【浪志】至高の存在
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/25 10:47



■オープニング本文

 残暑残る折。
 浪志組屯所の庭で、槍の代わりに棒を振るう天元 恭一郎(iz0229)の元に、聞き慣れた足音が響いた。
「非番だってぇのに勢が出るな」
 クツリと笑って足を止めたのは、真田。
 彼は恭一郎の顔を見、青く澄んだ空を見上げた。
 夏の暑い日差しを受ける彼の髪は短い。
 遠島に処された東堂俊一。彼が髪を切った後、真田もそれを真似るように髪を切った。
 それを見、恭一郎は服の袖で汗を拭うと不快気に呟く。
「直ぐに伸ばすのでしょう?」
「何がだ」
「その髪です」
 言って顎で示した場所に、真田は「ああ」と納得したような声を零した。
「伸ばさねぇよ。こいつは意志の表れだ。覚悟入れ替えなきゃって証よぉ。簡単に伸ばせる訳がねえ」
 東堂が託した浪志組。それを背負う覚悟を決めた時、彼と同じく髪を断とうと決めた。
 もし髪を伸ばす時があれば、それはまだ遥か先の事。
 そう、笑って言う真田に、恭一郎は不快感も露わに息を吐くと、乱れていた衣服を整えた。
「貴方のそうした言動には好感を持てますが、それが東堂故にと言う所が気に入りません」
「てめぇは本当に俺が好きだなぁ!」
 カラリと笑った真田に「当然です」との言葉が返る。
 端から聞いたら誤解を受けそうな遣り取りだが、深い意味はない。そもそも恭一郎の真田に対する言動は、大体こんな感じだ。
 恭一郎は稽古に使用した棒を下げると、空を見上げて時刻を測った。
「今日の非番、外出許可を貰えますか?」
「構わねえ……つーか、当番じゃなけりゃ、出掛けるのは自由だ。これから出掛けるのか?」
 時刻は昼を過ぎた辺り。
 これから徐々に日が傾き、夕暮れ頃には少し涼しくなるだろう。それから出掛けても良いだろうに、と真田は言う。
「早ければ早いほど都合が良いんですよ」
「まあ、門限までに戻りゃ文句はねえ。好きにしな」
「有難うございます」
 恭一郎はそう言って頭を下げると、先の機嫌の悪さとは一転、穏やかな表情で微笑んだ。

●神楽の都
 東堂が起こした乱――大神の変。
 その騒動の名残を感じさせない程、活気に満ちた商店通り。其処を何気なく見回しながら歩く恭一郎の姿があった。
「確か、この辺だったと思うんだが……」
 彼が探すのは最近、この界隈で人気だと言う菓子屋だ。
 話に聞くと店に置かれた菓子が非常に珍しく美味なのだとか。
「真田の好みに合うかどうかわからないが、これで少しでも此方に意識が向くと良いんだが」
 何度も言うが、この言動に深い意味はない。
 単純に東堂へと向いた真田の意識を、柔和させようと言うだけの事。
 その考えの裏には、大神の変以降、忙しなく動く真田への気遣いがあった。
 決意を固めた人間と言うのは実に頑固だ。
 勿論、真田は頑固なだけではなく柔軟な思考も持っている。それでも前に進もうとする意志が強いが故に無茶もする。
「恭さん、店、見つけました」
 共に店を探していた隊士が戻って来た。
 だがその表情は明るくない。
「ただ……その……」
「まさか、売り切れていましたか?」
「はい……」
 申し訳なさそうに頭を下げた隊士に、恭一郎は「そうですか」と零して息を吐いた。
 相当に珍しく美味しい菓子と言うだけあって、その人気は噂通りだったと言う訳だ。
「これでは、彼の気を惹く事は出来ませんね」
「は?」
「……真田を休ませる事が出来ない。そう言ったのです」
 にこりと笑む恭一郎に、隊士は成程と頷き、そして次の言葉を口にした。
「あ、でも、菓子だったら作ったら如何でしょう。もしくはそれに代わるものを探すとか!」
「代わりの物、ですか……」
 確かに、無いのなら手に入れる事は出来ない。
 しかしそれに代わる物は手に入れる事が出来る。
「では手を借りれる者を集めて対策を練りましょう」
「隊士全体に声を掛けますか?」
「そこまでしては真田に気付かれます。彼には物を渡すまで気付いて欲しくはないですから」
 贈り物は直前まで隠しておく方が良い。
 そう言って笑った彼に、隊士は頷いて今集められるだけの人員を探しに向かった。


■参加者一覧
氷那(ia5383
22歳・女・シ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
アルマ・ムリフェイン(ib3629
17歳・男・吟
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
藤田 千歳(ib8121
18歳・男・志
菊池 貴(ib9751
40歳・女・武


■リプレイ本文

 天元 恭一郎(iz0229)が皆を連れて来たのは、ギルドの傍にある開拓者下宿所だった。
 彼が言うには下宿所の管理人の好意で一部の部屋や調理場を確保したと言う。
「恭一郎ちゃん、悠ちゃん好きなんだね。たぶん、僕とかが先生が好きみたいに……」
 大きな包みを抱えて笑むのはアルマ・ムリフェイン(ib3629)だ。
「一生懸命、やるよ」
「……君は東堂さんを」
 恭一郎は「成程」と頷き記憶を辿る。そうして視線を動かすと、千歳と目が合った。
「確か、君もでしたね」
 問う言葉に藤田 千歳(ib8121)は軽く頭を下げる。
「否定はしません。ですが……いえ、だからこそ真田殿には恩義がある。それに報いる為にも、協力します」
 東堂に好意を持っていたアルマと千歳。彼等を何も言わずに浪志組に置いてくれている真田に恩義がある。
 そう語る千歳に恭一郎はニコリと笑んだ。
「正直な所、僕はあまり東堂さんが好きではありませんでした。ですが、彼を慕う君達の気持ちまで蔑にするつもりはありません」
 自分も真田を慕っている。それは彼等が東堂を慕う姿と相違ないだろう。
「僕が君達に言える事は1つ。よく真田の傍に残ってくれましたね、有難う」
 そう言って微笑んだ彼の耳に、元気の良い声が響いてきた。
「真田の兄ちゃんの気を惹けるようなものを手に入れるのだぜ!!」
 この声に、恭一郎の口元に苦笑が乗る。
「見た感じ、真田の兄ちゃんって藍可姉みたいな息抜きとかしなさそうだもんね。天元の兄ちゃんも大変そうなのです……」
「……君は森さんの所の?」
「そうなのです。叢雲怜と言うんだぜ!」
 叢雲 怜(ib5488)はそう言うと大きく腕を上げて見せた。
「まあ、出来るだけ内密に頼みます」
「わかってるのだぜ!」
 元気に返事をする怜。其処へ氷那(ia5383)が近付いてきた。
「先日、縁あって浪志組に参加した氷那と申します。よろしくお願いいたします」
 礼儀正しく頭を下げる氷那。そんな彼女に恭一郎の眉が軽く上がった。
「これは礼儀正しいお嬢さんですね」
 そう言って笑む彼に、氷那は僅かに目を瞬き、そして微笑した。
「何かあればお手伝いします。アルマさんのお手伝いも勿論。準備も1人では大変でしょうから、出来ることがあればなんなりと」
「ありがと、氷那ちゃん……!」
 笑顔で礼を言うアルマに氷那も僅かに目を細める。
 其処に土を踏む音が響いた。
「アタシは浪志組とは関係ないけどねえ。部下や同僚に慕われるいい奴みたいじゃないかい。是非とも手伝いをさせて欲しいねぇ」
 目を向ければ菊池 貴(ib9751)が口角を上げて笑んでいる。彼女はこの場の皆を見回し、そうして言葉を紡ぐ。
「アタシは外で調達したいもんがあるんで、それを手に入れたら戻って来るよ」
「俺も行くぜ!」
「俺も行きたい場所がある。途中まで同行して良いだろうか?」
 挙手した怜に続き、千歳も申し出る。
 此れに頷きを返し、3名が買い出しに名乗り出た。
「そう言えば、羽喰さんは先に行く所があるとか言っていました」
 氷那はそう言うと買い出しの面々に「いってらっしゃい」と言葉を添えた。

 その頃、氷那の言葉通り、先に複数の木箱を購入して屯所近くの長屋前を歩く羽喰 琥珀(ib3263)がいた。
「なあなあ、ちょっと良いか?」
 彼は長屋前で遊んでいる子供達に目を留めると、元気の良い声で話しかけた。
 此れに遊びに夢中になっていた子供達の手が止まる。
「なあ、浪志組についてどう思う?」
「浪志組……真田の兄ちゃんたちのこと?」
 顔を見合わせる子供達は、訝しげに首を傾げた。
 琥珀はその様子に声を潜める。
「実は悠に贈り物すんだけど、手伝ってくんねーか? あ、これ秘密な。いきなり贈ってビックリさせてやるんだ」
 そう言って、ニカッと笑った彼の顔は実に楽しそうだ。
 悪戯を楽しむ子供のようなそんな表情に、子供達も「しーっ」と人差し指を立てて笑う。
「オレたちで手伝えるなら何でもする」
「真田のお兄ちゃん大好き♪」
 次々と上がる好感の声。
 その声を聞きながら、琥珀はニンマリ笑んで自らの計画を話し始めた。


 活気のある商店街にやって来た怜は、好奇心に満ちた目で周囲を見回した。
「さて、気を惹けるものって言ったら……うん、やっぱこれだよな♪」
 笑顔で怜が飛びついたのはジルベリアのお菓子だ。
 それを目にした貴が興味深そうに問う。
「おや、あんたはそういうのにするのかい?」
「俺、ジルベリアのものを見たら……何かドキドキワクワクして、凄く気を惹かれるもん。きっと、真田の兄ちゃんも気を惹かれると思うのです」
 にっこり笑って振り返った怜に笑みが零れる。
「菊池のお姉さんは何を買ったのだ?」
 商店街に着くや否や、直ぐに買い物を済ませた彼女の手には包みがある。
「アタシは厚紙を数枚だね」
「美味しくないのだ……」
「そりゃそうさ。だが流石は神楽の都だねえ。色んな種類の厚紙があって見てるだけでも楽しい気分にさせて貰ったよ」
 ニッと笑う彼女に、怜は目を瞬いて小首を傾げた。
「うー……綺麗な紙も好きだけど、やっぱり気が惹かれた後に幸せになる感じのものはやっぱりお菓子だと思うのだ〜」
「そいつは人それぞれってね。で、何買うのか決めたのかい?」
 問いかけに怜の視線が店先に落ちる。
 そうして暫く間が開いたと思ったら、彼は突然走り出した。
 その姿に貴の目が瞬かれる。
「ちょっと聞きたいのだ。この辺にジルベリアの美味しいお菓子を売ってるお店はないのです?」
 道行く人を捕まえて話を聞き始めた。
 どうやら今の店に、希望の商品はなかったらしい。
「出来れば、有名なお店が良いのだぜ!」
 少しでも真田に気に入って貰える物を探そう。そんな気配が伝わってきて貴の目にも自然と笑顔が乗る。
「怜。アタシは先に戻るよ」
「わかったのだ!」
 彼の様子を見る限りまだまだ時間は掛かりそうだ。
 彼女は怜に声を掛けると元来た道を戻り始めた。
 そして残された怜は、必死に聞き込みを続けてる。
「そ、そんなに人気のお店なのだぜ?」
「もう全商品が売り切れてるかも……って、そんな泣きそうな顔しないで!」
 しゅんと俯いた怜を見て、声を掛けられた女性は困ったように視線を泳がせた。
「そ、そうだわ。そのお店は午後にもお菓子を作るみたい!」
「本当なのです? ありがとうなのだ!」
 怜は笑顔でお礼を言うと一目散に駆け出した。

 その頃、千歳は呉服屋に足を運んでいた。
「まさか、こんなに資金をくれるとは……」
 真田の為の紋付羽織袴を贈りたい。そう提案した千歳に、恭一郎は購入資金を出してくれた。
 それは羽織袴を購入するには充分過ぎる金額。
「東堂殿がいなくなり、森殿が相変わらずの現在。対外折衝等を真田殿が請け負う場面も多いはず。その際に正装の準備があれば便利と思っての提案だったのだが……」
 千歳は資金と同時に手渡された紙に目を落とす。
 其処には真田の羽織袴を仕立てるのに十分な寸法が記されているのだが、それが詳細過ぎてちょっと引く。
「いや、隊服作成時に測った物であると信じよう。何故持っていたかは……」
 千歳は慌てて首を横に振ると、呉服屋の暖簾を潜った。
「すまない。店主は居るだろうか」
 声を上げると直ぐに店主が顔を覗かせた。
「この寸法で紋付羽織袴を作って欲しい。紋は此処に書いてあるもので頼む」
「へい。反物は如何なさいやす?」
「資金は此れで、出来るだけ立派な物を」
 恭一郎から渡された紙と資金。それらを店主に手渡し、要望を告げる。
「出来るだけ早い仕上がりが良いんだが……出来たら浪志組の屯所まで届けてくれるだろうか」
「浪志組……で、御座いますか?」
「ああ。浪志組の真田悠と言う人の所まで頼む」
「あの御仁の! そいつぁ頑張らせて頂きやす!」
 店主は顔に皺を作って笑むと、すぐさま作業に移った。
 その姿を見て千歳も店を後にする。
「確か、アルマ殿が団子を作ると言っていたな。そろそろ戻って俺も手伝おう」
 団子など作った事もない。しかし要は気持ちが大事なのだ。
 そう自分に言い聞かせ、千歳は下宿所までの道のりを歩き始めた。

 そして、長屋で贈り物の準備を進めていた琥珀は、いつの間にか多くの人に囲まれていた。
「ここに悠への一言を書いてくれな」
 言って、木箱の蓋に文字を書くよう頼む。
 既に其処には感謝の言葉や激励の言葉。中には遊びに誘う言葉が書かれており、かなり賑やかだ。
 それを見てから、琥珀は手元の紙に目を落とした。
「悠に合う色は紺色か……他にも深緋や赤銅色って意見もあったな……」
 あとはこれを別の職人の所に持って行くだけ。
「よし、みんなありがとな!」
 全員が文字を書き終えた所で、彼は木箱を抱えて礼を言った。
 そうして次に向かったのは組紐職人の元だ。
「ここに書いてある色で刀の下げ緒と、羽織紐、それに髪紐に適した組紐はあるか?」
 数や色は1つでなくても良い。
 そんな琥珀の要望に、職人らは次々と組紐を用意する。そうしてそれらを木箱に分けて入れると、器用な手つきで風呂敷包みに包装した。
「よし、出来た! ありがとな、みんな!」
 そう笑顔で告げると、琥珀も他の面々同様、下宿所に戻って行った。


「天元さんは真田さんが大切なのね……勿論、深い意味ではなく」
 ポツリと零した氷那の視線の先。
 其処で菓子作りに勤しむ恭一郎は異色だ。どうやら彼はお菓子を作って真田に贈るつもりらしい。
「氷那ちゃん……胡桃は、割れたかな?」
「ええ、出来たわ。あとはこれを細かくすれば良いのかしら?」
 氷那は用意した胡桃、その他にアルマの指示で用意した胡麻やみたらし、それに醤油や小豆、きな粉を見た。
「じゃあ、あとはこれ……」
 そう言ってアルマが並べたのは、薩摩芋。これは細かく切って中に入れる予定だ。
「おや、随分と綺麗な色合いじゃないか。こいつは腕が鳴るねぇ」
 ニンマリ笑って顔を覗かせたのは貴だ。
 彼女は用意された材料を覗き込んだ後、隅で菓子作りをしている恭一郎に目を向けた。
「ありゃあ、何してるんだい?」
「お菓子作りを、してるみたい……お団子のお手伝いは、無理だって……」
 クスリと笑ったアルマに、貴は何とも言えない表情を零す。
 こうしてお団子作りが開始されたのだが、アルマの手際は良かった。
 事前に団子屋で作り方を聞いていただけのことはある。
「氷那ちゃん、生地は、人の耳たぶ位の柔らかさが目安みたい……柔らかくなるまで、捏ねて……」
「はい。人の耳たぶ……」
 教えてもらった通り、丁寧に作業を行う氷那は一生懸命だ。
 其処へ千歳が顔を覗かせる。
「戻った。何か手伝えることはないだろうか?」
 アルマが団子を作ることは知っていた。故に顔を出したのだが……
「あ、ちょうど良い所へ。藤田さん、耳を貸して下さい」
 ふにっ。
「!」
「……もう少し、でしょうか?」
 千歳の耳たぶを摘まみながら、生地を摘まむ。
 これに千歳は硬直しているが、氷那は真剣そのものだ。
「藤田さん、有難う御座います。もう少し捏ねてみますね」
 そう言って、再び生地を捏ねる作業に戻った氷那に、千歳は目を瞬く。其処へ貴が近付いてきた。
「生地の柔らかさを確認したんだよ。まあ、お食べ」
 言って、千歳の口に団子を放り込む。
「餡子は甘すぎず良い味だね」
「……確かに、塩味もちょうど良い」
 深く考えるのは止めにしたらしい。
 千歳は口の中の団子を嚥下すると、部屋の隅へ目を向け、直ぐに戻した。
「天元殿は何を……」
「菓子作りだってさ。ほら、天元。あんたもお食べ!」
「は? いや、僕は――」
 ツカツカ歩み寄り、恭一郎の口にも無理矢理お団子を突っ込む。
「どうだい?」
「……美味しいですよ。嫌味なくらいに」
「あんた。普通に褒めれないのかい? まあ良いけどね。あんたもお疲れなんじゃないのかい?」
 休みの日まで真田の為に動く彼を見て思った事だ。その問いに彼の口角が上がるが答えはない。
「ああ、シノビのお嬢さん。不審な物音とかはないですか?」
「はい、特にこれと言って」
 贈り物は直前まで隠しておく。
 そんな言葉を受け、素直に超越聴覚を使った氷那は、周囲の音に耳を傾けながら作業していた。
 なので千歳や貴の来訪もいち早く気付き、それ故の先の行動だったらしい。
「生地を一口分の大きさに、丸めて……お湯で茹でる……で、水きり……」
 着々と作業を進めるアルマ。
 そんな彼に習って皆が団子に醤油やみたらしを付けたり焼いたりと作業をする。
 そうして出来たお団子は見た目にも鮮やかで綺麗な物だった。
「あとはこれに一言添えて貰おうか。あんたもだよ、天元」
 貴は商店街で購入してきた厚紙を数種類差し出すと、皆に一言ずつ書くよう促した。
「長々と書くんじゃないよ。2、3言で本当に言いたい事だけ書くんだよ。それが粋ってもんだ」
「あー! 俺も書くー!!」
 バタバタとこの駆け込んできた怜に、貴は厚紙を渡す。其処へちょうど琥珀も到着した。
「間に合ったみてえだな」
 良かった。そう告げ、琥珀は菓子作りを終えたばかりの恭一郎に歩み寄った。
「俺からはコレな。屯所近所の一同からって言って渡してくれ」
「屯所近所?」
「悠に贈り物したいって思ってるのって、恭一郎だけじゃねーって思ったんだよな〜」
「まあ、確かに真田は誰にでも好かれてますが……」
「前ばっか見て走ってっと、今まで大事にしてたもん見落しちまうから、時々息抜きに俺達と遊ぼうぜって伝えてくれな」
 この言葉に恭一郎は「わかりました」と言葉を向けた。其処へ氷那が「お守り」を差し出す。
「私からの贈り物です。正直、他には浮かばなかったの。ごめんなさい。決意を持って無茶をする人を止めるのは難しいから、せめて加護があればと……」
 それに……と、彼女はチラリと浪志組の面々を見遣った。
 物よりも、こうして贈り物をしたいと彼を慕う人が集まった事。そしてその気持ちが伝わる事こそ、大切な贈り物な気がする。
 氷那は言葉を伏せると、ゆるりと笑んだ。
 其処へ新たな贈り物として厚紙が差し出されると恭一郎の目が其処へ落ちた。
「菓子と一緒に渡しとくれ」
 一番上には貴の文字があり『いい部下もったね。お疲れさま』の文字が。
 他にも怜の『おつかれさま』や、千歳の真田への感謝の言葉などもある。
「じゃあ、これ、よろしくね……?」
 アルマはそう言うと、恭一郎に団子の入った包みを渡した。
 そして、それを受け取る代わりに、恭一郎から皆へ包みが手渡された。
「これは……?」
「僕から皆さんへのお礼です」
 そう言って笑った彼に、皆は素直にその包みを受け取った。

 そして後日、恭一郎から贈り物をした反応が伝えられた。
『贈り物は成功しました。アルマ君の粋な計らいでお団子を一緒に食べる事も出来ましたし、感謝します。ただ……僕のクッキーだけが不評だったんです。何故でしょう』