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■オープニング本文 着々と出来上がって行く天元流道場。その工事風景を眺めていた征四郎の元に来訪者がやって来た。 「ああ、やっぱり此処に居たんだね」 そう言って小走りに近付いてきたのは、開拓者ギルドで受付をしている山本善治郎だ。 彼は征四郎の隣に立つと、感慨深げに完成間近の道場を見上げた。 「朱藩国にあった道場が燃えた時は如何なるかと思ったけど、思いのほか早く出来上がりそうだね」 「……そうだな」 生まれ育った朱藩国の道場とは、ある一件で道場主である父と共に無くなった。 それを機に、天元流道場は神楽の都へ移転。道場の跡取りとして名前の挙がっていた征四郎が師範の座を継ぐ事で再建を成そうとしている。 「まだ門下生の人達の中には反発してる人も居るんでしょ? 説得とか大変そうだよね」 「何故、それを?」 征四郎は元から人との会話が苦手な所為か、自分の悩みや考えという物を口にしない。 だから門下生との揉め事も、彼や道場再建に携わる者しか知らない筈だった。にも拘らず、山本はケロリとそんな事を言う。 だから驚いたのだが、次いで聞こえた声に納得が云った。 「五十鈴ちゃんが、この前ギルドに来てぼやいてたよ。征四郎君は不器用だから心配だって」 道場移転に伴い、五十鈴も現在は神楽の都にいる。最近では開拓者になると言って、ギルドへ顔を出しているようだが、まさかそんな事まで口にしているとは思わなかった。 「迷惑をかけているらしいな。すまない……」 「いやいや、迷惑どころか助かってるよ」 山本はそう言うと、五十鈴がギルドの雑務を手伝ってくれた事や、依頼に訪れた老人に手を貸してくれた事、血気盛んな開拓者同士の争いを止めてくれた事などを上げた。 それを耳にした征四郎の目が瞬かれる。 「五十鈴がそんな事を……そうか……」 元々元気が有り余る正確な上に正義感が強い彼女らしい行動なのかもしれない。 けれど気に掛かる事もある。 「……父上や、家の事で何か、言ったりはしていないだろうか」 そうどんなに強くお転婆に見えても、彼女は征四郎と1つしか違わない。しかも彼女は女の子だ。 父親を亡くし、帰る家を無くした彼女が何処かで愚痴を零していてもおかしくない。そう、思ったのだが…… 「似た者兄妹だよね。全然それっぽい事は言ってないよ」 小さく肩を竦めた山本に思わず視線を落とす。 「俺はまだ良い。俺は当初、家を捨てる覚悟を持って家を出た。だが、五十鈴は違う」 彼女が失ったものは自分よりも遥かに大きい。そう呟いた彼に山本は何とも言えない表情で頬を掻き、視線を道場に流した。 「実は、今日ここに来たのは五十鈴ちゃんの事でなんだ」 「……やはり何か言って」 「ううん。五十鈴ちゃんは何も言ってないよ。言ってないんだけど、ちょっと気になる事があったんだよね」 そう言うと、山本は自身が目にした五十鈴の話をし始めた。 ● 神楽の都の広場。その近くで足を止めた山本は、最近浸透し始めたジルベリアの行事用に供えられた飾りに目を留めた。 緑と赤のリボンを巻き付けたリースと呼ばれる飾り。その中央に添えられた鈴が可愛らしい印象を与えるそれを見て、何だか不思議な気持ちになる。 「クリスマスか……確か、精霊のお祭りだったっけか。色とりどりの飾りが綺麗だけど、ちょっと不釣り合いだな」 そう零して苦笑する。 ジルベリアと天儀の文化はだいぶ違う。敢えて表現するなら和の雰囲気に洋が割って入る。それ位の違和感があるのだ。 けれどその飾り付けをしている家族は楽しそうで、見ている此方まで笑顔になってしまいそうな、そんな雰囲気だ。 「悪い風習ではないし、良いものはどんどん取り入れるべきだよな」 そう言って足を動かそうとした彼の足が止まった。 「あれ……五十鈴ちゃん、だよな?」 広場から少し離れた場所に置かれた樅ノ木。其処に施された装飾を食い入るように見つめるのは五十鈴だ。 「おーい、五十鈴ちゃーん!」 「へ? ああ、善治郎か。こんなとこで如何したんだよ」 「仕事のついでに寄ったんだよ」 ニッと笑った彼女に手を振って歩み寄る。 そうして彼女の見ていた樅ノ木に視線を移すと、五十鈴から信じられない言葉が飛び出した。 「なあ。これって何の祭りなんだ? 全部の家がやってるって訳じゃなさそうだけど、何か楽しそうだな」 そう言うと、彼女は飾り付けを楽しむ家族に目を向けた。その視線が何処か寂しげなのは気のせいではないだろう。 「クリスマスって言って、ジルベリアから伝わってきた精霊のお祭りだよ。ああして飾り付けをしたりして、クリスマス本番では皆で宴会したり贈り物をしたりして楽しむんだ」 「宴会に贈り物? ふぅん……楽しそうだな」 ポツリ、零された声に山本は目を瞬く。 「征四郎君に言って一緒にやって貰えば?」 「あー……セイは無理だ。今は道場再建の事で精一杯だからな。まぁ、来年があるだろ」 五十鈴はそう言うとニッコリ笑って樅ノ木を見上げた。 ● 「くりすます……また、難解な話だな」 そう零すが征四郎は何か考えている様だった。 お転婆で、男勝りで、自分が大事だと決めた物にはとことん真っ直ぐな少女。最近では我儘を見せなくなったが、やはり我慢していたのだろう。 「1つ聞くが、くりすますとやらには何か法則はあるのか? ただ宴会をして贈り物をすればそれで完成する物なのだろうか」 「は?」 「いや、だから……俺も、くりすますとやらは全く……」 何処まで来ても兄妹。そんな感じだ。 山本は1つ息を吐くと、ポンッと自身の膝を叩いて見せた。 そして、 「わかった。依頼出しとくから、開拓者と一緒に準備してよ。五十鈴ちゃんには声掛けとくからさ」 それと。と、山本は持っていた荷物を探り始めた。その様子に征四郎の目も吸い寄せられる。 「じゃじゃ〜ん♪」 「ッ!」 取り出されたのは赤い衣装と白い衣装。そのどちらもかなり丈が短い。 「……それは、何だ……」 「ジルベリアの商人から手に入れた、女性限定のクリスマス衣装らしいよ♪ 可愛いから二種類買ったんだよ♪」 良いだろ♪ と、ニコニコ笑う山本に微妙な視線を送ってから、征四郎は改めて衣装を見た。 確かミニスカート、とか言っただろうか。 あまりに短い丈のそれは年頃の男の子には刺激が強いらしく、直ぐに視線を逸らすと、征四郎は小さく咳払いをして「好きにしろ」と返したのだった。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
尾鷲 アスマ(ia0892)
25歳・男・サ
レト(ib6904)
15歳・女・ジ
神爪 沙輝(ib7047)
14歳・女・シ
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
伊波 蘇乃(ic0101)
24歳・男・シ |
■リプレイ本文 人でごった返した市場。其処を楽しげに歩き回るのは天元五十鈴だ。 「なあ、これが例の飾りじゃないか?」 「五十鈴嬢、あまりはしゃぐと迷子になるぞ」 「大丈夫だって!」 尾鷲 アスマ(ia0892)の忠告もなんのその。星飾りを手にした彼女は実に楽しそうだ。 「星は頂点に、葉には球体や白綿のような物を飾っていたな……ああ、ちょうどソレだ」 言って示した先に、キョトンと目を瞬くレト(ib6904)がいる。彼女の手には確かに今アスマが言ったような白綿があった。 「ふぅん。これを葉に飾ってどうするんだ?」 「雪に見立てるんですよ。こうやって」 レトの手から僅かに取られた綿が彼女の肩に乗せられる。そして少しだけ空気を含ませると、伊波 蘇乃(ic0101)はニコリ笑った。 「ね?」 「……器用な物だな。確かに雪のように見える」 「征は頭にでも乗せたら如何だ? 似合いそうだ」 クツリと笑ったアスマに「やるつもりはない」と、無言の視線が向かう。 その隣ではエルレーン(ib7455)が柊の葉を真剣に選んでいた。 「これと、これ……あと、これ!」 「そんなに買って大丈夫かい?」 「だいじょうぶ! 持てないぶんは征四郎くんがもつから!」 そう言って手渡された大量の柊の葉。それを見て天元 征四郎(iz0001)の目が瞬かれた。 「これは……」 「征四郎くんもちょっとはおとめごころがわかってきたってことだよね」 乙女心? そう言えば、以前その様な事を言われた気がする。だが征四郎はそんな事は考えておらず、キョトンとしている。 それを見たエルレーンは顔を寄せるとコッソリ耳打ちした。 「この時期のおんなのこはねっ、やさぁしいぷれぜんとを待ってるんだよっ」 「は?」 「アクセサリを買うのっ!」 鳩が豆鉄砲を喰らったように目を瞬く征四郎だったが、何か思い至る事があったのだろう。 成程と頷きを返すと、隣の露店に目を向けた。 「成程、これがクリスマスの料理と言う訳ですね。柚乃殿、これの作り方は分かりますか?」 「これはローストチキンっていう料理ですね。その隣がケーキです」 これくらいなら何とか。そう言って頷く柚乃(ia0638)に、志藤 久遠(ia0597)は安堵したように店に並ぶ料理の数々に目を這わす。 「クリスマスはツリーとケーキが無いと始まらないですよね」 「作る物が分かれば次は材料の買出しさね。誰か付いてくる奴ぁいるかぁ?」 飾り付けと料理作りを個別に終わらせてと言うのは時間が掛かる。ならば同時進行で行うべきだろう。 柚乃の言葉を拾って問いかける北條 黯羽(ia0072)に五十鈴が真っ先に手を上げた。 「はい! あたし行く!」 元気な彼女にクスリと笑んで、黯羽は皆の影から露店を覗き込む神爪 沙輝(ib7047)に目を向けた。 「沙輝も一緒に行くかぁ?」 「私、ですか……?」 元々人見知り気味な彼女だからだろうか。 驚いた様に目を瞬き、慌てて俯く姿に黯羽は膝を折る様にして彼女の顔を覗き込んだ。 勿論、少しだけ距離を開けて。 「戻って飾り付けでも良いが、何か用があれば一緒にどうさね?」 先の露店を見る様子は何かを探しているようにも見えた。だからそう問いかけたのだが、それは当りだったようで、 「……はい……」 頷く彼女に笑みを零し、黯羽は立ち上がって皆を見回した。 「よぉし、ここからは別行動だな。それぞれ準備して征四郎の家に集合で良いかぃ?」 問題ない。そんな言葉が皆から聞こえ、一行は一度解散した。 ●料理開始 征四郎と五十鈴が住まう住居の炊事場に集まった面々は、宴会料理の準備に取り掛かっていた。 「この粉を捏ねれば良いのか?」 そう言いながらスポンジの生地を作る五十鈴の隣で、久遠が手探りで生クリームの準備を始めている。 「思った以上に難しいですね……征四郎殿、大丈夫ですか?」 「ああ……問題ない」 そう答えた征四郎は久遠から誘われて調理に参加している。本来ならば依頼人を巻き込むのはどうかと思ったが、折角ならばと声を掛けたのだ。 「五十鈴殿、楽しそうですね」 そう言いながら視線を向けた先では、黯羽に生地の確認して貰っている五十鈴が居る。 「もう少し捏ねな。それじゃぁ、柔らかく焼けないさね」 「えー……そもそも黯羽は料理出来んのかよ」 「五十鈴……一応、言っておくが……俺、料理は結構出来る方だからな?」 「うっそだぁ!」 ワイワイと作るその姿は実に楽しそうだ。もしあのまま五十鈴を誘わず、宴会にだけ誘っていたらこの姿は見れなかっただろう。 「……感謝している。有難う」 静かに紡がれた言葉に久遠の目元が緩む。そして生クリームの泡立ち具合を確認すると、彼女はそれを布で作った絞りに入れた。 「分からない、自信がないものは、こうして協力し合えばよいかと思います。道場は自分も気にしていたことですので……手助けがいる時には、手助けさせてください」 そう言って微かに笑む彼女に征四郎は頷きを向け、残りの調理に手を伸ばした。 そしてその頃、ローストチキン作成に取り掛かっていた柚乃は、焼け具合を確認して笑みを零していた。 「……美味しそうです」 そう言ってほうっと息を吐いた沙輝もチキン作りの最中だ。 おっかなびっくりの料理だったが、それでも皆と何かするのは楽しくて、自然と笑みも零れて来ている。 その様子は見ている方も微笑ましく見える物で、 「味見、してみますか?」 柚乃はそう言うと沙輝にチキンを差し出した。 其処へレトが顔を覗かせる。 「へぇ……上手いもんだな」 「あ、レトさん。レトさんも準備進んでますか?」 チキンを皿に乗せて問いかける柚乃に、レトは歪に切られた野菜を差し出して視線を逸らした。 「うわっ……レトも料理苦手なのか?」 「り、料理の手伝い位出来るよっ!」 いつの間に傍に来たのだろう。 ニヤニヤと問いかける五十鈴に叫んだレト。その様子を眺めながら柚乃はクスリと笑みを零した。 「クリスマスらしい雰囲気です。家族や親しい人と過ごす精霊のお祭り……宴会も、楽しみなのです」 「……はい」 沙輝はそう答え、にっこり控えめな笑みを零した。 ●飾り付け 「よっし、では飾り付けますかー」 居間に置かれた樅ノ木を眺めながら蘇乃が笑みを零す。 彼の手には白綿や小さな飾りが沢山ある。 そんな彼の傍では、アスマが樅ノ木の頂上を見上げていた。 「さて、こんなものだろうか」 樅ノ木の頂上に飾った星は、何とも神々しい雰囲気を放っている。それを満足げに眺めていると、慌ただしい足音が響いてきた。 「こっちも、じゅんびできたの!」 エルレーンだ。 彼女は窓や家の入口に柊の葉を飾って来た所だった。そして今は別の飾りが彼女の手元に。 「エルレーン嬢、それは?」 見た所、短冊のようだが……。 「このように、言葉を書いた札をつるす……って、おししょうさまが言ってたの!」 そう言いながら短冊に願い事を書き始める。 「あー! 楽しそうなことしてる!」 そう言って駆け込んできた五十鈴が、エルレーンと競争するように願い事を書き始めた。 その文字は「せかいへいわ」「りあじゅうめっさつ」「めりーくりすます」等、多岐に渡る。 その中に「道場再建!」と書かれた文字があったのを、エルレーンは見ていた。 そして手元の飾りが全て無くなると、蘇乃が声を零す。 「こんなもんでいいですかね? って、それは?」 アスマの手元を覗き込んだ蘇乃の表情が強張る。 彼が手にしていたのは「トライアングル・サンタ」と言う人形だ。お世辞にも可愛いとは言えないそれは、飾った瞬間、空間に異様な雰囲気をもたらすに違いない。 「……それは、ちょっと」 そう言って苦笑した彼に「ふむ」と声を零し、アスマは何事もなかったかのように樅ノ木にその人形を飾った。 ●宴会 「征、女性等が来たら褒めるのだぞ」 そう言葉を掛けたアスマの隣で、征四郎が険しい表情をしている。その原因はコレだ。 「ほら、恥ずかしがってないで出て来な?」 居間に姿を現した黯羽は、赤のミニスカサンタの衣装を纏っている。その胸元が苦しそうなのは気のせいではないだろう。 そしてそんな彼女の声に押されるように姿を現したのはエルレーンだ。 「みんなが言うほど、さむくない……むしろあったかい」 ポツリと零した彼女は普段、足も腹も出している。結果、今の服は普段より遥かに暖かい。 「これは……かなり恥ずかしい衣装ですね……」 不満げに零された声は沙輝の物だ。彼女は白のミニスカサンタの衣装を着て、耳まで真っ赤にしながら裾を引っ張っている。 そんな彼女に続いて姿を見せたのが、深呼吸を繰り返す柚乃だ。 「これが、ミニスカ……サンタ」 丈の短いその衣装に内股になりながら俯くその姿は可愛らしい。そしてそんな恥じらう彼女等の横で、五十鈴は意外にも堂々とした様子で佇んでいた。 勿論、白のミニスカサンタの衣装を着て、だ。 同じ衣装を着せられたレトが、顔を真っ赤にして立っている。 「ったく、だらしねえな! こんなのどうってことないだろ!」 「五十鈴はもう少し恥じらいを持った方が良いって! つーか、わ、笑うんじゃねーぞ……」 「笑うわけねえだろ!」 突っ込んだレトに叫んで、五十鈴が未だに姿を見せない久遠の腕を引いた。 「ほら、大丈夫だって!」 「ぎ、ギルドの方が、これが衣装だというなら正しいのでしょう……しかし、冬というのに丈の短い服とは……」 ぶつぶつと言いながら姿を現した久遠は躊躇いがちに居間の中を見回す。 そして征四郎と目が合うと、バツが悪そうに視線を逸らして「えぇと、どうでしょうか、征四郎殿……」と呟いた。 その声に征四郎の眉が上がる。 「あ、いえ……一応主催なので、問題ないか確認しておいた方が良いかと思いまして」 「征、何か言ったらどうだ?」 無反応の征四郎の脇を肘で突く。 そしてチラリと見ると、征四郎は耳を真っ赤に染めて顔を逸らしていた。 「……初々しいものだな」 やれやれと息を吐き、彼は征四郎の背を叩いて押し出した。 これに征四郎の目が漸く皆に向かう。 「に……似合っていると、思う……たぶん」 其処へもう1人、ミニスカサンタの衣装を纏った人物が現れた。 「わーい、やったぁ!」 嬉々としながら白のミニスカサンタ服で現れたのは蘇乃だ。彼は可愛いこの衣装に惚れ込んで特別に着る事を許可して貰った。 「案外似合っているな」 アスマの言うように、妙にしっくりきている姿が何とも言えない。 「はははっ! どうですか、可愛いでしょう♪」 そう言って一回転した彼に、アスマと征四郎の目がそっと外されたのだった。 「色々とあった1年だったが、最後は楽しく終わろうじゃねぇか。ってぇワケで……メリークリスマス」 黯羽の音頭で始まった宴会。勿論料理は皆で用意して作った物ばかり。 中にはアスマが持ち込んだ赤ワインなどもあるが、やはり集まった者達が若いだけの事はある。 そして作った料理が次々と減ると、今度は贈物交換が始まった。 「誰が何の贈り物を用意したのか、発表してから配ろう!」 ぐるぐる回して選ぶのだから何が当っても間違いではない。だから先に言ってしまおう。 そんな五十鈴の提案に皆が顔を見合わせる。 「まあ、五十鈴がやろうって言うんだ。俺は言うぜ。俺が用意したのはスーパークリスマスブーツだ」 「私は湯呑ですね。無作為に交換するなら誰にいくかはわかりませんが、征四郎殿や、あの一連の事件を共に戦った方の下へいくならば惜しくはありません」 黯羽に続き、そう言って微笑んだ久遠に続き、柚乃も贈り物の箱に目を落して微笑む。 「柚乃はクッキーともふらの耳あてです。あったかいですよ♪」 「ふむ、私は符水だな」 「……何か爺臭い」 「ん? 実用的だろう?」 五十鈴のツッコミもなんのその。しれっと返すアスマに征四郎だけが真顔で頷いている。 「あたしはフードファーだよ。寒いから、さ。風邪引かない様に、ってさ」 そう言って笑うレトに、五十鈴が「良い物じゃん」と彼女の背を叩く。それに笑みを零す2人を見つつ沙輝がおずっと口を開いた。 「私は……バイオリンを……」 「わあ、バイオリンなんてすごい? 私はホワイトスワンだよ。まいにちさむいから、風邪ひかないでねっ、って」 「皆さん良く考えてますね。俺はもふらのぬいぐるみです。優しい人に渡れば良いな」 ニコッと笑った蘇乃にエルレーンが頷くと、贈物交換が開始された。 目を閉じて誰の贈物かわからない状態で回していく。その間、数を数えられないように皆で歌を歌いながら。 そして一曲が歌い終わると、全員の目が開かれた。 「!」 息を呑む音に次いで、笑い声が響いてくる。 「これは……」 「これでは贈り物に、ならないですね……」 蘇乃に続いて沙輝が零すと、全員が「まったくだ」と笑って声を零した。 「なんか、自分が頑張ったご褒美を自分にあげた。そんな感じがするな♪」 そう言って笑った五十鈴に、皆は感慨深げに贈物に目を落とした。その手元にあるのは自分が用意した贈り物。 一年を頑張ってきた自分へのご褒美。それを自分から送ったその気持ちに感謝を……。 ●聖夜 宴会が終わり、殆どが居間で雑魚寝するような状況の中、征四郎と五十鈴以外はこっそり起きだして、ある計画を実行していた。 「そ〜っとですよ……」 コッソリ囁いて抜足で歩くのは沙輝だ。 そんな彼女の手元には複数の贈り物がある。それらは皆から征四郎と五十鈴へのプレゼントだ。 「五十鈴さん、信じてましたね」 「五十鈴嬢はああ見えて純粋だからな」 柚乃が話をしたサンタクロースの話。それを耳にした五十鈴は「早く寝るんだ!」と言って誰よりも先に寝てしまった。 そして征四郎はアスマの「くりすますは成長を願い、夜は良く眠り、起きずに体を休めるのが流儀」と言う言葉を信じ早目に就寝した。 つまりは似た者兄妹。そう言う事だろう。 「にしてもさ、征四郎は律儀だよな。なんか困ったりしたら言いなよって言ったら『本当に困ったときのはよろしく頼む』って言っちゃって……」 「まあ、仕方がない」 レトの声にそう応えながらもアスマは征四郎と寝る前に交わした言葉を思い出していた。 ――寡黙でもある主には緩衝の役が必要か、と。それが叶うなら俺も宴席で酒を交わすのも構わぬが……。 こう零した彼に「その時は頼む」と征四郎は答えていた。それはつまり、少しでも頼ってくれていると言う事だ。 「レト嬢にも困ったら声を掛けるだろう……必ず」 そう征四郎はそう言う人間だ。不器用で言葉は少ないが、仲間を思う気持ちを持っている。 「私はまんぷく……黯羽さんは?」 「俺もだな。っと、そっちのはまだ飲んでるのかい?」 「んふふ、まあ、美味しいお酒ですからね。良い夜です……実に」 そう言って、蘇乃は酒瓶を抱えながら、征四郎と五十鈴の枕元に贈り物が置かれるのを眺めていた。 |