「ッ‥‥」 それを見た恭一郎は、勢い良く槍を引き抜くと、渾身の力を込めて敵の首を薙いだ。 此れに今度こそ敵が倒れる。 そしてそれを見止めた孔雀とアルマ、それにリリアは、互いの力を合わせて攻撃に属する術を放つ。 ――‥‥うぅ、うぁぁああッ!!! こうして甲冑は滅した。 しかし跡には濃い瘴気が残り、幾つかの餓鬼も残り、それらの餓鬼は、東堂の部下が滅したとか‥‥。 |