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■オープニング本文 ●白い妖精はどこに? 寒い季節に現れるという「白い妖精」の話は、開拓者ギルドでも評判となった。 開拓者ギルドに勤める若い女性は、特に「素敵な出会い」がお目当てである。彼女たちもまた、妖精発見の報告を待ち望んでいた。 ギルドには、知恵と工夫を凝らした依頼がいくつも貼り出される。美しい景色を探すもの、楽しい雰囲気を演出するもの……内容はさまざまだ。 さらに貼り出される場所もさまざまなので、偶然にも新しい何かが見つかるかもしれない。そんな期待までもが膨らむ「白い妖精」の探索となった。 ●北面・楼港 志摩 軍事(iz0129)は、友人の明志(アカシ)が営む宿で、次に如何出るべきかを考えていた。 「義貞の方は、もう少し保留にした方が良さそうだな……妙な時間が出来ちまった」 彼が面倒を見る開拓者の少年。 その彼が面倒に巻き込まれ、様子がオカシイと判断して此処に来たのはつい先日の事。 その際、複数のアヤカシと交戦する事になり、以降、様子を伺う為にこの場に留まっていた。 しかし待てども次なる報告が来ない。 かと言って、彼が面倒を見る少年は、多少気持ちを持ち直したらしく、珍しく志摩に文を寄越してきた。となると、志摩は大人しく経過を見守るしかない。 「さて、如何すっかな」 「志摩、入るぞ」 不意の声に目が向かう。 開いた戸の向こうに居たのは、赤い着物を着た優男――明志だ。 彼は志摩のつまらなそうな様子を見ると、クツリと笑んで近付いてきた。 そして慣れた様子で腰を据える。 「余程する事がないと見える。それならいっそ、雪華(セツカ)の墓参りに行ったら如何だい」 「あ?」 突然降って出た名前に、志摩の眉間に皺が寄る。 雪華――今は亡き、志摩の婚約者の名。 何時だっただろうか、彼女に良く似たアヤカシが出て、開拓者と共に倒した事があった。 それ以降、意識して思い出さないようにしていたのだが…… 「てめぇは良く気の利く男だな」 「だろう?」 嫌味を篭めて囁くも、明志には如何ってことないらしい。 「昨年は例の件で墓参りに行けなかったのだろう。ならば今年は行く事だ。それに、今年は面白い噂話があってな。雪華の眠る場所なんてのはもってこいの場所だと思うぞ」 「面白い噂話?」 何だソレ。そう問いかける志摩に、明志は『白い妖精』の話を聞かせた。 それを耳にした志摩の目が伏せられる。 「確かに、アイツの墓は見晴らしの良い綺麗な場所だ。だが、墓にそんな大そうなもんが来るのかね」 「来ようと来まいと、墓参りに行けば良い。綺麗な景色を肴に、たまには童心に帰ってみろ」 綺麗な景色を肴に――良く言ったものだ。 だが、悪くない提案ではある。 「そうだな。久々に行ってみるか。とは言え、ただ行くのもつまんねえし……」 そう言うと、志摩は何かを思いついたように近くの開拓者ギルドへ足を運んだのだった。 |
■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
高倉八十八彦(ia0927)
13歳・男・志
千見寺 葎(ia5851)
20歳・女・シ
五十君 晴臣(ib1730)
21歳・男・陰
瞳 蒼華(ib2236)
13歳・女・吟
リリア・ローラント(ib3628)
17歳・女・魔 |
■リプレイ本文 雪に覆われた山を、開拓者達は前へと進んでいた。 「ぴくにっく、ぴくにっく!」 「八十八彦、あんま跳ねてると転ぶぞー」 ザックザックと楽しげに歩く高倉八十八彦(ia0927)は、志摩 軍事(iz0129)の声にクルリと振り返ると、ニイッと笑って手を振った。 「大丈夫じゃけ! それよりも、おさーんは大丈夫かのう?」 そう言って彼が示したのは、志摩の荷物だ。 自分で持ってきた酒瓶の他に、酒樽や束ねた荷物を持っている。 「軍事、やはりその樽は私が持つよ」 「問題ねえ。美味い酒の為ならどんな労働でもしてやるぜ。なあ、幻十郎?」 「まぁな。酒は良い。良いねえ」 しみじみ零す無月 幻十郎(ia0102)に、そうだろうと頷きを返す志摩。 そんな酒飲みな大人2人を見つつ、酒樽の持ち主である五十君 晴臣(ib1730)は苦笑いを零してしまう。 「やれやれ、だね」 口にして小さく肩を竦める。と、そこに軽やかな鈴の音が響いてきた。 「り、リリアさん、大丈夫ですか!?」 言って、慌てて駆け出した千見寺 葎(ia5851)は、先程までブレスレットベルを鳴らしながら飛び跳ねていたリリア・ローラント(ib3628)に駆け寄った。 「……えへへ、転んじゃいました」 そう言って起き上がったリリアは雪まみれで舌を出している。 その様子にホッと息を吐いた葎だったが、リリアの他にもう1人、雪まみれになっている人物に気付き目を見開いた。 「蒼華さん! 大丈夫ですか!?」 慌てて抱き起した瞳 蒼華(ib2236)は、リリアとしっかり手を繋いでいる。 「2人とも雪ん子みてぇだな。大丈夫か、蒼の嬢ちゃん」 志摩は酒樽を肩に担ぐと、雪まみれの蒼華に手を伸ばした。 しかし―― 「!」 「アオさん?」 「軍事殿の顔が怖いとさ」 クツクツ笑う幻十郎に「うるせぇ」と零し、志摩は頭を掻く。 「はう、ごめんなさい……」 「おっさんは、おおきいけぇ」 八十八彦はそう言って、蒼華を立ち上がらせる手伝いに向かった。 「アオちゃん……もう少し、荷物、持ちます?」 リリアはそう言うと、背後に隠れた蒼華を見た。 ある程度の荷物は同行者が持ってくれた為、女性陣の荷物は少ない。 「大丈夫、です」 蒼華はそう言うと、リリアの手を握り締めた。 「はじめましての人、多くて、きんちょう。リリアちゃん、いて、よかった」 ほんわり笑顔で言われて、リリアも思わずほんわり笑顔を返す。そうして和む空気を作り出していると、葎が手を差し伸べてきた。 「そのお鍋、持ちましょう。ここからは道もなさそうですから」 「わ…! ……あ、ありがと、ですの」 「わしも、持てる物があれば手伝うけえ」 任せて。そう言う八十八彦に、蒼華は笑顔になってお礼を口にした。 そしてその様子を見つつ、晴臣が呟く。 「軍事って婚約者居たんだね」 「ん? まあな。だいぶ昔の話だが、な」 「暫く行ってないのなら顔出してあげると喜ぶだろうね。全く縁のない人だけど、墓参はさせてもらうよ」 晴臣はそう言うと僅かに表情を曇らせた。 そんな彼の頭をポンッと撫でて志摩は皆を振り返と気合を入れて声を発した。 「さて、こっからが本番だ。気張ってくぞ!」 晴臣はそんな彼の姿を見、手の感触が残る頭に手を添えて苦笑を零した。 ●雪の墓 雪を踏み締め、道を作る男性陣の後ろを歩きながら、リリアは依頼内容を思い出してポツリと零した。 「白い妖精……私も、一度だけ。そのお話を、きいた事があります」 「どんな、お話、ですの?」 興味津々なのは蒼華。 吟遊詩人だけあって多くを聞き、見て、感じたいらしい。彼女は小さく小首を傾げると、先の言葉を待った。 「……残念ですけど、噂の通りなのです」 言って、あはっと笑う彼女に、蒼華は目を瞬く。そんな彼女は、無意識に首に下げている欠けたメダルに手を添えて囁く。 「会えたら、素敵ですよね」 ――自分という存在に繋がる筈のこの片割れは、一体どこにいるのだろうか。 「……リリアちゃん?」 「えへへ、何でもないです」 でも…… 「懐かしいなぁ……」 リリアはそう呟くと、目を細めた。 「おっと、見えてきたな。ここが雪華殿の墓か」 先頭を歩く幻十郎の声に、後続の足が速くなる。 そうして山頂に到着すると、皆は見晴らしの良い景色に思わず声を上げた。 目の前に広がるのは足跡1つない雪原。その中央に雪を積もらせた木が一本立っており、その真下に石を積み重ねただけの墓があった。 また墓からの見晴らしは格別で、北面全土が見渡せるのではないかと言うほど見通しが良く、時折吹く風が風華を舞わせて雪の結晶が輝いている。 「わぁ……!」 蒼華は目を輝かせて景色に魅入った。 他の面々も目の前の景色に魅入っていたが、志摩はその姿に笑みを零してこう添えた。 「此処の景色が格別なのは夜だ。それまでのんびりしようぜ」 「軍事はその前にお墓参りでしょ」 「お?」 首根っこ掴まれた志摩の目が瞬かれる。 掴んだのは晴臣だ。 「私は、行けないのだから……」 密かに零した声に、志摩の指が自らの頬を指掻く。そうして素直に墓の前へと引き摺られて行った。 「どれまずは掃除をしようか」 墓前では、幻十郎が周囲の雪を退け、綺麗にした所に供え物をしていた。 雪を退けて晒された墓は質素で、墓とは呼べる佇まいではないが、供えられてゆく花や酒を見て、志摩は満足そうだ。 「まぁ、一緒に呑みねぇ」 言って幻十郎が備えたのは甘酒だ。 志摩から故人の酒癖の悪さを聞いた為、急遽古酒からこちらに変えたらしい。 その様子を見ながら、晴臣もそっと手を合わせる。 「……」 無言で手を合わせる彼の胸中はわからないが、他の者よりも長く手を合わせる姿から、色々な想いが彼の中にあるのだけはわかった。 「ありがとうな」 志摩は自らも手を合わせた後、最後に桜の花湯と花を添えて手を合わせた葎の頭を撫でた。 その仕草に、墓をじっと見ていた彼女の目が上がる。 「作法……おかしな所など、無かったでしょうか」 「問題ねえ。こういうのは気持ちが大事だからな。何処に居ようと、誰を思い祈るかが大事だ」 ポンポンっと葎の頭を撫で、彼は晴臣を振り返った。 「さて、晴臣。酒樽を開けてくれねえか?」 「軍事は、そればっかりだね」 晴臣は合わせていた手を解くと、小さく笑って頷きを返した。 ●雪の戯れ 葎の提案で、雪の上に毛布を敷きその上から茣蓙を敷いた。 お蔭で腰を下ろしても冷たくなく、案外快適だ。 それに加えて、幻十郎が風除けに設置した天蓋が見事に風を防いでくれて温かい。 「寒いからねぇ、暖かい鍋でもつつきながら、一杯どうだね?」 「お、良いな♪」 幻十郎の提案に嬉しそうに返す志摩。そこに八十八彦も加わり、鍋作りが始まった。 「さっき、川魚を捕っておいたんじゃ。これも入れたらどうじゃろう?」 言って、彼はぶつ切りの川魚、干し肉、野菜を鍋の中に入れる。 「あとは味噌を溶いて……あ、餅も入れようねぇ」 「相変わらず手際が良いな」 「おっさんも懐大変じゃろう思うて、安く仕上げられるよう考えたんじゃけ」 「おお、偉い偉い」 八十八彦は頭を撫でる手に藁って目を細めると、丁寧に鍋の中へ味噌を溶かしてゆく。 「これも入れさせてくれるかい」 「皆で食べたら美味しいのは鍋じゃけえ。あ、鶏肉もええのう♪」 彼は幻十郎から鶏肉を受け取ると、それも鍋に加えて煮込み始めた。 辺りには味噌の香りが漂い、誰ともなく腹の虫が鳴り始める。そして一際大きなお腹の音がしたかと思うと…… 「無月さん、私、おなかが空きました」 どうやら今の音リリアだったらしい。彼女はキリリとした表情で言い放つと、鍋の中を覗き込んだ。 もう直ぐ煮上がりだ。となれば、仲間を呼ばなければ。 志摩は率先して鍋から顔を上げ―― 「あだァッ!」 突然頭を襲った衝撃に、志摩の顔が沈んだ。 そして視線の先は、晴臣と葎がいる。 「――わかったかな? 雪合戦はこうして雪玉を投げて当てる遊び」 「雪で遊び……雪合戦……合戦なら、準備や装備が必要、では?」 そう口にする葎の手には漆黒の匕首。しかも微妙に雰囲気が、戦闘開始前の姿と重なる。 「そりゃ、遊びじゃねえ! つーか、物騒なもん仕舞え!」 思わず叫んだ志摩に、葎は何事かと目を瞬く。 実に恐ろしいのは何も知らない事、かもしれない。 「葎は雪合戦初体験なんだね。それなら、実際に雪玉を投げてみると良いよ」 「はっはっは、雪合戦か、いいねぇ――あばばば!?」 晴臣の声が終わると同時に、幻十郎の顔面を雪玉が直撃した。 此れを見ていた八十八彦やリリアが立ち上がり…… 「わしも!」 「私、も……志摩さんに、当てますっ! アオさんも、ご一緒に、っ!」 リリアは蒼華を誘い参戦。しかし蒼華は志摩と目が合う度にリリアの後ろに隠れてしまう。 それでもどうにか慣れようと顔を出すのだが―― 「わ、わっ!」 飛んできた雪玉に慌ててリリアの後ろに隠れると、むうっと志摩を睨み付けた。 「ふふん、こういう時は攻撃しねえとな!」 志摩は蒼華を見てニッと笑うと、直後、晴臣にも向けて雪玉を放った。 だが―― 「……軍事、大人げないよ」 符を構えた瞬間に立ち塞がった黒い壁に、志摩の目が見開かれた。 「あ、てめぇ、ずりぃ!」 「大人げない大人の方が問題。さ、葎、今が投げ時だよ」 「――いざ!」 「うぇっ!? おまっつ、その投げ方、本気――いでえええ!!」 晴臣の立てた黒壁から飛び出した葎が、投擲武器を投げる要領で雪玉を放つ。 ただでさえ氷の結晶で出来た弾が高速でぶち当たれば当然痛い。志摩は、額を赤く腫らせて転がると、「参った」と手を振った。 ●雪の宴席 墓の前に備えられた雪兎。 それを見ながら酒を口にする志摩の傍では、先程まで雪合戦に興じていた面々が鍋を囲んで宴会を始めていた。 「いい場所だな」 幻十郎はそう言いながら、酒を片手に景色を眺める。そうして盃を開けると、新たな酒が注がれた。 「冷えたお酒、それと、熱燗も、あるですの」 ニコリと笑って徳利を傾ける蒼華に、幻十郎はご機嫌だ。 「蒼華殿は飲まねえのかい?」 「……アオは、お酒、飲めないので」 「それなら甘酒……あります、よ!」 ひょこんと飛び出たリリアは、蒼華に甘酒を差し出す。と、何気なく志摩を見た。 「……軍事さん。怪我には気を付けてくださいね」 先日志摩が開拓者へ贈った酒、極辛純米酒。それを飲みつつ葎が呟き――カクリと首を傾げる。 「如何した?」 「いえ……耐性はあると思っていましたが、度が強かったでしょうか」 真顔でそんな事を口にする彼女に、思わず笑ってしまう。その声に、葎もくすくす笑うと、改めて声を零した。 「明志さんに感謝と、お体にお気を付けてとお伝えいただけますか?」 「おう、任せとけ」 そうして互いの盃に酒を注ぐと、勢い良く煽った。 「……葎さんも、お酒。飲める方なのですね……」 志摩と酒を酌み交わす葎。そして晴臣や幻十郎を見ながらポツリと零す。 「男性陣の皆さん、楽しそう……」 「?」 思わず零した声に、八十八彦が首を傾げる。 「……千見寺の姉さんは、女じゃったきが……」 そう口にしながらも、視線は鍋へ。 「ま、ええかの。ん、この野菜美味しいのう♪」 八十八彦はそう言うと、野菜を口に放り込み、次の食材を取るため箸を伸ばした。 こうしてリリアは今回も葎が女性と言う事を知らずに終わってしまうのだが。そこに蒼華の楽しげな声が響いてくる。 「なんだか、ふわふわ、してきたです。アオ、歌います」 言って構えたのは持参したリュートだ。 音楽で満たせる空虚な部分。誰にでもある光と影、動と静、外と内は、皆背中合せで―― 「楽しいことも、悲しいことも、ふたつでひとつ、です」 囁き、想いを楽に乗せて響かせる。 その音色を耳に、晴臣は酒と焼きおにぎりを手に、ある事を思い出して志摩に訪ねた。 「そういえば、さっきもだけど、何で撫でられたのかな?」 「うん?」 「父親とも割と小さい頃から親子ってより師弟関係だったから、ああやって撫でられたのって十年位ぶりなんだよね」 ちょっとびっくりした。そう語る彼は、気恥ずかしげに笑みを零す。 その顔を見ながら、彼から貰った焼きおにぎりを口に運ぶと、彼は墓に目を向けながら呟いた。 「俺にとっちゃ年なんざ関係なく、開拓者は恩人であり家族だ。だからか知らんが、頑張ってる奴は褒めたくなる。別に褒められたくて頑張ってる訳じゃねえのはわかってるんだが、誰かに認められるのは悪い気、しねえだろ?」 言って、晴臣の頭を撫でる。 その仕草に擽ったそうに首を竦めると、晴臣は小さく笑みを零した。 そんな彼の頬が仄かに赤いのは酒の所為か、他の何かか。それ以外に変わった所が見えない様子から、案外酒に強いのかもしれない。 そんな事を思っていると、不意にリリアが近付いてきた。 「……そう言えば、婚約者さんのお名前……雪華さんっていうんです、ね」 この声に志摩の目が向かう。 「雪の、華。とても綺麗な……なまえ」 「まあ、綺麗なのは名前だけだ。俺より強かったしな」 ゲラリと笑った志摩を見て、ふと思う。 「……あの時の、耳飾り……」 耳に着けた雪の結晶の耳飾り。それを指で触っていると、彼と目が合った。 「どうした?」 その声にふるふる首を横に振って、ちょこんと座り直す。 そんな彼女の横では、志摩が悪乗りで一気飲みをし始めた。その姿を見て再びポツリ。 「……何を思ってるの、かな。雪華さんと、何をお話したの、かな……?」 小さく首を傾げ、リリアは甘酒に目を落し、それを一口飲んだ。 ――宴会も終盤。 到着直後は頭上に在った陽が、山の背に消えようとしている。 「そろそろだな」 志摩は全員に外套を渡すと、墓の傍に立つ樹――桜の木に目を向けた。 それに釣られて皆の目も木に向かい…… 「これは……綺麗じゃね」 八十八彦が思わず零した声に、皆が頷く。 木々に付着した氷の結晶が、月の光に照らされて輝き出したのだ。 夜になって気温が下がった為、結晶が大きくなったらく、光が昼間よりも大きく見えているようだ。 「妖精を見れなかったのは残念だが、こういうのも悪くないねぇ」 まるごともふらを着込んだ幻十郎はそう呟くと、残る酒を煽った。 ――と、その時だ。 「今、何か通らなかったがね?」 八十八彦の声に皆が木を見直す。 その瞬間、彼等の目の前を何かが通り過ぎて行った。 「今のが、白い妖精、じゃろうか……?」 木の周りをクルリと一周して消えてしまった存在に呆然と呟く。 「妖精は『素敵な出会い』をもたらす、でしたっけ」 零された葎の声に、誰ともなく葎を見る。 「僕はその恩恵を受けているかもしれませんね……『開拓者として』この場を楽しめる事が、その証ですから」 そう言って笑った彼女に、皆は笑顔を零し、改めて自然が作り出した幻想的な景色に目を向けた。 |