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■オープニング本文 開拓者ギルドには、常に多くの依頼が寄せられる。その種類は多岐に渡り、中には雑事をこなす物まで存在する。 今日もまた、多くの依頼が寄せられる中、志摩 軍事(iz0129)は渋い表情でギルド職員の山本・善治郎を見ていた。 「……まあ、アヤカシ討伐の依頼は問題ない。それに関しては早急に手を打つとして、だ。何で俺が監視みてぇな真似しなきゃなんねえ」 憮然として腕を組んだ志摩。 そんな彼に善治郎は依頼書を捲りながら呟いた。 「仕方ないだろ。これもギルドのお仕事。志摩は元々ギルドの管轄で働いてたし、役割的には持って来いなんだよ」 はいコレ。 そう言って善治郎が差し出したのは、依頼書で、その内容は簡単なアヤカシ退治だ。 「『北面の里に出没したアヤカシを退治する』この位なら大抵の開拓者は問題なくこなせるだろ」 「退治だけならね」 「あん?」 善治郎は漸く書面から目を上げると、困った様に首を竦めて見せた。 「この里の傍に、東房国のお偉いさんが来てるらしいんだ。そのお偉いさんに害がない様、退治して欲しい」 「……害が無い様にって、普通にやれば問題ないだろ」 「普通に出来ないから志摩に補佐を頼むんじゃないか」 そう、善治郎が志摩に持ちかけたのは、アヤカシを退治する開拓者の補佐。その内容は、アヤカシ退治が終わるまで、開拓者から目を離さないこと。というものだ。 「敵は鼠型のアヤカシが複数。数は不明で里全体に充満してるらしい。強さ自体は問題ないし、逃がしさえしなければ大丈夫だと思う」 ただ―― そう言葉を区切ると、善治郎は困ったように苦笑して見せた。 「鼠型と言うだけあって本当の鼠みたいにすばしっこい上、小さいんだよね。もし里の外に出ればすぐに街道に出れるし、そんな時にお偉いさんが来たら大変だろ?」 「あー……俺は鼠一匹逃がさねえように見てりゃ良いのか。んで、逃げたら倒せば良いんだな」 「だね。本当は戦闘にも参加して欲しいけど、戦闘中にお偉いさんが通って騒動に首突っ込まれても面倒だし、志摩はその時の緊急要員ね」 要は、戦闘は傍観し、面倒が起きたらその対処をしてくれ。そう云う事らしい。 「まあ、最近後進の指導らしきもんもしてねえし、仕方ねえな……ああ、今回も報酬は良いぜ」 そう言うと、志摩は渋々と言った様子で腰を上げた。 ●北面国の里――湯莉(ゆり) 湯煙昇る温泉街。 日頃より湯治場として足を運ぶものが後を絶たないこの場所に、閑古鳥が鳴き始めたのは何時の事か。 「ちょいと、あんた開拓者だろ。早くあの鼠を何とかしておくれ!」 其処彼処で動き回る鼠の姿をしたアヤカシ。 それを視界に納め、開拓者より一足先に現地入りした志摩は苦笑を零した。 「温泉街なんざ聞いてねえぞ……それに、なんだこの数。マジでこれを6人の開拓者で退治させるのか?」 正直自分も加わった方が良いのではないか。そう思ったのだが、周囲の状況がそれを許してくれなかった。 「お、女将さん、大変だ! 表の街道を妙な行列が進んでくる。あれは普通の客じゃない、上客だ!」 「なんだって! こ、困ったねえ、こんな状況じゃお客なんて……」 確かに、アヤカシが行き交う場所で客など取れるはずもない。しかも上客とくれば尚更だ。 「そこのあんた!」 「ん?」 「急いで鼠を何とかしとくれ! もし出来たなら、一晩タダで泊めてあげるよ!」 女将はそう言い捨てると、わたわたと動き出した。 其処に他の開拓者達が合流してくる。 志摩は今現在の状況、そして女将の言葉を告げると、彼等の脇を通り過ぎた。 「俺はその上客とやらの足を止めてくる。お前さんらは俺が到着するまでに、アヤカシを退治してくれ。何、一箇所に集めでもすりゃあ、一網打尽だろ」 ――とは言え、方法は不明だが。 そう言葉を残すと志摩は去って行った。 後に残されたのはこの場に招かれた6人の開拓者達だ。彼等は出来る知恵を振り絞り、アヤカシ退治に乗り出すのだった。 |
■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
匂坂 尚哉(ib5766)
18歳・男・サ
仙堂 丈二(ib6269)
29歳・男・魔
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
藤田 千歳(ib8121)
18歳・男・志 |
■リプレイ本文 「ネズミに上客に、千客万来じゃねぇか」 言って腕を組む仙堂 丈二(ib6269)は、目の前の光景に瞳を眇め、ふと周囲を見回した。 温泉宿に現れた鼠型のアヤカシ。その数は短期間で処理するのは無理かもしれないと思う程。 「数を相手に束になって掛かっても無理だろう。手っ取り早く片付けるには、分散して戦うのが一番だろうな――玖雀」 丈二は直ぐ傍で同じように現状把握に入っていた玖雀(ib6816)に声を掛けた。これに、玖雀の肩が小さく竦められるのだが、丈二は気にしない。 「構成は2人3組だ。藤田とブラッディ、六条と匂坂、それに俺と玖雀だな」 「悪いな。これで動いてくれるか?」 丈二の出す指示。それに同意を求めるように玖雀が皆を見回す。その視線に真っ先に頷いたのが匂坂 尚哉(ib5766)だ。 「俺はそれで問題ないぜ。な、雪巳!」 「ええ、問題ありません。とは言え、あまり無茶はしないでくださいね」 六条 雪巳(ia0179)はそう言って微笑むと、目をザッと奥の方へ飛ばした。 「鼠はあっという間に増えると聞きますけれど、アヤカシでも同じなのでしょうか」 敵の数が見えないのが少々厄介。 そう言葉を零す雪巳に対し、やる気満々な尚哉は、自らの拳を合わせてニッと笑う。 「雪巳が居るんだし、多少無茶しても大丈夫だよな。存分にやらせて貰うぜ」 「無茶を公言されるのも複雑ですが……まあ、この面子なら何とかなるでしょう」 灰汁は少々強そうだが、集まるのは歴戦を勝ち抜いてきた者ばかり。 だからこそ雪巳にはそう言った自信があるのだろう。そして自信を持つのは彼だけではない。 「今回は鼠アヤカシの退治だな……ま、久し振りに暴れるかな」 久方ぶりの依頼。けれど負ける気がしないのは今までの経験故か、それとも面子故か、はたまた別の理由か。 ブラッディ・D(ia6200)は班分けされた藤田 千歳(ib8121)を見ると「よろしく」と片手を上げて見せた。 その仕草に千歳は頷きを返す。その視線は目の前の鼠と言うよりも奥へと向かっており、ブラッディはその視線を追うように目を動かすと「ふむ」と目を瞬いた。 「温泉かぁ……今は割と寒いし、依頼の後は丁度いいかもな」 先程の志摩 軍事(iz0129)の言葉通りだと、鼠退治後に温泉に入れるらしい。しかもタダ。 「温泉、か……沸かさなくても、暖かい湯になっているのが興味深い」 「なんだ。温泉入った事ないのか?」 ブラッディの問いに頷いた千歳。 彼の出身里には温泉と言う物が無かったらしい。故に見るのも入るのも初めてだと言う。 「疲れが取れると聞くし、ここらで、休息するのも悪くない」 そう言って僅かに笑みを零した表情からは色々な物が読み取れる。それを眺め、ブラッディは服の外に手を出した。 「んじゃま、その為もアヤカシを退治しちゃおう。藤田が索敵で、俺が突っ込む――これで良いよな?」 「ああ。見た目に油断する事なく、確実に行こう」 有無を言わさない声と、自信満々の様子。 実に頼もしい姿に頷きを返すと、他の面々も彼女たちに続き、温泉宿を出て配置に付いた。 ● 三軒の温泉宿。その中央に存在する井戸の傍で、黒の魔道書を開いた丈二は、傍に控える玖雀に目を向けた。 「数えきれねぇ、先ずは数を減らすのが先だな」 此処に到達する前、無数のムスタイシュルを設置した彼は、先程から宿を出入りする鼠アヤカシの存在に気付いている。 しかしその数が異様に多く数え切れないのが現状だ。果たしてどれだけの数が潜んでいるのか……。 「数を減らすって簡単に言うな……とはいえ、丈二が頭なら俺は手足だ。好きに使え」 言って手の中に取り出したのは礫のような武器だ。それを掌の中で転がし、反対の手の指に漆黒の円月輪を引っ掛けて回す。 何時でも攻撃は可能。そう行動で示す相手に、丈二は「ふんっ」と鼻で息を吐き書物に目を落した。 「温泉宿の配置を前、後ろ、横として指示する。間違えんじゃねえぞ」 言うが早いか、丈二は早速指示を飛ばし始めた。その声に玖雀の手から素早く武器が放たれる。 的確に、そして目に付く敵、耳に届く音、それらに反応してゆく姿は流石。まるで舞の様に一手を確実に撃ち込む姿は見ていて清々しい。 「次は前。位置は右だ」 「了解――丈二、後ろから何か音がするんだが」 礫で倒れた鼠に円月輪で止めを刺す。そうした上で次の攻撃へ態勢を整えた玖雀。彼は先程から聴覚を研ぎ澄まし、戦闘に参加していた。 故に音には敏感で、丈二の声の他にも数多の音を拾っている。 「ああ、ありゃ、鼠じゃねえ。それよか横、左からくる。その次は右、左、喉が渇いたから茶を出せ」 「ほいよ――って、そりゃ違うだろ!」 思わず返事をして苦笑する。 「……玖雀が下僕であと10人くれぇいりゃ、楽なんだがなぁ」 「余計な事言ってねぇでさっさと指示を出しやがれ、次はどこだ! 茶なら菓子も付けて後で淹れてやる!」 思わず叫んだ直後、後方の温泉宿から雷音が響いた。その音に丈二の目が動き、玖雀が「ああ」と声を零す。 「音は『アレ』か」 ――アレ、とは仲間の戦闘音の事。 闘っているのが彼等だけでない以上、他の場所でも物音がするのは道理。 玖雀は納得いった様子で武器を構えると、チラリと丈二を見やった。 「人使いの仙堂の実力、見せてくれや!」 「ふん。んなこと言ってねぇでさっさと動け」 言うや否や、再び丈二の口から指示が飛ぶ。 それを耳に行動を開始すると、再び後方から雷音が響いた。 温泉宿の1つに入ったブラッディと千歳。彼等は丈二たちに表を任せ、中で鼠の駆除に乗り出していた。 「ブラッディ殿、流石に数が多い」 言って見事な輝きを放つ刃が、千歳の手の中で翻る。彼はブラッディが撃ち漏らした鼠に雷撃を放つ事で外に出るのを防いでいた。 もしこの場に宿の女将や従業員が居たのなら、雷撃を放った瞬間に卒倒していたかもしれないが、千歳も考えなく動いている訳ではない。 細心の注意を払って闘っている為、今の所建物や家具に傷はついていないかった。 「……索敵した感じだと如何だ?」 十字の柄をした身軽な刃を鼠に突き刺しブラッディの声だけが此方を向く。それに千歳の目が伏せられる。 「――素早く、鼠より僅かに大きい……群れで動くモノ……」 心の眼で神経を研ぎ澄ます。 すると直ぐに数多の生命の気配が飛び込んできた。 「まだ大量に宿の中に潜んでる」 其処彼処から感じる気配は縦横無尽に動き回り、その数は圧巻の様相。正直、これらを一網打尽する術は無い。 そう思った時、ブラッディの口角が上がった。 「確か、この鼠は血を吸うんだよな? ってことは、血の臭いに寄って来るかもしれないな」 試してみるか。 そう言うと彼女は、事前に宿の女将に頼んで借り受けていた鶏を引っ張り出してきた。 勿論鶏は生きていない。その代り僅かに温もり残るその身にはまだ血が通っているらしく、ブラッディが傷付けるのと同時に赤の滴が無数に落ち始めた。 「ブラッディ殿、桶!」 慌てて千歳が桶を下に置き、その上にブラッディが鶏を天井の梁を使って吊るす。 これで罠は完成。そう思った時だ。 「のぁ!?」 「これはっ」 2人は我が目を疑った。 ザワッと空気が動いたと思うのと同時に、無数の鼠が周囲に集まり出したのだ。 その数は――気持ち悪い程。 「これは凄いな。ま……数がいくらいようが逃がしゃしねぇぜ?」 ニッと口角を上げると同時に踏み込んだ足。其れが鼠の群に飛び込む――と、凄まじい衝撃派が放たれた。 踏み込んだ場所を中心に襲い掛かった激。この攻撃に鼠が次々と倒れてゆく。 しかし流石は数で圧倒しているだけの事はある。今の一撃で倒しきれない敵も居り、此れには千歳が当たった。 「此処は、通さん!」 地を踏んだ足がザッと音を立てる。 それを耳に腰を屈めて鞘に戻した刀に触れると、次の瞬間、風が如く刃が走った。 一閃する刃に討ち斬られる小物の敵。それを見止めて「ダンッ」と新たな一歩を踏み、別の敵へと追撃を放つ。 そうして一体も残す事なかれ――そんな言葉を胸に、2人は全ての敵を討つため刃を反した。 そして残る1つの班、雪巳と尚哉が担当する場所にも仄かに血臭が漂い、鼠たちがざわめき始めていた。 「雪巳、背中を宜しくな!」 尚哉はそう叫んで咆哮を放つ。 自らの気と覇気を含ませ招く敵。その数は徐々に増え見た目にも圧巻の様子。けれど尚哉は怯む事無く紅の刀身を構え、前を向いた。 それを見届け雪巳も北斗の七つ星を描く杖を構える。そうして辺りを見回すと、「えいっ」とそれを振り下ろした。 「……おや、脳震盪?」 ポカッ。 そんな音が響きそうな攻撃の後、鼠が眩んだようによろけた。だが倒すまでには至らない。 「やはり、この方法で倒すのは無理ですか。ならば――」 ゆったりと空間を揺れる杖先。 それを振るう彼の指先には血痕が染みついた布が巻かれている。どうやら自らの指を傷付け、其処を囮にしたようだ。 「これ、使ったら怒られるかな……けどまあ、これ使う方が一気に倒せる!」 「え……尚哉さん、ちょっと待――」 雪巳の引きとめる声が終わる間際、大地を裂く一撃が鼠達を襲った。 次々と倒れ瘴気に還る存在。それは良い。 だが捲れ上がった床は如何したら良いのか。 雪巳は頭を抱えたい衝動に駆られつつ、ふとこの依頼を真っ先に引き受けた人物を思い出した。 「ああ、そうですね。後程、志摩さんに相談しましょう」 そう呟き、先程途中で止めた杖を再び動かす。 この間も尚哉は地断撃を放ち、討ちきれなかった敵を討ってゆく。そうして雪巳が空間に印を刻み切ると、今度は逃げようのない攻撃が鼠達を襲った。 捻じれるように歪んだ空間。其処に呑み込まれる様に招かれた敵が、押し潰される様、引き裂かれる様にして沈んでゆく。 それを見届け新たな一撃を繰り出すと、背に温かな感触がした。 「もう少しでココの鼠狩りは終わりそうだな。終わったら井戸の方に行くか?」 「そうですね。状況確認と討ち零しが無いかの確認も行いたいですし、賛成します」 言って、2人は同時に大地と空間を歪ます一撃を放ち、残りの敵を地に伏したのだった。 そして全ての鼠アヤカシを退治し終えた頃、志摩も疲れた様子で戻ってきた。 どうやら彼1人のよう。丈二が思った疑問を口にする。 「上客は如何した」 「もう直ぐ来る。つーか、東房国のお偉いさんが『アレ』なら足止め必要なかっただろ」 やれやれ。そう呟く志摩に皆が首を傾げる。 そんな中、尚哉が近付いてきた。 「志摩のおっさんは義貞の親代わりなんだっけ?」 「ああ、そうだが?」 「そっか。そう言えば、陽龍の地の件でも助けてくれてたらしいし、受けた恩は返すのが礼儀ってもんだよな。今回で返せて良かったぜ!」 尚哉はそう言って満足そうに笑う。 だがそれを聞いた雪巳がボソッと呟いた。 「今日で恩が増えた気もしますけど、ね」 この声に志摩は目を瞬くのだが、後に盛大に頭を抱える事になったのは、言うまでもない。 ● 露天風呂は満天の星空と、周囲の山を見渡せることが自慢の、湯莉の里名物『露天風呂』。 其処に真っ先に飛び込んだのは尚哉だ。 「一番風呂、貰ったぁ!」 「尚哉さん、走ったら危ないですよ」 ドッボーンッと飛び込んだ尚哉に苦笑しながら湯殿に向かう雪巳。その後を、興味津々の様子で千歳が歩いてくる。 「これが温泉……凄いな」 「さっき説得に向かった上客曰く、この里の宿は普通なら予約客で満員だそうだ」 「そうなん――ぅわぁっ!!」 言葉を発している途中千歳の背が押された。その犯人は志摩だ。 千歳は否応なしに風呂に落され、慌てて抗議の声を上げようと立ち上がった。しかし―― 「うわああああ!!」 「千歳、うるさ――うああああああ!!」 「何を騒い……おやまあ」 叫ぶ千歳と尚哉。それに続いて雪巳が思わず呟く。 「久しぶりのお父さんだー!」 「ぬぉお!?」 ドンッとして、ポヨンッと抱き付いてきた感触に、志摩の目が見開かれた。目を向けた先に居たのは、手拭いを体に巻き付けただけのブラッディ―― 「ちょっと待てぇぇぇぇ!」 「え、お父さん如何したの?」 「如何したのじゃねえ! つーか、お前ら見るな!!」 顔を真っ赤にして顔を背けた千歳は良い。 だが尚哉と雪巳は違う。 「尚哉は放心してるからまだ良いが、雪巳、何でてめぇは冷静にしてんだ!」 「それはまあ……それに、ブラッディさんお1人では寂しいでしょうし、ね」 ニコッと笑った奴の顔は暫く忘れない。と、志摩談。 「雪巳の言う通り、1人じゃ味気ないしさ。ここ混浴だって聞いてたから皆で入ろうぜ!」 「いや……年頃の娘がはしたないだろ?」 「えー……何で、こんなの平気だよ」 年頃の女の子と比べて若干ズレているブラッディにこの手の常識は通用しないらしい。不思議そうに志摩を見る姿に、思わず額に手を添える。 「減るもんじゃねえし、良いじゃねえか」 「そうそう、酒も用意したし皆で浸かりながら飲むのも乙ってもんだ」 平然と志摩とブラッディの横を通り過ぎた丈二に、髪を下ろした玖雀。 2人はのんびり湯殿に入ると、早速酒を開け始めた。 「たまには付き合ってくれんだろ?」 「あ? まあ、少しならな」 渋々と言った様子で酒を受ける丈二と、その姿に機嫌良さそうに酒を注ぐ玖雀。この2人を見ていた志摩がボソリ。 「てめぇらは夫婦か」 「!? だ、誰が夫婦だ、気色悪ぃ!」 慌てて立ち上がった玖雀に、丈二がそっぽを向いて酒を庇う。何とも息の合った2人だ。 「お父さん、流石にそろそろ寒いんだけど……」 「あ、ああ……まあ、コイツらなら大丈夫か」 渋々了承した志摩に、喜んでブラッディが湯殿に入る。すると千歳が慌てた様に立ち上がり、玖雀の陰に隠れるように腰を据えた。 「ん? 飲むか?」 「え……あ、はい……それじゃあ、少しだけ」 未だに顔を赤くして手を出した千歳に、玖雀は遠慮なく酌をしてゆく。そうして酒を飲み出した所で、直ぐに異変に気付いた。 「ふふ、無理はするな」 酒が強くないのだろう。 直ぐに飲むのを止めてしまった彼へ、玖雀の手が伸びる。 彼は千歳の酒を飲み干すと、のんびり自分の猪口に酒を注いだ。 其処に賑やかな声が響いてくる。 「ちゃんと肩まで浸かって百数えろ!」 「いや、もう充分温まったし、これ以上浸かってたら逆上せ――ぶくぶくぶく」 志摩に強引にお湯へ戻された尚哉が、頭を押さえられて沈んでゆく。その姿に雪巳が笑う。 「志摩さん、押さえるのは肩にして下さい。如何に開拓者と言えど、溺れてしまいます」 「っと、そうだな……」 悪い悪い、そう言って手を放した志摩に、尚哉はジト目を向けてぶくぶく泡を吹く。 「……賑やかなこった」 丈二はそう呟くと、玖雀が用意した酒を肴に、温泉の湯加減に満足そうに目を細めた。 |